説明

車体下部構造

【課題】前方衝突時にフロアフレーム後端の後退動を防止あるいは抑制する。
【解決手段】フロントフロア部2の下面に,前後方向に伸びると共にトンネル部6を挟む左右一対のフロアフレーム10が接合される。フロアフレーム10の後端は,フロントフロア部2の後端から上方へ伸びるリアキックアップ部3近傍に位置される。フロアフレーム10の後端部とリアキックアップ部3とが,エンドガセット45(47,48)によって車外側から連結される。
エンドガセット45(47,48)は,リアキックアップ部3と共同して閉断面を構成するようにしてもよく,車幅方向外方側に伸ばしてリアフレーム17の前端部に連結することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車体下部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体にあっては,フロアパネルが,左右一対のサイドシル同士を連結すると共に車幅方向中央において前後方向に伸びるトンネル部を有するフロントフロア部と,該フロントフロア部の後端から上方に伸びるリアキックアップ部と,該リアキックアップ部の上端から後方へ略直線的に伸びるリアフロア部とを有するものがある。上記フロントフロア部の下面には,前後方向に伸びると共に前記トンネル部を挟むように配設された左右一対のフロアフレームを接合し,またフロントフロア部の上面には,サイドシルとトンネル部とを連結する車幅方向に伸びるクロスメンバを接合することも一般に行われている。上記フロアフレームは,断面略逆ハット状とされて,その左右のフランジ部でもってフロントフロア部に接合されるのが一般的である。
【0003】
フロアパネルの前方には左右一対のフロントフレームが配設されるが,平面視において,フロントフレームの後方延長線上にフロアフレームが位置されるように設定しつつ,フロントフレームの後端部に対してフロアフレームの前端部を連結して,前方衝突時の後方への荷重がフロントフレームからフロアフレームへと効果的に伝達されるように設定することも行われている。
【0004】
上記各フロアフレームは,車体前後方向軸線と平行となるようにまっすぐ直線的に伸びるように配設されて,平面視において上記クロスメンバに対して直交するように配設されるのが一般的である。特許文献1には,左右一対のフロアフレームを,後方に向かうにつれて徐々に車幅方向内方側に向かうように傾斜させたものが開示されているが,技術的課題がフロアフレームとは直接関係のないものとなっている関係上,フロアフレームを上述のように傾斜させることの技術的意味合いについてはなんら開示されていない。特許文献1に開示の技術は,左右一対のフロントフレーム間に配設されるサブフレームを,平面視において,前開き式の略三角形状とした独特の構成を採択したことを特徴としており,このサブフレーム形状に対応させて左右一対のフロントフレームも前開き式とした関係上(前方に向かうにつれて徐々に車幅方向外方側に向かうように傾斜設定),前開き式とされたフロントフレームの後方延長線上にフロアフレームが位置するように設定しただけのものと推察される。
【0005】
ところで,前方衝突時においては,左右一対のフロントフレームに入力された後方への衝突荷重がフロアフレームに伝達されることになる。リアキックアップ部の近傍にまで伸びているフロアフレームの後端は,通常は,断面略逆ハット状のまま後方へ開口されたいわゆる切りっぱなしの状態とされている。したがって,前方衝突時には,後退したときのフロアフレームの後端と,リアキックアップ部の後方に位置される各種機器類との干渉という事態を防止することが望まれることになる。
【特許文献1】特開平11−78959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので,その目的は,前方衝突時に,フロアフレームの後端の後退動を防止あるいは抑制できるようにした車体下部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項1に記載のように、
フロアパネルが,左右一対のサイドシル同士を連結すると共に車幅方向中央において前後方向に伸びるトンネル部を有するフロントフロア部と,該フロントフロア部の後端から上方に伸びるリアキックアップ部と,該リアキックアップ部の上端から後方へ略直線的に伸びるリアフロア部とを有し,
前記フロントフロア部の下面に,前後方向に伸びると共に前記トンネル部を挟むように配設された左右一対のフロアフレームが接合された車体下部構造において,
前記各フロアフレームは,断面略逆ハット状とされて,その前端が左右一対のフロントフレームの後端に接合されると共に,その後端が前記リアキックアップ部の近傍にまで伸びており,
前記フロアフレームの後端部と前記リアキックアップ部とを車外側から連結するエンドガセットが設けられている,
ようにしてある。
【0008】
上記解決手法によれば,エンドガセットによって,フロアフレームの後端部をリアキックアップ部と連結するので,前方衝突時にフロアフレームの後端が後退動することが防止あるいは抑制されることになる。また,エンドガセットによって,フロアフレーム後端部からリアキックアップ部にかけての車体剛性も向上されることになる。
【0009】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載のとおりである。すなわち,
前記エンドガセットによって,前記フロアフレームの後端開口が塞がれている,ようにすることができる(請求項2対応)。この場合、従来切りっぱなしであったフロアフレームの後端がエンドガセットによって塞がれているので,リアキックアップ部の後方に位置される各種機器類との干渉が生じたとしてもその損傷を防止あるいは低減することができる。
【0010】
前記エンドガセットは,前記リアキックアップ部と共働して閉断面を構成している,ようにすることができる(請求項3対応)。この場合、請求項1に対応した効果をより一層十分に得ることができる。
【0011】
前記エンドガセットは,前方へ向けて突出されると共に断面略逆ハット状とされた前方突出部を有し,
前記前方突出部が前記フロアフレームの後端部に接合されている,
ようにすることができる(請求項4対応)。この場合、エンドガセットに,フロアフレームと同一断面形状の前方突出部を形成しておくことにより,フロアフレーム後端とエンドガセットとの結合を容易かつ確実に行う上で好ましいものとなる。
【0012】
前記フロントフロア部に,車幅方向に伸びて前記サイドシルとトンネル部とを連結するクロスメンバが接合されており,
前記エンドガセットにおける前記前方突出部が,前記クロスメンバのうち前記リアキックアップ部にもっとも近い位置にある特定クロスメンバにまで伸びて,該前方突出部が前記フロアフレームのうち該特定クロスメンバよりも後方部分を構成している,
ようにすることができる(請求項5対応)。この場合、フロアフレーム後端部が,実質的にエンドガセットにおける前方突出部によって構成されることになる。これにより,フロントフロア部に接合される長尺部材であるフロアフレーム長さを極力短くして,フロアフレームの取扱やその接合作業を容易化する等の上で好ましいものとなる。また,複雑構造となり易いフロアフレームとエンドガセットとの連結部位があらかじめエンドガセットに構成されることとなって,フロアフレームとエンドガセットの連結部位を強固にしたりこの連結部位を所望形状に加工する等の上で好ましいものとなる。
【0013】
前記フロアフレームは,その前端から前記エンドガセットにおける前記前方突出部に接合されるまでの部分が高張力鋼板によって形成され,
前記前方突出部を有する前記エンドガセットが,通常鋼板によって形成されている,
ようにすることができる(請求項6対応)。この場合、フロアフレームのうち,前方衝突時の大きな衝突荷重を伝達することが要求される前側部分を高張力鋼板によって構成してその座屈を防止しつつ,フロアフレームの後側部分を通常鋼板によって形成してコスト低減の上でも好ましいものとなる。
【0014】
前記エンドガセットの車幅方向外端部が,前記リアフロア部の下面に接合されたリアフレームの前端部に連結されており,
前記エンドガセットの車幅方向内端部が,前記トンネル部の基端部まで伸びている,
ようにすることができる(請求項7対応)。この場合、車幅方向の車体強度向上の上で好ましいものとなり,特にトンネル部の開きを防止する上でも好ましいものとなる。
【0015】
前記リアフロア部の下面に接合された左右一対のリアフレームの前端部同士を連結する後部クロスメンバが設けられ,
前記後部クロスメンバに対して前記フロアフレームの後端部が接合されて,該後部クロスメンバが前記エンドガセットを構成している,
ようにすることができる(請求項8対応)。この場合、後部クロスメンバによって車体強度(剛性)を大幅に向上させつつ,この後部クロスメンバをエンドガセットとして兼用させることができる。
【0016】
前記後部クロスメンバは,前記リアフロア部の前端部とリアキックアップ部とフロントフロア部の後端部と共働して閉断面を構成している,ようにすることができる(請求項9対応)。この場合、請求項8に対応した効果をより一層十分に得る上で好ましいものとなる。
【0017】
前記後部クロスメンバは,断面略逆ハット状とされた前方突出部を有し,
前記前方突出部が前記フロアフレームの後端部に接合されている,
ようにすることができる(請求項10対応)。この場合、後部クロスメンバを利用して,請求項4に対応した効果をも得る上で好ましいものとなる。
【0018】
前記エンドガセットは,その下方と後方と左右側方とが閉じられたボックス構造とされている,ようにすることができる(請求項11対応)。この場合、エンドガセットそのものを強度(剛性)を極めて高いものとして,エンドガセット周囲の車体強度向上や,フロアフレーム後端のより一層の後退動防止あるいは抑制の上で好ましいものとなる。
【0019】
前記フロアフレームは,後方に向かうにつれて徐々に車幅方向内方側に向かうように傾斜されて,平面視において,前記フロントフロア部の上面に接合されると共に前記サイドシルとトンネル部とを連結しているクロスメンバに対して傾斜されており,
前記フロアフレームのフランジ部と前記クロスメンバのフランジ部とが,間に前記フロントフロア部を挟んだ3枚重ねの状態で接合されており,
前記左右一対のフロントフレームは互いに平行となるように前後方向に伸びており,
前記左右一対のフロントフレームの後端の間隔が,前記左右一対のフロアフレームの前端の間隔と略同じに設定されている,
ようにすることができる(請求項12対応)。この場合、前方衝突時において,フロアフレームの後方への変位が,クロスメンバのうちフロアフレームよりも車幅方向外方側に位置する部分に対しては圧縮作用を行い,フロアフレームよりも車幅方向内方側に位置する部分に対しては引張作用を行うことになる。このように,クロスメンバは,前方衝突時の荷重を材料学的に強い圧縮や引張によっても受け止めることとなり,前方衝突時の荷重がクロスメンバによってより効果的に受け止められることになる。また,フロアフレームとクロスメンバとはそのフランジ部同士をフロントフロア部との3枚重ねでもって接合して,フロアフレームからクロスメンバへの上述した衝突荷重の伝達を確実に行う上で好ましいものとなる。さらに,フロアフレームを傾斜配置したことにより,車体前後方向軸線に平行にまっすぐ配置した場合に比してその全長を長く確保することが可能となって,フロアフレーム自身による衝撃吸収作用を高める上でも好ましいものとなる。以上に加えて,左右一対のフロントフレームそのものは,一般的な平行配置としてあるので,フロントフレームによるエンジン(パワートレイン)支持等を従来と全く同じように行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば,前方衝突時におけるフロアフレーム後端の後退動を防止あるいは抑制することができ,また車体剛性向上の上でも好ましいものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1,図2において,1はフロアパネルであり,前後方向に分割形成された複数枚のパネル材を互いに接合することにより形成されている。このフロアパネル1は,大別して,フロントフロア部2と,フロントフロア部2の後端から上方へ短く立ち上げられたリアキックアップ部3と,リアキックアップ部3の上端から後方へ伸びるリアフロア部4とを有する。フロントフロア部2の前端は,上下方向に伸びて車室とエンジンルームとを仕切るダッシュパネル5の下端に連なっている。
【0022】
フロントフロア部2には,その車幅方向中央部において前後方向に伸びるトンネル部6が形成されており,このトンネル部6は,その前端がダッシュパネル5に連なり(前方へ向けて開口),その後端はリアキックアップ部3に連なっている(後方へ向けて開口)。このようなフロントフロア部2は,その左右側端部が前後方向に伸びる強度部材としての左右一対のサイドシル7に接合されている。
【0023】
リアキックアップ部3の直後方で,かつリアフロア部4の直下方には,燃料タンク8が配設されている。この燃料タンク8の後方位置において,リアフロア部4には,下方へ膨出された収納部9が形成されて,この収納部9内に,スペアタイヤ等が収納されるようになっている。
【0024】
図1〜図3において,フロントフロア部2の下面には,左右一対のフロアフレーム10が接合されており,この左右一対のフロアフレーム10の間にトンネル部6が位置されている。つまり,各フロアフレーム10は,車幅方向においてトンネル部6とサイドシル7との間に位置するように配設されている。このようなフロアフレーム10は,全体的に直線状に前後方向に伸びているが,車体前後方向軸線に対しては傾斜されている。すなわち,左右一対のフロアフレーム10は,それぞれ後方に向かうにつれて徐々に車幅方向内方側に向かうように(トンネル部6に近づくように)傾斜されて,その前端の車幅方向間隔が後端の車幅方向間隔よりも大きく設定されている。なお,左右一対のフロアフレーム10の傾斜角度は互いに等しくされている。フロアフレーム10の断面形状は,後述するように上方に向けて開口する逆ハット状とされて,フロントフロア部2に対する接合によって閉断面を構成するようになっている。なお,フロアフレーム10の後端は,後述するエンドガセット45によってリアキックアップ部3に連結されると共にその後方開口が塞がれているが,図3ではエンドガセット45が省略されている。
【0025】
図4にも示すように,左右一対のフロアフレーム10の前端は,左右一対のフロントフレーム11の後端に直接的に接合,連結されている。すなわち,左右一対のフロントフレーム11同士は,互いに平行にかつ車体前後方向軸線とも平行となるように(平面視において傾斜しないで)配設されており,このような左右一対のフロントフレーム11の後端の間隔が,左右一対のフロアフレーム10の前端の車幅方向間隔と略一致されている。このようなフロントフレーム11自体の配設態様は,従来と同じであり,したがって,フロントフレーム11を利用したエンジン(パワーパワートレイン)の支持は従来と全く同様に行うことが可能となっている。
【0026】
フロントフレーム11の後端位置は,サイドシル7の前端位置よりも後方とされており,このフロントフレーム11の後端部と,サイドシル7の前端部と,フロアフレーム10の前端部とが,強度部材としてのトルクボックス12によって互いに連結されている。
【0027】
フロントフロア部2の上面には,前後2組のクロスメンバ15,16が接合されている。すなわち,前側に位置する第1クロスメンバ15は,フロントフロア部2の前後方向略中間位置に配設され,後側に位置する第2クロスメンバ16は,第1クロスメンバ15とリアキックアップ部3との略中間に配設されている。各クロスメンバ15,16共に,トンネル部6部分で車幅方向に分断された2部材によって構成されて,各クロスメンバ15,16は,サイドシル7の内側面とトンネル部6の外側面とを連結している。各クロスメンバ15,16の断面は,下方に向けて開口する略ハット状として形成されて,フロントフロア部2に対する接合によって閉断面を構成するようになっている。このような各クロスメンバ15,16は,従来同様に車体前後方向軸線と直交するように伸びていて,平面視においてフロアフレーム10に対してそれぞれ傾斜された配置関係となっている。
【0028】
リアフロア部4の下面には,前後方向に伸びる左右一対のリアフレーム17が接合されている。このリアフレーム16は,その前端部が,サイドシル7の後端部に接合されている。このような左右一対のリアフレーム16同士が,燃料タンク8と収納部9との間において,車幅方向に伸びる第3クロスメンバ18によって連結されている。リアフレーム17の断面形状は,上方に向けて開口する逆ハット状とされて,リアフロア部4に対する接合時に閉断面を構成するようになっている。
【0029】
次に,図5〜図7を参照しつつ,クロスメンバ15,16とフロアフレーム10とのフロントフロア部2に対する接合関係について詳述する。まず,フロアフレーム10は,図5,図7に示すように,左右一対の側壁部10aと,左右一対の側壁部10aの下端同士を連結する底壁部10bと,左右一対の側壁部10aの上端から略水平に伸びる左右一対のフランジ部10cとを有する。フロアフレーム10は,その各フランジ10cをフロントフロア部2の下面に着座させた状態で,当該フロントフロア部2に接合(実施形態では溶接接合)されている(図7ではフロントフロア部2は図示を略す)。
【0030】
各クロスメンバ15,16のフロントフロア部2やフロアフレーム10に対する接合態様は互いに同じなので,第1クロスメンバ15に着目して説明する。まず,第1クロスメンバ15は,左右一対の側壁部15aと,左右一対の側壁部15aの上端同士を連結する上壁部15bと,左右一対の側壁部10aの下端から略水平に伸びる左右一対のフランジ部15cとを有する。第1クロスメンバ15は,その各フランジ15cをフロントフロア部2の上面に着座させた状態で,当該フロントフロア部2に接合(実施形態では溶接接合)されている(図7ではフロントフロア部2は図示を略す)。
【0031】
図1,図6,図7から明らかなように,フロアフレーム10の左右のフランジ部10cと,クロスメンバ15(16についても同じ)の左右のフランジ部15cとは,平面視において合計4箇所で交差することとなるが,この各交差部において互いに接合されており,この接合部分を図5,図6で符号αで示してある。すなわち,特に図5から明らかなように,フロアフレーム10のフランジ部10cとクロスメンバ15(16)のフランジ部15cとの間にフロントフロア部2が挟まれた状態で,この各フランジ部10cと15cとフロントフロア部2との3枚重ねでもって互いに接合(実施形態では溶接接合)されている。
【0032】
次に,図8〜図11を参照しつつ,エンドガセット45に関連した部分について説明する(エンドガセット45は図1,図2にも簡単に示される)。まず,エンドガセットは,通常鋼板を例えばプレス成形する等により,図8に示すような形状に設定されている。すなわち,エンドガセット45は,フロアフレーム10の断面形状に対応した断面略逆ハット状の前方突出部45Aを有する。また,エンドガセット45は,その底壁部45a(前方突出部45Aの底壁ともなっている)と,底壁部45aの後端から上方へ伸びる後壁部45bと,底壁部45aの左右側端と後壁分45bの左右側端とに連なる左右一対の側壁部45cとを有するボックス状に形成されている。すなわち,エンドガセット45は,後述するように,車体へ取付けた状態においてフロントフロア部2の下面に臨む開口と,リアキックアップ部3の後面に臨む開口とを除いて閉じられた形状とされている(下方と後方と左右側方とが閉じられている)。そして,エンドガセット45には,フロアフレーム10のフランジ部10cに連なるように設定された接合用フランジ部45dが形成されている。
【0033】
上述のようなエンドガセット45は,特に図8に示すように,そのフランジ部45dを利用して,フロントフロア部2の後端部下面とリアキックアップ部3の後面とに接合される。この接合状態では,フロントフロア部2の後端部とリアキックアップ部3と共働して閉断面を構成することになる。フロアフレーム10の後端部は,エンドガセット45によってリアキックアップ部3と連結されることになるが,この連結状態では,フロアフレーム10の後端開口がエンドガセット45によって閉じられたものとなる。
【0034】
図9〜図11は,エンドガセット45を含むリアキックアップ部3付近での好ましい組立工程を示すものであるが,実施形態では,フロアパネル1を,フロアフレーム2の後端よりも若干前方位置を境として,前パネル1Aと後パネル1Bとの分割構成として,この境界部位でもって互いに接合するものを前提としてある。
【0035】
まず,図9に示すように,前パネル1Aの下面にフロアフレーム10(のフランジ部10c)が接合されるが(接合箇所が符号αで示される),このときフロアフレーム10の後端は,前パネル1Aの後端よりも若干後方へ突出した状態での接合とされる。次に,図10に示すように,エンドガセット45の前方突出部45Aが,フロアフレーム10の後端部上面に接合される。そして最後に,後パネル1Bの前端部が前パネル1Aの後端部に接合されると共に,エンドガセット45の上端部が後パネル1B(におけるリアキックアップ部3)の後面に接合される。なお,フロアフレーム10の後端部底面には,前後のパネル1Aと1Bとを接合するときの溶接ガン挿入のための作業孔10fが形成されている。
【0036】
以上のような構成において,前方衝突時の衝突荷重は,まずフロントフレーム11に入力されて,フロントフレーム11からフロアフレーム10に伝達されると共に,トルクボックス12を介してサイドシル7にも伝達される。衝突荷重が入力されたフロアフレーム10は,フロアフレーム10自身やこれに接合されたフロントフロア部2によって衝撃吸収を行うことになる。これと同時に,衝突荷重を受けて後方へ変位されるフロアフレーム10からクロスメンバ15,16にも衝突荷重が伝達されて,後述のようにクロスメンバ15,16によっても衝撃吸収が行われることになる。フロアフレーム10が傾斜配置されているので,傾斜配置しない場合(車体前後方向軸線と平行に配設した場合)に比してその全長を長くすることが可能となり,フロアフレーム10自身による衝撃吸収やフロアフレーム10が接合されたフロントフロア部2による衝撃吸収がより効果的に行われることになる。
【0037】
クロスメンバ15,16に対してフロアフレーム10が傾斜されているので,フロアフレーム10からクロスメンバ15,16への衝突荷重の伝達は,クロスメンバ15,16の車幅方向軸線に対して斜め方向から行われることになる。すなわち,クロスメンバ15,16のうち,フロアフレーム10よりもサイドシル7側の部分においては圧縮力を受け,フロアフレーム10よりもトンネル部6側の部分においては引張力を受けることになる。クロスメンバ15,16は,圧縮力あるいは引張力に対する抗力が大きいので,単に従来のように曲げ力あるいはせん断力を受けるだけの場合に比して,より効果的に後方への衝突荷重を受け止めることになる。
【0038】
前後2組のクロスメンバ15,16のうち,より前方に位置される第1クロスメンバ15に対しては,後方に位置される第2クロスメンバ16に比して,大きな後方への衝突荷重がフロアフレーム10から伝達されることになる。つまり,後方に位置する第2クロスメンバ16に対する後方への衝突荷重伝達は比較的小さいものとなるので,フロアフレーム10の後端が大きく後方へ変位することは元々小さいものである。これに加えて,フロアフレーム10の後端は,エンドガセット45によってリアキックアップ部3に連結されているので,フロアフレーム10の後端の後退動がより確実に防止あるいは抑制されたものとなる。すなわち,リアキックアップ部3の後方に配置された燃料タンク8等に対してフロアフレーム10後端が干渉する事態を防止する上で好ましいものとなっている。勿論,エンドガセット45そのものによって,リアキックアップ部3の下端部付近の剛性が向上されることになる。リアキックアップ部3は通常後席用のフロア面となるので,この後席付近の車体剛性向上の上で好ましいものとなる。
【0039】
図12〜図15は,本発明の第2実施形態を示すものであり,前記実施形態と同一構成要素には同一符号を付してその重複した説明は省略する(このこのことは以下のさらに別の実施形態についても同じ)。本実施形態では,第4クロスメンバ41を別途設けて,この第4クロスメンバ41をエンドガセットとして機能させるようにしたものである。すなわち,図12に示すような車幅方向に伸びる第4クロスメンバ41によって,左右一対のリアフレーム17の前端部同士が連結されている。この第4クロスメンバ41に対して,各フロアフレーム10の後端部が連結されている。
【0040】
第4クロスメンバ41は全体的に図12に示すような形状とされていて,その左右端部にあるフランジ部41cを利用してリアフレーム17に接合され,その下端部にあるフランジ部41dを利用してフロントフロア部2の後端部下面に接合され,その上端部にあるフランジ部41eを利用してリアフロア部4の前端部下面に接合されている。このような第4クロスメンバ41は,フロントフロア部2の後端部とリアキックアップ部3とリアフロア部4前端部と共働して閉断面を構成している。
【0041】
フロアフレーム10の後端開口は,第4クロスメンバ41の前壁部によって施蓋されている。第4クロスメンバ41によって,車体剛性が大幅に向上されるが,この第4クロスメンバ41が前記実施形態におけるエンドガセット45の機能を果たすことになり,部品点数を極力増大させないようにする上でも好ましいものとなっている。なお,前記実施形態におけるエンドガセット45における前方突出部45Aを,第4クロスメンバ41に形成することもできる(左右一対の前方突出部が形成されることになる)。
【0042】
図16は,本発明の第3実施形態を示すもので,図8に示すエンドガセット45と,図12に示す第4クロスメンバ41との両方を設けた場合を示す。図16は,図11や図13に対応した断面図となっているが,両方の部材41と45とを設けることにより,フロアフレーム10後端の後退動をより一層の防止あるいは抑制する上で,また車体剛性をより一層向上させる上で好ましいものとなる。
【0043】
図17〜図20は,本発明の第4実施形態を示すものである本実施形態では,エンドガセット47として,図18に示すような形状のものを用いるようにしてある。すなわち,フロアフレーム10の断面形状と同一断面形状を有する前方突出部47Aを有する。また,エンドガセット47は,図8に示すエンドガセット45に比して車幅方向に長く伸びている。すなわち,エンドガセット47の車幅方向外端部は,リアフレーム17の前端部に接合され,その車幅方向内端部は,トンネル部6(の立ち上がりを生じ始める基端部)に接合されている。なお,サイドシル7(のインナパネル)には,リアフレーム17とエンドガセット47との溶接接合のための作業孔7f(図20参照)が形成されている。
【0044】
エンドガセット47は,その前方突出部47Aの底壁部から連続して伸びる底壁部が,フロアフレーム10の底面と略同一高さとされており,その後壁部47bの先端(上端)が,上方へ比較的長く伸びてリアキックアップ部3の後面に接合されて,リアキックアップ部B3と共働して閉断面を構成するようになっている。
【0045】
図21は,本発明の第5実施形態を示すもので,図17〜図20に示すエンドガセット47の変形例となるものである。すなわち,本実施形態でのエンドガセット48は,基本的に前記実施形態におけるエンドガセット47と同じであるが,その前方突出部48A(47Aに対応)が長く設定されて,前方突出部48Aの前端が,第2クロスメンバ16直近にまで伸びている。すなわち,前方突出部48Aが,実質的に,リアキックアップ部3近傍にまで伸びるフロアフレーム10の後端部を構成している。フロアフレーム10の前側部分(前端から第2クロスメンバ16に至るまでの長さ部分)が高張力鋼板によって形成される一方,エンドガセット48は通常鋼板によって形成されている。本実施形態では,フロアフレーム10を高張力鋼板と通常鋼板とで使い分ける場合に,通常鋼板によるフロアフレーム10の後側部分を,独立した専用の部材として別途用意することなく,エンドガセット48の一部(前方突出部48A)によって構成することができる。
【0046】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のような場合をも含むものである。フロアフレーム10は,その全長に渡って同一の材質で形成するようにしてもよい(例えば全長に渡って高張力鋼とする等)。フロアフレーム10と平面視で交差するクロスメンバとしては,2組に限らず,1組あるいは3組以上であってもよい。クロスメンバ15,16は,フロントフロア部2の下面に配設したものであってもよい。左右一対のフロアフレーム10は,互いに平行配置であってもよい(車体前後方向軸線と平行)。エンドガセット45を,燃料タンク8を下方から支持する保持バンド(の前端部)の取付部として利用してもよく,この場合、エンドガセット45に,保持バンド締結用のナット等の固定具をあらかじめ溶接等により一体化しておけばよい。特に,左右一対のフロアフレーム10を後方に向かうにつれて車幅方向内方側に向かうように傾斜設定したときに,エンドガセット45の車幅方向位置は,かなりトンネル部6側に寄った位置となって,保持バンドの前端部を締結するのに好適な位置となる。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態を示す平面図。
【図2】図1のX2−X2線相当断面図。
【図3】図1のうちフロアフレーム,クロスメンバ,サイドシル,リアフレーム等の強度部材の配置関係を示す斜視図。
【図4】フロアフレームとフロントフレームとサイドシルとの連結状態を示す斜視図。
【図5】フロアフレームとクロスメンバとフロントフロア部との接合関係を示すもので,図6のX5−X5線相当断面図。
【図6】フロアフレームとクロスメンバとの交差部分を上方から見た図。
【図7】フロアフレームとクロスメンバとの交差部を下方から見た斜視図で,フロントフロア部を省略して示す。
【図8】エンドガセットの一例を示す要部斜視図。
【図9】図8に示すエンドガセット付近での車体組立の好ましい一例を示す側面断面図。
【図10】図8に示すエンドガセット付近での車体組立の好ましい一例を示す側面断面図。
【図11】図8に示すエンドガセット付近での車体組立の好ましい一例を示す側面断面図。
【図12】本発明の第2実施形態を示すもので,後部クロスメンバとしての第4クロスメンバの一例を示す斜視図。
【図13】図12に示す第4クロスメンバとリアキックアップ部との関係を示す側面断面図。
【図14】図12に示す第4クロスメンバとフロアフレーム後端部との連結部位を示す斜視図。
【図15】図14のX15−X15線相当断面図。
【図16】本発明の第3実施形態を示す要部側面断面図。
【図17】本発明の第4実施形態を示すもので,リアキックアップ部付近を下方から見た要部下面図。
【図18】図17に示すエンドガセットの斜視図。
【図19】図17に対応した部分の斜視図。
【図20】図19のX20−X20線相当断面図。
【図21】本発明の第5の実施形態を示すもので,図17に対応した要部下面図。
【符号の説明】
【0048】
1:フロアパネル
1A:前パネル
1B:後パネル
2:フロントフロア部
3:リアキックアップ部
4:リアフロア部
6:トンネル部
7:サイドシル
8:燃料タンク
10:フロアフレーム
10c:フランジ部
11:フロントフレーム
15:第1クロスメンバ(前部クロスメンバ)
16:第2クロスメンバ(前部クロスメンバ)
17:リアフレーム
41:第4クロスメンバ(後部クロスメンバで,エンドガセットを兼用)
45:エンドガセット(図8〜図11)
45A:前方突出部
47:エンドガセット(図17〜図20)
47A:前方突出部
48:エンドガセット(図21)
48A:前方突出部(フロアフレーム後部を構成)
α:接合部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアパネルが,左右一対のサイドシル同士を連結すると共に車幅方向中央において前後方向に伸びるトンネル部を有するフロントフロア部と,該フロントフロア部の後端から上方に伸びるリアキックアップ部と,該リアキックアップ部の上端から後方へ略直線的に伸びるリアフロア部とを有し,
前記フロントフロア部の下面に,前後方向に伸びると共に前記トンネル部を挟むように配設された左右一対のフロアフレームが接合された車体下部構造において,
前記各フロアフレームは,断面略逆ハット状とされて,その前端が左右一対のフロントフレームの後端に接合されると共に,その後端が前記リアキックアップ部の近傍にまで伸びており,
前記フロアフレームの後端部と前記リアキックアップ部とを車外側から連結するエンドガセットが設けられている,
ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項2】
請求項1において,
前記エンドガセットによって,前記フロアフレームの後端開口が塞がれている,ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項3】
請求項2において,
前記エンドガセットは,前記リアキックアップ部と共働して閉断面を構成している,ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項4】
請求項3において,
前記エンドガセットは,前方へ向けて突出されると共に断面略逆ハット状とされた前方突出部を有し,
前記前方突出部が前記フロアフレームの後端部に接合されている,
ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項5】
請求項4において,
前記フロントフロア部に,車幅方向に伸びて前記サイドシルとトンネル部とを連結するクロスメンバが接合されており,
前記エンドガセットにおける前記前方突出部が,前記クロスメンバのうち前記リアキックアップ部にもっとも近い位置にある特定クロスメンバにまで伸びて,該前方突出部が前記フロアフレームのうち該特定クロスメンバよりも後方部分を構成している,
ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項6】
請求項5において,
前記フロアフレームは,その前端から前記エンドガセットにおける前記前方突出部に接合されるまでの部分が高張力鋼板によって形成され,
前記前方突出部を有する前記エンドガセットが,通常鋼板によって形成されている,
ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項7】
請求項4ないし請求項6のいずれか1項において,
前記エンドガセットの車幅方向外端部が,前記リアフロア部の下面に接合されたリアフレームの前端部に連結されており,
前記エンドガセットの車幅方向内端部が,前記トンネル部の基端部まで伸びている,
ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項8】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において,
前記リアフロア部の下面に接合された左右一対のリアフレームの前端部同士を連結する後部クロスメンバが設けられ,
前記後部クロスメンバに対して前記フロアフレームの後端部が接合されて,該後部クロスメンバが前記エンドガセットを構成している,
ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項9】
請求項8において,
前記後部クロスメンバは,前記リアフロア部の前端部とリアキックアップ部とフロントフロア部の後端部と共働して閉断面を構成している,ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項10】
請求項8または請求項9において,
前記後部クロスメンバは,断面略逆ハット状とされた前方突出部を有し,
前記前方突出部が前記フロアフレームの後端部に接合されている,
ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項11】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において,
前記エンドガセットは,その下方と後方と左右側方とが閉じられたボックス構造とされている,ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において,
前記フロアフレームは,後方に向かうにつれて徐々に車幅方向内方側に向かうように傾斜されて,平面視において,前記フロントフロア部の上面に接合されると共に前記サイドシルとトンネル部とを連結しているクロスメンバに対して傾斜されており,
前記フロアフレームのフランジ部と前記クロスメンバのフランジ部とが,間に前記フロントフロア部を挟んだ3枚重ねの状態で接合されており,
前記左右一対のフロントフレームは互いに平行となるように前後方向に伸びており,
前記左右一対のフロントフレームの後端の間隔が,前記左右一対のフロアフレームの前端の間隔と略同じに設定されている,
ことを特徴とする車体下部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−96186(P2006−96186A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284895(P2004−284895)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】