説明

車線逸脱防止装置

【課題】走行車線から逸脱する傾向にある自車両を走行車線にスムースに復帰させるためのステアリング操作を的確に補助する上で有利なレーン逸脱防止装置を提供する。
【解決手段】車線逸脱判定手段38Aは自車両が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かを判定する。修正用走行軌跡算出手段38Cは自車両が走行車線から逸脱する傾向にあると判定された場合に、自車両が走行車線の中心線に戻るために自車両が走行すべき軌跡である修正用走行軌跡を算出する。理想操舵トルク算出手段22Bは、ステアリング1402が前記の修正用走行軌跡に沿って自車両が走行するように操作された場合に操舵機構1406で発生する操舵トルクを理想操舵トルクとして算出する。第2の操舵補助トルク決定手段22Cは、ステアリング1402が操作された場合に操舵機構1406で発生する操舵トルクが理想操舵トルクに合致するように操舵補助トルクを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自車両が走行車線から逸脱することを防止する車線逸脱防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撮像手段により取得された道路の白線の位置と自車位置とから自車両が走行車線から逸脱する傾向にあると判定された場合に、インジケータやブザーにより車線逸脱の警報を発生させる技術が提案されている。
運転者は、車線逸脱の警報を認識すると、自車両が走行車線から逸脱しないように自車両を走行車線に復帰させるようにステアリングを操作する。
このような運転者のステアリング操作を補助する技術が提案されている(特許文献1参照)。
この技術は、アクチュエータによってステアリング機構に操舵補助力を与えるパワーステアリング装置において、自車両が車線を逸脱する傾向にあると検出されると、車線を逸脱する方向への操舵補助力よりも、元の車線に復帰する方向への操舵補助力が上回るようにアクチュエータを制御するものである。
また、車線逸脱の警報の発生時に運転者によるステアリングの急激な操作を抑制するために、車線逸脱の警報が発生している状態では、ステアリング操作の応答性が鈍くなるようにステアリングギア比を制御する技術が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−187582号公報
【特許文献2】特開2009−286154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した前者の従来技術では、自車両を走行車線に復帰させる際のステアリング操作を円滑に行う上で好ましい反面、運転者がステアリングを逸脱方向と反対方向に切り過ぎた場合にステアリング操作を抑制できないため、的確なステアリング操作を実現する上で十分とはいえない。
また、後者の従来技術では、運転者がステアリングを逸脱方向と反対方向に切り過ぎた場合にステアリング操作を抑制できる反面、自車両を元の走行車線に復帰させる際のステアリング操作までもが抑制されるため、的確なステアリング操作を実現する上で十分とはいえない。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、自車両が走行車線から逸脱傾向にあると判定された場合に、自車両を走行車線にスムースに復帰させるためのステアリング操作を的確に補助する上で有利なレーン逸脱防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、運転者によるステアリングの操作に基づいて操舵補助トルクを操舵系に付与するパワーステアリング装置を備えた車両の車線逸脱防止装置であって、走行車線に対する自車両の位置関係を示す自車両位置情報に基づいて前記自車両が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かを判定する車線逸脱判定手段と、前記自車両が走行車線から逸脱する傾向にあると判定された場合に、前記自車両位置情報および前記自車両の走行状態に関する走行状態情報に基づいて前記自車両が前記走行車線の中心線に戻るために前記自車両が走行すべき軌跡である修正用走行軌跡を算出する修正用走行軌跡算出手段と、前記ステアリングが前記修正用走行軌跡に沿って前記自車両が走行するように操作された場合に前記操舵系で発生する操舵トルクを理想操舵トルクとして算出する理想操舵トルク算出手段と、前記ステアリングが操作された場合に前記操舵系で発生する操舵トルクが前記理想操舵トルクに合致するように前記操舵補助トルクを決定する操舵補助トルク決定手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、自車両が走行車線から逸脱する傾向にあると判定された場合に、ステアリングが、自車両が走行すべき軌跡である修正用走行軌跡に沿って自車両が走行するように操作された場合に操舵系で発生する操舵トルクを理想操舵トルクとして算出する。そして、ステアリングが操作された場合に操舵系で発生する操舵トルクが理想操舵トルクに合致するように操舵補助トルクを決定する。
したがって、自車両を走行車線にスムースに復帰させるためのステアリング操作を的確に補助する上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施の形態に係る車線逸脱防止装置10が設けられた車両の制御系の構成を示すブロック図である。
【図2】操舵トルクおよび操舵補助トルク(モータ駆動電流値)の関係を示す第1のアシストマップを示す説明図である。
【図3】車線逸脱判定手段38Aの構成を示す機能ブロック図である。
【図4】横ずれ量yfと、ヨー角Θfと、道路曲率ρfとの導出手順を説明する図である。
【図5】(A)は、走行車線から逸脱する傾向にある自車両2が修正用走行軌跡に沿って走行車線の中心線に復帰する場合を説明する図、(B)は(A)で示される自車両の各位置に対応する理想操舵トルク値を示す線図である。
【図6】(A)、(B)、(C)は、図5(A)、(B)における自車両2の位置P1、P2、P3に対応する操舵トルクおよび操舵補助トルク(モータ駆動電流値)の関係を示す第2のアシストマップを示す説明図である。
【図7】車線逸脱防止装置10の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態の車線逸脱防止装置10について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施の形態の車線逸脱防止装置10は、パワーステアリング装置12を備える車両に設けられている。
本実施の形態では、パワーステアリング装置12は、操舵系14と、操舵トルクセンサ16と、パワーステアリングモータ18と、車速センサ20と、パワーステアリングECU22とを含んで構成されている。
【0009】
操舵系14は、車両を操舵する際に操作されるステアリング1402と、ステアリング1402に連結されたステアリングシャフト1404と、ステアリングシャフト1404の回転に基づいて操舵輪を操舵する操舵機構1406などを含んで構成されている。
操舵トルクセンサ16は、操舵機構1406に設けられ、運転者によるステアリング1402の操作によりステアリングシャフト1404に加えられた操舵トルクを検出するものである。
パワーステアリングモータ18は、操舵機構1406に操舵補助トルクを付与するアクチュエータである。
車速センサ20は、自車両の走行速度を検出するものである。
【0010】
パワーステアリングECU22は、CPU、制御プログラム等を格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成されており、前記制御プログラムを実行することにより動作する。
パワーステアリングECU22は、前記CPUが動作することにより、第1の操舵補助トルク決定手段22Aと、モータ制御手段22Dと、後述する理想操舵トルク算出手段22Bと、後述する第2の操舵補助トルク決定手段22Cとを実現する。
【0011】
第1の操舵補助トルク決定手段22Aは、操舵トルクセンサ16によって検出された操舵トルクと、車速センサ20によって検出された車速とに基づいて、操舵機構1406に付与すべき操舵補助トルクを決定するものである。
【0012】
モータ制御手段22Dは、第1の操舵補助トルク決定手段22Aによって決定された操舵補助トルクが操舵機構1406に付与されるようにパワーステアリングモータ18を駆動制御するものである。
具体的には、図2に示すように、操舵トルクおよび操舵補助トルク(モータ駆動電流値)の関係を示す第1のアシストマップが予め定められており、第1のアシストマップは、例えば、パワーステアリングECU22のROMなどに格納されている。
そして、第1の操舵補助トルク決定手段22Aによる操舵補助トルクの決定は、操舵トルクセンサ16によって検出された操舵トルクに対応する操舵補助トルク(モータ駆動電流値)を第1のアシストマップから特定することによってなされる。
そして、モータ制御手段22Dによるパワーステアリングモータ18の駆動制御は、第1のアシストマップから決定された操舵補助トルク(モータ駆動電流値)に基づいてなされる。
すなわち、パワーステアリング装置12は、運転者によるステアリング1402の操作に基づいて操舵補助トルクを操舵系14に付与するものである。
【0013】
より詳細に説明すると、図2において横軸は操舵トルクを示し、右方向の操舵を正の操舵トルク値で、左方向の操舵を負の操舵トルク値で示している。また、縦軸は操舵補助トルク(モータ駆動電流値)を示し、右方向の操舵を正の操舵補助トルク値(モータ駆動電流値)で、左方向の操舵を負の操舵補助トルク値(モータ駆動電流値)で示している。
ステアリング1402を右方向あるいは左方向に操作した場合、その操作量が増えるほど(言い換えるとステアリング1402を切り込むほど)、操舵トルク値の絶対値は増大する。
本実施の形態では、図2に示すように、操舵トルク値の絶対値が0から増大するほど、操舵補助トルク値(モータ駆動電流値)の絶対値が増大し、やがて、操舵トルク値が予め定められたしきい値を超えると操舵補助トルク値(モータ駆動電流値)が一定値となっている。
なお、以下では、説明の簡単化を図るため、「操舵トルク値および操舵補助トルク値(モータ駆動電流値)の絶対値が増大あるいは減少する」ということを、単に「操舵トルク値および操舵補助トルク値(モータ駆動電流値)が増大あるいは減少する」ということにする。
【0014】
次に、車線逸脱防止装置10について説明する。
図1に示すように、車線逸脱防止装置10は、前方カメラ24と、インジケータ26と、ブザー28と、前記の操舵トルクセンサ16と、前記の車速センサ20と、ハンドル角センサ30と、シフト位置センサ32と、アクセル開度センサ34と、ヨーレートセンサ36と、車線逸脱警報ECU38とを含んで構成されている。
また、車線逸脱警報ECU38、パワーステアリングECU22、前方カメラ24、インジケータ26、ブザー28、および、前述した各センサ16、20、30、32、34、36は、それぞれCAN(Controller Area Network)バス40などの従来公知のバスを介して情報、データの授受を行う。
【0015】
前方カメラ24は、車両に設けられ、車両の前方の道路状態を撮像することにより画像情報を生成するものである。したがって、画像情報には、道路の走行車線(走行レーン)を区分する左右の境界線としての白線が含まれる。
インジケータ26は、車室内の例えばインストルメントパネルなどの適宜箇所に設けられ、自車両が走行車線を逸脱する傾向となったことを示す警告表示を行うものである。このような警告表示として、例えば、ランプを点灯あるいは点滅させたり、あるいは、アイコンや文字、記号などの表示させるなど、従来公知のさまざまな表示が可能である。
ブザー28は、車室内の例えばインストルメントパネルなどの適宜箇所に設けられ、自車両が走行車線を逸脱する傾向となったことを示す警告音を鳴動させるものである。
なお、本明細書において、「自車両が走行車線を逸脱する傾向にある」とは、自車両が走行車線から2本の白線のうち一方の白線に近接していくような状態と、自車両が白線を超えた状態(走行車線を逸脱した状態)とを含むものとする。
【0016】
ハンドル角センサ30は、操舵系14に設けられ、ステアリング1402の回転角度であるハンドル角(操舵角)を検出するものである。
シフト位置センサ32は、シフトレバーの位置を検出するものである。
アクセル開度センサ34は、アクセルの開度を検出するものである。
ヨーレートセンサ36は、車両のヨーレートを検出するものである。
【0017】
車線逸脱警報ECU38は、CPU、制御プログラム等を格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成されており、前記制御プログラムを実行することにより動作する。
車線逸脱警報ECU38は、前記CPUが動作することにより、車線逸脱判定手段38Aと、車線逸脱警報手段38Bと、修正用走行軌跡算出手段38Cとを実現する。
また、車線逸脱防止装置10は、前記のパワーステアリングECU22で構成された理想操舵トルク算出手段22Bと、第2の操舵補助トルク決定手段22Cとを含んでいる。
なお、本実施の形態では、第2の操舵補助トルク決定手段22Cが特許請求の範囲における「操舵補助トルク決定手段」を構成している。
【0018】
車線逸脱判定手段38Aは、走行車線に対する自車両の位置関係を含む自車両位置情報に基づいて自車両が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かを判定するものである。
本実施の形態では、車線逸脱判定手段38Aは、例えば、図3に示すように、白線認識部42と、横ずれ量推定部44と、ヨー角推定部46と、道路曲率推定部48と、判定部50とを含む。
【0019】
白線認識部42は、前方カメラ24により撮影された画像情報を処理して道路上の白線を認識するものである。
この白線認識部42では、撮影された画像情報に対して横方向に輝度変化を探索するなど公知の方法(例えば特開平11−147481号公報に開示されている)で画像内の白線を認識する。
すなわち、白線認識部42では、白線は他の道路面よりも輝度が高い点に着目して、画像の横方向に輝度変化の大きい個所が所定距離(白線の幅に相当する距離)以内に2点並んでいたらこの間に白線があるものと想定して、このような横方向への白線候補点の探索を画像の各上下位置において多数行なうことにより、自車両前方の道路上の白線を遠方まで認識することができる。
そして、例えば、画像を幾何学的に平面視状態に置き換えることにより、図4に示すように、自車両2前方の道路上の白線Lwを平面視で認識することができる。
このようにして、自車両2前方の走行車線を規定する左右の白線Lwを認識できると、例えば左右の白線Lwの中点を結んだ直線又は曲線として自車両2前方の走行車線の中心線Lcを推定することができる。
【0020】
横ずれ量推定部44は、白線認識部42によって認識された白線Lwに基づいて、所定距離だけ前方における自車両2の走行車線内での横ずれ量yfを推定するものである。
すなわち、横ずれ量推定部44では、自車両2が現在の向きのまま所定距離前方まで直進した場合に自車両2の幅方向中心の走行車線の中心線Lcからの左右への横ずれ量(横ずれ距離)yfを、上記のように推定した走行車線(中心線Lc又は白線Lw)と自車両2との関係から推定する。
この所定距離前方での自車両2の横ずれ量yfは、例えば、画像内の所定の高さ(自車両2の所定距離前方に相当する)における画像の左右中心と画像内の走行車線の中心線Lcとの位置関係から求めることもできる。
ここで、横ずれ量yfは、走行車線に対する自車両2の位置関係を示す自車両位置情報である。
【0021】
ヨー角推定部46は、白線認識部42によって認識された白線Lwに基づいて、所定距離だけ前方における自車両2の走行車線方向に対するヨー角Θfを推定するものである。
すなわち、ヨー角推定部46では、自車両2が現在の向きのまま所定距離前方まで直進した場合における走行車線の方向と自車両2の方向との角度(ヨー角)Θfを、上記のように推定した走行車線(中心線Lc又は白線Lw)と自車両2との関係から推定する。
このヨー角Θfは、例えば、上述のように認識した平面視状態での道路上の道路中心線Lc(或いは白線Lw)の方向と自車両2の方向とから算出できる。
ここで、ヨー角Θfは、走行車線に対する自車両2の位置関係を示す自車両位置情報である。
【0022】
道路曲率推定部48は、白線認識部42によって認識された白線Lwに基づいて、所定距離だけ前方における走行車線の道路曲率ρfを推定するものである。
すなわち、道路曲率推定部48では、所定距離前方における走行車線の道路曲率ρfを、上記のように推定した走行車線(中心線Lc又は白線Lw)の形状から推定する。
【0023】
判定部50は、横ずれ量推定部44で推定された横ずれ量yfと、ヨー角推定部46で推定されたヨー角Θfと、道路曲率推定部48で推定された道路曲率ρfと、車速センサ20で検出された自車両2の車速Vと、ハンドル角センサ30で検出された自車両2のハンドル角αと、ヨーレートセンサ36で検出された自車両2のヨーレイトrとから、自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かを判定する。
上述したように、本実施の形態では、判定部50は、走行車線に対する自車両2の位置関係を示す自車両位置情報としての横ずれ量yfおよびヨー角Θfに加えて、道路曲率ρfと、車速Vと、ハンドル角αと、ヨーレイトrとを加味して自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かを判定する。
なお、判定部50は、自車両位置情報としての横ずれ量yfおよびヨー角Θfのみに基づいて自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かを判定してもよいが、本実施の形態のようにすると、自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かの判定をより的確に得る上で有利となる。
【0024】
図1に示すように、修正用走行軌跡算出手段38Cは、自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあると判定された場合に、前記の自車両位置情報(横ずれ量yfおよびヨー角Θf)と、自車両2の走行状態に関する走行状態情報とに基づいて自車両2が走行車線の中心線Lcに戻るために自車両2が走行すべき軌跡である修正用走行軌跡を算出するものである。
本実施の形態では、走行状態情報は、車速Vと、道路曲率ρf(自車両2が走行している道路の曲率半径)とを含む。
より詳細には、修正用走行軌跡算出手段38Cは、前記の自車両位置情報および走行状態情報をパラメータとして、クロソイド曲線などの曲線と、直線との組み合わせによって修正用走行軌跡の算出を行う。
修正用走行軌跡は、自車両2が走行した際に、自車両2において発生する横速度あるいはヨーレートが予め定められた上限値を上回らない状態で円滑に走行車線に復帰できる走行軌跡である。
なお、走行状態情報は、さらに、予め定められた自車両2の最大ヨーレート(あるいは最大横加速度)と、予め定められた自車両2の最大旋回半径とを含んでいてもよく、最大ヨーレート(あるいは最大横加速度)と最大旋回半径とを用いると、修正用走行軌跡をより的確に算出する上で有利となっている。
【0025】
理想操舵トルク算出手段22Bは、ステアリング1402が前記の修正用走行軌跡に沿って自車両2が走行するように操作された場合に操舵系14で発生する操舵トルクを理想操舵トルクとして算出するものである。
この場合、理想操舵トルク算出手段22Bによる理想操舵トルクの算出は、車両走行時に各センサから得られる情報を用いて行われる。
これらの情報としては、操舵トルクセンサ16で検出される操舵トルク、車速センサ20で検出される車速、ハンドル角センサ30で検出されるハンドル角、シフト位置センサ32で検出されるシフト位置、アクセル開度センサ34からのアクセル開度などの情報が挙げられる。
【0026】
第2の操舵補助トルク決定手段22Cは、ステアリング1402が操作された場合に操舵系14で発生する操舵トルクが前記の理想操舵トルクに合致するように操舵補助トルクを決定するものである。
決定された操舵補助トルクがモータ制御手段22Dに与えられると、モータ制御手段22Dは操舵補助トルクに対応するモータ駆動電流をパワーステアリングモータ18に供給する。
決定された操舵補助トルクが操舵系14(操舵機構1406)に付与されることにより、運転者によるステアリング1402の操作は、操舵トルクが理想操舵トルクに合致するように補助される。
すなわち、第2の操舵補助トルク決定手段22Cは、操舵トルクが理想操舵トルクに近づくほど運転者がステアリング1402の操作を軽く感じ、かつ、操舵トルクが理想操舵トルクから遠ざかるほどステアリング1402の操作を重く感じるように操舵補助トルクを決定する。
【0027】
本実施の形態では、第2の操舵補助トルク決定手段22Cによる操舵補助トルクの決定は、第2のアシストマップに基づいてなされる。なお、本実施の形態では、第2のアシストマップが特許請求の範囲の「アシストマップ」に相当している。
具体的には、第2のアシストマップは、図6(A)、(B)、(C)に示すように、理想操舵トルクごとに、操舵トルクおよび操舵補助トルクの関係を示すものである。
第2のアシストマップは、例えば、パワーステアリングECU22のROMなどに格納されている。
そして、第2の操舵補助トルク決定手段22Cによる操舵補助トルクの決定は、操舵トルクセンサ16によって検出された操舵トルクに対応する操舵補助トルク(モータ駆動電流値)を第2のアシストマップから特定することによってなされる。
そして、モータ制御手段22Dによるパワーステアリングモータ18の駆動制御は、第2のアシストマップから決定された操舵補助トルク(モータ駆動電流値)に基づいてなされる。
なお、本実施の形態では、第2のアシストマップを用いて操舵補助トルクの決定を行うようにしたが、理想操舵トルク毎に、操舵トルクに応じた操舵補助トルクを算出して決定しても良い。しかしながら、本実施の形態のようにすると、操舵補助トルクの決定を行う処理の軽減を図る上で有利となる。
【0028】
次に、車線逸脱防止装置10の動作について図7のフローチャートを参照して説明する。
まず、動作説明のために必要な図5、図6について説明する。
図5(A)は、走行車線から逸脱する傾向にある自車両2が修正用走行軌跡に沿って走行車線の中心線Lcに復帰する場合を説明する図であり、図の右方から左方に自車両2が走行している。
図5(B)は(A)で示される自車両2の各位置に対応する理想操舵トルク値を示す線図である。
なお、図中、符号P1、P2、P3は修正用走行軌跡に沿って走行する自車両2の位置を示している。
【0029】
図6(A)、(B)、(C)は、図5(A)、(B)における自車両2の位置P1、P2、P3に対応する第2のアシストマップを示している。
図中、太い破線は理想操舵トルク値を示し、実線は第2のアシストマップにおける操舵補助トルク値を示す。
また、細い破線は第1のアシストマップにおける操舵補助トルク値を示しており、比較のために示す。
【0030】
次に、図7のフローチャートを参照して説明する。
まず、車線逸脱判定手段38Aによって自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かが判定される(ステップS10)。
ステップS10が否定ならばステップS10を繰り返す。
ステップS10が肯定ならば、車線逸脱警報手段38Bによってインジケータ26による警告表示動作、ブザー28による警告音の鳴動動作がなされる。
次に、修正用走行軌跡算出手段38Cは、自車両位置情報および走行状態情報に基づいて、図5(A)に示すように、自車両2が走行車線の中心線Lcに戻るために自車両2が走行すべき軌跡である修正用走行軌跡L0を算出する(ステップS14)。
次に、理想操舵トルク算出手段22Bは、ステアリング1402が修正用走行軌跡L0に沿って自車両2が走行するように操作された場合に操舵機構1406で発生する操舵トルクを図5(B)に示すように理想操舵トルクとして算出する(ステップS16)。
次に、第2の操舵補助トルク決定手段22Cは、ステアリング1402が操作された場合に操舵機構1406で発生する操舵トルクが理想操舵トルクに合致するように操舵補助トルクを決定する(ステップS18)。
次に、パワーステアリング装置10は決定された操舵補助トルクを操舵系14に付与する(ステップS20)。
なお、ステップS18、S20については後述する。
これ以降、自車両2が走行車線の中心線Lcに復帰して修正操舵が終了するまで、ステップS14〜S20の動作が繰り返して実行される(ステップS22)。
なお、自車両2が走行車線の中心線Lcに復帰して修正操舵が終了したことの判定は、例えば、車線逸脱判定手段38Aによる判定結果に基づいて行われる。
【0031】
図5、図6に基づいてステップS18、S20について具体的に説明する。
第2の操舵補助トルク決定手段22Cは、図6(A)、(B)、(C)に示す第2のアシストマップに基づいて操舵補助トルクを決定する。
図5(A)の位置P1に対応する第2のアシストマップは図6(A)に示すようなものである。
すなわち、自車両2は位置P1において、走行車線の中心線Lcに対して右方に逸脱する傾向となっており、したがって、ステアリング1402を左向きに操作する必要がある。
この場合、図6(A)に破線で示されているように理想操舵トルク値が決定される。
この第2のアシストマップでは、ステアリング1402を左向きに操舵する場合(操舵トルクが負の領域)、操舵補助トルクは、理想操舵トルク値で最大となり、理想操舵トルクから遠ざかるほど、操舵補助トルクが減少するように設定されている。
すなわち、この場合、第2の操舵補助トルク決定手段22Cは、操舵トルクが理想操舵トルクに近づくほど操舵補助トルクが大きくなり、かつ、操舵トルクが理想操舵トルクから遠ざかるほど操舵補助トルクが小さくなるように操舵補助トルクを決定する。
したがって、ステアリング1402の操作を行う際に、操舵トルクが理想操舵トルクに近づくほどステアリング操作を軽く感じ、操舵トルクが理想操舵トルクから遠ざかるほどステアリング操作を重く感じるようになる。
【0032】
また、操舵補助トルクは、ステアリング1402が中立位置から左向きに操作されると(操舵トルクが0から負の領域となると)、直ちに付与されるように、言い換えると、ステアリング1402の操作の初期段階から直ちに操舵補助トルクが付与されるように設定されている。
したがって、ステアリング1402の操作を行う際に、操舵トルクが理想操舵トルクに近づくステアリング操作が効果的に補助される。
なお、ステアリング1402を右向きに操舵する場合(操舵トルクが正の領域)、操作補助トルクは、破線で示された第1のアシストマップの場合に比較して抑制されている。
したがって、自車両2をさらに逸脱方向に導くステアリング操作を行おうとすると、運転者はステアリング1402が急に重くなるように感じられることになり、逸脱方向へのステアリング操作が効果的に抑制される。
【0033】
図5(A)の位置P2に対応する第2のアシストマップは図6(B)に示すようなものである。
すなわち、自車両2は位置P2において、走行車線の中心線Lcに対して接近する傾向となっており、したがって、ステアリング1402を中立位置に操作する必要がある。
この場合、図6(B)に破線で示されているように理想操舵トルク値が決定される。
この第2のアシストマップでは、ステアリング1402を中立位置近傍に操舵する場合(操舵トルクが0近傍)は、第1のアシストマップと同様に操舵補助トルクは0(最小)となるように設定されている。
また、ステアリング1402が中立位置よりも左向きあるいは右向きに操作された場合には、操舵補助トルクは、破線で示された第1のアシストマップの場合に比較して抑制されている。
この場合も、ステアリング1402の操作を行う際に、操舵トルクが理想操舵トルクに近づくほど(ステアリング1402が中立位置に近づくほど)ステアリング操作を軽く感じ、操舵トルクが理想操舵トルクから遠ざかるほど(ステアリング1402が中立位置にから遠ざかるほど)ステアリング操作を重く感じるようになる。
したがって、自車両2を左方あるいは右方の逸脱方向に導くステアリング操作を行おうとすると、運転者はステアリング1402が急に重くなるように感じられることになり、逸脱方向へのステアリング操作が効果的に抑制される。
【0034】
図5(A)の位置P3に対応する第2のアシストマップは図6(C)に示すようなものである。
すなわち、自車両2は位置P3において、走行車線の中心線Lcに対して左方に逸脱する傾向となっており、したがって、ステアリング1402を右向きに操作する必要がある。
この場合、図6(C)に破線で示されているように理想操舵トルク値が決定される。
この第2のアシストマップでは、ステアリング1402を右向きに操舵する場合(操舵トルクが正の領域)、操舵補助トルクは、理想操舵トルク値で最大となり、理想操舵トルクから遠ざかるほど、操舵補助トルクが減少するように設定されている。
すなわち、この場合、第2の操舵補助トルク決定手段22Cは、操舵トルクが理想操舵トルクに近づくほど操舵補助トルクが大きくなり、かつ、操舵トルクが理想操舵トルクから遠ざかるほど操舵補助トルクが小さくなるように操舵補助トルクを決定する。
したがって、ステアリング1402の操作を行う際に、操舵トルクが理想操舵トルクに近づくほどステアリング操作を軽く感じ、操舵トルクが理想操舵トルクから遠ざかるほどステアリング操作を重く感じるようになる。
【0035】
また、操舵補助トルクは、ステアリング1402が中立位置から右向きに操作されると(操舵トルクが0から正の領域となると)、直ちに付与されるように、言い換えると、ステアリング1402の操作の初期段階から直ちに操舵補助トルクが付与されるように設定されている。
したがって、ステアリング1402の操作を行う際に、操舵トルクが理想操舵トルクに近づくステアリング操作が効果的に補助される。
なお、ステアリング1402を左向きに操舵する場合(操舵トルクが負の領域)、操作補助トルクは、破線で示された第1のアシストマップの場合に比較して抑制されている。
したがって、自車両2をさらに逸脱方向に導くステアリング操作を行おうとすると、運転者はステアリング1402が急に重くなるように感じられることになり、逸脱方向へのステアリング操作が効果的に抑制される。
【0036】
以上説明したように本実施の形態によれば、自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあると判定された場合に、自車両2が走行車線の中心線Lcに戻るために自車両2が走行すべき軌跡である修正用走行軌跡を算出する。ステアリング1402が修正用走行軌跡に沿って自車両2が走行するように操作された場合に操舵系14で発生する操舵トルクを理想操舵トルクとして算出する。そして、ステアリング1402が操作された場合に操舵系14で発生する操舵トルクが理想操舵トルクに合致するように操舵補助トルクを決定する。
したがって、自車両2を走行車線にスムースに復帰させるためのステアリング操作を的確に補助する上で有利となる。
そのため、運転者がステアリングを逸脱方向と反対方向に切り過ぎた場合にステアリング操作を抑制できなかったり、あるいは、自車両2を元の走行車線に復帰させる際のステアリング操作までもが抑制されてしまったりする不都合がなく、的確なステアリング操作を実現する上で有利となる。
【符号の説明】
【0037】
10……車線逸脱防止装置、14……操舵系、1402……ステアリング、22B……理想操舵トルク算出手段、22C……第2の操舵補助トルク決定手段(操舵補助トルク決定手段)、38A……車線逸脱判定手段、38B……車線逸脱警報手段、38C……修正用走行軌跡算出手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によるステアリングの操作に基づいて操舵補助トルクを操舵系に付与するパワーステアリング装置を備えた車両の車線逸脱防止装置であって、
走行車線に対する自車両の位置関係を示す自車両位置情報に基づいて前記自車両が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かを判定する車線逸脱判定手段と、
前記自車両が走行車線から逸脱する傾向にあると判定された場合に、前記自車両位置情報および前記自車両の走行状態に関する走行状態情報に基づいて前記自車両が前記走行車線の中心線に戻るために前記自車両が走行すべき軌跡である修正用走行軌跡を算出する修正用走行軌跡算出手段と、
前記ステアリングが前記修正用走行軌跡に沿って前記自車両が走行するように操作された場合に前記操舵系で発生する操舵トルクを理想操舵トルクとして算出する理想操舵トルク算出手段と、
前記ステアリングが操作された場合に前記操舵系で発生する操舵トルクが前記理想操舵トルクに合致するように前記操舵補助トルクを決定する操舵補助トルク決定手段とを備える、
ことを特徴とする車線逸脱防止装置。
【請求項2】
前記操舵補助トルク決定手段による前記操舵補助トルクの決定は、前記操舵トルクが前記理想操舵トルクに近づくほど運転者が前記ステアリングの操作を軽く感じ、かつ、前記操舵トルクが前記理想操舵トルクから遠ざかるほど前記ステアリングの操作を重く感じるようになされる、
ことを特徴とする請求項1記載の車線逸脱防止装置。
【請求項3】
前記操舵補助トルク決定手段による前記操舵補助トルクの決定は、前記操舵トルクが前記理想操舵トルクに近づくほど前記操舵補助トルクが大きくなり、かつ、前記操舵トルクが前記理想操舵トルクから遠ざかるほど前記操舵補助トルクが小さくなるようになされる、
ことを特徴とする請求項1記載の車線逸脱防止装置。
【請求項4】
前記走行状態情報は、前記自車両の車速と、前記自車両が走行している道路の曲率半径とを含む、
ことを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の車線逸脱防止装置。
【請求項5】
前記走行状態情報は、前記自車両の最大ヨーレートと、前記自車両の最大旋回半径とをさらに含む、
ことを特徴とする請求項4記載の車線逸脱防止装置。
【請求項6】
前記理想操舵トルクごとに、前記操舵トルクおよび前記操舵補助トルクの関係を示すアシストマップが予め定められており、前記操舵補助トルク決定手段による前記操舵補助トルクの決定は、前記アシストマップに基づいてなされる、
ことを特徴とする請求項1乃至5に何れか1項記載の車線逸脱防止装置。
【請求項7】
前記自車両が走行車線から逸脱する傾向にあると判定された場合に、前記自車両の車線逸脱傾向を警告する警報動作を行う車線逸脱警報手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1乃至6に何れか1項記載の車線逸脱防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−255817(P2011−255817A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133033(P2010−133033)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】