説明

転写用マスクの製造方法および半導体デバイスの製造方法

【課題】検査装置の透過光量分布のデータを用いて転写用マスクの内部欠陥等を検出する。
【解決手段】Die−to−Die比較検査法を適用し、薄膜の第1領域に対して検査光を照射して第1の透過光量分布を取得し、第2領域に対しても、検査光を照射して第2の透過光量分布を取得し、第1の透過光量分布と第2の透過光量分布との比較から算出される差分光量値が第1しきい値以上であり、かつ第2しきい値未満である座標をプロットした所定範囲差分分布を生成し、所定範囲差分分布でプロットの密度が高い領域が検出されない転写用マスクを選定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性基板上に転写パターンが形成された薄膜を備える転写用マスクの製造方法、およびこの転写用マスクを用いる半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や液晶ディスプレイを製造する際の半導体基板(ウェーハ)等の上に基板パターンを形成するには転写用マスク(フォトマスク)が用いられる。光源からの露光光を転写用マスクのマスクパターンを透過させて対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)に転写してフォトリソグラフィ技術でエッチングすることで基板パターンが形成される。転写用マスクは、例えば、透明な石英ガラス等の透光性基板上にクロム等の遮光性又は半透過性(ハーフトーン)の薄膜パターンが形成されたマスクブランクにマスクパターンを形成したものである。
【0003】
転写用マスクは、一般的に、その製造の際に欠陥が発生する。欠陥とは、例えば、パターンにおける異常突起、異常な欠け、ピンホール、スクラッチ、半透明欠陥部、サイズ欠陥、位置ずれ、ロストパターン、隣接パターン間のギャップ異常、ブリッジ、異常ドット、異物付着等の発生である。上記のうち、異常突起、異常ドット、ブリッジ等の余分な箇所は黒欠陥と呼称され、例えばレーザーで除去される。また、異常な欠けやロストパターン等の不足している箇所は白欠陥と呼称され、例えばレーザーCVD(Chemical Vapor Deposition:化学的気相成長)法を用いて欠陥部に遮光性の高い材料の堆積膜を形成することにより欠陥が修正される。また、ハーフトーンマスクの中間調の部分に対して白欠陥を修正する場合、修正加工時に、堆積膜を形成する部分の透過率をハーフトーンの所定値に制御する。
【0004】
上記欠陥は、転写用マスクの検査装置により検査され、その検査装置は、例えば、転写用マスクの一方側に配置された光源から光を照射し、転写用マスクの他方側に配置された画像センサ等の検出部で転写用マスク上に配置されたパターンの各透過光の強度を検出して透過光量分布のデータ(位置座標と透過光量値のデータの集合データ)に変換する。
【0005】
また、一般的に、転写用マスクのマスクパターン上に欠陥が有るか否かを検査するには、Die−to−Die比較検査法とDie−to−Database比較検査法の何れかが用いられる。
【0006】
Die−to−Die比較検査法は、転写用マスク上の異なる位置に配置された同一形状の2個の実パターンの透過光量の各検出結果を比較に用いる。例えば、上記検査装置で転写用マスク上の異なる位置に配置された同一形状の2個の実パターンの各透過光を検出して透過光量分布のデータに変換する。この両者の透過光量分布のデータを制御回路等で比較して、不一致部分の座標と、しきい値以上の差分を記録し、マスクパターン上の欠陥の位置と大きさを検出する。
【0007】
それに対してDie−to−Database比較検査法は、データベースに蓄積されている設計パターンと、転写用マスク上に形成された実パターンの透過光量の検出結果を比較に用いる。例えば、データベースに蓄積されている設計パターンのデータから、転写用マスク上に欠陥のない実パターンが形成された場合を想定し、比較用マスクパターンの透過光量分布のデータをシミュレーションによって生成する。この比較用マスクパターンの透過光量分布のデータと、検出部で転写用マスクの透過光から検出された実パターンの透過光量分布のデータとを制御回路等で比較して、不一致部分の座標と、しきい値以上の差分を記録し、マスクパターン上の欠陥の位置と大きさを検出する。
【0008】
また、透光性基板上にハーフトーンパターン部と遮光パターン部が設けられ、それらのパターン以外の領域はガラス基板がほぼそのまま露出する透光パターン部となるマスクパターンの場合には、パターン上に白欠陥と黒欠陥が存在する場合がある。その場合で、上記した検査方法によりマスクパターンを検査をする際に、遮光パターン部上の白欠陥と黒欠陥については、欠陥データ位置における差分データの基準値からの振幅が大きい(一方に対する他方の透過光量の低下幅あるいは上昇幅が大きい)ことから、しきい値を差分データの基準値から離れたところに設定でき、検出が容易である。
【0009】
ところが、ハーフトーンパターン部上の白欠陥と黒欠陥については、欠陥データ位置における差分データの基準値からの振幅が小さくなることから、しきい値は差分データの基準値の近くに設定する必要がある。ところが、欠陥ではないデータも、ノイズを有するため、ノイズ等のレベルが上昇した場合、欠陥でない場所を擬似欠陥として誤検出する等で、しきい値をあまり差分データの基準値の近くに設定できなかった。そのようなハーフトーンパターン部でも欠陥を正確に検出できるようにするために、ハーフトーンパターン部の差分データのみを、遮光パターン部の差分データと同等レベルに増幅することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
一方、転写用マスクの基板として用いられている透光性基板(ガラス基板)の内部にも、転写用マスクとして使用される際に露光光に影響を与えてしまうような内部欠陥(光学的に不均一な部分)が存在する場合があることが知られている。近年では、フォトリソグラフィに使用される露光光の短波長化が進み、ArFエキシマレーザーが適用される場合が増加してきている。この状況の中で、KrFエキシマレーザー等の波長が200nmよりも長い光に対しては、局所的な透過率の低下が発生しないが、ArFエキシマレーザー等のような波長が200nm以下の光に対しては、局所的な透過率の低下を引き起こすタイプの内部欠陥が透光性基板の内部に存在する場合があることが判明した。これらのような内部欠陥が存在する透光性基板を排除するための内部欠陥検査は、薄膜を形成する前の透光性基板に対して行う場合が多い。特許文献2では、透光性基板に対して、波長200nm以下の検査光を照射して、検査光の波長よりも長い光を感知することで、内部欠陥の有無を検査している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−240517号
【特許文献2】特開2007−86050号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
転写用マスクができるまでには、透光性基板に薄膜を形成してマスクブランクを製造するための複数の工程と、そのマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成して転写用マスクを作製するための複数の工程など、数多くの工程を経る必要がある。薄膜を形成する前の透光性基板に対して内部欠陥の有無を検査する欠陥検査を行った後、これらの複数の工程を経る中で内部欠陥が新たに発生する可能性が全くないとは言い切れない。また、透光性基板に対する内部欠陥の検査で、本来内部欠陥が存在する透光性基板を誤って合格品と判定し、マスクブランクの製造工程に投入してしまった場合、従来のマスクブランク製造の工程や転写用マスク作製の工程では、内部欠陥を検出することが困難である。
【0013】
前記の通り、マスクブランクの薄膜に転写パターンを形成した後には、マスクパターンの検査を行う。近年、その転写用マスクの検査装置の検査光に、波長200nm以下の光が用いられ始めている。転写用マスクの検査装置は、薄膜にマスクパターンが設計通りに形成されていることを検査するものであるため、転写用マスクの一方の主表面から、検査光を照射し、他方の主表面から透過した透過光を受光して透過光量分布を得る必要がある。その透過光量分布は、通常、マスクパターンのない透光部では透過率が高く、マスクパターンのある遮光部については透過率が低い分布になる。通常、透光性基板に内部欠陥が存在した場合に生じる透過率の低下は、遮光部での透過率低下よりも小さいため、判別できるように一見思える。しかし、透光部の幅によって検査光の通りやすさが変わるため、透過部同士でも透過率が変わる。このため、単純に透過率分布を見ただけでは、内部欠陥を判定することは難しい。
【0014】
転写用マスクの検査装置は、Die−to−Die比較検査法やDie−to−Database比較検査法などのような、2つの透過率分布を比較することでマスクパターンの欠陥有無を検査することを利用して、透光性基板の内部欠陥が検出できる可能性がある。Die−to−Die比較検査法は、転写用マスク上の同一形状パターン(黒欠陥や白欠陥の有無を除いて)が形成された2つのマスクパターンのそれぞれで透過率分布を取得し、2つの透過率分布を比較する検査方法である。両者のマスクパターンは同一であるため、2つの透過率分布間で透光部の幅の違いによる透過率低下の相違は理論上生じない。このため、一方のマスクパターンの直下の透光性基板内部に内部欠陥がある場合、発見できるように一見思える。
【0015】
しかし、2つのマスクパターンを測定するときに、検査光の光源、照明光学系、受光光学系を全く同一条件にすることは困難であり、転写用マスクのマスクパターンの表面反射率の相違や、透光部の基板のパターン形成時に生じる表面粗れの状態に起因する透過率の相違を全く同一にすることも困難である。このため、2つの透過率分布の間で、透過率の高い部分と透過率の低い部分に相違が生じる場合が多い。2つの透過率分布をそのまま比較すると、2つのマスクパターンに黒欠陥や白欠陥がない場合でも、欠陥があると誤認する確率が高くなってしまう。このため、通常、転写用マスクの検査装置には、透過光量分布を全体補正する機能を有している。Die−to−Die比較検査法の場合は、どちらか一方のマスクパターンの透過率分布を参照し、もう一方のマスクパターンの透過率分布を補正する場合が多い。また、Die−to−Database比較検査法の場合は、実際のマスクパターンの透過率分布を参照し、シミュレーションで算出した透過率分布を補正する。
【0016】
しかし、マスクパターンの透過率分布に対してこのような補正を行う機能は、透光性基板の内部欠陥を検出しにくくする方向に働いてしまう。転写用マスクの薄膜に形成される転写パターンの幅は、百nmオーダーであるのに対し、透光性基板の内部欠陥は、数十μm〜数百μmオーダーと非常に大きく、透過光量が低下する領域が広くなるため、検査装置は欠陥とは認識せず透過光量分布を補正してしまうのである。このため、転写用マスクの検査装置を用いて、透光性基板の内部欠陥を検出することは困難であった。
【0017】
一方、転写パターンを有する薄膜が形成されている透光性基板の主表面とは反対側(裏面側)の主表面に異物が付着している場合においても、異物の大きさが数十μm〜数百μmオーダーと非常に大きいと、内部欠陥の場合と同様に広い領域で透過光量が低下するため、同様に異物欠陥を検出することが難しい。他方、転写用マスクには、転写パターンを有する薄膜の上に、異物の付着等から保護するためのペリクルが装着されるのが通常である。このペリクルが装着された状態の転写マスクに対して検査装置で検査を行う場合においても、ペリクルのペリクル膜に異物が付着していた場合、異物の大きさが数十μm〜数百μmオーダーと非常に大きいと、内部欠陥の場合と同様に広い領域で透過光量が低下するため、同様に異物欠陥を検出することが難しい。
【0018】
従って、本発明の目的は、上記の問題を解決して、透過光量分布の全体補正機能を有する検査装置からマスクパターンの検査時に出力される透過光量分布のデータを用いて、従来からのマスクパターンの欠陥に加えて転写用マスクの内部欠陥や、透光性基板の薄膜が形成されている主表面とは反対側の主表面に付着する異物欠陥や、ペリクル膜に付着する異物欠陥を検出し、欠陥の無い転写用マスクを製造する製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、この欠陥の無い転写用マスクを用いて回路パターンに欠陥のない半導体デバイスを製造する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
(1)上記問題を解決するため、本発明の一態様の転写用マスクの製造方法は、透光性基板上に転写パターンが形成された薄膜を備える転写用マスクの製造方法であって、薄膜の転写パターンは、第1領域と第2領域のそれぞれに同一の設計マスクパターンを基に形成した2つのパターンを含んでおり、薄膜の第1領域に対し、検査光を照射して第1の透過光量分布を取得する工程と、薄膜の第2領域に対し、検査光を照射して第2の透過光量分布を取得する工程と、第1の透過光量分布と第2の透過光量分布との比較から算出される差分光量値が第1しきい値以上であり、かつ第2しきい値未満である座標をプロットした所定範囲差分分布を生成する工程と、所定範囲差分分布で、プロットの密度が高い領域が検出されない転写用マスクを選定する工程とを有する。
【0020】
本製造方法では、Die−to−Die比較検査法により転写用マスクを検査する検査装置で、第1領域と第2領域の同一設計のマスクパターンから、第1の透過光量分布と第2の透過光量分布のデータを取得し、各透過光量分布のデータを比較して差分光量値を求める。ここで透過光量分布のデータは、上記したように位置座標と透過光量値のデータの集合データである。そして、その差分光量値のうち、第1しきい値以上で、且つ、第2しきい値未満であるものの座標をプロットして所定範囲差分分布を生成する。この所定範囲差分分布のプロットは、例えば、第1しきい値で除外されるノイズよりも差分光量値が大きく、且つ、例えば、第2しきい値で除外される透光パターン部中に発生する黒欠陥に代表されるような従来からの欠陥よりも差分光量値が小さいプロットである。さらに、その差分光量値のプロットの密度が高い領域を内部欠陥領域と判定して、その内部欠陥領域を含まない転写用マスクを選定する。これにより本製造方法では、検査装置からマスクパターンの検査時に出力される透過光量分布のデータを用いて、従来からのマスクパターンの欠陥に加えて転写用マスクの内部欠陥や、透光性基板の薄膜が形成されている主表面とは反対側の主表面に付着する異物欠陥やペリクル膜に付着する異物欠陥(以下、この内部欠陥とこれらのケースに起因する異物欠陥を総称して内部欠陥等という。)を検出し、欠陥の無い転写用マスクを供給することができる。
【0021】
なお、転写用マスクの検査装置からマスクパターンの検査時に出力される透過光量分布のデータには、一般的にランダムに発生するノイズが含まれている。通常領域の透過光量分布のデータに含まれるランダムに発生したノイズは、上記したように単位面積あたりの個数(発生密度)が、どの撮像領域に基づくものもほぼ同様な密度になるように補正される。しかし、上記したDie−to−Die比較検査法による透過光量分布の差分データで、差分をとる一方側の透過光量分布データに内部欠陥等が存在する場合、その内部欠陥等が存在する領域におけるノイズ分布では、上記した第1しきい値と第2しきい値間のプロットが集中して偏在又は極在することが本発明者により観測されている。
【0022】
(2)上記問題を解決するため、本発明の上記と異なる一態様の転写用マスクの製造方法は、透光性基板上に転写パターンが形成された薄膜を備える転写用マスクの製造方法であって、転写パターンは、所定領域に設計マスクパターンを基に形成したパターンを含んでおり、薄膜の所定領域に対し、検査光を照射して第1の透過光量分布を取得する工程と、シミュレーションによって、設計マスクパターンを基に転写パターンが形成された薄膜に対し、検査光を照射したときの第2の透過光量分布を算出する工程と、第1の透過光量分布と第2の透過光量分布との比較から算出される差分光量値が第1しきい値以上であり、かつ第2しきい値未満である座標をプロットした所定範囲差分分布を生成する工程と、所定範囲差分分布で、プロットの密度が高い領域が検出されない転写用マスクを選定する工程を有する。
【0023】
本製造方法では、Die−to−Database比較検査法により転写用マスクを検査する検査装置で、所定領域のマスクパターンから、第1の透過光量分布のデータを取得し、その所定領域のマスクパターンを形成するための設計パターンのデータに基づき、比較用マスクパターンの透過光量分布のデータを生成し、各透過光量分布のデータを比較して差分光量値を求める。そして、その差分光量値のうち、第1しきい値以上で、且つ、第2しきい値未満であるものの座標をプロットして所定範囲差分分布を生成する。この所定範囲差分分布のプロットは、例えば、所定しきい値で除外されるノイズよりも差分光量値が大きく、且つ、例えば、第2しきい値で除外される透光パターン部中の従来からの欠陥よりも差分光量値が小さいプロットである。さらに、その差分光量値のプロットの密度が高い領域を内部欠陥等が存在する領域と判定して、その内部欠陥領域を含まない転写用マスクを選定する。これにより本製造方法では、検査装置からマスクパターンの検査時に出力される透過光量分布のデータを用いて、従来からのマスクパターンの欠陥に加えて転写用マスクの内部欠陥等を検出し、欠陥の無い転写用マスクを供給することができる。
【0024】
(3)本発明に係る上記と異なる態様の転写用マスクの製造方法では、第1しきい値は、透光性基板の内部欠陥の有無、前記透光性基板の前記薄膜が形成されている主表面とは反対側の主表面に付着する異物欠陥の有無、または前記薄膜上に装着されたペリクルのペリクル膜に付着する異物欠陥の有無を判定するために用いられる差分光量値の下限値である。
【0025】
本態様では、第1しきい値を、例えば、ノイズの差分光量値の最大値のレベルに規定して、それ以上を内部欠陥等の差分光量値のレベルとして区別する。これにより、転写用マスクにおける、内部欠陥等が無くても発生するノイズのみの差分光量値が発生している領域の座標と、内部欠陥等の差分光量値が発生している領域の座標を区別することができる。
【0026】
(4)本発明に係る上記と異なる態様の転写用マスクの製造方法では、第2しきい値は、転写パターンに起因する欠陥の有無を判定するために用いられる差分光量値の下限値である。
【0027】
本態様では、第2しきい値を、例えば、透光パターン部中の従来からの欠陥の差分光量値の最小値のレベルに規定して、それ未満を内部欠陥等の差分光量値のレベルとして区別する。これにより、転写用マスクにおける、透光パターン部中の従来からの欠陥の差分光量値が発生している領域の座標と、内部欠陥等の差分光量値が発生している領域の座標を区別することができる。
【0028】
(5)本発明に係る上記と異なる態様の転写用マスクの製造方法では、転写用マスクを選定する工程は、所定範囲差分分布を複数の小領域に分割し、各小領域内でプロットの密度を算出し、小領域ごとのプロットの密度を比較して密度の高い領域を検出する。
【0029】
本態様では、差分光量値が第1しきい値と第2しきい値の間の座標をプロットした所定範囲差分の領域を、例えば、さらに所定範囲差分分布の領域よりも小さな面積で同一面積の複数の小領域に分割する。そして、各小領域内における差分分布のプロット数から、小領域毎にプロットの密度を算出する。これにより、小領域81毎にプロット密度の高い小領域を内部欠陥等が存在する領域として判定し、内部欠陥等が存在すると判定された小領域を座標を用いて集計することで内部欠陥等が存在する領域を検出する事ができる。
【0030】
(6)本発明に係る上記と異なる態様の転写用マスクの製造方法では、転写用マスクを選定する工程は、プロットの密度が他の小領域と比較して2倍以上の密度の小領域があった場合に密度の高い領域があると判定する。
【0031】
本態様では、小領域毎に算出された差分分布のプロットの密度が高い領域を判定する場合に、一つの小領域のプロットの密度を他の小領域のプロットの密度と比較する。そして、いずれか一方の密度が他方の密度に対して2倍以上の値であった時に、その2倍以上の密度を有する小領域を、プロットの密度が高い領域と判定する。これにより、小領域のプロットの密度が比較的小さい値であっても、2倍の値との比較では有意な差となる可能性が高まるので、容易にプロットの密度が高い領域を判定することができ、内部欠陥等が存在する領域を検出する事ができる。
【0032】
本発明に係る上記と異なる態様の転写用マスクの製造方法では、転写用マスクを選定する工程は、所定範囲差分分布を画像表示手段に表示し、視認によりプロットの密度が高い領域を検出する。
【0033】
本態様では、転写用マスクの検査工程に、検査装置または検査装置と接続される情報処理装置から出力された所定範囲差分分布をディスプレイに表示できる画像表示手段を設ける。つまり画像表示手段は、所定範囲差分分布をディスプレイに表示して検査員又は作業員により視認させることができる。これにより、検査装置又は情報処理装置でプロットの密度による検出を確認でき、また、検査装置等では判別できない微妙な内部欠陥等の領域や、複雑な要素が入り組んで判定が困難な内部欠陥等の領域についても、経験を有する検査員等による視認で判別することができる。
【0034】
(8)本発明に係る上記と異なる態様の転写用マスクの製造方法では、検査光は、波長が200nm以下である。
【0035】
本態様では、転写用マスクの検査装置で、検査に使用する光源から発生させる透過光の波長を200nm以下にする。波長が200nm以上の透過光の場合と、波長が200nm以下の透過光の場合を比較すると、200nm以下の場合の方が、内部欠陥等で蛍光を発光する割合が増加する。これにより、検査光の波長を200nm以下とした検査装置で検査することで、内部欠陥等が存在する領域を視認により検出する精度を高めることができる。
【0036】
(9)本発明に係る上記と異なる態様の転写用マスクの製造方法では、第1しきい値は、差分光量値を検査光の光量で除して算出される透過率差が2%となる差分光量値である。
【0037】
本態様では、転写用マスクの検査装置で、光源から出射された検査光の光量に対する差分光量値の比率である透過率差を算出し、その透過率差が2%の場合の差分光量値を第1しきい値とする。この透過率差が2%の場合の差分光量値は、本発明者の実験及び検討結果により決定された値であり、上記のようにノイズの差分光量値の最大値と考えられ、逆に内部欠陥等の差分光量値の最小値とも考えられる値である。これにより、透光性基板の内部欠陥等の有無を判定する場合に、透過率差が2%となる差分光量値を第1しきい値とすることで、ノイズと内部欠陥等とを良好に判別することができる。
【0038】
なお、検査光の光量の変動が少ない場合には、上記した透過率差を光源から出射された検査光の光量に対する透過光の比率としてもよい。
【0039】
(10)本発明に係る上記と異なる態様の転写用マスクの製造方法では、第2しきい値は、差分光量値を検査光の光量で除して算出される透過率差が40%となる差分光量値である。
【0040】
本態様では、転写用マスクの検査装置で、光源から出射された検査光の光量に対する差分光量値の比率である透過率差を算出し、その透過率差が40%の場合の差分光量値を第2しきい値とする。この透過率差が40%の場合の差分光量値も、本発明者の実験及び検討結果により決定された値であり、上記のように透光パターン部中の従来からの欠陥の差分光量値の最小値と考えられ、逆に内部欠陥等の差分光量値の最大値とも考えられる値である。これにより、透光性基板の内部欠陥等の有無を判定する場合に、透過率差が40%となる差分光量値を第2しきい値とすることで、透光パターン部中の従来からの欠陥と内部欠陥等とを良好に判別することができる。
【0041】
なお、この場合も検査光の光量の変動が少ない場合には、上記した透過率差を光源から出射された検査光の光量に対する透過光の比率としてもよい。
【0042】
(11)本発明に係る上記と異なる態様の転写用マスクの製造方法では、第1の透過光量分布または第2の透過光量分布に対して光量分布の全体補正を行い、補正した光量分布を用いて差分光量値を算出する。
【0043】
本態様では、転写用マスクの検査装置で、第1領域から検出された第1の透過光量分布または第2領域から検出された第2の透過光量分布に対して、全体補正を行う。これにより第1の透過光量分布と第2の透過光量分布とに対して同じ光源光量が供給された場合の各光量分布を得ることができ、各光量分布から同じ光源光量が供給された場合における差分光量値を算出することができる。
【0044】
(12)本発明に係る半導体デバイスの製造方法では、上記(1)から(11)のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法で製造された転写用マスクを用い、半導体ウェハ上に回路パターンを形成することを特徴とする。本手段では、上記(1)から(12)に記載の転写用マスクの製造方法で製造された転写用マスクを用いるので、フォトリソグラフィ法で半導体ウェハ上に回路パターンを形成する場合でも歩留りを低下させることがない。波長200nm以下のレーザー光露光光に用いるフォトリソグラフィ法で半導体ウェハ上に回路パターンを形成する場合に、特に有効である。
【発明の効果】
【0045】
本発明の転写用マスクの製造方法によれば、光量分布の全体補正機能を有する検査装置からマスクパターンの検査時に出力される透過光量分布のデータを用いて、従来からのマスクパターンの欠陥に加えて転写用マスクの内部欠陥や、前記透光性基板の薄膜が形成されている主表面とは反対側の主表面に付着する異物欠陥や、薄膜上に装着されたペリクルのペリクル膜に付着する異物欠陥を検出し、欠陥の無い転写用マスクを製造する製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)が本発明に係る転写用マスクの製造方法における一実施の形態の欠陥検査装置の内部構成の概要を示すブロック図であり、(b)が欠陥検査装置で検査される転写用マスクの一例を示す上面図である。
【図2】座標補正と光量分布の補正を行う前の第1透過光量分布と第2透過光量分布を示す。
【図3】座標補正と光量分布の補正を行った後の第1透過光量分布と第2透過光量分布を示す。
【図4】転写用マスクに照射された透過光の透過光量を変えるノイズと内部欠陥等を含む透過光量分布の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本実施形態の転写用マスク30の検査装置は、レーザー光等を照射する光源部2、ステージ4、検出部5、制御部1とを有し、内部欠陥75(パターン転写時に局部的な光学特性の変化を生じさせる光学的不均一領域)を感知または検出する。なお、以下では、透光性基板の内部欠陥の有無を検出する方法について述べるが、透光性基板の薄膜が形成されている主表面とは反対側の主表面に付着する異物欠陥の有無の検出や、薄膜上に装着されたペリクルのペリクル膜に付着する異物欠陥の検出についても、同様の方法で行うことができる。
【0048】
制御部1は、例えば、転写用マスクの検査装置全体を制御すると共に、検出部5に通信ケーブルを用いて接続され、入力した透過光量分布から各種欠陥を検出する検出手段でもある。制御部1は、検出部5から入力した透過光量分布を記憶回路に記憶する。その際には、例えば、透光部と遮光部を有する転写パターンが形成されている薄膜の第1領域41内における各座標の透過光量値(第1透過率光量分布)を、記憶部10内の第1透過光量分布記憶部21に記憶する。
【0049】
その後、制御部1は、ステージ制御部3を用いてステージ4を移動させ、第1の領域41と設計上で同一の転写パターンが形成されている薄膜の第2領域51内における各座標の透過光量値(第2透過率光量分布)を、記憶部10内の第2透過光量分布記憶部22に記憶する。ここで転写用マスク30に内部欠陥75を有している場合、第1領域内の全体あるいは広い領域で透過光量の減少が発生する。
【0050】
さらに制御部1は、差分光量値算出部11で、設計上で同一の転写パターンである第1領域41の透過光量分布のデータと、第2領域51の透過光量分布のデータを、記憶部10内の第1透過光量分布記憶部21と第2透過光量分布記憶部22から読み出し、各透過光量分布のデータの差分をとって、差分分布のデータを作成する。図2に、設計上のパターンがライン&スペースパターンであり、その同一の設計上のパターンが第1の領域と第2の領域に形成されている場合において、第1透過光量分布と第2透過光量分布をそのまま同一座標系に載せたものを示す。第1透過光量分布、第2透過光量分布はともに2次元座標上の各点の透過光量を記録した分布である。図2では、ライン&スペースパターンの方向に対して、直交する方向の1次元直線座標系で、該当部分の第1および第2透過光量分布をそれぞれ抜き出して、横軸が1次元直線座標の位置であり、縦軸が透過光量である座標系に透過率分布として表現したものである。図2の101が第1透過光量分布であり、201が第2透過光量分である。
【0051】
図2を見ると、同一の設計パターンから形成されたにも関わらず、第1透過光量分布101と第2透過光量分布201の高透過率側のピーク(スペース部、透光部での透過率)と低透過率側のピーク(ライン部、遮光部での透過率)が全体的にシフトしてしまっている。第1および第2の透過率分布の各取得時、転写用マスクに設けられているアライメントマークなどの基準マークを基準点として2次元座標を設定して測定しているが、それでも位置精度は精度が不十分であることに起因する。このため、座標補正(アライメント補正)を行う必要があることがわかる。また、透光性基板30の内部欠陥75が存在する領域の直上に存在する転写パターンの第1領域で取得した第1透過光量分布101は、透光性基板30の内部欠陥が存在しない領域の直上に存在する転写パターンの第2領域で取得した第2透過光量分布201に比べて、全体的に高透過率側のピーク(スペース部、透光部での透過率)が20%程度低下している。
【0052】
しかし、前記の通り、例え、第1領域および第2領域の両方の直下の透光性基板30に内部欠陥75が存在しない場合でも、転写パターンを形成する際のエッチングプロセスなどで、透光性基板30の薄膜に接する側の表面に若干の表面粗れが発生していることが多く、その表面粗れは場所によって差が生じることがある。また、2つの透過率光量分布を取得する際に、検査光源、照明光学系、受光光学系が全く同一条件にすることは困難である。つまり、第1透過光量分布101と第2透過率光量分布102との間で多少の差が生じることは避け難い。転写用マスクの検査装置の本来の目的が、黒欠陥や白欠陥を高精度に検出することにあるため、検出の誤認率が高くなってしまうことは避けなければならない。このため、第1透過光量分布101と第2透過率光量分布102との間で差分を取得する前に、少なくともいずれか一方の透過光量分布を補正し、それから差分を取得する必要がある。以上の理由から、制御部1は、差分光量値算出部11で、2つの透過光量分布を同一2次元座標系に重ね合わせ、座標補正を行い、さらに、2つの透過光量分布の少なくともいずれか一方に対して補正を行ってから(本例の場合、第1透過光量分布101と第2透過光量分布102の両方を補正している。)、2つの透過光量分布の差分をとり、差分分布(所定領域差分分布)のデータを作成する。さらに作製した差分分布は、記憶部10内の差分分布データ記憶部23に一時記憶する。
【0053】
図3に、図2の第1透過光量分布と第2透過光量分布に対して、座標補正と光量分布の補正を行った後の第1透過光量分布と第2透過光量分布を示す。図3からわかるように、制御部1で補正が行われたことで、第1透過光量分布で生じていた、全体的な高透過率側のピークの低下が引き上げられてしまい、第2透過光量分布との差が非常に小さくなってしまっている。このため、通常の転写用マスクの検査方法では、透光性基板30の内部欠陥75を検出することは難しい。
【0054】
記憶部10内の各透過光量分布記憶部21、22に記憶された透過光量分布のデータや、差分分布データ記憶部23に記憶された差分分布のデータは、制御部1に接続された表示部6に画像として表示させることができる。表示部6は、例えば、高精細な解像度を有する液晶表示装置である。
【0055】
次に制御部1は、記憶部10内の差分分布データ記憶部23に一時記憶された差分分布のデータを、記憶部10内の第1しきい値記憶部25から読み出された第1しきい値と、第2しきい値記憶部26から読み出された第2しきい値と比較し、第1しきい値以上で、第2しきい値未満のデータにつき、所定範囲差分分布データ記憶部24に記憶する。第1しきい値と第2しきい値は、後述する方法により決定して予め第1しきい値記憶部25と、第2しきい値記憶部26に記憶させておく。
【0056】
光源部2は、ウェハ上のレジスト膜に露光転写する際に用いる露光波長と同一波長の光であるArFエキシマレーザー(波長λ:193nm)の検査光7(透過光)を合成石英ガラス基板上にパターンが形成された転写用マスク30の下面側から導入する光導入手段である。光源部2は、X、Y、Z方向に移動可能なステージ4が転写用マスク30を所定位置に移動させると、検査光7を転写用マスク30の下面の各位置から導入する。なお、この実施の形態では、検査光に、ArFエキシマレーザーを適用し、波長200nm以下の露光光に対して局所的な透過率低下を引き起こす内部欠陥の検出するようにしたが、これに限らず、波長200nmよりも大きい波長の検査光(波長257nm,365nm、488nm等)を用いて、従来の波長200nmよりも長い波長の露光光に対して局所的な透過率低下を引き起こす内部欠陥を検出するようにしてもよい(透光性基板の薄膜が形成されている主表面とは反対側の主表面に付着する異物欠陥の有無の検出や、薄膜上に装着されたペリクルのペリクル膜に付着する異物欠陥の検出についても、同様。)。
【0057】
ステージ制御部3は、制御部1に接続されて制御部1により制御されている。ステージ4は、図1(a)に示したように転写用マスク30を載置し、ステージ制御部3により、載置された転写用マスク30を、光源部2から発せられるレーザー光に対してX方向、Y方向、Z方向にそれぞれ移動させることができる。
【0058】
検出部5は、図1(a)に示すように、ステージ4に載置された転写用マスク30の主表面側に設置され、受光素子とこの受光素子に撮像対象物からの透過光を入力させる対物レンズとを備え、転写用マスク30の遮光パターン部領域41、51の何れか一つを検出可能な受光手段である。検出部5は、例えば、検査光7の通常に透過した透過光に加え、転写用マスク30の透光パターン部におけるノイズにより減衰した透過光や、内部欠陥75等により減衰した透過光を転写用マスク30の主表面側から受光する。また、内部欠陥75等で発生する波長λよりも長い波長の蛍光も、受光してもよい。なお、本実施の形態の検出部5は、ArFエキシマレーザー光を受光可能な受光素子である。
【0059】
受光素子として用いられるCCDイメージセンサは、検出部5の受光面に結像させた像の透過光の明暗を電荷の量に光電変換し、制御部1でそれを順次読み出して電気信号に変換する。なお、本実施形態に係る検出部5では、受光素子をCCDイメージセンサとしたが、本発明はそれに限られるものではなく、フォトレジスタ(photoresistor)をはじめとするその他の任意の光センサを用いることができる。
【0060】
転写用マスク30に存在する内部欠陥75のうち、露光波長が200nm超の露光光源(例えば、KrFエキシマレーザー(露光波長:248nm))の場合には問題とならないが、ArFエキシマレーザー光(露光波長:193.4nm)のように露光波長が200nm以下の露光光源の場合に問題となる内部欠陥75がある。
【0061】
これらの内部欠陥75は、露光波長が200nm以下の上記露光光を用いて、当該転写用マスク30の薄膜パターン41、51を被転写体に転写するパターン転写時に、いずれも局所又は局部的な光学特性の変化(例えば透過率の低下や位相差の変化)を生じさせ、パターン転写に悪影響を及ぼして転写精度を低下させるものとなる。そして最終的には、上記内部欠陥75が原因で、被転写体(例えば、半導体デバイス)の転写パターン欠陥(半導体デバイスにおいては、回路パターン欠陥)となる。
【0062】
それらの内部欠陥75は、「局所脈理」、「内容物」、「異質物」等によって発生する。「異質物」は、合成石英ガラス中に酸素が過剰に混入された酸素過剰領域であり、高エネルギーの光が照射された後は回復しない。「局所脈理」は、合成石英ガラスの合成時に金属元素が合成石英ガラス中に微量に混入された領域である。転写用マスク30のマスクブランク用ガラス基板に当該局所脈理が存在すると、パターン転写時に約5〜30%の透過率低下が生じ、転写精度を低下させ、最終的には転写パターン欠陥となる。また、「内容物」は、金属元素が合成石英ガラス中に、局所脈理の場合よりも多く混入された領域である。なお、内部欠陥75は、「局所脈理」、「内容物」、「異質物」に限られるものではない。
【0063】
ここで、転写用マスクの検査装置の本来の目的である転写パターンの黒欠陥や白欠陥の有無を判定するプロセス(Die―to−Dei比較検査法)について説明する。制御部1は、前記の所定範囲差分分布記憶部24に記憶されている差分分布(所定範囲差分分布)を読み出し、その差分分布の中に第2しきい値以上の差分がないかを判定する。そして、第2しきい値以上の差分値の座標がある場合は、黒欠陥あるいは白欠陥があるものとして判定する。黒欠陥か白欠陥のいずれであるかは、第1透過光量分布と第2透過光量分布も含めて総合的に判断される。黒欠陥や白欠陥の場合、複数の座標にまたがって同様の差分が発生することが多いため、周囲の座標の差分も考慮して判定する場合もある。
【0064】
次に、内部欠陥75の有無を判定するプロセスについて説明する。図4は、差分分布データ記憶部23に記憶されている差分分布(所定領域差分分布)を2次元座標系で画像化(差分分布画像61)したものであり、補正後の第1透過光量分布と第2の透過光量分布から算出されたものである。差分分布画像61には、ノイズ71と、混入した不純物等が透過光を減衰させる内部欠陥75が示されている。
【0065】
ただし、この差分分布画像61は、第1しきい値記憶部25に記憶されている第1しきい値以上の差分値の座標のみにプロットしている。前記のとおり、第1透過光量分布や第2透過光量分布に対して、光量補正を行った後に差分を算出するが、光量補正だけではノイズに起因する光量差を全て補正することまではできない。仮に、第1しきい値を設けないと、差分値がわずかである座標が多数プロットされてしまい、内部欠陥75に起因するものか、ノイズに起因するものかの判別が困難になる。このため、透過光量の低下が露光転写にほとんど影響しない範囲の場合の差分の上限などを第1しきい値に設定し、ノイズ起因によって差分が生じている座標を差分分布画像61にプロットしないようにする。なお、第1しきい値を大きくし過ぎると、内部欠陥75の検出感度の低下を招く。また、黒欠陥や白欠陥以外に転写パターンに起因する問題で発生する差分として、いずれかの転写パターンのラインエッジラフネスが悪い場合があり、第1しきい値を大きくし過ぎると、ラインエッジラフネスの判定ができなくなる場合がある。
【0066】
差分光量2%未満は、遮光パターン部の透過光量の変動と区別することが困難である。一方、差分光量40%以上は、例えば、透光パターン部に黒欠陥が発生している場合や、遮光パターン部に白欠陥が発生している場合に使用される領域であり、それらの欠陥と内部欠陥の区別がつかない。従って、本実施形態では、第1のしきい値を2%とし、第2しきい値を40%とし、その間を所定範囲として、透光パターン部の差分分布が所定範囲(2%〜40%)内であれば、その透光パターン部には不良が発生していると判断する。
【0067】
図4では、内部欠陥75の領域は、検査光7を減衰させるので、検出部5で検出される光量が減少する。また、図4の転写用マスク30の差分分布画像61の画像領域は、本実施形態では、縦分割線91及び横分割線92により、複数の小領域81に分割される。小領域81は、画像領域内の複数の画素を含む縦横寸法であり、画像領域の縦と横の寸法を縦分割線91及び横分割線92で各々数十〜数百程度の任意の寸法に分割して形成される。各小領域81のうち、内部欠陥75を含む複数の領域を内部欠陥ブロック85とした。
【0068】
以上のような転写用マスクの検査装置の構成で、上記したような制御部1による制御により、転写用マスク30中に検査光7が導入されると、転写用マスク30中に内部欠陥75が存在する場合、その内部欠陥75では、検査光7が減衰し、約5〜30%の透過率が低下する。一方、転写用マスク30の内部欠陥75以外の領域でも、ノイズにより検査光7は減衰するが、その量は内部欠陥75における減衰のように多くないレベルである。
【0069】
この通常に透過した分と、ノイズや内部欠陥75により減衰した検査光7を検出部5で受光し、制御部1でこの受光した透過光、透過光量(輝度)分布を求め、Die−to−Die比較検査法によって異なる位置の同一パターンの透過光量分布の相違に基づき欠陥を求め、本実施形態では、さらに内部欠陥75を検出する。
【0070】
表示部6に示される転写用マスク30の透光パターン部には、多くのノイズ71がランダムに現れる。一方、表示部6の透光パターン部に内部欠陥部75がある場合、その内部欠陥75では透過光が減衰し、ノイズ71のランダム発生とは異なり、欠陥による透過光減衰が集中して偏在する。
【0071】
転写用マスク30の製造方法において、図4に示すような内部欠陥ブロック85が存在する場合、その転写用マスク30には内部欠陥があるので選定しないようにし、第1しきい値以上で第2しきい値未満の差分光量値を有する各座標プロットの密度が高い領域が検出されない転写用マスク30のみを選定する。
【0072】
このように本実施形態の製造方法では、検査装置からマスクパターンの検査時に出力される透過光量分布のデータを用いて、従来からのマスクパターンの欠陥に加えて転写用マスク30の内部欠陥等を検出し、欠陥の無い転写用マスク30を供給することができる。
【0073】
上記製造方法では、Die−to−Die比較検査法により転写用マスク30を検査しているが、Die−to−Database比較検査法を用いても良い。その場合、まず、パターン形成用薄膜の転写パターンは、所定領域に設計マスクパターンを基に形成したパターンを含んでおり、パターン形成用薄膜の所定領域に対し、検査光7を照射して第1の透過光量分布を取得する。次に、シミュレーションによって、設計マスクパターンを基に転写パターンが形成されたパターン形成用薄膜に対し、検査光7を照射したときの第2の透過光量分布を算出する。その後はDie−to−Die比較検査法の場合と同様である。
【0074】
この場合も、検査装置からマスクパターンの検査時に出力される透過光量分布のデータを用いて、従来からのマスクパターンの欠陥に加えて転写用マスク30の内部欠陥等を検出し、欠陥の無い転写用マスク30を供給することができる。
【0075】
また、本実施形態で転写用マスク30を選定する際には、プロットの密度が他の小領域81と比較して2倍以上の密度の小領域81があった場合に密度の高い領域があると判定する。これにより、小領域81のプロットの密度が比較的小さい値であっても、2倍の値との比較では有意な差となる可能性が高まるので、容易にプロットの密度が高い領域を判定することができ、内部欠陥等が存在する領域を検出する事ができる。
【0076】
また、本実施形態で転写用マスク30を選定する際には、差分分布画像61を画像表示手段に表示し、視認によりプロットの密度が高い領域を検出する。これにより、検査装置又は情報処理装置でプロットの密度による検出を確認でき、また、検査装置等では判別できない微妙な内部欠陥等が存在する領域や、複雑な要素が入り組んで判定が困難な内部欠陥等が存在する領域についても、経験を有する検査員等による視認で判別することができる。
【0077】
また、本実施形態の検査光7は、波長が200nm以下である。このように検査光7の波長を200nm以下とした検査装置で検査することで、内部欠陥等を有する領域を視認により検出する精度を高めることができる。
【0078】
また、本実施形態で第1しきい値は、透過率差の差分光量値を検査光7の光量で除して算出される透過率差が2%となる差分光量値である。このように、透光性基板の内部欠陥等の有無を判定する場合に、透過率差が2%となる差分光量値を第1しきい値とすることで、ノイズと内部欠陥等とを良好に判別することができる。
【0079】
また、本実施形態で第2しきい値は、透過率差の差分光量値を検査光7の光量で除して算出される透過率差が40%となる差分光量値である。このように、透光性基板の内部欠陥等の有無を判定する場合に、透過率差が40%となる差分光量値を第2しきい値とすることで、透光パターン部中の従来からの欠陥と内部欠陥等とを良好に判別することができる。
【0080】
また、本実施形態では、第1の透過光量分布または第2の透過光量分布に対して光量分布の全体補正を行い、補正した光量分布を用いて差分光量値を算出する。これにより第1の透過光量分布と第2の透過光量分布とに対して同じ光源光量が供給された場合の各光量分布を得ることができ、各光量分布から同じ光源光量が供給された場合における差分光量値を算出することができる。
【0081】
なお、本発明は、上記した本発明の転写用マスク30の製造方法の実施形態に限られるものではなく、複数の部分から座標位置毎の透過光量を計測でき、同一設計パターンの各透過光量から各同一部分に差分光量を得ることができ、その差分光量を所定の第1しきい値及び第2しきい値と比較できれば、ガラス基板単体の製造方法や、ハーフトーンのマスクブランクの製造方法、その他の様々な透明基板を利用する製品の製造方法への適用が可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 制御部、
2 光源部、
3 ステージ制御部、
4 ステージ、
5 検出部、
6 表示部、
7 検査光、
10 記憶部、
11 差分光量値算出部、
21 第1透過光量分布記憶部、
22 第2透過光量分布記憶部、
23 差分分布データ記憶部、
24 所定範囲差分分布データ記憶部、
25 第1しきい値記憶部、
26 第2しきい値記憶部、
30 転写用マスク、
41 (薄膜の)第1領域、
51 (薄膜の)第2領域、
61 差分分布画像、
71 ノイズ、
75 内部欠陥、
85 (複数領域の)内部欠陥ブロック、
91 縦分割線、
92 横分割線、
101 第1透過率分布
201 第2透過率分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に転写パターンが形成された薄膜を備える転写用マスクの製造方法であって、
前記薄膜の転写パターンは、第1領域と第2領域のそれぞれに同一の設計マスクパターンを基に形成した2つのパターンを含んでおり、
前記薄膜の第1領域に対し、検査光を照射して第1の透過光量分布を取得する工程と、
前記薄膜の第2領域に対し、検査光を照射して第2の透過光量分布を取得する工程と、
前記第1の透過光量分布と前記第2の透過光量分布との比較から算出される差分光量値が第1しきい値以上であり、かつ第2しきい値未満である座標をプロットした所定範囲差分分布を生成する工程と、
前記所定範囲差分分布で、前記プロットの密度が高い領域が検出されない転写用マスクを選定する工程と
を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【請求項2】
透光性基板上に転写パターンが形成された薄膜を備える転写用マスクの製造方法であって、
前記薄膜の転写パターンは、所定領域に設計マスクパターンを基に形成したパターンを含んでおり、
前記薄膜の前記所定領域に対し、検査光を照射して第1の透過光量分布を取得する工程と、
シミュレーションによって、前記設計マスクパターンを基に転写パターンが形成された薄膜に対し、検査光を照射したときの第2の透過光量分布を算出する工程と、
前記第1の透過光量分布と前記第2の透過光量分布との比較から算出される差分光量値が第1しきい値以上であり、かつ第2しきい値未満である座標をプロットした所定範囲差分分布を生成する工程と、
前記所定範囲差分分布で、前記プロットの密度が高い領域が検出されない転写用マスクを選定する工程と
を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【請求項3】
前記第1しきい値は、透光性基板の内部欠陥の有無、前記透光性基板の前記薄膜が形成されている主表面とは反対側の主表面に付着する異物欠陥の有無、または前記薄膜上に装着されたペリクルのペリクル膜に付着する異物欠陥の有無を判定するために用いられる差分光量値の下限値であることを特徴とする請求項1または2に記載の転写用マスクの製造方法。
【請求項4】
前記第2しきい値は、転写パターンに起因する欠陥の有無を判定するために用いられる差分光量値の下限値であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
【請求項5】
前記転写用マスクを選定する工程は、前記所定範囲差分分布を複数の小領域に分割し、各小領域内でプロットの密度を算出し、小領域ごとのプロットの密度を比較して密度の高い領域を検出することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
【請求項6】
前記転写用マスクを選定する工程は、プロットの密度が他の小領域と比較して2倍以上の密度の小領域があった場合に密度の高い領域があると判定することを特徴とする請求項5に記載の転写用マスクの製造方法。
【請求項7】
前記転写用マスクを選定する工程は、前記所定範囲差分分布を画像表示手段に表示し、視認によりプロットの密度が高い領域を検出することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
【請求項8】
前記検査光は、波長が200nm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
【請求項9】
前記第1しきい値は、前記差分光量値を前記検査光の光量で除して算出される透過率差が2%となる差分光量値であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
【請求項10】
前記第2しきい値は、前記差分光量値を前記検査光の光量で除して算出される透過率差が40%となる差分光量値であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
【請求項11】
第1の透過光量分布または第2の透過光量分布に対して光量分布の全体補正を行い、補正した光量分布を用いて前記差分光量値を算出することを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法で製造された転写用マスクを用い、半導体ウェハ上に回路パターンを形成することを特徴とする半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−215677(P2012−215677A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80203(P2011−80203)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】