説明

車体構造

【課題】 車室空間を広く維持しつつ、車体剛性を確保することができる車体構造を提供する。
【解決手段】 エンジンルーム100と車室101とを隔離するように設置され、本体部23・24と、その左右側に車室側に突出したホイールハウス部25とを備えたダッシュパネル2を有する車体構造1であって、ホイールハウス部と本体部との境界26に沿って延在し、フロントピラー4およびサイドシル6に接合された補強部材28をダッシュパネルの車室側に備えたことを特徴とする。このような車体構造において、補強部材は補強部材の横断面の断面中心Aが境界から本体部に対して直交する方向に延びる線上に位置するように配置されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の車体構造に関し、より詳細には車室空間を広く維持しつつ、車体剛性を確保することができるダッシュパネルに係る車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体構造には、フロントサイドフレームとフロントピラーの下部とを接合する補強部材をダッシュパネルの前面側に備え、フロントサイドフレームからの荷重をフロントピラーおよびサイドシル等の車室を形成する部材に伝えるようにしたものがある(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような補強部材は、ダッシュパネルの前面側の左右側にタイヤの設置空間として配置されるホイールハウスを避けて、ホイールハウスの後方に配置される。理由は、ダッシュパネルを支持するとともに、ホイールハウス内のタイヤの転舵空間を確保するためである。
【特許文献1】特許第2936877号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の車体構造ではホイールハウスの後方に補強部材が配置されることから、補強部材の体積分だけダッシュパネルが後方に押し出されることになり、車室空間が減少するという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたもので、車室空間を広く維持しつつ、車体剛性を確保することができる車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1の発明は、エンジンルーム(100)と車室(101)とを隔離するように設置され、本体部(23・24)と、その左右側に車室側に突出したホイールハウス部(25)とを備えたダッシュパネル(2)を有する車体構造(1)であって、ホイールハウス部と本体部との境界(26)に沿って延在し、フロントピラー(4)およびサイドシル(6)に接合された補強部材(28)をダッシュパネルの車室側に備えたことを特徴とする。
【0007】
第2の発明は第1の発明において、補強部材が、補強部材の横断面の断面中心(A)が境界から本体部に対して直交する方向に延びる線上に位置するように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明によれば、曲面の備えた立体形状を有することから本来的にダッシュパネルの他の部分に比べて剛性が高いホイールハウス部の剛性を更に高めることができ、フロントサイドフレームから入力される荷重をダッシュパネルおよび補強部材と接合したフロントピラーおよびサイドシルに伝達することができる。また、ホイールハウス部の立体形状を構造体として利用することから補強部材を小型化することができるため、車室空間を広く確保することができる。第2の発明によれば、補強部材を境界に対してバランスよく配置し、ホイールハウス部の剛性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<実施形態の構成>
以下、本発明を適用した自動車の車体構造に係る実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、実施形態の車体構造を示す斜視図である。図2は、図1の矢印IIの方向より見た斜視図であって、車室側より見たダッシュパネルのおおよそ右側半分を示す斜視図である。図3は、図2の矢印IIIの方向から見た断面図である。なお、説明の便宜上、本発明が適用される自動車の進行方向を前方、進行方向と逆の方向を後方、前方を向いた際の右側を右、左側を左、鉛直上方を上方、鉛直下方を下方とする。
【0010】
図1に示すように、実施形態に係る自動車の車体構造1は、エンジンルーム100と車室101とを仕切るダッシュパネル2付近の構造として、ダッシュパネル2の前面側に接合して前方側に延びるとともに、ダッシュパネル2との接合部からダッシュパネル2に沿って下方かつ後方に延びる左右一対のフロントサイドフレーム3と、ダッシュパネル2の左右側に接合され、鉛直方向に延びる左右一対のフロントピラーロア4と、両フロントピラーロア4の上方に一体形成された左右一対のフロントピラーアッパ5と、両フロントピラーロア4の下部から後方へと延びるサイドシル6と、両フロントピラーロア4の上部から前方に延びる左右一対のアッパメンバ7と、フロントサイドフレーム3およびアッパメンバ7に接合されたダンパハウジング8とを備えている。各要素は、溶接等によって接合さている。
【0011】
ダッシュパネル2は、ダッシュロア21と、ダッシュロア21の上方に配置され略水平方向に突出するダッシュアッパ22とを主要構成要素とする。図2に示すように、ダッシュロア21は、概ね車幅方向および鉛直方向に延在する板状の基部23と、基部23の下端から車幅方向にわたって後方へと斜め下方に延出した脚部24とから構成される本体部と、本体部の左右側に設けられたホイールハウス部25とを備えている。ダッシュロア21の脚部24は、車室の床部を形成するフロアパネル(図示しない)と後方端で接合している。
【0012】
両ホイールハウス部25は、基部23との境界26から後方に曲面形状に突出した立体形状を呈し、フロントサイドフレーム3とフロントピラーロア4とに連結するとともに両ホイールハウス部25のエンジンルーム側の下方に備えられたアウトリガ9とともに、ダッシュパネル2の前方に形成されるホイールハウスの一部を形成する。ホイールハウス部25は、立体形状の剛性を高めるためにビード27を備えてもよい。両ホイールハウス部25の車幅方向における外側の端部は、フロントピラーロア4と接合している。また、両ホイールハウス部25の車幅方向における外側の端部は、サイドシル6と一部において接合されていてもよい。
【0013】
ホイールハウス部25と本体部との境界26、すなわちホイールハウス部25および基部23の境界と、ホイールハウス部25および脚部24の境界とには、車室101側より補強部材28が設けられている。補強部材28は、ホイールハウス部25と基部23との境界26がフロントピラーロア4に接する部分から、ホイールハウス部25と脚部24との境界がサイドシル6に接する部分へと境界26に沿って延在しており、補強部材28の両端部はそれぞれフロントピラーロア4またはサイドシル6と溶接等により接合されている。補強部材28は、ダッシュパネル2と比較して剛性の高い部材から形成されていることが好ましい。
【0014】
図3に示すように、補強部材28は、底部29と、底部29の一方面側に突出した2つの側壁30とを有する溝型形状を呈する溝部31を有し、側壁30の上端には溝型形状の外方へと延びるフランジ部32を備えている。補強部材28は、比較的剛性の高い材料から形成され、ダッシュパネル2よりも剛性が高い材料により形成されることが好ましい。
【0015】
補強部材28は、フランジ部32をホイールハウス部25と、基部23または脚部24との表面に突き合わせて溶接等により接合される。このとき、補強部材28と、ホイールハウス部25と、基部23または脚部24との表面により形成される閉構造の断面中心Aが、境界26からダッシュパネル2の基部23または脚部24に対して垂直に延びた線上に位置するように、補強部材28は配置される。ここでの断面中心Aとは、補強部材28と、ホイールハウス部25と、基部23または脚部24との表面により形成される閉構造の横断面図における図心をいう。
【0016】
<実施形態の作用効果>
次に、本実施形態に係る車体構造の作用効果について説明する。図4は従来の車体構造に前方衝突時の荷重が加わった際のダッシュパネルの変形状態を示す横断面図であり、図5は実施形態に係る車体構造1に前方衝突時の荷重が加わった際のダッシュパネル2の変形状態を示す横断面図である。
【0017】
実施形態に係る車体構造1のダッシュパネル2には、フロントサイドフレーム3に加わる荷重がダッシュロア21の基部23の前方側の面より入力される。フロントサイドフレーム3に加わる荷重には、例えば前方衝突時の荷重がある。また、フロントサイドフレーム3は通常走行時においてもダンパハウジング8等から常に荷重を受けている。
【0018】
図4に示すように、従来の車体構造では、前方衝突時にダッシュロア21の基部23がフロントサイドフレーム3から後方への荷重(図4中矢印)を受けた場合に、基部23と同じくホイールハウス部25にも変形が生じる(図4中破線)。ホイールハウス部25は曲面に形成されているため、基部23に比較して剛性が高いがフロントサイドフレーム3から受ける荷重に対して十分な剛性を有しているとはいえず、フロントサイドフレーム3からの荷重を受けて変形する。その結果、ホイールハウス部25の曲面は変形され、本来ホイールハウス部25が有していた剛性が損なわれて、ダッシュパネル2全体の剛性が低下する。
【0019】
一方、図5に示すように、本発明の実施形態に係る車体構造1では、境界26、すなわちホイールハウスの周縁に補強部材28が設けられているため、ホイールハウス部25の剛性は向上し、フロントサイドフレーム3からの比較的高い荷重に対してもホイールハウス部25の曲面形状を維持することができるようになる。そのため、ダッシュパネル2の変形はホイールハウス部25の周縁で寸断されるようになる。換言すると、ホイールハウス部25は比較的剛性の高い構造体として機能することができるようになる。
【0020】
ホイールハウス部25の形状が維持されることから、基部23のホイールハウス部25との境界26付近では変形が抑制され、荷重を受けた際の基部23の変形量D2は従来構造において同様の荷重を受けた際の変形量D1に比較して小さくなる。基部23の変形として消費することができなくなった荷重のエネルギーは、ダッシュロア21の基部23、ホイールハウス部25および補強部材28を介して車室101を形成するフロントピラーロア4およびサイドシル6に伝えられる。このようにして、本実施形態に係る車体構造1は、ダッシュパネル2の変形を低減して、車室101を形成する部材に荷重を分散させることができる。
【0021】
以上のように、本実施形態に係る車体構造1は、補強部材28によりダッシュパネル2の剛性が高いことから、ダッシュパネル2を補強するための、例えばダッシュパネルリインフォースメントメンバといった他のクロスメンバ等の設置を省略することができる。ダッシュパネルリインフォースメントメンバは、一般的にダッシュパネル2の前面に沿って配置され、両フロントサイドフレーム間と、フロントサイドフレームとフロントピラーとの間を連結する。このとき、フロントサイドフレームとフロントピラーロアとの間にはホイールハウスが存在するため、ダッシュパネルリインフォースメントメンバはホイールハウスを避けて、ホイールハウスの後方に配置される。そのため、ダッシュパネルはダッシュパネルリインフォースメントメンバの分だけ後方に押し出され、車室空間が減少する。本実施形態に係る車体構造1は、車体の剛性を維持しつつ、このようなダッシュパネルリインフォースメントメンバを省略することができるため、ダッシュパネル2をホイールハウスに隣接させることができ車室空間を広く確保することができる。本発明の実施形態に係る補強部材28は、境界26部分に配置されるため、車室空間への影響を最小限にすることができる。
【0022】
また、本発明の実施形態に係る車体構造1は、ホイールハウス部25の立体形状が有する剛性を利用することから、補強部材28に要求される剛性は低下し、補強部材28を小型化することができる。そのため、車室空間を広く確保することができる。
【0023】
<変形実施形態>
次に、本実施形態の一部を変形した変形実施形態について説明する。図6は、変形実施形態に係る車体構造を示す横断面図である。なお、図中において、上述した実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付すとともにその説明を省略し、実施形態と異なる点について重点的に説明する。
【0024】
図6に示すように、変形実施形態に係るダッシュロア21のホイールハウス部25と本体部としての基部23および脚部24の境界26部分には、境界26部分に沿って前方側(エンジンルーム100側)に突出した突出部33が延設されている。突出部33の後方側(車室101側)には、突出部33の背面(後方側)の形状と適合するとともに境界26部分に沿って配置された第1補強部材34が設けられている。第1補強部材34は、例えば環状のパイプ部材である。第1補強部材34は、第2補強部材35により突出部33の背面に取り付けられる。第1および第2補強部材34・35は、ダッシュパネル2と比較して剛性の高い部材から形成されることことが好ましい。
【0025】
第2補強部材35は、第1補強部材34の側面の一部の形状と一致するとともに第1補強部材34の長手方向に沿って延びる湾曲部36と、湾曲部36の長手方向にわたって両幅方向へと延びるフランジ部37とを有し、フランジ部37がホイールハウス部25と、基部23または脚部24とに突き合わさせて溶接等により接合されている。なお、突出部33の背面および第1補強部材34と、第1補強部材34および補強部材34の湾曲部36とはそれぞれ溶接等により接合されてもよい。
【0026】
以上のように構成することによって、ホイールハウス部25と基部23および脚部24との境界26は、第1補強部材34および第2補強部材34に補強され、ホイールハウス部25の曲面構造の剛性が向上する。このとき、突出部33をエンジンルーム100側に突出させたことにより、第1および第2補強部材34・35の車室側への突出量を減少させることができ、車室空間を広く確保することができる。突出部33は、境界26部分に沿って延設されていることから、ホイールハウス内のタイヤの転舵空間に与える影響は小さい。
【0027】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、ダッシュパネルの形状が、ホイールハウス部と本体部との境界と、フロントサイドフレームとダッシュパネルとの接合部との距離が短くなるように形成されてもよい。このように構成することにより、ダッシュロアの基部の変形を更に小さくすることができる。実施形態における補強部材の形状は例示であって、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態の車体構造を示す斜視図である。
【図2】図1の矢印IIの方向より見た斜視図である。
【図3】図2の矢印IVの方向から見た断面図である。
【図4】実施形態に係る車体構造に前方衝突時の荷重が加わった際のダッシュパネルの変形状態を示す横断面図である。
【図5】従来の車体構造に前方衝突時の荷重が加わった際のダッシュパネルの変形状態を示す横断面図である。
【図6】変形実施形態に係る車体構造を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0029】
2 ダッシュパネル
3 フロントサイドフレーム
4 フロントピラーロア
6 サイドシル
21 ダッシュロア
23 基部
24 脚部
25 ホイールハウス部
26 境界
28 補強部材
29 底部
30 側壁
31 溝部
32 フランジ部
100 エンジンルーム
101 車室
A 断面中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームと車室とを隔離するように設置され、本体部と、その左右側に前記車室側に突出したホイールハウス部とを備えたダッシュパネルを有する車体構造であって、
前記ホイールハウス部と前記本体部との境界に沿って延在し、フロントピラーおよびサイドシルに接合された補強部材を前記ダッシュパネルの車室側に備えたことを特徴とする車体構造。
【請求項2】
前記補強部材は、前記補強部材の横断面の断面中心が前記境界から前記本体部に対して直交する方向に延びる線上に位置するように配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−179289(P2009−179289A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22367(P2008−22367)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】