説明

車両用電動モータ駆動装置

【課題】電動モータ駆動装置の小型化を図り、トルク伝達経路の切り換えを円滑に行なうことができるようにすることである。
【解決手段】電動モータ11の出力軸15と同軸上に第1シャフト31を設け、その第1シャフト31に平行に第2シャフト32を設ける。第シャフト31を外側回転軸31aと、その外側回転軸31a内に挿入された内側回転軸31bとで形成し、その内側回転軸31bと第2シャフト32間に第1減速ギヤ列36を設け、外側回転軸31aと第2シャフト32間に第1減速ギヤ列36より減速比の小さい第2減速ギヤ列37を設ける。第1シャフト31上に、第1変速切換アクチュエータ61の作動により出力軸15と内側回転軸31bを締結する第1摩擦クラッチ51と、第2変速切換アクチュエータ71の作動により出力軸15と外側回転軸31aとを締結する第2摩擦クラッチ52を設けて電動モータ駆動装置の小型化を図り、トルク伝達経路の切り換えを円滑に行なうことができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータを駆動源とし、その電動モータの出力を減速して車輪へ伝達する車両用電動モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車およびハイブリッド車の駆動装置に用いられる車両用電動モータ駆動装置として、特許文献1に記載されたものが従来から知られている。その特許文献1に記載された車両用電動モータ駆動装置においては、電動モータにより回転される第1のシャフトと第2のシャフトを平行に配置し、上記第1のシャフトに第1のギヤを設け、その第1のギヤに噛合する第2のギヤを第の2シャフトに回転自在に設け、その第2のギヤと第2のシャフト間に第1のクラッチを設けている。
【0003】
また、第1のシャフトに第1のギヤより大径の第3のギヤを回転自在に設け、その第3のギヤに噛合する第4のギヤを第2のシャフトに回転不能に設け、上記第3のギヤと第1のシャフト間に第2のクラッチを組込み、その第2のクラッチと上記第1のクラッチの作動により、トルク伝達経路を選択的に切り換えて、第1のシャフトの回転を減速して第2のシャフトに伝達し、その第2のシャフトからディファレンシャルギヤに出力するようにしている。
【0004】
ここで、第1のクラッチとして、2ウェイオーバーランニングクラッチを採用し、第2のクラッチとして、多板摩擦クラッチを採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−22879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の車両用電動モータ駆動装置においては、第2のシャフトと第2のギヤ間に第1のクラッチを組込み、第1のシャフトと第3のギヤ間に第2のクラッチを組込むようにしているため、電動モータ駆動装置が大型化し、車両への組込みに大きなスペースを確保しなければならないという問題があった。
【0007】
また、第1のクラッチとして2ウェイオーバーランニングクラッチを採用しているため、係合時のショックが大きく、トルク伝達経路の切り換えを円滑に行なうことができないという問題もあった。
【0008】
この発明の課題は、電動モータ駆動装置の小型化を図り、トルク伝達経路の切り換えを円滑に行なうことができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、電動モータと、その電動モータから出力される回転を減速して車輪側に伝達する減速部と、前記電動モータからの出力を前記減速部に伝達または遮断する断続部とを有し、前記減速部が、前記電動モータの出力軸と同軸上に配置された筒状の外側回転軸と、その外側回転軸内に挿入された内側回転軸とからなる2軸構造の第1シャフトおよびその第1シャフトに平行に配置された第2シャフトを有し、前記内側回転軸と第2シャフト間に第1減速ギヤ列を設け、前記外側回転軸と第2シャフト間に第1減速ギヤ列と異なる減速比とされた第2減速ギヤ列を設けた平行軸常時噛合い式ギヤ減速機構からなり、前記断続部が、前記電動モータにより回転駆動されて前記第1シャフトを中心に回転する駆動ディスクに内側回転軸と一体に回転する第1摩擦板を押し付けて、電動モータの出力軸と前記内側回転軸とを締結する第1摩擦クラッチと、その第1摩擦クラッチの係合を制御する第1変速切換アクチュエータと、前記駆動ディスクに外側回転軸と一体に回転する第2摩擦板を押し付けて、電動モータの出力軸と前記外側回転軸とを締結する第2摩擦クラッチと、その第2摩擦クラッチの係合を制御する第2変速切換アクチュエータとからなり、前記第1変速切換アクチュエータに第1摩擦板を駆動ディスクに弾性的に押圧する弾性部材を組込み、前記第2変速切換アクチュエータに第2摩擦板を駆動ディスクに弾性的に押圧する弾性部材を組込んだ構成を採用したのである。
【0010】
上記のように、第1シャフトを、筒状の外側回転軸の内側に内側回転軸を挿入した2軸構造とすることにより、第1シャフト上に2つの摩擦クラッチを配置することができ、電動モータ駆動装置の小型化を図ることができる。
【0011】
また、電動モータの出力軸と内側回転軸を結合するクラッチおよび電動モータの出力軸と外側回転軸とを結合するクラッチとして摩擦クラッチを採用したことにより、それぞれの摩擦クラッチは滑りを生じながら入力側と出力側とを結合することになる。このため、摩擦クラッチは入力側と出力側をシンクロさせながら結合することになり、上記第1摩擦クラッチと第2摩擦クラッチの切り換えによって、低速領域と高速領域との間を滑らかに切り換えることができる。
【0012】
ここで、第1変速切換アクチュエータとして、第1摩擦板に対向配置されて駆動ディスクに向けて移動自在に支持された第1圧力ディスクと、第1シャフトの軸方向に移動可能に支持された第1スリーブと、その第1スリーブと第1圧力ディスクを連結する弾性部材と、前記第1スリーブに一端部が連結された揺動可能なレバーと、そのレバーの他端部を押圧して、第1スリーブを軸方向に移動させる第1シフト用アクチュエータとからなる構成のものを採用することができる。
【0013】
また、第2変速切換アクチュエータとして、第2摩擦板に対向配置されて駆動ディスクに向けて移動自在に支持された第2圧力ディスクと、第1シャフトの軸方向に移動可能に支持された第2スリーブと、その第2スリーブと第2圧力ディスクを連結する弾性部材と、前記第2スリーブに一端部が連結された揺動可能なレバーと、そのレバーの他端部を押圧して、第2スリーブを軸方向に移動させる第2シフト用アクチュエータとからなるものを採用することができる。
【0014】
上記のように、第1変速切換アクチュエータおよび第2変速切換アクチュエータとして弾性部材が組込まれたものを採用することにより、スリーブの軸方向変位が多少変化しても、その変位量のバラツキを弾性部材の弾性変形によって吸収することができる。このため、圧力ディスクに対して緩やかな押圧力を付加することができ、摩擦板が摩耗したとしても、シンクロ機能の安定化を図ることができる。
【0015】
ここで、第1シフト用アクチュエータおよび第2シフト用アクチュエータのそれぞれに、モータと、そのモータにより回転される回転子と、その回転子にねじ係合されて、回転子の回転により軸方向に移動する押圧子を備える直動型アクチュエータからなるものを採用することにより、上記モータに対する電流の制御とねじのリードとからきめ細かい軸方向変位および荷重をコントロールすることができるため、第1摩擦クラッチおよび第2摩擦クラッチのシンクロ機能をより滑らかにし、切り換え時のショックをさらに抑制することができる。
【0016】
上記ねじ係合によるねじは、三角ねじであってもよく、台形ねじであってもよい。また、ボールねじであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、この発明においては、第1シャフトを、筒状の外側回転軸の内側に内側回転軸を挿入した2重シャフト構造とし、その内側回転軸と電動モータの出力軸を接続する第1摩擦クラッチおよび外側回転軸と電動モータの出力軸を接続する第2摩擦クラッチを第1シャフト上に配置したことにより、電動モータ駆動装置の小型化を図ることができる。
【0018】
また、電動モータの出力軸と内側回転軸の締結および電動モータの出力軸と外側回転軸の締結に摩擦クラッチを採用したことにより、摩擦クラッチのそれぞれは、入力側と出力側をシンクロさせながら結合するため、第1摩擦クラッチと第2摩擦クラッチの切り換えによって、低速領域と高速領域との間を滑らかに切り換えることができる。
【0019】
さらに、第1摩擦クラッチの係合を制御する第1変速切換アクチュエータおよび第2摩擦クラッチの係合を制御する2変速切換アクチュエータのそれぞれに弾性部材を組込んだことにより、各摩擦クラッチの入力側と出力側とのシンクロ機能の安定化を図ることができ、クラッチ接続時のショックの低減に効果を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明に係る車両用電動モータ駆動装置の実施の形態を示す断面図
【図2】図1の断続部および減速部を拡大して示す断面図
【図3】変速切換アクチュエータのシフト用アクチュエータを示す断面図
【図4】シフト用アクチュエータの他の例を示す断面図
【図5】シフト用アクチュエータのさらに他の例を示す断面図
【図6】シフト用アクチュエータのさらに他の例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を図面に基いて説明する。図1に示すように、この発明に係る車両用電動モータ駆動装置1は、電動モータ11と、その電動モータ11からの出力を減速する減速部Aと、上記電動モータ11の出力を減速部Aに断続する断続部Bとからなっている。
【0022】
電動モータ11は、モータケーシング12と、そのモータケーシング12の内周に固定されたステータ13と、そのステータ13の内側に組込まれ、上記ステータ13に対する通電によって回転するロータ14と、そのロータ14の中心部に挿通されてロータ14と一体に回転する出力軸15とからなっている。
【0023】
モータケーシング12は、減速部Aおよび断続部Bのハウジング21の一側面に接続されている。電動モータ11の出力軸15の軸端部には、フランジ付き継手軸16が接続され、その継手軸16が上記ハウジング21の内部に配置されて、そのハウジング21内において回転自在とされている。
【0024】
ハウジング21は、減速機収容部22と、その減速機収容部22から電動モータ11側に片寄った位置にクラッチ収容部23とが設けられている。
【0025】
減速部Aは、平行軸常時噛合い式ギヤ減速機からなり、第1シャフト31およびその第1シャフト31に平行に配置された第2シャフト32を有している。図1および図2に示すように、第1シャフト31は、筒状の外側回転軸31aと、その外側回転軸31aの内側に挿入された内側回転軸31bの2軸構造とされ、電動モータ11の出力軸15と同軸上の配置とされている。
【0026】
外側回転軸31aと内側回転軸31bのそれぞれは、減速部収容部22とクラッチ収容部23の隔壁24を貫通し、その貫通部に設けられた軸受33により外側回転軸31aが回転自在に支持されている。
【0027】
内側回転軸31bは、外側回転軸31aより長さが長く、その両端部が外側回転軸31aから外側に位置し、減速部収容部22内に位置する一端部は、その減速機収容部22の端壁に取付けられた軸受34によって回転自在に支持されている。
【0028】
また、内側回転軸31bの他端部は、継手軸16の軸端面に形成された軸受孔17内に配置され、その軸受孔17内に組込まれた軸受35により回転自在に支持されている。
【0029】
減速機収容部22内において、内側回転軸31bと第2シャフト32間には、第1減速ギヤ列36が設けられ、また、外側回転軸31aと第2シャフト32間には、第1減速ギヤ列36より減速比の小さい第2減速ギヤ列37が設けられている。
【0030】
第1減速ギヤ列36は、内側回転軸31bに第1入力ギヤ36aを設け、その第1入力ギヤ36aに噛合する第1出力ギヤ36bを第2シャフト32に設けている。
【0031】
一方、第2減速ギヤ列37は、外側回転軸31aに第2入力ギヤ37aを設け、その第2入力ギヤ37aに噛合する第2出力ギヤ37bを第2シャフト32に設けている。
【0032】
図1に示すように、第2シャフト32には、その第2シャフト32の回転を減速機収容部22に組込まれたディファレンシャルギヤ40に伝達するアウトプットギヤ38が設けられている。
【0033】
ここで、ディファレンシャルギヤ40は、ハウジング21によって回転自在に支持されたデフケース41に上記アウトプットギヤ38に噛合するリングギヤ42を設け、上記デフケース41によって両端部が回転自在に支持されたピニオン軸43に一対のピニオン44を取付け、その一対のピニオン44のそれぞれに一対のサイドギヤ45を噛合した構成とされており、上記一対のサイドギヤ45のそれぞれにはアクスル46が接続されている。
【0034】
断続部Bは、電動モータ11の出力軸15と内側回転軸31bとを締結する第1摩擦クラッチ51と、上記出力軸15と外側回転軸31aを締結する第2摩擦クラッチ52とからなり、その第1摩擦クラッチ51と第2摩擦クラッチ52は、クラッチ収容部23内に組み込まれている。
【0035】
図2に示すように、第1摩擦クラッチ51は、電動モータ11の出力軸15に接続された継手軸16のフランジ16aにクラッチハウジング53を固定し、そのクラッチハウジング53に外周部が連結されて、そのクラッチハウジング53と一体に回転する駆動ディスク54を外側回転軸31aの他端部に嵌合された軸受55で回転自在に支持し、その駆動ディスク54の軸方向一側に環状の第1摩擦板56を対向配置し、その第1摩擦板56と内側回転軸31bの他端部に取り付けられたディスク57とを弾性板58を介して連結し、上記第1摩擦板56と駆動ディスク54の接触によって出力軸15と内側回転軸31bとを締結する構成とされている。
【0036】
一方、第2摩擦クラッチ52は、上記駆動ディスク54の軸方向他側に環状の第2摩擦板59を対向配置し、その第2摩擦板59と外側回転軸31aの他端部に取り付けられたディスク60とを弾性板61を介して連結し、上記第2摩擦板59と駆動ディスク54との接触によって出力軸15と外側回転軸31aとを締結する構成とされている。
【0037】
第1摩擦クラッチ51は、第1変速切換アクチュエータ61によって係合および係合解除が制御される。また、第2摩擦クラッチ52は、第2変速切換アクチュエータ71によって係合および係合解除が制御される。
【0038】
図1および図2に示すように、第1変速切換アクチュエータ61は、第1シャフト31と同軸上に配置されたガイド筒62を隔壁24に固定し、そのガイド筒62の外側にスライド自在に嵌合された第1スリーブ63の一端部に軸受64を介して環状の皿ばねからなる弾性部材65の内周部を連結し、その弾性部材65の径方向の中央部をクラッチハウジング53の側面に設けられた環状突出部66に当接し、かつ、外周部をクラッチハウジング53内に組込まれて第1摩擦板56と軸方向で対向する第1圧力ディスク67の外周部に連結し、上記第1スリーブ63の他端部にレバー68の一端部を連結し、そのレバー68の中途をピン69によって回動自在に支持し、そのレバー68の他端部をハウジング21に形成された開口70から外部に位置させ、そのレバー68の他端部に第1シフト用アクチュエータXを対向配置した構成とされている。
【0039】
上記第1変速切換アクチュエータ61においては、第1シフト用アクチュエータXの作動によりピン69を中心にレバー68を揺動させ、ガイド筒62に沿って移動する第1スリーブ63が弾性部材65の内周部を押圧する作用により、弾性部材65を環状突出部66を支点にして湾曲状に弾性変形させ、その弾性部材65の弾性力により第1圧力ディスク67を駆動ディスク54に向けて移動させて、第1摩擦板56を駆動ディスク54に押し付けるようにしている。
【0040】
一方、第2変速切換アクチュエータ71は、ガイド筒62の内側にスライド自在に嵌合された第2スリーブ73の一端部に軸受74を介して環状の皿ばねからなる弾性部材75の内周部を連結し、その弾性部材75の外周部をクラッチハウジング53内に組込まれて第2摩擦板59と軸方向で対向する第2圧力ディスク77の外周部に連結し、上記第2スリーブ73の他端部にレバー78の一端部を連結し、そのレバー78の中途をピン79によって回動自在に支持し、そのレバー78の他端部をハウジング21に形成された開口80から外部に位置させ、そのレバー78の他端部に第2シフト用アクチュエータXを対向配置した構成とされている。
【0041】
上記第2変速切換アクチュエータ71においては、第2シフト用アクチュエータXの作動によりピン79を中心にレバー78を揺動させ、ガイド筒62に沿って移動する第2スリーブ73で弾性部材75の内周部を押圧し、その弾性部材75の弾性力により第2圧力ディスク77を駆動ディスク54に向けて移動させて、第2摩擦板59を駆動ディスク54に押し付けるようにしている。
【0042】
図3は、第1シフト用アクチュエータXを示す。なお、第2シフト用アクチュエータXは、第1シフト用アクチュエータXと同一であるため、同一の部品には同一の符号を付して説明を省略する。
【0043】
第1シフト用アクチュエータXは、ハウジング21の外周に支持される筒状のケース81にシフト用のモータ82を連結し、そのモータ82の回転軸83に連結されてケース81内に配置された回転子84をケース81内に組込まれた軸受85で回転自在に支持し、その回転子84に設けられた筒部84aの内周に雌ねじ86を設け、その雌ねじ86に押圧子87の外周に形成された雄ねじ88をねじ係合して、回転子84の回転により押圧子87を軸方向に移動させるようにしている。
【0044】
図3に示す第1シフト用アクチュエータXにおいては、回転子84に雌ねじ86を設け、押圧子87に雄ねじ88を形成したが、図4に示すように、回転子84に雄ねじ88を設け、押圧子87に形成された筒部87aの内周に雌ねじ86を形成してもよい。
【0045】
また、図3および図4では、雌ねじ86と雄ねじ88のそれぞれを三角ねじ、あるいは、台形ねじとしているが、図5および図6に示すように、回転子84と押圧子87の嵌合面それぞれにねじ溝を形成し、そのねじ溝間にボールを組込んだボールねじであってもよい。
【0046】
実施の形態で示す車両用電動モータ駆動装置は上記の構造からなり、図2は、第1摩擦クラッチ51および第2摩擦クラッチ52が係合解除位置にある状態を示している。
【0047】
このため、電動モータ11が駆動して出力軸15が回転しても、その回転は、第1シャフト31の外側回転軸31aおよび内側回転軸31bに伝達されず、上記出力軸15が空転する。
【0048】
電動モータ11の駆動によって車両を低速走行させる場合は、図1および図3に示す第1変速切換アクチュエータ61の第1シフト用アクチュエータXのモータ82を駆動する。
【0049】
いま、上記モータ82を駆動すると、回転軸83およびその回転軸83に接続された回転子84が回転する。このとき、回転子84には押圧子87がねじ係合されているため、押圧子87がケース81から突出する方向に移動してレバー68の他端部を押圧する。
【0050】
このため、レバー68がピン69を中心に揺動し、第1スリーブ63がガイド筒62に沿って隔壁24から離反する方向に移動して、弾性部材65の内周部を押圧する。その押圧により、弾性部材65が環状突出部66を中心に湾曲するよう弾性変形し、その弾性変形により、第1圧力ディスク67が駆動ディスク54に向けて移動し、第1摩擦クラッチ51の第1摩擦板56が駆動ディスク54に押し付けられて摩擦係合し、第1摩擦クラッチ51が係合状態となる。
【0051】
上記第1摩擦クラッチ51の係合により、電動モータ11の出力軸15と第1シャフト31の内側回転軸31bが締結され、上記出力軸15の回転が内側回転軸31bに伝達されて、内側回転軸31bが回転する。
【0052】
また、内側回転軸31bの回転は、第1減速ギヤ列36により減速されて第2シャフト32に伝達され、その第2シャフト32の回転がディファレンシャルギヤ40に伝達されてアクスル46が回転し、そのアクスル46から図示省略の車輪に伝達されて車両が低速走行する。
【0053】
車両を低速走行から高速走行に切り換えるには、第1変速切換アクチュエータ61の第1シフト用アクチュエータXのモータ82を上記の逆の方向に回転させた後に停止し、同時に、第2変速切換アクチュエータ71の第2シフト用アクチュエータXのモータ82を駆動する。
【0054】
第1シフト用アクチュエータXのモータ82を逆回転させると、回転子84にねじ係合する押圧子87がケース81内に向けて後退動し、レバー68の押圧を解除する。
【0055】
その押圧解除により、第1スリーブ63が隔壁24に向けて移動して、弾性部材65の押圧を解除し、図2に示すように、弾性部材65が形状復元する。このため、第1圧力ディスク67は第1摩擦板56の押圧を解除することになり、第1摩擦クラッチ51が係合解除する。
【0056】
一方、第2変速切換アクチュエータ71の第2シフト用アクチュエータXのモータ82を駆動すると、回転軸83および回転子84が回転し、その回転子84にねじ係合する押圧子87がケース81から突出する方向に移動してレバー78の他端部を押圧する。
【0057】
このため、レバー78がピン79を中心に揺動し、第2スリーブ73がガイド筒62に沿って隔壁24から離反する方向に移動して、弾性部材75の内周部を押圧し、第2圧力ディスク77が弾性部材75からの押圧により、駆動ディスク54に向けて移動し、第2摩擦クラッチ52の第2摩擦板59が駆動ディスク54に押し付けられて摩擦係合し、第2摩擦クラッチ52が係合状態となる。
【0058】
上記第2摩擦クラッチ52の係合により、電動モータ11の出力軸15と外側回転軸31aが締結され、上記出力軸15の回転が外側回転軸31aに伝達されて、外側回転軸31aが回転する。
【0059】
また、外側回転軸31aの回転は、第2減速ギヤ列37により減速されて第2シャフト32に伝達され、その第2シャフト32の回転がディファレンシャルギヤ40に伝達されてアクスル46が回転し、そのアクスル46から図示省略の車輪に伝達されて車両が加速走行する。
【0060】
実施の形態で示す車両用電動モータ駆動装置1においては、第1シャフト31を、筒状の外側回転軸31aの内側に内側回転軸31bを挿入した2軸構造とし、その第1シャフト31上に第1摩擦クラッチ51と第2摩擦クラッチ52の2つの摩擦クラッチを配置しているため、前述の従来の電動モータ駆動装置のように、第1シャフトおよび第2シャフトのそれぞれにクラッチを配置する場合に比較して、電動モータ駆動装置の小型化を図ることができる。
【0061】
また、電動モータ11の出力軸15と内側回転軸31bを結合するクラッチおよび電動モータ11の出力軸15と外側回転軸31aとを結合するクラッチとして摩擦クラッチ51、52を採用したことにより、それぞれの摩擦クラッチ51、52は滑りを生じながら電動モータ11の出力軸15と内側回転軸31bおよび外側回転軸31aを結合することになる。
【0062】
このため、第1摩擦クラッチ51は、出力軸15と内側回転軸31bをシンクロさせながら結合することになり、また、第2摩擦クラッチ52は、出力軸15と外側回転軸31aをシンクロさせながら結合することとなり、上記第1摩擦クラッチ51と第2摩擦クラッチ52の切り換えによって、低速領域と高速領域との間を滑らかに切り換えることができる。
【0063】
図2に示すように、第1変速切換アクチュエータ61および第2変速切換アクチュエータ71の駆動系に弾性部材65、75を組み込んでおくことにより、第1スリーブ63および第2スリーブ73の軸方向変位が多少変化しても、その変位量のバラツキを弾性部材65、75の弾性変形によって吸収することができる。このため、第1圧力ディスク67や第2圧力ディスク77に対して緩やかな押圧力を付加することができ、第1摩擦板56や第2摩擦板59が摩耗したとしても、シンクロ機能の安定化を図ることができる。
【0064】
また、図3乃至図6に示すように、第1シフト用アクチュエータXおよび第2シフト用アクチュエータXのそれぞれに、モータ82と、そのモータ82により回転される回転子84と、その回転子84にねじ係合されて、回転子84の回転により軸方向に移動する押圧子87を備える直動型アクチュエータからなるものを採用することによって、上記モータ82に対する電流の制御とねじのリードとからきめ細かい軸方向変位および荷重をコントロールすることができるため、第1摩擦クラッチ51および第2摩擦クラッチ52のシンクロ機能を滑らかにし、切り換え時のショックをさらに抑制することができる。
【符号の説明】
【0065】
A 減速部
B 断続部
第1シフト用アクチュエータ
第2シフト用アクチュエータ
11 電動モータ
15 出力軸
21 ハウジング
31 第1シャフト
31a 外側回転軸
31b 内側回転軸
32 第2シャフト
36 第1減速ギヤ列
37 第2減速ギヤ列
51 第1摩擦クラッチ
52 第2摩擦クラッチ
54 駆動ディスク
56 第1摩擦板
59 第2摩擦板
61 第1変速切換アクチュエータ
63 第1スリーブ
65 弾性部材
67 第1圧力ディスク
68 レバー
71 第2変速切換アクチュエータ
73 第2スリーブ
75 弾性部材
77 第2圧力ディスク
78 レバー
82 モータ
84 回転子
84a 筒部
86 雌ねじ
87 押圧子
87a 筒部
88 雄ねじ
89 ボールねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、その電動モータから出力される回転を減速して車輪側に伝達する減速部と、前記電動モータからの出力を前記減速部に伝達または遮断する断続部とを有し、
前記減速部が、前記電動モータの出力軸と同軸上に配置された筒状の外側回転軸と、その外側回転軸内に挿入された内側回転軸とからなる2軸構造の第1シャフトおよびその第1シャフトに平行に配置された第2シャフトを有し、前記内側回転軸と第2シャフト間に第1減速ギヤ列を設け、前記外側回転軸と第2シャフト間に第1減速ギヤ列と異なる減速比とされた第2減速ギヤ列を設けた平行軸常時噛合い式ギヤ減速機構からなり、
前記断続部が、前記電動モータにより回転駆動されて前記第1シャフトを中心に回転する駆動ディスクに内側回転軸と一体に回転する第1摩擦板を押し付けて、電動モータの出力軸と前記内側回転軸とを締結する第1摩擦クラッチと、その第1摩擦クラッチの係合を制御する第1変速切換アクチュエータと、前記駆動ディスクに外側回転軸と一体に回転する第2摩擦板を押し付けて、電動モータの出力軸と前記外側回転軸とを締結する第2摩擦クラッチと、その第2摩擦クラッチの係合を制御する第2変速切換アクチュエータとからなり、
前記第1変速切換アクチュエータが、第1摩擦板を駆動ディスクに弾性的に押圧する弾性部材を有し、前記第2変速切換アクチュエータが、第2摩擦板を駆動ディスクに弾性的に押圧する弾性部材を有してなる車両用電動モータ駆動装置。
【請求項2】
前記第1変速切換アクチュエータが、前記第1摩擦板に対向配置されて駆動ディスクに向けて移動自在に支持された第1圧力ディスクと、第1シャフトの軸方向に移動可能に支持された第1スリーブと、その第1スリーブと第1圧力ディスクを連結する弾性部材と、前記第1スリーブに一端部が連結された揺動可能なレバーと、そのレバーの他端部を押圧して、第1スリーブを軸方向に移動させる第1シフト用アクチュエータからなり、
前記第2変速切換アクチュエータが、前記第2摩擦板に対向配置されて駆動ディスクに向けて移動自在に支持された第2圧力ディスクと、第1シャフトの軸方向に移動可能に支持された第2スリーブと、その第2スリーブと第2圧力ディスクを連結する弾性部材と、前記第2スリーブに一端部が連結された揺動可能なレバーと、そのレバーの他端部を押圧して、第2スリーブを軸方向に移動させる第2シフト用アクチュエータからなる請求項1に記載の車両用電動モータ駆動装置。
【請求項3】
前記第1シフト用アクチュエータおよび第2シフト用アクチュエータのそれぞれが、前記第1摩擦クラッチおよび第2摩擦クラッチを収容するハウジングの外周に支持された請求項2に記載の車両用電動モータ駆動装置。
【請求項4】
前記第1シフト用アクチュエータおよび第2シフト用アクチュエータのそれぞれが、モータと、そのモータにより回転される回転子と、その回転子にねじ係合されて、回転子の回転により軸方向に移動する押圧子を備える直動型アクチュエータからなる請求項2又は3に記載の車両用電動モータ駆動装置。
【請求項5】
前記ねじ係合が、回転子の筒部内周に形成された雌ねじと、押圧子の外周に形成された雄ねじの噛合いからなる請求項4に記載の車両用電動モータ駆動装置。
【請求項6】
前記ねじ係合が、回転子の外周に形成された雄ねじと、押圧子の筒部内周に形成された雌ねじの噛合いからなる請求項4に記載の車両用電動モータ駆動装置。
【請求項7】
前記ねじ係合によるねじが、三角ねじと台形ねじの一種からなる請求項4乃至6のいずれかの項に記載の車両用電動モータ駆動装置。
【請求項8】
前記ねじ係合によるねじが、ボールねじからなる請求項4乃至6のいずれかの項に記載の車両用電動モータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−33071(P2011−33071A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177521(P2009−177521)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】