説明

車輪の制限装置

【課題】制限部材の全域を旋回自在な車輪に的確に押圧させ、ショッピングカートの増速をその増速度合いに応じて効率よく抑制することができる車輪の制限装置を提供する。
【解決手段】旋回軸部材30に取り付けた車輪支持部材32に略水平な軸33を介して車輪3を転動自在に支持し、旋回軸部材30を、車輪支持部材32に対し軸線n方向に進退移動自在に支持すると共に、車輪支持部材32を貫通して下方に突出させ、その突出端に、旋回軸部材30の進出移動に伴い車輪3を押圧しその押圧力に応じて車輪3の転動を制限する制限部材34を設ける。制限部材34に、車輪3の外周に沿って周方向に延びる延出部35を一体的に設け、この延出部35に、車輪支持部材32が軸線n回りに旋回した際にその旋回方向に制限部材34を延出部35と共に連れ回りさせる連れ回り手段36を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老人の買い物や散歩などに用いられるシルバーカー、又は、身障者の歩行訓練や機能回復などに用いられる歩行車、或いは、ショッピングカートやキャリーカーなどの移動対象物において、旋回軸回りに旋回自在に支持された車輪の転動を制限する制限装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シルバーカー、歩行車、又はショッピングカートやキャリーカーなどの移動対象物の車輪の転動を制限する制限装置は、下記の特許文献1に示すように、移動対象物の下方に突出する車輪支持部材に車輪が水平な軸を介して転動自在に支持され、車輪支持部材に対し当該車輪支持部材を貫通して下方に突出するブレーキロッドをその軸線方向に進退移動可能に設け、このブレーキロッドを進出移動させることで、このブレーキロッドの下端に設けたブレーキシューを車輪に押圧して当該車輪の転動を制限するようにしている。
【0003】
また、その他の車輪の制限装置にあっては、この制限装置を備えた車輪に、当該車輪を旋回自在とするキャスター機構が設けられたものがある。例えば、下記の特許文献2に示すように、移動対象物の下方に突出する旋回自在な中空の主軸に取り付けられた車輪支持部材に、略水平な軸を介して車輪を転動自在に支持しているとともに、上記主軸内に上下方向(進退方向)へ摺動自在に挿通されたワイヤの下端に、車輪の内周面に周方向所定間隔置きに凹設された凹部に対し係合する制動体を連結している。そして、上記ワイヤの下方への進出動作に伴い制動体を車輪の凹部に係合させることによって、車輪の転動を制限するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−224742号公報
【特許文献2】特開2010−228756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、移動対象物での移動中に下り勾配があると、移動対象物の速度が増してしまう。このとき、身体の一部を移動対象物に依存する必要がある操作者にあっては、移動対象物の増速について行くことができない。このため、増速する移動対象物と共に操作者が転倒したり、増速する移動対象物を手放して移動対象物を衝突により損傷させてしまうおそれがある。このため、移動対象物の増速をその増速度合いに応じて抑制することができる車輪の制限装置が望まれている。
【0006】
しかし、上記後者のキャスタ機構を備えた車輪の制限装置は、車輪を停止させた際に車輪の凹部に制動体を係合させて車輪の転動を制限するものであるため、車輪の転動時に使用して移動対象物の増速をその増速度合いに応じて抑制することができない。
一方、ブレーキシューなどの制限部材を車輪に押圧して車輪の転動を制限する上記前者の車輪の制限装置では、制限部材が車輪の外周に沿って周方向に延ばされているため、当該制限部材を車輪に押圧することで、移動対象物の増速がその増速度合いに応じて抑制される。しかし、この制限部材は、旋回不能な車輪に設けられたものであるため、車輪が旋回すると、制限部材の全域を車輪に的確に押圧させることができず、これでは、移動対象物の増速を効率よく抑制することができない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、制限部材の全域を旋回自在な車輪に的確に押圧させ、移動対象物の増速をその増速度合いに応じて効率よく抑制することができる車輪の制限装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、移動対象物より下方に突出する旋回軸部材に対しその軸線回りに旋回自在に支持された車輪の転動を制限する制限装置を前提とする。更に、上記車輪を上記旋回軸部材に取り付けられた車輪支持部材に略水平な軸を介して転動自在に支持し、上記旋回軸部材を、上記車輪支持部材に対し軸線方向に進退移動自在に支持するとともに、上記車輪支持部材を貫通して下方に突出し、その突出端に、当該旋回軸部材の進出移動に伴い上記車輪を押圧しその押圧力に応じて当該車輪の転動を制限する制限部材を設ける。そして、上記制限部材に、上記車輪の外周に沿って周方向に延びる延出部を一体的に設け、この延出部に、上記車輪支持部材が上記旋回軸部材の軸線回りに旋回した際にその旋回方向に上記制限部材を当該延出部と共に連れ回りさせる連れ回り手段を設けている。また、上記移動対象物を手押しする手押し部の近傍に、リンク機構を介して上記旋回軸部材を進退移動させる操作部が設けられている。
【0009】
この特定事項により、手押し部近傍の操作部を操作すると、旋回軸部材がリンクを介して進退移動し、その進出移動に伴い制限部材が車輪を押圧しその押圧力に応じて当該車輪の転動を制限している。
その場合、制限部材に一体的に設けた延出部は、連れ回り手段によって、車輪支持部材が旋回軸部材の軸線回りに旋回した際にその旋回方向に制限部材と共に連れ回りするので、延出部が車輪の外周に沿って周方向に延ばされていても、延出部が制限部材と共に旋回自在な車輪に的確に押圧され、移動対象物の増速がその増速度合いに応じて確実に抑制される。これにより、移動対象物の増速をその増速度合いに応じて効率よく抑制することが可能となる。
【0010】
また、上記連れ回り手段に、上記車輪支持部材及び上記延出部の一方に設けられ、かつ上記旋回軸部材の進退移動方向に延びる係合部と、上記車輪支持部材及び上記延出部の他方に設けられ、上記旋回軸部材の進退移動時に上記係合部を嵌合した状態で摺動自在に案内する案内部とを設けていてもよい。
【0011】
この場合には、車輪支持部材及び延出部の一方を旋回軸部材の進退移動方向に延びる係合部が、旋回軸部材の進退移動時に車輪支持部材及び延出部の他方の案内部に嵌合した状態で摺動自在に案内されるので、連れ回り手段を簡単に構成することができる。
【0012】
また、上記旋回軸部材に、上記制限部材及び上記延出部を上記車輪から離反させる退入方向に付勢する付勢手段を設けていてもよい。
【0013】
この場合には、制限部材及び延出部を車輪から離反させる退入方向に付勢する付勢手段が旋回軸部材に設けられているので、操作部により車輪の転動を許容する操作がなされると、旋回軸部材の退入移動が付勢手段の付勢力によってアシストされ、車輪の転動を許容する操作が円滑になされる。これにより、操作部の操作性を向上させることができる。
【0014】
また、上記旋回軸部材が、上記制限部材が一端に取り付けられた軸本体と、上記リンク機構に連結され、上記移動対象物の筺体に水平軸を介して回転自在に支持されて上記軸本体の他端に対し摺接するとともに、その摺接面から上記水平軸までの距離が回転に伴い周方向で漸増するカムと、このカムの摺接面から上記水平軸までの距離が最も大きくなる周方向の位置に設けられ、上記軸本体の他端に対し面接触して当該カムの回転を規制する規制面と、を備えていてもよい。
【0015】
この場合には、カムの水平軸回りの回転に伴い軸本体の他端に対する摺接面から水平軸までの距離が周方向で漸増しているために当該カムの摺接面に軸本体が押されてその軸線方向に進出移動し、この進出移動に伴い制限部材が車輪に押圧されて車輪が制動される。このとき、カムの摺接面から水平軸までの距離が最も大きくなる周方向の位置に設けられた規制面が、軸本体の他端に対し面接触してカムの回転が規制される。これにより、車輪が制限部材により押圧された状態に保持され、移動対象物を制動状態に保持することができる。
【0016】
更に、上記車輪の外径を100mm以上に設定していてもよい。
【0017】
この場合には、路面の継ぎ目などの段差を車輪が無理なく乗り越えて移動対象物の移動を円滑に行うことができる。しかも、100mm以上の外径となる車輪によって、路面からの振動も抑制され、騒音の発生も抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上、要するに、車輪の転動を制限する制限部材に一体的に設けた延出部を車輪支持部材の旋回時にその旋回方向に制限部材と共に連れ回りさせることで、車輪の外周に沿って周方向に延ばした延出部を制限部材と共に旋回自在な車輪に的確に押圧し、移動対象物の増速をその増速度合いに応じて効率よく抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る車輪の制限装置を備えたショッピングカートを斜め正面側から見た斜視図である。
【図2】図1のショッピングカートを斜め背面側から見た斜視図である。
【図3】図1の前側の車輪を支持する支持構造を示す一部切り欠き断面図である。
【図4】図1の後側の車輪の制限装置の非制動状態を示す一部切り欠き断面図である。
【図5】図4の車輪の制限装置の上部の斜視図である。
【図6】図4の車輪の制限装置の制動状態を示す一部切り欠き断面図である。
【図7】実施の形態の変形例に係る後側の車輪の制限装置の非制動状態を示す一部切り欠き断面図である。
【図8】図7の車輪の制限装置の制動状態を示す一部切り欠き断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る車輪の制限装置を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は車輪の制限装置を備えたショッピングカートを斜め正面側から見た斜視図、図2はショッピングカートを斜め背面側から見た斜視図をそれぞれ示している。
【0022】
図1及び図2に示すように、移動対象物としてのショッピングカート1は、筺体としての略矩形状の基台11と、この基台11の背面側(図2では右手前側)となる後側の左右両位置にそれぞれ端部が固定されて起立する略U字状の下側フレーム12と、この下側フレーム12の上側に設けられた略U字状の上側フレーム13と、基台11上に底部が設置され、下側フレーム12の正面側(図1では左手前側)となる前側に沿って立設されたバッグ14とを備えている。
【0023】
基台11は、合成樹脂材よりなり、その四隅がそれぞれ面取りされて平面視で曲面に形成されている。また、下側フレーム12は、下端がそれぞれ基台11に連結されて上方へ延びる左右の縦フレーム部121,122と、この両縦フレーム部121,122の上端同士を連結する横フレーム部123とで構成されている。一方、上側フレーム13は、その左右の縦フレーム部121,122に上下方向へ進退自在に支持された上下方向へ延びる左右の縦フレーム部131,132と、この両縦フレーム部131,132の上端同士を連結する横フレーム部133とで構成されている。この横フレーム部133は、ショッピングカート1を手押しする際の手押し部として構成されている。この場合、下側フレーム12の横フレーム部123には、上側フレーム13の両縦フレーム部131,132を伸長位置(図1及び図2に示す位置)と収縮位置とに切り替える切替部(図示せず)が設けられている。
【0024】
バッグ14は、布製のものであって、底部が基台11の形状と略一致する略矩形状となっている。また、バッグ14は、上方に開口する略矩形ボックス形状の本体141と、この本体141の上端の開口(図示せず)を開閉する蓋142とを備えている。
【0025】
また、基台11の下面の四隅には、周囲が略矩形状に囲まれた車輪取付部15が一体的に設けられ、この車輪取付部15の下端が蓋材16によって閉ざされている。この蓋材16によって閉ざされた車輪取付部15に、それぞれ左右一対の前後の車輪2,3が取り付けられている。この場合、蓋材16は、車輪取付部15の下端に対し皿ねじ10によって止着されている。
【0026】
そして、図3に示すように、各車輪2,3のうちの前側の車輪2(同一構成となるので、一方についてのみ説明する)は、それぞれ基台11の前側左右の隅から下方に突出する旋回部材21に対しその軸線m回りに旋回自在に支持されている。また、前側の旋回部材21には、車輪2を転動自在に支持する車輪支持部材22が取り付けられている。
【0027】
この前側の車輪支持部材22は、断面略コ字状に形成され、その両端(図3では下端)に略水平な軸23を介して車輪2を転動自在に支持している。この車輪支持部材22の底部(図3では上部)は、平面視で真円形状に形成されている。また、車輪取付部15の蓋材16の下面には、車輪支持部材22の底部と一致するように真円形状で凹む凹部171を有する車輪支持部17が取り付けられている。そして、車輪支持部17の凹部171には、車輪支持部材22の底部が摺動自在に嵌入されている。また、旋回部材21は、ボルト部材211とナット部材212とを備えている。更に、蓋材16及び車輪支持部17の凹部171の中心位置には、蓋材16と共に凹部171の中心位置をそれぞれ上下方向に貫通する貫通孔161,172が設けられている。また、車輪支持部材22の底部の中心位置にも、蓋材16及び凹部171と同様に上下方向に貫通する貫通孔221が設けられている。そして、前側の車輪支持部17の凹部171に車輪支持部材22の底部を嵌入した状態で、貫通孔161,172,221に下方から挿通されたボルト部材211を蓋材16の上面からナット部材212で螺着することで、前側の車輪支持部材22を車輪支持部17の凹部171内においてボルト部材211(旋回部材21)の軸線m回りに旋回自在に支持している。
【0028】
一方、図4に示すように、後側の車輪3(同一構成となるので、一方についてのみ説明する)は、それぞれ基台11の後側左右の隅から下方に突出する旋回部材31に対しその軸線n回りに旋回自在に支持されている。また、後側の旋回部材31には、車輪3を転動自在に支持する車輪支持部材32が取り付けられている。
【0029】
この後側の車輪支持部材32も、前側の車輪支持部材22と同様に断面略コ字状に形成され、その両端(図4では下端)に略水平な軸33を介して車輪3を転動自在に支持している。この車輪支持部材32の底部(図4では上部)は、平面視で真円形状に形成されている。また、車輪取付部15の蓋材16の下面の車輪支持部17の凹部171には、車輪支持部材32の底部が摺動自在に嵌入されている。
【0030】
また、旋回部材31は、ボルト部材311とナット部材312とを備えている。更に、車輪支持部材32の底部の中心位置にも、蓋材16及び車輪支持部17の凹部171の貫通孔161,172と同様に上下方向に貫通する貫通孔321が設けられている。そして、後側の車輪支持部17の凹部171に車輪支持部材32の底部を嵌入した状態で、貫通孔161,172,321に下方から挿通されたボルト部材311を蓋材16の上面からナット部材312で螺着することで、後側の車輪支持部材32を車輪支持部17の凹部171内においてボルト部材311(旋回部材31)の軸線n回りに旋回自在に支持している。ボルト部材311は、その軸線n方向に貫通する貫通孔313を有する中空形状に形成されている。
【0031】
また、旋回部材31のボルト部材311の貫通孔313には、旋回軸部材30が挿通されている。この旋回軸部材30は、旋回部材31及び車輪支持部材32に対し軸線n方向に進退移動自在に支持されているとともに、車輪支持部材32を貫通して下方に突出している。この旋回軸部材30の突出端には、当該旋回軸部材30の進出移動に伴い後側の車輪3を押圧しその押圧力に応じて当該車輪3の転動を制限する制限部材34が設けられている。
【0032】
制限部材34には、後側の車輪3の外周に沿って周方向に延びる延出部35が一体的に設けられている。この延出部35には、車輪支持部材32が旋回軸部材30の軸線n回りに旋回した際にその旋回方向に制限部材34を当該延出部35と共に連れ回りさせる連れ回り手段36が設けられている。
【0033】
連れ回り手段36は、制限部材34の延出部35より旋回軸部材30の進退移動方向(軸線n方向)に延びるロッド状の係合部361と、この係合部361と対応する車輪支持部材32の対応縁部322において旋回軸部材30の進退移動方向(軸線n方向)に延び、旋回軸部材30の進退移動時に係合部361を嵌合した状態で摺動自在に案内する案内部としての案内孔362とを備えている。この場合、車輪支持部材32の対応縁部322は、制限部材34の延出部35の外周面に則した断面略円弧状に形成されている。
【0034】
また、旋回軸部材30は、制限部材34が下端に取り付けられた軸本体37と、この軸本体37の上端(他端)に対し摺接するカム38とを備えている。軸本体37は、制限部材34が下端に固着されて軸線n方向に延びる小径ロッド371と、この小径ロッド371の上端を挿通させる挿通穴372aを有する大径ロッド372とを備えている。そして、小径ロッド371は、ボルト部材311の貫通孔313に挿通され、その下端(突出端)を車輪支持部材32の下方に位置付けている。また、大径ロッド372は、車輪取付部15に固着された筒部18に摺動自在に嵌挿されている。この筒部18は、図5にも示すように、その左右両側部が左右で対をなす縦壁181,181を備えている。
【0035】
カム38は、筒部18の縦壁181に左右方向に延びる水平軸380を介して回転自在に支持されている。このカム38は、大径ロッド372の上端に対し摺接する摺接面382を有している。この摺接面382は、カム38の水平軸380の軸芯までの距離が回転に伴い周方向で漸増しており、その距離が最も大きくなる周方向の位置に、大径ロッド372の上端に対し面接触してカム38の回転を規制する略平坦な規制面383が設けられている。そして、規制面383の反摺接面382側には、リンク機構4の一端を取り付けるための取付部384が設けられている。
【0036】
リンク機構4は、上下方向へ延びる縦リンク41と、この縦リンク41の下端に取り付けられ、左右方向へ水平に延びる横リンク42とを備えている。縦リンク41は、ショッピングカート1を手押しする上側フレーム13の横フレーム部133の近傍となる下側フレーム12の横フレーム部123の左端に取り付けられた操作部40に上端が取り付けられ、左側の縦フレーム部121に沿って下方へ延びている。横リンク42は、縦リンク41の下端を左右方向に延びる水平軸(図示せず)を介して支持する支持部421を有している。また、基台11の後側左右の隅には、カム38及び筒部18の縦壁181を上方及び周囲から覆う断面略矩形枠状の包囲部材19が立設されている。この左右の包囲部材19の互いに対向する対向面には、横リンク42を摺動案内する円弧状の案内溝191が設けられている。更に、横リンク42の左右両端は、左右の包囲部材19の案内溝191に挿通されてカム38の取付部384に回転自在に支持されている。
【0037】
そして、左右の後側の旋回軸部材30(軸本体37)は、操作部40を下方へ操作すると、リンク機構4を介してカム38を所定方向(図4では時計回り)に回転させて進出移動するようになっている。このとき、図6に示すように、左右の後側の旋回軸部材30(軸本体37)が進出移動すると、制限部材34及び延出部35は、その進出移動に伴い後側の車輪3を押圧しその押圧力に応じて当該車輪3の転動を制限している。
【0038】
また、小径ロッド371は、ナット部材312と大径ロッド372との間に縮装された付勢手段としてのコイルスプリング39を備えている。このコイルスプリング39は、ナット部材312の上面に載置されたリング部材323と小径ロッド371の上端部付近に螺着されたナット材44との間に設けられている。このナット材44は、大径ロッドの下端に当接している。そして、コイルスプリング39は、蓋材16上のナット部材312に対しナット材44つまり小径ロッド371及び大径ロッド372を軸線n方向上方向きとなる退入移動方向へ付勢している。このとき、操作部40を上方へ操作すると、左右の旋回軸部材30(軸本体37)の退入移動がコイルスプリング39の付勢力によってアシストされ、操作部40をリンク機構4を介して上方へ復帰させるとともに、制限部材34及び延出部35を車輪3から離反させて車輪支持部材32の対応縁部322に接する退入位置(図4に示す位置)に戻している。この場合、ナット材44は、コイルスプリング39の付勢力を調整するために供され、図4に示すように、操作部40が上方へ復帰した際に大径ロッド372の上端をカム38の摺接面382から離間させるようにして、車輪3の転動時にカム38の摺接面382との摺接による抵抗が軸本体37に作用しないようにしている。
【0039】
更に、各車輪2,3は、それぞれ外径が100mm以上に設定されている。
【0040】
したがって、上記実施の形態では、ショッピングカート1を手押しする上側フレーム13の横フレーム部133の近傍となる下側フレーム12の横フレーム部123の左端に取り付けられた操作部40を下方へ操作すると、左右の旋回軸部材30がリンク機構4を介して進退移動し、その進出移動に伴い制限部材34及び延出部35が後側の車輪3を押圧しその押圧力に応じて当該車輪3の転動を制限している。
【0041】
その場合、制限部材34に一体的に設けた延出部35は、連れ回り手段36によって、車輪支持部材32が軸線n回りに旋回した際にその旋回方向に制限部材34と共に連れ回りするので、延出部35が車輪3の外周に沿って周方向に延ばされていても、延出部35が制限部材34と共に旋回自在な車輪3に的確に押圧され、ショッピングカート1の増速がその増速度合いに応じて確実に抑制される。これにより、ショッピングカート1の増速をその増速度合いに応じて効率よく抑制することができる。
【0042】
また、旋回軸部材30の進退移動時に、制限部材34の延出部35より旋回軸部材30の進退移動方向(軸線n方向)に延びるロッド状の係合部361が、車輪支持部材32の対応縁部322において旋回軸部材30の進退移動方向に延びる案内孔362に嵌合した状態で摺動自在に案内されるので、連れ回り手段36を係合部361と案内孔362とによって簡単に構成することができる。
【0043】
また、制限部材34及び延出部35を車輪3から離反させる退入方向に付勢するコイルスプリング39が旋回軸部材30に設けられているので、操作部40を上方へ操作すると、左右の後側の旋回軸部材30(軸本体37)の退入移動がコイルスプリング39の付勢力によってアシストされ、車輪3の転動を許容する操作が円滑になされる。これにより、操作部40の操作性を向上させることができる。
【0044】
また、旋回軸部材30が、制限部材34が下端に取り付けられた軸本体37の小径ロッド371と、その軸本体37の大径ロッド372の上端に摺接し、水平軸380の軸芯までの距離が回転に伴い周方向で漸増する摺接面382を有するカム38とを備えているので、カム38の回転に伴い大径ロッド372の上端に対する摺接面382から水平軸380の軸芯までの距離が周方向で漸増しているために当該カム38の摺接面382に軸本体37が押されて下方へ進出移動し、この進出移動に伴い制限部材34及び延出部35が車輪3に押圧されて車輪3が制動される。このとき、カム38の摺接面382から水平軸380の軸芯までの距離が最も大きくなる周方向の位置に設けられた規制面383が、大径ロッド372の上端に対し面接触してカム38の回転が規制される。これにより、車輪3が制限部材34及び延出部35により押圧された状態に保持され、ショッピングカート1を制動状態に保持することができる。
【0045】
更に、各車輪2,3の外径が100mm以上に設定されているので、路面の継ぎ目などの段差を車輪2,3が無理なく乗り越えてショッピングカート1の移動を円滑に行うことができる。しかも、100mm以上の外径となる車輪2,3によって、路面からの振動も抑制され、騒音の発生も抑制することができる。
【0046】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その他種々の変形例を包含している。例えば、上記実施の形態では、移動対象物としてショッピングカート1に適用した場合について述べたが、老人の買い物や散歩などに用いられるシルバーカー、又は、身障者の歩行訓練や機能回復などに用いられる歩行車、或いは、キャリーカーなどの移動対象物の車輪の制限装置として適用してもよいのはもちろんである。
【0047】
また、上記実施の形態では、旋回軸部材30の進退移動時に、制限部材34の延出部35より旋回軸部材30の進退移動方向に延びるロッド状の係合部361を、車輪支持部材32の対応縁部322において旋回軸部材30の進退移動方向に延びる案内孔362に嵌合させた状態で摺動自在に案内したが、係合部が車輪支持部材の対応縁部に設けられ、案内孔が制限部材の延出部に設けられていてもよい。また、連れ回り手段が、車輪支持部材及び延出部の一方に設けられた係合部と、車輪支持部材及び延出部の他方に設けられ、旋回軸部材の進退移動時に係合部を嵌合した状態で摺動自在に案内する溝状の案内部であってもよい。
【0048】
更に、上記実施の形態では、旋回軸部材30の進出移動時に制限部材34及び延出部35が後側の車輪3を押圧しその押圧力に応じて当該車輪3の転動を制限させたが、図7及び図8に示すように、旋回軸部材30の進出移動時に車輪3の転動の制限に加え、車輪支持部材32の軸線n回りの旋回を制限して車輪3の旋回が規制されるようにしてもよい。
具体的には、底部に軸線n上に貫通する貫通孔(図示せず)を有しかつ上端部に周方向に一定のピッチで下方に凹む凹部51,51,…を有する有底筒状の第1部材5と、底部に軸線n上に貫通する貫通孔(図示せず)を有しかつ下端部に周方向90度おきに下方に突出して第1部材5の凹部51に嵌合可能な凸部61,61,…を有する有底筒状の第2部材6とを備える。そして、第1部材5の貫通孔に小径ロッド371を挿通させてナット部材312により第1部材5の底部を蓋材16上に固着することによって当該第1部材5に対し小径ロッド371を回転自在に支持するとともに、凹部51を当該第1部材5の上側に位置付ける。一方、第2部材6の貫通孔に小径ロッド371を挿通させてナット材44の下面に第2部材6の底部を固着することによって当該第2部材6を小径ロッド371に回転一体に連結するとともに、凸部61を凹部51に対向するように当該第2部材6の下側に位置付ける。そして、図8に示すように、旋回軸部材30(軸本体37)の進出移動時に制限部材34及び延出部35によって車輪3の転動を制限するとともに、第1部材5の各凹部51に対し第2部材6の各凸部61を嵌合させて車輪支持部材32の軸線n回りの旋回を制限することで車輪3の旋回を規制している。この場合には、車輪3の制動時に当該車輪3の旋回も規制されてより一層安定した車輪3の制動を得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 ショッピングカート
11 基台(筺体)
133 上側フレームの横フレーム部(手押し部)
3 後側の車輪
30 旋回軸部材
32 車輪支持部材
33 軸
34 制限部材
35 延出部
36 連れ回り手段
361 係合部
362 案内孔(案内部)
37 軸本体
38 カム
380 水平軸(カムの水平軸)
382 摺接面
383 規制面
39 コイルスプリング(付勢手段)
4 リンク機構
40 操作部
n 旋回軸部材の軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動対象物の下方に突出する旋回軸部材に対しその軸線回りに旋回自在に支持された車輪の転動を制限する制限装置であって、
上記車輪は、上記旋回軸部材に取り付けられた車輪支持部材に略水平な軸を介して転動自在に支持され、
上記旋回軸部材は、上記車輪支持部材に対し軸線方向に進退移動自在に支持されているとともに、上記車輪支持部材を貫通して下方に突出し、その突出端には、当該旋回軸部材の進出移動に伴い上記車輪を押圧しその押圧力に応じて当該車輪の転動を制限する制限部材が設けられており、
上記制限部材には、上記車輪の外周に沿って周方向に延びる延出部が一体的に設けられ、この延出部には、上記車輪支持部材が上記旋回軸部材の軸線回りに旋回した際にその旋回方向に上記制限部材を当該延出部と共に連れ回りさせる連れ回り手段が設けられているとともに、
上記移動対象物を手押しする手押し部の近傍には、リンク機構を介して上記旋回軸部材を進退移動させる操作部が設けられていることを特徴とする車輪の制限装置。
【請求項2】
上記連れ回り手段は、
上記車輪支持部材及び上記延出部の一方に設けられ、かつ上記旋回軸部材の進退移動方向に延びる係合部と、
上記車輪支持部材及び上記延出部の他方に設けられ、上記旋回軸部材の進退移動時に上記係合部を嵌合した状態で摺動自在に案内する案内部と、
を備えている請求項1に記載の車輪の制限装置。
【請求項3】
上記旋回軸部材は、上記制限部材及び上記延出部を上記車輪から離反させる退入方向に付勢する付勢手段を備えている請求項1又は請求項2に記載の車輪の制限装置。
【請求項4】
上記旋回軸部材は、
上記制限部材が一端に取り付けられた軸本体と、
上記リンク機構に連結され、上記移動対象物の筺体に水平軸を介して回転自在に支持されて上記軸本体の他端に対し摺接するとともに、その摺接面から上記水平軸までの距離が回転に伴い周方向で漸増するカムと、
このカムの摺接面から上記水平軸までの距離が最も大きくなる周方向の位置に設けられ、上記軸本体の他端に対し面接触して当該カムの回転を規制する規制面と、
を備えている請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の車輪の制限装置。
【請求項5】
上記車輪は、その外径が100mm以上に設定されている請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の車輪の制限装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−163168(P2012−163168A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24793(P2011−24793)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(500551677)株式会社島製作所 (8)
【Fターム(参考)】