説明

車輪用軸受装置

【課題】 例えばトラック駆動輪用ハブベアリングとして用いるのに適し、外輪にハブ輪を一体化させた構成としながら、ホイールのバリエーションに対する対応性に優れ、外輪の鍛造加工が容易な車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】 内周に複列の軌道面3aを有し外周の一部または全周にフランジ結合用突部11を有する外輪3と、この外輪3の前記軌道面3aに対向する軌道面2aを有し中空固定軸21の外周に嵌合する内輪2と、別体フランジ部材6とを備える。別体フランジ部材6は、外輪3の外周に嵌合する筒状部13と、この筒状部13のインボード側端の外周に設けられたホイール取付用のフランジ14とを有する。また、別体フランジ部材6は、インボード側端が外輪3のフランジ結合用突部11にボルト結合され、アウトボード側端が、前記中空固定軸21を貫通したアクスルシャフト22の先端外周の結合突片22aにボルト結合されたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばトラック等の大型車両の駆動輪用ハブベアリングとして使用される車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックの従動輪用ハブベアリングの構造が、例えば特許文献1の図3に示されている。このハブベアリングは、単列円すいころ軸受2個をユニット化し、かつ軸受の外輪にハブ輪を一体化させたもので、外輪のアウトボード側端に設けたホイール取付用のフランジにホイールおよびブレーキロータが取付けられる。このような外輪とハブ輪を一体化させると、軸受部のみをユニット化したものに比べ、ハブ輪への軸受部の圧入工程が省け、かつ軸受部の予圧のばらつきを低減できるというメリットがある。
【特許文献1】特開平11−303861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、外輪とハブ輪を一体化させたハブベアリングは、上記メリットがある反面、軸受部のサイズが同じでも取付けるホイールの種類が異なる場合、ホイール締結用のボルト孔の位置やホイールの軸方向位置等のバリエーション別に仕様を設定する必要があるというデメリットがある。
【0004】
また、駆動輪用ハブベアリングに関しては、次のような問題がある。すなわち、トラック等の大型車両のリアアクスルで一般的なバンジョウ式(フルフローティング)の構造では、図2に示すように、ホイール取付用のフランジ34が外輪33の軸方向中央部に位置している。一般的に、軸受の内外輪は鍛造加工により成形されるが、フランジ34が外輪33の軸方向中央部に位置していると、特に大型車両用の大径のフランジ付き外輪については鍛造加工が技術的に困難である。
なお、図2の駆動輪用ハブベアリングは外輪回転タイプであり、車体に固定された中空固定軸21の外周に内輪32を嵌め込み、上記中空固定軸21の内周部にアクスルシャフト22を回転自在に挿通し、そのアクスルシャフト22の先端外周に形成された結合突片22aをシャフト取付用ボルト23により外輪33に結合させて、アクスルシャフト22と外輪33とが一体に回転するように組付けられる。また、フランジ34の両側に、ホイール25およびブレーキロータ26が取付けられる。
【0005】
この発明の目的は、例えばトラック駆動輪用ハブベアリングとして用いるのに適し、外輪にハブ輪を一体化させた構成としながら、ホイールのバリエーションに対する対応性に優れ、外輪の鍛造加工が容易な車輪用軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる車輪用軸受装置は、内周に複列の軌道面を有し外周の一部または全周にフランジ結合用突部を有する外輪と、この外輪の前記軌道面に対向する軌道面を有し中空固定軸の外周に嵌合する内輪と、別体フランジ部材とを備え、この別体フランジ部材は、前記外輪の外周に嵌合する筒状部と、この筒状部のインボード側端の外周に設けられたホイール取付用のフランジとを有し、かつ前記別体フランジ部材は、インボード側端が前記外輪のフランジ結合用突部にボルト結合され、アウトボード側端が、前記中空固定軸を貫通したアクスルシャフトの先端外周の結合突片にボルト結合されたものとした。
【0007】
この構成の車輪用軸受装置によれば、外輪とは別に別体フランジ部材を設け、この別体フランジ部材にホイールを取付けるものとしたため、ホイールのバリエーションに対して別体フランジ部材を交換するだけで対応することができる。外輪は、ホイール取付け用のフランジを有しない小径の部品であるため、鍛造加工が容易である。別体フランジ部材はフランジ結合用突部にボルト結合されるため、一般的な外輪にハブ輪を一体化させた構成と同様に、組立時におけるハブ輪への軸受部の圧入工程が不要である。
【0008】
前記別体フランジ部材は鋳物製とするのが良い。別体フランジ部材は大径な部品であるが、鋳物製とすることで成形が容易となる。
【0009】
また、前記外輪の外周面と前記別体フランジ部材の内周面との嵌合部に、泥水浸入防止用のシール部材を介在させるのが良い。シール部材を設けると、外輪の外周面と前記別体フランジ部材の内周面との嵌合部を通じて泥水が浸入するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明の車輪用軸受装置は、内周に複列の軌道面を有し外周の一部または全周にフランジ結合用突部を有する外輪と、この外輪の前記軌道面に対向する軌道面を有し中空固定軸の外周に嵌合する内輪と、別体フランジ部材とを備え、この別体フランジ部材は、前記外輪の外周に嵌合する筒状部と、この筒状部のインボード側端の外周に設けられたホイール取付用のフランジとを有し、かつ前記別体フランジ部材は、インボード側端が前記外輪のフランジ結合用突部にボルト結合され、アウトボード側端が、前記中空固定軸を貫通したアクスルシャフトの先端外周の結合突片にボルト結合されたものとしたため、外輪にハブ輪を一体化させた構成としながら、ホイールのバリエーションに対する対応性に優れ、かつ外輪の鍛造加工が容易であり、例えばトラック駆動輪用ハブベアリングとして用いるのに適したものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の第1の実施形態を図1と共に説明する。この実施形態は、外輪回転タイプで、例えばトラックの駆動輪用ハブベアリングに適用されるものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0012】
この車輪用軸受装置1は、それぞれ外周面に複列の軌道面2aを有する内輪2と、この内輪2の軌道面2aに対向する複列の軌道面3aを内周面に有する外輪3と、この外輪3に固定して取付けられた別体フランジ部材6と、前記内外輪2,3間に組み込まれた複列の転動体4とを備えている。この実施形態の場合、転動体4は円すいころであって、複列の円すいころが背面組合せで配列され、各列毎に保持器5で保持されている。
【0013】
内輪2および外輪3は、鍛造加工により成形し、その後、旋削工程、熱処理工程、研削工程等を経て製造される。また、別体フランジ部材6は、鋳造により成形し、その後、旋削工程、研削工程等を経て製造される。
【0014】
外輪3は、複列の軌道面3aの軸方向中心よりもインボード側の外周に、外方に突出するフランジ結合用突部11を有し、このフランジ結合用突部11の周方向複数箇所にハブボルト挿通孔12が形成されている。フランジ結合用突部11は、外周の全周に設けたものであっても、あるいは外周の一部にだけ設けたものであっても良い。
【0015】
別体フランジ部材6は、筒状部13と、この筒状部13のインボード側端の外周に設けられたホイール取付用のフランジ14とを有し、フランジ14の前記ハブボルト挿通孔12に対応する箇所にハブボルト螺着孔15が形成されている。別体フランジ部材6の内周面6aは、外輪3の外周に嵌合するインボード側部分6aaと、このインボード側部分6aaよりも小径なアウトボード側部分6abとからなる。インボード側部分6aaには環状の凹部16が形成されており、この凹部16にシール部材としてのOリング17が装入されている。また、別体フランジ部材6のアウトボード側端面には、シャフト取付用のボルト孔18が設けられている。
【0016】
外輪3の外周に別体フランジ部材6の筒状部13をアウトボード側から嵌合させ、前記ハブボルト挿通孔12に挿通したハブボルト19を前記ハブボルト螺着孔15に螺着させることにより、外輪3に別体フランジ部材6が固定して取付けられる。取付状態では、外輪3の突部11よりもアウトボード側の外周面3bと、別体フランジ部材6の内周面6aのインボード側部分6aaとが嵌合する。この嵌合部は、Oリング17により泥水の浸入防止措置がなされたものとなっている。
【0017】
この車輪用軸受装置をトラックの駆動輪用ハブベアリングとして組付ける場合、車体に固定された中空固定軸21の外周に内輪2を嵌め込み、上記中空固定軸21の内周部にアクスルシャフト22を回転自在に挿通し、そのアクスルシャフト22の先端外周に形成された結合突片22aをシャフト取付用ボルト23により別体フランジ部材6に結合させて、アクスルシャフト22と外輪3および別体フランジ部材6とが一体回転するように組付ける。また、二点鎖線で示すように、別体フランジ部材6のフランジ14のアウトボード側にホイール25を配置し、かつインボード側にブレーキロータ26を配置し、これらをボルトおよびナット等の取付手段(図示せず)によりフランジ14に取付ける。
【0018】
この車輪用軸受装置は、外輪3とは別に別体フランジ部材6を設け、この別体フランジ部材6にホイール25を取付けるものとしたため、ホイール25のバリエーションに対して別体フランジ部材6を交換するだけで対応することができる。別体フランジ部材6は大径な部品であるが、鋳物製であるため成形が容易である。外輪3は、ホイール取付け用のフランジを有しない小径の部品であるため、鍛造加工が容易である。別体フランジ部材6は外輪3のフランジ結合用突部11にボルト結合されるため、一般的な外輪にハブ輪を一体化させた構成と同様に、組立時におけるハブ輪への軸受部の圧入工程が不要である。
【0019】
また、外輪3の外周面と別体フランジ部材6の内周面との嵌合部に、泥水浸入防止用のシール部材としてOリング17が介在させてあるため、上記嵌合部を通じて泥水が浸入するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図2】従来の駆動輪用ハブベアリングの断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1…車輪用軸受装置
2,32…内輪
2a,3a…軌道面
3,33…外輪
3b…外周面
4…転動体
5…保持器
6…別体フランジ部材
6a…別体フランジ部材内周面
6aa…インボード側部分
6ab…アウトボード側部分
11…フランジ結合用突部
12…ハブボルト挿通孔
13…筒状部
14,34…フランジ
15…ハブボルト螺着孔
16…凹部
17…Oリング(シール部材)
18…シャフト取付用のボルト孔
19…ハブボルト
21…中空固定軸
22…アクスルシャフト
22a…結合突片
23…シャフト取付用ボルト
25…ホイール
26…ブレーキロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の軌道面を有し外周の一部または全周にフランジ結合用突部を有する外輪と、この外輪の前記軌道面に対向する軌道面を有し中空固定軸の外周に嵌合する内輪と、別体フランジ部材とを備え、この別体フランジ部材は、前記外輪の外周に嵌合する筒状部と、この筒状部のインボード側端の外周に設けられたホイール取付用のフランジとを有し、かつ前記別体フランジ部材は、インボード側端が前記外輪のフランジ結合用突部にボルト結合され、アウトボード側端が、前記中空固定軸を貫通したアクスルシャフトの先端外周の結合突片にボルト結合された車輪用軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記別体フランジ部材が鋳物製である車輪用軸受装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記外輪の外周面と前記別体フランジ部材の内周面との嵌合部に、泥水浸入防止用のシール部材を介在させた車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−331661(P2007−331661A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167781(P2006−167781)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】