説明

車両騒音制御装置

【課題】振動センサに対するローパスフィルタを省略し、簡易な回路構成で高性能な騒音制御を行なうこと。
【解決手段】車両用の能動型騒音制御装置において、制御対象の振動を検知する参照センサ11の車体2に対する固定時に防振部材10を介在させる。防振部材10は、バネ定数と支持重量によって定まる周波数特性によって参照センサ11に加わる加速度を吸収するので、参照センサ11の出力に対する物理的なローパスフィルタとして機能させ、電気回路構成上からローパスフィルタを省略する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両走行時に発生する騒音を検知して当該騒音を低減する車両騒音制御装置に関し、特に振動由来の騒音を低減する車両騒音制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車室内に逆位相の制御音を与えることで騒音を打ち消す騒音制御技術、所謂ANC(active noise control)を利用し、車室内の騒音を低減する装置が考案されている。車室内に伝播する騒音の原因としては、自動車のエンジン音やモータ音などの駆動音の他、タイヤからサスペンションを伝わる振動、パネルの振動などがある。
【0003】
そこで、例えば特許文献1および特許文献2では、エンジンと車体との間に振動を吸収する機構を配置することで、車両の駆動によって発生する音の車室内への伝播を防ぐ技術を開示している。
【0004】
また、特許文献3,4および5では、エンジンなどの振動源近傍に振動センサを設置し、センサ出力を用いて制御音を生成することで、振動由来の騒音を低減する技術を開示している。なお、特許文献6は、加速度センサ(振動センサ)の取り付け時に各種緩衝素材を介在させる技術を開示するものである。
【0005】
【特許文献1】特開平10−148234号公報
【特許文献2】特開平4−7896号公報
【特許文献3】特開平9−273589号公報
【特許文献4】特開平8−338225号公報
【特許文献5】特開平6−250672号公報
【特許文献6】特開2003−294780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、振動センサが取得した振動データに基づいて騒音制御を行なう場合、振動センサが取得する振動データは広い周波数帯域に及び、騒音制御の参照信号として必要のない周波数帯域を含む。
【0007】
そのため、従来の構成では、振動センサが取得した振動データに対してローパスフィルタをかけて周波数選択を行なった後、騒音制御用の制御音作成に使用していた。
【0008】
すなわち、従来の構成では、回路上に振動センサ入力に対するローパスフィルタを設ける必要があるために、回路構成が大型化するという問題点があった。
【0009】
本発明は、上述した従来技術における問題点を解消し、課題を解決するためになされたものであり、振動センサに対するローパスフィルタを省略し、簡易な回路構成で高性能な騒音制御を行なう車両騒音制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明に係る車両騒音制御装置は、車両の騒音源となる振動を振動検知センサで検知し、検知出力を用いて振動由来の騒音を低減する制御音を出力するとともに、車室内の所定位置に設けたエラーセンサを用いて前記制御音を適応的に変化させる騒音制御装置であって、振動検知センサを騒音源近傍に固定する際に振動検知センサの振動の一部を吸収する防振部材を介在させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば車両騒音制御装置は、防振部材によって振動センサの振動の一部を吸収することで、防振部材を物理的なローパスフィルタとして利用するので、回路構成からローパスフィルタを省略し、簡易な回路構成で高性能な騒音制御を行なう車両騒音制御装置を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る車両騒音制御装置について詳細に説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明の実施例である車両騒音制御装置1の概要構成を示す概要構成図である。車両騒音制御装置1は、車両に搭載され、参照センサ11、適応フィルタF11、LMS演算部F12、Fx(Filtered−X)フィルタF13、スピーカSP1、エラーセンサ12によって騒音制御回路を形成している。
【0014】
この騒音制御回路では、参照センサ11が振動源、例えばエンジンやサスペンションなど騒音源の近傍で振動データを取得し、適応フィルタF11およびFxフィルタF13に入力する。
【0015】
適応フィルタF11は、参照センサ11からの入力に対してフィルタ係数を畳み込んで制御音を生成し、スピーカSP1を介して車室内で再生する。ここで、スピーカSP1およびエラーセンサ12は、図2に示す様に車室内に設置されている。
【0016】
特に、エラーセンサ12は同図に示すようにシートSt1のヘッドレスト近傍、すなわち乗員の耳の近傍に設置されており、集音結果をLMS演算部F12に入力する。
【0017】
FxフィルタF13は、誤差経路を補償する騒音制御のためのフィルタ係数を格納しており、参照センサ11からの入力に対して格納したフィルタ係数による処理を施してLMS演算部F12に入力する。
【0018】
LMS演算部F12は、FxフィルタF13およびエラーセンサ12の入力を受けて最小二乗法を用い、エラーセンサ12からの入力が最小となるように適応フィルタF11のフィルタ係数を更新する。
【0019】
ここで、参照センサ11は、加速度センサなどによって実現され、設置位置の振動を検知する振動センサとして機能する。そして参照センサ11は、車体に対して防振部材10を介して固定されている。
【0020】
防振部材10の具体的な構成例を図3に示す。同図に示した例では、車体2に固定具をねじ止めし、固定具と参照センサとの間に防振部材10を介在させている。かかる構成によって、車体2が振動した場合には振動の一部を防振部材10が吸収した上で、参照センサ11に検知されることとなる。すなわち、防振部材10は、参照センサ11の出力に対してローパスフィルタと等価な機能を物理的に提供することとなる。
【0021】
図4は、車両騒音制御装置1の等価回路図を示す図であり、破線内は振動自体の伝播状態を示している。すなわち、一次波源が発する振動x(n)は、一次波源から参照センサ11の位置までの伝達関数A(z)、参照センサ11から2次波源(すなわちスピーカSP2)の位置までの伝達関数B(z)の影響をうけたあと車室空間を伝播し、エラーセンサ12によって取得される。
【0022】
参照センサ11は、伝達関数A(z)の影響を受けた振動データxa(n)を検知し、ローパスフィルタをかけてxal(n)を得る。従来の構成では、このローパスフィルタを電気回路素子で実現する必要があったが、本発明では防振部材10が物理的なローパスフィルタとして機能するので、電気回路上にローパスフィルタを設ける必要は無い。
【0023】
また、伝達関数B(z)に対応する伝達関数B'(z)、車室空間の伝達関数に対応する伝達関数C'(z)は、FXフィルタF13のフィルタ係数として反映され、エラーセンサ12の出力e(n)とのLMSに用いられる。
【0024】
このLMSの出力によって適応フィルタF11の係数W(z)を更新することにより、車両騒音を軽減する制御音y(n)を得ることができる。
【0025】
つづいて、図5を参照し、防振部材10の設定とフィルタリング特性について説明する。一般的な防振材の特性として、高い周波数の振動は良く防ぐことができるが、低い周波数の防振効果は大きくなく、低周波数側の振動は透過されるので、騒音制御に必要な振動データが失われることはない。
【0026】
図5は、一般的な防振材の振動伝達特性を示す図である。同図に示した例ではピークP1よりも低周波数側は伝達特性が安定して高く、高周波側は伝達特性が低い。すなわち、この例に示した防振部材は、ピークP1未満の周波数成分を選択的に投下させるローパスフィルタと同様の特性を有することとなる。
【0027】
ここで、ピークP1の値は防振材の固有振動数によって定まる。防振材の固有振動数fnは、Kd(N/mm)を防振材のバネ定数、m(kg)を防振材が支持する質量とすると、
fn=(1/2π)(Kd×1000/m)1/2
として表され、
ピークP1は、車体の振動数をfとして、f/fnが1となる点である。
【0028】
従って、防振部材の素材として使用する防振材、およびその支持する質量の設計によって、騒音制御の対象となる周波数よりも高い周波数に固有振動数を合わせることで、防振部材11を物理的なローパスフィルタとして機能させ、参照センサ11が検知する周波数を選択することができる。
【0029】
以上説明してきたように、本実施例にかかる車両騒音制御装置1は、参照センサ11を防振部材10を介して車体2に固定し、防振部材10をローパスフィルタとして用いて参照センサ11が検知する振動の一部を吸収するので、参照センサ10は騒音制御に必要な周波数帯域に絞られた振動データを得る。
【0030】
そのため、回路構成からローパスフィルタを省略し、簡易な回路構成で高性能な騒音制御を行なうことができる。また、走行中に発生する過大入力(例えば段差走行時などに生じる大きな振動)の影響も軽減することが出来るので、システムの安定性向上に寄与することが出来る。
【0031】
さらに、物理的に振動を吸収することにより、高周波によってマスクされていた低周波の微細の振動を検知することも可能となる。また、防振部材に使用する素材のバネ定数によって検知したい範囲の周波数を選択することができ、予算や耐熱などの条件に合わせて様々な棒新材料から選択可能である。
【0032】
なお、本実施例はあくまで一例であって本発明を限定するものではなく、本発明は請求項に記載した記述的思想の範囲内において適宜変形して実施することかできるものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように、本発明にかかる車両騒音制御装置は、車両走行時に発生する騒音の能動的な低減に有用であり、特に振動由来の騒音の低減に適している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例にかかる車両騒音制御装置の概要構成を示す概要構成図である。
【図2】スピーカとエラーセンサの配置について説明する説明図である。
【図3】振動センサの取り付けと防振部材の配置について説明する説明図である。
【図4】図1に示した車両騒音制御装置の動作について説明する説明図である。
【図5】防振部材の周波数特性について説明する説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 車両騒音制御装置
2 車体
10 防振部材
11 参照センサ
12 エラーセンサ
F11 適応フィルタ
F12 LMS演算部
F13 Fxフィルタ
SP1 スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の騒音源となる振動を検知する振動検知センサの検知結果を用いて前記振動に基づく騒音を低減する制御音を出力するとともに、車室内の所定位置に設けたエラーセンサを用いて前記制御音を適応的に変化させる騒音制御手段と、
前記振動検知センサを前記騒音源近傍に固定するとともに、前記振動検知センサの振動の一部を吸収する防振部材と、
を備えたことを特徴とする車両騒音制御装置。
【請求項2】
前記防振部材は弾性体であることを特徴とする請求項1に記載の車両騒音制御装置。
【請求項3】
前記弾性体の素材および重量の選択によって吸収する周波数を設定することを特徴とする請求項2に記載の車両騒音制御装置。
【請求項4】
前記防振部材は、所定周波数以上の振動を選択的に吸収し、前記所定周波数未満の振動を透過することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の車両騒音制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−285017(P2008−285017A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132112(P2007−132112)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】