説明

車載データ記録システム及び車載データ記録方法

【課題】記録するデータの種類及びサンプリングレートが異なる複数の記録モードをより柔軟に切り換え可能な車載データ記録システムを提供すること。
【解決手段】第一群の車載機器2が出力するデータを第一のサンプリングレートで継続的に記録する第一モードと、所定の状態を検出した場合に第二群の車載機器3が出力するデータを第一のサンプリングレートよりも高い第二のサンプリングレートで所定期間記録する第二モードとを併有する車載データ記録システム100は、第一モードで記録されたデータに基づいてデータ異常が発生する機序を解析するデータ異常発生機序解析手段13と、データ異常発生機序解析手段13による解析結果に基づいてデータ異常の発生前に第一モードを第二モードに切り換える記録モード切り替え手段12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載機器が出力するデータを所定のサンプリングレートで継続的に記録する機能と、所定のイベントが発生した場合に限り車載機器が出力するデータをより高いサンプリングレートで所定期間記録する機能とを併有する車載データ記録システム及びその車載データ記録システムが用いる車載データ記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通常時には走行速度を一定の時間間隔で継続的に記録するタコグラフとして動作し、事故発生時には車両の挙動に関するより多くの種類のデータをより短い時間間隔で記録するイベントデータレコーダとして動作する運行状態記録装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この運行状態記録装置は、0.5秒間隔で走行速度を記録する第一の記録モードと、0.1秒間隔で周辺監視装置、GPS装置、ジャイロセンサ、ハンドル操舵角度センサ、車輪回転速度センサ、ブレーキ踏圧力センサ及びABSが出力するデータを記録する第二の記録モードとを有し、スピードオーバー、急ブレーキ、車輪ロック、車間距離不足又は急ハンドルを検出した場合に記録モードを第一の記録モードから第二の記録モードに切り換え、運行管理又は事故解析のそれぞれに必要なデータを記録できるようにする。
【0004】
また、この運行状態記録装置は、記録モードを第一の記録モードから第二の記録モードに切り換えた後も、上述のような異常状態を脱した場合には、記録モードを第一の記録モードに復帰させ、更に、第二の記録モードにおいて記録したデータを通信センタに送信した上でそのデータを消去し、或いは、通信センタに送信することなくそのデータを消去することで、データが記録される記憶領域の有効利用を図るようにする。
【特許文献1】特開2002−42288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の運行状態記録装置は、予め登録された所定のイベントが発生したことを検出した場合に限り第二の記録モードを開始させるだけなので、適切なデータを適切なタイミングでかつ適切なサンプリングレートによって記録できない場合がある。
【0006】
上述の点に鑑み、本発明は、記録するデータの種類及びサンプリングレートが異なる複数の記録モードをより柔軟に切り換え可能な車載データ記録システム及び車載データ記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、第一の発明に係る車載データ記録システムは、第一群の車載機器が出力するデータを第一のサンプリングレートで記録する第一モードと、所定の状態を検出した場合に第二群の車載機器が出力するデータを第一のサンプリングレートよりも高い第二のサンプリングレートで記録する第二モードとを併有する車載データ記録システムであって、第一モードで記録されたデータに基づいてデータ異常が発生する機序を解析するデータ異常発生機序解析手段と、前記データ異常発生機序解析手段による解析結果に基づいてデータ異常の発生前に前記第一モードを前記第二モードに切り換える記録モード切り替え手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第二の発明は、第一の発明に係る車載データ記録システムであって、前記データ異常発生機序解析手段は、前記第一モードで記録されたデータに基づいて前記第一モードを前記第二モードに切り換える条件を生成することを特徴とする。
【0009】
また、第三の発明は、第一又は第二の発明に係る車載データ記録システムであって、故障解析用データを前記第一モードで記録するデータ記録手段と、各種車載機器の出力に基づいて事故発生の蓋然性を予測する事故発生予測手段と、を更に備え、事故発生の蓋然性が高いと判定された場合に、前記記録モード切り替え手段は、前記第一モードを前記第二モードに切り換え、前記データ記録手段は、事故解析用データを前記第二モードで記録することを特徴とする。
【0010】
また、第四の発明に係る車載データ記録方法は、第一群の車載機器が出力するデータを第一のサンプリングレートで記録する第一モードと、所定の状態を検出した場合に第二群の車載機器が出力するデータを第一のサンプリングレートよりも高い第二のサンプリングレートで記録する第二モードとを併有する車載データ記録方法であって、第一モードで記録されたデータに基づいてデータ異常が発生する機序を解析するデータ異常発生機序解析ステップと、前記データ異常発生機序解析ステップにおける解析結果に基づいてデータ異常の発生前に前記第一モードを前記第二モードに切り換える記録モード切り替えステップと、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、第五の発明は、第四の発明に係る車載データ記録方法であって、前記第一モードで記録されたデータに基づいて前記第一モードを前記第二モードに切り換える条件を生成する記録モード切り替え条件生成ステップを更に備えることを特徴とする。
【0012】
また、第六の発明は、第四又は第五の発明に係る車載データ記録方法であって、故障解析用データを前記第一モードで記録するデータ記録ステップと、各種車載機器の出力に基づいて事故発生の蓋然性を予測する事故発生予測ステップと、を更に備え、前記事故発生予測ステップにおいて事故発生の蓋然性が高いと判定された場合に、前記記録モード切り替えステップにおいて前記第一モードが前記第二モードに切り換えられ、前記データ記録ステップにおいて事故解析用データが前記第二モードで記録されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上述の手段により、本発明は、記録するデータの種類及びサンプリングレートが異なる複数の記録モードをより柔軟に切り換え可能な車載データ記録システム及び車載データ記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明に係る車載データ記録システムの構成例を示すブロック図であり、車載データ記録システム100は、制御装置1、故障解析用装置2、事故解析用装置3及び記憶装置4から構成され、各構成要素は、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)等の車載LANを介して相互に接続される。
【0016】
制御装置1は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えたコンピュータであって、例えば、データ記録手段10、事故発生予測手段11、記録モード切り替え手段12及びデータ異常発生機序解析手段13のそれぞれに対応するプログラムをROMに記憶しながら、各手段に対応する処理をCPUに実行させる。
【0017】
故障解析用装置2は、車両又は車載装置の故障内容を解析するために用いられるデータ(以下、「故障解析用データ」とする。)を出力する装置であって、例えば、生データを直接出力する一次装置、及び、一次装置による生データの出力に基づいて所定の演算を行い所定の状態であることを表すレベル信号や所定の状態になったことを表すトリガー信号を出力する二次装置を含む。
【0018】
一次装置は、車両周辺に存在する物体までの距離を測定するためのレーダセンサ又はクリアランスソナー、車両の前後方向、上下方向、左右方向の3軸方向の加速度を測定するための加速度センサ、ハンドルの回転速度及び回転角度を測定するための操舵角センサ、スロットルの開き具合を測定するためのスロットル開度センサ、車輪の回転速度及び車両の走行速度を測定するための車速センサ、アクセルペダル若しくはブレーキペダルの踏圧力を測定するための踏圧力センサ、エンジン冷却水の水温等を測定するための水温センサ、トランスミッションオイルの油温等を測定するための油温センサ、車両位置(緯度、経度、高度)を測定するためのGPS(Global Positioning System)センサ、又は、エンジンの回転数を測定するための回転センサ等である。
【0019】
二次装置は、アクセルペダル踏圧力センサの出力に基づいてスロットル開度やブレーキペダル等圧力等をアクチュエータで制御しながらエンジンの動作状態を表す信号を出力するエンジンECU(Electronic Control Unit)、又は、レーダセンサの出力に基づいてスロットル開度やブレーキペダル等圧力等をアクチュエータで制御しながら先行車両若しくは後続車両と自車両との間の車間距離状態を表す信号を出力する車間距離制御ECU等である。
【0020】
また、二次装置は、車輪のロック状態に関するデータを出力するABS(Antilock Brake System)、トラクションの状態に関するデータを出力するTRC(Traction control)装置、車両の横滑り状態に関するデータを出力するVSC(Vehicle Stability Control)装置、又は、車両の前後左右への運動状態に関するデータを出力するVDIM(Vehicle Dynamics Integrated Management)装置等を更に含んでもよい。
【0021】
事故解析用装置3は、事故内容を解析するために用いられるデータ(以下、「事故解析用データ」とする。)を出力する装置であって、例えば、シートベルトの着脱状態に関するデータを出力するシートベルトECU、エアバッグの開閉状態に関するデータを出力するエアバッグECU、事故発生時の画像データを出力する画像センサ(カメラ)、事故発生時の音声に関するデータを出力する車載マイク等を含む。
【0022】
記憶装置4は、制御装置1が故障解析用装置2又は事故解析用装置3から受けたデータを記録するための装置であり、例えば、ハードディスクやフラッシュメモリ等の不揮発性記憶媒体であって、事故発生時の衝撃、火災による熱、又は、水、泥若しくは埃等の異物混入の影響をできるだけ受けないような車室内の位置に耐熱、耐水等の各種対策を施して配置される。
【0023】
次に、制御装置1が有する各種手段について説明する。
【0024】
データ記録手段10は、制御装置1が故障解析用装置2又は事故解析用装置3から受けたデータを記録するための手段であり、例えば、故障解析用データを低サンプリングレート(例えば、0.5秒間隔である。)で記録する低サンプリングモード、事故解析用データを高サンプリングレート(例えば、0.1秒間隔である。)で記録する高サンプリングモード、及び、故障解析用データを中サンプリングレート(例えば、0.3秒間隔である。)で記録する中サンプリングモードを有する。
【0025】
また、データ記録手段10は、低サンプリングモードによる記録を継続的に行い、後述の事故発生予測手段11により事故発生の蓋然性が高いと判定された場合に、高サンプリングモードによる記録を行うようにする。
【0026】
事故発生予測手段11は、事故の発生を予測するための手段であり、例えば、レーダセンサの出力に基づいて先行車両又は後続車両と自車両との間の車間距離が急速に縮まった場合、ABSにより車輪がロックしたことが検出された場合、VSC装置により自車両の横滑りが検出された場合、或いは、急ブレーキ若しくは急ハンドルが実行された場合に事故発生の蓋然性が高いと判定する。
【0027】
また、事故発生予測手段11は、事故の内容(例えば、先行車両と自車両との接触、後続車両と自車両との接触、カーブでの車線逸脱による障害物への衝突等である。)に応じて、データ記録手段10に記録させる事故解析用データの構成を変更するようにしてもよい。
【0028】
例えば、事故発生予測手段11は、先行車両と自車両との接触を予測した場合には、前方を撮影するカメラが出力する画像データを記録させ、後続車両と自車両との接触を予測した場合には、後方を撮影するカメラが出力する画像データを記録させるようにする。
【0029】
また、事故発生予測手段11は、事故発生の蓋然性が高いと判定した時点から所定時間が経過し、かつ、各種車載機器の出力に基づいてその事故が実際には発生しなかったことを確認した場合に、その旨を後述の記録モード切り替え手段12に通知する。
【0030】
また、事故発生予測手段11は、事故発生の蓋然性が高いと判定した時点から所定時間が経過した場合であって、各種車載機器の出力に基づいてその事故が実際に発生したことを確認したときには、データ記録手段10に対して制御信号を出力してデータの記録を中止させてもよい。事故発生から所定時間が経過しても高サンプリングモードによる記録を継続させることで無駄なデータを大量に記録してしまうことがないようにするためである。
【0031】
記録モード切り替え手段12は、データ記録手段10における記録モードを切り換えるための手段であり、例えば、事故発生予測手段11により事故発生の蓋然性が高いと判定された場合に、データ記録手段10に対して制御信号を出力して記録モードを低サンプリングモードから高サンプリングモードに切り換えさせるようにする。
【0032】
また、記録モード切り替え手段12は、事故発生予測手段11により事故発生の蓋然性が高いと判定され記録モードを低サンプリングモードから高サンプリングモードに切り換えた後、事故発生予測手段11からその事故が実際には発生しなかったことの通知を受けた場合には、データ記録手段10に対して制御信号を出力して記録モードを高サンプリングモードから低サンプリングモードに復帰させるようにする。
【0033】
なお、記録モード切り替え手段12は、事故発生予測手段11により事故発生の蓋然性が高いと判定され記録モードを低サンプリングモードから高サンプリングモードに切り換えた後、所定時間が経過しても事故発生予測手段11から何らの通知も得られない場合、或いは、その事故が実際に発生したとの通知を受けた場合には、データ記録手段10に対して制御信号を出力してデータの記録を中止させる。
【0034】
また、記録モード切り替え手段12は、後述のデータ異常発生機序解析手段13により新たに設定された、記録モードを切り替えるための条件が満たされた場合に記録モードを低サンプリングモードから中サンプリングモードに切り換え、また、記録モードを低サンプリングモードから中サンプリングモードに切り換えた後、後述のデータ異常発生機序解析手段13により新たに設定された所定時間が経過した場合に記録モードを中サンプリングモードから低サンプリングモードに復帰させるようにする。
【0035】
データ異常発生機序解析手段13は、データ異常が発生する機序を解析するための手段であり、例えば、低サンプリングモードで記録された過去のデータを記憶装置4から読み出して車両又は車載機器の故障に起因するデータ異常(各種車載機器が出力するデータの通常値の範囲は、予め定義されているものとする。)を抽出し、そのデータ異常が発生する機序(規則性)を解析する。
【0036】
データ異常発生機序解析手段13は、例えば、特定の車載機器が出力するデータのうち異常であるとされるデータを取得した複数の時点のそれぞれに先行する所定時間における、他の車載機器が出力するデータを読み出し、共通する条件(各種車載機器が出力するデータが取り得る範囲、そのデータの変化率(微分値)が取り得る範囲等である。)を導き出す。
【0037】
その上で、データ異常発生機序解析手段13は、例えば、Xkm/時以上で走行中に右にY度以上ハンドルを回転させたときにレーダセンサの出力値が異常となる、或いは、ヘッドライトを点灯させた状態でエアコンの設定温度をZ℃以上に設定した場合にエンジンECUの出力値が異常となるといった、規則性を見つけ出すようにする。
【0038】
また、データ異常発生機序解析手段13は、見つけ出した規則性に基づいて記録モードを切り換えるための条件(以下、「記録モード切り替え条件」とする。)を生成し、また、切り換えた後の記録モードのサンプリングレート及び記録対象となるデータの構成を決定する。個々のデータ異常に応じた必要十分なデータを記録できるようにするためである。
【0039】
なお、制御装置1は、一の車載機器が出力するデータに異常が見られた場合に、他の何れの車載機器が出力するデータをどの程度のサンプリングレートで記録すべきかを表す対応関係テーブルを予めROMに登録しているものとする。
【0040】
次に、図2を参照しながら、車載データ記録システム100が所定条件に基づいて事故の発生を予測し記録モードを低サンプリングモードから高サンプリングモードに切り換える処理(以下、「事故予測時記録モード切り替え処理」とする。)について説明する。
【0041】
なお、図2は、事故予測時記録モード切り替え処理の流れを示すフローチャートであり、車載データ記録システム100は、低サンプリングモードで記録を行っている間、所定周期で繰り返しこの処理を実行するものとする。
【0042】
最初に、制御装置1は、事故発生予測手段11によりレーダセンサ等の出力と予め登録された閾値とを比較しながら事故が発生する蓋然性が高いか否かを判定し(ステップS1)、事故が発生する蓋然性が高いと判定した場合(ステップS1のYES)、記録モード切り替え手段12によりデータ記録手段10に対して制御信号を出力し、記録モードを低サンプリングモードから高サンプリングモードに切り換えさせる(ステップS2)。
【0043】
なお、制御装置1は、事故が発生する蓋然性が高いと判定しない限り(ステップS1のNO)、記録モードを低サンプリングモードから高サンプリングモードに切り換えさせることなく、低サンプリングモードによる記録をそのまま継続させる。
【0044】
次に、図3を参照しながら、車載データ記録システム100が事故の発生を予測して記録モードを低サンプリングモードから高サンプリングモードに切り換えた後、状況に応じて記録モードを低サンプリングモードに復帰させる処理(以下、「事故予測後記録モード切り替え処理」とする。)について説明する。
【0045】
なお、図3は、事故予測後記録モード切り替え処理の流れを示すフローチャートであり、車載データ記録システム100は、事故の発生を予測して記録モードを低サンプリングモードから高サンプリングモードに切り換えた後、記録モードを低サンプリングモードに復帰させか、或いは、所定時間が経過して記録を中止させるまで、所定周期で繰り返しこの処理を実行するものとする。
【0046】
制御装置1は、記録モードが低サンプリングモードから高サンプリングモードに切り換えられた時点からの経過時間を計時しており(ステップS11)、所定時間が経過していない場合には(ステップS11のNO)、記録モードを高サンプリングモードから低サンプリングモードに復帰させることなく、高サンプリングモードによる記録をそのまま継続させる。
【0047】
所定時間が経過した場合(ステップS11のYES)、制御装置1は、事故発生予測手段11により、各種車載機器の出力に基づいて、その発生の蓋然性が高いとされた事故が実際に発生したか否かを確認し、その確認結果を記録モード切り替え手段12に対して通知する(ステップS12)。
【0048】
発生の蓋然性が高いとされた事故が実際には発生しなかったとの通知を受けた場合(ステップS12のYES)、記録モード切り替え手段12は、データ記録手段10に対して制御信号を出力し記録モードを高サンプリングモードから低サンプリングモードに復帰させる(ステップS13)。
【0049】
一方、発生の蓋然性が高いとされた事故が実際に発生したとの通知を受けた場合、或いは、何れの通知も受けなかった場合(ステップS12のNO)、記録モード切り替え手段12は、データ記録手段10に対して制御信号を出力し記録を中止させる(ステップS14)。
【0050】
これにより、車載データ記録システム100は、不必要なデータを大量に記録してしまうようなことなく、必要なデータを適量だけ記録できるようにする。
【0051】
次に、図4を参照しながら、車載データ記録システム100が過去に記録したデータに基づいてデータ異常(例えば、車両や車載機器の故障に起因する異常である。)の発生する機序を解析し、データ異常の原因を究明すべく次回データ異常が発生する前に記録モードを中サンプリングモードに切り換えてデータ異常発生前後のデータをより高密度に記録できるよう、事故発生の予測で用いたような記録モード切り換え条件(例えば、予め登録されている条件であって、「車輪がロックしたことを表すデータをABSが出力すること」等の条件である。)を新たに生成する処理(以下、「記録モード切り替え条件生成処理」とする。)について説明する。
【0052】
なお、図4は、記録モード切り替え条件生成処理の流れを示すフローチャートであり、車載データ記録システム100は、車両が所定距離(例えば、100kmである。)を走行する度にこの処理を実行するものとする。
【0053】
最初に、制御装置1は、データ異常発生機序解析手段13により、低サンプリングモードによって記録されたデータを記憶装置4から読み出し(ステップS21)、データ異常の発生に規則性があるか否かを解析する(ステップS22)。
【0054】
その後、制御装置1は、データ異常発生機序解析手段13により、データ異常の発生に規則性がある場合には、その規則性に基づいて記録モード切り換え条件を生成する(ステップS23)。
【0055】
更に、制御装置1は、データ異常発生機序解析手段13により、異常があるデータを出力した車載機器を特定し、かつ、ROMに記憶された対応関係テーブルを参照しながら、故障の疑いがあるその車載機器に関連する他の何れの車載機器が出力するデータを、どの程度のサンプリングレートで記録するかを決定し、中サンプリングモードを定義する(ステップS24)。
【0056】
これにより、車載データ記録システム100は、事故発生予測手段11が用いるような、予め登録された記録モード切り替え条件と同様の別の記録モード切り替え条件を動的に定義することができ、記録するデータの種類及びサンプリングレートが異なる複数の記録モードをより柔軟に利用できるようになる。
【0057】
次に、図5を参照しながら、データ異常の原因を究明すべくデータ異常発生前後のデータをより高密度に記録するために新たに生成された記録モード切り替え条件が満たされた場合に、車載データ記録システム100が記録モードを低サンプリングモードから中サンプリングモードに切り換える処理(以下、「データ異常予測時記録モード切り替え処理」とする。)について説明する。
【0058】
なお、図5は、データ異常予測時記録モード切り替え処理の流れを示すフローチャートであり、車載データ記録システム100は、低サンプリングモードで記録を行っている間、所定周期で繰り返しこの処理を実行するものとする。
【0059】
最初に、制御装置1は、各種車載機器の出力に基づいてデータ異常発生機序解析手段13により新たに設定された記録モード切り替え条件が満たされたか否かを判定し(ステップS31)、新たに設定された記録モード切り替え条件が満たされたと判定した場合(ステップS31のYES)、記録モード切り替え手段12によりデータ記録手段10に対して制御信号を出力し、記録モードを低サンプリングモードから中サンプリングモードに切り換えさせる(ステップS32)。
【0060】
なお、制御装置1は、新たに設定された記録モード切り替え条件が満たされたと判定しない限り(ステップS31のNO)、記録モードを低サンプリングモードから中サンプリングモードに切り換えさせることなく、低サンプリングモードによる記録をそのまま継続させる。
【0061】
最後に、図6を参照しながら、車載データ記録システム100がデータ異常の発生を予測して記録モードを低サンプリングモードから中サンプリングモードに切り換えた後、状況に応じて記録モードを中サンプリングモードから低サンプリングモードに復帰させる処理(以下、「データ異常予想後記録モード切り替え処理」とする。)について説明する。
【0062】
なお、図6は、データ異常予測後記録モード切り替え処理の流れを示すフローチャートであり、車載データ記録システム100は、データ異常の発生を予測して記録モードを低サンプリングモードから中サンプリングモードに切り換えた後、記録モードを低サンプリングモードに復帰させるまで、所定周期で繰り返しこの処理を実行するものとする。
【0063】
制御装置1は、記録モードが低サンプリングモードから中サンプリングモードに切り換えられた時点からの経過時間を計時し(ステップS41)、所定時間が経過していない場合には(ステップS41のNO)、記録モードを中サンプリングモードから低サンプリングモードに復帰させることなく、中サンプリングモードによる記録をそのまま継続させる。
【0064】
所定時間が経過した場合(ステップS41のYES)、制御装置1は、記録モード切り替え手段12によりデータ記録手段10に対して制御信号を出力し記録モードを中サンプリングモードから低サンプリングモードに復帰させる(ステップS42)。
【0065】
以上の構成により、車載データ記録システム100は、予め決めておくことができる記録モード切り替え条件(例えば、事故が発生する直前に記録モードを切り替えるための条件である。)に基づいて記録モードを切り換えるばかりでなく、予め決めておくことができない記録モード切り替え条件(例えば、車両毎にその発生機序が異なるデータ異常が発生する直前に記録モードを切り替えるための条件である。)を動的に生成し、その動的に生成した記録モード切り替え条件に基づいて記録モードを切り換えるようにするので、記録するデータの種類及びサンプリングレートが異なる複数の記録モードをより柔軟に切り換えることができる。
【0066】
また、車載データ記録システム100は、車両又は車載装置の故障診断をより詳細かつより効率的に実行させることができる。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0068】
例えば、上述の実施例において、車載データ記録システム100は、低サンプリングモードで継続的に故障解析用データを記録しながら、事故発生が予測される場合に高サンプリングモードによる事故解析用データの記録を開始させ、データ異常の発生が予測される場合に中サンプリングモードによる故障解析用データの記録を開始させるが、データ異常が発生しないと予測される場合に、故障解析用データをより低いサンプリングレート(例えば、1秒間隔である。)で記録する更に別の記録モードを用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る車載データ記録システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】事故予測時記録モード切り替え処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】事故予測後記録モード切り替え処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】記録モード切り替え条件生成処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】データ異常予想時記録モード切り替え処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】データ異常予測後記録モード切り替え処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0070】
1 制御装置
2 故障解析用装置
3 事故解析用装置
4 記憶装置
10 データ記録手段
11 事故発生予測手段
12 記録モード切り替え手段
13 データ異常発生機序解析手段
100 車載データ記録システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一群の車載機器が出力するデータを第一のサンプリングレートで記録する第一モードと、所定の状態を検出した場合に第二群の車載機器が出力するデータを第一のサンプリングレートよりも高い第二のサンプリングレートで記録する第二モードとを併有する車載データ記録システムであって、
第一モードで記録されたデータに基づいてデータ異常が発生する機序を解析するデータ異常発生機序解析手段と、
前記データ異常発生機序解析手段による解析結果に基づいてデータ異常の発生前に前記第一モードを前記第二モードに切り換える記録モード切り替え手段と、
を備えることを特徴とする車載データ記録システム。
【請求項2】
前記データ異常発生機序解析手段は、前記第一モードで記録されたデータに基づいて前記第一モードを前記第二モードに切り換える条件を生成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車載データ記録システム。
【請求項3】
故障解析用データを前記第一モードで記録するデータ記録手段と、
各種車載機器の出力に基づいて事故発生の蓋然性を予測する事故発生予測手段と、を更に備え、
事故発生の蓋然性が高いと判定された場合に、前記記録モード切り替え手段は、前記第一モードを前記第二モードに切り換え、前記データ記録手段は、事故解析用データを前記第二モードで記録する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車載データ記録システム。
【請求項4】
第一群の車載機器が出力するデータを第一のサンプリングレートで記録する第一モードと、所定の状態を検出した場合に第二群の車載機器が出力するデータを第一のサンプリングレートよりも高い第二のサンプリングレートで記録する第二モードとを併有する車載データ記録方法であって、
第一モードで記録されたデータに基づいてデータ異常が発生する機序を解析するデータ異常発生機序解析ステップと、
前記データ異常発生機序解析ステップにおける解析結果に基づいてデータ異常の発生前に前記第一モードを前記第二モードに切り換える記録モード切り替えステップと、
を備えることを特徴とする車載データ記録方法。
【請求項5】
前記第一モードで記録されたデータに基づいて前記第一モードを前記第二モードに切り換える条件を生成する記録モード切り替え条件生成ステップを更に備える、
ことを特徴とする請求項4に記載の車載データ記録方法。
【請求項6】
故障解析用データを前記第一モードで記録するデータ記録ステップと、
各種車載機器の出力に基づいて事故発生の蓋然性を予測する事故発生予測ステップと、を更に備え、
前記事故発生予測ステップにおいて事故発生の蓋然性が高いと判定された場合に、前記記録モード切り替えステップにおいて前記第一モードが前記第二モードに切り換えられ、前記データ記録ステップにおいて事故解析用データが前記第二モードで記録される、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の車載データ記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−289204(P2009−289204A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143694(P2008−143694)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】