説明

車輪式クレーンの油圧サスペンション装置

【課題】オンタイヤ作業時の安全性を確保しつつコストダウン化を図る。
【解決手段】油圧ポンプ1と、複数のサスシリンダ3L〜4Rと、複数の車高調整用切換弁8と、車体の対角に位置するサスシリンダ同士を各々ヘッド室5とロッド室6とが交差状態で接続するクロス状配管11,12と、クロス状配管に設けたアキュムレータ13と、クロス状配管の各サスシリンダのヘッド室寄りの部位に設けた第1の開閉切換弁14を備える。アキュムレータに、油室の容量が上限容量を持つものを用いると共に、油圧ポンプの圧油を各サスシリンダのロッド室に供給する配管21に設けた第2の開閉切換弁24を備え、オンタイヤ作業時第1の開閉切換弁を閉位置に、第2の開閉切換弁を開位置に各々切り換え、油圧ポンプの圧油を各サスシリンダのロッド室に供給すると共にアキュムレータの油室に供給してその容量を上限容量の状態にすることで各サスシリンダをロックする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールクレーンなどの車輪式クレーンに装備される油圧サスペンション装置に関し、特に、オンタイヤ作業時にサスペンションシリンダをロックするものの改良に係わる。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪式クレーンの油圧サスペンション装置として、例えば図5に示すように、エンジン101により駆動される油圧ポンプ102と、各車軸の左右両側でそれぞれ車体を支持する複数のサスペンションシリンダ103L,103Rと、この各サスペンションシリンダ103L,103Rのヘッド室104に上記油圧ポンプ102からの圧油を供給し又はヘッド室104内の油をタンク106に戻して車高を調整するための複数の車高調整用切換弁107と、上記複数のサスペンションシリンダ103L,103Rのうち、車体の対角に位置するサスペンションシリンダ同士、例えば2軸4車輪のクレーンの場合左前輪のサスペンションションシリンダと右後輪のサスペンションシリンダ、及び右前輪のサスペンションシリンダと左後輪のサスペンションシリンダを、それぞれヘッド室104とロッド室105とが交差した状態で接続するクロス状配管108と、このクロス状配管108を構成する2つの管路108a,108aにそれぞれ設けられたアキュムレータ109,109と、この各アキュムレータ109よりもクロス状配管108における各サスペンションシリンダ103L,103Rのヘッド室104寄りの部位に設けられた開閉切換弁110,110とを備えたものは知られている。尚、図5は1つのクロス状配管108及びこれに接続された機器のみを示したものである。また、図5では、各車高調整用切換弁107が伸長用開閉切換弁111と縮小用開閉切換弁112とからなる場合を例示しており、113は油圧ポンプ102のリリーフ圧を設定するためのリリーフ弁である。
【0003】
そして、このような油圧サスペンション装置の場合、通常走行時には各車高調整用切換弁107の伸長用開閉切換弁111及び縮小用開閉切換弁112を共に閉位置(図中のイ位置)に、クロス状配管108の各開閉切換弁110を開位置(図中のロ位置)にそれぞれ切り換えることにより、路面からの衝撃により各サスペンションシリンダ103L,103Rが伸縮動作をするとき各サスペンションシリンダ103L,103Rはこれに連通するアキュムレータ109と協働して緩衝作用を発揮するようになっている。ここで、クロス状配管108により車体の対角に位置するサスペンションシリンダ103L,103R同士を、それぞれヘッド室104とロッド室105が交差した状態で接続した理由は、一方のサスペンションシリンダが外力により縮小すると、これに接続された他方のサスペンションシリンダも縮小方向に作用するので、車輪式クレーンの走行旋回時に発生するローリングあるいは急制動時の車体前部の沈み込みを減少させることができるようにするためである。
【0004】
また、車高調整時のうち、車高を高くするときには各車高調整用切換弁107の伸長用開閉切換弁111を開位置に、縮小用開閉切換弁112を閉位置に、クロス状配管108の各開閉切換弁110を閉位置にそれぞれ切り換え、油圧ポンプ102からの圧油を伸長用開閉切換弁111を通して各サスペンションシリンダ103L,103Rのヘッド室104に供給することにより、各サスペンションシリンダ103L,103Rが伸長して車高が高くなる。一方、車高を低くするときには各車高調整用切換弁107の伸長用開閉切換弁111を閉位置に、縮小用開閉切換弁112を開位置に、クロス状配管108の各開閉切換弁110を閉位置にそれぞれ切り換えると、車体重量により各サスペンションシリンダ103L,103Rのヘッド室104内の油が縮小用開閉切換弁112を通してタンク106に戻ることにより、各サスペンションシリンダ103L,103Rが縮小して車高が低くなる。
【0005】
ところで、車輪式クレーンにおいて、通常の吊り荷作業を行うときにはアウトリガにより車輪を地面より浮かせた状態にするのが普通であるが、吊り荷が軽いものであるときには、図6に示すように、アウトリガを使用することなく、車輪121を地面に接したままで吊り荷作業を行うことがあり、オンタイヤ作業時と呼ばれている。上述した油圧サスペンション装置の場合、このオンタイヤ作業時には各車高調整用切換弁107の伸長用開閉切換弁111、縮小用開閉切換弁112及びクロス状配管108の各開閉切換弁111を全て閉位置に切り換え、各サスペンションシリンダ103L,103Rのヘッド室104内からの油の流出を遮断して各サスペンションシリンダ103L,103Rをロックするようになっている。尚、図6中、122は車軸、123は車体(詳しくはサスペンション上部の車体)、124は車体123上に設けられたブーム、125はこのブーム124で吊り上げた吊り荷である。
【0006】
しかしながら、このような油圧サスペンション装置の場合、オンタイヤ作業時でのサスペンションシリンダ103L,103Rのロック状態が十分でないという問題がある。すなわち、オンタイヤ作業時に片方(図6では右側)の車輪121に大きな荷重が作用する場合、負荷のかかる側のサスペンションシリンダ103Rは、縮小方向に外力Fが作用するが、そのヘッド室104が開閉切換弁110により遮断状態にあることから動作できない。一方、反対側のサスペンションシリンダ103Lには伸長方向に外力Fが作用するため、そのロッド室105が高圧になり、このロッド室105にアキュムレータ109がクロス状配管108を介して接続されていることから、ロッド室105内の油がアキュムレータ109に流入し、サスペンションシリンダ103Lがストロークする。このとき、ヘッド室104は、開閉切換弁110により遮断状態にあるが、負圧により油が気化することでヘッド室104の容積が増加する。サスペンションシリンダ103Lが伸長すると車体123の傾きが増加し、車輪式クレーンが横転するという危険性が生じる。
【0007】
そこで、このような問題を解決するため、従来、例えば図7に示すように、クロス状配管108におけるアキュムレータ109よりも各サスペンションシリンダ103L,103Rのヘッド室104寄りの部位にそれぞれ第1の開閉切換弁110を設けるだけでなく、クロス状配管108におけるアキュムレータ109よりも各サスペンションシリンダ103L,103Rのロッド室105寄りの部位にそれぞれ第2の開閉切換弁115を設け、オンタイヤ作業時に上記第1及び第2の開閉切換弁110,115を共に閉位置に切り換えることで各サスペンションシリンダ103L,103Rのヘッド室104及びロッド室105を共にロックするようにすることが行われている。また、特許文献1に記載されているように、上記第1の開閉切換弁110とは別に、各サスペンションシリンダ103L,103Rのヘッド室104及びロッド室105に各々連通する2つの管路に、第2の開閉切換弁としてのソレノイド切換弁又はパイロットチェック弁を設け、オンタイヤ作業時にこのソレノイド切換弁又はパイロットチェック弁により各サスペンションシリンダ103L,103Rのヘッド室104及びロッド室105を共にロックするようにしたものも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−2582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記従来のものでは、いずれも第1の開閉切換弁110とは別に、各サスペンションシリンダ103L,103R毎に第2の開閉切換弁115、ソレノイド切換弁又はパイロットチェック弁を設ける必要があり、その個数は、2軸4車輪のクレーンで4つ必要になる。このため、油圧サスペンション装置のコストがその分高くなるという問題があった。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、アキュムレータに、油室の容量が上限容量を持つものを用いるとともに、第2の開閉切換弁を1つだけ用いて、オンタイヤ作業時に各サスペンションシリンダのヘッド室及びロッド室を共にロックするように構成することにより、オンタイヤ作業時の安全性を確保しつつコストダウン化を図り得る車輪式クレーンの油圧サスペンション装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、車輪式クレーンの油圧サスペンション装置として、エンジンにより駆動される油圧ポンプと、各車軸の左右両側でそれぞれ車体を支持する複数のサスペンションシリンダと、この各サスペンションシリンダのヘッド室に上記油圧ポンプからの圧油を供給し又はヘッド室内の油をタンクに戻して車高を調整するための複数の車高調整用切換弁と、上記複数のサスペンションシリンダのうち、車体の対角に位置するサスペンションシリンダ同士を、それぞれヘッド室とロッド室とが交差した状態で接続するクロス状配管と、このクロス状配管に設けられたアキュムレータと、このアキュムレータよりもクロス状配管における各サスペンションシリンダのヘッド室寄りの部位に設けられた第1の開閉切換弁とを備えることを前提とする。そして、上記アキュムレータに、油室の容量が上限容量を持つものを用いるとともに、上記油圧ポンプからの圧油を上記クロス状配管を介して各サスペンションシリンダのロッド室に供給するための配管と、この配管に設けられた第2の開閉切換弁とを備え、オンタイヤ作業時上記第1の開閉切換弁を閉位置に、上記第2の開閉切換弁を開位置にそれぞれ切り換え、油圧ポンプからの圧油を各サスペンションシリンダのロッド室に供給するとともにアキュムレータの油室に供給してその油室の容量を上限容量の状態にすることで各サスペンションシリンダをロックするように構成する。ここで、アキュムレータにおいて油室の容量が上限容量を持つものとは、例えばシリンダ形アキュムレータでガス室に設けたストッパによりピストンのガス室側への移動が規制されるもの、あるいはばね形アキュムレータでばねの最大圧縮量によりピストンのばね室側への移動が規制されるものなどをいう。
【0012】
この構成では、オンタイヤ作業時には、従来の場合と同様に車高調整用切換弁及びクロス状配管の開閉切換弁である第1の開閉切換弁を共に閉位置に切り換えることにより、各サスペンションシリンダのヘッド室内からの油の流出が遮断されるだけでなく、第2の開閉切換弁を開位置に切り換え、油圧ポンプからの圧油を各サスペンションシリンダのロッド室に供給するとともにアキュムレータの油室に供給してその油室の容量を上限容量の状態にすることにより、各サスペンションシリンダのロッド室内からの油の流出が遮断されることになる。換言すれば、各サスペンションシリンダのヘッド室及びロッド室が共に容量変動不能な状態にロックされるため、サスペンションシリンダに荷重が作用してもサスペンションシリンダがストロークすることはなく、車体の異常な傾きが発生することもない。
【0013】
しかも、上記第2の開閉切換弁は、油圧ポンプからの圧油をクロス状配管を介して各サスペンションシリンダのロッド室に供給するための配管に1つ設ければ足りるため、従来のものと比べてコスト的に安価に実施することができる。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の車輪式クレーンの油圧サスペンション装置において、上記アキュムレータの油室の容量が上限容量の状態になる設定圧を、上記油圧ポンプのリリーフ圧以下でリリーフ圧の近傍に設定する構成にする。アキュムレータの油室の容量が上限容量の状態になっているとき、アキュムレータの油室と他の室(ガス室又はばね室)とを仕切るピストンや隔膜などの仕切部材に対して他の室側から作用する圧力は設定圧であり、油室側から作用する圧力は油圧ポンプのリリーフ圧まで上昇する。この圧力差による荷重が、仕切部材及びこの仕切部材の移動を規制するストッパなどに作用する。それ故、請求2に係る発明の如き構成では、アキュムレータの仕切部材やストッパなどに作用する荷重を可及的に低減することができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1記載の車輪式クレーンの油圧サスペンション装置において、上記アキュムレータの油室の容量が上限容量の状態になる設定圧を、通常走行時にアキュムレータに作用する最大圧力以上に設定する構成にする。この構成では、通常走行時にアキュムレータの油室の容量が上限容量の状態になり、サスペンションシリンダがロックされることがないので、オペレータの乗り心地が良好に維持される。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明における車輪式クレーンの油圧サスペンション装置によれば、オンタイヤ作業時に各サスペンションシリンダのヘッド室及びロッド室が共に容量変動不能な状態にロックされるため、サスペンションシリンダのストロークによる車体の異常な傾きを防止することができ、安全性を確保することができる。しかも、このロックのために必要とする開閉切換弁の個数が少なくて済むため、コストダウン化を図ることができ、実用性に優れた効果を奏するものである。
【0017】
特に、請求項2に係る発明では、アキュムレータの仕切部材やストッパなどに作用する荷重を可及的に低減することができるので、小型で軽量なアキュムレータを使用することができ、コストダウン化を一層図ることができる。
【0018】
また、請求項3に係る発明では、通常走行時にアキュムレータの油室の容量が上限容量の状態になり、サスペンションシリンダがロックされることはないので、オペレータの乗り心地を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の第1の実施形態に係る車輪式クレーンの油圧サスペンション装置の全体構成を示す油圧回路図である。
【図2】図2はアキュムレータの構成を示す概略構成図である。
【図3】図3は本発明の第2の実施形態として図1のX部分の別の形態を示す油圧回路の部分図である。
【図4】図4は本発明の第3の実施形態として図1のY部分の別の形態を示す油圧回路の部分図である。
【図5】図5は従来例を示す油圧サスペンション装置の油圧回路図である。
【図6】図6は車輪式クレーンのオンタイヤ作業時の状態を示す模式図である。
【図7】図7は別の従来例を示す油圧サスペンション装置の概略の油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態である実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は本発明の第1の実施形態に係る車輪式クレーン、詳しくは2軸に4車輪を有するクレーンの油圧サスペンション装置の全体構成を示し、1はエンジン2により駆動させる油圧ポンプ、3L及び3Rは前輪車軸の左右両側でそれぞれ車体を支持する左右2つの前輪用サスペンションシリンダ、4L及び4Rは後輪車軸の左右両側でそれぞれ車体を支持する左右2つの後輪用サスペンションシリンダであり、この各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rは、いずれもヘッド室5を上側に、ロッド室6を下側にした略垂直な状態に配置されている。
【0022】
上記各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのヘッド室5に対応して、上記油圧ポンプ1からの圧油をヘッド室5に供給し又はヘッド室5内の油をタンク7に戻して車高を調整するための4つの車高調整用切換弁8,8,…が設けられており、この各車高調整用切換弁8は、開位置(図中のロ位置)で油圧ポンプ1からの圧油をヘッド室5に供給して対応するサスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rを伸長させる電磁式の伸長用開閉切換弁9と、開位置(図中のロ位置)でヘッド室5内の油をタンク7に戻して対応するサスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rを縮小させる電磁式の縮小用開閉切換弁10とからなる。
【0023】
上記4つのサスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのうち、車体の対角に位置する左前輪用サスペンションシリンダ3Lと右後輪用サスペンションシリンダ4R、及び右前輪用サスペンションシリンダ3Rと左後輪用サスペンションシリンダ4Lは、それぞれクロス状配管11又は12を介してヘッド室5とロッド室6とが交差した状態で接続されている。この各クロス状配管11,12を構成する2つずつ計4つの管路11a,11a,12a,12aには、それぞれアキュムレータ13が設けられているとともに、このアキュムレータ13より各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのヘッド室5寄りの部位に電磁式の第1の開閉切換弁14が設けられている。
【0024】
上記アキュムレータ13は、図2に拡大詳示するように、シリンダ16内がピストン17により油室18とガス室19とに仕切られたピストン形アキュムレータであって、ガス室19に設けたストッパ20によりピストン17のガス室19側への移動を規制することで油室18の容量が上限容量を持つ構成になっている。
【0025】
さらに、21は上記油圧ポンプ1からの圧油をクロス状配管11,12を介して各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのロッド室6に対し供給するための供給配管であり、この供給配管21は、油圧ポンプ1の吐出側に接続された主管路22と、この主管路22から分岐しかつ一端が各々対応するクロス状配管11,12の管路11a,12aに接続された4つの分岐管路23,23,…とからなる。供給配管21の主管路22には電磁式の第2の開閉切換弁24が設けられているとともに、供給配管21の各分岐管路23にはチェック弁25が設けられている。尚、31は油圧ポンプ1のリリーフ圧を設定するためのリリーフ弁である。
【0026】
次に、上記油圧サスペンション装置の作動を、クレーンの状態と車高調整用切換弁8の伸長用開閉切換弁9、縮小用開閉切換弁10、第1の開閉切換弁14及び第2の開閉切換弁24の開閉位置との関係を示す表1を用いて説明する。
【表1】

【0027】
クレーンの通常走行時には、車高調整用切換弁8の伸長用開閉切換弁9及び縮小用開閉切換弁10を共に閉位置に、第1の開閉切換弁14を開位置に、第2の開閉切換弁24を閉位置にそれぞれ切り換える。すると、各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのヘッド室5及びロッド室6は、いずれもクロス状配管11,12を介してアキュムレータ13に連通するようになるため、各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rは、アキュムレータ13のガス室19内のガス圧力に応じた油圧により発生する推力により車体の重量を支持するとともに、路面からの衝撃に対する緩衝作用を発揮することになる。
【0028】
クレーンの車高調整時のうちの車高上昇時には、車高調整用切換弁8の伸長用開閉切換弁9を開位置に、縮小用開閉切換弁10、第1の開閉切換弁14及び第2の開閉切換弁24をいずれも閉位置にそれぞれ切り換える。すると、油圧ポンプ1からの圧油がそれぞれ伸長用開閉切換弁9を通して各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのヘッド室5に供給されるため、各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rが伸長して車高が上昇することになる。
【0029】
一方、クレーンの車高下降時には、車高調整用切換弁8の縮小用開閉切換弁10を開位置に、伸長用開閉切換弁9、第1の開閉切換弁14及び第2の開閉切換弁24をいずれも閉位置にそれぞれ切り換える。すると、車体の重量により各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのヘッド室5内の油が縮小用開閉切換弁10を通してタンク7に戻されるため、各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rが縮小して車高が下降することになる。
【0030】
さらに、クレーンのオンタイヤ作業時には、車高調整用切換弁8の伸長用開閉切換弁9及び縮小用開閉切換弁10を共に閉位置に、第1の開閉切換弁14を閉位置に、第2の開閉切換弁24を開位置にそれぞれ切り換える。すると、油圧ポンプ1からの圧油が供給配管21、第2の開閉切換弁24及びクロス状配管11,12を介して各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのロッド室6に供給されるとともに、各アキュムレータ13の油室18に供給されて、各アキュムレータ13は、その油室18の容量が上限容量の状態になる。このため、各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rは、そのヘッド室5が第1の開閉切換弁14により容量変動不能な状態にロックされるだけでなく、ロッド室6も容量変動不能な状態にロックされるので、サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのストロークによる車体の異常な傾きを防止することができ、安全性を確保することができる。
【0031】
しかも、上記第2の開閉切換弁24は、油圧ポンプ1からの圧油をクロス状配管11,12を介して各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのロッド室6に供給するための供給配管21に1つ設ければ足りるため、従来のものと比べて装置のコストダウン化に寄与することができる。
【0032】
ここで、上記アキュムレータ13の油室18の容量が上限容量の状態になる設定圧としては、(1)油圧ポンプ1のリリーフ圧以下でリリーフ圧の近傍に設定する場合、(2)通常走行時にアキュムレータ13に作用する最大圧力以上に設定する場合のいずれか一方を採用することが好ましい。
【0033】
すわわち、上記アキュムレータ13は、通常、油室18の圧力POとガス室19の圧力PAとは同一であるが、オンタイヤ作業時にアキュムレータ13の油室18に油圧ポンプ1からの圧油が供給されてアキュムレータ13のピストン17がガス室19内に設けたストッパ20に接触することでアキュムレータ13の油室18の容量が上限容量の状態になっているとき、ガス室19の圧力は設定圧PAmaxであり、一方、油室18の圧力は、油圧ポンプ1のリリーフ圧PRまで上昇する。従って、ストッパ20に作用する荷重Fは、ピストン17の断面積をAP、ストッパ20の断面積をASとすると、
F=PR×AP−PAmax×(AP−AS)
になる。ASはAPに比べて十分に小さいとすると、
F≒(PR−PAmax)×AP
【0034】
従って、アキュムレータ13の油室18の容量が上限容量の状態になる設定圧PAmaxを、(1)油圧ポンプ1のリリーフ圧PR以下でリリーフ圧PRの近傍に設定する場合には、ストッパ20に作用する荷重Fを低減することができるので、強度設計において小型で軽量なアキュムレータ13を使用することが可能になり、コストダウン化を一層図ることができる。
【0035】
一方、通常走行において、段差乗り越えや旋回走行などをすると、クロス状配管11,12内などの圧力が変動し、アキュムレータ13の油室18の容量も変化する。ここで、もし通常走行時にアキュムレータ13の油室18の容量が最大容量の状態になると、サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rがロック状態になり、オペレータの乗り心地が悪化する恐れがある。そこで、アキュムレータ13の油室18の容量が上限容量の状態になる設定圧を、(2)通常走行時にアキュムレータ13に作用する最大圧力以上に設定する場合には、通常走行時にサスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rがロック状態になることはなく、乗り心地の悪化を防止することができる。
【0036】
図3は本発明の第2の実施形態として図1のX部分の別の形態を示す。この第2の実施形態の場合、油圧ポンプ1の非作動時に油圧ポンプ1の吐出側が高圧にならないようにするための電磁式の3ポート2位置切換弁41を備えており、油圧ポンプ1の非作動時にはこの切換弁41をイ位置に切り換え、油圧ポンプ1から吐出される圧油をタンク7に戻す一方、油圧ポンプ1の作動時である車体上昇時又はオンタイヤ作業時には切換弁41をロ位置に切り換え、タンクラインを遮断するようなっている。
【0037】
図4は本発明の第3の実施形態として図1のY部分の別の形態を示す。この第3の実施形態は、上記第2の実施形態と併用して、第1の実施形態の場合におけるオンタイヤ作業より通常作業への切替えを改良するためのものである。
【0038】
すなわち、第1の実施形態の場合、オンタイヤ作業時に第2の開閉切換弁24を開位置に切り換え、油圧ポンプ1からの圧油を各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのロッド室6に供給するとともに各アキュムレータ13の油室18に供給してその油室18の容量を上限容量の状態にしている。このため、オンタイヤ作業時から通常走行時に戻す場合には、各アキュムレータ13の油室18内の油をタンク7に戻す必要があるが、供給配管21に第2の開閉切換弁24と共にチェック弁25が設けられているため、第2の開閉切換弁24を通して各アキュムレータ13の油室18内の油をタンク7に戻すことはできない。従って、第1の開閉切換弁14及び車高調整用切換弁8の縮小用開閉切換弁10を開位置に切り換えることで各アキュムレータ13の油室18内の油をタンク7に戻すことが行われる。しかし、第1の開閉切換弁14を開位置に切り換えると各アキュムレータ13の油室18内の高圧の油が急激にサスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのヘッド室5に流入するため、オペレータの乗り心地に悪影響を及ぼす。
【0039】
これを解決するため、第3の実施形態においては、油圧ポンプ1からの圧油をクロス状配管11,12を介して各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのロッド室6に供給するための供給配管21に、電磁式の第2の開閉切換弁51を設けるとともに、第1の実施形態におけるチェック弁25の代わりに、電磁式の4ポート2位置切換弁52を設け、オンタイヤ作業時から通常走行時に戻す場合、上記第2の開閉切換弁51を開位置に、上記4ポート2位置切換弁52を開位置(図中のロ位置)にそれぞれ切り換えるとともに、図3に示す3ポート2位置切換弁41を非作動時のイ位置に切り換えることにより、サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのヘッド室5側に高圧の油が流入するのを回避してオペレータの乗り心地に悪影響を及ぼすことなく、各アキュムレータ13の油室18内の油をタンク7に戻すことができるようにしたものである。
【0040】
尚、本発明は上記第1ないし第3の実施形態に限定されるものではなく,その他種々の形態を包含するものである。例えば上記第1の実施形態では、アキュムレータ13として、油室18の容量が上限容量を持つものを用いるに当たり、ピストン形アキュムレータ13を用い、かつガス室19に設けたストッパ20によりピストン17のガス室19側への移動を規制することで油室18の容量が上限容量を持つように構成したが、本発明は、これに限らず、ばね形アキュムレータ又は気体圧縮形アキュムレータなどで、ばね室又はガス室に設けたストッパにより、あるいはアキュムレータの構造により油室の容量が上限容量を持つものを用いてもよいのは勿論である。
【0041】
また、上記第1の実施形態では、各サスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rのヘッド室5に油圧ポンプ1からの圧油を供給し又はヘッド室5内の油をタンク7に戻して車高を調整するための車高調整用切換弁8を、開位置で油圧ポンプ1からの圧油をヘッド室5に供給してサスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rを伸長させる伸長用開閉切換弁9と、開位置でヘッド室5内の油をタンク7に戻してサスペンションシリンダ3L,3R,4L,4Rを縮小させる縮小用開閉切換弁10とで構成したが、本発明は、車高調整用切換弁を1つの3位置切換弁でもって構成するようにしてもよい。
【0042】
さらに、上記各実施形態では、車高調整用切換弁8の伸長用開閉切換弁9、縮小用開閉切換弁10、第1及び第2の開閉切換弁14,24,51などをいずれも電磁式のものを用いて構成したが、本発明は、電磁式のものに限らず、油圧パイロット式のものを用いてもよい。
【0043】
加えて、上記第1の実施形態では、車輪式クレーンとして、2軸に4車輪を有するクレーンに適用した場合について述べたが、本発明は,それ以外の車輪式クレーンにも同様に適用することができるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0044】
1 油圧ポンプ
2 エンジン
3L,3R 前輪用サスペンションシリンダ
4L,4R 後輪用サスペンションシリンダ
5 ヘッド室
6 ロッド室
7 タンク
8 車高調整用切換弁
11,12 クロス状配管
13 アキュムレータ
14 第1の開閉切換弁
18 油室
20 ストッパ
21 供給配管
24,51 第1の開閉切換弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される油圧ポンプと、各車軸の左右両側でそれぞれ車体を支持する複数のサスペンションシリンダと、この各サスペンションシリンダのヘッド室に上記油圧ポンプからの圧油を供給し又はヘッド室内の油をタンクに戻して車高を調整するための複数の車高調整用切換弁と、上記複数のサスペンションシリンダのうち、車体の対角に位置するサスペンションシリンダ同士を、それぞれヘッド室とロッド室とが交差した状態で接続するクロス状配管と、このクロス状配管に設けられたアキュムレータと、このアキュムレータよりもクロス状配管における各サスペンションシリンダのヘッド室寄りの部位に設けられた第1の開閉切換弁とを備えた車輪式クレーンの油圧サスペンション装置において、
上記アキュムレータは、油室の容量が上限容量を持つものであり、上記油圧ポンプからの圧油を上記クロス状配管を介して各サスペンションシリンダのロッド室に供給するための配管と、この配管に設けられた第2の開閉切換弁とを備え、オンタイヤ作業時上記第1の開閉切換弁を閉位置に、上記第2の開閉切換弁を開位置にそれぞれ切り換え、油圧ポンプからの圧油を各サスペンションシリンダのロッド室に供給するとともにアキュムレータの油室に供給してその油室の容量を上限容量の状態にすることで各サスペンションシリンダをロックするように構成されていることを特徴とする車輪式クレーンの油圧サスペンション装置。
【請求項2】
上記アキュムレータの油室の容量が上限容量の状態になる設定圧は、上記油圧ポンプのリリーフ圧以下でリリーフ圧の近傍に設定されている請求項1記載の車輪式クレーンの油圧サスペンション装置。
【請求項3】
上記アキュムレータの油室の容量が上限容量の状態になる設定圧は、通常走行時にアキュムレータに作用する最大圧力以上に設定されている請求項1記載の車輪式クレーンの油圧サスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−6541(P2013−6541A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141306(P2011−141306)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)
【Fターム(参考)】