説明

車両走行支援装置

【課題】道路の車線の実勢速度を正確に把握し、実勢速度に応じた自車両の車速制御を行うことを可能にする車両走行支援装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のシステムは、複数の車線をもつ道路上で自車両の走行を支援するものであって、自車両の周辺を走行する周辺車両の車両位置を通信により取得する車車間通信手段と、自車両との間で車車間通信可能な通信車両の台数を、道路の各車線ごとに計数する通信車両計数手段と、自車両との間で車車間通信が不可能であり通信車両同士の間を走行する間走非通信車両の台数を、道路の各車線ごとに推定する間走非通信車両推定手段と、を備え、道路の各車線のうち、通信車両の台数と間走非通信車両の台数と、の和で示される評価関数Jが最も大きい車線へ、自車両を誘導する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の車線をもつ道路上で自車両の走行を支援する車両走行支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行支援の技術として、下記特許文献1に記載の走行支援装置が知られている。この走行支援装置は、自車両の周辺車両の情報を車車間通信で受信し、この情報に基づいて自車両がどのような速度で走行するのが一番良いかを演算する。そして、演算で得られた走行速度に基づいて自車両の走行を制御することで、自車両を周囲の車両に合わせて自立的に適正に走行させることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−176355号公報
【特許文献2】特開2006−185136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特に、車車間通信の普及過渡期においては、周辺車両のすべてが車車間通信装置を搭載していることは期待できない。すなわち、車車間通信が可能な通信車両と車車間通信が不可能な非通信車両とが道路上に混在して走行していることが多いと考えられる。そして、特許文献1の走行支援装置では、非通信車両の混在が考慮されていないので、車車間通信の普及過渡期の交通流においては、自車両の適正な走行制御は困難である。また、上記特許文献2のように、通信車両の間を走行する非通信車両の台数を推定する技術は提案されているが、通信車両と非通信車両とが混在する複数車線の道路において、正確に道路の車両の流れ(実勢速度)に応じた走行制御を可能にするには、十分とは言えない。
【0005】
そこで、本発明は、道路の車線の実勢速度を正確に把握し、実勢速度に応じた自車両の車速制御を行うことを可能にする車両走行支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両走行支援装置は、同一の進行方向の複数の車線をもつ道路上で自車両の走行を支援する車両走行支援装置であって、自車両の周辺を走行する周辺車両の車両位置を通信により取得する通信手段と、自車両との間で通信手段による車両位置の通信が可能である通信車両の台数を、道路の各車線ごとに計数する通信車両計数手段と、自車両との間で通信手段による車両位置の通信が不可能で且つ通信車両同士の間を走行する間走非通信車両の台数を、道路の各車線ごとに推定する間走非通信車両推定手段と、を備え、道路の各車線のうち、通信車両計数手段で計数された通信車両の台数と、間走非通信車両推定手段で推定された間走非通信車両の台数と、の和が最も大きい車線へ、自車両を誘導することを特徴とする。
【0007】
この車両走行支援装置では、複数車線をもつ道路上において、通信車両計数手段が各車線ごとの通信車両を計数し、間走非通信車両推定手段が各車線ごとの間走非通信車両の台数を推定する。そして、この車両走行支援装置では、通信車両の台数と間走非通信車両の台数との和が最も大きい車線に、自車両が誘導される。ここで、自車両は、通信車両の速度の情報を通信によって取得することが可能である。また、間走非通信車両は通信車両と通信車両との間を走行していることから、間走非通信車両の速度は、通信車両の速度の情報等から間接的に推定することが可能である。従って、通信車両及びその間を走行する間走非通信車両は、自車両から見て、およその速度を把握しうる車両である。そして、道路の複数の車線のうち、上記のような速度を把握しうる車両が多く含まれている車線は、自車両から見て、車線の実勢速度をより正確に把握しやすい車線であると言える。この車両走行支援装置では、通信車両の台数と間走非通信車両との台数の和に基づいて、実勢速度をより正確に把握しやすい車線に自車両を誘導することになるので、誘導後の車線において、より正確な実勢速度に応じた自車両の車速制御が可能になる。
【0008】
また、具体的には、間走非通信車両推定手段は、通信車両間の車間時間に基づいて、間走非通信車両の台数を推定することとしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両走行支援装置によれば、道路の車線の実勢速度を正確に把握し、実勢速度に応じた自車両の車速制御を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る車両走行支援装置の一実施形態である交通流クルーズコントロールシステムを示す図である。
【図2】自車両が走行し複数の車線を含む道路を示す平面図である。
【図3】交通流クルーズコントロールシステムによる交通流クルーズ制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る車両走行支援装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
図1に示す交通流クルーズコントロールシステム1は、自動車に搭載され、車両走行支援装置として当該自動車の走行を支援する装置である。システム1は、前方車間距離センサ10、無線アンテナ11、車速センサ12、加速度センサ13、クルーズレバー14、HMI部(Human Machine Interface部)18、前方センサECU[Electronic Control Unit]20、無線制御ECU21、車速センサECU22、加速度センサECU23、エンジン制御ECU30(アクセルペダルセンサ15、スロットルアクチュエータ40)、ブレーキ制御ECU31(ブレーキペダルセンサ16、ブレーキアクチュエータ41)及び車両制御ECU51を備えている。前方センサECU20、無線制御ECU21、車速センサECU22、加速度センサECU23、クルーズレバー14、HMI部18と車両制御ECU51との間では通信・センサ系のCAN[Controller Area Network]60で通信を行っており、エンジン制御ECU30、ブレーキ制御ECU31と車両制御ECU51との間では制御系のCAN61で通信を行っている。
【0013】
なお、この実施の形態では、無線アンテナ11及び無線制御ECU21が特許請求の範囲に記載する通信手段に相当し、車両制御ECU51が通信車両計数手段及び間走非通信車両推定手段に相当する。
【0014】
前方車間距離センサ10は、ミリ波などを利用して前方の車両を検出するレーダセンサである。前方車間距離センサ10は、自車両の前端部の中央の所定の高さ位置(検出対象の車両を確実に検出可能な高さ位置)に取り付けられる。前方車間距離センサ10では、レーダビームを左右方向にスキャンしながら自車両から前方に向けて送信し、反射してきたレーダビームを受信する。そして、前方車間距離センサ10では、その受信できた各反射点(検出点)についてのレーダ情報(左右方向のスキャン角、送信時刻、受信時刻、受信強度など)を前方センサECU20に送信する。
【0015】
前方センサECU20では、前方車間距離センサ10から送信されたレーダ情報に基づいて、前方車間距離センサ10の検出範囲内の自車線において自車両前方に車両が存在するか否かを判定する。車両(先行車両)が存在すると判定した場合、前方センサECU20では、レーダ情報を各種処理し、デジタル値で先行車両までの相対距離(車間距離)などを出力する。そして、前方センサECU20では、この先行車両の有無や先行車両が存在する場合には距離などの情報を前方車間距離信号として車両制御ECU51に送信する。
【0016】
無線アンテナ11は、送受信兼用の無線アンテナである。また、無線アンテナ11は、車車間通信用と路車間通信用の共用アンテナである。車車間通信する場合、無線アンテナ11では、通信範囲内に存在する車車間通信可能な他車両からの信号を受信するとともに通信範囲内の他車両に信号を送信する。信号を送信する場合、車車間送信信号が無線制御ECU21から無線アンテナ11に送られる。信号を受信した場合、車車間受信信号が無線アンテナ11から無線制御ECU21に送られる。路車間通信する場合、無線アンテナ11では、インフラ装置(例えば、光ビーコン)からの信号を受信するとともにインフラ装置に信号を送信する。信号を送信する場合、路車間送信信号が無線制御ECU21から無線アンテナ11に送られる。信号を受信した場合、路車間受信信号が無線アンテナ11から無線制御ECU21に送られる。
【0017】
無線制御ECU21は、無線で送受信される各種信号を制御する。車車間通信の場合、無線制御ECU21では、車両制御ECU51からの車車間送信情報に各種変換処理を施して車車間送信信号を生成し、その車車間送信信号を無線アンテナ11に送る。また、無線制御ECU21では、無線アンテナ11で受信した車車間受信信号に各種変換処理を施して情報を取り出し、その情報を車車間受信情報信号として車両制御ECU51に送信する。車車間通信で送受信される車両情報としては、例えば、車両の速度、位置、加速度、走行車線、道路種別(高速道路、一般道路など)、車両識別情報(車両IDなど)がある。路車間通信の場合、無線制御ECU21では、車両制御ECU51からの路車間送信情報に各種変換処理を施して路車間送信信号を生成し、その路車間送信信号を無線アンテナ11に送る。また、無線制御ECU21では、無線アンテナ11で受信した路車間受信信号に各種変換処理を施して情報を取り出し、その情報を路車間受信情報信号として車両制御ECU51に送信する。路車間通信で送信される情報としては、例えば、車両識別情報がある。路車間通信で受信される情報としては、例えば、VICS[Vehicle Information Communication System]情報(渋滞情報、交通規制情報、VICS旅行速度など)やインフラ情報(信号サイクル情報など)がある。各車両の走行車線の情報を路車間通信で受信できる場合もある。
【0018】
なお、車車間通信及び路車間通信で共用で使用する無線アンテナ及び無線制御ECUとしたが、車車間通信と路車間通信とで別々の無線アンテナ及び無線制御ECUとしてもよい。また、路車間通信では、情報を送受信するのではなく、情報を受信するだけでもよい。
【0019】
車速センサ12は、自車両の速度を検出するためのセンサである。車速センサ12では、一定時間毎に、自車両の速度に関する情報を検出し、その検出した情報を車速センサECU22に送信する。
【0020】
車速センサECU22は、車速センサ12から送信された情報を各種処理し、デジタル値の自車両の速度を出力する。そして、車速センサECU22では、その自車両の速度を車速信号として車両制御ECU51に送信する。
【0021】
加速度センサ13は、自車両の加速度を検出するためのセンサである。加速度センサ13では、一定時間毎に、自車両の加速度に関する情報を検出し、その検出した情報を加速度センサECU23に送信する。
【0022】
加速度センサECU23は、加速度センサ13から送信された情報を各種処理し、デジタル値の自車両の加速度を出力する。そして、加速度センサECU23では、その自車両の加速度を加速度信号として車両制御ECU51に送信する。
【0023】
クルーズレバー14は、システム1のオン(起動)/オフ(停止)操作や目標速度の設定操作(所定速度間隔毎の速度アップ操作と速度ダウン操作が可能)などの各種操作を行うためのレバーである。クルーズレバー14では、運転者によって行われた操作情報をクルーズレバー信号として車両制御ECU51に送信する。HMI部18は、運転者に対して各種情報を提供する機能を有している。HMI部18は、例えば、車両制御ECU51からの信号を受けて画像表示によって運転者に各種情報を提示するディスプレイモニタや、音声によって運転者に情報を提示するスピーカを含む。HMI部18は、例えば、システム1のオン/オフ状態や目標速度の設定状態などの各種情報を運転者に提示する。
【0024】
アクセルペダルセンサ15は、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(アクセル開度)を検出するセンサである。アクセルペダルセンサ15では、一定時間毎に、アクセルペダルの踏み込み量を検出し、その検出した踏み込み量をアクセルペダル信号としてエンジン制御ECU30に送信する。
【0025】
エンジン制御ECU30は、エンジンを制御する制御装置である。エンジン制御ECU30では、通常、一定時間毎に、アクセルペダルセンサ15からのアクセルペダル信号に基づいて、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に応じて目標加速度を設定する。そして、エンジン制御ECU30では、その目標加速度になるために必要なスロットルバルブの目標開度を設定し、その目標開度を目標スロットル開度信号としてスロットルアクチュエータ40に送信する。特に、車両制御ECU51からのエンジン制御信号を受信した場合、エンジン制御ECU30では、エンジン制御信号に示される目標加速度となるための目標スロットル開度信号をスロットルアクチュエータ40に送信する。
【0026】
スロットルアクチュエータ40は、スロットルバルブの開度を調整するアクチュエータである。スロットルアクチュエータ40では、エンジン制御ECU30からの目標スロットル開度信号を受信すると、その目標開度に応じて作動し、スロットルバルブの開度を調整する。
【0027】
ブレーキペダルセンサ16は、ブレーキペダル(図示せず)の踏み込み量を検出するセンサである。ブレーキペダルセンサ16では、一定時間毎に、ブレーキペダルの踏み込み量を検出し、その検出した踏み込み量をブレーキペダル信号としてブレーキ制御ECU31に送信する。
【0028】
ブレーキ制御ECU31は、各輪のブレーキを制御する制御装置である。ブレーキ制御ECU31では、通常、一定時間毎に、ブレーキペダルセンサ16からのブレーキペダル信号に基づいて、運転者によるブレーキペダルの踏み込み量に応じて目標減速度を設定する。そして、ブレーキ制御ECU31では、その目標減速度になるために必要な各輪のホイールシリンダ(図示せず)の目標ブレーキ油圧を設定し、その目標ブレーキ油圧を目標油圧信号としてブレーキアクチュエータ41に送信する。特に、車両制御ECU51からのブレーキ制御信号を受信した場合、ブレーキ制御ECU31では、ブレーキ制御信号に示される目標減速度となるための目標油圧信号をブレーキアクチュエータ41に送信する。
【0029】
ブレーキアクチュエータ41は、各輪のホイールシリンダのブレーキ油圧を調整するアクチュエータである。ブレーキアクチュエータ41では、ブレーキ制御ECU31からの目標油圧信号を受信すると、その目標ブレーキ油圧に応じて作動し、ホイールシリンダのブレーキ油圧を調整する。
【0030】
車両制御ECU51は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read OnlyMemory]、RAM[Random Access Memory]などからなる電子制御ユニットであり、システム1を統括制御する。車両制御ECU51では、クルーズレバー14からのクルーズレバー信号に示されるON操作情報に応じて起動すると、ROMに格納されているアプリケーションプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することにより、交通流クルーズ制御などを行う。
【0031】
続いて、このような交通流クルーズコントロールシステム1により行われる交通流クルーズ制御について説明する。
【0032】
ここでは、図2に示すように、2つの車線L,Lを備える道路100の交通状況を一例として挙げる。2つの車線L,Lは、ともに図面の右方に向かう方向を進行方向とする。今、システム1を搭載した自車両Mが、道路100上を図面右方に向かって走行しているものとする。そして、自車両Mの前方において、第1車線Lには、2台の通信車両M,Mが走行しており、更にその前方に、2台の非通信車両M22,M24が走行している。一方、第2車線Lには、3台の通信車両M,M,Mが走行している。そして、通信車両MとMとの間に前後に挟まれて2台の非通信車両M21,M23が走行している。また、通信車両MとMとの間に前後に挟まれて非通信車両M25が走行している。
【0033】
ここで、「通信車両」とは、前述の無線アンテナ11及び無線制御ECU21と同様の車車間通信手段を備え、自車両Mとの車車間通信が可能である車両を言う。自車両M及び通信車両M〜Mは、車車間通信によって、互いの走行状況等を示す車両情報を交換することが可能である。前述したように、車車間通信で交換される車両情報としては、例えば、車両の速度、位置、加速度、走行車線、道路種別(高速道路、一般道路など)、車両識別情報(車両IDなど)がある。なお、図2においては、通信車両にハッチングを付して示している。また、「非通信車両」とは、車車間通信手段を備えない等の理由で自車両Mとの車車間通信が不可能な車両を言う。また、ここでは、非通信車両のうち、通信車両同士の間に前後方向に挟まれて走行している車両を、「間走非通信車両」と呼ぶ。この定義によれば、例えば、非通信車両M21,M23,M25は「間走非通信車両」であり、
非通信車両M22,M24は「間走非通信車両」ではない。
【0034】
図3に示すように、交通流クルーズ制御が開始されると、まず、システム1は、車車間通信によって、通信範囲内に存在する各周辺車両についての車両情報(「周辺車群車両情報」という)を受信する(S101)。更に、システム1は、路車間通信によって、インフラ装置(例えば、光ビーコン)からの周辺交通情報も受信する(S101)。インフラ装置からは、道路100における交通情報やVICS旅行速度などのVICS情報が受信される。
【0035】
次に、車両制御ECU51は、受信された周辺車群車両情報等に基づいて、周辺車両の中から分析の対象とすべき車両を選別する(S103)。ここでは、周辺車群車両情報に含まれる各車両の速度、位置、加速度、走行車線、道路種別、車両識別情報に基づき、道路100上で自車両Mと同じ進行方向に走行する通信車両M〜Mが選別される。
【0036】
次に、車両制御ECU51は、車線L,Lごとにそれぞれの車線上に存在する通信車両の台数をカウントする(S105)。ここでは、通信車両M〜Mの車両情報に含まれる走行車線の情報に基づいて、第1車線L上には2台の通信車両M,Mが走行しており、第2車線L上には3台の通信車両M,M,Mが走行していることが認識される。このように、車両制御ECU51は、車線ごとの通信車両の台数を計数する通信車両計数手段として機能する。なお、通信車両M〜Mの走行車線の情報は、路車間通信による周辺交通情報から取得可能な場合もある。
【0037】
次に、車両制御ECU51は、車線L,Lごとに、間走非通信車両の台数を推定する(S107)。すなわち、実際には、車両M21〜M25は自車両Mとの車車間通信を行わないので、車両制御ECU51は車両M21〜M25の存在を認識することはできず、各車線L,L上の間走非通信車両の台数は、推定せざるを得ない。
【0038】
具体的には、通信車両M〜Mからの車両情報に含まれる車両速度及び位置に基づいて、各通信車両M〜Mの間の車間時間が算出される。また、ある1組の通信車両同士の間に存在する非通信車両の台数は、下式(1)で推定することができる。
推定台数K=(通信車両間の車間時間/一般的な車間時間)−1 …(1)
なお、「一般的な車間時間」とは、一般的な交通状況において通常想定される車間時間をいう。「一般的な車間時間」は、例えば、通信車両の車両速度や道路種別に依存して変更するようにしてもよく、固定値としてもよい。
【0039】
そして、車両制御ECU51は、車線L,Lごとに、各通信車両同士の間に存在する非通信車両の推定台数Kの総計を求めることで、各車線L,Lごとに、間走非通信車両の推定台数を得ることができる。例えば、ここでは、第2車線Lについて、通信車両MとMとの間に存在する非通信車両の推定台数Kは、車間時間τに基づいて2台と求められる。通信車両MとMとの間に存在する非通信車両の推定台数Kは、車間時間τに基づいて1台と求められる。そして、K+K=3台の値を、第2車線Lにおける間走非通信車両の推定台数とする。また、ここでは、通信車両MとMとの車間時間が、「一般的な車間時間」以下であることから、通信車両MとMとの間の非通信車両は0台と推定される。結果として、第1車線Lにおける間走非通信車両の台数は、0台と推定される。このように、車両制御ECU51は、車線ごとに、間走非通信車両の台数を推定する間走非通信車両推定手段として機能する。
【0040】
次に、車両制御ECU51は、下式(2)で表される評価関数Jを、車線L,Lごとに演算する(S109)。
【数1】


式(2)において、右辺第1項は、処理S105でカウントされた通信車両の台数であり、右辺第2項は、処理S107で求められた間走非通信車両の推定台数である。従って、ある車線における評価関数Jは、その車線を走行する通信車両と間走非通信車両とを合わせた車両の推定台数を表す。
【0041】
ここで、上記の評価関数Jが意味するところを考える。自車両Mは、通信車両M〜Mの車速を車車間通信によって取得することができる。また、間走非通信車両M21,M23,M25は通信車両同士の間を走行していることから、間走非通信車両M21,M23,M25の車速は、通信車両M〜Mの車速の情報等から間接的に推定することが可能である。このように、通信車両M〜M及びその間を走行する間走非通信車両M21,M23,M25は、自車両Mから見て、およその車速を把握しうる車両である。そして、道路100の2つの車線L,Lのうち、上記のような車速を把握しうる車両が多く含まれている車線は、自車両Mから見て、車線の実勢速度をより正確に把握しやすい車線であると言える。また、通信車両M〜Mが例えば前方(或いは後方)車間距離センサなどで得た間走非通信車両M21,M23,M25の諸情報が、車車間通信で間接的に得られる場合もあるので、間走非通信車両が多い車線は、その車線についての多くの車両情報を収集しやすい車線であるとも言える。以上のような知見から、ある車線の評価関数Jは、その車線の実勢速度を正確に把握しやすいか否かの指標としての意味をもっている。
【0042】
例えば、ある車線に2台の通信車両が存在する場合、この2台の通信車両同士がより離れている方が、当該通信車両の間に多くの非通信車両が存在する可能性があり、車速を推定し易い車両が当該車線に多く存在することになる。図2の例によれば、第1車線Lでは、通信車両M,Mの2台のみが車速を把握しうる車両であり、非通信車両M22,M24は、車速を把握することができない車両である。これに対応し、第1車線Lの評価関数Jは、式(2)からJ=2と算出される。その一方、第2車線Lでは、通信車両M,M,Mのみならず、それらの車両間を走行すると推定される3台の非通信車両M21,M23,M25も車速を把握しうる車両である。これに対応し、第2車線Lの評価関数Jは、式(2)からJ=6と算出される。
【0043】
次に、車両制御ECU51は、各車線の評価関数Jの大小比較を行い、評価関数Jが最大である車線を選択し、選択された車線を走行するように運転者を誘導する(S111)。ここでは、車両制御ECU51は、第2車線Lを走行するように、運転者を誘導する。具体的な誘導の処理としては、車両制御ECU51は、HMI部18に対して「第2車線Lの走行が推奨される」旨の情報を提示するための誘導提示信号を送信する。そして、HMI部18は、「第2車線Lの走行が推奨される」旨の情報を、ディスプレイモニタで画面表示してもよく、スピーカで音声提示してもよい。運転者は、HMI部18からの情報提示に応じて、車線変更を行うことができる。このようなHMI部18からの情報提示によって、推奨される走行車線を運転者に知らしめ、実勢速度をより正確に把握しやすい車線に、自車両を誘導することができる。このように、車両制御ECU51は、評価関数Jが最大である車線に自車両Mを誘導する自車両誘導手段として機能する。
【0044】
次に、車両制御ECU51は、交通流クルーズ制御における自車両Mの車速制御を行う(S113)。具体的には、車両制御ECU51は、自車両Mと同一車線で前方を走行する各車両の走行状態(車速、加速度等)や、当該車線の実勢速度や、自車両Mの前方車間時間などに基づいて、目標加速度(又は目標減速度)を演算する。そして、当該目標加速度(又は目標減速度)を達成するように、エンジン制御信号をエンジン制御ECU30に送信し、ブレーキ制御信号をブレーキ制御ECU31に送信することで、走行車線の実勢速度に応じた自車両Mの車速制御を行う。
【0045】
このシステム1によれば、道路100を走行する他車両の中に、通信車両と非通信車両とが混在している場合に、実勢速度をより正確に把握しやすい車線を選択し、当該車線に自車両Mを誘導(S101〜S111)した上で、車速制御(S113)が行われる。従って、より正確な実勢速度に応じた自車両の車速制御が可能になる。
【0046】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、実施形態では、2車線を備える道路100の交通状況を例示して説明したが、本発明は、3以上の車線を備える道路でも使用可能である。実施形態のシステム1の前述の処理によれば、3以上の車線を備える道路でもそのまま使用可能であることは明らかである。
【符号の説明】
【0047】
1…交通流クルーズコントロールシステム(車両走行支援装置)、11…無線アンテナ(通信手段)、21…無線制御ECU(通信手段)、51…車両制御ECU(通信車両計数手段、間走非通信車両推定手段)、100…道路、M0…自車両、M〜M…通信車両、M21,M23,M25…間走非通信車両、L,L…車線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の進行方向の複数の車線をもつ道路上で自車両の走行を支援する車両走行支援装置であって、
前記自車両の周辺を走行する周辺車両の車両位置を通信により取得する通信手段と、
前記自車両との間で前記通信手段による車両位置の通信が可能である通信車両の台数を、前記道路の各車線ごとに計数する通信車両計数手段と、
前記自車両との間で前記通信手段による車両位置の通信が不可能で且つ前記通信車両同士の間を走行する間走非通信車両の台数を、前記道路の各車線ごとに推定する間走非通信車両推定手段と、を備え、
前記道路の各車線のうち、前記通信車両計数手段で計数された前記通信車両の台数と、前記間走非通信車両推定手段で推定された前記間走非通信車両の台数と、の和が最も大きい車線へ、前記自車両を誘導することを特徴とする車両走行支援装置。
【請求項2】
前記間走非通信車両推定手段は、
前記通信車両間の車間時間に基づいて、前記間走非通信車両の台数を推定することを特徴とする請求項1に記載の車両走行支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−28625(P2011−28625A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175319(P2009−175319)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】