説明

車体前部構造

【課題】車両前突時初期にパワーユニットに作用する車両前方への慣性力をサブフレームに伝達し車両を迅速に減速する。
【解決手段】フロントサイドメンバ12にエンジンマウント48を介して支持されているパワーユニット40から延びているドライブシャフト50の車両前方近傍にサブフレーム20のフロントマウント部24が設けられている。車両前突時初期にパワーユニット40がサブフレーム20に対して車両前方へ慣性移動し、ドライブシャフト50がサブフレーム20のフロントマウント部24の車両後方側に当ることで、サブフレーム20、フロントマウント部24、ドライブシャフト50、パワーユニット40まで繋がった荷重伝達経路が形成されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の車体前部構造に係り、特に、フロントサイドメンバの下方にサブフレームを配置した車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フロントサイドメンバの下方にサブフレームを配置した車体前部構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、フロントサイドメンバにマウントブラケットを介してエンジンルーム下側に配置されサブフレームが結合されており、車両前面衝突時にフロントサイドメンバにおけるマウントブラケットの前方部分が所定の軸荷重で圧縮変形し、更に大きな軸荷重で後方の部分が曲げ変形するようになっている。
【特許文献1】特開2000−016327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の車体前部構造では、車両前面衝突時にエンジンルーム内に配置されたエンジンやミッション等(パワーユニット)に車両前方への慣性力が作用する。この際、エンジンやミッション等はフロントサイドメンバの前方部分の潰れによって車両前方へ慣性移動するので、車両前面衝突時初期にパワーユニットの前進を止めることができない。このため、パワーユニットの慣性力によって車体前部が車両前方へ引っ張られ、車両の減速が妨げられる。
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、車両前面衝突時初期にパワーユニットに作用する車両前方への慣性力をサブフレームに伝達し、車両を迅速に減速できる車体前部構造を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の本発明の車体前部構造は、車体前部の両側部に長手方向を車両前後方向に沿って配置され、前方に軸圧縮変形部が設けられたフロントサイドメンバと、前記フロントサイドメンバの下方に長手方向を車両前後方向に沿って配置され、前方に軸圧縮変形部が設けられたサブフレームと、前記フロントサイドメンバにマウント部材を介して支持されたパワーユニットと、前記パワーユニットから車幅方向外側へ延びるドライブシャフトと、前記サブフレームにおける前記ドライブシャフトの車両前方近傍に設けられ、車両前面衝突時に前記パワーユニットの車両前方への慣性移動によって前記ドライブシャフトが当たり、前記パワーユニットの慣性力を前記サブフレームに伝達する慣性力伝達手段と、前記サブフレームにおける前記慣性力伝達手段と前記軸圧縮変形部との間に形成され、前記フロントサイドメンバの前記軸圧縮変形部の後方側に続く前方部における軸圧縮強度よりも強い軸圧縮強度を備えた補強部と、を有することを特徴とする。
【0006】
車両前面衝突時には、先ず、フロントサイドメンバの前方に設けられた軸圧縮変形部とサブフレームの車両前方に設けられた軸圧縮変形部とが潰れながら反力を出して車両を減速していく。この時、サブフレームは、当初、フロントサイドメンバと同様に潰れていくが、慣性力伝達手段と軸圧縮変形部との間に形成された補強部が、フロントサイドメンバの軸圧縮変形部の後方側に続く前方部における軸圧縮強度よりも強い軸圧縮強度を備え、潰れ難いため、地上(路面)に対して停止した状態になる。一方、フロントサイドメンバにマウント部材を介して支持されたパワーユニットはフロントサイドメンバの前方部の潰れによって、車両前方へ慣性移動する。このため、ドライブシャフトがサブフレームにおけるドライブシャフトの車両前方近傍に設けられた慣性力伝達手段に当たる。この結果、車両前面衝突時の初期にサブフレーム、ドライブシャフト、パワーユニットまで繋がった荷重伝達経路が形成され、パワーユニットに作用する車両前方への慣性力がサブフレームの前端に伝達される。このため、サブフレームの前端が衝突体に当たった際に、パワーユニットに作用する車両前方への慣性力がサブフレームの前端に伝達されない場合に比べて、サブフレームの前端に大きな反力が発生し、この反力によって車両が迅速に減速する。
【0007】
請求項2記載の本発明は、請求項1記載の車体前部構造において、補強部はフロントサスペンションのロアアーム取付部であることを特徴とする。
【0008】
サブフレームにおけるフロントサスペンションのロアアーム取付部を、車両前面衝突時に軸圧縮変形部に比べて軸圧縮変形し難い補強部として利用できる。このため、サブフレームにおける慣性力伝達手段と軸圧縮変形部との間を別部材で補強する必要がない。
【0009】
請求項3記載の本発明は、請求項1または請求項2に記載の車体前部構造において、前記慣性力伝達手段は前記サブフレームに設けられ、前記サブフレームを前記フロントサイドメンバに連結するための連結部であることを特徴とする。
【0010】
サブフレームに設けられサブフレームをフロントサイドメンバに連結するための連結部を慣性力伝達手段として利用できる。このため、サブフレームに慣性力伝達手段を別部材で設ける必要がない。
【0011】
請求項4記載の本発明は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車体前部構造において、前記パワーユニットの車両後方近傍に配置され車両前面衝突時に前記パワーユニットに当たるステアリングギヤボックスと、前記フロントサイドメンバの後部に設けられ、前記ステアリングギヤボックスが取付けられたキャビン部材と、を有することを特徴とする。
【0012】
車両前面衝突時に、フロントサイドメンバの後部に設けられたキャビン部材に取付けられ、パワーユニットの車両後方近傍に配置されているステアリングギヤボックスがパワーユニットに当たる。この結果、車両前面衝突初期にサブフレーム、ドライブシャフト、パワーユニット、ステアリングギヤボックス、キャビン部材まで繋がった荷重伝達経路が形成され、車両前面衝突時初期からキャビン部材に作用する車両前方への慣性力もサブフレームの前端に伝達される。このため、サブフレームの前端が衝突体に当たった際に、サブフレームの前端に更に大きな反力が発生し、車両が更に迅速に減速する。
【0013】
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の車体前部構造において、前記サブフレームの後端部は前記フロントサイドメンバの後部に結合され、この結合部に車両前面衝突時に所定荷重で前記結合を解除する結合解除手段を有することを特徴とする。
【0014】
サブフレームの後端部とフロントサイドメンバの後部との結合部が、結合解除手段によって車両前面衝突時の所定荷重で解除される。この結果、車両前面衝突時に、サブフレームの軸力によってフロントサイドメンバの後部の車両前方への移動が妨げられることがなくなる。このため、フロントサイドメンバの後部に設けられたキャビン部材に取付けられたステアリングギヤボックスの車両前方への移動が妨げられることがなく、ステアリングギヤボックスがパワーユニットに迅速に当たる。
【0015】
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の車体前部構造において、前記サブフレームの車両前後方向中間部に、車両前面衝突時に所定荷重で変形し、前記サブフレームの前後長を短くする脆弱部を有することを特徴とする。
【0016】
車両前面衝突時の所定荷重で、サブフレームの車両前後方向中間部の脆弱部が変形し、サブフレームの前後長が短くなる。この結果、車両前面衝突時に、サブフレームの軸力によってフロントサイドメンバの後部の車両前方への移動が妨げられることがなくなる。このため、フロントサイドメンバの後部に設けられたキャビン部材に取付けられたステアリングギヤボックスの車両前方への移動が妨げられることがなく、ステアリングギヤボックスがパワーユニットに迅速に当たる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の本発明の車体前部構造は車両前面衝突時初期にパワーユニットに作用する車両前方への慣性力をサブフレームに伝達し車両を迅速に減速できる。
【0018】
請求項2記載の本発明の車体前部構造はサブフレームに軸圧縮変形し難い補強部を容易に設けることができる。
【0019】
請求項3記載の本発明の車体前部構造はサブフレームに慣性力伝達手段を容易に設けることができる。
【0020】
請求項4記載の本発明の車体前部構造は車両を更に迅速に減速できる。
【0021】
請求項5記載の本発明の車体前部構造は車両前面衝突時にステアリングギヤボックスをパワーユニットに迅速に当てることができる。
【0022】
請求項6記載の本発明の車体前部構造は車両前面衝突時にステアリングギヤボックスをパワーユニットに迅速に当てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の一実施形態に係る車体前部構造について、図1〜図5に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UPは、それぞれ本発明が適用された自動車の車体前方向及び車体上方向を示している。
【0024】
図4には本実施形態における自動車の車体前部の平面図が示されており、図5には本実施形態の車体前部の左側斜め前方から見た斜視図が示されている。図4及び図5に示される如く、本実施形態における自動車の車体前部では、エンジンルーム10の車幅方向両側部に左右一対のフロントサイドメンバ12の前部12Aが、それぞれ長手方向を車両前後方向に沿って配置されている。また、フロントサイドメンバ12の前部12Aは車両前後方向に延びる閉断面構造となっている。
【0025】
なお、閉断面構造とは、対象とする断面の開口外周部が実質的に連続して高強度及び高剛性になっている断面構造であって、実質的にとは、対象とする断面が外周長に比べて小さな孔等が部分的に形成されていても、断面の直角方向の手前側または奥側では孔等が無く、開口部周囲の部材が連続している構成も含むことを意味する。
【0026】
図1には本実施形態の車体前部の概略側面図が示されている。図1に示される如く、フロントサイドメンバ12における前部12Aの車両後部側には、車両前方上側から車両後方下側に向って傾斜した傾斜部12Bが形成されており、前部12Aの後端と繋がる傾斜部12Bの上端部(前端部)が屈曲部12Cとなっている。なお、図示を省略したが、フロントサイドメンバ12の傾斜部12Bの長手方向(車両前後方向)から見た断面形状は、開口部を車両上方へ向けたハット断面形状となっており、開口端部に形成された左右のフランジが、キャビン部材としてのダッシュパネル14の傾斜部14Aにおける下面に溶接等によって結合されている。従って、フロントサイドメンバ12の傾斜部12Bはダッシュパネル14の傾斜部14Aとで閉断面構造を形成している。
【0027】
なお、キャビン部材とは車体の車室部分を構成するダッシュパネル、ダッシュクロスメンバ、ピラー等の部材である。
【0028】
ダッシュパネル14の傾斜部14Aの後端(下端)14Bからは、車両後方へ向かって平面部14Cが形成されている。また、フロントサイドメンバ12における傾斜部12Bの後端(下端)12Dからは後部12Eが車両後方へ向って延びている。なお、図示を省略したが、フロントサイドメンバ12の後部12Eの長手方向(車両前後方向)から見た断面形状は、開口部を車両上方へ向けたハット断面形状となっており、開口端部に形成された左右のフランジが、ダッシュパネル14の平面部14Cにおける下面に溶接等によって結合されている。従って、フロントサイドメンバ12の後部12Eはダッシュパネル14の平面部14Cとで閉断面構造を形成している。
【0029】
フロントサイドメンバ12の前部12Aにおける前端部には軸圧縮変形部16が設けられている。軸圧縮変形部16はフロントサイドメンバ12における他の部位に比べて、軸線方向となる車両前後方向へ軸圧縮変形し易いクラッシュボックスとなっている。即ち、軸圧縮変形部16には車両前後方向(軸方向)に沿って所定の間隔で、脆弱部が形成されており、車両前後方向に所定値以上の荷重が作用した場合に、前記脆弱部を起点として蛇腹状に軸圧縮変形するようになっている。
【0030】
従って、図2に示される如く、車体前部18が壁等の衝突体Kに前面衝突した場合には、軸圧縮変形部16がフロントサイドメンバ12における他の部位より先に軸圧縮変形するようになっている。なお、軸圧縮変形部16が軸圧縮変形した後、フロントサイドメンバ12の前部12Aが車両前方側から車両後方側ヘ向って順次軸圧縮変形するようになっている。
【0031】
図4に示される如く、左右のフロントサイドメンバ12の車幅方向内側下方には、左右一対のサブフレーム20が長手方向を車両前後方向に沿って配置されている。なお、サブフレーム20は車両前後方向に延びる閉断面構造なっている。
【0032】
図1に示される如く、サブフレーム20はフロントサイドメンバ12の下方に所定の間隔を開けて配置されており、サブフレーム20の前端部には軸圧縮変形部22が設けらている。軸圧縮変形部22はサブフレーム20における他の部位に比べて、軸線方向となる車両前後方向へ軸圧縮変形し易いクラッシュボックスとなっている。即ち、軸圧縮変形部22には車両前後方向(軸方向)に沿って所定の間隔で、脆弱部が形成されており、軸圧縮変形部22は車両前後方向に所定値以上の荷重が作用した場合に、前記脆弱部を起点として蛇腹状に軸圧縮変形するようになっている。
【0033】
従って、図2に示される如く、車体前部18が衝突体Kに前面衝突した場合には、軸圧縮変形部22がサブフレーム20における他の部位より先に軸圧縮変形するようになっている。
【0034】
図1に示される如く、フロントサイドメンバ12における軸圧縮変形部16の前端16Aの車両前後方向位置と、サブフレーム20における軸圧縮変形部22の前端22Aの車両前後方向位置とは同じか略同じ位置になっている。なお、図4に二点鎖線で示される如く、左右のフロントサイドメンバ12における軸圧縮変形部16の前端16Aと、左右のサブフレーム20における軸圧縮変形部22の前端22Aにはそれぞれ、長手方向を車幅方向に沿って配置されてたフロントバンパリインホースメント18の車幅方向両端部近傍18Aが取付けられている。
【0035】
図5に示される如く、サブフレーム20における軸圧縮変形部22の車両後方側は、フロントサスペンションのロアアーム21を取付けるためのロアアーム取付部20Aとなっている。また、サブフレーム20のロアアーム取付部20Aには、フロントサスペンションのロアアーム21を取付けるブラケット等(図示省略)が設けている。
【0036】
このため、サブフレーム20のロアアーム取付部20Aは補強部となっており、フロントサイドメンバ12の軸圧縮変形部16の後方側に続く前方部12Hの軸圧縮強度よりも強い軸圧縮強度を備えている。なお、フロントサイドメンバ12の軸圧縮変形部16の後方側に続く前方部12Hとは、フロントサイドメンバ12の前部12Aにおける軸圧縮変形部16と後述するフロントマウント部26との間の部位である。従って、サブフレーム20のロアアーム取付部20Aは、フロントサイドメンバ12の前方部12Hに比べて車両前面衝突時に軸圧縮変形し(車両前後方向に潰れ)難く、車両前面衝突時の初期には潰れないようになっている。
【0037】
図1に示される如く、サブフレーム20におけるロアアーム取付部20Aの後端からは、車両前方上側から車両後方下側に向って傾斜した傾斜部20Bが形成されている。サブフレーム20の傾斜部20Bにおける前後方向中間部の上面には、サブフレーム20をフロントサイドメンバ12に連結するための連結部であるとともに慣性力伝達手段としてのフロントマウント部24が設けられており、フロントマウント部24はフロントサイドメンバ12の前部12A(車両上方)に向かって立設されている。また、フロントサイドメンバ12の前部12Aにおける車両前後方向中間部の下面には、フロントマウント部26がフロントマウント部24に向かって立設されている。
【0038】
図5に示される如く、サブフレーム20のフロントマウント部24は車両上方へ向かって細くなる角錐形状になっており、フロントサイドメンバ12のフロントマウント部26は車両下方へ向かって細くなる角錐形状になっている。
【0039】
図1に示される如く、サブフレーム20のフロントマウント部24の上壁部24Aは、フロントサイドメンバ12のフロントマウント部26の下壁部26Aに図示を省略した締結部材等によって結合されている。また、サブフレーム20における傾斜部20Bの後端(下端)からは後部20Cが車両後方へ向って延びている。
【0040】
図4に示される如く、フロントサイドメンバ12の傾斜部12Bにおける後端12Dからは、車幅方向内側後方に向かって分岐部12Fが形成されており、分岐部12Fの根元部が、サブフレーム取付部12Gとなっている。また、フロントサイドメンバ12のサブフレーム取付部12Gの下部には、サブフレーム20の後端部に設けられたリヤマウント部20Dが結合解除手段としてのボルト等の締結部材30を介して結合されている。
【0041】
図3に示される如く、車両前面衝突時に、フロントサイドメンバ12とサブフレーム20との相対移動、具体的には、フロントサイドメンバ12の潰れ量がサブフレーム20の潰れ量より大きくなり、フロントサイドメンバ12のサブフレーム取付部12Gが、サブフレーム20のリヤマウント部20Dに対して車両前方へ移動しようとすると、締結部材30に車両前後方向へ荷重が作用する。このとき、荷重が所定値に達すると、締結部材30の破断や締結部材30のサブフレーム取付部12Gからの外れ等が発生し、サブフレーム20のリヤマウント部20Dとフロントサイドメンバ12のサブフレーム取付部12Gとの結合が解除されるようになっている。
【0042】
図5に示される如く、エンジンルーム10内にはパワーユニット40が設けられており、パワーユニット40はエンジン42やミッション44等で構成されている。
【0043】
図4に示される如く、パワーユニット40は左右のフロントサイドメンバ12の前部12Aにおける車両前後方向中間部にゴムダンパを備えたマウント部材としてのエンジンマウント48を介して支持されている。また、パワーユニット40のミッション44からは車幅方向外側となる左右両側へ向ってドライブシャフト50が延びている。
【0044】
図1に示される如く、ドライブシャフト50の車両前方近傍には、サブフレーム20のフロントマウント部24が設けられている。即ち、ドライブシャフト50とフロントマウント部24との間隔L1は、通常のパワーユニット作動状態及び車両走行状態では、ドライブシャフト50とフロントマウント部24とが干渉せず、車両前面衝突時にはドライブシャフト50がフロントマウント部24に対して車両前方へ僅かに移動した際に、ドライブシャフト50とフロントマウント部24とが当たる寸法に設定されている。従って、図2に示される如く、車体前部18が壁等の衝突体Kに前面衝突した場合には、先ず、フロントサイドメンバ12とサブフレーム20とが軸圧縮変形部16、軸圧縮変形部22が形成された前方側から潰れながら反力を出して車両を減速していく。この時、サブフレーム20は、当初、フロントサイドメンバ12と同様に潰れていくが、ロアアーム取付部20Aが、フロントサイドメンバ12の軸圧縮変形部16に続く前方部12Hより潰れ難いため、軸圧縮変形部22が潰れ切ると地上(路面)に対して停止した状態になる。一方、パワーユニット40はフロントサイドメンバ12の前部12Aの潰れによって、車両前方へ慣性移動する。このため、パワーユニット40から延びるドライブシャフト50がサブフレーム20のフロントマウント部24の車両後方側に当たるようになっている。
【0045】
従って、車両前面衝突時の初期に、サブフレーム20の軸圧縮変形部22、ロアアーム取付部20A、フロントマウント部24、ドライブシャフト50、パワーユニット40まで繋がった荷重伝達経路が形成され、パワーユニット40に作用する車両前方への慣性力(図2の矢印F1)がサブフレーム20の前端に伝達されるようになっている。このため、サブフレーム20の前端が衝突体Kに当たった際に、パワーユニット40に作用する車両前方への慣性力F1がサブフレーム20の前端に伝達されない場合に比べて、サブフレーム20の前端に大きな反力が発生し、車両が迅速に減速するようになっている。
【0046】
また、パワーユニット40が連結された左右のタイヤ52に作用する車両前方への慣性力もサブフレーム20の前端に伝達され、サブフレーム20の前端に大きな反力が発生し、車両が迅速に減速するようになっている。
【0047】
なお、車両前面衝突時にサブフレーム20の前端において同じ大きさの反力を発生させる場合には、フロントサイドメンバ12又はサブフレーム20の強度(耐力)を下げることができる。即ち、フロントサイドメンバ12又はサブフレーム20の強度(耐力)を上げることで、パワーユニット40に作用する車両前方への慣性力をフロントサイドメンバ12の前端又はサブフレーム20の前端に迅速に伝達する必要がなくなる。このため、フロントサイドメンバ12又はサブフレーム20の板厚を薄くする等によって車両の軽量化が計れるようになっている。
【0048】
図5に示される如く、パワーユニット40のエンジン42の車両後方近傍には、ステアリングギヤボックス60が長手方向を車幅方向に沿って配置されている。
【0049】
図4に示される如く、ステアリングギヤボックス60の車幅方向略中央部からは車幅方向外側に向かってタイロッド62が延びている。
【0050】
図1に示される如く、フロントサイドメンバ12より車両上方側となるキャビン部材としてのダッシュパネル14の縦壁部14Dの上部(高い位置)にはステアリングギヤボックス取付部14Eが形成されている。ステアリングギヤボックス取付部14Eは長手方向を車幅方向に沿って配置され、車両後方へ凸の凹部とされており、ステアリングギヤボックス60は、ステアリングギヤボックス取付部14Eの内部に取付けられている。なお、ステアリングギヤボックス60はキャビン部材としてのダッシュクロスメンバ等(図示省略)に取付けても良い。
【0051】
ステアリングギヤボックス60の車両前側部60Aとパワーユニット40のエンジン42とは接近している。即ち、ステアリングギヤボックス60の車両前側部60Aとパワーユニット40のエンジン42との間隔L2は、通常のパワーユニット作動状態及び車両走行状態では、ステアリングギヤボックス60の車両前側部60Aとエンジン42とが干渉せず、車両前面衝突時にステアリングギヤボックス60がエンジン42に対して車両前方側へ僅かに移動した際に、ステアリングギヤボックス60の車両前側部60Aとエンジン42とが当たる寸法に設定されている。
【0052】
従って、図3に示される如く、車両前面衝突時に、サブフレーム20のリヤマウント部20Dとフロントサイドメンバ12のサブフレーム取付部12Gとの結合が解除されると、サブフレーム20に対して、ダッシュパネル14とともにステアリングギヤボックス60が車両前方へ移動し、ステアリングギヤボックス60の車両前側部60Aとエンジン42とが当たるようになっている。このため、車両前面衝突初期に、サブフレーム20の軸圧縮変形部22、ロアアーム取付部20A、フロントマウント部24、ドライブシャフト50、パワーユニット40、ステアリングギヤボックス60、ダッシュパネル14(車室前部)まで繋がった荷重伝達経路が形成され、車室前部に作用する車両前方への慣性力(図3の矢印F2)がサブフレーム20の前端に伝達されるようになっている。
【0053】
この結果、サブフレーム20の前端が衝突体Kに当たった際に、車室前部に作用する車両前方への慣性力がサブフレーム20の前端に伝達されない場合に比べて、サブフレーム20の前端に更に大きな反力が発生し、車両が更に迅速に減速するようになっている。
【0054】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0055】
図4に示される如く、本実施形態では、左右のフロントサイドメンバ12の前部12Aの前後方向中間部にエンジンマウント48を介して支持されているパワーユニット40から車幅方向外側へ向って延びているドライブシャフト50の車両前方近傍に、サブフレーム20のフロントマウント部24が設けられている。
【0056】
この結果、図2に示される如く、車体前部18が壁等の衝突体Kに前面衝突した場合には、先ず、フロントサイドメンバ12とサブフレーム20とが軸圧縮変形部16、軸圧縮変形部22が形成された前方側から順次潰れながら反力を出して車両を減速していく。この時、サブフレーム20は、当初、フロントサイドメンバ12と同様に潰れていくが、ロアアーム取付部20Aが、フロントサイドメンバ12の軸圧縮変形部16に続く前方部12Hより潰れ難いため、軸圧縮変形部22が潰れ切ると地上(路面)に対して停止した状態になる。一方、パワーユニット40はフロントサイドメンバ12の前部12Aの潰れによって、車両前方へ慣性移動する。このため、パワーユニット40から延びるドライブシャフト50がサブフレーム20のフロントマウント部24の車両後方側に当たる。
【0057】
このため、車両前面衝突時の初期に、サブフレーム20の軸圧縮変形部22、ロアアーム取付部20A、フロントマウント部24、ドライブシャフト50、パワーユニット40まで繋がった荷重伝達経路が形成され、パワーユニット40に作用する車両前方への慣性力(図2の矢印F1)がサブフレーム20の前端に伝達される。
【0058】
従って、車両前面衝突時に、パワーユニット40に作用する車両前方への慣性力F1がサブフレーム20に伝達されない場合に比べて、本実施形態では、サブフレーム20の前端が衝突体Kに当たった際に、サブフレーム20の前端に大きな反力が発生する。このため、この反力によって車両が迅速に減速する。
【0059】
また、パワーユニット40が連結された左右のタイヤ52に作用する車両前方への慣性力もサブフレーム20の前端に伝達されるため、サブフレーム20の前端に更に大きな反力が発生し、車両が更に迅速に減速する。
【0060】
この結果、乗員に前突による大きな負の加速後(衝撃)が作用する前に、車両を十分に減速することができるため、乗員が受ける衝撃を低減できる。
【0061】
なお、車両前面衝突時にサブフレーム20の前端において同じ大きさの反力を発生させる場合には、フロントサイドメンバ12又はサブフレーム20の強度(耐力)を下げることができる。即ち、フロントサイドメンバ12又はサブフレーム20の強度(耐力)を上げることで、パワーユニット40に作用する車両前方への慣性力をフロントサイドメンバ12の前端又はサブフレーム20の前端に迅速に伝達する必要がなくなる。このため、フロントサイドメンバ12又はサブフレーム20の板厚を薄くする等によって車両の軽量化が計れる。
【0062】
また、本実施形態では、サブフレーム20におけるフロントサスペンションのロアアーム取付部20Aを利用して、サブフレーム20におけるフロントマウント部24の車両前方側にサブフレーム20の軸圧縮変形部22に比べて車両前面衝突時に軸圧縮変形し難い補強部を設けた。このため、別部材で補強部を形成する必要がなく、サブフレーム20に補強部を容易に設けることができる。
【0063】
また、本実施形態では、サブフレーム20のフロントマウント部24を利用して、ドライブシャフト50からサブフレーム20に慣性力を伝達する慣性力伝達手段を構成した。このため、慣性力伝達手段を別部材で設ける必要が無く、慣性力伝達手段を容易に設けることができる。
【0064】
また、本実施形態では、図1に示される如く、ステアリングギヤボックス60の車両前側部60Aとパワーユニット40のエンジン42とが接近している。更に、図3に示される如く、車両前面衝突時に、締結部材30に作用する荷重が所定値に達すると、締結部材30の破断や締結部材30のサブフレーム取付部12Gからの外れ等が発生して、サブフレーム20のリヤマウント部20Dとフロントサイドメンバ12のサブフレーム取付部12Gとの結合が解除される。
【0065】
従って、サブフレーム20の軸力によって、サブフレーム20のリヤマウント部20Dの車両前方への移動が妨げられることがない。この結果、フロントサイドメンバ12に結合されたダッシュパネル14のステアリングギヤボックス取付部14Eに設けたステアリングギヤボックス60の車両前方への移動が妨げられることがない。このため、ステアリングギヤボックス60の車両前側部60Aがパワーユニット40のエンジン42に迅速に当たる。
【0066】
よって、本実施形態では、車両前面衝突初期に、サブフレーム20の軸圧縮変形部22、ロアアーム取付部20A、フロントマウント部24、ドライブシャフト50、パワーユニット40、ステアリングギヤボックス60、ダッシュパネル14(車室前部)まで繋がった荷重伝達経路が形成され、車室前部に作用する車両前方への慣性力(図3の矢印F2)がサブフレーム20の前端に伝達される。
【0067】
このため、サブフレーム20の前端が衝突体Kに当たった際に、車室前部に作用する車両前方への慣性力がサブフレーム20に伝達されない場合に比べて、サブフレーム20の前端に更に大きな反力が発生し、車両が更に迅速に減速する。この結果、乗員に衝突による大きな負の加速後が作用する前に、車両を十分に減速することができるため乗員が受ける衝撃を更に低減できる。
【0068】
以上に於いては、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記実施形態では、車両前面衝突時に、締結部材30に作用する荷重が所定値に達すると、締結部材30の破断や締結部材30のサブフレーム取付部12Gからの外れ等が発生して、サブフレーム20のリヤマウント部20Dとフロントサイドメンバ12のサブフレーム取付部12Gとの結合が解除される構成にしたが、これに代えて、図3に二点鎖線で示すように、サブフレーム20の後部20Cの車両前後方向中間部に脆弱部76を設け、車両前面衝突時の所定荷重で脆弱部76を起点にサブフレーム20が車両下方側に向ってV字状に折り曲がり、サブフレーム20の前後長が短くなることでステアリングギヤボックス60の車両前側部60Aがパワーユニット40のエンジン42に迅速に当たる構成としても良い。
【0069】
また、上記実施形態では、車両前面衝突時に慣性力伝達手段としてのフロントマウント部24にドライブシャフト50が当たる構成としたが、これに代えて、サブフレーム20におけるフロントマウント部24と異なる部位に凸部等の他の慣性力伝達手段を突出形成した構成としても良い。
【0070】
また、上記実施形態では、サブフレーム20のロアアーム取付部20Aを補強部としたが、ロアアーム取付部20Aをサブフレーム20の他の部位に設け、サブフレーム20における軸圧縮変形部22の車両後方側を補強材によって補強し、補強部とした構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態に係る車体前部構造が適用された車体前部の要部を示す概略側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車体前部構造が適用された車体前部の車両前面衝突初期状態を示す概略側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車体前部構造が適用された車体前部の車両前面衝突後期状態を示す概略側面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る車体前部構造が適用された車体前部の要部を示す概略平面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る車体前部構造が適用された車体前部の要部を示す車両斜め前方から見た斜視図である。
【符号の説明】
【0072】
10 エンジンルーム
12 フロントサイドメンバ
12A フロントサイドメンバの前部
12G フロントサイドメンバのサブフレーム取付部
12H フロントサイドメンバの軸圧縮変形部に続く前方部
14 ダッシュパネル(キャビン部材)
16 フロントサイドメンバの軸圧縮変形部
20 サブフレーム
20A サブフレームのロアアーム取付部(補強部)
20D サブフレームのリヤマウント部
22 サブフレームの軸圧縮変形部
24 サブフレームのフロントマウント部(慣性力伝達手段、連結部)
26 フロントサイドメンバのフロントマウント部
30 締結部材(結合解除手段)
40 パワーユニット
42 エンジン
44 ミッション
48 エンジンマウント(マウント部材)
50 ドライブシャフト
60 ステアリングギヤボックス
76 脆弱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部の両側部に長手方向を車両前後方向に沿って配置され、前方に軸圧縮変形部が設けられたフロントサイドメンバと、
前記フロントサイドメンバの下方に長手方向を車両前後方向に沿って配置され、前方に軸圧縮変形部が設けられたサブフレームと、
前記フロントサイドメンバにマウント部材を介して支持されたパワーユニットと、
前記パワーユニットから車幅方向外側へ延びるドライブシャフトと、
前記サブフレームにおける前記ドライブシャフトの車両前方近傍に設けられ、車両前面衝突時に前記パワーユニットの車両前方への慣性移動によって前記ドライブシャフトが当たり、前記パワーユニットの慣性力を前記サブフレームに伝達する慣性力伝達手段と、
前記サブフレームにおける前記慣性力伝達手段と前記軸圧縮変形部との間に形成され、前記フロントサイドメンバの前記軸圧縮変形部の後方側に続く前方部における軸圧縮強度よりも強い軸圧縮強度を備えた補強部と、
を有することを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記補強部はフロントサスペンションのロアアーム取付部であることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記慣性力伝達手段は前記サブフレームに設けられ、前記サブフレームを前記フロントサイドメンバに連結するための連結部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記パワーユニットの車両後方近傍に配置され車両前面衝突時に前記パワーユニットに当たるステアリングギヤボックスと、
前記フロントサイドメンバの後部に設けられ、前記ステアリングギヤボックスが取付けられたキャビン部材と、
を有することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記サブフレームの後端部は前記フロントサイドメンバの後部に結合され、この結合部に車両前面衝突時に所定荷重で前記結合を解除する結合解除手段を有することを特徴とする請求項4に記載の車体前部構造。
【請求項6】
前記サブフレームの車両前後方向中間部に、車両前面衝突時に所定荷重で変形し、前記サブフレームの前後長を短くする脆弱部を有することを特徴とする請求項4に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−216901(P2007−216901A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41950(P2006−41950)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】