説明

車輪の接地状態判定装置および車輪の接地状態判定方法、並びに車両運動制御装置

【課題】車輪の接地状態の良否を精度よく判定する。
【解決手段】検出部21は、車輪5の車輪中心面に垂直な方向に作用する力を横力Fyとして直接的に検出する。加速度センサ22は、車両の横方向の加速度を検出する。演算部23は、検出された横方向の加速度に基づいて、車輪5に作用するコーナリングフォースYを算出する。判定部24は、検出された横力Fyと、算出されたコーナリングフォースYとを比較することにより、車輪5の接地状態の良否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の接地状態判定装置およびその方法、並びに車両運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、旋回走行時における車両の安定性の向上といった観点から、車輪の接地状態に着目して、車両の運動状態を制御する手法が知られている。この制御手法では、車輪の接地状態をモニタリングする必要があるため、車両に発生するロール角、或いは、ロール角速度に基づいて、これを推定している。なぜならば、車両にローリングが生じている場合には、車両に設けられている車輪が地面に対して傾くため、この傾きの程度から接地状態の悪化を判断可能だからである。車輪の接地状態が良好でないと判断された場合には、車両のロール剛性を上げることにより、車両に発生しているロール角を抑制する。これにより、車輪の接地状態が良好となる方向へと作用し、旋回走行時の安定性の向上を図ることができる。例えば、特許文献1には、ロール角、或いはロール角速度を測定することにより、車両の挙動を推定する手法が開示されている。また、例えば、特許文献2には、車両のロール制御に関する一般的な手法が開示されている。
【特許文献1】特開2001−050973号公報
【特許文献2】特開2002−012141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、車両のロール状態から車輪の接地状態を推定する手法は、間接的にしかこれを推定することができない。そのため、車輪の接地状態を精度よく判定することが困難であるという問題がある。
【0004】
そこで、本発明の目的は、車輪の接地状態を精度よく判定することである。
【0005】
また、本発明の別の目的は、車輪の接地状態に基づいて、車両の運動状態の制御を精度よく実行することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために、第1の発明は、車輪の接地状態判定装置を提供する。この車輪の接地状態判定装置は、車輪の車輪中心面に垂直な方向に作用する力を横力として直接的に検出する検出部と、車両の横方向の加速度を検出する加速度センサと、検出された横方向の加速度に基づいて、車輪に作用するコーナリングフォースを算出する演算部と、検出された横力と、算出されたコーナリングフォースとを比較することにより、車輪の接地状態を判定する判定部とを有する。
【0007】
ここで、第1の発明において、検出部は、車両に設けられている複数の車輪を検出対象として、横力をそれぞれ検出し、演算部は、車輪のそれぞれに作用するコーナリングフォースの総和を算出し、判定部は、車輪のそれぞれについて検出された横力の総和と、算出されたコーナリングフォースの総和とを比較することにより、複数の車輪全体を判定単位として、接地状態を判定することが好ましい。
【0008】
また、第1の発明において、車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサをさらに有し、検出部は、車両の前後に設けられている複数の車輪を検出対象として、横力をそれぞれ検出し、演算部は、検出されたヨーレートと検出された加速度とに基づいて、前輪に作用するコーナリングフォースの総和と、後輪に作用するコーナリングフォースの総和とを算出し、判定部は、前輪について検出された横力の総和と、算出された前輪のコーナリングフォースの総和とを比較することにより、前輪の接地状態を判定するとともに、後輪について検出された横力の総和と、算出された後輪のコーナリングフォースの総和とを比較することにより、後輪の接地状態を判定することが好ましい。
【0009】
第2の発明は、車輪の接地状態判定装置を提供する。この車輪の接地状態判定装置は、車両に設けられている複数の車輪を検出対象として、車輪の車輪中心面に対して鉛直方向に作用する力を上下力として直接的に検出する検出部と、車輪のそれぞれについて検出された上下力の総和と、判定値とを比較することにより、車輪の接地状態を判定する判定部とを有する。
【0010】
ここで、第2の発明において、判定値は、車両静止時に、車輪のそれぞれについて検出された上下力の総和を基準に設定されることが好ましい。
【0011】
また、第3の発明は、車両運動制御装置を提供する。この車両運動制御装置は、上述した第1の発明または第2の発明に係る車輪の接地状態判定装置と、接地状態判定装置による判定結果に基づいて、車両のロール剛性を制御する制御部とを有する。
【0012】
さらに、第4の発明は、車輪の接地状態判定方法を提供する。この車輪の接地状態判定方法は、車輪の車輪中心面に垂直な方向に作用する力を横力として直接的に検出する第1のステップと、車両の横方向の加速度を検出する第2のステップと、横方向の加速度に基づいて、車輪に作用するコーナリングフォースを算出する第3のステップと、検出された横力と、算出されたコーナリングフォースとを比較することにより、車輪の接地状態を判定する第4のステップとを有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、検出部によって車輪に作用する力が直接的に検出される。車輪の接地状態が不良である場合、検出部によって検出される力と、実際の力とは値的に対応しなくなる。そこで、両者の値を比較することにより、車輪の接地状態を判定することが可能となる。また、本実施形態では、車輪に作用する力を直接的に検出している関係上、車輪の接地状態がその値に適切に反映されることとなる。そのため、接地状態の判定をより高精度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態にかかる車両運動制御装置が適用された車両の説明図である。この車両は、前後四輪で駆動する四輪駆動車である。エンジン1のクランクシャフト(図示せず)からの動力は、自動変速機2、センタディファレンシャル装置3を介して、前輪側および後輪側の駆動軸(車軸)4へとそれぞれ伝達される。車軸4に動力が伝達されると、各車輪5には回転トルクが加えられ、これにより、個々の車輪5に駆動力が発生する。
【0015】
それぞれの車輪5は、前輪側および後輪側に各々設けられたサスペンション装置によって、車両に懸架されている。サスペンション装置は、一対のサスペンションアーム6、一対のダンパシリンダ(図示せず)、および一対のコイルスプリング(図示せず)を主体に構成されており、左右の車輪5をそれぞれ車両に懸架する。また、このサスペンション装置には、車両のローリングを抑制する機能を担うスタビライザー7が更に設けられている。スタビライザー7は、その一方のアーム7aが、連結軸8を介して、一方の車輪(本実施形態では、左輪)5のサスペンションアーム6に連結されている。一方、他方のアーム7bは、アクチュエータ9を介して、他方の車輪(本実施形態では、右輪)5のサスペンションアーム6に連結されている。連結軸8は、上下方向の長さ(高さ)が一定の軸状の連結部材であり、一方、アクチュエータ9は、高さが調節自在の連結部材である。このアクチュエータ9は、例えば、モータ(図示せず)と、ボールねじとを主体に構成されており、モータの回転量に応じて、自身の高さ可変に設定することができる。
【0016】
通常走行時、アクチュエータ9は、自己の高さが連結軸8のそれに対応するように調整されている。この場合、スタビライザー7は、水平な状態に保たれており、通常のスタビライザーと同様の機能を担う。例えば、右旋回時には、外輪に相当する左輪5における荷重が増加し、内輪に相当する右輪5における荷重が減少する。すなわち、車両の左輪側が沈み込み、一方、車両の右輪側が浮き上がる(すなわち、車両にロール角が発生する)。この場合、スタビライザー7の各アーム7a,7bは、それぞれに逆位相で撓み、スタビライザー7にねじりモーメントが発生する。このねじりモーメントにより、スタビライザー7には、自己を水平に保とうとする力が働き、これにより、車両のローリングが抑制される。なお、このような通常機能に加えて、アクチュエータ9を制御することにより、スタビライザー7に積極的にねじりモーメントを発生させることもできる。
【0017】
図2は、車両運動制御装置のブロック構成図である。この車両運動制御装置10は、例えば、車両のローリングを抑制することにより、車輪5の接地状態の向上を図る装置であり、接地状態判定装置20と、制御部30とを主体に構成されている。なお、後述する第2の実施形態も同図を用いて説明する関係上、同図は、全ての実施形態を含む形でブロックを示している点に留意されたい。
【0018】
接地状態判定装置20は、車輪5の接地状態が良好か否かを判定する。この接地状態判定装置20は、検出部21と、加速度センサ22と、演算部23と、判定部24とで構成されている。
【0019】
図3は、作用力の説明図である。検出部21は、車輪5に作用する作用力を検出するセンサであり、4つの車輪5にそれぞれ設けられている。なお、図面の簡明化のため、図2には、検出部21に相当するブロックが一つのみ示されている。検出部21によって検出される作用力としては、前後力Fx、横力Fyおよび上下力Fzが挙げられるが、本実施形態では、横力Fyと上下力Fzとが重要である。前後力Fxは、車輪5の接地面に発生する摩擦力のうち車輪中心面に平行な方向に発生する分力であり、横力Fyは、車輪中心面に直角な方向に発生する分力である。上下力Fzは、鉛直方向に作用する力、いわゆる、垂直荷重である。個々の検出部21は、ひずみゲージと、このひずみゲージから出力される電気信号を処理し、作用力に応じた検出信号を生成する信号処理回路とを主体に構成されている。車軸4に生じる応力は作用力に比例するという知得に基づき、ひずみゲージを車軸4に埋設することにより、作用力が直接的に検出される。検出された各車輪5に関する横力Fyおよび上下力Fzは、後述する判定部24にそれぞれ出力される。なお、検出部21の具体的な構成については、特開平04−331336号公報および特開平10−318862号公報等に開示されているので、必要ならば参照されたい。
【0020】
図4は、検出される横力Fyと上下力Fzとの説明図である。横力Fy、上下力Fzの定義は上述した通りであるが、検出部21は、実際には、車輪の車輪中心面(上下方向に延在する車輪中心線と、前後方向に延在する車輪中心線とによって規定される平面)に垂直な方向に作用する力を横力Fyとして検出する。ここで、車輪中心線は、車輪の中心点を通る任意の直線である。また、検出部21は、上下方向に延在する車輪中心線の延在方向に作用する力を上下力Fzとして検出する。車輪中心面が垂直な状態では、検出部21によって検出される横力Fyおよび上下力Fzは、定義に対応した力となる(図3の矢印付き実線および図4(a)参照)。ところが、旋回走行時、車両のローリングにともない車輪5が傾斜し、その接地状態が不良となった場合、検出されたこれらの力Fy,Fzは、定義との不一致が生じる(図3の矢印付き点線および図4(b)参照)。具体的には、検出される横力Fyは、定義上の横力Y(以下「実横力」という)と比較して大きな値となり、検出される上下力Fzは、定義上の上下力T(以下「実上下力」という)よりも小さな値となる。
【0021】
加速度センサ22は、車両の横方向の加速度(以下「横加速度」という)Accを検出する周知の加速度センサである。検出された横加速度Accは、演算部23に出力される。演算部23は、検出された横加速度Accに基づいて、車輪5に作用するコーナリングフォースYを算出する。コーナリングフォースYは、一般に、車輪5があるすべり角で旋回する時、接地面に発生する摩擦力のうち車輪5の進行方向に直角に働く成分である。ただし、本実施形態では、車輪5の傾斜を考慮した上で、車両に対して垂直方向に働く力、すなわち、実横力Yをコーナリングフォースとする。コーナリングフォースYが算出されると、演算結果は判定部24に出力される。
【0022】
判定部24は、各車輪5の横力Fyと、コーナリングフォースYとを比較することにより、車輪5の接地状態を判定する。本実施形態では、この判定部24は、車輪5の接地状態が良好な場合には、「良好」との判定を行い、それ以外の場合、すなわち、車輪5の接地状態が不良な場合には、「不良」との判定を行う。
【0023】
一方、制御部30は、接地状態判定装置20から出力される判定結果に基づいて、車両のロール剛性を制御する。具体的には、制御部30は、スタビライザー7のアクチュエータ9を制御し、車両のロール剛性を調整する。これにより、車両のローリングが抑制され、結果として、車輪5の接地状態は良好となる方向へと作用する。
【0024】
図5は、本実施形態に示す車両運動制御ルーチンを示すフローチャートである。まず、ステップ1において、各種の検出値が読み込まれる。このステップ1において読み込まれる検出値としては、横加速度Acc、各車輪5の横力Fyが挙げられる。なお、横力Fy、コーナリングフォースYを車輪毎に区別する場合には、添字fl,fr,rl,rrにより、左前輪、右前輪,左後輪,右後輪を各々区別する。例えば、Ffl_yは、左前の車輪5に作用する横力Fyを示すといった如くである。
【0025】
ステップ2において、各車輪5のコーナリングフォースYが算出される。本実施形態では、加速度センサ22の検出値に基づいて、コーナリングフォースYを算出する関係上、各車輪5のコーナリングフォースYは、それらの値の総和Ytotとして算出される(Ytot=Yfl+Yfr+Yrl+Yrr)。コーナリングフォースYの総和Ytotは、検出された横加速度Accに車両質量を乗算することにより、一義的に算出することができる。また、検出された各車輪5の横力Ffl_y〜Frr_yに基づいて、横力Fzの4つの車輪に関する総和Ftot_yが算出される(ステップ3)
【0026】
ステップ4において、車輪5の接地状態が「不良」であるか否か、すなわち、車両がロールしているか否かが判定される。通常、車輪5が路面に対して適正に接地している状態では、操舵輪に相当する前輪5の横力Ffl_y,Ffr_yと、前輪5のコーナリングフォースYfl,Yfrとの間には、以下に示す関係が成立する(数式1)。ここで、前輪5の操舵角は、δとする。
【数1】

【0027】
上述したように、車両がロールしている場合、横力Fyが定義上の実横力Yと比較して大きな値となり、当然ながら、車両に発生するロール角が大きいほど、すなわち、車輪5の接地状態が悪いほど、この傾向は顕著となる。そのため、数式1を前提とすると、横力の総和Ftot_yとコーナリングフォースの総和Ytotとの間には、以下に示す数式2の関係が成立する。
【0028】
【数2】

【0029】
通常の走行において、操舵角δは、小さな値であるため、その余弦値は、1とみなすことができる。この場合、不等号を基準とした右辺(Ftot_y')は、実質的に、横力の総和Ftot_yと置換することができる。そこで、このステップ4では、横力の総和Ftot_yと、算出されたコーナリングフォースの総和Ytotとを比較することにより、車輪全体を判定単位として接地状態の良否を判定する。具体的には、コーナリングフォースの総和Ytotが、横力の総和Ftot_yよりも十分に小さいか、すなわち、横力の総和Ftot_yに所定の定数K(0<K<1、例えば0.9)を乗算した値よりも小さいか否か判定される(Ytot<K・Ftot_y)。このステップ4において肯定判定された場合、すなわち、車輪5の接地状態が「不良」である場合には(Ytot<K・Ftot_y)、ステップ5に進む。一方、ステップ4において否定判定された場合、すなわち、車輪5の接地状態が「良好」である場合には(Ytot≧K・Ftot_y)、ステップ6に進む。
【0030】
ステップ5では、車両のロール剛性を上げるように、前輪側および後輪側のアクチュエータ9がそれぞれ制御される。具体的には、車両の右旋回時、すなわち、左輪側の車両が沈み込み、右輪側の車両が浮き上がっている場合、制御部30は、前輪側および後輪側のアクチュエータ9の高さを所定量小さくする。この場合、アクチュエータ9が右輪側に取付けられている関係上、ねじりモーメントにより左輪(すなわち、連結軸8側の車輪)側への反力が増加する。これにより、車両の左側の沈み込みが抑制され、結果として、車輪5の接地状態も良好な方向へと近づく。一方、左旋回時、制御部30は、先の動作と逆方向にアクチュエータ9を制御する。このケースでは、車両の右側の沈み込みが抑制され、結果として、車輪5の接地状態も良好な方向へと近づく。
【0031】
ステップ6では、車両のロール剛性を下げるように、前輪側および後輪側のアクチュエータ9がそれぞれ制御される。具体的には、制御部30は、前輪側および後輪側のアクチュエータ9が、現在の高さよりも連結軸8のそれに近づくように、その高さを所定量伸縮される。これにより、旋回時、車両のロール剛性を上げすぎた場合、或いは、通常走行に復帰した場合であっても、車輪5の接地状態は、良好となる方向へと近づく。なお、アクチュエータ9の高さが、連結軸8のそれと一致した場合には、ロール剛性をそれ以上下げることはできないので、このステップ6では、それ以降はアクチュエータ9の制御は実行しない。
【0032】
このように本実施形態によれば、検出部21によって車輪中心面に対して垂直方向に働く力が横力として直接的に検出される。車輪5の接地状態が不良な場合には、検出部21によって検出される横力Fyと、実際の横力Yとが値的に対応しなくなる。そこで、両者の値を比較することにより、車輪5の接地状態を判定することが可能となる。また、本実施形態では、横力Fyを直接的に検出している関係上、車輪5の接地状態がその値に適切に反映されるため、接地状態の判定をより高精度に行うことができる。さらに、本実施形態では、このような接地状態判定の判定結果に基づいて、車両のロール剛性を積極的に調整することにより、車両に生じるロール角が抑制される。これにより、車輪5の接地状態が良好に維持され、旋回時における車両の安定性の向上を図ることができる。
【0033】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、前後左右の車輪5、すなわち、車輪全体として接地状態を判定したのに対して、本実施形態では、前輪側と後輪側とに分割した上で、これらの接地状態をそれぞれ判定する。なお、全体的なシステム構成、制御手順に関する基本的な部分は第1の実施形態のそれと同じであるため、ここでの説明を省略する(後述する実施形態についても同様)。なお、本実施形態のシステム構成が、第1の実施形態のそれと相違する点は、ヨーレートセンサ25を更に備える点である。
【0034】
ヨーレートセンサ25は、車両のヨーレートωを検出する周知のセンサであり、ヨーレートセンサ25による検出信号は、演算部23に出力される。演算部23は、検出されたヨーレートωと、検出された横加速度Accとに基づいて、前輪5のコーナリングフォースの総和Yf_totと、後輪5のコーナリングフォースとの総和Yr_totとをそれぞれ算出する。具体的には、まず、ヨーレートωの単位時間あたり変化量であるヨー角加速度dω/dtが算出される。算出されたヨー角加速度dω/dtと、検出された横加速度Accとに基づいて、前輪5のコーナリングフォースの総和Yf_totと、後輪5のコーナリングフォースの総和Yr_totとがそれぞれ算出される。それぞれのコーナリングフォースYf_tot,Yr_totとは、以下に示す数式に基づいて、一義的に算出することができる。
【数3】

【0035】
同数式において、lfは、車両重心と前輪5との間の距離であり、lrは、車両重心と後輪5との間の距離である。Izは、鉛直軸回りの車両の慣性モーメントである。
【0036】
車両が旋回中の場合、前輪5に関する横力Ffl_y,Ffr_yの総和と、前輪5に関するコーナリングフォースの総和Yf_totとの間には、以下に示す関係が成立する。また、後輪5に関する横力Frl_y,Frr_yの総和と、前輪5に関するコーナリングフォースの総和Yr_totとの間には、以下に示す関係が成立する。
【数4】

【0037】
そこで、第1の実施形態と同様、前輪5に関する横力Ffl_y,Ffr_yの総和と、前輪5に関するコーナリングフォースの総和Yf_totとを比較することにより、前輪5の接地状態の良否が判定される。また、後輪5に関する横力Frl_y,Frr_yの総和と、後輪5に関するコーナリングフォースの総和Yr_totとを比較することにより、後輪5の接地状態の良否が判定される。そして、これらの比較により、車輪5の接地状態に不良が判定されると、前輪5の判定結果と、後輪5の判定結果とに基づいて、前後の車輪5においてそれぞれ独立して、車輪の接地性向上を図る。
【0038】
このように本実施形態によれば、上述した第1の実施形態と同様の効果を奏するとともに、ヨーレートセンサの検出値を用いることにより、前輪5と後輪5とにおいてそれぞれ独立して接地状態を判定することができる。そのため、車輪全体としては接地状態が良好と判定される場合であっても、前輪5或いは後輪5に生じ得る接地状態の不良を適切に判定することができる。また、個別の判定結果に基づいて、前輪5および後輪5について独立して、車輪の接地性の向上が図られるため、車輪5の接地状態をより良好に保つことができる。
【0039】
(第3の実施形態)
上述した各実施形態では、横力FyとコーナリングフォースYとを比較することにより、接地状態を判定した。しかしながら、本実施形態では、上下力Fzをベースに、車輪全体として接地状態の判定を行う。すなわち、検出値である上下力Fと、実上下力Tとを比較し、接地状態を判定する必要があるが、実上下力Tを検出することは困難である。そこで、上下力ベースで判定を行う場合には、例えば、車両静止時における各車輪5の上下力Fzの総和を、基準値Ttotとして予め検出しておく。そして、あるタイミングにおいて検出された上下力の総和Ftot_zが、この基準値Ttotよりも十分に小さいか否か、すなわち、基準値Ttotに所定の定数K(0<K<1、例えば0.9)を乗算した値よりも小さいか否かが判定される(Ftot_y<K・Ttot)。そして、この比較により、車輪5の接地状態に不良が判定されると(Ftot_y<K・Ttot)、第1の実施形態と同様に、前輪5および後輪5の接地性の向上を図る。
【0040】
このように本実施形態によれば、検出部21によって車輪中心面の上下方向に作用する力が横力Fzとして直接的に検出される。車輪5の接地状態が不良な場合には、検出部21によって検出される上下力FZと、実際の上下力Tとが値的に対応しない。そのため、両者の値を比較することにより、上述した第1の実施形態と同様の効果を奏する。なお、上下力Fzを用いる本実施形態では、予め実験やシミュレーションを通じて判定値(固定値)を設定しておき、この判定値と検出された上下力Fzとを比較することにより、車輪5の接地状態の良否を判定してもよい。
【0041】
なお、上述した各実施形態では、車輪5の接地状態を「良好」または「不良」の2種類で判定し、良否のみを判定としているが、本発明はこれに限定されず、接地状態を判定すれば足りる。例えば、検出値と、定義上の作用力と相違の程度に応じて、「良好」、「普通」、「不良」といったように、接地状態の程度を判定してよいといった如くである。
【0042】
また、上述した各実施形態では、直接的にタイヤの接地性を向上させる手法として、スタビライザー7の制御を例示したが、本発明はこれに限定されない。接地性の向上手法としては、サスペンションを制御する手法は、キャンバー角を制御する手法が挙げられる。サスペンション制御については、例えば、特開2002−347424号公報に開示されているので、必要ならば参照されたい。また、キャンバー角制御については、例えば、特開平10−264636号公報に開示されているので、必要ならば、参照されたい。
【0043】
また、上述した各実施形態では、操舵角を0と見なし処理を行っているが、前輪5の操舵角を検出する操舵角センサ26を設け、この値に基づいて、接地状態判定を行ってもよい。この場合、より精度よく接地状態を判定することができるという長所を有する。ただし、上述した各実施形態では、操舵角センサ26を設ける必要がないでの、接地状態判定装置20の構成を簡素化することができるという長所を有する。
【0044】
本実施形態において、検出部21は、三方向に作用する作用力を検出する構成であるが、本発明は、これに限定されるのもではなく、必要となる分力方向に作用する作用力を検出可能であれば足りる。また、三方向の分力成分のみならず、この三方向回りのモーメントをも含む六分力を検出する六分力計であってもよい。かかる構成であっても、必要となる作用力は少なくも検出することができるので、当然ながら問題はない。なお、車輪5に作用する六分力を検出する手法については、例えば、特開2002−039744号公報、特開2002−022579号公報に開示されているので、必要ならば参照されたい。
【0045】
また、本実施形態では、検出部21を車軸4に埋設するケースを説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その他のバリエーションも考えられる。作用力を検出するという観点でいえば、例えば、車輪5を保持する部材、例えば、ハブやハブキャリア等に検出部21を設けてもよい。なお、検出部21をハブに設ける手法については、特開2003−104139号公報に開示されているので、必要ならば参照されたい。
【0046】
なお、上述した各実施形態において、検出部21が故障した場合には、接地状態の判定を行わず、横加速度Accに比例するようにスタビライザーを制御して、直接タイヤの接地性の向上を図ってもよい。同様に、横加速度Accに比例するように、サスペンションを制御して、或いは、キャンバー角を制御して、直接タイヤの接地性の向上を図ってもよい。このように、車両に横方向の加速度Accが作用している場合には、車輪5の接地状態が不良となると一義的に判定し、制御を実行することにより、タイヤの接地状態を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態にかかる車両運動制御装置が適用された車両の説明図
【図2】車両運動制御装置のブロック構成図
【図3】作用力の説明図
【図4】検出部によって検出される横力と上下力との説明図
【図5】本実施形態に示す車両運動制御ルーチンを示すフローチャート
【符号の説明】
【0048】
1 エンジン
2 自動変速機
3 センタディファレンシャル装置
4 車軸
5 車輪
6 サスペンションアーム
7 スタビライザー
8 連結軸
9 アクチュエータ
10 車両運動制御装置
20 接地状態判定装置
21 検出部
22 加速度センサ
23 演算部
24 判定部
25 ヨーレートセンサ
26 操舵角センサ
30 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の接地状態判定装置において、
車輪の車輪中心面に垂直な方向に作用する力を横力として直接的に検出する検出部と、
車両の横方向の加速度を検出する加速度センサと、
前記検出された横方向の加速度に基づいて、前記車輪に作用するコーナリングフォースを算出する演算部と、
前記検出された横力と、前記算出されたコーナリングフォースとを比較することにより、前記車輪の接地状態を判定する判定部と
を有することを特徴とする車輪の接地状態判定装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記車両に設けられている複数の前記車輪を検出対象として、前記横力をそれぞれ検出し、
前記演算部は、前記車輪のそれぞれに作用するコーナリングフォースの総和を算出し、
前記判定部は、前記車輪のそれぞれについて検出された前記横力の総和と、前記算出されたコーナリングフォースの総和とを比較することにより、前記複数の車輪全体を判定単位として、接地状態を判定することを特徴とする請求項1に記載された車輪の接地状態判定装置。
【請求項3】
前記車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサをさらに有し、
前記検出部は、前記車両の前後に設けられている複数の前記車輪を検出対象として、前記横力をそれぞれ検出し、
前記演算部は、前記検出されたヨーレートと前記検出された加速度とに基づいて、前輪に作用する前記コーナリングフォースの総和と、後輪に作用する前記コーナリングフォースの総和とを算出し、
前記判定部は、前記前輪について検出された前記横力の総和と、前記算出された前輪のコーナリングフォースの総和とを比較することにより、前記前輪の接地状態を判定するとともに、前記後輪について検出された横力の総和と、前記算出された後輪のコーナリングフォースの総和とを比較することにより、前記後輪の接地状態を判定することを特徴とする請求項1に記載された車輪の接地状態判定装置。
【請求項4】
車輪の接地状態判定装置において、
車両に設けられている複数の前記車輪を検出対象として、車輪の車輪中心面に対して鉛直方向に作用する力を上下力として直接的に検出する検出部と、
前記車輪のそれぞれについて検出された前記上下力の総和と、判定値とを比較することにより、前記車輪の接地状態を判定する判定部と
を有することを特徴とする車輪の接地状態判定装置。
【請求項5】
前記判定値は、車両静止時に、前記車輪のそれぞれについて検出された前記上下力の総和を基準に設定されることを特徴とする請求項4に記載された車輪の接地状態判定装置。
【請求項6】
車両運動制御装置において、
請求項1から5に記載された前記車輪の接地状態判定装置と、
前記接地状態判定装置による判定結果に基づいて、車両のロール剛性を制御する制御部と
を有することを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項7】
車輪の接地状態判定方法において、
車輪の車輪中心面に垂直な方向に作用する力を横力として直接的に検出する第1のステップと、
車両の横方向の加速度を検出する第2のステップと、
前記横方向の加速度に基づいて、前記車輪に作用するコーナリングフォースを算出する第3のステップと、
前記検出された横力と、前記算出されたコーナリングフォースとを比較することにより、前記車輪の接地状態を判定する第4のステップと
を有することを特徴とする車輪の接地状態判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−27302(P2006−27302A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204570(P2004−204570)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】