説明

車体前部構造

【課題】フロントサブフレームに載置したステアリングギヤボックスを介する荷重を吸収し、車室内方へのダッシュボードロアの変形を抑制する車体前部構造を提供する。
【解決手段】車体前部構造11は車室22の床をなすアンダボデー23に前方へ連なるフロントサイドフレーム51,52の傾斜後部122が接続され、傾斜後部122に井桁状のフロントサブフレーム15の後部(左後端)66、右後端(後部)71が締結され、後部近傍(ギヤボックス取付け部)77に操舵装置25の長尺なステアリングギヤボックス38が取付けられている。ステアリングギヤボックス38へ向いている傾斜後部122の前壁部126に、車両前面衝突によってステアリングギヤボックスが後方へ変位して押すと、変形して衝撃を吸収する衝撃吸収部材16を配置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前面衝突の際に、操舵装置の長尺なステアリングギヤボックスの後方変位による衝撃を吸収する車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体前部構造では、操舵装置の長いステアリングギヤボックスの保持強度を高めるために、長い補強部材を取付けているものがある。補強部材(ダッシュクロスメンバ)は、ステアリングギヤボックス配設構造に採用され、左右の車輪近傍に位置する左右のフロントサイドメンバの後部やエンジンルームとの隔壁をなすダッシュパネルに取付けられて、ステアリングギヤボックスを支持しているので、ステアリングギヤボックスの保持強度を高めることができる。また、前面衝突のとき、荷重をフロントサイドメンバからステアリングギヤボックスを介して補強部材(ダッシュクロスメンバ)やダッシュパネルに分散させることができるというものである(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−192940公報(第11頁、図1)
【0003】
しかし、特許文献1のステアリングギヤボックス配設構造では、ステアリングギヤボックスが左右のフロントサイドメンバの上部後端に配置される構造に限定されるため、フロントサイドフレームを用いた車両で、フロントサイドフレームにステアリングギヤボックスを配置した構造には採用できないという問題がある。
また、補強部材(ダッシュクロスメンバ)は、車両の前面から加わる荷重に対して弱く、支持しているステアリングギヤボックスを介しても荷重の吸収は小さいという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、フロントサブフレームにステアリングギヤボックスを配置しても、ステアリングギヤボックスを介する荷重を吸収し、車室内方へのダッシュボードロアの変形を抑制し、フロントサブフレームが乖離する構造であっても、ステアリングギヤボックスを介する荷重を吸収する車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、車室の床をなすアンダボデーに前方へ連なるフロントサイドフレームの傾斜後部が接続され、傾斜後部に井桁状のフロントサブフレームの後部が締結され、後部近傍に操舵装置の長尺なステアリングギヤボックスが取付けられている車体前部構造において、ステアリングギヤボックスへ向いている傾斜後部の前壁部に、車両前面衝突によってステアリングギヤボックスが後方へ変位して押すと、変形して衝撃を吸収する衝撃吸収部材を配置していることを特徴とする。
【0006】
請求項2に係る発明では、衝撃吸収部材は、衝撃でフロントサブフレームが乖離する構造の場合、乖離しない構造の場合より、下方に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明では、ステアリングギヤボックスへ向いているフロントサイドフレームの傾斜後部の前壁部に、車両前面衝突によってステアリングギヤボックスが後方へ変位して押すと、変形して衝撃を吸収する衝撃吸収部材を配置しているので、車両前面衝突のときに、ステアリングギヤボックスを載せた井桁状のフロントサブフレームとともに後退しても、衝撃吸収部材によってステアリングギヤボックスから加わる荷重を吸収することができる。従って、フロントサブフレームにステアリングギヤボックスを配置しても、ステアリングギヤボックスを介する前面衝突の荷重を吸収することができるという利点がある。
【0008】
また、衝撃吸収部材は、ステアリングギヤボックスの後退を抑制するので、結果的に、車室内方へのダッシュボードロアの変形を抑制することができる。
【0009】
請求項2に係る発明では、衝撃吸収部材は、衝撃でフロントサブフレームが乖離する構造の場合、乖離しない構造の場合より、下方に配置されているので、衝撃でフロントサブフレームが下方に乖離して後退しても、フロントサブフレームに載せたステアリングギヤボックスは衝撃吸収部材に当接する。従って、フロントサブフレームが乖離する構造であっても、ステアリングギヤボックスを介する前面衝突の荷重を吸収することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は、本発明の車体前部構造の概要を説明する平面図である。
【0011】
車体前部構造11は、車両12のエンジン13や前サスペンション14を支持している井桁状のサブフレーム(フロントサブフレーム)15が取付けられ、衝撃吸収部材16を有している。具体的には後述する。
【0012】
車両12は、車体17を有し、車体17はエンジン13や前サスペンション14が取付けられているフロントボデー21と、車室22の床をなすアンダボデー23と、前サスペンション14に支持している車輪24を操舵する操舵装置25と、を備える。
【0013】
前サスペンション14は、スプリング31、アッパアーム32、ロアアーム(図に示していない)と、アッパアーム32及びロアアームに上・下がそれぞれ取付けられているナックル33と、を備える。
【0014】
操舵装置25は、電動パワーステアリングで、ステアリングホイール35と、ステアリングシャフト36と、電動モータ37と、ステアリングギヤボックス38と、タイロッド41と、タイロッド41を前サスペンション14のナックル33に連結しているタイロッドエンド42と、操舵角など操舵状態を検出する操舵検出部(図に示していない)と、を備える。
【0015】
アンダボデー23は、左右のフロアフレーム44、左右のサイドシル45と、フロントボデー21のエンジンルーム46との隔壁をなすダッシュボードロア47と、を備える。
【0016】
図2は、本発明の車体前部構造の斜視図であり、下から見上げた状態である。図1を併用して説明する。
【0017】
フロントボデー21は、左右の車輪24の近傍に位置する左のフロントサイドフレーム51、右のフロントサイドフレーム52と、左のフロントサイドフレーム51、右のフロントサイドフレーム52の下部に、下方から矢印a1のように上昇させて締結部材53で締結したサブフレーム15を備える。
【0018】
サブフレーム15は、前に配置する前ビーム部材56、前ビーム部材56に連なる左ビーム部材57、右ビーム部材58と、左ビーム部材57及び右ビーム部材58に連なる後ビーム部材61とで井桁状とし、前ビーム部材56の一端に左前取付け部63、他端に右前取付け部64を形成してそれぞれ左のフロントサイドフレーム51、右のフロントサイドフレーム52の前締結部65に締結部材53で取付けられ、左ビーム部材57の左後端(後部)66に左後取付け部67を形成し、右ビーム部材58の右後端(後部)71に右後取付け部72を形成してそれぞれ左のフロントサイドフレーム51、右のフロントサイドフレーム52の後締結部73に締結部材53で取付けられている。
【0019】
後締結部73は、左のフロントサイドフレーム51、右のフロントサイドフレーム52の後部に設けているが、設けた部位がアンダボデー23やアンダボデー23の左右のフロアフレーム44との境界近傍でもあり、左右のフロアフレーム44の前部に設けたとも言える。
【0020】
前ビーム部材56の中央には、エンジン13を載せている前エンジンマウント部材75が配置され、後ビーム部材61の中央には、エンジン13を載せている後エンジンマウント部材76が配置され、後ビーム部材61に操舵装置25のステアリングギヤボックス38を取付けるギヤボックス取付け部77が形成され、左ビーム部材57、右ビーム部材58にそれぞれ前サスペンション14を連結するロアアーム連結部81が形成されている。前サスペンション14のスプリング31はそれぞれ左のフロントサイドフレーム51、右のフロントサイドフレーム52のダンパハウジング(図に示していない)に接続している。
【0021】
フロントサイドフレーム51は、角管状のサイドフレーム本体121を形成して車両12の前後方向(Y軸方向)に延ばして略水平に配置し、サイドフレーム本体121の後端に傾斜後部であるところのサイドフレームリヤエンド122が溶接で接合され、且つ、アンダボデー23のダッシュボードロア47やフロアフレーム44に接合している。
【0022】
図3は、車体前部構造の傾斜後部(サイドフレームリヤエンド)の斜視図である。図2を併用して説明する。
サイドフレームリヤエンド(傾斜後部)122は、溝状で、後方下方へ傾斜させた傾斜部124を成形し、傾斜部124に連ねて接合代部125を形成している。そして、傾斜部124の前壁部126の中央に衝撃吸収部材16が溶接で取付けられている。
右のフロントサイドフレーム52は、左のフロントサイドフレーム51とほぼ同様である。
【0023】
車体前部構造11は、ステアリングギヤボックス38へ向いている傾斜後部(サイドフレームリヤエンド)122の前壁部126に、車両12の前面105に加わる衝突によってステアリングギヤボックス38が後方(矢印a2の方向)へ変位して押すと、変形して衝撃を吸収する衝撃吸収部材16を配置している。
【0024】
図4(a)、(b)は、本発明の車体前部構造が備える衝撃吸収部材の説明図であり、(a)はフロントサイドフレーム51、52の傾斜後部122に取付けられている衝撃吸収部材16の正面図、(b)は衝撃吸収部材16の斜視図である。図2を併用して説明する。
【0025】
衝撃吸収部材16は、箱状で、サイドフレームリヤエンド(傾斜後部)122に接合している外壁部131と、内壁部132と、上壁部133と、下壁部134と、これらに連なる受け壁部135と、からなり、溶接(×印がスポット溶接した溶接部(ナゲット)である)で一体的に固定されている
【0026】
受け壁部135は、平坦な面で、ステアリングギヤボックス38及び/又はタイロッド41が後退したときに当接する所定の範囲で、且つ、後退位置が上下方向にばらついても受け止める所定の範囲であり、略垂直に配置されて、中央にステアリングギヤボックス38及び/又はタイロッド41が後退したときに当接する高さH1(図5(a)参照)で配置されている。
受け壁部135は、ステアリングギヤボックス38から距離E(図5参照)の位置に配置されている。距離Eは、衝撃吸収部材16の構成条件によって任意である。
【0027】
次に、本発明の車体前部構造の作用を説明する。
図5(a)、(b)は、本発明の車体前部構造の荷重を吸収する機構を乖離しないフロントサブフレームの場合で説明する図である。(a)は車両12の前面105に荷重が加わる前、(b)は荷重が加わったときを示している。図2を併用して説明する。
【0028】
(a)の車両12は、車体前部構造11の衝撃吸収部材16を有し、車両12の前面105に荷重が加わり始める。
【0029】
(b)に示すように、前面105に荷重が加わると、左のフロントサイドフレーム51、右のフロントサイドフレーム52、サブフレーム15は、変形して荷重を吸収し始めるとともに、サブフレーム15は後方へ移動(後退)する。移動(後退)に伴い、サブフレーム15の後部であるギヤボックス取付け部77に固定したステアリングギヤボックス38(タイロッド41を含む)が後退(矢印a3の方向)すると、衝撃吸収部材16の受け壁部135に当接して押すので、衝撃吸収部材16は変形することで、荷重を吸収する。従って、フロントサブフレーム15にステアリングギヤボックス38を配置しても、ステアリングギヤボックス38を介する荷重を吸収することができる。
【0030】
また、衝撃吸収部材16は、ステアリングギヤボックス38(タイロッド41を含む)の後退を抑制するので、結果的に、車室22内方(矢印a3の方向)へのダッシュボードロア47の変形を抑制することができる。
【0031】
図6は、車体前部構造の荷重吸収の機構を比較する比較図である。
横軸は時間、縦軸はステアリングギヤボックス38(タイロッド41を含む)が後退して加える荷重である。
(a)は比較例で衝撃吸収部材16のない構造、(b)は本発明の実施の形態で、図5に対応している。
【0032】
(a)の比較例の車体前部構造では、タイムT0で前面105に荷重(示していない)が加わり始め、t1秒経過後のタイムT1でステアリングギヤボックス38(タイロッド41を含む)がサイドフレームリヤエンド(傾斜後部)122に当接して、荷重F1でサイドフレームリヤエンド(傾斜後部)122やダッシュボードロア47を変形させる。経過時間t1秒は長く、その間、ステアリングギヤボックス38(タイロッド41を含む)の荷重に対する抵抗もなく、サイドフレームリヤエンド(傾斜後部)122に当たった瞬間に大きい荷重F1が発生するため、車室22内方へのサイドフレームリヤエンド(傾斜後部)122やダッシュボードロア47の変形量は大きくなる。
【0033】
(b)の本発明の実施の形態では、タイムT0で前面105に荷重(示していない)が加わり始め、t2秒経過後のタイムT2でステアリングギヤボックス38(タイロッド41を含む)が衝撃吸収部材16に当接する。衝撃吸収部材16は荷重F2で変形し、荷重を吸収する。経過時間t2は経過時間t1に比べ、短く、衝撃吸収部材16は時間t3秒間だけ、衝撃を吸収し続ける。その結果、ステアリングギヤボックス38(タイロッド41を含む)がダッシュボードロア47に達する時には、残りの荷重は小さくなり、車室22内方へのサイドフレームリヤエンド(傾斜後部)122やダッシュボードロア47の変形量を小さくすることができる。
【0034】
受け壁部135は、ステアリングギヤボックス38から距離E(図5参照)の位置に配置されているが、距離Eを小さくすることで、荷重をより吸収することができる。
【0035】
衝撃吸収部材16は、箱状に形成したが、箱形にリブや緩衝部材を設けることで、荷重をより吸収することができる。
【0036】
次に、別の実施の形態を説明する。
図7(a)、(b)は、別の実施の形態を説明する図である。(a)は側面図兼車両12の前面105に荷重が加わる前を示す図、(b)は荷重が加わったときを示している。
上記図1〜図5に示す実施の形態と同様の構成については、同一符号を付し説明を省略する。
【0037】
別の実施の形態の車体前部構造11Bは、衝撃でサブフレーム(フロントサブフレーム)15Bが乖離する構造で、衝撃吸収部材16は、乖離しない構造のサブフレーム(フロントサブフレーム)の場合より、下方に配置されていることを特徴とする。
衝撃吸収部材16の高さH2は、衝撃吸収部材16の高さH1より距離hだけ低い。
【0038】
(a)の車両12の前面105に荷重が加わり始める。
(b)に示すように、前面105に荷重が加わると、左のフロントサイドフレーム51、右のフロントサイドフレーム52、サブフレーム15Bは、変形して荷重を吸収し始めるが、サブフレーム15Bは後締結部73が破断して締結部材53のマウントボルト103(図2参照)が抜け乖離すると、サブフレーム15Bが後方下方へ移動(後退)する。下方への移動(後退)に伴い、サブフレーム15Bに固定したステアリングギヤボックス38(タイロッド41を含む)が下方へ後退すると、距離hだけ下げた衝撃吸収部材16の受け壁部135に当接して押すので、衝撃吸収部材16は変形することで、荷重を吸収する。従って、乖離するフロントサブフレーム15にステアリングギヤボックス38を配置しても、ステアリングギヤボックス38を介する荷重を吸収することができる。
【0039】
尚、本発明の車体前部構造は、実施の形態では、車両のフロントボデーに採用されているが、フロントボデー以外にも採用可能である。
車体前部構造は、フロントサイドフレームに衝撃吸収部材を配置したが、フロントサイドフレーム以外の部位に衝撃吸収部材を配置することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の車体前部構造は、フロントサブフレームにステアリングギヤボックスを載せた車両に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の車体前部構造の概要を説明する平面図である。
【図2】本発明の車体前部構造の斜視図である。
【図3】車体前部構造の傾斜後部(サイドフレームリヤエンド)の斜視図である。
【図4】本発明の車体前部構造が備える衝撃吸収部材の説明図である。
【図5】本発明の車体前部構造の荷重を吸収する機構を乖離しないフロントサブフレームの場合で説明する図である。
【図6】車体前部構造の荷重吸収の機構を比較する比較図である。
【図7】別の実施の形態を説明する図である。
【符号の説明】
【0042】
11…車体前部構造、15…フロントサブフレーム(サブフレーム)、16…衝撃吸収部材、22…車室、23…アンダボデー、25…操舵装置、38…ステアリングギヤボックス、51…左のフロントサイドフレーム、52…右のフロントサイドフレーム、66…フロントサブフレームの後部(左後端)、71…右後端(後部)、77…フロントサブフレームの後部近傍(ギヤボックス取付け部)、122…傾斜後部(サイドフレームリヤエンド)、126…前壁部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の床をなすアンダボデーに前方へ連なるフロントサイドフレームの傾斜後部が接続され、該傾斜後部に井桁状のフロントサブフレームの後部が締結され、該後部近傍に操舵装置の長尺なステアリングギヤボックスが取付けられている車体前部構造において、
前記ステアリングギヤボックスへ向いている前記傾斜後部の前壁部に、車両前面衝突によって前記ステアリングギヤボックスが後方へ変位して押すと、変形して衝撃を吸収する衝撃吸収部材を配置していることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記衝撃吸収部材は、衝撃で前記フロントサブフレームが乖離する構造の場合、乖離しない構造の場合より、下方に配置されていることを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−161107(P2009−161107A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2383(P2008−2383)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】