説明

転がり軸受

【課題】摩耗粉等の異物が軸受外に放出しにくくて、かつ、摩耗粉等の異物を内部で保持する性能に優れる転がり軸受を提供すること。
【解決手段】シールド板の径方向の内方の端面に径方向に隙間をおいて対向する内輪2の外周面の軌道肩部50,51に、動圧軸受で使用されているスパイラル状の第1溝70および第2溝71を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受に関し、特に、クリーン環境(真空環境を含む)で使用される半導体製造装置や液晶製造装置等で使用されれば好適な転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受としては、特開平11−257363号公報(特許文献1)に記載された玉軸受がある。
【0003】
この玉軸受は、外輪と、内輪と、玉と、外輪と内輪との間の開口をシールするシールド板とからなっている。上記シールド板の径方向の一端部は、外輪に固定されている一方、上記シールド板の径方向の他端部は、内輪の外周面に対して径方向に間隔をおいて対向している。上記シールド板の上記他端部は、内輪の外周面に対してラビリンスシールを構成している。
【0004】
上記シールド板の上記他端部、および、上記内輪の外周面における上記他端部に径方向に対向している部分には、撥油剤が塗布されている。この玉軸受は、上記シールド板の上記他端部、および、上記内輪の外周面における上記他端部に径方向に対向している部分に、撥油剤を塗布することにより、玉の転動に起因して発生する玉軸受内の摩耗粉や、潤滑剤等が、玉軸受の外に放出されにくくしている。このようにして、玉軸受の外部の環境が、上記摩耗粉や潤滑剤で汚染されるのを抑制している。
【0005】
しかしながら、撥油剤の耐久性は十分なものではないから、上記従来の玉軸受では、玉軸受を長時間使用すると、撥油剤の撥油性能が劣化して、軸受内の摩耗粉(発塵粒子)等が軸受の外部に放出され易くなるという問題がある。
【特許文献1】特開平11−257363号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明の課題は、摩耗粉等の異物が軸受外に放出しにくくて、かつ、摩耗粉等の異物を内部で保持する性能に優れる転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この発明の転がり軸受は、
第1軌道輪と、
第2軌道輪と、
上記第1軌道輪の軌道面と上記第2軌道輪の軌道面との間に配置された転動体と、
径方向の一端部が、上記第1軌道輪に固定される一方、上記径方向の他端部が、上記第2軌道輪の上記第1軌道輪側の周面に、上記径方向に隙間をおいて対向しているシールド板と
を備え、
上記シールド板の上記他端部の上記径方向の端面と、この端面に上記径方向に対向する上記第2軌道輪の上記周面の部分とのうちの少なくとも一方は、軸方向の外方から内方への空気の流れを生成する気流生成用の溝を有することを特徴としている。
【0008】
本発明によれば、上記シールド板の上記他端部の上記径方向の端面と、この端面に上記径方向に対向する上記第2軌道輪の上記周面の部分とのうちの少なくとも一方は、軸方向の外方から内方への空気の流れを生成する気流生成用の溝を有しているから、その空気の流れによって、軸受内の摩耗粉等の異物が軸受外に流出することが妨げられる。すなわち、摩耗粉等の異物が軸受外に放出することを抑制できて、摩耗粉等の異物を内部で保持する性能を向上させることができる。
【0009】
また、一実施形態では、上記シールド板の上記他端部は、略上記径方向から略上記軸方向に屈曲して略上記軸方向に延在している。
【0010】
上記実施形態によれば、上記シールド板の上記他端部が、略上記径方向から略上記軸方向に屈曲して略上記軸方向に延在しているから、上記シールド板の上記他端部と、この他端部に径方向に対向する第2軌道輪の周面の部分からなる気流生成部の軸方向の寸法を大きくすることができる。したがって、軸方向の外方から内方への空気の流れを大きくすることができる。
【0011】
また、一実施形態では、上記シールド板の上記軸方向の上記転動体側の端面は、異物を捕捉する異物捕捉部を有している。
【0012】
上記実施形態によれば、上記シールド板の上記軸方向の上記転動体側の端面が、異物を捕捉する異物捕捉部を有しているから、上記シールド板の上記端面で、摩耗粉等の異物を捕捉できる。したがって、摩耗粉等の異物が軸受外に放出することを更に抑制できて、摩耗粉等の異物を内部で保持する性能を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の転がり軸受によれば、摩耗粉等の異物が軸受外に放出することを抑制できて、摩耗粉等の異物を内部で保持する性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の転がり軸受の第1実施形態である玉軸受の軸方向の断面図である。
【0016】
この玉軸受は、クリーンな環境で駆動することが必要な半導体製造装置の駆動軸(図示せず)を回転自在に支持している。この玉軸受は、第1軌道輪としての外輪1と、第2軌道輪としての内輪2と、転動体の一例としての複数の玉3と、ステンレス製の第1シールド板5と、ステンレス製の第2シールド板6とを備える。
【0017】
上記外輪1は、その内周面に、軌道面としての軌道溝11と、環状の第1シールド板取付溝12と、環状の第2シールド板取付溝13とを有する。上記軌道溝11は、上記内周面の軸方向の中央部に位置し、第1シールド板取付溝12は、上記内周面の軸方向の一端部に位置し、第2シールド板取付溝13は、上記内周面の軸方向の他端部に位置している。
【0018】
上記内輪2は、その外周面の中央部に軌道面としての軌道溝21を有している。上記複数の玉3は、外輪1の軌道溝11と、内輪2の軌道溝21との間に、保持器8によって保持された状態で、周方向に互いに間隔をおいて配置されている。
【0019】
上記第1シールド板5は、外輪1と内輪2との間の軸方向の一方の開口を密封している。上記第1シールド板5の径方向の外方の一端部30は、第1シールド板取付溝12の形状に略沿った形状を有している。上記第1シールド板5の径方向の外方の一端部30は、第1シールド板取付溝12に嵌入されて固定されている。
【0020】
一方、上記第1シールド板5の径方向の内方の他端部31は、内輪2の外周面の軸方向の一端部に径方向に間隔をおいて対向している。この径方向の間隔は、1mm以下に設定されている。上記第1シールド板5の上記他端部31と、内輪2の外周面の一端部とは、ラビリンスシールを構成している。上記第1シールド板5の他端部31は、略上記径方向から略軸方向に屈曲して、略軸方向に延在している。
【0021】
上記第2シールド板6は、外輪1と内輪2との間の軸方向の他方の開口を密封している。上記第2シールド板6の径方向の外方の一端部40は、第2シールド板取付溝13の形状に略沿った形状を有している。上記第2シールド板6の径方向の外方の一端部40は、第2シールド板取付溝13に嵌入されて固定されている。
【0022】
一方、上記第2シールド板6の径方向の内方の他端部41は、内輪2の外周面の軸方向の他端部に径方向に間隔をおいて対向している。この径方向の間隔は、1mm以下に設定されている。上記第2シールド板6の上記他端部41と、内輪2の外周面の他端部とは、ラビリンスシールを構成している。上記第2シールド板6の他端部41は、略上記径方向から略軸方向に屈曲して、略軸方向に延在している。
【0023】
軸方向において、上記内輪2の外周面の軌道溝21の一方の側に位置する第1軌道肩部50、および、軸方向において内輪2の外周面の軌道溝21の他方の側に位置する第2軌道肩部51には、内輪2が回転した際に、軸方向の外方から軸方向の内方への気流の長さを生成する、気流生成用の溝(図1においては、図示せず)が形成されている。
【0024】
図2は、上記第1実施形態の玉軸受の斜視図であり、上記溝の形状を説明するための図である。
【0025】
尚、図2においては、上記溝の形状を示すため、外輪の周方向の一部を切除し、また、第1および第2シールド板の図示を省略している。
【0026】
図2に示すように、気流生成用の溝は、第1軌道肩部50に形成された第1溝70と、第2軌道肩部51に形成された第2溝71からなっている。上記第1溝70および第2溝71の夫々は、動圧軸受の動圧発生溝として使用されるスパイラル溝の一部からなっている。上記スパイラル状の第1溝70は、第1軌道肩部50に内輪2の周方向に等間隔に複数形成され、スパイラル状の第2溝71は、第2軌道肩部51に内輪2の周方向に等間隔に複数形成されている。
【0027】
上述のように、図示しない第1シールド板の他端部の径方向の端面と、この他端部の径方向の端面に径方向に対向する第1軌道肩部50の部分との径方向の隙間は、この溝を動圧軸受に使用した場合、動圧が発生する寸法以下、すなわち、1mm以下になっている。上記内輪が図2に矢印aで示す方向に回転すると、図示しない第1シールド板の他端部の径方向の端面と、この他端部の径方向の端面に径方向に対向する第1軌道肩部50の部分との間で、軸方向の外方から内方に向かう気流の流れが生成するようになっている。
【0028】
上記第1軌道肩部50に形成されているスパイラル状の溝70は、内輪2が矢印aで示す方向に回転したとき、軸方向の外方から内方に向かう気流の流れが生成する向きに形成されているからである。
【0029】
上記第1シールド板の他端部の径方向の端面と、この他端部の径方向の端面に径方向に対向する第1軌道肩部50の部分とは、気流生成部を構成している。
【0030】
また、同様に、図示しない第2シールド板の他端部の径方向の端面と、この他端部の径方向の端面に径方向に対向する第2軌道肩部51の部分との径方向の隙間が、1mm以下であるから、内輪2が図2に矢印aで示す方向に回転すると、図示しない第2シールド板の他端部の径方向の端面と、この他端部の径方向の端面に径方向に対向する第2軌道肩部51の部分との間で、軸方向の外方から内方に向かう気流の流れが生成する。
【0031】
上記第2軌道肩部51に形成されているスパイラル状の溝71は、内輪2が矢印aで示す方向に回転したとき、軸方向の外方から内方に向かう気流の流れが生成する向きに形成されているからである。
【0032】
上記第2シールド板の他端部の径方向の端面と、この他端部の径方向の端面に径方向に対向する第2軌道肩部51の部分とは、気流生成部を構成している。
【0033】
尚、詳述しないが、第1実施形態の転がり軸受では、図2に示すように、保持器8として、所謂波形保持器が採用されている。
【0034】
上記第1実施形態の玉軸受によれば、第1および第2シールド板5,6の径方向の内方の端面に径方向に対向する内輪2の外周面の部分50,51に、軸方向の外方から内方への空気の流れを生成する、気流生成用のスパイラル状の溝70,71を有しているから、玉軸受の使用時において、気流発生用のスパイラル状の溝70,71の近傍で発生する空気の流れによって、玉軸受内の摩耗粉等の異物が軸受外に流出することが妨げられる。すなわち、摩耗粉等の異物が軸受外に放出することを抑制できて、摩耗粉等の異物を内部で保持する性能を向上させることができる。
【0035】
また、上記第1実施形態の玉軸受によれば、第1および第2シールド板5,6の径方向の内方の上記他端部31,41が、略径方向から略軸方向に屈曲して略軸方向に延在しているから、第1および第2シールド板5,6の径方向の内方の端面の軸方向の寸法を大きくすることができ、気流生成部の軸方向の寸法を大きくすることができる。したがって、軸方向の外方から内方への空気の流れを大きくすることができる。
【0036】
尚、上記第1実施形態の玉軸受では、内輪2の軌道肩部50,51の全面に、スパイラル状の溝70,71を形成したが、この発明では、気流生成用の溝は、シールド板の第2軌道輪側の端部の径方向の端面に、径方向に重なる(径方向に対向する)第2軌道輪の周面部分に形成されていれば良く、気流生成用の溝は、第2軌道輪の周面の軌道面以外の全面に形成されなくても良い。
【0037】
また、上記第1実施形態の玉軸受では、気流発生用の溝として、スパイラル状の溝70,71を採用したが、この発明では、気流発生用の溝として、動圧軸受で使用されるへリングボーン型の溝の一部からなる溝を採用しても良い。この発明では、気流発生用の溝は、動圧軸受で使用される動圧発生用の溝の一部等、軸方向の空気の流れを発生させることができる溝であれば、如何なる形状の溝であっても良い。
【0038】
また、上記第1実施形態の玉軸受では、内輪2の外周面に気流発生用の溝70,71を形成したが、この発明では、第2軌道輪の周面に径方向に対向する、シールド板の径方向の固定側とは反対側の端部の径方向の端面に、気流発生用の溝を形成しても良い。また、この発明では、シールド板の第2軌道輪側の端部の径方向の端面と、この端面に径方向に対向する第2軌道輪の周面の部分との両方に、気流発生用の溝を形成しても良い。
【0039】
また、上記第1実施形態の玉軸受では、外輪1にシール板5,6を固定する一方、シールド板5,6と、内輪2とが、ラビリンスシールを形成していたが、この発明では、内輪にシールド板を固定する一方、シールド板と、外輪とが、ラビリンスシールを形成していても良い。
【0040】
また、上記第1実施形態では、転動体が玉2であったが、転動体は、ころ(円筒ころ、円錐ころ、球面ころ)であっても良い。
【0041】
図3は、本発明の転がり軸受の第2実施形態である玉軸受の軸方向の断面図である。
【0042】
第2実施形態の玉軸受では、第1実施形態の玉軸受の構成部と同一構成部には同一参照番号を付して説明を省略することにする。また、第2実施形態の玉軸受では、第1実施形態の玉軸受と共通の作用効果および変形例については説明を省略することにし、第1実施形態の玉軸受と異なる構成、作用効果および変形例についてのみ説明を行うことにする。
【0043】
図3に示すように、第2実施形態の玉軸受では、第1シールド板105の軸方向の内方の端面120に、軸方向に延在する環状溝121を径方向に間隔をおいて複数形成すると共に、第2シールド板106の軸方向の内方の端面130に、軸方向に延在する環状溝131を径方向に間隔をおいて複数形成した点のみが、第1実施形態の玉軸受と異なる。第2実施形態の玉軸受の他の構成、すなわち、内輪2が気流生成用の溝を有する点等は、第1実施形態の玉軸受と全く同一である。
【0044】
上記環状溝121および131は、玉軸受内の摩耗粉等の異物を収容できるようになっている。上記環状溝121および131は、異物を捕捉する異物捕捉部を構成している。
【0045】
上記第2実施形態の玉軸受によれば、第1および第2シールド板105,106の軸方向の玉3側(軸方向の内方)の端面が、異物を捕捉できる環状溝121,131を有しているから、第1および第2シールド板105,106の上記端面で、摩耗粉等の異物を捕捉できる。したがって、摩耗粉等の異物が玉軸受外に放出することを更に抑制できて、摩耗粉等の異物を玉軸受内部で保持する性能を更に向上させることができる。
【0046】
尚、上記第2実施形態の玉軸受では、異物捕捉部が、軸方向に延在する環状溝121,131であったが、この発明では、異物捕捉部は、例えば、シールド板の軸方向の転動体側の端面に貼られるか、または、塗布された異物吸着剤であっても良い。ここで、異物吸着剤としては、例えば、シールド板の軸方向の転動体側の端面に貼られた両面テープや、または、シールド板の軸方向の転動体側の端面に塗布された、粘性が高い物質(例えば、粘性が高いグリース等)が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の転がり軸受の第1実施形態である玉軸受の軸方向の断面図である。
【図2】上記第1実施形態の玉軸受の斜視図であり、気流生成用の溝の形状を説明するための図である。
【図3】本発明の転がり軸受の第2実施形態である玉軸受の軸方向の断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 外輪
2 内輪
3 玉
5,105 第1シールド板
6,106 第2シールド板
30 第1シールド板の一端部
31 第1シールド板の他端部
40 第2シールド板の一端部
41 第2シールド板の他端部
50 内輪の第1軌道肩部
51 内輪の第2軌道肩部
70 第1溝
71 第2溝
120 第1シールド板の軸方向の内方の端面
121,131 環状溝
130 第2シールド板の軸方向の内方の端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軌道輪と、
第2軌道輪と、
上記第1軌道輪の軌道面と上記第2軌道輪の軌道面との間に配置された転動体と、
径方向の一端部が、上記第1軌道輪に固定される一方、上記径方向の他端部が、上記第2軌道輪の上記第1軌道輪側の周面に、上記径方向に隙間をおいて対向しているシールド板と
を備え、
上記シールド板の上記他端部の上記径方向の端面と、この端面に上記径方向に対向する上記第2軌道輪の上記周面の部分とのうちの少なくとも一方は、軸方向の外方から内方への空気の流れを生成する気流生成用の溝を有することを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
請求項1に記載に記載の転がり軸受において、
上記シールド板の上記他端部は、略上記径方向から略上記軸方向に屈曲して略上記軸方向に延在していることを特徴とする転がり軸受。
【請求項3】
請求項1または2に記載の転がり軸受において、
上記シールド板の上記軸方向の上記転動体側の端面は、異物を捕捉する異物捕捉部を有していることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−92127(P2009−92127A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262957(P2007−262957)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】