説明

車両用舵角比可変操舵装置

【課題】車両のステアリングから車輪までの操舵力伝達経路に設けられる車両用舵角比可変操舵装置(舵角比可変ユニット1)のコンパクト化及び低コスト化を図る。
【解決手段】ステアリング側に連結される入力軸3の回転に連動して直線移動する直線移動部材16と、直線移動部材16の直線移動により回転させられかつ該回転により、車輪側に連結される出力軸4を駆動する回転部材17との間に、直線移動部材16の直線移動により回転部材17を回転させるように案内する案内部21を設け、この案内部21を、案内面23と、直線移動部材16の直線移動により案内面23に対して摺動する摺動部24とで構成し、案内面23を、直線移動部材16の移動量と回転部材17の回転量との関係が非線形となる形状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のステアリングから車輪までの操舵力伝達経路に設けられ、ステアリングの操舵角に応じて、該操舵角に対する車輪舵角の比である舵角比を変化させる車両用舵角比可変操舵装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の車両用舵角比可変操舵装置として、ステアリング側に連結される入力軸と、車輪側に連結される出力軸とを備え、ステアリングの操舵角に応じて、入力軸及び出力軸間の入力/出力回転比(出力軸の回転量に対する入力軸の回転量の比)を変化させることで舵角比を変化させるようにしたものが知られている。
【0003】
例えば特許文献1に示す車両用舵角比可変操舵装置では、入力軸と出力軸とが非同軸に配設されていて、入力軸に対してセレーションを介してその軸心方向に移動可能に外挿された進退部材と、該進退部材と出力軸とを互いに連結する2本の直列リンク部材と、進退部材の軸心方向の位置を調整するためのモータとが設けられている。進退部材の外周面には、外輪にナット部材が一体固定されたベアリングが外嵌されており、該ナット部材に螺合するネジ棒をモータで駆動することで、進退部材の軸心方向位置を調整可能になっている。そして、該車両用舵角比可変操舵装置は、ステアリングの操舵角に応じて、進退部材を軸心方向に移動させることで、上記両リンク部材の連結部と上記入力軸及び出力軸との距離を変更して入力/出力回転比を変化させ、延いては舵角比を変化させるように構成されている。
【0004】
また、例えば特許文献2に示す車両用舵角比可変操舵装置では、入力軸に連結されて該入力軸回りに回転する入力側回転円板と、出力軸に連結されて該出力軸回りに回転する出力側回転円板と、該入力側及び出力側回転円板を互いに連動可能に連結するリンク状の揺動部材とが設けられている。揺動部材の一端部は出力側回転円板にその中心軸から所定量だけ偏心してボールジョイントを介して回動可能に固定されている一方、揺動部材の他端部は、入力側回転円板の中心から径方向外側に延びる経路に沿ってスライド可能なボールナットにボールジョイントを介して回動可能に連結されている。該揺動部材他端部の径方向位置(偏心量)は、モータを含む偏心量変更手段により調整可能になっており、上記車両用舵角比可変操舵装置は、ステアリングの操舵角に応じて、上記偏心量を変更することで入力/出力回転比を変化させ、延いては舵角比を変化させるように構成されている。
【特許文献1】特開2000−309280号公報
【特許文献2】特開2000−264228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1及び2に示す車両用舵角比可変操舵装置では、入力/出力回転比を可変とするためのモータが必要であるため、コスト増加や装置全体の大型化を招くという問題がある。
【0006】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両のステアリングから車輪までの操舵力伝達経路に設けられる車両用舵角比可変操舵装置に対して、その構成に工夫を凝らすことで、装置全体のコンパクト化及び低コスト化を図ろうとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、入力軸の回転に連動して直線移動する直線移動部材と該直線移動部材の直線移動により回転させられかつ該回転により出力軸を駆動する回転部材との間に、該直線移動部材の直線移動により該回転部材を回転させるように案内する案内部を設け、この案内部を、案内面と、直線移動部材の直線移動により該案内面に対して摺動する摺動部とで構成し、上記案内面を、直線移動部材の移動量と回転部材の回転量との関係が非線形となる形状に形成するようにした。
【0008】
具体的には、請求項1の発明では、車両のステアリングから車輪までの操舵力伝達経路に設けられる車両用舵角比可変操舵装置を対象とする。
【0009】
そして、上記車両のステアリング側に連結され、該ステアリングの操舵に連動して回転する入力軸と、上記車両の車輪側に連結され、回転によりステアリング操舵力を車輪側に伝達する出力軸と、上記入力軸に、該入力軸の回転を直線移動に変換する変換機構を介して連結されて、該入力軸の回転に連動して直線移動する直線移動部材と、上記直線移動部材の直線移動により回転させられかつ該回転により上記出力軸を駆動する回転部材と、上記直線移動部材と回転部材との間に設けられ、該直線移動部材の直線移動により該回転部材を回転させるように案内する案内部とを備え、上記案内部は、上記直線移動部材及び回転部材のうちの一方の部材に形成された案内面と、他方の部材に設けられ、直線移動部材の直線移動により該案内面に対して摺動する摺動部とを有していて、該摺動部が案内面に対して摺動することで、回転部材を回転させるように構成され、上記案内面は、上記直線移動部材の移動量と上記回転部材の回転量との関係が非線形となる形状に形成されているものとする。
【0010】
上記の構成により、入力軸の回転に連動して直線移動部材が変換機構を介して直線移動し、この直線移動部材の直線移動により摺動部が案内面に対して摺動して、これにより、回転部材が回転する。この回転部材の回転により出力軸が駆動回転される。そして、上記案内面の形状により、直線移動部材の移動量と回転部材の回転量との関係が非線形となるので、モータ等のアクチュエータを使用しなくても、簡単な構成で機械的に舵角比を可変にすることができる。また、回転部材を入力軸と同心状に配置することができ、回転部材と連結される出力軸を、入力軸の軸心の延長線上に同心状に配置することができる。よって、舵角比可変操舵装置をコンパクト化して、操舵力伝達経路におけるステアリングシャフトに相当する部分等に容易に組み込むことができるとともに、装置コストの低減化を図ることができる。
【0011】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記案内面は、上記直線移動部材及び回転部材のうちの一方の部材に設けられた案内溝の両側側面で構成され、上記摺動部は、他方の部材に設けられかつ上記案内溝に嵌合した状態で上記案内面に対して摺動する突起部で構成されているものとする。
【0012】
このことにより、簡単な構成で、直線移動部材の直線移動により摺動部を案内面に対して摺動させて、回転部材を回転させるようにすることができるとともに、直線移動部材の移動量と回転部材の回転量との関係を容易に非線形にすることができる。
【0013】
請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、上記回転部材と出力軸との間に、該回転部材の回転及び上記入力軸の回転を入力する入力部と、該入力部に入力された両回転に対応して生じる回転を上記出力軸へ出力する出力部とを有する遊星歯車機構又は差動歯車機構が設けられているものとする。
【0014】
すなわち、回転部材により出力軸を直接駆動するようにしたのでは、所望の舵角比が得られない可能性が高くなる。しかし、本発明では、遊星歯車機構又は差動歯車機構によって舵角比を適切な値に容易に調整することができる。また、このような遊星歯車機構等を設けたとしても、出力軸を入力軸の軸心の延長線上に同心状に配置するようにすることが容易にでき、装置全体のコンパクト性を維持することができる。
【0015】
請求項4の発明では、請求項1〜3のいずれか1つの発明において、上記案内面は、上記ステアリングの操舵角が大きくなるほど、上記回転部材の回転量に対する上記直線移動部材の移動量の比が小さくなる形状に形成されているものとする。
【0016】
このことにより、ステアリングの操舵角が大きくなるほど、入力軸及び出力軸間の入力/出力回転比が小さくなり(舵角比が大きくなり)、この結果、車両の高速走行時等のようにステアリングの操舵角が小さくなる状況においては、上記入力/出力回転比を大きくして(舵角比を小さくして)、ステアリングの舵角変化に対する車両の進路変更特性を鈍らせることで、車両の直進安定性を向上させることができる一方、車庫入れ時等のように大きな操舵角が必要とされる状況では、上記入力/出力回転比を小さくして(舵角比を大きくして)、ステアリングの舵角変化に対する車両の進路変更特性を敏感にすることで、少ないステアリング操作量で車両の進路を確実に変更させることができて、操舵時の取り回し性を向上させることができる。
【0017】
請求項5の発明では、請求項1〜4のいずれか1つの発明において、上記変換機構は、ボールねじ機構で構成されているものとする。
【0018】
このことで、簡単な構成で、入力軸の回転を直線移動に効率良く変換することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の車両用舵角比可変操舵装置によると、直線移動部材の直線移動により回転部材を回転させるように案内する案内部の案内面を、該直線移動部材の移動量と該回転部材の回転量との関係が非線形となる形状に形成するようにしたことにより、舵角比可変操舵装置をコンパクトに構成して、操舵力伝達経路中に容易に組み込むことができるとともに、装置コストの低減化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態に係る車両用舵角比可変操舵装置としての舵角比可変ユニット1を備えたステアリング装置100を示す。2は車両の乗員により回転操作されるステアリングホイール(以下、単にステアリングという)であり、このステアリング2の回転運動(操舵力)は、舵角比可変ユニット1の入力軸3から出力軸4に伝達され、さらに該出力軸4から連接シャフト5を経てステアリングギヤボックス7のギヤ入力シャフト6に伝達されて、該ギヤボックス7にて車幅方向の直線運動に変換された後に、ギヤボックス7の車幅方向両側に車幅方向に延びるように配設されたタイロッド8を介して車輪9(操舵輪である前輪)に伝達される。詳しくは、上記ステアリングギヤボックス7は全体として車幅方向に長く、その内部には、図示しないが車幅方向に延びるラックとこれに噛み合うピニオンとが配設されていて、そのピニオンの回転中心部が上記ギヤ入力シャフト6に連結されている。一方、ラックの車幅方向両端部はそれぞれタイロッド8の車両内側の端部に連結され、タイロッド8の車両外側端部はナックルアーム10を介して車輪9に連結されており、上記ピニオンの回転によりラック及びタイロッド8が車幅方向に移動し、これにより車輪9が転舵される。尚、舵角比可変ユニット1の出力軸4及び連接シャフト5同士、並びに連接シャフト5及びギヤ入力シャフト6同士は、自在継手11を介して連結されている。
【0022】
上記舵角比可変ユニット1は、ステアリング2から車輪9までの操舵力伝達経路(本実施形態では、ステアリング2に直接結合されるステアリングシャフトに相当する部分)に設けられていて、ステアリング2の操舵角に応じて、出力軸4の回転量に対する入力軸3の回転量の比(入力/出力回転比)を変化させることで、ステアリング2の操舵角に対する車輪舵角の比である舵角比を変化させるものである。
【0023】
具体的には、舵角比可変ユニット1は、ステアリング2側に連結され(本実施形態では、ステアリング2に直結され)かつ該ステアリング2の操舵(回転操作)に連動して回転する上記入力軸3と、車輪9側(本実施形態では、連接シャフト5)に連結され、回転によりステアリング操舵力を車輪9側に伝達する上記出力軸4とを備えている。図2に示すように、この出力軸4は、入力軸3の軸心(Z軸)の延長線上に同心状に配設されている。
【0024】
上記入力軸3には、該入力軸3の回転を直線移動に変換する変換機構としてのボールねじ機構15を介して円筒状の直線移動部材16が連結されている。この直線移動部材16は、入力軸3の外周を覆うように円筒状に形成されていて(図4参照)、入力軸3の回転に連動して該入力軸3の軸心方向(図2の左右方向)に直線移動する。本実施形態では、入力軸3が、図2の右側から見て反時計回りの向き(図2及び図3において実線の矢印で示すAの向き)に回転するときには、直線移動部材16がステアリング2側(図2の右側であって、実線の矢印で示すCの向き)に移動し、入力軸3が時計回りの向き(破線の矢印で示すBの向き)に回転するときには、直線移動部材16が連接シャフト5側(図2の左側であって、破線の矢印で示すDの向き)に移動するようになっている。
【0025】
上記直線移動部材16の外周側には、該直線移動部材16の直線移動により上記入力軸3の軸心回りに回転させられかつ該回転により上記出力軸4を駆動する円筒状の回転部材17が配設されている。この回転部材17の長手方向両側の端面部の中心部を入力軸3が貫通しており、回転部材17は、該貫通部分で入力軸3に回転可能に支持されている。尚、この回転部材17における連接シャフト5側の端面の周縁部は、後述の遊星歯車機構31のリングギヤ33と結合するために、連接シャフト5側(遊星歯車機構31側)に突出している。
【0026】
上記直線移動部材16と回転部材17との間には、該直線移動部材16の直線移動により該回転部材17を回転させるように案内する案内部21が設けられている。この案内部21は、回転部材17に形成された案内溝22の両側側面で構成される案内面23と、直線移動部材16に設けられ、該直線移動部材16の直線移動により案内面23に対して摺動する摺動部としての円柱状の突起部24とを有していて、この突起部24が案内面23に対して摺動することで、回転部材17を回転させるように構成されている。
【0027】
上記案内溝22は、回転部材17の内周面に、長手方向全体に亘って幅が一定となるように形成されている。本実施形態では、案内溝22は、図4に示すように、回転部材17の内周面から外周面まで貫通して形成されているが、回転部材17の肉厚が十分に大きい場合には、断面凹状のものであってもよい。
【0028】
一方、上記突起部24は、図4に示すように、該突起部24の軸心(Q軸)が入力軸3の軸心と直交するように直線移動部材16の外周面に形成されていて、上記案内溝22に嵌合した状態で上記案内面23に対して摺動するようになっている。これにより、突起部22の軸心方向の先端側から見て、突起部24の中心が案内溝22の幅方向中央(案内溝22の両側の案内面の中央)のラインR(図2参照)上を移動することになる。
【0029】
そして、上記案内面23は、直線移動部材16の移動量と回転部材17の回転量との関係が非線形となる形状に形成されている。具体的には、上記突起部24の軸心方向の先端側から見て、上記案内溝22(つまり案内面23及び上記ラインR)は、回転部材17の軸心(入力軸3の軸心と一致)に対して斜めに形成され、上記ラインRが、その長手方向中央において回転部材17の軸心と交わる。また、突起部22の軸心方向の先端側から見て、案内溝22(案内面23及びラインR)の回転部材17軸心に対する傾斜角が、案内溝22の長手方向中央で最小であり、そこから案内溝22の一端側及び他端側に向かって次第に大きくなる。尚、案内溝22は、突起部24の軸心方向の先端側から見て、ラインRの長手方向中央の点に対して点対称の形状をなしている。
【0030】
上記突起部24は、ステアリング2の操舵角が0であるときに、ラインRの長手方向中央に位置し(図2に示す位置であって、この位置を初期位置という)、車両の乗員が左側に操舵したとき(ステアリング2を乗員から見て反時計回りの向きに回転操作したとき)には、入力軸3もステアリング2と同じ向きに回転して、直線移動部材16及び突起部24が上記初期位置からステアリング2側(矢印Cの向き)へ移動し、このとき、突起部24が案内溝22の案内面23に対して摺動して、回転部材17を、図2の右側から見て時計回りの向き(実線の矢印で示すEの向き(つまり入力軸3とは反対の向き))に回転させる。ステアリング2の操舵角が小さいときには、上記傾斜角が小さいので、回転部材17の回転量に対する直線移動部材16の移動量の比、つまり入力軸3及び出力軸4間の入力/出力回転比は大きい(舵角比は小さい)。そして、操舵角が大きくなるほど、上記傾斜角が大きくなるために、直線移動部材16の小さい移動量でも回転部材17が大きく回転することになって、回転部材17の回転量に対する直線移動部材16の移動量の比(入力/出力回転比)が小さくなる(舵角比は大きくなる)。
【0031】
また、乗員が右側に操舵したとき(ステアリング2を乗員から見て時計回りの向きに回転操作したとき)には、直線移動部材16及び突起部24が上記初期位置から連接シャフト5側(矢印Dの向き)に移動し、このとき、突起部24が案内溝22の案内面23に対して摺動して、回転部材17を、図2の右側から見て反時計回りの向き(破線の矢印で示すFの向き(入力軸3とは反対の向き))に回転させる。このときも、操舵角と、回転部材17の回転量に対する直線移動部材16の移動量の比つまり入力/出力回転比との関係は、左側に操舵したときと同じであり、操舵角が大きくなるほど、入力/出力回転比が小さくなる。
【0032】
このように直線移動部材16の移動量と回転部材17の回転量とが非線形特性を有し、この非線形特性は、操舵角が大きくなるほど、入力軸3及び出力軸4間の入力/出力回転比を小さくする特性である。この操舵角と入力/出力回転比との関係は、図5のようになる。
【0033】
本実施形態では、上記回転部材17と出力軸4との間には、該回転部材17の回転及び上記入力軸3の回転を入力する入力部と、該入力部に入力された両回転に対応して生じる回転を上記出力軸4へ出力する出力部とを有する遊星歯車機構31が設けられている。すなわち、この遊星歯車機構31は、図2及び図3に示すように、サンギヤ32と、リングギヤ33と、サンギヤ32の外歯及びリングギヤ33の内歯に噛み合いかつ中心軸回りに回転(自転)する複数(本実施形態では、3つ)の遊星ピニオン34と、これら遊星ピニオン34を、サンギヤ32の周囲を公転可能に支持する遊星キャリア35とを有している。上記サンギヤ32及びリングギヤ33の回転軸心は、入力軸3の軸心(出力軸4の軸心)の延長線上にあり、遊星ピニオン34の回転軸心は、サンギヤ32及びリングギヤ33の回転軸心と平行である。上記サンギヤ32は上記出力軸4に結合され、上記遊星キャリア35は上記入力軸3に結合され、上記リングギヤ33は上記回転部材17に結合されており、回転部材17の回転及び入力軸3の回転が、それぞれリングギヤ33及び遊星キャリア35に入力され、これら両回転に対応してサンギヤ32に生じる回転が出力軸4へ出力される。このことで、リングギヤ33及び遊星キャリア35が上記入力部に相当し、サンギヤ32が上記出力部に相当する。尚、遊星キャリア35を入力軸3に結合しないで、固定部材に固定するようにしてもよい(この場合、入力部はリングギヤ33のみとなる)。また、遊星歯車機構31の入力部及び出力部を本実施形態とは異ならせることも可能である。
【0034】
図3において、リングギヤ33が停止していると仮定して、遊星キャリア35が入力軸3と共に該入力軸3の軸心回りに、反時計回りの向き(矢印Aの向き)に回転すると、遊星ピニオン34が時計回りの向き(矢印Gの向き)に回転し、この遊星ピニオン34の回転によりサンギヤ32(出力軸4)が反時計回りの向き(矢印Iの向き)に回転する。また、同じく入力軸3が反時計回りの向き(矢印Aの向き)に回転したときに、回転部材17は、上述の如く入力軸3とは反対の向きである時計回りの向き(矢印Eの向き)に回転するので、上記遊星キャリア35の回転と同時にリングギヤ33が時計回りの向き(矢印Eの向き)に回転する。ここで、遊星キャリア35が停止していると仮定して、上記リングギヤ33の回転により遊星ピニオン34が時計回りの向き(矢印Gの向き)に回転し、この遊星ピニオン34の回転によりサンギヤ32(出力軸4)が反時計回りの向き(矢印Iの向き)に回転する。このように、遊星キャリア35の回転に対応して生じるサンギヤ32(出力軸4)の回転、及び、リングギヤ33の回転に対応して生じるサンギヤ32(出力軸4)の回転の向きは、入力軸3の回転と同じ向きであり、遊星キャリア35(入力軸3)の回転に対応して生じるサンギヤ32の回転と、リングギヤ33(回転部材17)の回転に対応して生じるサンギヤ32の回転とが合成されて、出力軸4から出力されることになる。
【0035】
また、遊星キャリア35が入力軸3と共に時計回りの向き(矢印Bの向き)に回転したときには、遊星キャリア35の回転によっても、リングギヤ33の回転によっても、遊星ピニオン34が反時計回りの向き(矢印Hの向き)に回転して、サンギヤ32(出力軸4)が時計回りの向き(矢印Jの向き)に回転することになる。このときも、遊星キャリア35(入力軸3)の回転に対応して生じるサンギヤ32の回転と、リングギヤ33(回転部材17)の回転に対応して生じるサンギヤ32の回転とが合成されて、出力軸4から出力されることになる。
【0036】
上記出力軸4の回転により、連接シャフト5及びギヤ入力シャフト6を介してステアリングギヤボックス7のピニオンが回転し、このピニオンの回転により該ピニオンと噛み合うラックが車幅方向に移動し、これにより、タイロッド8が車幅方向に移動して車輪9が転舵されることになる。
【0037】
したがって、本実施形態1では、舵角比可変ユニット1において、案内溝22の案内面23を、直線移動部材16の移動量と回転部材17の回転量との関係が非線形となる形状、より詳細には、ステアリング2の操舵角が大きくなるほど、入力軸3及び出力軸4間の入力/出力回転比が小さくなる形状に形成したので、モータ等のアクチュエータを使用しなくても、簡単な構成で機械的に舵角比を可変にすることが容易にできる。そして、車両の高速走行時等のようにステアリング2の操舵角が小さくなる状況においては、上記入力/出力回転比を大きくして、ステアリング2の舵角変化に対する車両の進路変更特性を鈍らせることで、車両の直進安定性を向上させることができる一方、車庫入れ時等のように大きな操舵角が必要とされる状況では、上記入力/出力回転比を小さくして、ステアリング2の舵角変化に対する車両の進路変更特性を敏感にすることで、少ないステアリング操作量で車両の進路を確実に変更させることができて、操舵時の取り回し性を向上させることができる。
【0038】
また、回転部材17と出力軸4との間に遊星歯車機構31を設けて、この遊星歯車機構31において、遊星キャリア35の回転に対応して生じるサンギヤ32の回転と、リングギヤ33の回転に対応して生じるサンギヤ32の回転とを合成して、出力軸4から出力するようにしたので、遊星歯車機構31により、舵角比を適切な値に容易に調整することができる。そして、このような遊星歯車機構31を設けても、回転部材17を入力軸3と同心状に配置することができ、出力軸4を入力軸3の軸心の延長線上に同心状に配置することができるので、モータ等が不要であることと相俟って、舵角比可変ユニット1を、コンパクトにユニット化することができて、操舵力伝達経路におけるステアリングシャフトに相当する部分に容易に組み込むことができる。
【0039】
さらに、モータ等を全く使用せず、簡単な構成で舵角比可変ユニット1を構成することができるので、舵角比可変ユニット1のコストを低減化することができる。
【0040】
(実施形態2)
図6は、本発明の実施形態2を示し(尚、図2と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する)、上記実施形態1の遊星歯車機構31の代わりに差動歯車機構41を設けるようにしたものである。
【0041】
上記差動歯車機構41は、回転部材17に結合された駆動かさ歯車42と、出力軸4に結合されかつ駆動かさ歯車42と出力軸4(入力軸3)の軸心方向(図6の左右方向)に対向配置された被動かさ歯車43と、駆動かさ歯車42及び被動かさ歯車43の両方に噛み合いかつ出力軸4の軸心方向と垂直な中心軸回りに回転(自転)する複数(本実施形態では、2つ)の差動ピニオン44(かさ歯車からなる)と、これら差動ピニオン44を、駆動かさ歯車42及び被動かさ歯車43の周囲を公転可能に支持しかつ入力軸3に結合された差動キャリア45とを有している。
【0042】
上記回転部材17におけるステアリング2側(図6の右側)の部分の構成は、上記実施形態1と同様であって、入力軸3にボールねじ機構15を介して連結された直線移動部材16が入力軸3の軸心方向に移動したとき、案内部21によって、回転部材17が回転するようになっている。
【0043】
一方、回転部材17における連接シャフト5側(図6の左側)は、上記差動歯車機構41の駆動かさ歯車42のところまで延びて、差動歯車機構41全体を回転部材17の内部に収容するようになされている。回転部材17は、該回転部材17における連接シャフト5側の端面部の中心部で上記駆動かさ歯車42と結合されている。そして、その回転部材17の連接シャフト5側の端面部及び駆動かさ歯車42の中心部を出力軸4が貫通して、被動かさ歯車43に結合されており、駆動かさ歯車42及び回転部材17の連接シャフト5側の端面部は出力軸4に対して回転可能に支持されている。
【0044】
上記差動歯車機構41の駆動かさ歯車42、被動かさ歯車43、差動ピニオン44及び差動キャリア45は、それぞれ、上記実施形態1における遊星歯車機構31のリングギヤ33、サンギヤ32、遊星ピニオン34及び遊星キャリア35に対応しており、差動歯車機構41の動作は、遊星歯車機構31の動作と同じになる。これにより、上記実施形態1と同様に、差動キャリア45(入力軸3)の回転に対応して生じる被動かさ歯車43の回転と、駆動かさ歯車42(回転部材17)の回転に対応して生じる被動かさ歯車43の回転とが合成されて、出力軸4から出力されることになる。本実施形態では、駆動かさ歯車42及び差動キャリア45が差動歯車機構41の入力部に相当し、被動かさ歯車43が差動歯車機構41の出力部に相当することになる。尚、差動キャリア45を入力軸3に結合しないで、固定部材に固定するようにしてもよい(この場合、入力部は駆動かさ歯車42のみとなる)。また、差動歯車機構41の入力部及び出力部を本実施形態とは異ならせることも可能である。
【0045】
したがって、本実施形態2においても、上記実施形態1と同様に、舵角比可変ユニット1をコンパクトに構成して、操舵力伝達経路におけるステアリングシャフトに相当する部分に容易に組み込むことができるとともに、ユニットコストの低減化を図ることができる。
【0046】
尚、上記各実施形態では、案内部21の案内面23(案内溝22)を回転部材17に形成し、摺動部としての突起部24を直線移動部材16に設けたが、案内部21の案内面23を直線移動部材16に形成し、突起部24を回転部材17の内周面に内側に突出するように形成してもよい。
【0047】
また、案内部21の構成は、上記実施形態1及び2のものには限られず、例えば、カム面(案内面に相当)とカムフォロワー(摺動部に相当)とからなるカム機構で構成してもよい。
【0048】
さらに、上記実施形態1及び2では、ステアリング2の操舵角が大きくなるほど、回転部材17の回転量に対する直線移動部材16の移動量の比(つまり入力軸3及び出力軸4間の入力/出力回転比)を小さくしているが、これに限らず、直線移動部材16の移動量と回転部材17の回転量との関係が非線形でありさえすればよい。例えば、ステアリング2の操舵角が増加するにしたがって、入力/出力回転比が大きくなる特性であってもよい。こうすることで、高速走行時(直進時)のようにステアリング2の操舵角が小さい状況では、ステアリング2の操舵感を重たくして直進時における乗員の安心感を増すことができる一方、車庫入れ時等のように、大きな操舵角が必要とされる状況では、ステアリング2を軽い力で操作(操舵)することができる。
【0049】
さらにまた、上記実施形態1では、回転部材17と出力軸4との間に遊星歯車機構31を設け、上記実施形態2では、差動歯車機構41を設けたが、これらの機構をなくして、回転部材17の回転を直接出力軸4に出力するようにしてもよい。この場合、回転部材17の回転の向きを、入力軸3と同じになるようにすればよい。こうするには、例えば、入力軸3の回転に対して直線移動部材16が移動する向きを上記実施形態とは反対になるようにボールねじ機構15を変更するか、又は、案内溝22を、突起部24の軸心方向の先端側から見て、上記実施形態とは入力軸3の軸心に対して対称な形状にすればよい。
【0050】
また、回転部材17と出力軸4との間に、回転部材17の回転を減速又は増速して出力軸4から出力するように種々の減速又は増速機構を設けるようにしてもよい。
【0051】
さらに、上記実施形態では、舵角比可変ユニット1を、ステアリングシャフトに相当する部分(ステアリング2と連接シャフト5との間)に配設したが、これに限らず、例えばステアリング2に直結されるステアリングシャフトとギヤ入力シャフト6との間に配設する(連接シャフト5に代えて配設する)ようにしてもよい。
【0052】
また、上記各実施形態では、ラック&ピニオン式のステアリング装置100を採用するようにしているが、これに限ったものではなく、例えばボール&ナット式のステアリング装置を採用するようにしてもよい。
【0053】
加えて、上記各実施形態では、入力軸3の回転を直線移動に変換する変換機構としてボールねじ機構15を採用したが、これに限るものではなく、例えばボールを使用しない通常のネジ機構を採用するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、ステアリングの操舵角に応じて舵角比を変化させる車両用舵角比可変操舵装置に有用であり、特にモータ等のアクチュエータを使用しないで機械的に舵角比を可変にするものに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用舵角比可変操舵装置を備えたステアリング装置を示す車両前方斜め左側から見た斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る車両用舵角比可変操舵装置を示す、側方から見た部分断面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【図5】操舵角と入力軸及び出力軸間の入力/出力回転比との関係を示すグラフである。
【図6】実施形態2を示す図2相当図である。
【符号の説明】
【0056】
1 舵角比可変ユニット(車両用舵角比可変操舵装置)
2 ステアリングホイール
3 入力軸
4 出力軸
9 車輪
15 ボールねじ機構(変換機構)
16 直線移動部材
17 回転部材
21 案内部
22 案内溝
23 案内面
24 突起部(摺動部)
31 遊星歯車機構
32 サンギヤ(出力部)
33 リングギヤ(入力部)
35 遊星キャリア(入力部)
41 差動歯車機構
42 駆動かさ歯車(入力部)
43 被動かさ歯車(出力部)
45 差動キャリア(入力部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリングから車輪までの操舵力伝達経路に設けられる車両用舵角比可変操舵装置であって、
上記車両のステアリング側に連結され、該ステアリングの操舵に連動して回転する入力軸と、
上記車両の車輪側に連結され、回転によりステアリング操舵力を車輪側に伝達する出力軸と、
上記入力軸に、該入力軸の回転を直線移動に変換する変換機構を介して連結されて、該入力軸の回転に連動して直線移動する直線移動部材と、
上記直線移動部材の直線移動により回転させられかつ該回転により上記出力軸を駆動する回転部材と、
上記直線移動部材と回転部材との間に設けられ、該直線移動部材の直線移動により該回転部材を回転させるように案内する案内部とを備え、
上記案内部は、上記直線移動部材及び回転部材のうちの一方の部材に形成された案内面と、他方の部材に設けられ、直線移動部材の直線移動により該案内面に対して摺動する摺動部とを有していて、該摺動部が案内面に対して摺動することで、回転部材を回転させるように構成され、
上記案内面は、上記直線移動部材の移動量と上記回転部材の回転量との関係が非線形となる形状に形成されていることを特徴とする車両用舵角比可変操舵装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用舵角比可変操舵装置において、
上記案内面は、上記直線移動部材及び回転部材のうちの一方の部材に設けられた案内溝の両側側面で構成され、
上記摺動部は、他方の部材に設けられかつ上記案内溝に嵌合した状態で上記案内面に対して摺動する突起部で構成されていることを特徴とする車両用舵角比可変操舵装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両用舵角比可変操舵装置において、
上記回転部材と出力軸との間に、該回転部材の回転及び上記入力軸の回転を入力する入力部と、該入力部に入力された両回転に対応して生じる回転を上記出力軸へ出力する出力部とを有する遊星歯車機構又は差動歯車機構が設けられていることを特徴とする車両用舵角比可変操舵装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両用舵角比可変操舵装置において、
上記案内面は、上記ステアリングの操舵角が大きくなるほど、上記回転部材の回転量に対する上記直線移動部材の移動量の比が小さくなる形状に形成されていることを特徴とする車両用舵角比可変操舵装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の車両用舵角比可変操舵装置において、
上記変換機構は、ボールねじ機構で構成されていることを特徴とする車両用舵角比可変操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−208612(P2009−208612A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53495(P2008−53495)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】