説明

車輪用軸受装置

【課題】泥水の浸入とデフオイルの漏れを防止することができ、かつ、軸受内部へのデフオイルの浸入を防止できるフルフローティングタイプの車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】シールリング25が合成ゴムから断面略矩形に形成され、軸方向に突出して形成された突起25aを有し、この突起25aが、円弧状に形成された段差部の肩部1aに所定のシメシロを介して当接されると共に、環状段部24と、この環状段部24の壁面24bとの隅部に環状の盗み部24cが形成され、シールリング25の外径が環状段部24の内径よりも僅かに大径に設定され、端部に径方向外方に突出して形成されて盗み部24cに膨出する環状の突起25bを有し、この突起25bを盗み部24cに格納させた状態で当該シールリング25が環状段部24に装着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラック等の車両の駆動輪を複列の転がり軸受で回転自在に支承するフルフローティングタイプの車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラック等のようにフレーム構造の車体を有する自動車では、駆動輪のアクスル構造として、従来フルフローティングタイプを採用するものが多い。また、最近の駆動輪の支持構造には、組立性の向上、軽量・コンパクト化等を狙って、複列の転がり軸受をユニット化した構造が多く採用されるようになっている。その従来構造の一例として、図7に示すような車輪用軸受装置が知られている。
【0003】
この車輪用軸受装置は、車軸管51の中にデファレンシャル(図示せず)と連結された駆動軸52が挿通され、車軸管51の外径面に車輪用軸受からなる車輪用軸受53が装着されている。この車輪用軸受53により回転自在に支承されたハブ輪54が、ハブボルト55を介して駆動軸52のフランジ56に連結されている。車輪用軸受53の内輪57、58は車軸管51の端部に外嵌され、固定ナット59で締付固定されると共に、車輪用軸受53の外輪60は、ハブ輪54に内嵌され、その両端をフランジ56とブレーキロータ61により挟持された状態で軸方向に固定されている。
【0004】
車輪用軸受53は、図8に示すように、内周にそれぞれ外向きに開いたテーパ状の複列の外側転走面60a、60aが一体に形成された外輪60と、外周にこれら複列の外側転走面60a、60aに対向するテーパ状の内側転走面57aが形成された内輪57、58と、両転走面間に保持器62を介して転動自在に収容された複列の円錐ころ63、63とを備えている。内輪57、58の内側転走面57aの大径側には円錐ころ63を案内するための大鍔部57bが形成されると共に、小径側には円錐ころ63の脱落を防止するための小鍔部57cが形成されている。そして、一対の内輪57、58の小径側端面が突き合された状態でセットされ、所謂背面合せタイプの車輪用軸受を構成している。
【0005】
外輪60と一対の内輪57、58との間に形成される環状空間の開口部にはシール64、65が装着され、シール64はデフオイルが軸受内部に侵入するのを防止し、シール65は、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0006】
一対の内輪57、58の小径側端部には環状溝66、66が形成され、この環状溝66に連結環67が装着されると共に、内輪57、58の突合せ部外周面には環状凹部68が形成され、この環状凹部68に第1のシールリング69が装着されている。また、内輪58の大径側端部には環状段部70が形成され、第2のシールリング71が装着されている。
【0007】
第2のシールリング71は、図9に示すように、芯金72と弾性部材73とで形成され、弾性部材73は車軸管51の肩部51aに当接されて、内輪58と車軸管51の間の僅かな隙間を遮断している。
【0008】
弾性部材73は合成ゴムからなり、加硫接着によって芯金72の外径部分を覆うように一体に接合され、円弧状に形成された肩部51aに所定のシメシロを介して当接するリップ73aを有している。この弾性部材73の外径d1は、環状段部70の内径D1よりも僅かに小径に設定され(d1<D1)、端部に環状の突起73bが形成されている。そして、この突起73bを弾性変形させた状態で環状段部70に装着されている。このように、芯金72により剛性が高くなり、第2のシールリング71が軸受搬送時に脱落するのを防止できると共に、第2のシールリング71を環状段部70に圧入する際、弾性部材73が損傷するのを防止し、安定した気密性を確保することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−25216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
然しながら、このような従来の車輪用軸受装置において、第2のシールリング71は、芯金72により剛性が高くなる反面、芯金72の分、弾性部材73の容積が減少し、圧縮可能範囲が制約される。このため、サイズによっては圧力がかかる部位に使用した場合、安定した気密性を確保することができない恐れがある。
【0011】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、泥水の浸入とデフオイルの漏れを防止することができ、かつ、軸受内部へのデフオイルの浸入を防止できるフルフローティングタイプの車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、デファレンシャルと連結された駆動軸が内挿された車軸管と、この車軸管のアウター側の端部段差部に外嵌固定され、車輪を回転自在に支承する複列の転がり軸受からなる車輪用軸受とを備え、この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、これら内輪と前記外方部材の各転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備え、前記一対の内輪のうちインナー側の内輪の端部内周に環状段部が形成され、この環状段部にシールリングが装着されたフルフローティングタイプの車輪用軸受装置において、前記シールリングが合成ゴムから断面略矩形に形成され、軸方向に突出して形成された突起を有し、この突起が、円弧状に形成された前記段差部の肩部に所定のシメシロを介して当接され、前記内輪と車軸管の間の僅かな隙間を遮断している。
【0013】
このように、一対の内輪のうちインナー側の内輪の端部内周に環状段部が形成され、この環状段部にシールリングが装着されたフルフローティングタイプの車輪用軸受装置において、シールリングが合成ゴムから断面略矩形に形成され、軸方向に突出して形成された突起を有し、この突起が、円弧状に形成された段差部の肩部に所定のシメシロを介して当接され、内輪と車軸管の間の僅かな隙間を遮断しているので、弾性部材の容積を最大限に増やすことができ、圧縮可能範囲を高めて安定した気密性を確保することができるため、泥水の浸入とデフオイルの漏れを防止することができ、かつ、軸受内部へのデフオイルの浸入を防止できるフルフローティングタイプの車輪用軸受装置を提供することができる。
【0014】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記環状段部と、この環状段部の壁面との隅部に環状の盗み部が形成されると共に、前記シールリングの外径が前記環状段部の内径よりも僅かに大径に設定され、端部に径方向外方に突出して形成され、前記盗み部に膨出する環状の突起を有し、この突起が前記盗み部に格納された状態で当該シールリングが前記環状段部に装着されていれば、シールリングが環状段部から脱落するのを防止すると共に、気密性を確保することができる。
【0015】
また、請求項3に記載の発明のように、前記シールリングの突起の高さが1mm以上に設定されていれば、確実に脱落防止ができる。
【0016】
また、請求項4に記載の発明のように、前記シールリングの端部に環状の突起が軸方向に突出して形成され、この突起が前記環状段部の壁面に弾性変形した状態で当該シールリングが装着されていれば、軸受搬送時や組立時等に、シールリングがぐらつかず安定し、信頼性を向上させることができる。
【0017】
また、請求項5に記載の発明のように、前記突起の突出量hが、前記環状段部の盗み部の幅L1と前記外径部の突起の幅L2との差よりも大きくなるように設定(h≧(L1−L2))されていれば、シールリングを正確に位置決め固定ができる。
【0018】
また、請求項6に記載の発明のように、前記環状段部の開口部の面取り部が15〜30°の範囲に設定された傾斜角からなるテーパ面で構成されていれば、シールリングの突起が径方向にスムーズに弾性変形して挿入性が向上する。
【0019】
また、請求項7に記載の発明のように、前記環状段部の盗み部が、開口部に向って漸次小径となる傾斜角20°以上のテーパ面を有していれば、シールリングの抜け力を高めることができる。
【0020】
また、請求項8に記載の発明のように、前記シールリングの材質が、ACM、FKM、EPDM、シリコンゴムの中から選択されていれば、耐熱性に富み、耐薬品性に優れているため、デフオイルに触れても充分な耐久性を発揮することができる。
【0021】
また、請求項9に記載の発明のように、前記車輪を取り付けるための車輪取付フランジがハブ輪に一体に形成され、このハブ輪がハブボルトを介して前記駆動軸のフランジに連結されると共に、当該ハブ輪に前記車輪用軸受が内嵌されていても良い。
【0022】
また、請求項10に記載の発明のように、前記車輪を取り付けるための車輪取付フランジが前記車輪用軸受の外方部材の外周に一体に形成されていても良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る車輪用軸受装置は、デファレンシャルと連結された駆動軸が内挿された車軸管と、この車軸管のアウター側の端部段差部に外嵌固定され、車輪を回転自在に支承する複列の転がり軸受からなる車輪用軸受とを備え、この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、これら内輪と前記外方部材の各転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備え、前記一対の内輪のうちインナー側の内輪の端部内周に環状段部が形成され、この環状段部にシールリングが装着されたフルフローティングタイプの車輪用軸受装置において、前記シールリングが合成ゴムから断面略矩形に形成され、軸方向に突出して形成された突起を有し、この突起が、円弧状に形成された前記段差部の肩部に所定のシメシロを介して当接され、前記内輪と車軸管の間の僅かな隙間を遮断しているので、弾性部材の容積を最大限に増やすことができ、圧縮可能範囲を高めて安定した気密性を確保することができるため、泥水の浸入とデフオイルの漏れを防止することができ、かつ、軸受内部へのデフオイルの浸入を防止できるフルフローティングタイプの車輪用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の車輪用軸受を示す縦断面図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】図3の環状段部とシールリングの寸法関係を示す説明図である。
【図5】図3のシールリングの変形例を示す要部拡大図である。
【図6】本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図である。
【図7】従来の車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【図8】図7の車輪用軸受を示す縦断面図である。
【図9】図8の第1のシールリングを示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有するハブ輪と、駆動軸に外嵌された車軸管と、この車軸管の外径段差部に嵌挿され、前記ハブ輪を回転自在に支持する複列の転がり軸受からなる車輪用軸受とを備えると共に、この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外輪と、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、これら内輪と前記外輪の各転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外輪と内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備え、前記一対の内輪のうちインナー側の内輪の端部内周に環状段部が形成され、この環状段部にシールリングが装着されたフルフローティングタイプの車輪用軸受装置において、前記シールリングが合成ゴムから断面略矩形に形成され、軸方向に突出して形成された突起を有し、この突起が、円弧状に形成された前記段差部の肩部に所定のシメシロを介して当接されると共に、前記環状段部と、この環状段部の壁面との隅部に環状の盗み部が形成され、前記シールリングの外径が前記環状段部の内径よりも僅かに大径に設定され、端部に径方向外方に突出して形成されて前記盗み部に膨出する環状の突起を有し、この突起が前記盗み部に格納された状態で当該シールリングが前記環状段部に装着されている。
【実施例1】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図、図2は、図1の車輪用軸受を示す縦断面図、図3は、図2の要部拡大図、図4は、図3の環状段部とシールリングの寸法関係を示す説明図、図5は、図3のシールリングの変形例を示す要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0027】
この車輪用軸受装置は、車軸管1の中にデファレンシャル(図示せず)と連結された駆動軸2が挿通され、車軸管1の外径面に車輪用軸受3が装着されている。この車輪用軸受3によりハブ輪4が回転自在に支承されている。また、ハブ輪4はハブボルト5を介して駆動軸2のフランジ6に連結されている。そして、車輪用軸受3はこのハブ輪4に内嵌されると共に、車軸管1のアウター側の端部に外嵌され、その両端をフランジ6とブレーキロータ7により挟持された状態で固定ナット8によって締付固定されている。
【0028】
車輪用軸受3は、図2に拡大して示すように、内周にそれぞれ外向きに開いたテーパ状の複列の外側転走面9a、9aが一体に形成された外輪(外方部材)9と、外周にこれら複列の外側転走面9a、9aに対向するテーパ状の内側転走面10aが形成された一対の内輪10、11と、両転走面間に保持器12を介して転動自在に収容された複列の円錐ころ13、13とを備えている。内輪10、11の内側転走面10aの大径側には円錐ころ13を案内するための大鍔部10bが形成されると共に、小径側には円錐ころ13の脱落を防止するための小鍔部10cが形成されている。そして、一対の内輪10、11の小径側端面が突き合された状態でセットされ、背面合せタイプの車輪用軸受を構成している。一対の内輪10、11は基本的に同一仕様であるが、内輪10、11の大径側の構成が異なる。
【0029】
外輪9と一対の内輪10、11との間に形成される環状空間の開口部にはシール14、15が装着され、シール14はデフオイルが軸受内部に侵入するのを防止し、シール15は、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0030】
アウター側のシール14は、外輪9の端部内周に圧入された芯金16と、この芯金16に加硫接着によって一体に接合されたシール部材17とからなる一体型シールで構成されている。芯金16は、冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて断面が略L字状に形成されている。一方、シール部材17はNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、内輪10の外径に摺接する二股状のラジアルリップ17a、17bを有している。
【0031】
インナー側のシール15は、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置された環状のシール板18とスリンガ19とからなる、所謂パックシールを構成している。シール板18は、外輪9の端部内周に圧入される芯金20と、この芯金20に一体に加硫接着されたシール部材21とからなる。芯金20は、冷間圧延鋼鈑からプレス加工にて断面が略L字状に形成されている。
【0032】
シール部材21はNBR等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して形成された一対のサイドリップ21a、21bと、このサイドリップ21bの内径側に軸受内方側に傾斜して形成されたグリースリップ21cとを有している。
【0033】
スリンガ19は、オーステナイト系ステンレス鋼鈑、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼鈑からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、内輪11の外径に圧入される円筒部19aと、この円筒部19aから径方向外方に延びる立板部19bとからなる。そして、シール部材21の一対のサイドリップ21a、21bが立板部19bに摺接されると共に、グリースリップ21cが円筒部19aに摺接されている。
【0034】
外輪9と内輪10、11および円錐ころ13はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。一対の内輪10、11の小径側端部には環状溝22、22が形成され、この環状溝22に連結環23が装着されている。この連結環23は、工具鋼やばね鋼等の鋼板をプレス加工により断面略コの字状に、全体として有端のリング状に形成され、表面に調質あるいは焼入れにより40〜55HRCの範囲に硬化処理が施されている。なお、ここでは、車輪用軸受3として転動体13に円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受を例示したが、これに限らず転動体にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受で構成されていても良い。
【0035】
ここで、本実施形態では、インナー側の内輪11の大径側端部には環状段部24が形成され、シールリング25が装着されている。このシールリング25はNBR等の合成ゴムからなり、図3に拡大して示すように、車軸管1の肩部1aに当接されて、内輪11と車軸管1の間の僅かな隙間を遮断している。なお、シールリング25の材質としては、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、EPDM(エチレン・プロピレンゴム)等をはじめ、ACM(ポリアクリルゴム)や、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。特に、この種のデフオイルに触れる用途に対しては耐熱性、耐薬品性に優れたACM、FKM、EPDM、シリコンゴムが好ましい。
【0036】
このシールリング25は断面略矩形に形成され、軸方向に突出して形成された突起25aを有している。この突起25aは、円弧状に形成された肩部1aに所定のシメシロを介して当接される。また、図4に示すように、シールリング25の外径d2は、環状段部24の内径D2よりも僅かに大径(直径で0.05〜0.20mm)に設定され(d2>D2)、端部に径方向外方に突出して形成された環状の突起25bを有している。この突起25bの高さは、確実に脱落防止ができるよう1mm以上に設定されている。そして、この突起25bを盗み部24cに格納させた状態で環状段部24に装着される。これにより、シールリング25が環状段部24から脱落するのを防止すると共に、弾性部材の容積を最大限に増やすことができ、圧縮可能範囲を高めて安定した気密性を確保することができるため、泥水の浸入とデフオイルの漏れを防止することができ、かつ、軸受内部へのデフオイルの浸入を防止できるフルフローティングタイプの車輪用軸受装置を提供することができる。
【0037】
環状段部24の開口部の面取り部24aは、傾斜角θ1からなるテーパ面で構成されている。この傾斜角θ1は、挿入性が向上するように15〜30°の範囲に設定されている。傾斜角θ1が15°未満では、挿入性が向上せず、また、30°を超えると、シールリング25の突起25bが径方向にスムーズに弾性変形せず、損傷の恐れがあるから好ましくない。
【0038】
環状段部24と壁面24bとの隅部には環状の盗み部24cが形成されている。この盗み部24cは、開口部に向って漸次小径となる傾斜角θ2のテーパ面を有している。この傾斜角θ2は、抜け力を高めるように20°以上に設定されている。
【0039】
図5に示すシールリング26は、図3の変形例で、基本的には前述したシールリングの一部の形状が異なるのみで、その他同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部品や部位には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0040】
このシールリング26は断面略矩形に形成され、軸方向に突出して形成された突起25aを有し、円弧状に形成された肩部1aに所定のシメシロを介して当接される。さらに端部に環状の突起26aが軸方向に突出して形成され、この突起26aが環状段部24の壁面24bに弾性変形した状態でシールリング26が装着されている。この突起26aの突出量hは、環状段部24の盗み部24cの幅L1から外径部の突起25bの幅L2の差よりも大きくなるように設定されている(h≧(L1−L2))。これにより、シールリング26を正確に位置決め固定ができると共に、軸受搬送時や組立時等に、シールリング26がぐらつかず安定し、信頼性を向上させることができる。
【実施例2】
【0041】
図6は、本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図である。なお、この実施形態は、前述した実施形態と基本的には車輪用軸受の構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。
【0042】
この車輪用軸受装置は、車軸管1の中に図示しないデファレンシャルと連結された駆動軸が挿通され、車軸管1の外径面に車輪用軸受27が装着されている。この車輪用軸受27の外方部材28はハブボルト(図示せず)を介して駆動軸のフランジに連結されている。そして、車輪用軸受27は車軸管1のアウター側の端部に外嵌され、固定ナット8によって締付固定されている。
【0043】
車輪用軸受27は、内周にそれぞれ外向きに開いたテーパ状の複列の外側転走面28a、28aが一体に形成された外方部材28と、外周にこれら複列の外側転走面28a、28aに対向するテーパ状の内側転走面10aが形成された一対の内輪10、11と、両転走面間に保持器12を介して転動自在に収容された複列の円錐ころ13、13とを備えている。そして、一対の内輪10、11の小径側端面が突き合された状態でセットされ、背面合せタイプの車輪用軸受を構成している。
【0044】
外方部材28の外周には車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ28bを有し、アウター側の端部に駆動軸のフランジに連結されるためのパイロット部29が一体に形成されている。このパイロット部29には締結用のハブボルト(図示せず)が螺着される雌ねじ29aが周方向等配に複数形成されている。そして、外方部材28と一対の内輪10、11との間に形成される環状空間の開口部にはシール14、15が装着され、シール14はデフオイルが軸受内部に侵入するのを防止し、シール15は、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0045】
外方部材28はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面28a、28aが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0046】
ここで、本実施形態では、前述した実施形態と同様、インナー側の内輪11の大径側端部に環状段部24が形成され、シールリング25が装着されている。このシールリング25は車軸管1の肩部1aに当接されて、内輪11と車軸管1の間の僅かな隙間を遮断している。
【0047】
このシールリング25は断面略矩形に形成され、軸方向に突出して形成された突起25aと、外径の端部に径方向外方に突出して形成された環状の突起25bを有している。そして、突起25bを盗み部24cに格納させた状態で環状段部24に装着されている。これにより、シールリング25が環状段部24から脱落するのを防止すると共に、安定した気密性を確保することができる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る車輪用軸受装置は、駆動軸と車軸管の開口部に車輪用軸受が装着されたフルフローティングタイプの駆動輪側の車輪用軸受装置に適用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 車軸管
1a 肩部
2 駆動軸
3、27 車輪用軸受
4 ハブ輪
5 ハブボルト
6 フランジ
7 ブレーキロータ
8 固定ナット
9、28 外方部材
9a、28a 外側転走面
10 アウター側の内輪
11 インナー側の内輪
10a 内側転走面
10b 大鍔部
10c 小鍔部
12 保持器
13 円錐ころ
14 アウター側のシール
15 インナー側のシール
16、20 芯金
17、21 シール部材
17a、17b ラジアルリップ
18 シール板
19 スリンガ
19a 円筒部
19b 立板部
21a、21b サイドリップ
21c グリースリップ
22 環状溝
23 連結環
24 環状段部
24a 面取り部
24b 壁面
24c 盗み部
25、26 シールリング
25a、25b、26a 突起
28b 車輪取付フランジ
29 パイロット部
29a 雌ねじ
51 車軸管
51a 肩部
52 駆動軸
53 車輪用軸受
54 ハブ輪
55 ハブボルト
56 フランジ
57、58 内輪
57a 内側転走面
57b 大鍔部
57c 小鍔部
59 固定ナット
60 外輪
60a 外側転走面
61 ブレーキロータ
62 保持器
63 円錐ころ
64、65 シール
66 環状溝
67 連結環
68 環状凹部
69 第1のシールリング
70 環状段部
71 第2のシールリング
72 芯金
73 弾性部材
73a リップ
73b 突起
d1 弾性部材の外径
d2 シールリングの外径
D1、D2 環状段部の内径
h 突起の突出量
L1 盗み部の幅
L2 突起の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デファレンシャルと連結された駆動軸が内挿された車軸管と、
この車軸管のアウター側の端部段差部に外嵌固定され、車輪を回転自在に支承する複列の転がり軸受からなる車輪用軸受とを備え、
この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、
これら内輪と前記外方部材の各転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備え、
前記一対の内輪のうちインナー側の内輪の端部内周に環状段部が形成され、この環状段部にシールリングが装着されたフルフローティングタイプの車輪用軸受装置において、
前記シールリングが合成ゴムから断面略矩形に形成され、軸方向に突出して形成された突起を有し、この突起が、円弧状に形成された前記段差部の肩部に所定のシメシロを介して当接され、前記内輪と車軸管の間の僅かな隙間を遮断していることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記環状段部と、この環状段部の壁面との隅部に環状の盗み部が形成されると共に、前記シールリングの外径が前記環状段部の内径よりも僅かに大径に設定され、端部に径方向外方に突出して形成され、前記盗み部に膨出する環状の突起を有し、この突起が前記盗み部に格納された状態で当該シールリングが前記環状段部に装着されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記シールリングの突起の高さが1mm以上に設定されている請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記シールリングの端部に環状の突起が軸方向に突出して形成され、この突起が前記環状段部の壁面に弾性変形した状態で当該シールリングが装着されている請求項1乃至3いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記突起の突出量hが、前記環状段部の盗み部の幅L1と前記外径部の突起の幅L2との差よりも大きくなるように設定(h≧(L1−L2))されている請求項4に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記環状段部の開口部の面取り部が15〜30°の範囲に設定された傾斜角からなるテーパ面で構成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記環状段部の盗み部が、開口部に向って漸次小径となる傾斜角20°以上のテーパ面を有している請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記シールリングの材質が、ACM、FKM、EPDM、シリコンゴムの中から選択されている請求項1乃至7いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項9】
前記車輪を取り付けるための車輪取付フランジがハブ輪に一体に形成され、このハブ輪がハブボルトを介して前記駆動軸のフランジに連結されると共に、当該ハブ輪に前記車輪用軸受が内嵌されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項10】
前記車輪を取り付けるための車輪取付フランジが前記車輪用軸受の外方部材の外周に一体に形成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−251649(P2011−251649A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127847(P2010−127847)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】