説明

車載器

【課題】車両がGPS信号を受信できない場所を通過した直後の画面上での自車位置の修正を高精度に行う車載器を提供すること。
【解決手段】地図の各区間の道路に属性情報を付して記憶した属性情報記憶手段と、属性情報に基づき、自車に近接するGPS信号の受信ができない非受信区間を検知する非受信区間検知手段と、自車に近接する非受信区間が検知された場合に、GPS衛星の捕捉状態を監視するGPS衛星捕捉監視手段と、GPS衛星捕捉監視手段により検知されるGPS衛星の捕捉が無い期間中に、自車が移動した距離を自律航法による測位に基づき計算する移動距離計算手段と、移動距離計算手段により計算された距離と、非受信区間検知手段により検知された非受信区間の地図上の距離に基づき、該非受信区間を通過した自車の画面上における位置を修正する自車位置修正手段とを有する車載器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、GPS(Global Positioning System)航法と自律航法の少なくとも一方を使用して測位された自車位置を画面上に表示された地図に重畳的に表示させる車載器に関連し、詳しくは、車両がGPS信号を受信できない場所を通過した直後の画面上での自車位置の修正を高精度に行う車載器に関する。
【背景技術】
【0002】
GPSは、地球を周回するGPS衛星から発信されるGPS信号を用いて対象物の位置情報などを測定するための測位システムであり、日常生活においても広く利用されている。
【0003】
GPSでは、CDMA(Code Division Multiple Access)方式によって複数のGPS衛星が同じ周波数帯を共用してGPS信号を送信する。具体的には、GPS信号は、クロック情報やGPS衛星の軌道情報を含む通信信号としての航法メッセージと、GPS衛星毎に定められた拡散符号としてのPRN(Pseudo Random Noise)コードとにより、1575.42MHzのキャリアをBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調したものである。GPSレシーバは、原理上必要とされる個数以上のGPS衛星を選択してGPSアンテナにより受信し、受信されたGPS衛星に対応するPRNコードを生成し、生成されたPRNコードの位相をGPS信号に同期させて乗じることにより航法データを復調する。GPSレシーバは、このようにして得られた航法データを用いて演算を行い、対象物の位置情報、方位情報、移動速度情報などを生成する。以下、GPSレシーバによるGPS信号を利用した対象物の位置測定、方位測定、移動速度測定などを「GPS測位」と記す。
【0004】
GPSレシーバを備えたエンドユーザ向け製品には、例えば車両に搭載されるカーナビゲーション装置がある。カーナビゲーション装置は、GPS測位に加えてDR(Dead Reckoning)センサを用いた位置測定、方位測定、移動速度測定など(以下、「DR測位」と記す。)も行い、2つの測位方式の弱点を補完するように、両方式による測位結果から最終的な測位結果を演算する。カーナビゲーション装置は、演算して得られた最終的な測位結果に基づき、画面上に表示する自車位置を更新する。また、ユーザによって目的地が設定されている場合には、カーナビゲーション装置は画面上の自車位置の更新と併せて当該目的地に向けたナビゲーションを行う。
【0005】
カーナビゲーション装置には、測位演算をするにあたり、DR測位結果を優先採用するタイプや、GPS測位結果を優先採用するタイプなど、仕様に応じて様々なタイプが存在する。例えば前者のタイプのカーナビゲーション装置は、基本的にはDR測位結果を使用した自車位置などの測位演算を行う。しかし、DR測位結果には、車両が実際に走行した走行長と地図データ上での道路長との差分による距離誤差やセンサ自体の誤差が含まれる。そのため、カーナビゲーション装置は、自車位置などの精度を維持すべく、GPS測位結果を使用してDR測位結果に適宜補正をかけている。
【0006】
しかし、車両がGPS信号を受信できない場所を走行しているときには、GPS測位が行われないため、GPS測位結果によるDR測位結果の補正も行われない。GPSの非測位時に車両が走行するほどDR測位結果の誤差が蓄積して測位精度が低下する。また、車両がGPS信号を受信できる場所に移動したとしても、GPSの非測位時にキャリア周波数やPRNコードの位相が変動しているため、一般的には、非測位状態になる前のGPS測位で用いた値(GPS衛星を捕捉する際に用いた各種設定値)を利用できない。そのため、GPSレシーバは、キャリア周波数やPRNコードの位相のサーチレンジを広めに設定してGPS衛星を再捕捉する必要がある。このときサーチレンジが広いため、GPS衛星の再捕捉には時間がかかる。よって、GPSの測位状態復帰後の初回測位には時間がかかることとなる。つまり、車両がGPS信号を受信できる場所に移動したとしても、測位精度が低下した状態が暫く継続する。このような測位精度が低下した状態を速やかに解消するための技術が、例えば特許文献1に開示されている。
【0007】
特許文献1に記載のカーナビゲーション装置は、車両がGPS信号を受信できない地下駐車場に位置する間、GPS信号の受信の有無を所定時間毎にチェックする。そして、該カーナビゲーション装置は、GPS信号の受信が確認された時に車両が地下駐車場出口に位置するとみなして画面上の自車位置を地下駐車場出口に修正し、GPSの非測位時に蓄積された自車位置誤差を除去するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−279361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、車両がGPS信号を受信できない場所には地下駐車場以外に代表的な場所として、トンネルが挙げられる。例えば高速道路上の一般的なトンネルは距離が長く、大凡一方向に延びている。そのため、トンネル走行中DR測位結果の誤差成分は、車両の進行方向に集中的に蓄積される。つまり、車両の進行方向に関して実際上の自車位置と画面上の自車位置との間に大きな誤差が生じる。よって、特許文献1に記載のカーナビゲーション装置の位置修正機能が好適に利用できる場面と思われる。しかし、車両がトンネルを高速で走行することと、GPS測位のサンプリング周期(例えば1Hz)とを考慮すると、カーナビゲーション装置がGPS信号の受信を確認できるタイミングは、実際に車両がトンネルを退出してから進行方向に比較的長い距離走行した後である。すなわち、トンネルから退出した車両の自車位置を特許文献1の位置修正機能により修正した場合、GPS信号を受信した位置と実際のトンネル出口位置との進行方向に関する距離誤差が大きいため精度が低いという問題が指摘される。
【0010】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両がGPS信号を受信できない場所を通過した直後の画面上での自車位置の修正を高精度に行う車載器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る車載器は、GPS航法と自律航法の少なくとも一方を使用して測位された自車位置を画面上に表示された地図に重畳的に表示させる機器であり、以下の特徴を有する。すなわち、かかる車載器は、地図の各区間の道路に属性情報を付して記憶した属性情報記憶手段と、属性情報に基づき、自車に近接するGPS信号の受信ができない非受信区間を検知する非受信区間検知手段と、自車に近接する非受信区間が検知された場合に、GPS衛星の捕捉状態を監視するGPS衛星捕捉監視手段と、GPS衛星捕捉監視手段により検知されるGPS衛星の捕捉が無い期間中に、自車が移動した距離を自律航法による測位に基づき計算する移動距離計算手段と、移動距離計算手段により計算された距離と、非受信区間検知手段により検知された非受信区間の地図上の距離に基づき、該非受信区間を通過した自車の画面上における位置を修正する自車位置修正手段とを有することを特徴とする。
【0012】
かかる構成によれば、非受信区間出口側で従来より発生する誤差(つまり地図データ上でのトンネル出口位置と、GPS衛星を実際に捕捉できるようになった位置との差)を、同じく非受信区間入口側で発生する誤差(具体的には、地図データ上でのトンネル入口位置と、GPS衛星の捕捉が無くなった位置との差)によって相殺又は軽減されるため、自車位置の修正精度が向上することとなる。
【0013】
ここで、自車位置修正手段は、移動距離計算手段により計算された距離から、非受信区間検知手段により検知された非受信区間の地図上の距離を減じることにより求められた修正値に基づき、該非受信区間を通過した自車の画面上における位置を修正するように構成されてもよい。
【0014】
また、自車位置修正手段は、自車の走行に応じて、修正値に基づく自車位置の修正を段階的に行う構成であることが好ましい。かかる構成の自車位置修正手段は、自車が所定速度以上で走行中又は高速道路を走行中であるとき、修正値に基づく自車位置の修正を段階的に行う構成としてもよい。或いは、修正値が所定値以上であるとき、該修正値に基づく自車位置の修正を段階的に行う構成としてもよい。
【0015】
移動距離計算手段は、GPS衛星の捕捉が無くなったことが検知された時点の自車位置と、GPS衛星の捕捉が再び検知された時点の該自車位置との距離を計算する構成であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の車載器によれば、非受信区間の出口側だけでなく入口側をも考慮したGPS衛星の捕捉状態に基づき自車位置の修正値を計算することにより、非受信区間を通過した直後の画面上での自車位置の修正が高精度に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態のカーナビゲーション装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態のカーナビゲーション装置が有するGPSレシーバの概略構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態のトンネル走行判定処理を示すフローチャート図である。
【図4】本発明の実施形態のトンネル進入判定処理を示すフローチャート図である。
【図5】本発明の実施形態のトンネル退出判定処理および自車位置修正処理を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態のカーナビゲーション装置の構成および動作について説明する。
【0019】
図1は、車両に搭載されるカーナビゲーション装置200の概略構成を示すブロック図である。図1に示されるように、カーナビゲーション装置200は、GPSレシーバ100、ジャイロセンサ102、車速センサ104、A/D変換部102a、104a、CPU(Central Processing Unit)108、ROM(Read Only Memory)110、RAM(Random Access Memory)112、HDD(Hard Disk Drive)114、表示部116、および入力部118を有している。CPU108は、カーナビゲーション装置200全体の制御を統括し、カーナビゲーション装置200の各構成要素との連携動作により各種機能を実現する。
【0020】
GPSレシーバ100は、複数のGPS衛星からGPS測位に必要な数以上のGPS信号を捕捉、追尾してGPS測位を行い、得られたGPS測位結果をCPU108に出力する。GPSレシーバ100によるGPS測位は例えば毎秒一回行われる。
【0021】
ジャイロセンサ102および車速センサ104は周知のDRセンサである。ジャイロセンサ102は、カーカーナビゲーション装置200を搭載した車両の水平面における方位に関する角速度を計測し、その計測結果をA/D変換部102aに出力する。また、車速センサ104は、当該車両の左右の駆動輪の回転速度を検出し、その検出結果に応じたパルス数をA/D変換部104aに出力する。A/D変換部102a、104aに入力された信号はデジタル信号に変換された後、CPU108に入力される。
【0022】
ROM110は、ナビゲーション処理を実行するための各種プログラムを格納している。これらのプログラムは、カーナビゲーション装置200起動時にRAM112のワークエリアにロードされる。CPU108は、当該ワークエリア上のプログラムを実行するとともに、HDD114に格納されている地図データを適宜読み出して表示部116に地図を表示させる。当該地図データ中の道路は、ノード(交差点その他道路網表現上の結節点など)とリンク(ノードとノードの間の道路区間)によって構成されている。ノードやリンクにはその属性を示す属性データが付けられている。例えばトンネルが設置された道路のリンクには、トンネル属性が関連付けられている。
【0023】
CPU108は、各DRセンサの出力に基づきDR測位演算を行い、DR測位結果を取得する。次いで、取得されたDR測位結果と、GPSレシーバ100のGPS測位結果とを、夫々の測位結果に対する誤差の推定値を加味した上で比較する。CPU108は、比較結果によりDR測位結果の精度低下が検知されないときにはDR測位結果を最終的な測位結果として決定する。一方、DR測位結果の精度低下が検知されたときにはGPS測位結果によりDR測位結果に補正をかけて最終的な測位結果を計算する。CPU108は、GPS測位結果の出力が無い場合には、上記の比較処理を行うことなくDR測位結果を最終的な測位結果とする。
【0024】
CPU108は、決定された測位結果に基づきHDD114に格納されている地図データベースを検索して、対応する地図画像を抽出する。最後にマップマッチングを行い、抽出した地図画像に自車位置マークを重畳して表示部116に表示させる。このときユーザが入力部118を操作して目的地を設定していれば、CPU108はその目的地に向けたナビゲーション処理も行う。
【0025】
次に、GPSレシーバ100について詳細に説明する。図2は、GPSレシーバ100の概略構成を示すブロック図である。図2に示されるように、GPSレシーバ100は、GPSアンテナ1とGPSレシーバモジュール3を有している。
【0026】
GPS衛星から発信されたGPS信号は、GPSアンテナ1により受信される。GPSアンテナ1により受信されたGPS信号は、GPSレシーバモジュール3が有するRFアナログ処理部32に入力される。RFアナログ処理部32に入力されたGPS信号は、ダウンコンバータ32aにおいて、基準クロック32dの信号をもとに所定周波数の信号を発生するシンセサイザ32cからの信号により、フィルタリング等の信号処理に適した中間周波数にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた中間周波数の信号は、A/Dコンバータ32bによってデジタル信号に変換され、ベースバンドデジタル処理部33に出力される。
【0027】
ベースバンドデジタル処理部33は、スペクトラム拡散されているGPS信号を逆拡散するための処理を行う。A/Dコンバータ32bからキャリア相関部33aに出力された信号は、数値制御発信器であるキャリアNCO(Number Controlled Oscillator)33cからの信号と乗算され、さらに乗算結果が積分されそれにより相関計算が行われる。この相関計算によるピーク値が得られるように、すなわち、搬送波との同期が確立されるように、測位演算部3fは、キャリア追尾ループを介してキャリアNCO33cを制御する。
【0028】
キャリア相関部33aからの信号は、さらにPRNコード相関部33bに出力される。PRNコード相関部33bでは、キャリア相関部33aからの信号と、捕捉すべきGPS衛星と同じ疑似ランダムコードをコードNCO33eからの信号に基づいて発生するPRNコード発生部33dからの信号とが乗算され、さらに乗算結果が積分されそれにより相関計算が行われる。この相関計算によるピーク値が得られるように、すなわち、GPS信号に含まれるPRNコード信号との同期が確立されるように、測位演算部3fは、コード追尾ループを介してコードNCO33eを制御する。
【0029】
以上の信号処理によりGPS信号は逆拡散され、PRNコード相関部33bによる相関出力からはベースバンド信号が得られることになる。測位演算部3fは、得られたベースバンド信号から衛星位置情報などを含むGPSメッセージを取得する。また、測位演算部3fは、GPSレシーバモジュール3側で発生されるPRNコード信号の発生タイミングをもとにGPS信号の飛行時間を取得しそれをもとに疑似距離の計測を行い、また、キャリアNCO33cの位相変化量をもとに、GPSレシーバモジュール3自身の速度、方位なども算出する。
【0030】
また、ベースバンドデジタル処理部33において、キャリア相関部33a、PRNコード相関部33b、キャリアNCO33c、PRNコード発生部33d、およびコードNCO33eで構成される受信チャンネルは複数存在する。例えば、図2において受信チャンネルが8チャンネルであるものとする。測位演算部3fは、各受信チャンネルで受信される受信信号のうち4つ以上から得られる疑似距離をもとに、幾何学的な演算によりGPSレシーバモジュール3自身の位置を求める測位演算(3次元測位)を実行する。これら測位結果、速度、および方位などのデータは、外部インタフェース部34を介してホストシステム、ここではCPU108へ渡される。
【0031】
測位演算部3fは、ベースバンドデジタル処理部33の各受信チャンネルにおいて受信される信号の受信C/Nを検出して、受信C/Nが所定の閾値を超えるもののみを選択し測位演算に用いている。測位演算部3fは、例えばトラッキングしているGPS衛星の数が3つのとき2次元測位を、4つ以上のとき3次元測位を行う。
【0032】
以上がカーナビゲーション装置200が実行する基本的な動作であるが、カーナビゲーション装置200は、車両がGPS信号を受信できない場所から出たときにおける画面上での自車位置の修正を高精度に行うため、図3〜図5のフローチャートに示される処理を実行する。以下、図3〜図5のフローチャートを参照しながら、当該処理について説明する。なお、図3〜図5のフローチャートおよび以下の説明において、ステップを「S」と略記する。
【0033】
図3に示されるように、カーナビゲーション装置200は、例えば電源がオンされている間、後述の図4又は図5のフローチャートの処理結果に基づき車両がトンネルを走行中であるか否かを判定する(S1)。カーナビゲーション装置200は、車両がトンネルを走行中でないと判定した場合には(S1:NO)、処理を図4のフローチャートに進め、車両がトンネルを走行中であると判定した場合には(S1:YES)、処理を図5のフローチャートに進める。
【0034】
図4のフローチャートの処理について説明する。カーナビゲーション装置200は、図4のフローチャートに処理を進めると、車両がトンネルに進入したか否かを判定するため、各受信チャンネルのPRNコード相関部33bにおけるPRNコード信号の同期確立を検知する(S11)。各受信チャンネルにおいてPRNコード信号の同期確立は、所定のレートで試行されている。
【0035】
カーナビゲーション装置200は、少なくとも1つの受信チャンネルのPRNコード相関部33bでPRNコード信号の同期確立が成功しているとき、つまり少なくとも1つのGPS衛星を捕捉しているときには(S11:NO)、車両がGPS信号を受信できる場所に位置するため、図3のS1の処理に復帰する。一方、何れの受信チャンネルのPRNコード相関部33bにおいてもPRNコード信号の同期確立が失敗しているとき、つまりGPS衛星を1つも捕捉していないときには(S11:YES)、車両がトンネルに進入した可能性がある。そのため、カーナビゲーション装置200は、画面上で車両がトンネルに接近した位置にあるか否かを判定する(S12)。具体的には、S12の処理においてカーナビゲーション装置200は、地図データ上で現在走行中のリンクに隣接する、進行方向側のリンクの属性がトンネル属性であるか否かを判定し、トンネル属性である場合には車両の現在位置とトンネル属性のリンクまでの距離を計算する。
【0036】
カーナビゲーション装置200は、計算により求められたトンネル属性のリンクまでの距離が所定距離以下である場合には(S12:YES)、車両がトンネルに進入したと判定する(S13)。次いで、地図データ上での現在の自車位置をトンネル入口位置としてRAM112に記憶する(S14)。カーナビゲーション装置200は、トンネル入口位置をRAM112に記憶すると、処理を図3のS1に戻す。
【0037】
一方、進行方向側のリンクの属性がトンネル属性でない、或いはトンネル属性のリンクまでの距離が所定距離を超える場合には(S12:NO)、カーナビゲーション装置200は、現在走行中のリンクの属性自体がトンネル属性であるか否かを判定する(S15)。カーナビゲーション装置200は、現在走行中のリンクの属性がトンネル属性である場合(S15:YES)、S13、S14の処理を実行してトンネル入口位置を取得した後、S3の処理に復帰する。現在走行中のリンクの属性がトンネル属性でない場合には(S15:NO)、車両がトンネルに進入していないと判定して、処理をS3に戻す。
【0038】
なお、地図データ上でのトンネル入口位置(トンネル属性を持つリンクの入口側端の位置)と、S14の処理で記憶されるトンネル入口位置は、基本的には一致しない。それは、トンネルが設置されている道路は信号のない山道や高速道路であることが多いため車両が比較的早い速度で走行しており、PRNコード信号の同期確立が試行される毎に車両が比較的長い距離(数m〜数十m)移動するからである。カーナビゲーション装置200がGPS信号の非受信を確認できるタイミングは、実際に車両がトンネルに進入してから進行方向に比較的長い距離走行した後である。
【0039】
次に、図5のフローチャートの処理について説明する。カーナビゲーション装置200は、図5のフローチャートに処理を進めると、車両がトンネルから退出したか否かを判定するため、各受信チャンネルのPRNコード信号の同期確立を検知する(S21)。
【0040】
カーナビゲーション装置200は、何れの受信チャンネルのPRNコード相関部33bにおいてもPRNコード信号の同期確立が失敗しているとき、つまりGPS衛星を1つも捕捉していないときには(S21:NO)、車両がトンネルから退出しておらず未だトンネルを走行中であるとして、図3のS1の処理に復帰する。一方、少なくとも1つの受信チャンネルのPRNコード相関部33bでPRNコード信号の同期確立が成功しているとき、つまり少なくとも1つのGPS衛星を捕捉しているときには(S21:YES)、車両がトンネルから退出したと判定する(S22)。次いで、地図データ上での現在の自車位置をトンネル出口位置としてRAM112に記憶する(S23)。
【0041】
ここで、地図データ上でのトンネル出口位置(トンネル属性を持つリンクの出口側端の位置)と、S23の処理で記憶されるトンネル出口位置は、基本的には一致しない。これは、地図データ上のトンネルの長さ(トンネル属性のリンク長)と、トンネル進入後に測定されたDR測位結果に基づく走行長との間に距離誤差(すなわちGPSの非測位時に蓄積されたDR測位結果の誤差)が存在するためである。さらに、トンネル入口側と同じく、PRNコード信号の同期確立が試行される毎に車両が比較的長い距離移動する問題がある。トンネル出口側において、カーナビゲーション装置200がGPS信号の受信を確認できるタイミングは、実際に車両がトンネルを退出してから進行方向に比較的長い距離走行した後である。
【0042】
カーナビゲーション装置200は、図4のS14の処理で記憶されたトンネル入口位置と、S23の処理で記憶されたトンネル出口位置との距離を計算し(S24)、計算された距離と、地図データ上のトンネルの長さとの差分を距離誤差として計算する(S25)。カーナビゲーション装置200は、計算された距離誤差に基づき画面上の自車位置を修正する(S26)。つまり、本実施形態のカーナビゲーション装置200は、トンネル出口側で発生するPRNコード信号の同期確立の試行レートに起因する誤差(地図データ上でのトンネル出口位置と、S23の処理で記憶されるトンネル出口位置との差)を、同じくトンネル入口側で発生する該試行レートに起因する誤差(地図データ上でのトンネル入口位置と、S14の処理で記憶されるトンネル入口位置との差)によって相殺又は軽減した上で、画面上の自車位置の修正を行うように構成されている。PRNコード信号の同期確立の試行レートに起因する誤差が相殺又は軽減されるため、トンネル退出時の自車位置の修正精度が向上することとなる。
【0043】
S26の処理においてカーナビゲーション装置200は、画面上の自車位置をS25の処理で計算された距離誤差だけ修正する。ここで、距離誤差が大きいときには画面上の自車位置が突発的に変わることとなり、ユーザに位置飛びが発生したように感じさせることが考えられる。そのような違和感をユーザに与えないため、カーナビゲーション装置200は、距離誤差が所定値以上であるときには、画面上の自車位置の修正を例えば段階的に行う。
【0044】
修正されるべき自車位置が進行方向とは逆の10m後方の地点であり、秒速10mで走行する車両が40m進むまでの間に画面上の自車位置を段階的に修正する場合を例に考える。この場合、カーナビゲーション装置200は、画面上で自車位置を本来一秒間当たり10m移動させるところ、4秒間に亘って一秒間当たり7.5m移動させる。これにより、車両が40m進む間に10mの距離誤差が修正されることとなる。自車位置の修正を段階的に行うことにより、位置飛びなどの表示上の不具合による違和感をユーザに与えることがなくなる。
【0045】
ここで、分岐点を持つ通常の道路網を走行中に画面上の自車位置に大きな誤差が生じた場合には、目的地案内を正しく行うために自車位置を正確な位置に速やかに修正することが望まれる。一方、一般的にトンネルは高速道路やバイパスなどの一本道に設置されている。そのため、自車位置は、目的地案内のために正確な位置に速やかに修正されるより、ユーザに違和感を与えないため上記の如く段階的に修正された方が好適である。かかる事項上を考慮すると、例えばトンネル出口付近に交差点がある場合には、自車位置は、段階的な修正でなく速やかに修正される方が好適といえる。
【0046】
PRNコード信号の同期確立の試行レートに起因する誤差は、車両の走行速度に応じて増大する。そのため、自車位置の段階的な修正処理は、車両が所定速度以上で走行中又は高速道路を走行中である場合に限り行うようにしてもよい。車両が高速道路を走行中であるか否かは、走行中のリンクの属性に基づき検知することができる。
【0047】
以上が本発明の実施形態の説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば本実施形態の自車位置の修正処理は、トンネル退出時に限らず、車両がGPS信号を受信できない他の場所から出た時にも適用可能である。
【0048】
トンネルへの進入又はトンネルからの退出を検知する方法には、GPS衛星の捕捉の有無の検知に代えて、例えば外光を利用した検知方法が挙げられる。かかる検知方法を実現するため、カーナビゲーション装置200は、例えば車外の光を検知するフォトセンサを有している。カーナビゲーション装置200は、フォトセンサにより検知される外光の光量が瞬間的に所定量以上変化した時刻を内蔵時計から取得し、取得された時刻に基づきトンネルへの進入又はトンネルからの退出を検知する。例えばフォトセンサにより検知される外光の光量が瞬間的に所定量以上減少した時刻が夜間を示す場合には、車両がトンネルから退出したと判定する。
【符号の説明】
【0049】
100 GPSレシーバ
102 ジャイロセンサ
104 車速センサ
108 CPU
110 ROM
112 RAM
114 HDD
116 表示部
118 入力部
200 カーナビゲーション装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS(Global Positioning System)航法と自律航法の少なくとも一方を使用して測位された自車位置を画面上に表示された地図に重畳的に表示させる車載器において、
前記地図の各区間の道路に属性情報を付して記憶した属性情報記憶手段と、
前記属性情報に基づき、前記自車に近接するGPS信号の受信ができない非受信区間を検知する非受信区間検知手段と、
前記自車に近接する前記非受信区間が検知された場合に、GPS衛星の捕捉状態を監視するGPS衛星捕捉監視手段と、
前記GPS衛星捕捉監視手段により検知されるGPS衛星の捕捉が無い期間中に、前記自車が移動した距離を前記自律航法による測位に基づき計算する移動距離計算手段と、
前記移動距離計算手段により計算された距離と、前記非受信区間検知手段により検知された非受信区間の前記地図上の距離に基づき、該非受信区間を通過した前記自車の前記画面上における位置を修正する自車位置修正手段と、
を有することを特徴とする車載器。
【請求項2】
前記自車位置修正手段は、前記移動距離計算手段により計算された距離から、前記非受信区間検知手段により検知された非受信区間の前記地図上の距離を減じることにより求められた修正値に基づき、該非受信区間を通過した前記自車の前記画面上における位置を修正することを特徴とする、請求項1に記載の車載器。
【請求項3】
前記自車位置修正手段は、前記自車の走行に応じて、前記修正値に基づく前記自車位置の修正を段階的に行うことを特徴とする、請求項1または請求項2の何れかに記載の車載器。
【請求項4】
前記自車位置修正手段は、前記自車が所定速度以上で走行中又は高速道路を走行中であるとき、前記修正値に基づく前記自車位置の修正を段階的に行うことを特徴とする、請求項3に記載の車載器。
【請求項5】
前記自車位置修正手段は、前記修正値が所定値以上であるとき、該修正値に基づく前記自車位置の修正を段階的に行うことを特徴とする、請求項3に記載の車載器。
【請求項6】
前記移動距離計算手段は、GPS衛星の捕捉が無くなったことが検知された時点の前記自車位置と、GPS衛星の捕捉が再び検知された時点の該自車位置との距離を計算することを特徴とする、請求項1から請求項5の何れかに記載の車載器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−175323(P2010−175323A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16695(P2009−16695)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【Fターム(参考)】