説明

車輪状態量計測装置

【課題】 車輪の回転状態変化によらずに車輪状態量を取得可能であるとともに取得した車輪状態量の良否をも判定可能な車輪状態量計測装置を提供すること。
【解決手段】 演算ユニット21は、車体側送受信機24を介して計測ユニット22に対して一定の時間間隔で同期信号を送信する。計測ユニット22においては、車輪側送受信機27を介して送信された同期信号を受信して車両状態量に関連する計測項目を計測する。そして、計測ユニット22は、受信した同期信号に対応して計測したことを表すIDデータ、チャンネルデータおよび識別データを計測した計測データに付加した計測信号を送受信機27を介して演算ユニット21に送信する。これにより、演算ユニット21は、送受信機24を介して計測信号を取得し、この取得した信号に含まれる計測データから演算した車輪状態量に基づき車輪12の作動状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪とともに回転可能に設けられてこの車輪の状態を表す車輪状態量を計測する計測手段と、車体に設けられて前記計測装置によって計測された車輪状態量を取得して前記車輪の作動状態を判定する演算手段とを備え、前記計測手段と前記演算手段とが、前記車輪とともに回転可能に設けられた車輪側通信手段と前記車体側に設けられた車体側通信手段とを介して互いに無線通信する車輪状態量計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、下記特許文献1に示した車輪−車体間通信システムは知られている。この従来の車輪−車体間通信システムは、車輪と共に回転可能に設けられた車輪側通信装置と、車体の定位置に設けられた車体側通信装置とを備えている。そして、車体側通信装置は、車輪の回転位置に応じた送信タイミングにより、車輪側通信装置に対して信号を送信するようになっている。これにより、この従来の車輪−車体間通信システムにおいては、車輪側通信装置の受信状態が良好である場合に選択的に車体側通信装置が信号を送信することができるようになっている。
【0003】
また、従来から、例えば、下記特許文献2に示した車輪情報処理装置および車輪情報処理方法も知られている。この従来の車輪情報処理装置および車輪情報処理方法は、1つの車輪に設けられた複数の車輪側通信機と、車体に設けられてこれら複数の車輪側通信機と通信する車体側通信機とを備えている。そして、複数の車輪側通信機は、車体側通信機によるリクエスト信号に対して、それぞれの返信信号の送信パターンを異ならせるようになっている。これにより、各車輪側通信機が車体側通信機に対して同時に返信信号を送信する場合であっても、これら返信信号が混信することを防止できるようになっている。
【特許文献1】特開2004−359119号公報
【特許文献2】特開2005−100100号公報
【発明の開示】
【0004】
ところで、上記特許文献1に示された従来の装置においては、車輪が常に回転している状況下で、車体側通信装置は、車輪の回転位置に応じた送信タイミングにより車輪側通信装置に信号を送信し、車輪側通信装置からタイヤ状態量(車輪状態量)として、例えば、タイヤの空気圧、タイヤ作用力、タイヤの変形量、タイヤの温度などを取得することができる。言い換えれば、上記特許文献1に示された従来の装置は、車輪が常に回転していることを前提とするものであり、何らかの事情によって車輪が回転していない状況(例えば、車輪がロックして回転していない状況など)では、車体側通信装置が車輪側通信装置に対して信号を送信することができず、その結果、車体側通信装置は、車輪側通信装置からタイヤ状態量(車輪状態量)を取得できない場合がある。また、車輪の回転位置に応じて信号を送信してタイヤ状態量(車輪状態量)を取得する場合には、車速の変化に応じて車輪の回転数が変化するため、取得するタイヤ状態量(車輪状態量)を表すデータ数が変化してデータ収録長が予測できない。
【0005】
また、上記特許文献1に示された従来の装置および上記特許文献2に示された従来の装置や方法においては、車体側通信装置(車体側通信機)から送信された信号(リクエスト信号)に応じて、車輪側通信装置(車輪側通信機)がタイヤ状態量(返信信号)すなわち車輪状態量を単に送信する。言い換えれば、この場合、タイヤ状態量(返信信号)すなわち車輪状態量は、車輪側通信装置(車輪側通信機)の送信タイミングにより送信される。このため、例えば、通信トラブル等の発生によって一部データが取得できない事態が生じた場合には、車体側通信装置(車体側通信機)は取得できない(抜けた)データを特定することができない可能性がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、車輪の回転状態変化によらずに車輪状態量を取得可能であるとともに取得した車輪状態量の良否をも判定可能な車輪状態量計測装置を提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車輪とともに回転可能に設けられてこの車輪の作動状態を表す車輪状態量を計測する計測手段と、車体に設けられて前記計測手段によって計測された車輪状態量を取得して前記車輪の状態を判定する演算手段とを備え、前記計測手段と前記演算手段とが、前記車輪とともに回転可能に設けられた車輪側通信手段と前記車体側に設けられた車体側通信手段とを介して互いに無線通信する車輪状態量計測装置において、前記演算手段が、前記計測手段に対して、予め設定された一定の時間間隔により前記車輪状態量の計測タイミングを表す同期信号を前記車体側通信手段を介して送信し、前記計測手段が、前記車輪側通信手段を介して受信した前記同期信号に基づいて前記車輪状態量を計測し、前記受信した前記同期信号に対応して計測したことを表す識別情報を前記計測した車輪状態量に付加した計測信号を前記車輪側通信手段を介して前記演算手段に送信することにある。
【0008】
これによれば、演算手段が計測手段に対して予め設定された一定の時間間隔により計測タイミングを表す同期信号を送信することができ、計測手段が同期信号を受信してこの受信信号に対応した計測信号を演算手段に送信することができる。これにより、計測信号に含まれる車輪状態量を車輪の回転位置に依存することなく取得することができるため、例えば、車輪が回転していない状況であっても車輪状態量を取得することができるとともに、車輪状態量に関連するデータ収録長を極めて容易に予測することができて効率よく車輪状態量を記録することができる。したがって、車輪の作動状態が適正であるか否かを常に正確に判定することができる。
【0009】
また、計測手段から演算手段に送信される計測信号に対して、車輪状態量と識別情報とを含ませることができる。これにより、演算手段は、計測信号に含まれる識別情報に基づき、計測された車輪状態量を表すデータの抜けや車輪状態量の計測順序が入れ替わるなどの異常を極めて容易にかつ確実に特定することができる。したがって、これによっても、車輪の作動状態が適正であるか否かを常に正確に判定することができる。
【0010】
また、この場合、前記演算手段は、前記車輪の回転角度を検出する回転角度検出手段を備えており、前記計測手段に対して前記同期信号を送信したときの前記車輪の回転角度を検出するとよい。
【0011】
これによれば、予め設定された一定の時間間隔により計測された車輪状態量、言い換えれば、時系列的に取得される車輪状態量と車輪の回転量を表す回転角度とを互いに関連付けることができる。これにより、演算手段は、車輪の回転に伴う車輪状態量の変化、すなわち、車輪の作動状態変化をより的確に判定することができ、その結果、車輪の作動状態が適正であるか否かを常に正確に判定することができる。
【0012】
また、この場合、前記演算手段は、前記計測手段に対して前記同期信号を送信した後から予め設定された時間が経過するまでに、前記計測手段から前記車体側通信手段を介して前記計測信号を取得できないときに前記車輪状態量の取得に異常が発生したと判定する異常判定手段を備えているとよい。
【0013】
これによれば、演算手段は、計測手段に対して同期信号を送信してから予め設定された時間が経過するまでに計測信号を取得することができない状況では、異常判定手段によって今回送信した同期信号に対応する車輪状態量が取得できていないと判定することができる。これにより、演算手段は、予め設定された時間の経過後に取得した計測信号をエラー信号として処理したり、予め設定された時間の経過後は次回以降に送信する同期信号に対応する計測信号のみを取得する、言い換えれば、今回送信した同期信号に対応する計測信号の受信待ち処理を中止することができる。したがって、予め設定された時間が経過するまでに、何らかの異常の発生によって送信されなかった計測信号を適切に排除することができるため、車輪の作動状態が適正であるか否かを常に正確に判定することができる。
【0014】
また、この場合、前記計測信号に含まれる前記識別情報は、前記計測された前記車輪状態量の計測順を表す情報であるとよい。これによれば、演算手段は、識別情報に基づいて、車輪状態量の計測順序を確認することができるため、車輪状態量を表すデータの抜けや計測順序の入れ替わりを極めて容易にかつ確実に特定することができる。したがって、これによっても、車輪の状態が適正であるか否かを常に正確に判定することができる。
【0015】
また、前記計測信号は、前記計測した車輪状態量を表す信号部分の後ろに前記識別情報を表す信号部分が付加されて構成されるとよい。これによれば、計測信号を取得(受信)した演算手段は、識別情報を表す信号部分を確認することにより、今回計測手段から送信された計測信号の全部を確実に取得(受信)できたか否かを判定することができる。したがって、例えば、計測手段が一度の計測につき複数の車輪状態量(計測項目)について計測して演算手段に送信する場合であっても、識別情報を表す信号部分が確認できれば全部の車輪状態量を確実に取得(受信)できたと判断することができる。したがって、車輪の作動状態を判定する際には、必要な車輪状態量が全て受信できた状態で判定することが可能となり、その結果、車輪の作動状態が適正であるか否かを常に正確に判定することができる。
【0016】
さらに、この場合、前記車輪側通信手段および前記車体側通信手段は、ともに、信号を送信する送信機能と信号を受信する受信機能とを一体的に有するものであり、前記送信機能を発揮して前記計測信号または前記同期信号を送信した後には、前記同期信号または前記計測信号を受信するために前記送信機能から前記受信機能に切り替え、前記受信機能を発揮して前記同期信号または前記計測信号を受信した後には、前記計測信号または前記同期信号を送信するために前記受信機能から前記送信機能に切り替えるようにするとよい。
【0017】
これによれば、車輪側通信手段および車体側通信手段が送信機能と受信機能を一体的に有することができるため、例えば、送信機能または受信機能のみを有する通信手段をそれぞれ設ける場合に比して、コンパクトにすることができる。したがって、特に車輪側のように、組み付けスペースが制限される環境においても、限られたスペースを効率よく利用して車輪側通信手段および車体側通信手段を設けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る車輪状態量計測装置について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、車両10に搭載された本発明の実施形態に係る車輪状態量計測装置20を概略的に示している。車両10は、車体11とこの車体11の前後左右に組み付けられた4つの車輪12とを備えている。各車輪12は、例えば、図2に前輪側を代表して示すように、タイヤ13がホイール14に装着されて構成されており、ホイール14が車体11側に回転可能に設けられたハブ15に対してボルトとナットによって組み付けられる。なお、前輪側においては、図2に示すように、ハブ15は、ナックル16にベアリングを介して回転可能に組み付けられており、ナックル16は車体11に取り付けられたサスペンションアーム17に対して軸線周りに回転可能に組み付けられている。
【0019】
車輪状態量計測装置20は、図1および図2に示すように、車体11に組み付けられて後述する車輪状態量を演算処理する演算手段としての演算ユニット21と、各車輪12に組み付けられて車輪状態量に関連する計測項目を計測する計測手段としての4つの計測ユニット22を備えている。演算ユニット21は、CPU、ROM、RAMなどのマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、後述する車輪状態量演算プログラムを含む各種プログラムを実行する。計測ユニット22は、計測項目に対応する物理量を検出する各種センサを有しており、これら各種センサの作動を統括的に制御するマイクロコンピュータを備えていて、後述する車輪状態量計測プログラムを含む各種プログラムを実行する。
【0020】
そして、演算ユニット21には、図1〜図3に示すように、信号線23を介して、車体側部材(例えば、図2におけるナックル16)に組み付けられた車体側通信手段としての車体側送受信機24が接続されている。車体側送受信機24は、車体側部材(例えば、図2におけるナックル16)に組み付けられた車体側アンテナ25を介して、計測ユニット22と通信する。
【0021】
一方、計測ユニット22には、図1〜図3に示すように、車輪側部材(例えば、図2におけるハブ15)に組み付けられた車輪側アンテナ26を介して車体側送受信機24と通信する車輪側通信手段としての車輪側送受信機27が接続されている。ここで、計測ユニット22、車体側送受信機24および車輪側送受信機27は、図2および図3に示すように、周知の誘導電源28を利用して作動するようになっている。このため、運転者によって図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると、誘導電源28が計測ユニット22、車体側送受信機24および車輪側送受信機27に対して電力を供給するようになっている。なお、この場合、周知の誘導電源28を設けることに代えて、例えば、電池やコイルによる発電などの他の電源装置を設けて実施することも可能である。
【0022】
ここで、車体側送受信機24と車輪側送受信機27とは、ともに、信号を送信する送信機能と信号を受信する受信機能とを一体的に有するようになっている。すなわち、車体側送受信機24と車輪側送受信機27とは、信号を送信するときには受信機能から送信機能に切り替わり、信号を受信するときには送信機能から受信機能に切り替わるようになっている。
【0023】
また、演算ユニット21には、各車輪12の回転角度を検出するための回転角度検出手段としての車輪回転角センサ29が接続されている。車輪回転角センサ29は、車体側部材(例えば、図2におけるナックル16)に組み付けられており、車輪側部材(例えば、図2におけるハブ15)に組み付けられて車輪12と一体的に回転するスリット18に対向して設けられることによって、各車輪12の回転角度ωを検出して出力するようになっている。また、演算ユニット21には、後述するように、較正演算された車輪状態量を順次記憶するデータロガー30が接続されている。さらに、演算ユニット21には、運転者によって操作されて各車輪12の車輪状態量の計測開始を指示するための計測開始スイッチKSが接続されている。
【0024】
次に、上記のように構成した車輪状態量計測装置20の作動について説明する。
【0025】
運転者によって図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると、演算ユニット21は図4に示す車輪状態量演算プログラムを実行し、計測ユニット22は図5に示す車輪状態量計測プログラムを実行する。すなわち、演算ユニット21は、図示省略の初期化プログラムの実行後、車輪状態量演算プログラムの実行をステップS10にて開始し、ステップS11以降の各ステップ処理を所定の基準クロックに基づいて一定の時間間隔により実行する。ステップS11においては、演算ユニット21は、運転者によって計測開始スイッチKSが操作されて、同スイッチKSが計測開始を指示するオン状態とされているか否かを判定する。そして、演算ユニット21は、計測開始スイッチKSがオン状態とされるまで「No」の判定を繰り返し、計測開始スイッチKSがオン状態とされると、「Yes」と判定してステップS12に進む。
【0026】
ステップS12においては、演算ユニット21は、計測ユニット22に対して、計測タイミングを表す同期信号を送信する。具体的に説明すると、演算ユニット21は、信号線23を介して、同期信号を4つの車体側送受信機24に出力する。各車体側送受信機24は、出力された同期信号を取得し、この取得した同期信号を送信機能により、車体側アンテナ25を介して、車輪側アンテナ26に無線送信する。これにより、車輪側アンテナ26に接続された車輪側送受信機27は、無線送信された同期信号を受信機能により受信し、この受信した同期信号を左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2のそれぞれに設けられた計測ユニット22に出力する。
【0027】
各計測ユニット22においては、運転者によって図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると、図5に示す車輪状態量計測プログラムの実行をステップR10にて開始し、ステップR11以降の各ステップ処理を実行する。なお、各計測ユニット22は、イグニッションスイッチがオン状態とされて車両が走行を開始すると、誘導電源28により電力が供給され、計測に必要な電力が確保されるようになっている。
【0028】
計測ユニット22は、ステップR11にて、車輪側送受信機27によって受信された同期信号を取得する。そして、計測ユニット22は、続くステップR12にて、車輪状態量として、例えば、タイヤ13の空気圧、タイヤ13の温度、タイヤ13の変形量、タイヤ13に作用する力、ホイール14に作用する力や、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2に作用する力などに関連する予め設定された計測項目を計測する。
【0029】
このように、予め設定された計測項目を計測すると、計測ユニット22は、ステップR13に進み、計測結果を表す計測データを演算ユニット21に対して出力する。ここで、計測ユニット22は、取得した同期信号に基づいて計測項目を計測することによって得られた計測データ(すなわち物理量データ)に対し、識別情報として、図6に示すように、計測するごとに順番に割り振られて計測データの順番を識別するためのIDデータと、どのセンサによって計測された計測データであるかを識別するためのチャンネルデータと、計測開始スイッチKSがオン状態とされた後の一連の計測であることを表す識別データを付加する。ここで、本実施形態においては、図6に示したように、種々の計測データ群の後ろに識別データを付加して実施するが、IDデータを計測データ群の後ろに付加して実施可能であることはいうまでもない。
【0030】
そして、計測ユニット22は、IDデータ、チャンネルデータおよび識別データを付加した計測データ(以下、この計測データを識別可能計測データという)を演算ユニット21に対して送信して出力する。具体的に説明すると、計測ユニット22は、それぞれに接続された車輪側送受信機27に対して識別可能計測データを出力する。車輪側送受信機27は、それぞれ出力された識別可能計測データを取得し、この取得した識別可能計測データを送信機能により、車輪側アンテナ26を介して、計測信号として車体側アンテナ25に無線送信する。これにより、車体側アンテナ25に接続された車体側送受信機24は、それぞれ無線送信された計測信号を受信機能により受信し、この受信した計測信号によって表わされる識別可能計測データを演算ユニット21に出力する。そして、計測ユニット22は、ステップR11に戻り、繰り返し車輪状態量計測プログラムを実行する。
【0031】
ふたたび、図4に示す車輪状態量演算プログラムの説明に戻り、演算ユニット21は、前記ステップS12にて、同期信号を各計測ユニット22に対して送信して出力すると、ステップS13にて、各車輪12の回転角度ωを入力する。すなわち、演算ユニット21は、各車輪回転角センサ29からそれぞれ出力された各車輪12の検出回転角度ωを入力する。そして、演算ユニット21は、各車輪12の回転角度ωを入力すると、ステップS14に進む。
【0032】
ステップS14においては、演算ユニット21は、上述した車輪状態量計測プログラムの実行によって計測ユニット22から出力された計測信号、すなわち、識別可能計測データを受信して取得できたか否かを判定する。具体的に説明すると、演算ユニット21は、前記ステップS12にて同期信号を出力した時点から予め設定された時間が経過するまでに、それぞれの計測ユニット22から出力された計測信号(識別可能計測データ)を受信して取得できていれば、適切な時間間隔によって計測信号(識別可能計測データ)の送受信が完了しているため、「Yes」と判定してステップS16に進む。
【0033】
一方、演算ユニット21は、前記ステップS12にて同期信号を出力した時点から予め設定された時間が経過するまでに、それぞれの計測ユニット22から計測信号(識別可能計測データ)を取得できていなければ、適切な時間間隔によって計測信号(識別可能計測データ)の送受信が完了していないため、「No」と判定してステップS15に進む。ステップS15においては、演算ユニット21は、今回のプログラムにおけるステップS12の実行によって送信した同期信号に対応する計測信号(識別可能計測データ)を計測ユニット22から受信するための受信待ち処理を終了して後述するステップS18に進む。
【0034】
ステップS16においては、演算ユニット21は、取得したそれぞれの計測信号すなわち識別可能計測データにおけるIDデータに基づき、前回のプログラムの実行によって取得した識別可能計測データに対して、今回取得した識別可能計測データが計測の順番通り取得できているか否かを判定する。すなわち、演算ユニット21は、IDデータに基づいて、識別可能計測データを計測の順番通り取得できていれば、「Yes」と判定してステップS17に進む。一方、識別可能計測データを計測の順番通り取得できていなければ、「No」と判定してステップS18に進む。
【0035】
ステップS17においては、演算ユニット21は、今回取得したそれぞれの識別可能計測データにおける識別データが、前回のプログラムの実行によって取得した識別可能計測データにおける識別データと一致しているか否かを判定する。すなわち、演算ユニット21は、今回取得した識別データが前回取得した識別データと一致していれば、各計測ユニット22によって計測された計測量を表す計測データである、言い換えれば、ノイズや異常データなどの計測データ以外のデータではないため、「Yes」と判定してステップS19に進む。一方、今回取得した識別データが前回取得した識別データと一致していなければ、各計測ユニット22によって計測された計測値を表す計測データ以外のデータであるため、「No」と判定してステップS18に進む。ここで、本実施形態においては、識別データが計測データ群の最後に付加されているため、演算ユニット21は、識別可能計測データにおける識別データを取得していれば、計測データ群の全てを正常に取得できたと判定することができる。
【0036】
ステップS18においては、演算ユニット21は、通信時間の増大によって計測信号すすなわち識別可能計測データを取得できない異常、取得した識別可能計測データの計測順番が入れ替わる異常、または、計測データ以外のデータを取得する異常が発生したことを表すエラーデータを入力する。そして、演算ユニット21は、ステップS19に進む。
【0037】
ステップS19においては、演算ユニット21は、取得した識別可能計測データを用いて、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2の車輪状態量を較正演算する。すなわち、演算ユニット21は、取得した識別可能計測データのうちの計測データに対して予め設定された較正値を用いて、タイヤ13の空気圧、タイヤ13の温度、タイヤ13の変形量、タイヤ13に作用する力、ホイール14に作用する力や、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2に作用する力などの車輪状態量(物理量データ)を較正演算する。なお、前記ステップS18にてエラーデータを入力した場合には、演算ユニット21は、車輪状態量として適切な計測ができていないことを表す値を演算する。そして、演算ユニット21は、車輪状態量(物理量データ)を較正演算すると、ステップS20に進む。
【0038】
ステップS20においては、演算ユニット21は、前記ステップS19にて較正演算した左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2の車輪状態量(物理量データ)をそれぞれデータロガー30に記憶する。すなわち、演算ユニット21は、まず、較正演算した車輪状態量(物理量データ)を左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2ごとに振り分ける。そして、演算ユニット21は、データロガー30の所定記憶位置に対して、前記ステップS12にて同期信号を出力した時間、前記ステップS13にて検出した各車輪12の車輪回転角ωおよび較正演算した車輪状態量(物理量データ)を互いに関連付けて記憶する。これにより、4輪の車輪状態量(物理量データ)を同時に時系列的に記憶することができる。なお、演算ユニット21は、データロガー30に記憶した車輪状態量に基づいて、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2の作動状態に異常が発生しているか否かを判定することができる。
【0039】
前記ステップS20における記憶処理後、演算ユニット21は、ステップS21に進み、運転者によって計測開始スイッチKSがオフ状態に操作されたか、言い換えれば、計測を終了するか否かを判定する。すなわち、演算ユニット21は、計測開始スイッチKSがオフ状態に操作されていれば、「Yes」と判定してステップS22に進み、車輪状態量演算プログラムの実行を終了する。そして、車輪状態量演算プログラムの終了に伴い、演算ユニット21から同期信号が出力されないため、計測ユニット22による車輪状態量計測プログラムの実行も終了する。一方、運転者によって引き続き計測開始スイッチKSがオン状態に操作されていれば、演算ユニット21は「No」と判定し、ステップS12以降の各ステップ処理を繰り返し実行する。
【0040】
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、車体11に搭載された演算ユニット21は、自身の基準クロックに基づいて、予め設定された一定の時間間隔により、計測ユニット22から各車輪12の車輪状態量としての識別可能計測データを取得することができる。これにより、演算ユニット21は、一定の時間間隔によって取得した計測データを用いた車輪状態量を時系列的に利用できるため、どの時間の車輪状態量(計測データ)が欠損や異常なのかを極めて正確に判断することができる。したがって、各車輪12の作動状態を極めて正確に判定することができる。
【0041】
また、演算ユニット21は、一定の時間間隔によって計測データを取得することができるため、例えば、車輪12が回転していないロック状態となっていても、計測データを取得することができる。したがって、車輪12の回転の如何に関わらず、計測データを取得することができ、この計測データを用いた車輪状態量に基づいて、各車輪12の作動状態を判定することができる。
【0042】
また、演算ユニット21は、車輪12の回転位置に依存することなく計測データを取得することができるため、車両が走行を開始すると同時に計測データ(すなわち車輪状態量)を取得することができる。したがって、これによっても、各車輪12の作動状態を正確に判定することができる。
【0043】
また、演算ユニット21は、車輪12の回転数に依存することなく一定の時間間隔によって計測データを取得することができるため、取得する計測データ数を極めて容易に調整することができる。これにより、データロガー30に記憶する計測データ(すなわち車輪状態量)の収録長を極めて容易に予測することができて、データロガー30の記憶容量を効率よく利用することができる。また、計測データ数を調整することができるため、各車輪12の作動状態を把握するために必要な車輪状態量のデータ数を確実に確保することができ、各車輪12の作動状態を精度よく判定することができる。
【0044】
さらに、演算ユニット21は、IDデータ、チャンネルデータおよび識別データを含む識別可能計測データを取得することができる。これにより、取得した計測データの順番や、計測データの抜け、取得したデータが計測データであるか否かすなわちノイズ等が入力したか否かを極めて正確に判断することができる。これにより、正しい計測データを用いた車輪状態量に基づいて、各車輪12の作動状態を精度よく判定することができる。
【0045】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0046】
例えば、上記実施形態においては、計測開始スイッチKSを設けて実施するようにした。そして、演算ユニット21が車輪状態計測演算プログラムを実行し、ステップS11およびステップS21にて運転者による計測開始スイッチKSの操作状態を判定するように実施した。この場合、計測開始スイッチKSを省略するとともに、車輪状態計測プログラムにおけるステップS11およびステップS21を省略して実施することも可能である。すなわち、この場合には、運転者によってイグニッションスイッチがオン状態とされると、演算ユニット21が上述した車輪状態計測プログラムのステップS12以降の各ステップ処理を実行し、イグニッションスイッチがオフ状態とされると、演算ユニット21が車輪状態計測プログラムの実行を終了する。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0047】
また、上記実施形態においては、車体側送受信機24および車輪側送受信機27が同期信号や識別可能計測データを送信する送信機能と受信する受信機能の両方を有しており、これら両機能を切り替えて作動するように実施した。しかし、この場合、車体11側に送信機能のみを有する車体側送信機および受信機能のみを有する車体側受信機をそれぞれ設け、車輪12側に送信機能のみを有する車輪側送信機および受信機能のみを有する車輪側受信機をそれぞれ設けて実施可能であることはいうまでもない。この場合においても、車体側送信機と車輪側受信機および車輪側送信機と車体側受信機とを用いて、演算ユニット21と計測ユニット22との間で同期信号や識別可能計測データを送受信できるため、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態に係り、車両に搭載された車輪状態量計測装置の構成を概略的に示す概略図である。
【図2】図1の車輪状態量計測装置の搭載状態を示す概略図である。
【図3】図1および図2の車輪状態量計測装置の構成を示す概略図である。
【図4】図3の演算ユニットによって実行される車輪状態量演算プログラムのフローチャートである。
【図5】図3の計測ユニットによって実行される車輪状態量計測プログラムのフローチャートである。
【図6】図3の計測ユニットから送信される計測信号の構成を説明するための図である。
【符号の説明】
【0049】
FW1,FW2…左右前輪、RW1,RW2…左右後輪、10…車両、11…車体、12…車輪、13…タイヤ、14…ホイール、15…ハブ、16…ナックル、17…サスペンションアーム、20…車輪状態量計測装置、21…演算ユニット、22…計測ユニット、23…信号線、24…車体側送受信機、25…車体側アンテナ、26…車輪側アンテナ、27…車輪側送受信機、28…誘導電源、29…車輪回転角センサ、30…データロガー、KS…計測開始スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪とともに回転可能に設けられてこの車輪の状態を表す車輪状態量を計測する計測手段と、車体に設けられて前記計測手段によって計測された車輪状態量を取得して前記車輪の作動状態を判定する演算手段とを備え、前記計測手段と前記演算手段とが、前記車輪とともに回転可能に設けられた車輪側通信手段と前記車体側に設けられた車体側通信手段とを介して互いに無線通信する車輪状態量計測装置において、
前記演算手段が、前記計測手段に対して、予め設定された一定の時間間隔により前記車輪状態量の計測タイミングを表す同期信号を前記車体側通信手段を介して送信し、
前記計測手段が、前記車輪側通信手段を介して受信した前記同期信号に基づいて前記車輪状態量を計測し、前記受信した前記同期信号に対応して計測したことを表す識別情報を前記計測した車輪状態量に付加した計測信号を前記車輪側通信手段を介して前記演算手段に送信することを特徴とする車輪状態量計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車輪状態量計測装置において、
前記演算手段は、前記車輪の回転角度を検出する回転角度検出手段を備えており、前記計測手段に対して前記同期信号を送信したときの前記車輪の回転角度を検出することを特徴とする車輪状態量計測装置。
【請求項3】
請求項1に記載した車輪状態量計測装置において、
前記演算手段は、前記計測手段に対して前記同期信号を送信した後から予め設定された時間が経過するまでに、前記計測手段から前記車体側通信手段を介して前記計測信号を取得できないときに前記車輪状態量の取得に異常が発生したと判定する異常判定手段を備えていることを特徴とする車輪状態量計測装置。
【請求項4】
請求項1に記載した車輪状態量計測装置において、
前記計測信号に含まれる前記識別情報は、前記計測された前記車輪状態量の計測順を表す情報であることを特徴とする車輪状態量計測装置。
【請求項5】
請求項1に記載した車輪状態量計測装置において、
前記計測信号は、前記計測した車輪状態量を表す信号部分の後ろに前記識別情報を表す信号部分が付加されて構成されることを特徴とする車輪状態量計測装置。
【請求項6】
請求項1に記載した車輪状態量計測装置において、
前記車輪側通信手段および前記車体側通信手段は、ともに、
信号を送信する送信機能と信号を受信する受信機能とを一体的に有するものであり、
前記送信機能を発揮して前記計測信号または前記同期信号を送信した後には、前記同期信号または前記計測信号を受信するために前記送信機能から前記受信機能に切り替え、
前記受信機能を発揮して前記同期信号または前記計測信号を受信した後には、前記計測信号または前記同期信号を送信するために前記受信機能から前記送信機能に切り替えることを特徴とする車輪状態量計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−292248(P2009−292248A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146655(P2008−146655)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】