説明

車両用表示装置

【課題】立体視させる意匠の視認性を損なうことなく、当該意匠によって車両に係わる情報を視認者に効果的に呈示することができる車両用表示装置の提供。
【解決手段】液晶ディスプレイ30は、表示画面31から飛び出し量Dgだけずれた位置に、意匠としてのアイコン60を立体的に知覚させることができる。アイコン60の表示画面31からの飛び出し量Dgは、運転者の視認位置が表示画面31から遠ざかるに従って、低減するよう制御される。これにより、遠方から表示画面31への視線の移動につき、焦点距離の変化が大きくなっても、運転者は、立体視に起因した違和感を覚え難くなる。加えて、運転者の視認位置が表示画面31に近い場合には、飛び出し量Dgを増大させて、アイコン60による情報呈示を効果的に実施できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され、車両に係わる情報を示す画像を表示画面に表示し、この画像に含まれる意匠を視認者に立体視させる車両用表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1,2に開示のように、視認者に注意喚起を行う警告画像やナビゲーション装置の矢印画像等の車両に係わる情報を、立体視させる意匠を含んだ画像によって視認者に呈示する車両用表示装置が知られている。これら特許文献1,2に開示の車両用表示装置では、視差分割方式により立体表示を可能とする液晶ディスプレイが用いられている。詳しく説明すると、視差分割方式の液晶ディスプレイは、視認者の左目に視認される左目用画像と右目に視認される右目用画像とを表示画面に表示する。視認者は、左右の画像の付与された視差により、表示画面の垂直方向に沿って当該表示画面からずれた位置に、意匠を立体的に知覚することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−65316号公報
【特許文献2】特開2001−21836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、特許文献1,2に開示の車両用表示装置において、意匠を立体視している際の視認者の焦点は、表示画面に合っている。一方で、仮想の意匠を視認者が知覚する位置は、表示画面からずれている。故に、例えば遠方から表示画面に視線を移動させた際では、このような焦点位置と知覚位置とのずれに視認者が対応しきれないので、視認者に違和感が惹起されるおそれがあった。
【0005】
ここで、特許文献1,2に開示の車両用表示装置では、視認者の視認位置に係わらず、表示画面から意匠の知覚される位置までのずれは一定である。故に、表示画面からの意匠のずれが大きく設定されている場合、遠方から表示画面へと視線位置を変更した際に、焦点距離の大きな変化に起因して、上述のような違和感が惹起されてしまうこととなる。以上によれば、車両用表示装置は、立体視させる意匠によって効果的な情報呈示ができないばかりか、意匠の視認性すら確保できなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、立体視させる意匠の視認性を損なうことなく、当該意匠によって車両に係わる情報を視認者に効果的に呈示することができる車両用表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、車両に搭載され、車両に係わる情報を示す画像を表示画面に表示し、画像に含まれる意匠を視認者に立体視させる車両用表示装置であって、表示画面を有し、視認者の左目に視認される左目用画像と右目に視認される右目用画像とを表示画面に表示することにより、表示画面の垂直方向に沿って当該表示画面からずれた位置に意匠を知覚させ、この意匠につき視認者に知覚される位置の表示画面に対する仮想のずれを増減可能な表示手段と、視認者の視認している視認位置を推定する視認位置推定手段と、視認位置推定手段によって推定された視認位置が表示画面から遠ざかるに従って、表示画面に表示される画像につき、表示画面に対する意匠の仮想のずれが低減されるよう表示手段を制御する表示制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、視認者の視認している視認位置が表示画面から遠ざかるに従って、表示画面に表示される画像に含まれる意匠につき、視認者の知覚する位置の表示画面に対するずれは、低減される。故に、視認者が表示画面から遠い位置を視認している場合には、表示画面に対する意匠の仮想のずれが低減されるように、表示手段は、表示画面に意匠を表示する。よって、視認位置から表示画面への視線の移動につき、焦点距離の変化が大きくなっても、視認者は、立体視に起因した違和感を覚え難くなる。
【0009】
一方で、視認者が表示画面から近い位置を視認している場合には、視認位置から表示画面への視線の移動につき、焦点距離の変化は、小さくなる。故に、視認者における立体視に起因する違和感は、生じ難くなる。よって、表示画面に表示される画像につき、表示画面に対する意匠の仮想のずれを増大させても、当該意匠は、視認者に確実に立体視され得る。
【0010】
これらにより、車両用表示装置は、立体視させる意匠の視認性を損なうことなく、当該意匠によって車両に係わる情報を視認者に効果的に呈示することができる。
【0011】
ここで、一般に視認者の視認位置は、車両の走行速度と関連しており、当該走行速度が高くなるほど、車両用表示装置の表示画面から遠くなる。そこで、請求項2に記載の発明では、視認位置推定手段は、車両の走行速度を取得する速度取得部と、速度取得部の取得する走行速度が高くなるほど、表示画面から遠い位置に視認位置を推定する推定部と、を有することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、車両の走行速度という取得容易な情報から、視認位置推定手段の推定部は、高い確実性をもって視認者の視認位置を間接的に推定することができる。故に、表示制御手段は、視認位置が表示画面から遠い場合には表示画面に対する意匠の仮想のずれを低減させ、一方で視認位置が表示画面に近い場合には表示画面に対する意匠の仮想のずれを増大させる制御を、確実に実施し得る。したがって、立体視させる意匠の視認性の確保、及び当該意匠による情報の効果的な呈示は、さらに確実なものとなる。
【0013】
請求項3に記載の発明では、視認位置推定手段は、視認者の目を含む範囲を撮影した撮影画像を取得する画像取得部と、画像取得部によって取得された撮影画像から視認者の視線の向く視線方向を解析することにより、視認位置を推定する推定部と、を有することを特徴とする。
【0014】
この発明のように、視認者の目を含む範囲を撮影した撮影画像を解析することにより、視認位置推定手段の推定部は、視認者の視認している視認位置を、その視線方向から直接的に推定できる。故に、表示制御手段は、表示画面に対する意匠の仮想のずれの制御を、視認者の視認位置に応じて適宜実施し得る。したがって、立体視させる意匠の視認性の確保、及び当該意匠による情報の効果的な呈示は、さらに確実なものとなる。
【0015】
また上述したように、焦点距離の変化が大きい場合、視認者が意匠を立体視できるまでの時間は、長くなり易い。故に、意匠を常に立体視させることは、意匠によって呈示される情報の視認者の迅速な知得に支障をきたすおそれがある。そこで、請求項4に記載の発明では、表示制御手段は、視認位置推定手段によって推定された視認位置が予め規定された位置よりも表示画面から遠い場合に、表示画面に対する意匠の仮想のずれを消失させるよう表示手段を制御することを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、視認位置が表示画面から遠く、意匠を立体視させるまでに時間を要するおそれのある状況において、表示画面に対する意匠の仮想のずれは消失する。故に、視認者が意匠を立体視できるまでの時間を省き得るので、立体視に時間を要するおそれのある状況下でも、意匠によって呈示される情報は、視認者に迅速に知得され得る。以上により、立体視させる意匠の視認性は、さらに確実に確保され得る。
【0017】
請求項5に記載の発明では、表示制御手段は、視認位置が表示画面から遠ざかるに従って、表示画面に対する意匠の仮想のずれを段階的に低減させることを特徴とする。
【0018】
この発明のように、表示画面に対する意匠の仮想のずれを段階的に低減させる形態では、視認位置の僅かな変更に伴う意匠の位置の頻繁な移動が抑制される。故に、知覚される位置の頻繁な移動に起因して、立体視される意匠に違和感の惹起される事態は、確実に低減可能となる。
【0019】
請求項6に記載の発明では、表示制御手段は、視認位置が表示画面から遠ざかるに従って、表示画面に対する意匠の仮想のずれを連続的に低減させることを特徴とする。
【0020】
この発明のように、表示画面に対する意匠の仮想のずれを連続的に低減させる形態では、意匠の知覚される位置は、視認者の視認する視認位置に正確に追従し得る。故に、立体視に起因した違和感が惹起され難い範囲内で、表示画面に対する意匠の仮想のずれは、最大限に確保され得る。したがって、立体視させる意匠の視認性の確保しつつ当該意匠によって情報を効果的に呈示することが、さらに確実に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施形態による車両用表示装置の構成を説明するための図である。
【図2】液晶ディスプレイが表示画面に表示されるアイコン等の意匠を視認者に裸眼立体視させる原理を説明するための図である。
【図3】視認者が実際の視認対象物を立体視する原理を説明するための図である。
【図4】走行速度と飛び出し量との相関を規定したテーブルを説明するための図である。
【図5】アイコンの飛び出し量を変化させる処理が示されるフローチャートである。
【図6】本発明の第二実施形態による車両用表示装置の構成を説明するための図であって、図1の変形例を示す図である。
【図7】走行速度と飛び出し量との相関を規定した関数を説明するための図であって、図4の変形例を示す図である。
【図8】アイコンの飛び出し量を変化させる処理が示されるフローチャートであって、図5の変形例を示す図である。
【図9】アイコンの飛び出し量を変化させる処理が示されるフローチャートであって、図8の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0023】
(第一実施形態)
図1には、本発明の第一実施形態による車両用表示装置100の構成が示されている。車両用表示装置100は、車両に搭載され、例えば車両の走行速度を示す速度画像、注意喚起を行う警告画像、及び進行方向を指示する矢印画像等の車両に係わる情報画像50を表示画面31に表示する。車両用表示装置100は、車両の室内において、当該装置100の視認者である運転者に表示画面31を向けた姿勢で設置されている。以下、車両用表示装置100の構成について説明する。
【0024】
車両用表示装置100は、液晶ディスプレイ30、ディスプレイ制御回路10、及び情報処理回路20を備えている。液晶ディスプレイ30は、ディスプレイ制御回路10と接続されており、図2に示されるような情報画像50に含まれるアイコン60及び数字等の意匠を、運転者に裸眼立体視させることができる。液晶ディスプレイ30は、液晶パネル35及びレンチキュラレンズ33等によって構成されている。
【0025】
液晶パネル35には、カラー表示の可能な複数の画素が表示画面31の鉛直方向及び水平方向に沿って配列されている。レンチキュラレンズ33は、液晶パネル35に沿って配置されており、表示画面31の水平方向に並ぶ複数のシリンドリカルレンズ等によって構成されている。レンチキュラレンズ33は、運転者の左目LE及び右目REのそれぞれに、異なる画素から出射された光が到達するように、これらの画素から出射された光を屈折させる。以上により、液晶パネル35の複数の画素は、運転者の左目LE及び右目REのうち実質的に左目LEのみから視認される左目用画素36と、実質的に右目REのみから視認される右目用画素37とに分けられる。
【0026】
ここで、図3に基づいて、実際の視認対象物69を視認者が立体視する仕組みを説明する。視認者は、左右の目LE,REによって視認対象物69を異なる方向から視認する。故に、左目LEにより視認した視認対象物69の像67と右目REにより視認した視認対象物69の像68との間に視差が生じる。こうした視差により、視認者は視認対象物69を立体的に知覚する。また、左目LEから視認対象物69に向かう視線と右目REからの視認対象物69に向かう視線とのなす角度が、視認者の輻輳角θcである。輻輳角θcは、視認者が視認対象物69を知覚する知覚位置PPに関連しており、具体的には、輻輳角θcが大きくなるほど、視認者は、視認対象物69を近くに知覚する。そして、実際の視認対象物69を視認している状態では、左右の目LE,REの焦点は、視認対象物69に合っている。故に、実際の視認対象物69の立体視においては、左右の目LE,REから焦点位置FPまでの距離Defと、左右の目LE,REから知覚位置PPまでの距離Depとは、実質的に一致している。
【0027】
こうした実際の視認対象物69を立体視する仕組みを踏まえて、上述の液晶ディスプレイ30が、アイコン60を運転者に裸眼立体視させる仕組みを、図2に基づいて詳細に説明する。
【0028】
液晶パネル35は、左目用画素36及び右目用画素37に、それぞれ左目用画像51及び右目用画像52を表示させる。左目用画像51及び右目用画像52に含まれる各アイコン60には、視差が再現されている。液晶ディスプレイ30は、運転者の左目LEに左目用画像51を視認させると共に、右目REに右目用画像52を視認させる。すると、左目LEにより視認したアイコン60の像67と右目REにより視認したアイコン60の像68との間に、運転者は視差を知覚できる。故に、運転者は、表示画面31の垂直方向に沿って当該表示画面31からずれた知覚位置PPに、アイコン60の立体像を知覚することができる。加えて、左目用画像51及び右目用画像52の各アイコン60に付与される視差が調整されることにより、液晶ディスプレイ30は、アイコン60の知覚位置PPの表示画面31に対する仮想のずれ(以下、「飛び出し量Dg」という)を、増減させることができる。
【0029】
図1に示されるように、ディスプレイ制御回路10は、情報画像50の描画処理を行うプロセッサ、当該描画処理に用いられる情報が格納されたフラッシュメモリ、及び描画の作業領域として機能するグラフィックRAMを有している。加えて、ディスプレイ制御回路10は、情報処理回路20及び液晶ディスプレイ30のそれぞれと情報をやり取りするインターフェースを有している。ディスプレイ制御回路10は、情報処理回路20から取得する情報に基づいて情報画像50を描画する。そして、ディスプレイ制御回路10は、描画した情報画像50の画像データを液晶ディスプレイ30に出力し、表示画面31に情報画像50を表示させる。
【0030】
情報処理回路20は、各種の演算処理を行うプロセッサ、当該演算処理に用いられるプログラム等が格納されたフラッシュメモリ、演算の作業領域として機能するRAMを有している。加えて、情報処理回路20は、車内LAN70及びディスプレイ制御回路10のそれぞれと情報をやり取りするインターフェースを有している。情報処理回路20は、所定のプログラムを実行することにより、機能ブロックとしての速度取得部23及び推定部25を有する。速度取得部23は、車内LAN70に出力される車両の走行速度についての情報(以下、「速度情報」という)を取得する。推定部25は、速度取得部23の取得する速度情報に基づいて、図2に示されるアイコン60の飛び出し量Dgを決定する。
【0031】
ここで、図1,2に示される車両用表示装置100は、二次元表示モード及び三次元表示モードを備えており、これらの間で表示モードを切り換えることができる。二次元表示モードにおいては、表示画面31におけるアイコン60の飛び出し量Dgを消失させることにより、当該アイコン60の裸眼立体視は中止される。一方で、三次元表示モードにおいては、ディスプレイ制御回路10によって描画される左目用画像51及び右目用画像52につき、各アイコン60に視差が付与される。さらに、三次元表示モードでは、ディスプレイ制御回路10は、アイコン60の飛び出し量Dgの増減を制御する。
【0032】
以上の車両用表示装置100では、左右の目LE,REの焦点位置FPは、液晶ディスプレイ30の表示画面31に合っている。一方で、知覚位置PPは、焦点位置FPとは異なり、表示画面31に対してずれた位置となる。このように、液晶ディスプレイ30による裸眼立体視では、左右の目LE,REから焦点位置FPまでの距離Defと左右の目LE,REから知覚位置PPまでの距離Depとが異なっている。運転者は、焦点位置FPを表示画面31に合わせつつ、輻輳角θcを調整することにより、アイコン60を裸眼立体視することとなる。故に、例えば遠方から表示画面31に視線を移動させた場合には、焦点位置FPと知覚位置PPとの差に起因した輻輳角θcの調整に、運転者が対応しきれないことがある。そのため、運転者に違和感が惹起されるおそれや、各画像51,52が別々に認識されてしまうおそれが生じ得る。
【0033】
そこで、情報処理回路20及びディスプレイ制御回路10は、車両の走行速度の上昇に伴い運転者の視認位置が表示画面31から遠ざかるに従って、表示画面31の情報画像50につき、アイコン60の飛び出し量Dgを低減する制御を協働で実施する。具体的に、情報処理回路20には、図4に示されるような走行速度と飛び出し量Dgとの相関を予め規定したテーブルが記憶されている。図4に示される相関では、走行速度から推定される運転者の視認位置に、飛び出し量Dgが関連付けられている。図1,2に示されるように、推定部25は、記憶されたテーブルに基づいて、走行速度が高くなるに従って飛び出し量Dgを段階的に低減し、予め規定された速度(例えば、80キロメートル毎時(km/h))を上回ると飛び出し量Dgをゼロとする。情報処理回路20は、決定した飛び出し量Dgに対応する視差のパラメータを算出し、情報処理回路20に出力する。そして、ディスプレイ制御回路10は、推定部25によって決定されたアイコン60の飛び出し量Dgが実現されるように、取得した視差パラメータに基づいて、各画像51,52に描画される各アイコン60の視差を調整する。
【0034】
次に、車両用表示装置100がアイコン60の飛び出し量Dgを変化させる処理を、図5に基づいて詳しく説明する。図5に示される処理は、車両のイグニッションスイッチがオン状態である場合において、予め設定された周期にて、情報処理回路20により繰り返し開始される。
【0035】
S101では、車内LAN70を通じて車両の現在の速度情報を取得し、S102に進む。S102では、S101にて取得した速度情報に基づいて、車両の走行速度が予め規定された速度以上か否か、ひいては推定される視認位置が予め規定された位置よりも表示画面31から遠いか否かを判定する。S102にて、走行速度が規定の速度以上であると判定した場合には、S103に進む。一方で、S102にて、走行速度が規定の速度に達していないと判定した場合には、S104に進む。
【0036】
S104では、表示モードを三次元表示モードに設定し、S105に進む。S105では、S101にて取得した走行速度に基づいて、アイコン60の飛び出し量Dgを決定し、S106に進む。S106では、S105にて決定された飛び出し量Dgに対応するアイコン60の視差パラメータを算出し、ディスプレイ制御回路10に出力して、処理を終了する。以上により、運転者の視認位置に対応した飛び出し量Dgを付与されたアイコン60が、表示画面31において立体視可能となる。
【0037】
一方で、S102にて走行速度が規定の速度以上であると判定した場合のS103では、表示モードを二次元表示モードに設定し、処理を終了する。以上により、アイコン60の飛び出し量Dgが消失し、当該アイコン60の裸眼立体視は中止される。
【0038】
ここまで説明した第一実施形態によれば、運転者が遠方を視認している場合には、アイコン60の飛び出し量Dgは、低減又は消失する。故に、遠方の視認位置から表示画面31への視線の移動につき、焦点距離の変化が大きくなっても、運転者は、立体視に起因した違和感を覚え難くなり、且つ、左右の各画像51,52を別々に認識してしまうことも無くなり得る。一方で、運転者が表示画面31の近傍を視認している場合には、視認位置から表示画面31への視線の移動につき、焦点距離の変化は、小さくなる。故に、運転者における立体視に起因する違和感が生じ難くなるので、飛び出し量Dgを大きくしても、アイコン60は運転者に確実に立体視され得る。これらにより、車両用表示装置100は、立体視させるアイコン60の視認性を損なうことなく、当該アイコン60によって情報を運転者に効果的に呈示することができる。
【0039】
加えて第一実施形態によれば、車両の走行速度という取得容易な情報から、情報処理回路20の推定部25は、高い確実性をもって運転者の視認位置を間接的に推定することができる。故に、ディスプレイ制御回路10は、運転者の視認位置に対応させてアイコン60の飛び出し量Dgを増減させる制御を、確実に実施し得る。したがって、アイコン60の視認性の確保及びアイコン60により情報の効果的な呈示は、さらに確実なものとなる。
【0040】
さらに第一実施形態では、車両の高速走行時にて視認位置が表示画面31から遠く、裸眼立体視できるまでに時間を要する状況では、車両用表示装置100の表示モードは、二次元表示モードに設定される。このとき、運転者がアイコン60を裸眼立体視できるまでの時間は、省かれ得る。以上のように裸眼立体視が中止されることにより、立体視に時間を要するおそれのある状況下でも、アイコン60によって呈示される情報は、運転者に迅速に知得され得る。したがって、立体視させるアイコン60の視認性は、さらに確実に確保され得る。
【0041】
また、走行速度に応じて飛び出し量Dgを段階的に低減させる第一実施形態では、視認位置の僅かな変更に伴うアイコン60の飛び出し量Dgの頻繁な移動は、抑制され得る。故に、アイコン60の知覚位置PPの頻繁な移動に起因して違和感の惹起される事態は、確実に低減可能となる。
【0042】
尚、第一実施形態において、ディスプレイ制御回路10及び情報処理回路20が協働で特許請求の範囲に記載の「表示制御手段」に相当し、情報処理回路20が特許請求の範囲に記載の「視認位置推定手段」に相当し、液晶ディスプレイ30が特許請求の範囲に記載の「表示手段」に相当し、情報画像50が特許請求の範囲に記載の「画像」に相当し、アイコン60が特許請求の範囲に記載の「意匠」に相当する。
【0043】
(第二実施形態)
図6〜図8に示される本発明の第二実施形態は、第一実施形態の変形例である。第二実施形態による車両用表示装置200は、車内LAN70に加えて、カメラ240と接続されている。カメラ240は、撮像面を運転者に向けた姿勢にて、車両の室内に設置されている。カメラ240は、運転者の左右の目LE,REを含む範囲を撮影した撮影画像241の画像データを、情報処理回路20に逐次出力する。
【0044】
情報処理回路20は、ディスプレイ制御回路10及び車内LAN70と接続されるインターフェースに加えて、カメラ240から画像データを取得するインターフェースを有している。情報処理回路20は、所定のプログラムを実行することにより、速度取得部23及び推定部25に加えて、画像取得部221を機能ブロックとして有する。画像取得部221がカメラ240から撮影画像241の画像データを逐次取得すると、推定部25は、これら撮影画像241から、運転者の視線の向く視線方向を解析する。
【0045】
また、第二実施形態による情報処理回路20には、図7に示されるような走行速度と飛び出し量Dgとの相関を予め規定した関数が記憶されている。図6,2に示されるように、推定部25は、上述の関数に基づいて、走行速度が高くなるに従って飛び出し量Dgを連続的に低減する。加えて、推定部25は、走行速度が予め規定された速度を上回ると飛び出し量Dgをゼロとすると共に、走行速度が予め規定された速度(例えば20km/h)を下回ると、飛び出し量Dgを最大とする。
【0046】
ここまで説明した車両用表示装置200が、アイコン60の飛び出し量Dgを変化させる処理を、図8に基づいて詳しく説明する。図8に示される処理において、S201及びS202は第一実施形態のS101及びS102(図5参照)と実質的に同一であり、S206〜S209は第一実施形態のS103〜S106(図5参照)と実質的に同一である。図8に示される処理は、イグニッションスイッチがオン状態である場合において、予め設定された周期にて、情報処理回路20により繰り返し開始される。
【0047】
S202にて走行速度が規定の速度以上であると判定した場合のS203では、カメラ240から撮影画像241を取得し、S204に進む。S204では、運転者の視線方向を解析し、S205に進む。S205では、S204にて解析された運転者の視線方向が表示画面31に向けられているか否かを判定する。S205にて、運転者の視線方向が表示画面31に向けられていると判定した場合には、S206にて表示モードを二次元表示モードに設定する。一方で、S205にて、運転者の視線方向が表示画面31に向けられていないと判定した場合には、S207にて表示モードを三次元表示モードに設定する。
【0048】
以上の処理により、車両用表示装置200は、高速走行時において運転者が視線方向を表示画面31に移そうとすると、その都度、表示モードを三次元表示モードから二次元表示モードに切り換える。こうした第二実施形態でも、第一実施形態と同様に、立体視させるアイコン60の視認性を損なうことなく、当該アイコン60によって情報を運転者に効果的に呈示することができる。
【0049】
加えて、アイコン60の飛び出し量Dgを連続的に低減させる第二実施形態では、アイコン60の知覚位置PPは、運転者の視認する視認位置に正確に追従し得る。故に、立体視に起因する違和感が惹起され難い範囲内で、アイコン60の飛び出し量Dgは、最大限に確保され得る。したがって、アイコン60の視認性の確保しつつ当該アイコン60によって情報を効果的に呈示することが、さらに確実に可能となる。
【0050】
(第三実施形態)
図9に示される本発明の第三実施形態は、第二実施形態の変形例である。第三実施形態では、図6に示される情報処理回路20の推定部25は、撮影画像241を解析することにより得られる視線方向から、運転者の視認位置を直接的に推定する。情報処理回路20には、視認位置と飛び出し量Dg(図2参照)との相関を予め規定した関数が記憶されている。以下、第三実施形態においてアイコン60(図2参照)の飛び出し量Dgを変化させる処理を、図9に基づいて詳しく説明する。図9に示される処理において、S301及びS302は第二実施形態のS203及びS204(図8参照)と実質的に同一であり、S305,S306,及びS308は第一実施形態のS103,S104,S106(図5参照)と実質的に同一である。図9に示される処理は、イグニッションスイッチがオン状態である場合において、予め設定された周期にて、情報処理回路20により繰り返し開始される。
【0051】
S303では、S302にて解析された運転者の視認方向から、当該運転者が現在視認している視認位置を推定し、S304に進む。S304では、S303にて推定された視認位置が予め規定された基準となる視認位置よりも遠方か否かを判定する。S304にて、運転者の視認位置が規定の位置よりも遠方であると判定した場合には、S305にて表示モードを二次元表示モードに設定する。一方で、S304にて、運転者の視認位置が規定の位置よりも表示画面31に近いと判定した場合には、S306にて表示モードを三次元表示モードに設定し、S307に進む。S307では、S303にて推定した視認位置に基づいて、予め記憶していた関数からアイコン60の飛び出し量Dgを決定し、S308に進む。S308では、S307にて決定された飛び出し量Dgに対応するアイコン60の視差パラメータを算出し、ディスプレイ制御回路10に出力して、処理を終了する。
【0052】
ここまで説明した第三実施形態では、推定部25が運転者の視認位置を直接的に推定できるので、アイコン60の飛び出し量Dgの制御は、運転者の視認位置に応じて正確に実施され得る。したがって、立体視させるアイコン60の視認性の確保、及び当該アイコン60による情報の効果的な呈示は、さらに確実なものとなる。
【0053】
(他の実施形態)
以上、本発明による複数の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0054】
上記第一実施形態において、ディスプレイ制御回路10は、予め規定されたテーブルに基づくことにより、走行速度から間接的に推定される現在の視認位置を、アイコン60の飛び出し量Dgに関連付けていた。また、上記第三実施形態において、ディスプレイ制御回路10は、視線方向から直接的に推定される視認位置を、アイコン60の飛び出し量Dgに関連付けていた。しかし、運転者の視認位置を推定する方法及び構成は、上記実施形態に限定されない。例えば、走行速度及び視線方向の情報を組み合わせることにより推定された視認位置に基づいて、アイコンの飛び出し量が決定されてもよい。具体的には、予め規定された閾値となる走行速度を超えた場合には、ディスプレイ制御回路は、走行速度から推定される視認位置に基づいて、飛び出し量を決定する。一方で、閾値となる走行速度を下回る場合には、ディスプレイ制御回路は、視線方向から推定される視認位置に基づいて、飛び出し量を決定する。このような形態であっても、アイコンの視認性の確保とアイコン60による情報の効果的な呈示は、共に可能となる。
【0055】
上記実施形態では、立体視させる「意匠」としてアイコン60を例に説明したが、立体視させる「意匠」は、アイコン60に限定されず、適宜変更されてよい。例えば、「意匠」は、車両の形状を模した三次元モデルであってもよく、又は走行速度を示す数字等であってもよい。或いは、「意匠」は、燃料の残量の減少及び走行用のバッテリ残量低下を警告するインジケータ等であってもよい。さらに、インジケータ等は、例えば高速走行時(上記第一,第二実施形態における80km/h以上)においても、最大の飛び出し量Dgにて表示されてもよい。飛び出し量Dgが最大に規定されることにより、インジケータは、表示画面31に視線を移動させた運転者に最大限の違和感を惹起させられる。このような立体視に起因する違和感によって、インジケータの誘目性が向上させられていてもよい。
【0056】
上記実施形態では、「意匠」を立体視させることが可能な「表示手段」として、液晶パネル35とレンチキュラレンズ33等とを組み合わせてなる液晶ディスプレイ30が用いられていた。しかし、「表示手段」は、「意匠」を視認者に三次元で立体視させることが可能であれば、上記の構成に限定されない。例えば、「表示手段」は、特定の一方向からのみの立体視を実現するディスプレイであってもよく、又は、複数の方向からの立体視を実現する多視差タイプのディスプレイであってもよい。加えて、「表示手段」は、視認者に装着されて左右の目に対応するシャッタが開閉する立体視用の眼鏡、この眼鏡のシャッタと同期して表示画面に左右の画像を交互に表示する液晶パネルとを備える構成であってもよい。又は、「表示手段」は、上記実施形態のレンチキュラレンズ33に替えて、鉛直方向に延びるスリットが水平方向に間隔を開けて複数形成された遮光バリアを備えることにより、視認者の裸眼立体視を可能とする、所謂パララックスバリア方式の表示装置であってもよい。
【0057】
上記実施形態において、「意匠」について運転者の知覚する仮想のずれは、表示画面31に対して運転者側に飛び出す方向に設けられていた。しかし、「意匠」の仮想のずれは、表示画面を挟んで運転者とは反対の方向に設けられていてもよい。以上のように、「意匠」が表示画面よりも奥側に知覚される形態であっても、視認位置が表示画面から遠ざかるに従って奥側へのずれを低減することにより、「意匠」は、視認性を確保されつつ、効果的な情報の呈示を実施できる。
【0058】
上記第一実施形態において、「意匠」の飛び出し量Dgは、視認位置と関連する走行速度に応じて段階的に低減されていた。また、上記第二,第三実施形態における「意匠」の飛び出し量Dgは、視認位置に応じて連続的に低減されていた。これらのような視認位置と飛び出し量との間における具体的な相関の態様は、適宜変更されてよい。例えば、視認位置又は走行速度と飛び出し量との相関は、上述のように直線状に規定されていてもよく、又は正弦波状のような非線形状に規定されていてもよい。加えて、ディスプレイ制御回路に保持される相関のデータの形式は、上記のようなテーブル又は関数であってもよく、或いはマップ等であってもよい。
【0059】
上記実施形態では、予め規定された位置よりも視認位置が遠方である場合に、情報処理回路20は、表示モードを二次元表示モードに切り替えていた。しかし、視認位置が遠方であったとしても、情報処理回路は、表示モードを二次元表示モードに切り換えること無く、三次元表示モードのまま、視認者に違和感を惹起しない程度の最小限の飛び出し量を維持していてもよい。
【0060】
上記第二実施形態において、撮影画像を撮影するカメラは、可視光を感知する可視光カメラであってもよく、近赤外線を感知する近赤外線カメラ等であってもよい。加えて、情報処理回路において推定部にて実施される撮影画像から運転者の視線方向を解析する手法は、カメラの種類及び配置に応じて適切なものが選択されてよい。例えば、推定部によって撮影画像から運転者の目、特に瞳孔の輪郭を抽出させる。そして、抽出した瞳孔の輪郭形状に基づくことにより、運転者の視線方向は解析可能である。
【0061】
上記実施形態では、所定のプログラムを実施する情報処理回路20及びディスプレイ制御回路10によって、特許請求の範囲に記載の「視認位置推定手段」及び「表示制御手段」に相当する機能は、果たされていた。しかし、これらの手段に相当する構成は、上記のものに限定されず、適宜変更されてよい。例えば、「視認位置推定手段」及び「表示制御手段」は、それぞれ一つの回路又は装置であってもよく、或いは複数の回路又は装置を適宜組み合わせたものであってもよい。加えて、これらの回路又は装置は、上記実施形態の各回路10,20のようなプログラムを実行することにより所定の機能を果たす構成であってもよく、又はプログラムによらないで所定の機能を果たす構成であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 ディスプレイ制御回路(表示制御手段)、20 情報処理回路(表示制御手段,視認位置推定手段)、221 画像取得部、23 速度取得部、25 推定部、30 液晶ディスプレイ(表示手段)、31 表示画面、33 レンチキュラレンズ、35 液晶パネル、36 左目用画素、37 右目用画素、240 カメラ、241 撮影画像、50 情報画像(画像)、51 左目用画像、52 右目用画像、60 アイコン(意匠)、67,68 像、69 視認対象物、70 車内LAN、100,200 車両用表示装置、FP 焦点位置、PP 知覚位置、θc 輻輳角、Def 左右の目から焦点位置までの距離、Dep 左右の目から知覚位置までの距離、Dg 飛び出し量(表示画面からの意匠の仮想のずれ)、LE 左目、RE 右目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、前記車両に係わる情報を示す画像を表示画面に表示し、前記画像に含まれる意匠を視認者に立体視させる車両用表示装置であって、
前記表示画面を有し、前記視認者の左目に視認される左目用画像と右目に視認される右目用画像とを前記表示画面に表示することにより、前記表示画面の垂直方向に沿って当該表示画面からずれた位置に前記意匠を知覚させ、この意匠につき前記視認者に知覚される位置の前記表示画面に対する仮想のずれを増減可能な表示手段と、
前記視認者の視認している視認位置を推定する視認位置推定手段と、
前記視認位置推定手段によって推定された前記視認位置が前記表示画面から遠ざかるに従って、前記表示画面に表示される前記画像につき、前記表示画面に対する前記意匠の仮想のずれが低減されるよう前記表示手段を制御する表示制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用表示装置。
【請求項2】
前記視認位置推定手段は、
前記車両の走行速度を取得する速度取得部と、
前記速度取得部の取得する前記走行速度が高くなるほど、前記表示画面から遠い位置に前記視認位置を推定する推定部と、を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用表示装置。
【請求項3】
前記視認位置推定手段は、
前記視認者の目を含む範囲を撮影した撮影画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部によって取得された前記撮影画像から前記視認者の視線の向く視線方向を解析することにより、前記視認位置を推定する推定部と、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用表示装置。
【請求項4】
前記表示制御手段は、前記視認位置推定手段によって推定された前記視認位置が予め規定された位置よりも前記表示画面から遠い場合に、前記表示画面に対する前記意匠の仮想のずれを消失させるよう前記表示手段を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用表示装置。
【請求項5】
前記表示制御手段は、前記視認位置が前記表示画面から遠ざかるに従って、前記表示画面に対する前記意匠の仮想のずれを段階的に低減させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用表示装置。
【請求項6】
前記表示制御手段は、前記視認位置が前記表示画面から遠ざかるに従って、前記表示画面に対する前記意匠の仮想のずれを連続的に低減させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−104976(P2013−104976A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247922(P2011−247922)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】