説明

車線逸脱防止制御装置

【課題】突発的な外乱が生じた場合であっても車線逸脱を防止できる車線逸脱防止制御装置を提供する。
【解決手段】自車両の走行車線からの逸脱を防止するように操舵機構に操舵力を付与する車線逸脱防止制御装置を、自車両の横速度を検出する横速度検出手段と、走行車線からの逸脱を防止する方向へ目標横位置と自車両の横位置との偏差に応じて該偏差が大きくなる程大きい変化量で増加する操舵力を設定する操舵力設定手段と、横速度の増加に応じて走行車線からの逸脱を防止する方向への操舵力を増加補正する操舵力補正手段と、操舵力補正手段によって補正された操舵力に基づいて操舵機構に操舵力を付与する操舵力制御手段とを備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の操舵機構に操舵力を付与して車線からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車線逸脱防止制御装置は、自車両の走行車線からの逸脱傾向に応じて、自車両を車線中央に戻す方向の操舵力を操舵機構に付与し、逸脱を防止する制御を行う。車線逸脱防止制御は、例えば、車線中央等に目標走行位置を設定し、この目標走行位置に対する自車両横位置の偏差が減少するように操舵力を設定する。
このような車線逸脱防止制御においては、目標操舵力の演算に際し、偏差の積分値に基づいた積分項を設けた積分制御とすることが知られている。このような積分項は、横風や路面の傾斜(カント)等による横力外乱に対する補償として有効であることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、レーンオフセット(偏差)の積分項を用いて操舵アシストトルクを演算するとともに、走行レーンのカーブ状態に応じて積分項をリセットすることによって、カーブ路面の傾斜等による外乱の影響を抑制した車両用操舵支援装置が記載されている。
また、車両に作用する外力の影響を抑制する技術として、特許文献2には、旋回時の遠心力等の横加速度が作用した場合であっても、ドライバが容易に打ち勝てる程度の操舵用制御トルクを付与するため、横ずれ量(偏差)に基づいて算出した制御トルクを、横加速度に基づいて補正することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−343260号公報
【特許文献2】特開平11−147481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような積分項を有する制御の問題点として、積分による遅れが挙げられる。例えば、突発的な外乱によって自車両の横位置が車線から逸脱する方向に変移した場合、積分項による外乱補償が間に合わず、逸脱を有効に防止できない懸念がある。
これに対し、積分項のゲインを大きくした場合、遅れを低減することはできるが、オーバーシュートが発生して車両軌跡の収束性が悪化する問題が生じる。
本発明の課題は、突発的な外乱が生じた場合であっても車線逸脱を防止できる車線逸脱防止制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、自車両の走行車線からの逸脱を防止するように操舵機構に操舵力を付与する車線逸脱防止制御装置において、前記走行車線に対する自車両の横速度を検出する横速度検出手段と、前記走行車線からの逸脱を防止する方向へ、前記走行車線内に設定した目標横位置と自車両の横位置との偏差に応じて該偏差が大きくなる程大きい変化量で増加する操舵力を設定する操舵力設定手段と、前記横速度の増加に応じて前記走行車線からの逸脱を防止する方向への前記操舵力を増加補正する操舵力補正手段と、前記操舵力補正手段によって補正された操舵力に基づいて前記操舵機構に操舵力を付与する操舵力制御手段とを備えることを特徴とする車線逸脱防止制御装置である。
請求項2の発明は、前記操舵力補正手段は、前記偏差又は該偏差の累乗値に前記横速度に基づいて設定される所定のゲインを乗じることにより前記操舵力を補正することを特徴とする請求項1に記載の車線逸脱防止制御装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)横速度の増加に応じて走行車線からの逸脱を防止する方向への操舵力を増加補正することによって、横速度が大きく逸脱までの余裕時間が短い場合には復元方向へ大きな操舵力を付与し、車線逸脱を防止することができる。
(2)偏差に乗算されるゲインを横速度に基づいて設定することにより操舵力の補正を行うことによって、装置の演算負荷をほとんど増加させることなく上述した効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明を適用した車線逸脱防止制御装置の参考例を含む車両のシステム構成を示す図である。
【図2】自車両及び走行車線の平面的配置の一例を示す図である。
【図3】参考例の車線逸脱防止制御装置における横位置ダンピング制御の効果を示す模式的平面図である。
【図4】参考例の車線逸脱防止制御装置における横位置ダンピング制御を示すフローチャートである。
【図5】本発明を適用した車線逸脱防止制御装置の実施例を含む車両のシステム構成を示す図である。
【図6】実施例の車線逸脱防止制御装置で3次制御のゲインを補正した際の偏差に対する操舵トルクの変化を示すグラフである。
【図7】実施例の車線逸脱防止制御装置における自車両横位置と逸脱判定閾値との関係を示す模式的平面図である。
【図8】実施例の車線逸脱防止制御装置における逸脱防止閾値及びゲインの変更制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、突発的な外乱が生じた場合であっても車線逸脱を防止できる車線逸脱防止制御装置を提供する課題を、横速度に応じて偏差から操舵力を算出する際に用いるゲインを変更することによって解決した。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を適用した車線逸脱防止制御装置の実施例について説明する。
まず、本発明の参考例について説明する。
参考例の車線逸脱防止制御装置は、例えば、前2輪を操舵する乗用車等の4輪自動車に設けられるものである。
図1は、参考例の車線逸脱防止制御装置を含む車両のシステム構成を示す図である。
車線逸脱防止制御装置は、自車両の走行車線からの逸脱傾向が判定された場合に、運転者に逸脱を警報しかつ車両を車線中央方向へ戻すため、操舵機構10に操舵トルク(操舵力)を付与するものである。
操舵機構10は、前輪FWを支持するハウジングHを所定の操向軸線(キングピン)回りに回転させて操舵を行うものである。
【0011】
操舵機構10は、ステアリングホイール11、ステアリングシャフト12、ステアリングギアボックス13、タイロッド14等を備えて構成されている。
ステアリングホイール11は、運転者が操舵操作を入力する環状の操作部材である。
ステアリングシャフト12は、ステアリングホイール11の回転をステアリングギアボックス13に伝達する回転軸である。
ステアリングギアボックス13は、ステアリングシャフト12の回転運動を車幅方向の直進運動に変換するラックアンドピニオン機構を備えている。
タイロッド14は、一方の端部をステアリングギアボックス13のラックに連結され、他方の端部をハウジングHのナックルアームに連結された軸状の部材である。タイロッド14は、ハウジングHのナックルアームを押し引きすることによってハウジングを回転させ、操舵を行う。
【0012】
また、車両は、電動パワーステアリング(EPS)制御ユニット20、操安制御ユニット30、エンジン制御ユニット40、トランスミッション制御ユニット50、車両統合ユニット60等を備えている。
【0013】
EPS制御ユニット20は、運転者の操舵操作に応じて操舵アシスト力を発生する電動パワーステアリング装置を統括的に制御するものである。EPS制御ユニット20には、電動アクチュエータ21、舵角センサ22、トルクセンサ23等が接続されている。
電動アクチュエータ21は、例えば、ステアリングシャフト12の途中に設けられ、減速機構を介して操舵機構10に対して操舵トルク(操舵力)を付与する電動モータである。
舵角センサ22は、ステアリングシャフト12の角度位置(ステイリングホイール11の角度位置と実質的に等しい)を検出するエンコーダを備えている。
トルクセンサ23は、電動アクチュエータ21とステアリングホイール11との間でステアリングシャフト12に挿入され、ステアリングシャフト12に作用するトルクを検出するものである。通常、トルクセンサ23が検出するトルクは、運転者がステアリングホイール11に入力する操舵トルクと実質的に等しくなる。
【0014】
操安制御ユニット30は、各車輪のブレーキの制動力を個別に制御する車両操安性制御及びABS制御を行うものである。車両操安性制御は、アンダーステア又はオーバーステアの発生時に、旋回内輪側と外輪側の制動力を異ならせて復元方向のヨーモーメントを発生させるものである。ABS制御(アンチロックブレーキ制御)は、車輪のロック傾向を検出した際に、当該車輪の制動力を低減して回復させるものである。
操安制御ユニット30には、ハイドロリックコントロールユニット(HCU)31、車速センサ32、ヨーレートセンサ33、横加速度(横G)センサ34等が接続されている。
【0015】
HCU31は、各車輪の液圧式サービスブレーキに付与されるブレーキフルード液圧を個別に制御する装置である。HCU31は、ブレーキフルードを加圧するモータポンプ、及び、各車輪のキャリパシリンダへ付与される圧力を調整するソレノイドバルブ等を備えている。
車速センサ32は、各車輪のハブベアリングを保持するハウジングに設けられ、車輪速に応じた車速パルス信号を出力する。この車速パルス信号は、所定の処理を施すことによって、車両の走行速度を求めることができる。
ヨーレートセンサ33及び横Gセンサ34は、車体の鉛直軸回りの回転速度及び横方向の加速度をそれぞれ検出するMEMSセンサを備えている。
【0016】
エンジン制御ユニット40は、車両の走行用動力源であるエンジン及びその補器類を統括的に制御するものである。
トランスミッション制御ユニット50は、エンジンの出力を変速して前後のディファレンシャルへ伝達するオートマティックトランスミッションを統括的に制御するものである。
車両統合ユニット60は、上記各ユニットに関連する以外の車両の電装品を統括的に制御するものである。
車両統合ユニット60には、ターンシグナルスイッチ61が接続されている。ターンシグナルスイッチ61は、ドライバが図示しないターンシグナルランプの点灯及び消灯操作を行うものである。
【0017】
また、参考例の車線逸脱防止装置は、以下説明する車線逸脱防止制御ユニット100を備えている。
車線逸脱防止制御ユニット100は、本発明にいう車線逸脱防止制御装置の本体部であって、上述したEPS制御ユニット20、操安制御ユニット30、エンジン制御ユニット40、トランスミッション制御ユニット50、車両統合ユニット60と、例えばCAN通信システム等の車載LANを介して接続され、各種情報や信号を取得可能となっている。
【0018】
また、車線逸脱防止制御ユニット100は、環境認識手段110、自車進行路推定手段120、偏差制御操舵力算出手段130、横速度検出手段140、横速度制御操舵力算出手段150、目標操舵力設定手段160、操舵力制御手段170等を備えて構成されている。なお、これらの各手段は、それぞれ独立したハードウェアとして構成されてもよく、また、一部又は全部を共通したハードウェアとした構成としてもよい。
【0019】
環境認識手段110は、自車両前方を撮像した画像情報に基づいて、自車両前方の環境を認識し、自車両の走行車線を設定するものである。
環境認識手段110は、ステレオカメラ111、画像処理部112等が接続されている。
【0020】
ステレオカメラ111は、例えば車両のフロントウインドウ上端部のルームミラー基部付近に設けられた一対のメインカメラ及びサブカメラを備えている。メインカメラ及びサブカメラは、それぞれCCDカメラを有して構成されている。メインカメラ及びサブカメラは、車幅方向に離間して設置されている。メインカメラ及びサブカメラは、それぞれ基準画像及び比較画像を撮像し、これらに係る画像データを画像処理部112に出力する。
画像処理部112は、ステレオカメラ111が出力した基準画像及び比較画像の画像データをA/D変換した後、所定の画像処理を施して環境認識手段110に出力するものである。この画像処理には、例えば、各カメラの取付位置誤差の補正や、ノイズ除去、階調の適切化などが含まれる。デジタル化された画像は、例えば、垂直方向及び水平方向にマトリクス状に配列された複数の画素を有する。これらの各画素は、それぞれ被写体の明るさに応じた輝度値を有する。
【0021】
環境認識手段110は、基準画像及び比較画像のデータに基づいて、基準画像上の任意の画素又は複数の画素からなるブロックである画素群の視差を検出する。この視差は、ある画素又は画素群の基準画像上の位置と比較画像上の位置とのずれ量である。この視差を用いると、三角測量の原理により、自車両から当該画素に対応する被写体までの距離を算出することができる。
【0022】
環境認識手段110は、自車両前方の車線両端部に配置された白線の形状を認識することによって、自車両の走行車線を設定する。なお、本明細書、特許請求の範囲等において、白線とは、車線の幅方向における端部に引かれた連続線又は破線を示すものとし、実際の色彩が白色以外(例えば燈色など)の線も含むものとする。
図2は、自車両及び走行車線の平面的配置の一例を示す図である。
環境認識手段110は、基準画像のデータから、路面上に相当する箇所の各画素の輝度データに基づいて白線WL部分を検出する。自車両に対する白線WL部分の画素群の方位は、画像データ上の画素位置に基づいて検出される。具体的には、垂直方向における画素位置が路面上に相当する領域を水平方向に走査し、輝度値が急変する箇所を車線の輪郭として認識する。そして、上述した視差を用いて当該白線部分の画素群の距離を算出することによって、白線の位置を検出する。
【0023】
そして、環境認識手段110は、白線位置の検出を連続的に行なって車両の進行方向に複数の車線候補点PLを設定し、整合のとれない車線候補点PLを無視するとともに、二次の最小二乗近似による補完処理を行うことによって、自車両前方の車線形状を認識する。
ここで、白線WLは、以下の式1によって近似される。
y=ax+bx+c・・(式1)
a,b,c:定数

なお、ここでcは自車両重心から左右車線端までの距離を示し、右側白線のc(C_right)と左側白線のc(C_left)との和は自車両の車線中央からの横偏差を示し、またこれらの差は車線幅を示している。
また、環境認識手段110は、車線左右の白線WLの中央に、目標走行位置Xcを設定する目標走行位置設定手段としても機能する。
【0024】
自車進行路推定手段120は、環境認識手段110からの情報、舵角センサ21、車速センサ32、ヨーレートセンサ33等によって検出される車両の走行状態、及び、既知の車両諸元等に基づいて、自車両の進行路を推定するものである。
自車進行路の推定は、例えば、車両前方の所定の距離である注視距離Zにおける自車両の重心の横位置を算出することによって行う。注視距離Zは、自車両前方の所定の距離であって、例えば自車両が数秒後(例えば約2秒程度)に到達する位置に設定される。
自車両の重心位置を原点とし、車幅方向へ延びるX軸、及び、車体前方側へ延びるZ軸を有する座標系を用いて以下説明する。
注視距離Zにおける自車進行路の横位置Xeは、以下の式2によって求められる。
【数1】


Xe[m]:注視距離における自車両重心の推定横位置
α[rad]:ハンドル角度
A:スタビリティファクタ
V[km/h]:車速
[m]:ホイールベース
sgr:ステアリングギアレシオ
【0025】
偏差制御操舵力算出手段130は、環境認識手段110が設定した目標走行位置Xcと自車進行路推定手段120が算出した自車両OVの横位置Xeとの差分である偏差ΔXに基づいた偏差制御による操舵トルクτ1を算出する。偏差制御操舵力算出手段130は、例えば、偏差ΔXを3乗した値に所定のゲインGxを乗じた3次制御項、及び、偏差ΔXを積分した値に所定のゲインGiを乗じた積分項等を加算することによって操舵トルクτ1を算出する。
この偏差制御操舵力算出手段130は、本発明にいう第1の操舵力設定手段として機能する。
【0026】
横速度検出手段140は、自車両OVの車線に対する横速度V_latを検出するものである。横速度検出手段140は、環境認識手段110が設定する目標走行位置Xcと自車進行路推定手段120が算出する自車両OVの横位置Xeとの偏差ΔXを時間微分することによって、横速度V_latを検出する。
【0027】
横速度制御操舵力算出手段150は、横速度検出手段140が検出した自車両OVの横速度V_latに基づいた横速度制御(以下、横位置ダンピング制御と称する。)による操舵トルクτ2を算出する。横速度制御操舵力算出手段150は、例えば、横速度V_latに所定のゲインGvを乗じて操舵トルクτ2を算出する。
横速度制御操舵力算出手段150は、自車両OVの横位置Xeが所定の不感帯横位置外にあり、横速度V_latが車線逸脱方向へ向かうものであって、かつドライバの介入及び他制御の作動がない場合にのみ操舵トルクτ2を設定する。この点については後に詳しく説明する。
図3は、横位置ダンピング制御の効果を示す模式的平面図である。図3に示すように、自車両OVが白線WLに接近する方向の横速度V_latを持って逸脱傾向を有する場合に、横位置ダンピング制御による横速度V_latに応じた操舵トルクτ2は、ダッシュポットを有する仮想ダンパと類似する効果を発揮し、車線逸脱に対する抗力として働く。
この横速度制御操舵力算出手段150は、本発明にいう第2の操舵力設定手段として機能する。
【0028】
目標操舵力設定手段160は、偏差制御操舵力算出手段130及び横速度制御操舵力算出手段150がそれぞれ算出した操舵トルクτ1,τ2を加算し、必要な補正等を施すことによって目標操舵トルクτを設定するものである。
【0029】
操舵力制御手段170は、目標操舵力設定手段160が設定した目標操舵トルクτに基づいて、EPS制御ユニット20を介して電動アクチュエータ21を駆動させ、操舵機構10に操舵トルクを付与させるものである。
目標操舵力設定手段160及び操舵力制御手段170は、協働して本発明にいう操舵力制御手段として機能する。
【0030】
次に、参考例の車線逸脱防止制御装置における横位置ダンピング制御について説明する。
図4は、横位置ダンピング制御を示すフローチャートである。以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:環境認識>
環境認識手段110は、自車両OVの車線内横位置として、偏差ΔX=Xc−Xeを計測する。
その後、ステップS02に進む。
【0031】
<ステップS02:白線内横速度計算>
横速度検出手段140は、偏差ΔXの微分値に基づいて自車両OVの車線に対する横速度V_latを算出する。
その後、ステップS03に進む。
【0032】
<ステップS03:不感帯領域判断>
横速度制御操舵力算出手段150は、自車両OVの横位置Xeの目標走行位置Xcに対する偏差ΔXが所定の閾値である不感帯横位置以上である場合は、自車両が不感帯領域外にあるものとしてステップS04に進み、その他の場合は不感帯領域内にあるものとしてステップS01に戻ってそれ以降の処理を繰り返す。ここで、不感帯領域は、走行車線の中央部に設定され、その内部に自車両がいる場合には横位置ダンピング制御による操舵トルクを設定しない領域である。
【0033】
<ステップS04:車線横速度方向判断>
横速度制御操舵力算出手段150は、自車両OVの車線に対する横速度V_latの方向を判断する。具体的には、車線内横位置と横速度方向との符号を判別し、これらが同符号である場合は自車両OVが車線から逸脱する方向の横速度V_latを持っているものとしてステップS05に進み、異符号である場合は自車両OVが車線中央側へ戻る方向の横速度V_latを持っているものとしてステップS01に戻り、それ以降の処理を繰り返す。
【0034】
<ステップS05:ドライバ介入判断>
横速度制御操舵力算出手段150は、ドライバが意図的に車線を逸脱するために介入しているか否かを判断する。具体的には、ターンシグナルスイッチ61がオフであり、かつトルクセンサ23の出力が所定の閾値以下の場合には、ドライバによる介入がないものとしてステップS06に進み、その他の場合にはドライバによる介入があるものとしてステップS01に戻り、それ以降の処理を繰り返す。
【0035】
<ステップS06:他制御作動状況判断>
横速度制御操舵力算出手段150は、操安制御ユニット30が上述した車両操安性制御又はABS制御を実行している場合は、自車両OVが緊急回避の必要な非常事態にあるものとして、操舵支援は行わずステップS01に戻って以降の処理を繰り返し、その他の場合はステップS07に進む。
【0036】
<ステップS07:横位置ダンピング制御実施>
横速度制御操舵力算出手段150は、上述した横位置ダンピング制御による操舵トルクτ2の設定を行なう。この操舵トルクτ2は、目標操舵力設定手段160が設定する目標操舵トルクτに反映され、電動アクチュエータ21によって操舵機構10に付与される。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0037】
以上説明した参考例によると、以下の効果を得ることができる。
(1)横速度V_latに基づいて逸脱を防止する方向へ操舵トルクτ2を設定し、これに基づいて操舵機構10に操舵トルクτを付与することによって、突発的な外乱によって発生する速い横速度V_latに対してダンピング効果を発揮して車線逸脱を防止することができる。
(2)自車両OVが車線の中央部に設定された不感帯領域を走行中である場合に横位置ダンピング制御を中止することによって、ドライバが車線内で自車両OVの走行位置をずらしたい場合に横速度V_latに応じた操舵トルクτ2が設定されて干渉が生じることがなく、ドライバに違和感を与えることがない。
(3)自車両OVが走行車線から逸脱する方向の横速度V_latを検出した場合にのみ横位置ダンピング制御に基づく操舵力τ2を付加することによって、自車両OVが車線中央側へ戻ることを妨げない。
(4)ターンシグナルスイッチ61によってターンシグナル操作が検出された場合には横位置ダンピング制御を中止することによって、ドライバが意図的に車線を逸脱しようとした場合に干渉が生じにくく、違和感を与えることがない。
【0038】
次に、本発明を適用した車線逸脱防止制御装置の実施例について説明する。なお、上述した参考例と実質的に同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
実施例の車線逸脱防止制御装置は、参考例の車線逸脱防止制御ユニット100に代えて、以下説明する車線逸脱防止制御ユニット200を備えている。
車線逸脱防止制御ユニット200は、参考例の車線逸脱防止制御ユニット100における横速度制御操舵力算出手段150に代えて、以下説明するゲイン補正手段210、逸脱判定手段220、閾値補正手段230等を備えている。
【0039】
ゲイン補正手段210は、横速度検出手段140が検出する自車両OVの対車線横速度V_latに応じて、偏差制御操舵力算出手段130の3次制御のゲインを補正するものである。
図6は、ゲイン補正手段210によりゲインを補正した際の偏差ΔXに対する操舵トルクτの変化を示すグラフである。
ゲイン補正手段210は、横速度V_latの増加に応じて3次制御のゲインを、G0からG1へ、さらにG1からG2へと増加させる。その結果、図6に示すように、操舵トルクτも大きくなり、特に偏差ΔXが大きい領域では操舵トルクτの増大が顕著となる。
【0040】
逸脱判定手段220は、目標走行位置Xcと自車両の横位置Xeとの偏差ΔXが、所定の閾値を超えた場合に自車両の逸脱を判定するものである。逸脱判定が成立した場合は、目標操舵力設定手段160は、例えば目標操舵トルクτの中に周期的にオンオフされるパルス状の成分τpを含ませることによって、ステアリングホイール11を振動させ、ドライバに逸脱を知らせる警報制御を行う。
【0041】
閾値補正手段230は、横速度検出手段140が検出する自車両OVの横速度V_latに応じて、逸脱判定手段220において用いられる閾値を補正するものである。閾値補正手段230は、横速度V_latの増加に応じて、閾値をΔX0からΔX1へ、さらにΔX1からΔX2へ変更する補正を行う。
図7は、自車両横位置と逸脱判定閾値との関係を示す模式的平面図である。閾値は、横速度の増加に応じて車線中央側(目標走行位置Xc側)へシフトされ、その結果、逸脱判定が成立するタイミングは早くなる。
【0042】
次に、実施例の車線逸脱防止制御装置における逸脱防止閾値及びゲインの変更制御について説明する。
図8は、逸脱防止閾値及びゲインの変更制御を示すフローチャートである。以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS11:環境認識>
環境認識手段110は、自車両OVの車線内横位置として、偏差ΔX=Xc−Xeを計測する。
その後、ステップS12に進む。
【0043】
<ステップS12:白線内横速度計算>
横速度検出手段140は、偏差ΔXの微分値に基づいて自車両OVの車線に対する横速度V_latを算出する。
その後、ステップS13に進む。
<ステップS13:逸脱判定横位置設定>
逸脱判定手段220は、逸脱判定用の閾値である逸脱判定横位置をΔX0に設定する。
その後、ステップS14に進む。
【0044】
<ステップS14:ドライバ介入判断>
ゲイン補正手段210及び閾値補正手段230は、ドライバが意図的に車線を逸脱するために介入しているか否かを判断する。具体的には、ターンシグナルスイッチ61がオフであり、かつトルクセンサ23の出力が所定の閾値以下の場合には、ドライバによる介入がないものとしてステップS15に進み、その他の場合にはドライバによる介入があるものとしてステップS11に戻り、それ以降の処理を繰り返す。
【0045】
<ステップS15:車両横速度判断(1)>
ゲイン補正手段210及び閾値補正手段230は、横速度V_latが所定の横速度閾値1以上であるか判断し、横速度閾値1以上であるときはステップS16に進み、その他の場合はステップS11に戻り、それ以降の処理を繰り返す。
<ステップS16:車両横速度判断(2)>
ゲイン補正手段210及び閾値補正手段230は、横速度V_latが所定の横速度閾値2以上であるか判断し、横速度閾値2以上であるときはステップS17に進み、その他の場合はステップS19に進む。ここで、横速度閾値2は、上述した横速度閾値1よりも大きく設定されている。
【0046】
<ステップS17:白線横位置シフトΔX2を設定>
閾値補正手段230は、逸脱判定手段220において用いられる逸脱判定用の閾値として、初期値であるΔX0よりも車線中央側にオフセットした閾値ΔX2を設定する。この閾値ΔX2は、閾値ΔX1に対して車線中央側にオフセットされている。
逸脱判定手段220は、この閾値ΔX2を用いて逸脱判定を行う。
その後、ステップS18に進む。
<ステップS18:3次制御のゲインG2を設定>
ゲイン補正手段210は、偏差制御操舵力算出手段130において用いられる3次制御のゲインとして、初期値であるゲインG0よりも大きいゲインG2を設定する。このゲインG2は、ゲインG1に対して大きく設定されている。
偏差制御操舵力算出手段130は、このゲインG2を用いて操舵トルクτ1の算出を行う。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0047】
<ステップS19:白線横位置シフトΔX1を設定>
閾値補正手段230は、逸脱判定手段220において用いられる逸脱判定用の閾値として、初期値であるΔX0よりも車線中央側にオフセットした閾値ΔX1を設定する。
逸脱判定手段220は、この閾値ΔX1を用いて逸脱判定を行う。
その後、ステップS20に進む。
<ステップS20:3次制御のゲインG1を設定>
ゲイン補正手段210は、偏差制御操舵力算出手段130において用いられる3次制御のゲインとして、初期値であるゲインG0よりも大きいゲインG1を設定する。
偏差制御操舵力算出手段130は、このゲインG1を用いて操舵トルクτ1の算出を行う。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0048】
以上説明した実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)横速度V_latの増加に応じて逸脱判定手段220における閾値を走行車線の中央側にシフトすることによって、横速度V_latが大きく逸脱までの余裕時間が短い場合には比較的車線中央側を走行している場合であっても逸脱判定を成立させることによって、逸脱判定が成立するタイミングを早め、ステアリングホイールを振動させて警報を行い、車線逸脱を防止することができる。
(2)横速度V_latの増加に応じて走行車線からの逸脱を防止する方向への3次制御の操舵トルク設定用のゲインを増加補正することによって、横速度V_latが大きく逸脱までの余裕時間が短い場合には復元方向へ大きな操舵トルクを付与し、車線逸脱を防止することができる。
【0049】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)車線逸脱防止制御装置の構成及び制御の内容は、上述した各実施例の構成に限らず、適宜変更することができる。例えば、参考例では、横速度に比例した操舵トルクτ2を付与する構成としたが、これに限らず、横速度の増加に応じて操舵力が得られる構成であれば他の構成としてもよい。例えば、横速度の2次以上の累乗値に比例した操舵力を付与するようにしてもよい。また、実施例では、横速度の増加に応じて3次制御のゲインを増加させているが、横速度の増加に応じて操舵力を増加させる手法は特に限定されない。
(2)実施例では、車線認識手段はステレオカメラを用いて車線形状を検出しているが、本発明はこれに限らず、例えばナビゲーション装置等のために準備された地図データ及び自車位置の測位情報に基づいて車線形状を検出するようにしてもよい。
(3)操舵機構に操舵トルクを付与するアクチュエータの構成は、各実施例のようなコラムアシストタイプのものに限らず、例えば、ステアリングシャフトに接続されたピニオン軸を駆動するピニオンアシストタイプ、ステアリングシャフトに接続されたピニオンと独立したピニオンを駆動するダブルピニオンタイプ、ステアリングラック自体を直進方向に駆動するラック直動タイプ等であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 操舵機構 11 ステアリングホイール
12 ステアリングシャフト 13 ステアリングギアボックス
14 タイロッド FW 前輪
H ハウジング
20 電動パワーステアリング(EPS)制御ユニット
21 電動アクチュエータ 22 舵角センサ
23 トルクセンサ 30 操安制御ユニット
31 ハイドロリックコントロールユニット(HCU)
32 車速センサ 33 ヨーレートセンサ
34 横加速度(横G)センサ 40 エンジン制御ユニット
50 トランスミッション制御ユニット
60 車両統合ユニット 61 ターンシグナルスイッチ
100 車線逸脱防止制御ユニット
110 環境認識手段 120 自車進行路推定手段
130 偏差制御操舵力算出手段 140 横速度検出手段
150 横速度制御操舵力算出手段
160 目標操舵力設定手段 170 操舵力制御手段
200 車線逸脱防止制御ユニット
210 ゲイン補正手段 220 逸脱判定手段
230 閾値補正手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の走行車線からの逸脱を防止するように操舵機構に操舵力を付与する車線逸脱防止制御装置において、
前記走行車線に対する自車両の横速度を検出する横速度検出手段と、
前記走行車線からの逸脱を防止する方向へ、前記走行車線内に設定した目標横位置と自車両の横位置との偏差に応じて該偏差が大きくなる程大きい変化量で増加する操舵力を設定する操舵力設定手段と、
前記横速度の増加に応じて前記走行車線からの逸脱を防止する方向への前記操舵力を増加補正する操舵力補正手段と、
前記操舵力補正手段によって補正された操舵力に基づいて前記操舵機構に操舵力を付与する操舵力制御手段と
を備えることを特徴とする車線逸脱防止制御装置。
【請求項2】
前記操舵力補正手段は、前記偏差又は該偏差の累乗値に前記横速度に基づいて設定される所定のゲインを乗じることにより前記操舵力を補正すること
を特徴とする請求項1に記載の車線逸脱防止制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−91494(P2013−91494A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−6963(P2013−6963)
【出願日】平成25年1月18日(2013.1.18)
【分割の表示】特願2008−199516(P2008−199516)の分割
【原出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】