説明

転がり軸受装置

【課題】歪みゲージの個数が少なくても外輪の歪み検出精度を向上できる転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】この転がり軸受装置によれば、第1,第2の歪みゲージ26,27が取り付けられた外輪1の第1の外周面23は、法線L1が玉8の接触角θ1だけ径方向平面P1に対して傾斜していて玉8と交差している。また、第3,第4の歪みゲージ28,30が取り付けられた外輪1の第2の外周面25は、法線L2が玉12の接触角θ2だけ径方向平面P2に対して傾斜していて上記玉12と交差している。第1,第2,第3,第4の歪みゲージ26,27,28,30が取り付けられた外輪1の第1,第2の外周面23,25に対応する第1,第2の軌道面5,6を玉8,12が通過する時の上記外周面23,25の歪み量を、上記法線L1,L2の傾斜角が上記接触角θ1,θ2と異なる場合に比べて大きくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外輪の歪みを検出するための歪みゲージが取り付けられた転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の転がり軸受装置としては、特許文献1(特開2004−142577号公報)に、車輪支持用転がり軸受ユニットが開示されている。この転がり軸受ユニットは、外輪の円筒形の外周面の円周方向等間隔の3〜4箇所に、それぞれ、2つの歪みゲージを互いの中心軸を直交させた状態で取り付けている(特許文献1の図6,図7参照)。
【0003】
ところで、上記従来の転がり軸受装置では、外輪の歪みを検出するのに歪みゲージを多数個必要とする上に所望の検出精度を得ることが困難であった。
【特許文献1】特開2004−142577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、この発明の課題は、歪みゲージの個数が少なくても外輪の歪み検出精度を向上できる転がり軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、この発明の転がり軸受装置は、外輪と、
上記外輪の軌道面を転動すると共に所定の接触角が与えられる転動体とを備え、
上記外輪は、
軸方向と直交する径方向平面に対して上記接触角だけ傾斜している法線を有すると共に上記法線が上記転動体と交差する外周面を備え、
さらに、上記外周面に取り付けた歪みゲージを備える。
【0006】
この発明の転がり軸受装置によれば、上記歪みゲージが取り付けられた外輪の外周面は、法線が転動体の接触角だけ径方向平面に対して傾斜していて上記転動体と交差している。これにより、上記歪みゲージが取り付けられた外周面に対応する外輪の軌道面を転動体が通過する時の上記外周面の歪み量を、上記法線の傾斜角が上記接触角と異なる場合に比べて、大きくできる。よって、上記外輪の上記外周面は、軸受に径方向の曲げモーメントが加わったときに、歪みが発生し易くなる。よって、上記外輪の外周面に取り付けられた歪みゲージによれば、外輪の歪みを検出する精度を向上できる。
【0007】
また、一実施形態の転がり軸受装置は、上記外輪は、軸方向に隣り合う第1および第2の軌道面を有し、
上記第1の軌道面を転動すると共に第1の接触角が与えられる第1の転動体と、
上記第2の軌道面を転動すると共に第2の接触角が与えられる第2の転動体とを備え、
上記外輪は、
軸方向と直交する径方向平面に対して上記第1の接触角だけ傾斜している第1の法線を有すると共に上記第1の法線が上記第1の転動体と交差する第1の外周面と、
軸方向と直交する径方向平面に対して上記第2の接触角だけ傾斜している第2の法線を有すると共に上記第2の法線が上記第2の転動体と交差する第2の外周面とを備え、
さらに、互いに周方向に180°位置ずれしていると共に上記第1の外周面に取付けられている第1、第2の歪みゲージと、
互いに周方向に180°位置ずれしていると共に上記第2の外周面に取付けられている第3、第4の歪みゲージとを備える。
【0008】
この実施形態によれば、上記外輪の第1の外周面に取り付けられた上記第1の歪みゲージとこの第1の歪みゲージに対して軸方向に離隔していると共に周方向に180°位置ずれしている第4の歪みゲージとによって、軸受に径方向に加わった曲げモーメントによる外輪の歪みを高い精度で検出できる。また、上記外輪の第1の外周面に取り付けられた上記第2の歪みゲージとこの第2の歪みゲージに対して軸方向に離隔していると共に周方向に180°位置ずれしている第3の歪みゲージとによって、軸受に径方向に加わった上記曲げモーメントとは逆方向の曲げモーメントによる外輪の歪みを高い精度で検出できる。
【0009】
また、一実施形態の転がり軸受装置では、上記歪みゲージは、上記外輪の周方向の歪みを検出するように上記外輪の外周面に取付けられている。
【0010】
この実施形態の転がり軸受装置によれば、上記外輪の外周面に取付けられている歪みゲージは、上記外輪の周方向の歪みを検出することによって、軸受に加わる曲げモーメントを高精度で測定できる。上記曲げモーメントにより、外輪の軸方向の歪みに比べて、上記外輪の周方向の歪みの方が大きいことが判明した。
【発明の効果】
【0011】
この発明の転がり軸受装置によれば、上記歪みゲージが取り付けられた外輪の外周面は、法線が転動体の接触角だけ径方向平面に対して傾斜していて上記転動体と交差している。これにより、上記外輪の上記外周面は、軸受に径方向の曲げモーメントが加わったときに、歪みが発生し易くなる。よって、上記外輪の上記外周面に取り付けられた歪みゲージによれば、外輪の歪みを高精度で検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0013】
図1に、この発明の転がり軸受装置の実施形態としてのハブユニットを示す。このハブユニットは、外輪1と軸部材2と内輪3を備える。軸部材2は内輪3に嵌合,固定されていると共に軸部材2の軸方向の端部のかしめ部2Aでもってかしめ固定されている。
【0014】
上記外輪1は、アンギュラ型の第1の軌道面5と、この第1の軌道面5から軸方向に離隔したアンギュラ型の第2の軌道面6とを有する。上記第1の軌道面5と内輪3の軌道面7との間に第1の転動体としての玉8が周方向に所定間隔を隔てて複数個配置されている。この複数個の玉8は保持器9によって保持されている。また、上記外輪1の第2の軌道面6と軸部材2の軌道面11との間に第2の転動体としての玉12が周方向に所定間隔を隔てて複数個配置されている。この複数個の玉12は保持器10によって保持されている。
【0015】
また、上記外輪1の軸方向の一端部13の内周面には、磁気センサ15の係合金具15Aが嵌合されて固定されている。なお、15Bは、磁気センサ15のコネクタ部である。一方、内輪3の外周面には、周方向に所定の間隔を隔てて複数の開口16Aを有するパルサリング16が固定されている。外輪1に対して内輪3が回転すると、パルサリング16の回転に応じた周期で磁路が断続され、パルス状の信号がコネクタ部15Bから出力される。
【0016】
また、上記外輪1の軸方向の他端部17には、シール部20が固定され、このシール部20のシールリップは軸部材2の段部18に摺接するようになっている。また、軸部材2は、段部18に隣接するフランジ部21を有し、このフランジ部21に形成された複数の貫通孔にボルト22のセレーション22Aが圧入されている。このフランジ部21には、ボルト22によって、例えば、ブレーキディスク(図示せず)が締結される。
【0017】
図1,図2に示すように、外輪1の第1の軌道面5に対応する第1の外周面23は、第1の転動体としての玉8と交差する法線L1を有し、この法線L1は、外輪1の第1の外周面23と第1,第2の歪みゲージ26,27との密着性を向上させるように、中心軸Jと直交する径方向平面P1に対して玉8の接触角と等しい傾斜角θ1(一例として45°)だけ傾斜している。また、上記外輪1の第2の軌道面6に対応する第2の外周面25は、第2の転動体としての玉12と交差する法線L2を有し、この法線L2は、外輪1の第2の外周面25と第3,第4の歪みゲージ28,30との密着性を向上させるように、中心軸Jと直交する径方向平面P2に対して玉12の接触角と等しい傾斜角θ2(一例として45°)だけ傾斜している。この傾斜した外周面23,25により、ハブユニットの軽量化が可能となる。また、2つの傾斜角θ1とθ2によって形成される2つの外周面23と25の間の平坦面(円筒面)に第1〜第4歪みゲージ26,27,28,30の一端が引っ掛かる様になり、上記歪みゲージ26〜30の玉間方向(軸方向)へのずれを防ぐことができる。
【0018】
また、この実施形態は、図1に示すように、上記第1の外周面23に取付けられている第1の歪みゲージ26と、この第1の歪みゲージ26に対して周方向に180°位置ずれして第1の外周面23に取付けられている第2の歪みゲージ27を有する。また、この実施形態は、上記第2の外周面25に取付けられている第3の歪みゲージ28と、この第3の歪みゲージ28に対して周方向に180°位置ずれしている第4の歪みゲージ30を有する。また、第1の歪みゲージ26と第3の歪みゲージ28とは周方向に同位相である。なお、上記第1〜第4の歪みゲージ26〜30は、それぞれ、外輪1の周方向の歪みを検出するように、第1,第2の外周面23,25に取り付けることが望ましい。また、第1〜第4の歪みゲージ26〜30は、一例として、接着剤による接着でもって第1,第2の外周面23,25に取り付けられる。
【0019】
上記構成のハブユニットによれば、上記第1,第2の歪みゲージ26,27が取り付けられた外輪1の第1の外周面23は、法線L1が玉8の接触角θ1だけ径方向平面P1に対して傾斜していて上記玉8と交差している。また、上記第3,第4の歪みゲージ28,30が取り付けられた外輪1の第2の外周面25は、法線L2が玉12の接触角θ2だけ径方向平面P2に対して傾斜していて上記玉12と交差している。
【0020】
したがって、上記第1,第2,第3,第4の歪みゲージ26,27,28,30が取り付けられた外輪1の第1,第2の外周面23,25に対応する第1,第2の軌道面5,6を玉8,12が通過する時の上記外周面23,25の歪み量を、上記法線L1,L2の傾斜角が上記接触角θ1,θ2と異なる場合に比べて大きくできる。よって、上記外輪1の上記外周面23,25は、ハブユニットに矢印M1で示される径方向の曲げモーメントが加わったときに、歪みが発生し易くなる。よって、上記外輪1の外周面23,25に取り付けられた歪みゲージ26,27,28,30によれば、外輪1の歪みを検出する精度を向上できる。
【0021】
ここで、図4に、歪みゲージ26,27,28,30から得られる信号が表す歪み量の時間変化を示す。図4に示す歪み量の時間変化を表す波形W1の振幅△εが歪み振幅量を表している。なお、上記波形W1の各ピークは、玉が歪みゲージを通過するときに発生している。この歪み振幅量から外輪1に加わる荷重を推定できる。一例として、この歪み振幅量(μm)と旋回荷重(G)との関係を、図5に示す。図5に示すように、上記歪み振幅量から旋回荷重を求めることができる。なお、上記歪みゲージ26,27,28,30から得られる信号が表す歪み量の絶対値から旋回荷重を求める場合には、温度変化等の影響を受けて、精度が低下する。
【0022】
また、この実施形態によれば、上記外輪1の第1の外周面23に取り付けられた上記第1の歪みゲージ26とこの第1の歪みゲージ26に対して軸方向に離隔していると共に周方向に180°位置ずれしている第4の歪みゲージ30とによって、ハブユニットに矢印M1で示される径方向に加わった曲げモーメントによる外輪1の歪みを高い精度で検出できる。また、上記外輪1の第1の外周面23に取り付けられた上記第2の歪みゲージ27とこの第2の歪みゲージ27に対して軸方向に離隔していると共に周方向に180°位置ずれしている第3の歪みゲージ28とによって、ハブユニットに矢印M1で示される径方向とは逆方向の曲げモーメントによる外輪1の歪みを高い精度で検出できる。
【0023】
また、上記実施形態において、上記第1〜第4の歪みゲージ26〜30は、それぞれ、外輪1の周方向の歪みを検出するように、第1,第2の外周面23,25に取り付けた場合には、各歪みゲージ26〜30により、上記外輪1の周方向の歪みを検出することによって、ハブユニットに加わる曲げモーメントを高精度で測定できる。その理由は、上記曲げモーメントにより、外輪1の軸方向の歪みに比べて、上記外輪1の周方向の歪みの方が大きいことが判明したからである。この実施形態によれば、タイヤに加わるモーメント荷重を比較的安価に検出でき、車両の横滑り制御装置等へ上記歪みゲージ26,27,28,30から得られる歪み量を表す信号を入力することにより、高精度の制御を達成できる。
【0024】
尚、上記実施形態では、外輪1が複列の軌道面5,6を有する場合について説明したが、外輪が単列の軌道面を有する場合にも本発明を適用できる。また、上記実施形態では、外輪1の第1の外周面23と第2の外周面25とが軸方向に所定寸法だけ離隔していたが、外輪1に替えて、図3に示す外輪31を備えてもよい。この外輪31は、軸方向に離隔したアンギュラ型の第1,第2の軌道面38,39と、軸方向に隣接した第1の外周面33と第2の外周面35を有する。そして、この第1の外周面33に上記第1,第2の歪みゲージ26,27が取り付けられる。また、第2の外周面35に上記第3,第4の歪みゲージ28,30が取り付けられる。上記第1の外周面33の法線L31は、中心軸Jと直交する径方向平面P31に対して、上記玉8の接触角θ31だけ傾斜している。また、上記第2の外周面35の法線L32は、中心軸Jと直交する径方向平面P32に対して、上記玉12の接触角θ32だけ傾斜している。図3に示す外輪31によれば、上記第1,第2の外周面33,35は、例えば、外輪31の平坦な外周面31Aに形成した断面V字形状の周溝で構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の転がり軸受装置の実施形態であるハブユニットの断面図である。
【図2】上記実施形態の外輪の断面図である。
【図3】上記実施形態の変形例が有する外輪の断面図である。
【図4】上記実施形態において歪みゲージ26,27,28,30から得られる信号が表す歪み量の時間変化を表す波形図である。
【図5】歪み振幅量(μm)と旋回荷重(G)との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1、31 外輪
2 軸部材
3 内輪
5、38 第1の軌道面
6、39 第2の軌道面
7 軌道面
8、12 玉
13 一端部
15 磁気センサ
15A 係合金具
15B コネクタ部
16 パルサリング
16A 開口
17 他端部
18 段部
20 シール部
21 フランジ部
22 ボルト
23、33 第1の外周面
25、35 第2の外周面
26 第1の歪みゲージ
27 第2の歪みゲージ
28 第3の歪みゲージ
30 第4の歪みゲージ
L1,L2 法線
P1,P2 径方向平面
J 中心軸
θ1,θ2 傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、
上記外輪の軌道面を転動すると共に所定の接触角が与えられる転動体とを備え、
上記外輪は、
軸方向と直交する径方向平面に対して上記接触角だけ傾斜している法線を有すると共に上記法線が上記転動体と交差する外周面を有し、
さらに、上記外周面に取り付けた歪みゲージを備えることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受装置において、
上記外輪は、軸方向に隣り合う第1および第2の軌道面を有し、
上記第1の軌道面を転動すると共に第1の接触角が与えられる第1の転動体と、
上記第2の軌道面を転動すると共に第2の接触角が与えられる第2の転動体とを備え、
上記外輪は、
軸方向と直交する径方向平面に対して上記第1の接触角だけ傾斜している第1の法線を有すると共に上記第1の法線が上記第1の転動体と交差する第1の外周面と、
軸方向と直交する径方向平面に対して上記第2の接触角だけ傾斜している第2の法線を有すると共に上記第2の法線が上記第2の転動体と交差する第2の外周面とを備え、
さらに、互いに周方向に180°位置ずれしていると共に上記第1の外周面に取付けられている第1、第2の歪みゲージと、
互いに周方向に180°位置ずれしていると共に上記第2の外周面に取付けられている第3、第4の歪みゲージとを備え、
上記第1の歪みゲージと上記第3の歪みゲージとは、周方向に同位相であることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の転がり軸受装置において、
上記歪みゲージは、
上記外輪の周方向の歪みを検出するように上記外輪の外周面に取付けられていることを特徴とする転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−41704(P2009−41704A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209331(P2007−209331)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】