説明

転がり軸受及びその製造方法、並びに転がり軸受の製造方法を評価する方法

【課題】長期に渡って高い静粛性が維持され、より簡便な検査手法でかかる静粛性が得られるか否かの確認ができる軸受を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、表面に存在する微細な鉄粒子が、単位表面積(mm2)あたり700ng以下であることを特徴とする転がり軸受を提供するものである。本発明に係る転がり軸受は、例えば、転がり軸受の構成部材を組み立てる前に適宜超音波洗浄を行うことにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好適な転がり軸受等に関し、特に、静粛性を求められる部位の回転支持部分に用いられる転がり軸受として好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報分野をはじめとする種々の産業分野において技術革新のスピードが早くなり、一つの機種の存在期間が短くなるとともに、新技術を導入して高精度化やコンパクト化がなされた新機種が次々と開発されている。これに伴い、様々な機器に使用される転がり軸受には、年々厳しい静粛性が求められるようになり、しかも一定レベルの低騒音が長期に渡って維持されることが求められている。
【0003】
このような技術的要求から、例えば特開2001−159427号公報(特許文献1)には、ハードディスクドライブ(HDD)、ビデオテープレコーダ(VTR)、デジタルオーディオテープレコーダ(DAT)、レーザビームプリンタ(LBP)等に使用される転がり軸受として、軸受内部(内輪外周面と外輪内周面と転動体と保持器とシールとで形成される空間)に存在する、硬さがHv(ビッカース硬度)800(8GPa)以上の粒子の平均粒径が2μm以下であることを特徴とする転がり軸受、及び軸受内部に硬さがHv800以上で平均粒径が2μm以上である粒子が存在し、その粒子の数は軸受内部の単位表面積(cm2)当たり5個以下であることを特徴とする転がり軸受が開示されている。転がり軸受の騒音は、軸受内部に存在する硬質の粒子が、外内輪の軌道面や転動体の転動面に繰り返し当たることによって面荒れが生じ、凹凸が形成されることに起因して生じる。軸受内部においてこのような面荒れを生じさせるのはHv800以上の粒子であり、かかる粒子の量を減少させることにより静粛性を長期間維持することが可能となる。
【特許文献1】特開2001−159427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の技術革新に伴ってさらに静粛性に優れた転がり軸受が必要とされている。また、特許文献1に開示された方法によれば静粛性を長期間維持できる軸受が得られるものの、軸受内部に存在する所定の硬度の粒子について平均粒径や個数を求めることは容易ではなく、静粛性が十分であるか否かをより簡便かつ的確に確認することが可能な構成の軸受が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、長期に渡って高い静粛性が維持され、より簡便な検査手法でかかる静粛性が得られるか否かの確認ができる軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、転がり軸受の騒音は、転がり軸受内部に存在する硬質の粒子が、軌道面や転動体の転動面に繰り返し当たって面荒れが生じ、凹凸が形成されることに起因して生じるだけではなく、加工時に発生し転がり軸受の表面に残留した鉄粉によっても生じることを見出した。更に検討を重ねた結果、表面に存在するこの微細な鉄粒子を、単位表面積(mm2)あたり700ng以下とすることにより、転がり軸受の騒音を著しく低減できることを見出した。
【0007】
本発明は、このような知見に基づくものであり、表面に存在する微細な鉄粒子が、単位表面積(mm2)あたり700ng以下であることを特徴とする転がり軸受を提供する。
【0008】
このような構成によれば、高度な静粛性を長期間維持できるとともに、その製造の際、粒子の硬度を測定することなく、転がり軸受の静粛性を簡便且つ的確に評価することができる。
【0009】
尚、本明細書において「表面」とは、転がり軸受及び転動部材を構成する各要素の表面を示し、例えば、転がり軸受の外輪であれば、その外輪の外径、内径、軌道、面取り部の面の全部を示す。 このような微細な鉄粒子は、原子吸光分析によって精度良く定量でき、例えば、転がり軸受又は転がり軸受を構成する部材を一定条件で洗浄し、その洗浄液をろ過し、ろ紙上の鉄粒子の量を原子吸光分析で定量すればよい。この定量結果を、転がり軸受の表面で除すことにより、単位表面積(mm2)あたりの鉄粒子の量を求めることができる。
【0010】
また、表面に存在する鉄粒子は、単位面積(mm2)あたり250ng以下であることがより好ましい。このような構成によって、鉄粒子が単位面積(mm2)あたり700ng存在する場合と比較して、騒音が発生する確率をおよそ二分の一とすることができる。
【0011】
また、本発明は、本発明に係る転がり軸受を製造する方法であって、転がり軸受を構成する部材に対して超音波洗浄を行う第1の工程と、前記部材を組み立てて転がり軸受を作製し、初期潤滑油及び/又はグリースを充填する第2の工程と、を少なくとも含む方法も提供する。
【0012】
転がり部材を組み立てる前に、各部材が単体の状態で超音波洗浄を行うことにより、部材表面に残留していた鉄粒子を効果的に除去することができる。また、超音波洗浄によれば、被洗浄物の大きさや形状により超音波出力・洗浄液量などを変えることにより、効率よく鉄粒子を除去することができ、単位表面積(mm2)あたり700ng以下、あるいは250ng以下とすることができる。
【0013】
尚、「転がり軸受を構成する部材」とは、例えば、内輪、外輪、転動体等を意味するがこれらに限定されない。また、これらの部材のほか、軸受の組み立ての際に用いられる保持器等を超音波洗浄することによっても、軸受内部の鉄粒子を減少させることができ、かかる超音波洗浄を行う方法も本発明に包含される。
【0014】
また、本発明は、転がり軸受の製造方法を評価する方法であって、目的の転がり軸受を製造する場合と同様の部材に対して同様の条件で超音波洗浄を行い、該部材を組み立てて供試体軸受を作製する工程と、前記供試体軸受の表面に存在する微細な鉄粒子の重量を測定する工程と、を少なくとも含み、前記重量が単位表面積(mm2)あたり700ng以下である場合に肯定的な結論とする方法も提供する。
【0015】
このように、実際に製造しようとする転がり軸受と同様の条件で超音波洗浄を行った部材を組み立てて供試体軸受を作製し、その表面に存在する微細な鉄粒子の重量を測定すれば、当該条件の超音波洗浄によって鉄粒子が十分に除去されるか否かを確認することができる。上述のように、鉄粒子の量は、例えば、超音波洗浄後の供試体軸受を洗浄液で洗浄し、この洗浄液をろ過して、ろ紙上に残った鉄粒子の重量を測定することによって求めることができる。本発明においては、こうして求めた鉄粒子の重量を、供試体軸受の表面積で除し、単位表面積(mm2)あたり700ng以下であれば、製造方法について肯定的な結論、即ち、当該製造方法によればより高い静粛性を十分に維持することができるものとの評価がなされる。
【0016】
本発明の転がり軸受において、軸受に封入する初期潤滑油としては、潤滑性や耐熱性を考慮すると、エステル油を含有することが好ましい。このエステル油は特に限定されないが、二塩基酸と分岐アルコールの反応から得られるジエステル油、芳香族系三塩基酸と分岐アルコールとの反応から得られる芳香族エステル油、多価アルコールと一塩基酸との反応から得られるビンダードエステル油が好適に用いられる。特に、芳香族エステル油、ヒンダードエステル油の中から選択され、単独または混合して用いるのが好ましい。
【0017】
ジエステル油としては、ジオクチルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)、ジオクチルアゼレート(DOZ)、ジブチルセバケート(DBS)、ジオクチルセバケート(DOS)、メチル・アセチル−リシノレート(MAR−N)等が挙げられる。芳香族エステル油としては、トリオクチルトリメリテート(TOTM)、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等が挙げられる。
【0018】
ヒンダードエステル油としては、以下に示す多価アルコールと一塩基酸を適宜反応させて得られるものが挙げられる。多価アルコールに反応させる一塩基酸は単独でもいいし、複数用いてもよい。さらに、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステルとして用いても良い。
【0019】
多価アルコールとしては、トリメチロールプロパン(TMP)、ペンタエリスリトール(PE)、ジペンタエリスリトール(DPE)、ネオペンチルグリコール(NPG)、2−メチル−2−プロピル−1−3−プロパンジオール(MPPD)等が挙げられる。塩基酸としては、主にC4〜C18の一価脂肪酸が用いられる。具体的には、例えば酢酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、エナント酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸、パルミチン酸、牛脂脂肪酸、スレアリン酸、カプロレイン酸、ウンデシレン酸、リンデル酸、ツズ酸、フィゼテリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、アスクレピン酸、バクセン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、サビニン酸、リシノール酸などがある。
【0020】
以上のエステル油は、基油全量の少なくとも20重量%以上、更に音響特性を考慮した場合、ペンタエリスリトールエニステル又はジペンタエリスリトールエステルの単独もしくは混合物が、エステル油中に40重量%以上含まれることが望ましい。エステル油が20重量%未満では、高温・高速耐久性が十分得られない。また、上限は特に制限されない。
【0021】
更に、上記エステル油以外にも基油成分として精製鉱油、合成炭化水素油、エーテル油を配合することができる。精製鉱油はナフテン系でもパラフィン系でも使用できる。合成炭化水素油としては、ポリ−α−オレフィン油、α−オレフィンとエチレンとのコオリゴマー合成油等がある。エーテル油としては、ジフェニル、トリフェニル、テトラフェニルのC12〜C20の(ジ)アルキル鎖が誘導された、フェニルエーテル油がある。特に高温・高速耐久性を考慮すれば、(ジ)アルキルポリフエニルエール油が好ましい。これらの配合割合は、上記エステル油量の規定から80重量%以内である。
【0022】
基油粘度については、40℃動粘度で10mm2/s未満であると油膜の厚さが減少し、特に高温での耐久性に問題がある。100mm2/sを超えると、粘性抵抗により発熱して滑りを生じやすくなるため、焼付き不合格率が高くなる。そのため、基油粘度は、40℃動粘度で10〜100mm2/sの範囲内で選定することが好ましい。より好ましくは10〜80mm2/s、更に好ましくは20〜70mm2/sの範囲内で選定する。
【0023】
また、潤滑油にさび止め剤や油性剤、酸化防止剤等を添加することで、潤滑剤膜の耐久性を向上させることができる。さび止め剤としては、有機系スルホン酸金属塩又はエステル類が好ましい。有機系スルホン酸塩としては、例えばジノニルナフタレンスルホン酸及び重質アルキルベンゼンスルホン酸などが使用され、その金属塩としてカルシウムスルホネート、パリウムスルホネート、ナトリウムスルホネートなどがある。エステル類として、ソルビタン誘導体では多塩基カルボン酸、及び多価アルコールの部分エステルとして、ソルピタンモノラウレート、ソルビタントリラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンドノオレエートなどがある。アルキル・エステル型ではポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどがある。
【0024】
これらさび止め剤は、有機系スルホン酸金属塩とエステル類とを単独もしくは混合物として使用することができる。また、さび止め剤の含有量は、潤滑剤組成物全量に対して2重量%以上であることが好ましい。さび止め剤の含有率が2重量%未満の場合には、有効な防錆効果が得られない。一方、20重量%を超えて添加しても、添加量の増大に応じた防錆効果を期待できないばかりでなく、コストアップの要因にもなる。従って、さび止め剤の含有量は、2〜20重量%が好ましい。
【0025】
油性剤としては、高級脂肪酸としてオレイン酸、ステアリン酸など、高級アルコールとしては、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなど、アミンではステアリルアミン、セチルアミンなど、リン酸エステルではリン酸トリクレジルなどが好ましく、これらを単独もしくは混合して使用することができる。これら油性剤の含有率は、潤滑剤組成物全量に対して0.5重量%以上であることが好ましい。この含有率が0.5重量%未満の場合には、摩耗低減効果を得られない。また、10重量%を超えて添加しても、添加量の増大に応じた効果を期待できないばかりでなく、コストアップの要因にもなる。音響特性、コストなどを考慮した場合、油性剤の含有率は0.5〜10重量%が好ましい。更に、1〜5重量%が好ましい。
【0026】
酸化防止剤としては、含窒素化合物系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤との混含物が好ましい。含窒素化合物系酸化防止剤としては、フェニルαナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアァミン、オレイルアミドアミン、フェチアジンなどがある。フェノール系酸化防止剤としては、p−tert−ブチルーフェニルサリシレート、2、6−ジ−tert−ブチル−p−フェニルフェノール、2、2'−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2、2'−メチレンビス(4−メチル−6−tert−オクチルフェノール)、4、4'−ブチリデンビス−6−tert−ブチルーm−クレゾール)、テトラキス〔メチレン−3−(3'、5'−ジ−tert−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ペンゼン、n−オクタデシル−β−(4'−ヒドロキシ−3'、5'−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオネート、2−n−オクチル−チオ−4、6−ジ(4'−ヒドロキシ−3'、5'−ジ−tet−ブチル)フェノキシ−1、3、5−トリアジン、4、4'−チオビス−〔6−tert−ブチル−m−クレゾール〕、2−(2'−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどのヒンダードフェノールがある。
【0027】
これら酸化防止剤の含有率は、潤滑剤組成物全量に対して0.05重量%以上であることが好ましい。この含有率が0.05重量%未満の場合には、潤滑油の酸化防止効果が低く、十分な潤滑性を維持できない。また、10重量%を超えて添加しても、添加量の増大に応じた潤滑剤の酸化防止効果が期待できないばかりでなく、コストアップの要因にもなる。従って、音響特性やコストなどを考慮した場含、酸化防止剤の含有率は0.05〜10重量%が好ましい。更に、0.1〜10重量%が好ましい。
【0028】
更に、含窒素化合物系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤との混合比は、1:9〜9:1であることが好ましい。この範囲とすることで潤滑剤の酸化防止効果が高くなり、高温・高速回転での音響特性を向上させることができる。尚、含窒素化合物系酸化防止剤またはフェノール系酸化防止剤のどちらか一方のみを添加しただけでは、音響特性の向上効果は得られない。
【0029】
これら以外に、潤滑油に対して、従来より公知の、極圧剤や粘度指数向上剤、摩耗防止剤等を含有させてもよい。このような初期潤滑油を軸受内に封入するとともに、軸受内の適所をグリースで潤滑することが好ましい。グリースは潤滑油(基油)を含有するゲル状物または半固体状物である。軸受の回転に伴って潤滑油が徐々に滲み出ることで、初期潤滑油単独の場合と比較して、回転初期の潤滑不良が改善される。これとともに、潤滑剤膜による潤滑作用との相乗効果によって、潤滑性そのものを向上させ、更に長期に亘る潤滑作用の維持を図ることができる。
【0030】
グリースの増ちょう剤は、母材となるバリウム、リチウム、アルミニウム等の金属石ケン類、ジウレアや親油性ベントナイト等の非石ケン類を、潤滑油に添加して加熱溶解した後、冷却することで得られる。生成物はゲル状であり、保持器の適所に直接設けることができる。グリースの潤滑油の含有量は特に限定されないが、グリースの全重量の10重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることが好ましい。この含有量が10重量%未満では、潤滑油の補給が十分ではなく、音響耐久性の向上に寄与しない。また、潤滑油含有量が多くなるとグリースが軟化する傾向にあり、後述される所望のちょう度が得られないことがある。従って、この含有率の上限値は、ちょう度との兼ね合いで適宜設定される。
【0031】
グリースは、軸受の適用箇所に留まって存在する必要があるために、ある程度の形状保持性を備える必要があり、「JIS K2220」で規定されるちょう度No.3より大きいちょう度を有することが好ましい。「JIS K2220」で規定されるちょう度No.3より小さい場含には、グリースが柔らか過ぎる。そのため、軸受回転中に流動して、その一部が軌道面に付着して転動体の回転を制限してすベりを生じさせ、表面損傷の原因となる。ちょう度の上限は特に規定されない。
【0032】
グリースの潤滑油(基油)の粘度は、潤滑油膜を形成する初期潤滑油の基油と同様に、40℃動粘度で10〜100mm2/sであることが好ましい。10mm2/s未満であると高温での耐久性に問題があり、100mm2/sを超えると粘性抵抗によってすべりを生じやすくなる。グリースは、容積比で軸受空間の15〜50%となる量で、且つ内外輪の軌道面および転動体表面と接触しないように、保持器の適所に充填することが好ましい。ここで、軸受空間とは、外輪と内輪とで区画されるリング状空間の容積から、転動体と保持器(場合によっては更にシール部材)の容積を差し引いた容積である。グリースの量が軸受空間の10%未満では、その絶対量が少なすぎて潤滑油の補給効果が得られない。一方、50%を超えると、グリースが転動体の転がり運動を阻害して、転動体すべりやトルク変動を発生する可能性が高くなる。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、軸受表面に存在する微細な鉄粒子の量を減少させることにより、長期に渡って高い静粛性が維持される転がり軸受とすることができる。また、軸受表面に存在する鉄粒子の量の測定は、所定の硬さを有する微粒子の定量より容易に行うことができるので、十分な静粛性が得られるか否かの確認を、より簡便な検査手法で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0035】
非接触ゴムシール付の、呼び番号6201の単列深溝玉軸受(内径12mm、外径32mm、幅10mm、転動体直径2.6mm)を使用して、転がり軸受の音響試験を行った。この軸受の内輪、外輪、転動体は、SUJ2からなる素材で形成された後、通常の焼入れ、焼き戻し処理が施されたものである。また、保持器としては、ポリアミド製の冠型保持器を用いた。
【0036】
(超音波洗浄)
先ず、組立前に、内輪、外輪、転動体、および保持器に対して、(株)カイジョー製の超音波洗浄機(発振周波数200kHz−出力600W、および発振周波数45kHz−出力600W)を組み合わせて用いて超音波洗浄を行った。ここで、各サンプル軸受毎に洗浄の組み合わせや洗浄時間を変化させることにより、転がり軸受および転がり部材表面に存在する微細な鉄粒子を変化させた。なお、各サンプル軸受毎に、同じ条件で洗浄を行う供試体軸受を複数個用意して、全ての供試体軸受についてこの洗浄を行った。
【0037】
ここで、図1に、洗浄を行う前の軸受表面の写真を示す。撮影は倍率2万倍とした。写真に示されるように、軸受の転送表面には鉄粒子による微細な凸部が生じており、これが騒音の原因となる。微粒子の大きさは1〜2μmであった。
【0038】
(転がり軸受の組み立て、初期潤滑油及びグリースの充填)
次に、各サンプル軸受毎に、洗浄後の内輪、外輪、保持器、および転動体を用いて、供試体軸受を組み立てた。この組立の際に、軸受空間内でのグリースの占有面積が35体積%となるように、グリースを保持器のポケット間に充填した。このグリースとしては、ちょう度が「JIS K2220 No.3」であって、基油がエステル系であり、増ちょう剤としてリチウム12ヒドロキシステアレートを含むグリースを用いた。
【0039】
なお、洗浄後の内輪、外輪、保持器、および転動体の20組については、グリースの充填を行わずに、後述の微粒子分析機による測定用の供試体軸受用として残した。組み立てた軸受に対して初期潤滑油の封入を行った。使用した初期潤滑油は、基油がジオクチルセバケートであり、増ちょう剤としてカルシウムスルホネート4.45重量%を、酸化防止剤としてフェニレンジアミン0.03重量%とヒンダードフェノール0.02重量%との混合物、油性向上剤としてリン酸トリクレジル0.5重量%をそれぞれ含有する潤滑油である。
【0040】
この潤滑油に、組み立てた軸受を浸漬した後、この軸受を引き上げて、エアーを吹き付けることにより、軸受に付着している余分な潤滑油を除去した。さらに、この軸受内の潤滑油膜の厚さが10〜15μmとなるように、この軸受を遠心分離機にかけて軸受内の余分な潤滑油を除去した。潤滑油膜厚の調整は、遠心分離機の遠心力の大きさと回転継続時間を調整することで行った。
【0041】
このように、初期潤滑油による潤滑とグリース潤滑の両方がなされた軸受を用いて、以下の条件で軸受を5000時間回転させた。
〈回転条件〉軸受回転速度:7200rpm(外輪回転)
アキシャル荷重:40N雰囲気温度:80℃
アンデロンメータを用い、各軸受について、試験開始直後の音響レベル(初期アンデロン値)と5000時間回転後の音響レベル(回転試験後のアンデロン値)を測定した。そして、回転試験後のアンデロン値が初期アンデロン値の1.1倍未満であった軸受を、5000時間回転による音響特性の変化がないもの(合格品)とし、それ以外の軸受を不合格品とした。各サンプル軸受毎に、不合格品となった供試体軸受の割合を不合格率(%)として算出した。
【0042】
一方、軸受表面に存在する微細な鉄粒子の量の測定は、各サンプル軸受毎に、上述の20組の供試体軸受を用いて、以下のようにして行った。供試体軸受を、超純水で洗浄された容器内に入れ、この容器内に電子工業材料用イソプロパノールを加え、100W−45kHzの超音波洗浄機で洗浄を行った。次に、この容器内の液体(保持器と転動体に付着していた粒子を含有するイソプロパノール)を、メッシュが1.0μmであるフィルターを用いて吸引濾過した。次に、このフィルターを熱濃塩酸で処理した後、グラファイトアトマイザ法による原子吸光分析で、フィルター上に残った微細な鉄粒子の総量(質量)を測定した。
【0043】
また、この測定を同一製造ロットの異なる20組の供試体軸受を用いて10回行ったところ、軸受間のばらつきは±20%以内であった。
【0044】
測定した質量を、供試体軸受あるいは転がり部材の表面積で割り算することにより、単位表面積(mm2)あたりの粒子の質量を求めた。
【0045】
以上のことから、各サンプル軸受について、軸受表面に存在する微細な鉄粒子の量と、音響試験による軸受の不合格率(%)が得られた。これらのデータを図2に示す。図2のグラフから分かるように、この実施形態の軸受では、軸受表面に存在する微細な鉄粒子の総量が、単位表面積(mm2)あたり700ng以下であると、音響試験による軸受の不合格率が0.2%以下になっている。すなわち、表面に存在する粒子の総量が単位表面積(mm2)あたり700ng以下であれば、長期に渡って高い静粛性が維持されるようになることが分かる。
【0046】
またさらに、軸受表面に存在する微細な鉄粒子の量が単位表面積(mm2)あたり250ng以下であると、音響試験による軸受の不合格率が0.1%以下になっている。すなわち、軸受内部に存在する粒子の総量が250ng以下である場合には、長期に渡ってより高い静粛性が維持されるようになるという点で、軸受表面に存在する微細な鉄粒子の量が単位表面積(mm2)あたり250ng以下であるとより好ましいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】軸受表面に存在する微細な鉄粒子の写真である。
【図2】軸受の単位表面積あたりの鉄粒子の重量と、不合格率(%)の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に存在する微細な鉄粒子が、単位表面積(mm2)あたり700ng以下であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記鉄粒子が、単位表面積(mm2)あたり250ng以下であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項3】
請求項1または2に記載の転がり軸受を製造する方法であって、
転がり軸受を構成する部材に対して超音波洗浄を行う第1の工程と、
前記部材を組み立てて転がり軸受を作製し、初期潤滑油及び/又はグリースを充填する第2の工程と、を少なくとも含む製造方法。
【請求項4】
転がり軸受の製造方法を評価する方法であって、
目的の転がり軸受を製造する場合と同様の部材に対して同様の条件で超音波洗浄を行い、該部材を組み立てて供試体軸受を作製する工程と、
前記供試体軸受の表面に存在する微細な鉄粒子の重量を測定する工程と、を少なくとも含み、
前記重量が単位表面積(mm2)あたり700ng以下である場合に肯定的な結論とする、評価方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−303661(P2007−303661A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135843(P2006−135843)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】