説明

車体後部構造、リアサイドメンバ及びリアサイドメンバ補強用ジャッキ

【課題】 車両の軽量化及び低コスト化を実現しつつリアサイドメンバを補強する。
【解決手段】 車両10の前後方向に延在するリアサイドメンバ100Lは、内側壁101LR及び101LL、並びに内底面102Lを有し、これらによって規定される溝内にパンタグラフジャッキ200が固定されている。固定された状態において、内側壁101LRに形成されたスロット部103及び内側壁101LLに形成されたスロット部104には、夫々パンタグラフジャッキ200の荷重台206及びベース201の一部が収容される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両における車体後部構造、リアサイドメンバ及びリアサイドメンバ補強用ジャッキの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
このような車体後部構造として、リアサイドフロアメンバ内に配置したリーンホースに屈曲部を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された車両の車体後部構造(以下、「従来の技術」と称する)によれば、車両が後突された場合に、係る屈曲部の変形によって衝撃を吸収することが可能であるとされている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−171048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リアサイドフロアメンバ(リアサイドメンバ)には、後突時或いは車両運搬時などに比較的大きな負荷が加わり易い。この際、従来の技術のように、内部にリーンホースを適宜配置することによって強度を補うことは可能であるが、一方で、このリーンホースが配置されることによるコスト及び重量の増加が避け難い問題となる。即ち、従来の技術には、車両の軽量化及び低コスト化を実現しつつリアサイドメンバを補強することが困難であるという技術的な問題点がある。
【0006】
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、車両の軽量化及び低コスト化を実現しつつリアサイドメンバを補強し得る車体後部構造、並びにこのような車体後部構造に使用されるリアサイドメンバ及びリアサイドメンバ補強用ジャッキを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明に係る車体後部構造は、車両の前後方向に延在すると共に前記前後方向に延在する溝を内部に規定する壁を含むリアサイドメンバと、前記溝内に着脱可能に固定される伸縮可能なジャッキとを具備することを特徴とする。
【0008】
本発明において、「リアサイドメンバ」とは、車両の前後方向に延在する、例えば鉄、鉄鋼、或いはアルミニウムなど金属材料で構成された衝撃吸収部材或いは衝撃伝達部材を指す概念である。尚、本発明に係る「リアサイドメンバ」とは、係る概念が担保される限りにおいて、異なる名称を有する部材を包括してもよい趣旨である。尚、リアサイドメンバを構成する材料は必ずしも金属材料に限定されない。
【0009】
リアサイドメンバは更に、リアサイドメンバの延在方向(即ち、車両の前後方向)に延在する溝を内部に規定する壁を含んでいる。この壁によって規定される溝により、本発明に係るリアサイドメンバは、係る延在方向の断面が凹形状を有している。尚、溝の形状、即ち、溝を規定する壁の形状は、溝を規定し得る限りにおいて何ら限定されない。例えば、壁が曲率を有することによって比較的係る断面が比較的緩やかなU字型をなしていてもよい。或いは相互に直交(或いは略直交)する3つの面部分を有する壁によって規定される直方体状の溝であってもよい。尚、ここで述べられる「壁」とは、リアサイドメンバにおいて溝を規定する、特に上下左右の別なく規定される面部分を指す概念である。従って、リアサイドメンバの内側壁、内底面などを含む趣旨である。
【0010】
ここで特に、リアサイドメンバには後突時や運搬時に比較的大きな荷重が加わり易いため、この溝に沿うようにリーンホースと呼ばれる衝撃吸収(衝撃伝達)部材が固定され、リアサイドメンバは補強される。然るに、リーンホースの使用に伴って、車両重量は増加し、コストも増加してしまう。
【0011】
そこで、本発明に係る車体後部構造は、リアサイドメンバの溝内に着脱可能に固定される伸縮可能なジャッキを備えることにより、係る問題を解決している。
【0012】
本発明において「ジャッキ」とは、伸縮可能であって、車両の一部と接合した状態で伸張させることにより、車両を持ち上げることのできる工具或いは部材を包括する概念であり、例えば、車載工具の一つとしてのパンタグラフジャッキであってもよい。尚、ジャッキを伸縮させる態様は何ら限定されない。例えば、ネジ、バネ、歯車、水圧又は油圧などが利用されてもよい。
【0013】
本発明に係るジャッキは、リアサイドメンバの溝内に着脱可能に固定されている。尚、ジャッキをリアサイドメンバに固定する態様は、係る溝内に着脱が可能となるように固定される限りにおいて何ら限定されない。例えば、物理的、機械的、或いは機構的に固定されていてもよい。ここで、本発明において「固定する」とは、物理的、機械的、或いは機構的な手段などを介して、何らこのような固定が行われない場合と比較して幾らかなりとも対象物を束縛することを包括する概念である。従って、リアサイドメンバとジャッキとは必ずしも完全に一体化しておらずともよい。即ち、適度に遊びを有していてもよい。或いは、ジャッキとリアサイドメンバとは、外部からの衝撃に対して一体の衝撃吸収部材として機能し得る程度に束縛性が担保されていてもよい。また、溝内に固定されているとみなし得る限りにおいて、例えばジャッキの一部は溝外に存在していてもよい趣旨である。
【0014】
このようにリアサイドメンバの溝内に固定されることによって、本発明に係るジャッキは、リアサイドメンバを補強する部材として機能することになる。即ち、本発明に係る車体後部構造によれば、従来リーンホースによって実現されていたリアサイドメンバの補強を、車両に搭載される或いは搭載されるべきジャッキによって実現することが簡便にして可能となるのである。従って、軽量化及び低コスト化を実現しつつリアサイドメンバを補強することが容易にして可能となるのである。
【0015】
尚、ジャッキの使用時、リアサイドメンバの強度は一時的に劣化することとなるが、ジャッキの使用時は、車両は停止しており、リアサイドメンバの補強の必要性は著しく低いと考えられるため、本発明に係る効果は何ら阻害されるものではない。
【0016】
本発明に係る車体後部構造の一の態様では、前記ジャッキは、伸縮方向に伸縮可能であり且つ該伸縮方向に前記壁を支えるように固定される。
【0017】
ここで、「伸縮方向に壁を支える」とは、ジャッキにおいて伸縮方向に作用する力の少なくとも一部が、リアサイドメンバにおいて溝を規定する壁を支える力として機能することを表す概念であり、例えば、溝を挟んで相互に対向する壁(即ち、側壁)の長手方向(リアサイドメンバの延在方向)と、ジャッキの伸縮方向とが直交するようにジャッキが固定されることなどを指す。この場合、リアサイドメンバにおいて溝を挟んで対向する壁間で、負荷としての外力を相互に伝達することが可能となる。従って、リアサイドメンバの強度が向上する。尚、ジャッキは伸縮方向に伸縮可能であるから、例えば、ジャッキが固定された状態でジャッキを伸張させる或いは伸張させようとすることにより、このような外力の伝達経路を好適に確保することが可能となり、リアサイドメンバを好適に補強することが可能となる。尚、係る概念が担保される限りにおいて、伸縮方向に壁を支える態様は何ら限定されない。
【0018】
尚、この態様では、前記ジャッキは、前記伸縮方向における一方の端部及び他方の端部に夫々設置用の基台部及び前記車両との接合用の接合部を有し、前記リアサイドメンバは、前記壁に、前記基台部の少なくとも一部を固定するための第1固定部及び前記接合部の少なくとも一部を固定するための第2固定部を有し、前記ジャッキは、前記基台部及び前記接合部の夫々少なくとも一部が夫々前記第1及び第2固定部に固定されることによって固定されてもよい。この場合、ジャッキを比較的簡単にリアサイドメンバに固定することが可能となる。
【0019】
ジャッキの伸縮方向の一方及び他方の端部には夫々基台部と接合部が形成される。ここで、「伸縮方向の一方及び他方の端部」とは、必ずしもジャッキにおける伸縮方向の先端でなくともよい趣旨である。即ち、端部とみなし得る程度にジャッキの先端近傍にこれら基台部及び接合部が形成されていてもよい趣旨である。
【0020】
尚、基台部の形状は、ジャッキの使用時にジャッキを地面などに設置することが可能である限りにおいて何ら限定されない。同様に、接合部の形状も、ジャッキの使用時に車両の一部と接合可能である限りにおいて何ら限定されない。
【0021】
一方、リアサイドメンバは、ジャッキにおける基台部の少なくとも一部を固定するための第1固定部及びジャッキにおける接合部の少なくとも一部を固定するための第2固定部を有している。ここで、「少なくとも一部」とは、ジャッキをその伸張方向に壁を支えるように固定し得る程度に固定するために必要となる基台部及び接合部の部分を包括する概念である。また、「基台部」及び「接合部」は、厳密に一部品として形成されていなくともよく、複数部品からこれら基台部及び接合部が形成されていてもよい。即ち、ジャッキの設置に何らかの関係を有する部品又は部材である限りにおいて本発明に係る基台部の範疇であり、車両との接合に何らかの関係を有する部品である限りにおいて、本発明に係る接合部の範疇である。従って、「基台部の少なくとも一部」とは、厳密に地面などと接触している部分以外であってもよいし、「接合部の少なくとも一部」とは、厳密に車体と接合している部分以外であってもよい趣旨である。
【0022】
例えば、第1及び第2固定部とは、基台部及び接合部の少なくとも一部を挿入することが可能なスロット状の空間を規定する壁部材であってもよい。また、第1及び第2固定部は、予め車両に搭載されるジャッキの各部に適合するように形成されてもよい。或いは、固定可能な形状、面積又は体積などが適宜変更可能となるように、即ち、複数種類のジャッキに適合可能となるようにこれら固定部が形成されていてもよい。
【0023】
尚、リアサイドメンバが第1固定部及び第2固定部を有する態様では、前記第1又は第2固定部は、前記壁のうち、前記リアサイドメンバにおいて前記車両を牽引するためのフック部材が固定される箇所に対応する部分に形成されてもよい。
【0024】
車両は、運搬時に固縛されることが多い。この場合、リアサイドメンバには固縛用のフック部材が取り付けられるが、必然的にこの取り付け部分には相応の強度が必要となる。この態様によれば、第1又は第2固定部が、係るフック部材が取り付けられる箇所に対応する部分に形成されるため、効果的にリアサイドメンバを補強することが可能となる。
【0025】
尚、フック部材、リアサイドメンバ及びジャッキは、例えばボルト及びナットなどによって、相互に連結されていてもよい。この際、リアサイドメンバとジャッキとが予めボルト及びナットなどで固定される場合には、これらを流用する形でフック部材が固定されてもよい。
【0026】
上述した課題を解決するために、本発明に係るリアサイドメンバは、車両の前後方向に延在するリアサイドメンバであって、前記前後方向に延在する溝を内部に規定する壁と、伸縮可能なジャッキを前記溝内に着脱可能に固定する固定手段とを具備することを特徴とする。
【0027】
本発明に係るリアサイドメンバによれば、壁によって規定され、車両の前後方向に延在する溝内に、固定手段によって伸縮可能なジャッキを固定することができる。従って、上述した如き、本発明に係る車体後部構造を実現することが可能となる。
【0028】
上述した課題を解決するために、本発明に係るリアサイドメンバ補強用ジャッキは、車両の前後方向に延在すると共に前記前後方向に延在する溝を内部に規定する壁を含み、該壁に第1固定部及び第2固定部を有するリアサイドメンバを補強するための伸縮可能なリアサイドメンバ補強用ジャッキであって、少なくとも一部が前記第1固定部に固定される設置用の基台部と、少なくとも一部が前記第2固定部に固定される前記車両との接合用の接合部とを具備することを特徴とする。
【0029】
本発明に係るリアサイドメンバ補強用ジャッキによれば、リアサイドメンバにおいて溝を規定する壁に形成された第1固定部及び第2固定部に夫々少なくとも一部が固定される基台部及び接合部を具備することによって、上述した本発明に係る車体後部構造を簡便に実現可能である。
【0030】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0032】
<第1実施形態>
<車両10の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る車体後部構造について説明する。ここに、図1は、車両10における車体後部構造の模式図である。
【0033】
図1において、車両10の左右後輪11L及び11Rは、夫々サスペンションアーム12L及び12Rの後端部分によって、車軸を介して回転可能に支持されている。サスペンションアーム12L及び12Rはそれらの前端部分にて、不図示のブラケット及びブッシュ装置を介してリアサイドメンバ100L及び100Rにより支持されている。リアサイドメンバ100L及び100Rに支持されることにより、サスペンションアーム12L及び12Rは、軸線12L’及び12R’を中心に回動可能に支持されている。
【0034】
リアサイドメンバ100L及び100Rは、車両10の左右両側で車両の前後方向(図示矢線A方向)に延在し、各々の後端部が車両10の横方向(車幅方向)に延在するバンパビーム13により相互に連結されている。また、リアサイドメンバ100L及び100Rは、前端部にてそれぞれ骨格部材としてのロッカ14L及び14Rに連結され、ロッカ14L及び14Rは車両10の横方向に延在するクロスメンバ15によって相互に連結されている。
【0035】
また、サスペンションアーム12L及び12Rは車両10の横方向に延在するツイストビーム16によって連結されている。ツイストビーム16とバンパビーム13との間にはスペアタイヤ17が配置され、ツイストビーム16とクロスメンバ15との間には燃料タンクFTが配置されている。
【0036】
<リアサイドメンバ100Lの詳細構成>
次に、図2を参照してリアサイドメンバ100Lの詳細な構成について説明する。ここに、図2は、図1におけるリアサイドメンバ100L及び100Rの後端付近の拡大斜視図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0037】
図2において、リアサイドメンバ100L及び100Rは、その延在方向(図示A方向)の断面がU字型に形成された衝撃吸収伝達部材である。リアサイドメンバ100Rの内側には、リアサイドメンバ100Rの強度を補うためのリーンホース18が敷き詰められている。リーンホース18は、金属材料で構成される薄板状の部材である。
【0038】
一方、リアサイドメンバ100Lは、リアサイドメンバ100Rと異なり、リーンホース18を有さない構造となっている。その代わりに、リアサイドメンバ100Lの内部には、パンタグラフジャッキ200が固定されており、リアサイドメンバ100Lの補強部材として機能している。即ち、リアサイドメンバ100Lは、本発明に係る「リアサイドメンバ」の一例として機能するように構成されており、本発明に係る車体後部構造が実現されている。尚、リアサイドメンバ100Lの外壁部分には、車両10を牽引するための固縛用フック19が固定されている。
【0039】
次に、図3を参照して、リアサイドメンバ100Lの更なる詳細について説明する。ここに、図3は、リアサイドメンバ100Lにおけるパンタグラフ200付近の分解斜視図である。尚、同図において、図2と重複する箇所については同一の符号を付してその説明を省略することとする。
【0040】
図3において、パンタグラフジャッキ200は、車両10に搭載される車載工具であり、図示伸縮方向に伸縮可能に構成された本発明に係る「ジャッキ」の一例である。
【0041】
パンタグラフジャッキ200は、ベース201、下部アーム202及び203、上部アーム204及び205、荷重台206、ジョイント207及び208、駆動ネジ209並びにネジ孔210を備える。
【0042】
ベース201は、パンタグラフジャッキ200を地面に設置する際の土台として機能する、本発明に係る「基台部」の一例である。ベース201の底面には、二つのネジ孔210が形成されている。ネジ孔210は、パンタグラフジャッキ200と固縛用フック19とを固定するためのネジ孔である。下部アーム202及び203は、夫々一端がベース201にヒンジ連結されており、その連結部位において回動可能に構成されている。上部アーム204及び205は、夫々一端が荷重台206にヒンジ連結されており、その連結部位において回動可能に構成されている。荷重台206は、車両10がジャッキアップされる際に、車両10の下部と接合して荷重を受け止めるための接合部を備えた、本発明に係る「接合部」の一例である。ジョイント207は、下部アーム202及び上部アーム204における、夫々前述した一端とは異なる他端をヒンジ連結する部材である。ジョイント208は、下部アーム203及び上部アーム205における、夫々前述した一端とは異なる他端をヒンジ連結する部材である。
【0043】
駆動ネジ209は、ジョイント207及び208に連結され、これら各ジョイントを貫通する軸を中心として回転するネジである。駆動ネジ209が回転することによって、ジョイント207及び208に連結された下部アーム202及び203並びに上部アーム204及び205が回動し、パンタグラフジャッキ200は全体として伸縮方向へ伸縮することが可能である。尚、駆動ネジ209は、パンタグラフジャッキ200が最下降位置にある状態、即ち、荷重台206とベース201とが最も近接した状態において、各ジョイントを連結するのに十分な長さを有している。このような構成を有するパンタグラフジャッキ200は、ベース201及び荷重台206の夫々一部が以下に説明するリアサイドメンバ100Lの各スロット部に収容されることにより、リアサイドメンバ100Lに固定されている。
【0044】
図3において、リアサイドメンバ100Lは、図示A方向に延在する溝状空間(即ち、本発明に係る「溝」の一例)を規定する内側壁101LL、101LR及び内底面102Lを有している。内側壁101LL、101LR及び内底面102Lは、夫々本発明に係る「壁」の一例である。
【0045】
内側壁101LRには、内底面102Lと共に図示B方向上部が開口した空間を規定するスロット部103が形成されている。また、内側壁101LLには、内底面102Lと共に図示B方向上部が開口した空間を規定するスロット部104が形成されている。尚、スロット部103及び104は、本発明に係る「第1固定部」及び「第2固定部」の夫々一例である。
【0046】
ここで、図4を参照して、スロット部103及び104の詳細について説明する。ここに、図4は、図3におけるスロット部103及び104の拡大図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略することとする。
【0047】
図4において、図4(a)はスロット部103の拡大図である。スロット部103は、夫々内側壁101LRから起立して内側壁101LRと平行な方向へ曲折する鍵状のスロット部材103a及び103bから構成されている。これらスロット部材の内壁は、内側壁101LR及び内底面102Lと共に、上方に開口した空間を規定している。この空間は、パンタグラフジャッキ200における荷重台206の一部を収容する空間となる。
【0048】
この空間において、内側壁101LLと対面する側は、スロット部材103aとスロット部材103bとの間に設けられた間隙によって、一部が開口している。この開口した部分によって、パンタグラフジャッキ200をリアサイドメンバ100Lの溝に固定する際に、上部アーム204及び205が何らの障害もなく収容される。
【0049】
また、この空間を規定する内側壁101LRの一部分には切り欠き部106が設けられており、この切り欠き部106によって、係る空間における内側壁101LRと対面する側は一部スペアタイヤ17の方向に開口している。この開口した部分から、荷重台206の最先端部分に位置する車両10との接合部分がスペアタイヤ17側に逃がされる構成となっている。
【0050】
一方、図4(b)は、スロット部104の拡大図である。スロット部104は、夫々内側壁101LLから起立して内側壁101LLと平行な方向へ曲折する鍵状のスロット部材104a及び104bから構成されている。これらスロット部材の内壁は、内側壁101LL及び内底面102Lと共に、上方に開口した空間を規定している。この空間は、パンタグラフジャッキ200におけるベース201の一部を収容する空間となる。
【0051】
この空間において、内側壁101LRと対面する側は、スロット部材104aとスロット部材104bとの間に設けられた間隙によって、一部が開口している。この開口した部分によって、パンタグラフジャッキ200をリアサイドメンバ100Lの溝に固定する際に、下部アーム202及び203が何らの障害もなく収容される。
【0052】
また、この空間を規定する内側壁101LLには、2個のネジ孔105が設けられており、リアサイドメンバ100Lの外側壁まで貫通している。
【0053】
図3に戻り、固縛用フック19は、車両10を運搬する場合にのみ取り付けられる部材であり、鋼線を固定するための固縛用孔19aと、固縛用フック19をリアサイドメンバ100Lに取り付けるための取り付け孔19bを有する。固縛用フック19が取り付けられる際には、取り付け用ビス20が、取り付け孔19b及びネジ孔105を順次介して、パンタグラフジャッキ200のネジ孔210に挿入される。尚、車両10を運搬する時以外は、固縛用フック19は取り外されるため、車両10では、スロット部103及び104にベース201及び荷重台206の夫々一部を収容することによって、パンタグラフジャッキ200をリアサイドメンバ100Lに十分固定することが可能となっている。但し、固縛用フック19を使用しない場合であっても、取り付け用ビス20によってリアサイドメンバ100Lとパンタグラフジャッキ200とを固定してもよい。
【0054】
<実施形態の効果>
次に、図5を参照して、本発明に係る効果について説明する。ここに、図5は、車両10の運搬時の模式図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0055】
図5において、荷台21は、例えば車両運搬車の荷台であり、後端にフック22が形成されている。フック22には鋼線23の一端が固定されており、鋼線23の他端は固縛用フック19の固縛用孔19aに固定されている。車両10の運搬時には、図示C方向に負荷が加わるが、この負荷は固縛用フック19、リアサイドメンバ100Lの外側壁を介して、リアサイドメンバ100Lの内側壁101LLに伝達される。
【0056】
ここで、パンタグラフジャッキ200がリアサイドメンバ100Lに固定されていない場合、係る内側壁101LL及びそれと対応する外側壁が、係る負荷に耐えられず変形又は破損しかねない。
【0057】
然るに、本実施形態においては、内側壁101LLに伝達された負荷は、パンタグラフジャッキ200を介して内側壁101LRに伝達される。即ち、パンタグラフジャッキ200は、その伸縮方向にリアサイドメンバ100Lの壁を支えており、負荷を効率良く分散することが可能となるように固定されている。従って、リアサイドメンバ100Lの強度は著しく向上しており、このような変形又は破損などは生じない。
【0058】
一方、リアサイドメンバ100Rのように、内部にリーンホースを有する場合には、同様にリアサイドメンバ100Lの強度は向上するが、この場合、リーンホースの分だけコスト及び重量が増加する。それに較べて、パンタグラフジャッキ200は車載工具であり、元々車両10に備わる類の部材である。従って、重量及びコストの増加は生じない。このように、本実施形態に係る車両10は、本発明に係る車体後部構造を有することによって、車両の軽量化及び低コスト化を実現しつつリアサイドメンバを補強することが可能となっているのである。
【0059】
尚、パンタグラフジャッキ200がリアサイドメンバ100Lに固定された後に、駆動ネジ209を若干締め側に回し、パンタグラフジャッキ209を若干伸張させることによって、内側壁101LL及び101LRを一層強固に支えることも容易にして可能であり、この場合、リアサイドメンバ100Lの強度を一層高めることが可能である。
【0060】
<第2実施形態>
第1実施形態に係る車両10では、リアサイドメンバ100Lの内側壁101LRの一部に切り欠き部106を有している。この切り欠き部106によって、パンタグラフジャッキ200をリアサイドメンバ100Lに固定する際の自由度は高まるが、一方で、リアサイドメンバ100Lの強度は、この切り欠かれた量に応じて低下する。そこで、このような問題を解消し得る本発明の第2実施形態について説明する。
【0061】
始めに、図6を参照して、本発明の第2実施形態に係る車両10’の車体後部構造を示す斜視図である。尚、同図において、上述した第1実施形態に係る車両10と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略することとする。また、図6は、図3と同様リアサイドメンバ後端付近の斜視図である。
【0062】
図6において、車両10’は、リアサイドメンバ100Lの代わりにリアサイドメンバ300を、そしてパンタグラフジャッキ200の代わりにパンタグラフジャッキ400を備える点において第1実施形態に係る車両10と異なっている。
【0063】
リアサイドメンバ300は、内側壁101LR及び内側壁101LLの代わりに夫々内側壁301及び302を備える点で、リアサイドメンバ100Lと異なっている。内側壁301は、切り欠き部106を有さない点において内側壁101LRと異なる構成となっており、内側壁302は、ネジ孔105を有さない点において内側壁101LLと異なる構成となっている。
【0064】
パンタグラフジャッキ400は、荷重台206の代わりに荷重台401を有し、駆動ネジ209の代わりに駆動ネジ402を有する点においてパンタグラフジャッキ200と異なっている。パンタグラフジャッキ400は、本発明に係る「リアサイドメンバ補強用ジャッキ」の一例である。
【0065】
ここで、図7を参照して、リアサイドメンバ300とパンタグラフジャッキ400の詳細について説明する。ここに、図7は、リアサイドメンバ300にパンタグラフジャッキ400が固定された状態を表す平面図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略することとする。また、図7は、図6における矢線B方向にリアサイドメンバ300を見た平面図である。
【0066】
図7において、パンタグラフジャッキ400の荷重台401は、第1実施形態に係る荷重台206と異なり、車両10との接合部分に、伸縮方向に陥没した接合部401aを有している。また、駆動ネジ402は、ネジ頭部402aを有しており、このネジ頭部402aは、パンタグラフジャッキ400の伸縮とは無関係に着脱することが可能となっている。但し、ネジ頭部402aは、固定された状態で締め込まれる或いは緩められることによって、パンタグラフジャッキ400を伸縮させることが可能である。
【0067】
内側壁302に形成されたスロット部104によって規定される空間内には、第1実施形態と同様にパンタグラフジャッキ400のベース201が収容される。また、内側壁301に形成されたスロット部103によって規定される空間内には、荷重台401が収容される。ここで、本実施形態における荷重台401は、接合部401aの効果によって、内側壁301に第1実施形態の如き切り欠き部106が形成されておらずとも何ら問題なくこの空間に収容される。従って、内側壁301の強度は、内側壁101LRのそれよりも向上する。また、内側壁302にはネジ孔105が形成されていないため、内側壁302の強度も内側壁101LLと較べて向上する。即ち、全体として、リアサイドメンバ300はリアサイドメンバ100Lよりも高い強度を有している。
【0068】
一方、内側壁302は、ネジ孔105を有さないため、車両10’を運搬するに際して何らかの対策が施されるのが好適である。ここで、図8を参照して、車両10’を運搬する際の態様について説明する。ここに、図8は、車両10’の運搬時の模式図である。尚、同図において、前述した各図と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略することとする。
【0069】
図8において、車両10’の運搬時には、パンタグラフジャッキ400の駆動ネジ402におけるネジ頭部402aは、ネジ頭部402aと置換可能な固縛用のフック24に交換される。フック24は、バンパビーム13を介して、駆動ネジ402に固定される。このフック24に固縛用の鋼線23が固定されることによって車両10’は固定される。このようにすることにより、矢線C方向に作用する負荷に対し、パンタグラフジャッキ400が補強部材として好適に機能することになる。この場合も、第1実施形態と同様、パンタグラフジャッキ400はリアサイドメンバ300の内側壁301及び302に効果的に負荷を伝達しているため、リアサイドメンバ300の強度が好適に保たれている。
【0070】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車体後部構造、リアサイドメンバ及びリアサイドメンバ補強用ジャッキもまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両10の車体後部構造の模式図である。
【図2】図1におけるリアサイドメンバ後端付近の拡大斜視図である。
【図3】図2においてパンタグラフジャッキが固定されるリアサイドメンバに係る分解斜視図である。
【図4】図3におけるスロット部の拡大図である。
【図5】図1に示す車両の運搬時の模式図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る車両の車体後部構造の模式図である。
【図7】図6の車両において、リアサイドメンバにパンタグラフジャッキが固定された状態を表す平面図である。
【図8】図6に示す車両の運搬時の模式図である。
【符号の説明】
【0072】
10…車両、10’…車両、100L…リアサイドメンバ、101LL、101LR…内側壁、102L…内底面、103、104…スロット、200…パンタグラフジャッキ、201…ベース、206…荷重台、300…リアサイドメンバ、400…パンタグラフジャッキ、401…荷重台、401a…接合部、402…駆動ネジ、402a…ネジ頭部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に延在すると共に前記前後方向に延在する溝を内部に規定する壁を含むリアサイドメンバと、
前記溝内に着脱可能に固定される伸縮可能なジャッキと
を具備することを特徴とする車体後部構造。
【請求項2】
前記ジャッキは、伸縮方向に伸縮可能であり且つ該伸縮方向に前記壁を支えるように固定される
ことを特徴とする請求項1に記載の車体後部構造。
【請求項3】
前記ジャッキは、前記伸縮方向における一方の端部及び他方の端部に夫々設置用の基台部及び前記車両との接合用の接合部を有し、
前記リアサイドメンバは、前記壁に、前記基台部の少なくとも一部を固定するための第1固定部及び前記接合部の少なくとも一部を固定するための第2固定部を有し、
前記ジャッキは、前記基台部及び前記接合部の夫々少なくとも一部が夫々前記第1及び第2固定部に固定されることによって固定される
ことを特徴とする請求項2に記載の車体後部構造。
【請求項4】
前記第1又は第2固定部は、前記壁のうち、前記リアサイドメンバにおいて前記車両を牽引するためのフック部材が固定される箇所に対応する部分に形成される
ことを特徴とする請求項3に記載の車体後部構造。
【請求項5】
車両の前後方向に延在するリアサイドメンバであって、
前記前後方向に延在する溝を内部に規定する壁と、
伸縮可能なジャッキを前記溝内に着脱可能に固定する固定手段と
を具備することを特徴とするリアサイドメンバ。
【請求項6】
車両の前後方向に延在すると共に前記前後方向に延在する溝を内部に規定する壁を含み、該壁に第1固定部及び第2固定部を有するリアサイドメンバを補強するための伸縮可能なリアサイドメンバ補強用ジャッキであって、
少なくとも一部が前記第1固定部に固定される設置用の基台部と、
少なくとも一部が前記第2固定部に固定される前記車両との接合用の接合部と
を具備することを特徴とするリアサイドメンバ補強用ジャッキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−240563(P2006−240563A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62035(P2005−62035)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】