説明

車体制振構造

【課題】乗り心地性能を向上することができる車体制振構造を提供する。
【解決手段】車体を構成する縦材16,18と、縦材16,18に連接されている横材26との接続部28に跨って、拘束型制振構造体30を貼着し、拘束型制振構造体30は、その車室内側の面が硬質層で構成され、硬質層と縦材18および横材26との間に高減衰層が挟み込まれた構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体制振構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のフロアパネルなどの膜振動の発生し易い基板上に車両用積層構造体を敷設したものがある。この車両用積層構造体は、樹脂からなる下層シートと、下層シート上に制振シートとしての中間シートを重合し、さらに中間シート上にラミネートされる拘束材シートとで構成されている。この車両用積層構造体は板状に形成されていて、フロアパネルなどの振動体の面が膜振動により湾曲変形すると、これに伴い制振機能を持つ中間シートも湾曲変形するが、フロアパネルと中間シートとの振動半径に差があるため、この差分に基づいて発生するせん断変形を利用して振動を抑制するものである(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平7−55550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の車両用積層構造体にあっては、フロアパネルなどの基板上のみに敷設されており、当該基板自体の振動を抑制できる点では優れているが、車両停止時のエンジン振動や走行中のサスペンション側などからの入力により、車両の縦材(サイドシル、ピラー、ダッシュロアなど)が倒れ方向に振動を受けた場合には、これが車両の横材(フロアパネル、クロスメンバーなど)に伝搬して座席が振動したり、車内のこもり音発生の原因となり、乗り心地性能が悪化するという問題がある。
【0004】
そこで、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、乗り心地性能を向上することができる車体制振構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、車体(例えば、実施形態における車体10)を構成する縦材(例えば、実施形態におけるサイドシル18)と、該縦材に連接されている横材(例えば、実施形態におけるフロアパネル26)との接続部(例えば、実施形態におけるフランジ部28)に跨って、拘束型制振構造体(例えば、実施形態における制振構造体30)を貼着し、該拘束型制振構造体は、その車室内側の面が硬質層(例えば、実施形態における硬質層33)で構成され、該硬質層と前記縦材および前記横材との間に高減衰層(例えば、実施形態における高減衰層32)が挟み込まれた構造であることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載した発明は、前記拘束型制振構造体が貼着されていない前記横材の面には、メルシート(例えば、実施形態におけるメルシート27)が敷設されていることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載した発明は、前記横材および前記接続部を覆うようにメルシートを敷設し、該メルシートを覆うように前記拘束型制振構造体が貼着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載した発明によれば、縦材からの振動を、縦材と硬質層との間に介装されている高減衰層が圧縮変形することで振動を吸収することができるため、車両の縦材からの振動を吸収することができ、横材へ振動が伝播することなく、こもり音の発生を抑え、乗り心地性能の向上を図ることができる効果がある。
【0009】
請求項2に記載した発明によれば、拘束型制振構造体とメルシートにより縦材からの振動および横材からの振動を吸収することができるため、より一層乗り心地性能を向上させることができる効果がある。また、拘束型制振構造体を接続部に設けるだけであるため、車両の重量増を最小限に抑えつつ、構造減衰特性を向上させることができると共に、コスト増を最小限に抑えることができる効果がある。
【0010】
請求項3に記載した発明によれば、横材および接続部をメルシートおよび拘束型制振構造体の両方にて覆うことにより、縦材および横材からの振動をさらに確実に減衰させることができ、さらに乗り心地性能を向上させることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(第一実施形態)
次に、本発明の第一実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
【0012】
図1は、車両の車室内の右前部を示す斜視図である。
図1に示すように、車体10の床としてのフロアパネル26上には運転席11と助手席19が左右に配置されている。運転席11と助手席19との間には車体10の前後方向に沿ってフロアトンネル20が膨出形成され、フロアパネル26の側縁には車体10の前後方向に沿ってサイドシル18が接続されている。
【0013】
フロアパネル26の前縁にはエンジンルームとの隔壁を構成するダッシュロア21が接合され、ダッシュロア21の上縁にはダッシュアッパー22が接合されている。ダッシュアッパー22の上部には図示しないカウルボックス部が設けられ、このカウルボックス部の両端部はフロントピラー14に接合されている。ダッシュアッパー22にはインストルメントパネル24が支持されている。フロントピラー14の下部にはフロントフェンダを介してサイドシル18の前端部が接合されている。
【0014】
サイドシル18にはセンターピラー16の下部が接続され、フロントピラー14とセンターピラー16の上端部にはルーフサイドレール17が接続されている。
左右のフロントピラー14,14間にはフロントウインドシールド12が装着され、フロントピラー14とルーフサイドレール17とセンターピラー16とサイドシル18とで囲まれた車体10の側部開口部にフロントドア13が開閉可能に取り付けられている。なお、15はリヤドア、25はステアリングを示す。
【0015】
図2は、図1におけるA−A線に沿う断面図で、フロアパネル近傍の構成を示す図である。
図2に示すように、フロアパネル26にはフロアトンネル20が一体成形されており、フロアパネル26の両側縁には上向きにフランジ部28が形成され、このフランジ部28にサイドシル18が溶接接合されている。サイドシル18はシルアウタ18aとシルインナ18bとで閉断面構造に形成された車体10の骨格部材である。また、サイドシル18には同様に車体10の骨格部材としてのセンターピラー16が接合されている。具体的には、センターピラー16はピラーアウタ16aとピラーインナ16bとで閉断面構造に形成された部材であり、ピラーアウタ16aはサイドシル18のシルアウタ18aに、ピラーインナ16bはサイドシル18のシルインナ18bに各々溶接接合されている。
【0016】
ここで、センターピラー16が内側に倒れる方向に振動すると、この振動がサイドシル18の車体前後方向を軸としたモーメントとしてこのサイドシル18に作用し、フロアパネル26を湾曲させて振動発生の原因としてしまう。そのため、この実施形態ではセンターピラー16の倒れ方向の振動が生じても、以下に示す制振構造体30を用いてフロアパネル26に伝えないようにしているのである。
【0017】
フロアパネル26の上面には、フロアトンネル20の手前からフランジ部28の手前に渡ってメルシート27が貼着されている。
そして、メルシート27の外側縁からフロアパネル26とサイドシル18とのコーナー部分(フランジ部28を跨る部分)を経てセンターピラー16のピラーインナ16bの下部に渡る部位に、制振構造体30が略L字状に貼着されている。
【0018】
図3は、図1におけるB−B線に沿う断面図で、フロアパネル近傍の構成を示す図である。
図3に示すように、フロアパネル26の下面には、車体前後方向に沿ってフロアフレーム50が接合され、このフロアフレーム50の前端にはエンジンルーム内のフロントサイドフレーム51が接続されている。フロアパネル26の前縁にはダッシュロア21が接合され、フロアパネル26とダッシュロア21との間を接続するように制振構造体30が設けられている。なお、フロントサイドフレーム51の下部には図示しないエンジンやサスペンションを支持するサブフレーム52が設けられている。
【0019】
図4は、図2の部分拡大図である。
図4に示すように、制振構造体30は、三層構造をなしており、その車体側にはフロアパネル26、サイドシル18(シルインナ18b)およびセンターピラー16(ピラーインナ16b)に亘って接着層31が形成され、接着層31の車室内側には発泡材などで構成された高減衰層32が形成され、高減衰層32の車室内側には加熱硬化樹脂などで構成された硬質層33が形成されている。
【0020】
この制振構造体30を車体に取り付けるには、まず取付箇所に接着層31を構成する接着材を塗布し、そこに高減衰層32を構成する発泡材を接着させ、高減衰層32の上面に硬質層33を構成する加熱硬化樹脂を塗布する。その後、その加熱硬化樹脂を加熱(焼付塗装時など)することで、表層の硬質層33を硬化させて、高減衰層32を硬質層33と車体のフロアパネル26、センターピラー16およびサイドシル18などとで挟み込む構造とする。ここで、硬質層33は、加熱硬化樹脂を用いているため、曲面にも設けることが容易であり、取付角度が異なるような箇所にも容易に取り付けることができる。なお、ダッシュロア21とフロアパネル26とのコーナー部分についても同様にして制振構造体30を形成する(図3参照)。
【0021】
なお、フロアパネル26上において、制振構造体30の部材が途切れた箇所に連接するようにメルシート27が設けられ(図2参照)、フロアパネル26上面を覆うにように設けられている。そして、制振構造体30およびメルシート27の上面を覆うように、図示しないカーペットなどが敷設されている。
【0022】
次に、制振構造体30の作用について図2、図5を用いて説明する。
図2に鎖線で示すように、センターピラー16が倒れ方向に振動を受けると、図5に示すように、センターピラー16の下部が、矢印の向きに変形する。このとき、変形したセンターピラー16(ピラーインナ16b)が制振構造体30の高減衰層32を押圧力Pにて押圧する。高減衰層32は発泡材で構成されているため、変形し、センターピラー16からの押圧力Pを吸収する。また、硬質層33は硬く形成されているため、ほぼ変形することなく、センターピラー16からの振動を高減衰層32にて吸収し、振動を低減させることができる。
【0023】
その結果、フロアパネル26にはセンターピラー16からの振動が伝播することがなく、また、フロアパネル26にはメルシート27が敷設されているため、センターピラー16からの振動およびフロアパネル26の膜振動が車室内の座席に伝播することを低減させることができる。さらに、振動が原因による車室内のこもり音を低減させることが可能になる。
【0024】
したがって、本実施形態によれば、車体10を構成するセンターピラー16やサイドシル18と、それらに連接されているフロアパネル26との接続部に跨って、制振構造体30を貼着し、制振構造体30は、その車室内側の面が硬質層33で構成され、硬質層33とセンターピラー16やサイドシル18およびフロアパネル26との間に高減衰層32を挟み込む構造としたため、センターピラー16やサイドシル18からの振動を、高減衰層32が圧縮変形することで振動を吸収することができるため、振動を抑えることができ、乗り心地性能の向上を図ることができる。
【0025】
また、制振構造体30が貼着されていないフロアパネル26の面上には、メルシート27を敷設したため、制振構造体30とメルシート27によりセンターピラー16やサイドシル18からの振動およびフロアパネル26からの振動を抑えることができるため、より乗り心地性能を向上させることができる。
【0026】
さらに、制振構造体30をセンターピラー16とフロアパネル26との接続部近傍に設けるだけであり、また、制振構造体30は発泡材や樹脂などで構成されているため、車両の重量増を最小限に抑えつつ、構造減衰特性を向上させることができると共に、コスト増を最小限に抑えることができる。
【0027】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態を図6、図7に基づいて説明する。
なお、本実施形態においては、第一実施形態と制振構造体の貼着方法が異なるのみで、他の構成については第一実施形態と同様であるため、同一箇所には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
図6は、図1におけるA−A線に沿う断面図で、フロアパネル近傍の構成を示す図である。
図6に示すように、この実施形態では、車両左右方向(車幅方向)において、センターピラー16とフロアパネル26とフロアトンネル20に亘る部位にメルシート27が貼着されている。
【0028】
なお、図示はしないが、車両前方において、メルシート27は、フロアパネル26とダッシュロア21との接合部を覆うようにダッシュロア21の立ち上がり部分に至る部位まで設けられている。
【0029】
図7は、図6の部分拡大図である。
図7に示すように、メルシート27上には、制振構造体40が、メルシート27の全面を覆うように設けられている。ここで、この制振構造体40を車体に取り付けるには、メルシート27を全面覆うように高減衰層32を構成する発泡材を取り付け、高減衰層32の上面に硬質層33を構成する加熱硬化樹脂を塗布する。その後、その加熱硬化樹脂を加熱(焼付塗装時など)することで、表層部を硬化させて、高減衰層32を硬質層33とメルシート27とで挟み込む構造とする。そして、制振構造体40の上面を覆うように、車室を構成する図示しないカーペットなどが敷設されている。
【0030】
次に、制振構造体40の作用について説明する。
センターピラー16が、振動により変形して、メルシート27を押圧し、メルシート27により振動が吸収される。ところが、メルシート27でその押圧力(振動)Pを抑えることができない場合は、制振構造体40の高減衰層32が押圧される。高減衰層32は発泡材で構成されているため、変形し、その押圧力Pを吸収する。また、硬質層33は硬く形成されているため、ほぼ変形することなく、センターピラー16からの振動を高減衰層32にて吸収し、振動を低減させることができる。
【0031】
その結果、フロアパネル26にはセンターピラー16からの振動が伝播することがなく、また、フロアパネル26にはメルシート27および制振構造体40が敷設されているため、センターピラー16からの振動およびフロアパネル26の膜振動が車室内の座席に伝播するのを防止できる。さらに、振動が原因による車室内のこもり音を低減させることが可能になる。
【0032】
したがって、本実施形態によれば、車体10を構成するセンターピラー16やサイドシル18と、それらに連接されているフロアパネル26との接続部に、制振構造体40を貼着し、制振構造体40は、その車室内側の面が硬質層33で構成され、硬質層33とセンターピラー16やサイドシル18およびフロアパネル26との間に高減衰層32を挟み込む構造としたため、センターピラー16やサイドシル18からの振動を、高減衰層32が圧縮変形することで振動を吸収することができるため、振動を抑えることができ、乗り心地性能の向上を図ることができる。
【0033】
また、センターピラー16からフロアパネル26全面およびフロアトンネル20の側面を覆うようにメルシート27を敷設し、そのメルシート27を全面覆うように制振構造体40を貼着したため、フロアパネル26とセンターピラー16との接続部をメルシート27および制振構造体40の両方にて覆うこととなる。よって、センターピラー16やサイドシル18およびフロアパネル26自体の振動をさらに確実に減衰させることができ、より一層乗り心地性能を向上させることができる。
【0034】
尚、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な構造や材料などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態において、硬質層に加熱硬化樹脂を用いたが、略同等の機能を有する他の材料を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態における車室内の概略構成図である。
【図2】図1のA−A線に沿う第一実施形態の断面図である。
【図3】図1のB−B線に沿う第一実施形態の断面図である。
【図4】図2の部分拡大図である。
【図5】本発明の第一実施形態における制振構造体の作用を示す説明図である。
【図6】図1のA−A線に沿う第二実施形態の断面図である。
【図7】図6の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0036】
10…車体 16…センターピラー(縦材) 18…サイドシル(縦材) 26…フロアパネル(横材) 27…メルシート 28…フランジ部(接続部) 30…制振構造体(拘束型制振構造体) 32…高減衰層 33…硬質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体を構成する縦材と、該縦材に連接されている横材との接続部に跨って、拘束型制振構造体を貼着し、
該拘束型制振構造体は、その車室内側の面が硬質層で構成され、該硬質層と前記縦材および前記横材との間に高減衰層が挟み込まれた構造であることを特徴とする車体制振構造。
【請求項2】
前記拘束型制振構造体が貼着されていない前記横材の面には、メルシートが敷設されていることを特徴とする請求項1に記載の車体制振構造。
【請求項3】
前記横材および前記接続部を覆うようにメルシートを敷設し、該メルシートを覆うように前記拘束型制振構造体が貼着されていることを特徴とする請求項1に記載の車体制振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−213539(P2008−213539A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50177(P2007−50177)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】