説明

車両用駆動装置および車両の駆動方法

【課題】 車両用駆動装置および車両の駆動方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、遊星歯車装置6を介して連結された2個の電動機2、3と、遊星歯車装置6に連結された、車輪を駆動するための軸駆動ユニット10とを具備し、遊星歯車装置6の太陽歯車7のための駆動軸4が第1電動機2に連結され、遊星歯車装置6の内歯歯車8のための駆動軸5が第2電動機3に連結されている、車両用駆動装置に関する。車両を駆動するための本発明による方法の場合には、太陽歯車7と内歯歯車8が始動相で互いに反対方向に回転する。それによって、電動機はスタートの前に既に、上昇したトルクを有する特性マップ領域で運転される。これは相対回転数を変更する際に走行装置の加速に有利に作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載した特徴を有する車両用駆動装置と、車両を駆動するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に加えて、いわゆるハイブリッド駆動用の電動機を車両に組み込むことが知られている。特許文献1はこのようなハイブリッド構造を開示している。このハイブリッド構造の場合、電動機が駆動軸を介して互いにかみ合う減速遊星歯車装置セットを駆動する。
【0003】
純粋な電気車両も知られている。電気車両の場合には、特に大型の車両の加速、とりわけでこぼこの路面での加速が問題である。というのは、車両のスタート時、すなわち発進時に、電動機が構造形態に応じて事情によっては車輪を駆動するために比較的に小さなトルクしか提供しないからである。これに対処するために、例えば、必要なトルクを最初から提供することができる大きな電動機が組み込まれる。そのためには当然、車両内に付加的な構造スペースを必要とする。この発進問題の他の解決策は例えば、多段変速機と組み合わせられたクラッチにある。このクラッチにより、電動機は車両の発進前に既に所望な特性マップ領域で運転される。クラッチをつないだ後で、十分なトルクによって車両を発進させることができる。この解決策の場合、経時的にクラッチが摩耗するという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第102007021359A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術から出発して、本発明の根底をなす課題は、発進時に大きなトルクを提供するが、クラッチを使用しなくて済む電気車両用駆動装置を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
装置に関するこの課題の解決策は、請求項1に記載した特徴を有する駆動装置によって示される。
【0007】
本方法に関する課題の解決策は、請求項5に記載した特徴を有する方法によって示される。
【0008】
本発明に係る車両用駆動装置は、遊星歯車装置を介して連結された2個の電動機と、遊星歯車装置に連結された軸駆動ユニットを備えている。遊星歯車装置の太陽歯車のための駆動軸は第1電動機に連結されている。遊星歯車装置の内歯歯車のための駆動軸は第2電動機に連結されている。その際、太陽歯車と内歯歯車の駆動軸は電動機の回転方向に依存して、遊星歯車装置の遊星歯車または遊星キャリアが軸駆動ユニットに回転運動を伝達しないように駆動可能である。遊星キャリアが回転運動を軸駆動ユニットに、ひいては車両の車輪に伝達することを防止するために、太陽歯車の駆動軸の回転速度と内歯歯車の駆動軸の回転速度が回転上昇相の間互いに調整されている。
【0009】
両電動機が十分なトルクを発生する所定の電動機回転数に達することによって、発進相を開始することができる。そのために、一方の電動機の回転数が低下させられるかまたはゼロまで低下させられる。それによって、遊星歯車は太陽歯車の回りに公転し始める。遊星歯車の転動運動によって生じる回転は、遊星キャリアを介して軸駆動ユニットに伝達される。この場合に加えられるエネルギーは、大型の車両をでこぼこの路面上で停止状態から加速するのに十分である。
【0010】
軸駆動ユニットは差動装置を備えることができる。この差動装置は電子制御式差動装置として形成可能である。
【0011】
速度の上昇と共に車両を効果的に駆動できるようにするために、発進の後で第2電動機が作動させられる。第2電動機は内歯歯車の駆動軸を、太陽歯車の駆動軸と同じ回転方向に駆動する。
【0012】
本発明に係る車両駆動方法の場合、始動相において第1電動機と第2電動機の駆動軸が反対方向に駆動され、この場合第1電動機によって駆動される駆動軸が遊星歯車装置の太陽歯車を駆動し、第2電動機によって駆動される駆動軸が内歯歯車を駆動し、しかも遊星歯車装置の遊星キャリアが停止するように駆動し、それによって始動相において、軸駆動ユニットを介して駆動軸に連結された車軸への駆動運動の伝達が行われない。遊星キャリアは太陽歯車の回りに運動しない。
【0013】
始動相に発進相が続く。この発進相では、第2電動機が内歯歯車の駆動軸を駆動せず、太陽歯車の駆動軸だけが第1電動機によって駆動される。今や、遊星歯車は太陽歯車の回りに回転し、遊星キャリアを駆動する。速度が高くなると、内歯歯車の駆動軸は第2電動機によって再び駆動される。今度は、遊星歯車装置の内歯歯車の駆動軸と太陽歯車の駆動軸は同じ方向に回転する。
【0014】
この方法の利点は、車両の発進の前に既に、発進のために十分な駆動エネルギーが提供され、この駆動エネルギーがクラッチによる損失を生じないで軸駆動ユニットに直接伝達されることにある。これは、構造スペースをあまり必要とせずかつ始動相なしに車両を駆動するための電動機よりも軽い重量を有する小型の電動機の使用を可能にする。
【0015】
次に、図示した実施形態に基づいて本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】駆動装置の始動相を示す概略図である。
【図2】駆動装置の発進相を示す概略図である。
【図3】走行中の駆動装置を示す概略図である。
【図4】高速走行時の駆動装置を示す概略図である。
【図5】後退走行時の駆動装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示した車両用駆動装置1は、図面の左側に示した第1電動機2と、右側に示した第2電動機3とを備えている。第1電動機2と第2電動機3によって駆動される駆動軸4、5は、図面内で電動機2、3の間の中央に示した遊星歯車装置6を介して互いに連結されている。その際、第1電動機2によって駆動される駆動軸4は遊星歯車装置6の太陽歯車7に連結され、第2電動機3によって駆動される駆動軸5は内歯歯車8に連結されている。太陽歯車7と内歯歯車8との間には遊星歯車9が配置されている。この遊星歯車はその外歯が内歯歯車8の内歯と太陽歯車7の外歯にかみ合っている。遊星歯車9は遊星キャリア12に支持され、この遊星キャリアはさらに軸駆動ユニット10に作用連結されている。遊星キャリア12は歯車13に連結されている。遊星キャリア12の回転運動は1:1で歯車13に伝達される。
【0018】
軸駆動ユニット10は回転運動を車軸に伝達するための差動装置11を備えている。
【0019】
始動相において、太陽歯車7と内歯歯車8の駆動軸4、5は反対方向に回転する。これは記入した矢印から判る。電動機2、3の出力側が互いに向き合っていることにより、反対方向の回転が生じる。各電動機2、3はそれ自体、時計回りに回転する。
【0020】
駆動軸4、5の回転速度は、遊星歯車装置6の遊星キャリア9が太陽歯車7の回りで運動せず、従って軸駆動ユニット10、ひいては車輪に回転運動が伝達されないように、互いに調整されている。
【0021】
始動相において達成される回転数によって電動機が所望な特性マップ領域で運転されるので、車両の発進の前に上昇したトルクが供給される。このトルクは車両の発進の際に、遊星歯車9と遊星キャリア12を介して軸駆動ユニット10に伝達される(図2)。車両を発車すべきときには、内歯歯車8の駆動軸5の回転が停止される。遊星歯車9は太陽歯車7の回りに動き始める。この場合、遊星キャリア12の回転運動は軸駆動ユニット10を介して車両の車輪に伝達される。太陽歯車7が発進の前に既に回転しているので、発進の開始から大きな力を軸駆動ユニット10に伝達可能である。この力は太陽歯車7が発進と共に初めて回転し始める場合よりも大きい。従って、でこぼこの路面上で発進する際に、大型の車両も電動機で駆動することができる。
【0022】
車両の走行時に多くの駆動エネルギーを供給するために、内歯歯車8の駆動軸5は第2電動機3によって、太陽歯車7の駆動軸4と同じ方向に駆動される(図3)。
【0023】
高速走行に到達するために(図4)、内歯歯車8に連結された駆動軸5が第2電動機3によって、第1駆動軸4に連結された第1電動機2の太陽歯車7の速度の2倍の速度で駆動される。
【0024】
車両の後退走行を可能にするために、第2電動機3の駆動軸5が停止され、太陽歯車7に連結された駆動軸4が第1電動機2によって反対方向に回転させられる(図5)。
【0025】
本発明の場合、クラッチを完全に省略することができる。両電動機の相対回転数を変更することにより、所望なすべての走行状態を、自動変速機の場合のように、最適なトルク発生状態でスムーズに実現することができる。駆動装置の制御は、所望な速度に応じて電動機の回転数と回転方向を互いに調整する図示していない制御ユニットを介して行われる。
【符号の説明】
【0026】
1 駆動装置
2 電動機
3 電動機
4 駆動軸
5 駆動軸
6 遊星歯車装置
7 太陽歯車
8 内歯歯車
9 遊星歯車
10 軸駆動ユニット
11 差動装置
12 遊星キャリア
13 歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車装置(6)を介して連結された2個の電動機(2、3)と、遊星歯車装置(6)の遊星歯車(9)に連結された、車輪を駆動するための軸駆動ユニット(10)とを具備し、遊星歯車装置(6)の太陽歯車(7)のための駆動軸(4)が第1電動機(2)に連結され、遊星歯車装置(6)の内歯歯車(8)のための駆動軸(5)が第2電動機(3)に連結され、太陽歯車(7)と内歯歯車(8)が始動相において、車輪を駆動することなく反対方向に回転可能である、車両用駆動装置。
【請求項2】
太陽歯車(7)の駆動軸(4)と内歯歯車(8)の駆動軸(5)が異なる速度で回転可能であることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
軸駆動ユニット(10)が差動装置(11)を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の駆動装置。
【請求項4】
差動装置(11)が電気式差動装置であることを特徴とする請求項3に記載の駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の駆動装置を備えた車両を駆動するための方法において、
遊星歯車装置(6)の遊星キャリア(12)が停止するように、第1電動機(2)と第2電動機(3)の駆動軸(4、5)が始動相において駆動され、それによって始動相において、軸駆動ユニット(10)を介して駆動軸(4、5)に連結された車軸への駆動運動の伝達が行われないことを特徴とする方法。
【請求項6】
車両を発進させるために、太陽歯車(7)の駆動軸(4)が回転し、それに伴い遊星キャリア(12)が回転させられ、一方、内歯歯車(8)の駆動軸が停止していることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
太陽歯車(7)と内歯歯車(8)が、始動相に続く走行運転で、同じ方向に回転するように駆動されることを特徴とする請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
内歯歯車(8)の駆動軸(5)が太陽歯車(7)の駆動軸(4)よりも速く回転することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
内歯歯車(8)の駆動軸(5)が太陽歯車(7)の駆動軸(4)の2倍の速度で回転することを特徴とする請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−38637(P2011−38637A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179197(P2010−179197)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(504258871)ベンテラー アウトモビールテヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (60)
【氏名又は名称原語表記】Benteler Automobiltechnik GmbH
【住所又は居所原語表記】Elsener Strasse 95, D−33102 Paderborn, Germany
【Fターム(参考)】