説明

軌道車両用駆動システム及びそれを用いた軌道車両

【課題】電動機でアシストされ、変速機として、前進と後進とで、速度段数と各速度段でのギア比とを等しくするためのギア配列を得るとともに電動機と組み合わせ可能とする軌道車両用の駆動システムを提供する。
【解決手段】エンジン14の出力を入力軸30で受ける変速機15は、前進用ギア列31及び後進用ギア列32と、出力軸45との間に相異なる変速ギア段51〜54を有する二つの中間軸41,42とを組み合わせて構成されている。第1クラッチ43又は第2クラッチ44を選択的にシフト・締結することにより、前進用ギア列31と後進用ギア列32のどちらかの回転がいずれかの中間軸41,42に伝達される。変速ギア段51〜54が選択されると、軌道車両の前進と後進とによらず、同じ速度段数とギア比とが得られる。発電電動機18によるアシスト力は、差動機構55から両中間軸41,42を通じて出力軸45に与えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンの回転出力を変速して出力する変速機を備えた軌道車両用駆動システム及びそれを用いた軌道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の気動車の駆動システムは、ディーゼルエンジンのようなエンジンの出力を変速機(トランスミッション)に入力し、変速機の出力をドライブシャフトを介して車輪に伝達するシステムとして構成されているものがある。このシステムでは、変速はすべて変速機で行われる。一方、別の形態の駆動システムとして、エンジンの出力をすべて発電機に入力し、発電機が出力した電気エネルギーをインバータに入力し、周波数変換して台車に備わるモータを電気的に駆動するシステムが提案されている。エンジンが停止していても、バッテリからの電力によって、モータを運転することができる。この形態の駆動システムでは、減速回生時にインバータからは、フルに又は車両の運転状態に応じて余剰となった電力がバッテリに充電される。
【0003】
二つの中間軸を持つブリッジ型変速機で入力軸と中間軸の間に後進ギアを設けているものがある(特許文献1参照)。この変速機は、エンジンに接続された変速機入力軸と、変速機出力軸の間に第一,第二の中間軸を設け、該中間軸と入力軸および該中間軸と出力軸の間に変速ギアを配置して、二組の変速ギア比の積で変速比が決まるようにし、さらに両中間軸間に差動装置を接続し、該差動装置の第三軸に電動機を接続して、エンジントルクを一時的にモータに担持させることでアクティブ変速を行うアクティブシフト変速機である。噛合いクラッチの数を増やすことなく、入力軸の変速ギアを解放すれば、エンジンを切り離し可能であり、回生制動時のエンジン連れ回し損失を無くすことを図っている。しかしながら、このアクティブシフト変速機は、自動車用のものであるので、後進ギアは一つ(片方)だけである。
【0004】
また、ツインクラッチ式自動変速機の両クラッチ軸間に電動機を挿入し、電動機のトルクと回転数を制御して滑らかで効率的な変速制御を行うとともに、クリープ制御、アイドルストップ発進制御、R→D、D→Rセレクト制御等を実現可能な変速機が提案されている(特許文献2参照)。この提案において、中間軸の片方に固定ブレーキ又は固定クラッチが設けられているものが含まれているが、その目的はエンジン始動用に限られている。
【特許文献1】特開2005−76875号公報
【特許文献2】WO01/66971
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
気動車のような軌道車両では、自動車(前進第1〜4速、後進R)とは異なり、前進と後進とは同じ変速環境で作動しなければならない。即ち、気動車は、車両の編成は変わらずに、上りを走行するときと下りを走行するときとでは、前進・後進を同じ速度段で変速できなければならないという要請がある。そこで、電動機でアシストをする軌道車両用の駆動システムにおいては、変速機として、前進と後進とで、速度段数と各速度段でのギア比とを等しくするためのギア配列を得るとともに電動機と組み合わせ可能とする点で解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による軌道車両用駆動システムは、エンジン、及び当該エンジンの回転出力を変速して出力する変速機を備え、当該変速機の出力軸の回転が軌道車両の駆動輪に伝達される軌道車両用駆動システムであって、前記変速機は、前記入力軸と並列に設けられた第1中間軸及び第2中間軸、前記第1中間軸又は第2中間軸と前記出力軸との間に噛み合って設けられており選択的に動力伝達が行われる複数組の変速ギア段、及び前記入力軸と前記両中間軸との間に設けられていて前記入力軸の回転を選択的に伝達する前進用ギア列及び後進用ギア列を備え、前記前進用ギア列又は前記後進用ギア列の選択と複数組の前記変速ギア段の選択との組合せで得られる速度段数が前進と後進とで等しくなっており、インバータを介してバッテリとの間で電力を出し入れする発電電動機を備え、前記発電電動機は、前記変速機に備わる前記第1中間軸及び/又は前記第2中間軸との間で回転力を授受することを特徴とする。
【0007】
この発明による軌道車両用駆動システムによれば、変速機が出力軸との間に相異なる変速ギア段を有する二つの中間軸と、前進用ギア列及び後進用ギア列とを組み合わせているので、軌道車両の前進と後進とによらず、同じ速度段数とギア比とが得られる。しかも、発電電動機によるアシスト回転力は、変速機を通じて出力軸に与えられる。更に、変速機の出力の一部又は全部の入力を受けて発電する発電電動機を備えることで、当該駆動システムは、鉄道車両の駆動輪にはエンジンからの動力と発電電動機からの電動機出力とが選択的に伝達されるハイブリッド駆動システムに構成され、エンジンの余剰動力を発電に用いて電気エネルギーとして貯えることができ、更に、軌道車両の制動時に発電することで運動エネルギーを回生エネルギーとして回収することができ、省エネルギーに貢献することができる。
【0008】
この軌道車両用駆動システムにおいて、前記電動機と前記第1中間軸及び前記第2中間軸との間に差動機構を介在させ、前記差動機構の差動出力軸に前記発電電動機を接続することができる。電動機によるアシスト回転力が第1中間軸又は第2中間軸を通じて出力軸に与えられ、第1中間軸と第2中間軸との間に速度差が生じるときには、差動機構によって吸収することができる。
【0009】
この軌道車両用駆動システムにおいて、前記差動機構には前記第1及び第2中間軸の少なくとも一方との間で複数のギアから成る接続ギア列を直列配置し、前記接続ギア列の当該ギアの回転を拘束する固定クラッチを設けることができる。差動機構に直列に配置した接続ギア列の当該ギアの回転を拘束する固定クラッチを設けることで、両中間軸のうち差動機構を介さないで接続される一方の中間軸の回転が停止され、発電電動機を電動機として作動させて発進するときのモータ発進や、発電電動機を発電機として作動させるときの発電時に、制御の容易さと発電効率を高めることができる。
【0010】
この軌道車両用駆動システムにおいて、前記電動機は前記変速機と別体に前記車体に取り付けられており、前記差動機構の前記電動機への接続軸は前記変速機の外部に取り出されており、前記接続軸と前記電動機との間を可撓性継ぎ手を介して連結することができる。軌道車両用駆動システムに用いられる機器は、保守点検作業の一環として、一定の周期でメンテナンスをする必要がある。発電電動機は比較的完成された機器であり且つ摺動摩耗する部分が殆ど無い。それと比較して変速機は歯車の噛み合いやクラッチの摺接を用いる機器であるので、摩耗に起因した部品交換や摩耗粉除去等に必要なメンテナンス周期が短い。発電電動機が変速機と別体に前記車体に取り付けられている場合には、こうしたメンテナンス周期の違いによって、発電電動機と変速機とを車両本体から取り外す時期が異なる。これに対応するため、発電電動機と変速機との間をユニバーサルジョイント或いは撓み継ぎ手等の可撓性継ぎ手を介して連結されている。こうした継手構造によって、変速機と電動機を別体にして電動機を変速機の後方に設置することができ、発電電動機と変速機との車体からの取外しや再取付け、或いは互いの分離と再接続の作業が容易に且つ効率的に行うことができる。
【0011】
ハイブリッド駆動システムに構成された上記の軌道車両用駆動システムにおいて、車両停車時及び惰行時など前記エンジンが車両牽引力として使われていないとき、前記変速ギア段のすべてを開放するとともに、前記固定クラッチを締結し、前記接続ギア列が直接接続されていない方の前記中間軸に配置された前記前進用ギア列及び後進用ギア列のいずれか一方を選択的に締結し、前記エンジンの出力を前記差動機構を介して前記発電電動機に伝達して発電することができる。このように構成することで、車両停車時及び惰行時などのエンジンが車両牽引力として使われていないときには、エンジンの出力はどの変速ギア段にも伝達されることなく差動機構を介して発電電動機に伝達され、発電電動機において発電を行うことができる。
【0012】
ハイブリッド駆動システムに構成された上記の軌道車両用駆動システムにおいて、前記変速ギア段のいずれか一つが締結されて走行中に、該変速ギア段が接続されていない方の前記中間軸に配置された他の前記変速ギア段の一つを締結し、前記差動機構により前記第1中間軸と前記第2中間軸の回転差を前記発電電動機に伝えて発電することができる。このように構成することで、エンジンの駆動力がどれかの変速ギア段を介して車両牽引力として使われていても、他方の中間軸に配置されている他の前記変速ギア段の一つを締結することで、差動機構によって第1中間軸と前記第2中間軸の回転差を発電電動機に伝達して、発電電動機において発電を行うことができる。
【0013】
ハイブリッド駆動システムに構成された上記の軌道車両用駆動システムにおいて、前記接続ギア列が直接接続されていない方の前記中間軸に配置された前記変速ギア段のいずれか一つが締結されて走行中に、前記接続ギア列が直接接続されている方の前記中間軸に配置された前記変速ギア段のすべてを開放するとともに、前記固定クラッチを締結し、前記差動機構により前記第1中間軸と前記第2中間軸の回転差を前記発電電動機に伝えて発電することができる。このように構成することで、軌道車両の慣性による出力軸から取り込まれる回転力は、締結されている変速ギア段を介しての一方の中間軸を回転させ、固定クラッチの締結によって回転が停止されている他方の中間軸の回転差が発電電動機に伝達されるので、軌道車両の運動エネルギーを回生することでブレーキをかける回生制動を行うことができる。
【0014】
差動機構を備えた上記の軌道車両用駆動システムにおいて、前記変速ギア段のいずれか一つが締結されているとき、該変速ギア段が接続されていない方の前記中間軸に配置された他の前記変速ギア段の一つを締結し、前記電動機の発生する動力を前記差動機構により前記第1中間軸と前記第2中間軸に伝えて走行することができる。このように構成することで、電動機が発生する動力は各中間軸において締結されている変速ギア段を介して出力軸に伝達され、電動機による発進を行うことができる。差動機構は両中間軸の変速ギア段からの回転数差を吸収することができる。この場合、締結する変速ギア段については、モータ回転数、必要車両性能に依存するため、例えば第1変速ギア段とすればよい。
【0015】
差動機構を備えた上記の軌道車両用駆動システムにおいて、前記接続ギア列が直接接続されていない方の前記中間軸に配置された前記変速ギア段のいずれか一つが締結されているとき、前記接続ギア列が直接接続されている方の前記中間軸に配置された前記変速ギア段のすべてを開放するとともに、前記固定クラッチを締結し、前記電動機の発生する動力を前記差動機構により前記第1中間軸と前記第2中間軸に伝えて走行することができる。このように構成することで、電動機が発生する動力は、差動機構から締結されている変速ギア段を介して出力軸に伝達される。このとき、固定クラッチを締結させておくことにより、差動機構の固定クラッチ側は回転停止とされ、電動機の出力を効率良く出力軸に伝達することができる。この場合、締結する変速ギア段については、モータ回転数、必要車両性能に依存するため、例えば第2変速ギア段とすればよい。
【0016】
この発明は、この軌道車両用駆動システムを備え、当該軌道車両用駆動システムの出力で駆動輪を駆動することを特徴とする軌道車両とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明による軌道車両用駆動システムは上記のように構成されているので、次のような効果を奏する。即ち、アシスト用に用いている発電電動機による単独走行が可能で、エンジン騒音を低減することができる。変速時にクラッチの同期を取り且つトルク中断無しに変速するので、従来の気動車より変速時のショックを軽減でき、車両間の衝動も軽減できることから乗心地が向上する。また、トルク中断がないことから加速性能も向上する。また、流体変速機を介さずに駆動でき、摩擦クラッチが無く、遊休クラッチの連れ回りも無いことから、駆動効率が高く且つ燃費が向上するとともに、潤滑油量が少なくて済み発熱も少ないため、潤滑油の冷却装置等が不要でイニシャルコストを低減でき、省メンテナンスである。更に、変速機については発電電動機を取り付けるための剛性を上げる必要もないのでイニシャルコストを低減できる。更に、変速機と発電電動機とを別設置とすることで、配置自由度が高められ、車両の重量配分をバランスよく設定できる。また更に、変速機と発電電動機を個別にメンテナンスすることが容易となる。
電動機として発電電動機を用いることで、制動エネルギーを電気エネルギーとして回生してバッテリに蓄え、駆動力として使用できることから、従来の気動車よりも駆動性能及び燃費を向上させることができる。また、エネルギーを回収する発電機と動力を発生する電動機が共用できることから、イニシャルコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、この発明による軌道車両用駆動システムが適用される軌道車両、特に鉄道車両の一例を示す模式図であり、(a)は屋根上を示す平面図、(b)は床下の下面に沿った平面で下方を見た図を示す。図1(a)に示すように、鉄道車両1の屋根2の上には、駆動用バッテリ10と駆動用バッテリリアクトル11とが設けられている。
【0019】
図1(b)に示すように、鉄道車両1を支えるとともに、軌道(線路)を走行可能な車輪5と減速機6とを備えた台車4,4が配置されており、鉄道車両1の床3下には、以下に掲げる各種機器が吊り下げる態様で設けられている。即ち、軽油等の燃料を貯蔵して供給源となっている燃料タンク13、燃料タンク13から燃料の供給を受けて駆動されるディーゼルエンジンのような内燃機関からなるエンジン14、エンジン14に近接配置されておりエンジン14の回転出力を受けて当該回転出力をプロペラシャフト16に変速して出力する変速機(アクティブシフトトランスミッション)15、屋根2上の駆動用バッテリ10からの電力が入力されるインバータ17、インバータ17で周波数変換された交流電力の供給を受け且つ場合によってはエンジン14からの動力を受けて発電機として機能する発電電動機18が、床3の下に吊り下げ支持されている。図1(b)に示すように、鉄道車両1の床3上には、駆動用バッテリ10と後述する発電電動機18との間で電流の流れを断つ断流器12が設置されている。
【0020】
変速機15の変速出力は、一方の台車(駆動台車)4に設けられている減速機6に推進軸(プロペラシャフト)16を介して伝達される。床3の下面には、更に、エンジン制御器19、変速機制御器20、制御用バッテリ21、ラジエータ22が吊り下げ支持されている。
【0021】
図2は、図1に示す軌道車両の軌道車両用駆動システムにおける発電電動機及び変速機と両者間の接続構造の一例を示す上面図(a)と側面図(b)である。発電電動機18と変速機15とのメンテナンス周期のずれによって、発電電動機18と変速機15とを車両本体から取り外す時期が異なるので、発電電動機18と変速機15の接続軸(後述する)とは撓み継ぎ手25を介して連結されている。撓み継ぎ手25を用いて両者を連結しているので、発電電動機18と変速機15との一方のみを車体から取り外す場合、及び再び車体に取り付ける場合に、接続する軸間で傾斜が許容されて完全にアライメントしていなくてもよくなるので、取り外し・取り付け作業を容易に且つ効率的に行うことが可能になる。なお、撓み継ぎ手25に代えてユニバーサルジョイントを用いることも可能である。
【0022】
図3は、図1に示す軌道車両の軌道車両用駆動システムにおける変速機の構造を模式的に示す図である。変速機15には、エンジン14の出力軸29は、変速機15の入力軸30に直結されており、エンジン14からの回転出力が直接に変速機に入力される。入力軸30には、前進用ギア列31と後進用ギア列32が並列に配置されており、入力軸30が回転駆動されている状態では、両ギア列31,32は常に駆動されている。前進用ギア列31は、入力軸30に連結された入力ギア33、入力ギア33と噛み合う第1ギア34及び第2ギア35を備えている。後進用ギア列32は、入力軸30に連結された入力ギア36、入力ギア36にそれぞれ噛み合う仕様が同じな反転ギア37,38、反転ギア37,38にそれぞれ噛み合う第3ギア39及び第4ギア40を備えている。
【0023】
入力軸30に並行に、第1中間軸41と第2中間軸42とが配置されている。第1ギア34と第3ギア39とは第1中間軸41に相対回転可能に嵌合しており、第2ギア35と第4ギア40とは第2中間軸42に相対回転可能に嵌合している。第1中間軸41と第2中間軸42とには、前進用ギア列31と後進用ギア列32との間において、それぞれ、選択的にシフト可能な第1クラッチ43と第2クラッチ44とが配設されている。したがって、第1中間軸41には第1クラッチ43の選択的なシフトによって当該クラッチ43が締結した側のギア(34又は39)から前進回転又は後進回転が与えられ、第2中間軸42には第2クラッチ44の選択的なシフトによって当該クラッチ44が締結した側のギア(35又は40)から前進回転又は後進回転が与えられる。
【0024】
第1中間軸41と第2中間軸42と並行に、出力軸45が配置されている。第1中間軸41と出力軸45との間には第1変速ギア段51と第3変速ギア段53が配設されており、第2中間軸42と出力軸45との間には第2変速ギア段52と第4変速ギア段54が配設されている。各変速ギア段51〜54においては、予め定められた変速比で出力軸45に回転出力を生じさせるために、相異なるギア径(歯数)が定められている。また、各変速ギア段51〜54において、中間軸41,42上に配置されているギアは中間軸41,42に対して相対回転自在であるが、出力軸45に配置されているギアは出力軸45に固定されている。
【0025】
第1中間軸41上において、第1変速ギア段51と第3変速ギア段53との間には選択的にシフト可能な第3クラッチ46が配設されている。また、第2中間軸42上において、第2変速ギア段52と第4変速ギア段54との間には選択的にシフト可能な第4クラッチ47が配設されている。
【0026】
上記の変速ギア段の構成によって、第1クラッチ43を前進用ギア列31側にシフトした状態で、第3クラッチ46を第1変速ギア段51側にシフトするときには入力軸30の回転は第1中間軸41及び第1変速ギア段51を介して出力軸45に第1変速段で出力され、第3クラッチ46を第3変速ギア段53側にシフトするときには入力軸30の回転は第1中間軸41及び第3変速ギア段53を介して出力軸45に第3変速段で出力される。このとき、第2クラッチ44は中立位置に置かれる。また、第2クラッチ44を前進用ギア列31側にシフトした状態で、第4クラッチ47を第2変速ギア段52側にシフトするときには入力軸30の回転は第2中間軸42及び第2変速ギア段52を介して出力軸45に第2変速段で出力され、第4クラッチ47を第4変速ギア段54側にシフトするときには入力軸30の回転は第2中間軸42及び第4変速ギア段54を介して出力軸45に第4変速段で出力される。このとき、第1クラッチ43は中立位置に置かれる。
【0027】
第1クラッチ43、第2クラッチ44、第3クラッチ46及び第4クラッチ47は、ドグクラッチとして構成されている。各中間軸とスプライン係合しているスリーブをシフタによって中間軸の軸線と並行な方向にシフトさせることにより、各ギアに設けられているドグ歯への締結が可能である。
【0028】
第1クラッチ43又は第2クラッチ44を後進用ギア列32側にシフトしたときには、第3クラッチ46又は第4クラッチ47の選択的なシフトによって、後進の場合でも同じ変速段が得られる。軌道車両の場合には、進行方向が前進と後進の場合があるが、自動車の場合のような後進1速のみというような制約はなく、どちらの進行方向であっても、同じ変速段が要求されるので、本変速機15はこうした要求に応えることができる。また、各変速ギア段で走行中に機関ブレーキ信号が入力された際に、エンジン14をアイドル状態として機関ブレーキをかけることができる。
【0029】
第2中間軸42の端部には差動機構55が配設されており、差動機構55のリングギア56と噛み合う取り出しギア57の取り出し軸58は発電電動機18に接続されている。第1中間軸41と差動機構55との間には接続ギア列60と固定クラッチ61とが配設されている。接続ギア列60は、第1中間軸41側に直接接続されている接続ギア列部60aと、第2中間軸42に直接接続されてはいないが差動機構55を介して間接的に接続されている接続ギア列部60bとを備えている。
【0030】
車両の運転モードに応じた変速機15の使用状態について、以下説明する。
[停車状態] 停車状態では、第3クラッチ46を第1変速ギア段51に係合させるのみとし、他のクラッチは開放する。発電電動機18の出力は無しとされる。エンジン14は、補機の必要性に応じてのみ運転する。
【0031】
[惰行状態] 惰行状態では、第1クラッチ43及び第2クラッチ44を共に前進用ギア列31(又は車両の走行方向が後進であるときには、後進用ギア列32)側にシフトする。発電電動機18の出力は無しとされる。エンジン14はアイドル状態である。
【0032】
停車時における発電及びバッテリ暖機運転並びに惰行時における発電について図4を参照して説明する。
[停車発電] 停車発電では、第1クラッチ43を中立位置とし、第2クラッチ44を前進(又は後進)用ギア列31(又は32)側にシフトする。各変速ギア段51〜54は中立位置を占める。固定クラッチ61を締結状態とすることで、差動機構55の反第2中間軸側(即ち、第1中間軸41)が回転しないようにして、エンジン14の出力を、第2中間軸42、差動機構55の取り出しギア57及び取り出し軸58を介して発電電動機18に出力する。惰行発電についても同等の状態である。また、バッテリ10、21等の温度が0℃以下のような場合において、バッテリを加温する暖機運転の場合も同等の状態である。
【0033】
力行時における発電について図5を参照して説明する。
[力行発電] 車両がエンジン14の出力で力行をしつつその出力の一部で発電を行うモードである。第1変速段〜第4変速段については、上記のとおり第3クラッチ46又は第4クラッチ47による各変速ギア段51〜54の選択的なシフト・締結が行われる。第1変速段又は第3変速段で走行する場合には第1中間軸41が動力伝達経路として用いられている。固定クラッチ61は開放されているので、第1中間軸41の回転が接続ギア列60を介して差動機構55に入力される。出力軸45からいずれかの方向にシフトされた第4クラッチ47を介して第2中間軸42を回転させることで、差動機構55における第1中間軸41側からの入力と第2中間軸42からの入力との差動として、取り出し軸58から発電電動機18に発電トルクが掛けられる。第2変速段又は第4変速段で走行する場合には、第2中間軸42が既に動力伝達経路となっている。出力軸45からいずれかの方向にシフトされた第3クラッチ46を介して第1中間軸41を回転させ、第1中間軸41の回転を、固定クラッチ61が開放された接続ギア列60を介して差動機構55に入力する。差動機構55における第1中間軸41側からの入力と第2中間軸42からの入力との差動として取り出し軸58から発電電動機18に発電トルクが掛けられる。図5は一例として第1変速段で走行中に第4変速段を締結して発電する場合を示す。
【0034】
回生時の動作について図6を参照して説明する。
[回生] モータの回転数を高くするため、例えば第4変速段又は第2変速段での走行時に行う回生では、出力軸45の回転を第4クラッチ47のいずれかの方向へのシフト・締結によって第2中間軸42を回転させることができる。差動機構55において、固定クラッチ61を締結することによって第1中間軸41を停止させることができるので、差動機構55における両入力の差動として取り出し軸58から発電電動機18に発電トルクが掛けられ、回生動作を得ることができる。第1変速段又は第3変速段での走行時に固定クラッチ61を締結して回生を行うには、先ず第3クラッチ46を中立にし、第4クラッチ47を車速に応じて第2変速段又は第4変速段に締結すると共に固定クラッチ61を締結して回生する。
固定クラッチを使用しない場合の回生を第1変速段又は第3変速段走行時を例に取り、図7を参照して説明する。固定クラッチ61は開放されているので、出力軸45の回転を第3クラッチ46のいずれかの方向へのシフト・締結によって第1中間軸41を回転させると共に、出力軸45の回転を第4クラッチのいずれかの方向へのシフト・締結によって第2中間軸42を回転させ、差動機構55における両入力の差動として取出し軸58から発電電動機18に発電トルクが掛けられ、回生動作を得ることができる。
【0035】
第1変速段を用いる電動機発進について図8を参照して説明する。
[電動機発進(第1変速段発進)] エンジン14が停止しているときに、第3クラッチ46を第1変速ギア段51側にシフト・締結し、同時に第4クラッチ47を第4変速ギア段54側にシフト・締結する。第1及び第2のクラッチ43,44並びに固定クラッチ61は開放状態とされる。モータとして作動する発電電動機18の出力は、差動機構55を介して、更に一方では第4変速ギア段54を介して出力軸45に、また他方では接続ギア列60、第1中間軸41及び第1変速ギア段51を介して出力軸45に伝達される。両経路の回転差は、差動機構55が吸収する。車両速度が例えば20km/hに加速したときに、エンジン14が始動される。エンジン14の始動後、エンジン回転数を制御して第1クラッチ43を同期させて締結すると、エンジン動力は第1中間軸41、第1変速ギア段51を介して出力軸45に伝達され、エンジン走行モードに移行する。
【0036】
第2変速段を用いる電動機発進について図9を用いて説明する。
[電動機発進(第2変速段発進)] エンジン14が停止しているときに、第3クラッチ46を開放状態とし、第4クラッチ47を第2変速ギア段52側にシフト・締結する。第1及び第2のクラッチ43,44は開放状態とされるが、固定クラッチ61は締結される。モータとして作動する発電電動機18の出力は、差動機構55、第2中間軸42、第2変速ギア段52及び出力軸45の経路で伝達される。固定クラッチ61が締結されることで、差動機構55は発電電動機18の出力と固定クラッチ61側との差を第2中間軸42に出力する。この発進モードでは、第2変速ギア段52で発進が行われ、車両速度が例えば45km/hに加速したときに、エンジン14が始動される。エンジン14の始動後、エンジン回転数を制御して第2クラッチ44を同期させて締結すると、エンジン動力は第2中間軸42、第2変速ギア段52を介して出力軸45に伝達され、エンジン走行モードに移行する。この発進モードは、駅構内では45km/hに加速されるまでモータ発進・走行となり騒音低減に効果的であるので、ターミナル駅のような利用客の多い大きな駅での発進に適している。
【0037】
エンジン発進について、図10を用いて説明する。
[エンジン発進] 駆動用バッテリ10の充電率が低下している場合などに、エンジン14を起動後、発電電動機18の回転数を制御して第2クラッチ44を同期させて締結し、発電電動機18にトルクをかける。停車状態では第3クラッチ46が第1変速ギア段51に締結されているので、エンジン14の出力は第2中間軸42、差動機構55、接続ギア列60側、第1中間軸41及び第1変速ギア段51を介して出力軸45に伝達される。この時、第2中間軸42の回転数と差動機構55の接続ギア列60側に連結された軸との回転数差は差動機構55が吸収し、両回転軸の差の出力によって、取り出しギア57及び取り出し軸58を介して発電電動機18が発電する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明による軌道車両用駆動システムが適用される軌道車両、特に鉄道車両の一例を示す模式図である。
【図2】図1に示す軌道車両用駆動システムにおける発電電動機及び変速機と、両者間の接続構造の一例を示す上面図である。
【図3】図1に示す軌道車両用駆動システムにおける変速機の構造を模式的に示す図である。
【図4】本発明による軌道車両用駆動システムにおいて、停車時と惰行時の発電トルク伝達経路を示す説明図である。
【図5】本発明による軌道車両用駆動システムにおいて、力行時の発電トルク伝達経路を示す説明図である。
【図6】本発明による軌道車両用駆動システムにおいて、回生時の発電トルク伝達経路を示す説明図である。
【図7】本発明による軌道車両用駆動システムにおいて、回生時の発電トルク伝達経路を示す説明図である。
【図8】本発明による軌道車両用駆動システムにおいて、第1変速段を用いる電動機発進時のモータトルク伝達経路を示す説明図である。
【図9】本発明による軌道車両用駆動システムにおいて、第2変速段を用いる電動機発進時のモータトルク伝達経路を示す説明図である。
【図10】本発明による軌道車両用駆動システムにおいて、エンジン発進時のエンジン出力トルク伝達経路を示す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 鉄道車両 2 屋根
3 床 4,4 台車
5 車輪 6 減速機
10 駆動用バッテリ 11 駆動用バッテリリアクトル
12 断流器 13 燃料タンク
14 エンジン 15 変速機(アクティブシフトトランスミッション)
16 プロペラシャフト 17 インバータ
18 発電電動機 19 エンジン制御器
20 変速機制御器 21 制御用バッテリ
22 ラジエータ
25 撓み継ぎ手
29 出力軸(エンジンの) 30 入力軸(変速機15の)
31 前進用ギア列 32 後進用ギア列
33 入力ギア
34 第1ギア 35 第2ギア
36 入力ギア 37,38 反転ギア
39 第3ギア 40 第4ギア
41 第1中間軸 42 第2中間軸
43 第1クラッチ 44 第2クラッチ
45 出力軸(変速機15の)
46 第3クラッチ 47 第4クラッチ
51 第1変速ギア段 52 第2変速ギア段
53 第3変速ギア段 54 第4変速ギア段
55 差動機構 57 取り出しギア
58 取り出し軸 60 接続ギア列
61 固定クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、及び当該エンジンの回転出力を変速して出力する変速機を備え、当該変速機の出力軸の回転が軌道車両の駆動輪に伝達される軌道車両用駆動システムにおいて、
前記変速機は、前記入力軸と並列に設けられた第1中間軸及び第2中間軸、前記第1中間軸又は第2中間軸と前記出力軸との間に噛み合って設けられており選択的に動力伝達が行われる複数組の変速ギア段、及び前記入力軸と前記両中間軸との間に設けられていて前記入力軸の回転を選択的に伝達する前進用ギア列及び後進用ギア列を備え、前記前進用ギア列又は前記後進用ギア列の選択と複数組の前記変速ギア段の選択との組合せで得られる速度段数が前進と後進とで等しくなっており、
インバータを介してバッテリとの間で電力を出し入れする発電電動機を備え、
前記発電電動機は、前記変速機に備わる前記第1中間軸及び/又は前記第2中間軸との間で回転力を授受する
ことを特徴とする軌道車両用駆動システム。
【請求項2】
請求項1に記載の軌道車両用駆動システムにおいて、
前記電動機と前記第1中間軸及び前記第2中間軸との間に差動機構が介在されており、 前記差動機構の差動出力軸に前記発電電動機が接続されている
ことを特徴とする軌道車両用駆動システム。
【請求項3】
請求項2に記載の軌道車両用駆動システムにおいて、
前記差動機構には前記第1及び第2中間軸の少なくとも一方との間で複数のギアから成る接続ギア列が直列配置されており、前記接続ギア列の当該ギアの回転を拘束する固定クラッチが設けられている
ことを特徴とする軌道車両用駆動システム。
【請求項4】
請求項2に記載の軌道車両用駆動システムにおいて、
前記電動機は前記変速機と別体に前記軌道車両の車体に取り付けられており、
前記差動機構の前記電動機への接続軸は前記変速機の外部に取り出されており、
前記接続軸と前記電動機との間を可撓継ぎ手を介して連結している
ことを特徴とする軌道車両用駆動システム。
【請求項5】
請求項3に記載の軌道車両用駆動システムにおいて、
車両停車時及び惰行時など前記エンジンが車両牽引力として使われていないとき、
前記変速ギア段のすべてを開放するとともに、前記固定クラッチを締結し、
前記接続ギア列が直接接続されていない方の前記中間軸に配置された前記前進用ギア列及び後進用ギア列のいずれか一方を選択的に締結し、
前記エンジンの出力を前記差動機構を介して前記発電電動機に伝達して発電する
ことを特徴とする軌道車両用駆動システム。
【請求項6】
請求項2又は3に記載の軌道車両用駆動システムにおいて、
前記変速ギア段のいずれか一つが締結されて走行中に、
該変速ギア段が接続されていない方の前記中間軸に配置された他の前記変速ギア段の一つを締結し、
前記差動機構により前記第1中間軸と前記第2中間軸の回転差を前記発電電動機に伝えて発電する
ことを特徴とする軌道車両用駆動システム。
【請求項7】
請求項3に記載の軌道車両用駆動システムにおいて、
前記接続ギア列が直接接続されていない方の前記中間軸に配置された前記変速ギア段のいずれか一つが締結されて走行中に、
前記接続ギア列が直接接続されている方の前記中間軸に配置された前記変速ギア段のすべてを開放するとともに、
前記固定クラッチを締結し、
前記差動機構により前記第1中間軸と前記第2中間軸の回転差を前記発電電動機に伝えて発電する
ことを特徴とする軌道車両用駆動システム。
【請求項8】
請求項2又は3に記載の軌道車両用駆動システムにおいて、
前記変速ギア段のいずれか一つが締結されているとき、
該変速ギア段が接続されていない方の前記中間軸に配置された他の前記変速ギア段の一つを締結し、
前記電動機の発生する動力を前記差動機構により前記第1中間軸と前記第2中間軸に伝えて走行する
ことを特徴とする軌道車両用駆動システム。
【請求項9】
請求項3に記載の軌道車両用駆動システムにおいて、
前記接続ギア列が直接接続されていない方の前記中間軸に配置された前記変速ギア段のいずれか一つが締結されているとき、
前記接続ギア列が直接接続されている方の前記中間軸に配置された前記変速ギア段のすべてを開放するとともに、
前記固定クラッチを締結し、
前記電動機の発生する動力を前記差動機構により、前記接続ギア列が直接接続されていない方の前記中間軸に伝えて走行する
ことを特徴とする軌道車両用駆動システム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の軌道車両用駆動システムを備え、当該軌道車両用駆動システムの出力で駆動輪を駆動する
ことを特徴とする軌道車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−254587(P2008−254587A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99189(P2007−99189)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【特許番号】特許第4150055号(P4150055)
【特許公報発行日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【出願人】(303025663)株式会社日立ニコトランスミッション (25)
【Fターム(参考)】