軸シール機構
【課題】 リーフシールを複数段備えた軸シール機構であって、回転軸の長さを抑えることのできる軸シール機構を提供する。
【解決手段】 ステータ60には、回転軸4の軸方向に沿って高圧側領域から低圧側領域に向けて順に、第1段目のリーフシール120、及び第2段目のリーフシール220が設置される。ステータ60の内周面には、周方向に沿う取付け用溝81が形成され、互いに隣接するリーフシール120、220同士の間には、共用の取付け用ピース182を備える。リーフシール120、220及び取付け用ピース182は、一体でステータ60の取付け用溝81に周方向に沿って嵌め込まれ、ボルト183によってステータ60に固定される。
【解決手段】 ステータ60には、回転軸4の軸方向に沿って高圧側領域から低圧側領域に向けて順に、第1段目のリーフシール120、及び第2段目のリーフシール220が設置される。ステータ60の内周面には、周方向に沿う取付け用溝81が形成され、互いに隣接するリーフシール120、220同士の間には、共用の取付け用ピース182を備える。リーフシール120、220及び取付け用ピース182は、一体でステータ60の取付け用溝81に周方向に沿って嵌め込まれ、ボルト183によってステータ60に固定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン、蒸気タービン、圧縮機、水車、冷凍機、ポンプ等の大型流体機械の回転軸に対しての軸シール機構に関し、特に、回転軸の周面とこの回転軸に同軸状で静止した静止部材の内周面との隙間においての高圧側から低圧側への作動流体の漏れを抑える軸シール機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガスタービンや蒸気タービン等の大型流体機械においては、圧縮空気や燃焼ガスや蒸気等の作動流体(以下、単に「ガス」と記すことがある)を本質的に流動させる主流路以外に、回転軸の周面とこの回転軸に同軸状で静止した静止部材(例えば静翼の内周端を保持する環状部材)の内周面との間に環状の隙間が形成されるのは避けられない。その隙間に対して何ら工夫を施さなければ、その隙間を通じてガスが高圧側から低圧側へ向けて不用意に漏れ、結果として流体機械の効率が低下してしまう。従って、その隙間を通じたガスの漏れを最小限に抑えることは極めて重要であり、これを実現すべく、その隙間に軸シール機構が適用される。
【0003】
軸シール機構としては、従来一般には、静止部材の内周面から複数のフィンが突出して成る非接触型のいわゆるラビリンスシールが幅広く用いられる。しかし、ラビリンスシールでは、回転過渡期の軸振動や熱過渡的な熱変形時にもフィン先端が回転軸の周面に接触しないように構成する必要があるため、回転軸の周面とフィン先端との隙間をある程度確保しなければならず、その結果、ガスの漏れを大きく抑えることができないという問題がある。
【0004】
一方近年では、ガスの漏れ量を格段に低減できる軸シール機構として、回転軸の軸方向に一定幅を有する平板状の薄板を回転軸の周方向に多重に配置した構造となるいわゆるリーフシールがある(例えば特許文献1参照)。以下、このリーフシールの詳細構成について、図8〜図15を参照しながら説明していく。なお、ここではリーフシールが適用される大型流体機械として、その代表格であるガスタービンを一例に挙げて説明する。
【0005】
図8に示すガスタービンGtは、多量の空気を内部に取り込んで圧縮する圧縮機1と、圧縮機1にて圧縮された空気に燃料を混合して燃焼させる燃焼器2と、燃焼器2で発生した高温高圧の燃焼ガスが内部に導入されこの燃焼ガスの熱エネルギーを回転エネルギーに変換するタービン3と、タービン3の回転エネルギーを直接受けてその一部を圧縮機1の動力として伝達する回転軸4と、を有している。
【0006】
タービン3では、回転軸4に軸方向で複数段設けられた複数の動翼10が、吹き付けられた燃焼ガスの圧力を受けることで回転軸4と共に回転する。こうして、燃焼ガスの熱エネルギーを回転軸4の回転という機械的な回転エネルギーに変換して動力が発生する。回転軸4に与えられた回転エネルギーは軸端から取り出されて発電に利用される。また、タービン3には、回転軸4側の動翼10の他に、タービン3のケーシング9側に複数の静翼11が設けられていて、これら動翼10と静翼11とが、回転軸4の軸方向に交互に配置される。そして、回転軸4と静翼11(実際には、静翼11の内周端を保持する環状の静止部材)との間には、その隙間を通じて高圧側から低圧側へ漏れる燃焼ガスの漏れ量を低減するための軸シール機構として、リーフシール20が設けられる。
【0007】
また、圧縮機1は回転軸4にてタービン3と同軸につながれており、タービン3での回転軸4の回転を利用して、外気を吸引するとともに圧縮してこの圧縮空気を燃焼機2に供給する。圧縮機1でもタービン3と同様に、回転軸4に複数の動翼6と、圧縮機1のケーシング5側に複数の静翼7とが設けられており、動翼6と静翼7とが回転軸4の軸方向に交互に配置される。そして、回転軸4と静翼7(ここでも実際には、静翼7の内周端を保持する環状の静止部材)との間には、その隙間を通じて高圧側から低圧側に漏れる圧縮空気の漏れ量を低減するための軸シール機構として、リーフシール20が設けられる。
【0008】
更に、圧縮機1のケーシング5が回転軸4を支持する軸受け部8や、タービン3のケーシング9が回転軸4を支持する軸受け部12においても、その隙間を通じて高圧側から低圧側に圧縮空気や燃焼ガスが漏れるのを防止するための軸シール機構として、リーフシール20が設けられる。
【0009】
続いて図9及び図10に示すように、リーフシール20は、静翼7,11及び軸受け部912(図8参照)に相当する静止部材であるステータ60に挿入されて、回転軸4の周面とステータ60の内周面との隙間の環状空間におけるガスの漏れを防ぐための軸シール機構として設置される。このリーフシール20は、回転軸4の周方向に互いに微小隙間を隔てて多重に積み重ねられた複数の薄板21より成る環状の薄板群と(図11(a)参照)、この薄板群を薄板21の外周基端側において軸方向での両側から挟持する各々コの字型のリテーナ22,23と、薄板群における高圧側(ガス圧が高い側)に位置する一側と一方のリテーナ22とで挟み込まれて薄板群のその一側に接触する分割環状の高圧側側板24と、薄板群における低圧側(ガス圧が低い側)に位置する他側と他方のリテーナ23とで挟み込まれて薄板群のその他側に接触する分割環状の低圧側側板25と、リテーナ22,23同士を薄板21の外周側で接続する接続部材26と、リテーナ22,23で狭持された各薄板21のがたつきを抑制するスペーサ27と、リテーナ22,23で狭持された薄板群が回転軸4に対して一定位置となるように付勢力を与える板バネ28と、を備える。
【0010】
薄板群の構成要素である各薄板21は、図10に示すように、外周側基端における回転軸4の軸方向での幅が内周端側の幅に比べて広い略T字型の薄い鋼板によって構成され、その両側には、その幅の段差部分において切欠き部21a,21bが設けられる。ここで、各薄板21は、圧延成形された厚さ0.1mm程度の鋼板(例えばステンレス、インコネル、ハステロイ等の金属鋼板)を素材とし、これをプレス等によって型抜きすることで先ずは一定厚さの所定形状(T字型)に成形される。そして、図12に示すように、この薄板21の外周側基端部をそのまま残しつつ内周端側の片面のみ(図12の網掛け部分21dに相当)をエッチングして取り除くことで、その厚みに段差が形成される。但し、こうしたT字型の輪郭形成と段差形成とをエッチングによって同時に成形することも可能である。
【0011】
このような薄板21を回転軸4の軸方向に同一の幅となるように重ねるとともに、図11(b)に示すように、その外周基端及び外周基端側となる幅広部分の側面に溶接Wdを施して固定し、これにより薄板群が形成される。また、各薄板21はエッチングされた内周端側の板厚tで決まる所定の剛性を回転軸4の周方向に持つように設計されるとともに、回転軸4の回転方向に対して回転軸4の周面となす角θが鋭角となるようにリテーナ22,23で保持される。なお、薄板群においては、各薄板21のエッチングにて取り除かれる部分21dの深さcが、薄板21同士の微小隙間となる。
【0012】
高圧側側板24及び低圧側側板25には、それぞれの外周縁部において、回転軸4の軸方向に突出する突起24a,25aが設けられており、この突起24a,25aは、薄板群の切欠き部21a,21bにそれぞれ嵌め込まれる。また、高圧側に位置するリテーナ22は、薄板群における外周基端側の高圧側である一側に対向する面に凹溝22aを備え、他方の低圧側に位置するリテーナ23は、薄板群における外周基端側の低圧側である他側に対向する面に凹溝23aを備える。そして、切欠き部21a,21bに高圧側側板24及び低圧側側板25それぞれの突起24a,25aが嵌め込まれた薄板群は、その外周基端側の高圧側である一側がリテーナ22の凹溝22aに嵌め込まれるとともに、その外周基端側の低圧側である他側がリテーナ23の凹溝23aに嵌め込まれる。
【0013】
ここで、高圧側側板24は、その内径が回転軸の径よりも若干量大きく、低圧側側板25は、その内径が高圧側側板24の内径よりも所定量大きくなっている。従って、薄板群における各薄板21の内周端部は、高圧側である一側よりも低圧側である他側の方が軸方向での表出域がはるかに大きくなる。
【0014】
薄板群の外周基端側が嵌め込まれたリテーナ22,23の間には、接続部材26が挿入されるとともに、この接続部材26がリテーナ22,23と溶接されることで、リテーナ22,23が固定される。薄板群の外周基端とリテーナ22,23との間には、両者の隙間を埋めるスペーサ27が挿入される。更に、スペーサ27が挿入されたリテーナ22,23の外周側には凹溝22b,23bが設けられていて、この凹溝22b,23bによって形成される1つの凹溝に板バネ28が嵌め込まれ、これにより板バネ28がリテーナ22,23の外周側に固定される。
【0015】
このような構成のリーフシール20は、図10に示すように、分割環状の取付け用ピース62と一体で、ステータ60側の内周壁面に周方向に沿って形成された環状の取付け用凹溝61に、リテーナ22,23側から周方向に沿って嵌め込まれる。ここで、凹溝61は、回転軸4の軸方向において、底となる外周側の幅が内周側の幅よりも広くなるように、薄板群の高圧側である一側と対向する側面に段差が設けられた形状とし、この段差の外周側の面61aが、リーフシール20のリテーナ22の内周面と摺接する摺接面となる。更に、凹溝61の底である外周面61bが、リーフシール20の外周側に設けられる板バネ28と摺接する摺接面となる。また、凹溝61の内周側の幅は、回転軸4の軸方向の幅において、リーフシール20の幅よりも十分に広くなるように形成される。
【0016】
一方、取付け用ピース62は、回転軸4の軸方向において、図10に示すように、外周側の幅が内周側の幅よりも狭くなるように、薄板群の低圧側である他側と対向する側面に段差が設けられた形状とし、この段差の外周側の面62aが、リーフシール20のリテーナ23の内周面と摺接する摺接面となる。更に、この取付け用ピース62は、回転軸4の軸方向での幅の広い内周側の部分において、薄板群の低圧側である他側と対向する側面62bが、低圧側側板25と当接する受圧面となる。なお、この取付け用ピース62の内周面の一部を突出させた形状とすることで、ラビリンスシール62dを具備する。つまり、リーフシール20の下流側に取付け用ピース62が設置され、これにより、リーフシール20よりも下流において、ガスの漏れ量を更に低減させるラビリンスシール62dが設置されることとなる。
【0017】
このように、リーフシール20は、取付け用ピース62と共に、ステータ60の凹溝61に対しその外周基端側で保持されることとなる。つまり、リテーナ22,23それぞれの内周面が、凹溝61の摺接面61a及び取付け用ピース62の摺接面62aと摺接するとともに、リテーナ22,23の外周側に固定された板バネ28が凹溝61の摺接面61bと摺接することで、リーフシール20がステータ60に対して嵌め込まれた状態で維持される。ちなみに、取付け用ピース62を用いてリーフシール20がステータ60の凹溝61に嵌め込まれるため、その組み付け作業を容易に行うことができる。
【0018】
このとき、リーフシール20は、凹溝61内に対して、回転軸4の軸方向に若干の相対移動が可能である。そのため、高圧側領域から低圧側領域に向かってガスが流れるとき、そのガス圧がリーフシール20の各薄板21に作用するため、リーフシール20が低圧側領域に向かって移動し、後述するように、低圧側側板25が取付け用ピース62の受圧面62bと当接するようになる。
【0019】
引き続き、このように構成されるリーフシール20の作用について説明する。図13(a)に示すように、高圧側領域から低圧側領域に向かうガス圧が各薄板21に加わった場合に、各薄板21に対して、内周端側で且つ最も高圧側領域に位置する角部r1で最もガス圧が高く、対角の角部r2に向かって徐々にガス圧が弱まるガス圧分布70aが形成される。なお、図10では各薄板21をT字型形状としているが、図9や図13では、便宜上、撓みを生じる長方形部分のみを図示している。
【0020】
また、図13(b)に示す回転軸4の周方向に沿った断面図のように、各薄板21の回転軸4に面した面を下面21qとするとともに、その裏側を上面21pとする。そして、各薄板21に対して高圧側領域から低圧側領域に向かうガス圧が加わって、図13(a)のようなガス圧分布70aが形成されるとき、各薄板21の断面に沿った任意位置における上面21pに加わるガス圧よりも下面21qに加わるガス圧の方が高くなるように、ガス圧が調整される。
【0021】
このとき、高圧側領域から低圧側領域に向かって流れるガスgは、高圧側側板24と回転軸4の周面との間から流入する。そして、ガスgは、図13(a)のように、回転軸4の周面と薄板21の内周端との間を流れるとともに、互いに隣接する各薄板21の上面21p及び下面21qとの隙間に沿って、角部r1から角部r2の方向へ放射状に流れる。このようにガスgが流れることで、各薄板21の外周基端に向かって低圧の領域が広がる。そのため、図13(b)に示すように、各薄板21の上面21p及び下面21qに垂直に加わるガス圧分布70b,70cは、各薄板21の内周端部分に近いほど大きくなるとともに各薄板21の外周基端に向かうほど小さくなる三角分布形状となる。
【0022】
この上面21p及び下面21qそれぞれにおけるガス圧力分布70b,70cは、略等しい形状となるが、回転軸4の周面に対する角度θが鋭角となるように各薄板21が配置されているので、これら上面21p及び下面21qにおける各ガス圧分布70b,70cの相対位置が薄板21に対してずれる。これにより、薄板21の外周基端側から内周端側に向かう任意の点Pにおける上面21p及び下面21qのガス圧に差が生じる。こうして、各薄板21において、下面21qに加わるガス圧が上面21pに加わるガス圧よりも高くなることから、回転軸4の周面と薄板21の内周端との間を流れるガスのガス圧が、各薄板21の内周端を回転軸4より浮かせる方向に発生する。
【0023】
このように、各薄板21の上面21p及び下面21q間に圧力差を生じさせることで、各薄板21の内周端が回転軸4の周面より浮くように変形する。つまり、回転軸4の回転停止時には薄板21の内周端は所定の予圧で回転軸4の周面に接触しているが(図11(a)参照)、回転軸4の回転時には回転軸4が回転することで生じる動圧効果によって薄板21の内周端が浮上するため、薄板21と回転軸4の周面が非接触状態となる(図11(c)参照)。こうして、リーフシール20は、回転軸4の周囲の空間を高圧側領域と低圧側領域とに分け、回転軸4の外周をシールする。
【0024】
その際、このようにガスgが高圧側領域から低圧側領域に向かって流れるため、薄板群に対して、図14(a)に示すように、高圧側領域から低圧側領域に向かって流体力Fが作用する。この流体力Fを薄板群が受けることで、リーフシール20が高圧側領域から低圧側領域に向かって移動する。そして、図14(b)に示すように、低圧側側板25が取付け用ピース62の受圧面62bに当接することで、リーフシール20の位置が規制され、このとき、薄板群における低圧側である他側と取付け用ピース62の受圧面62bとの距離が、低圧側側板25の厚さと等しくなる。
【0025】
これは、低圧側側板25の内径が薄板群の内径よりも大きいため、薄板群における各薄板21の内周端側において、低圧側側板25と当接しない表出域が存在することになるからであり、その結果として、薄板群における各薄板21の内周端側において、低圧側である他側と取付け用ピース62の受圧面62bとの間に、低圧側側板25の厚さと等しい隙間を確保できるわけである。一方、高圧側側板24の内径が低圧側側板25の内径よりも小さいことから、結果として、薄板群における各薄板21の内周端側において、高圧側での表出域が低圧側での表出域よりも小さくなる。
【0026】
従って、図13(a)のように、高圧側側板24の内周面と回転軸4の周面との隙間を通じて各薄板21(薄板群)へ流入したガスgは、各薄板21の上面21p及び下面21qに沿って対角に向かって広く流れるとともに、薄板21の外周基端側に低圧の領域が広がって、各薄板21の内周端を回転軸4の周面から浮上させ、低圧側側板25の内周面と回転軸4の周面との隙間を通じて流出する。このように、高圧側側板24及び低圧側側板25は、各薄板21の内周端を有効に浮上させるべく、各薄板21へのガスの流入量やガス圧を調整するというリーフシール20にとって重要な機能を果たす。
【0027】
なお、上記のリーフシール20では、各薄板21をT字型形状としているが、単なる長方形状としても構わない。また、薄板群とリテーナ22,23との間にスペーサ27がないものとしても構わないし、リテーナ22,23と接続部材26とがボルトで固定されるものとしても構わないし、板バネ28がないものとしても構わない。
【0028】
また、リーフシール20を大型流体機械に組み付ける場合、環状の状態のまま回転軸4に軸方向に沿って挿入して取り付けることは困難であることから、回転軸4の周面に沿って環状に構成されるリーフシール20は、実際には、図15に示すように、その周方向に4〜8分割された複数の分割体より構成される。このとき、分割体個々の端面が回転軸4の回転方向に対して回転軸4の周面となす角度は、各薄板21が回転軸4の周面となす角度と等しい角度となる。
【特許文献1】特開2002−13647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
ところで、高圧側領域と低圧側領域の圧力差が極めて大きい個所のステータ60に、上記したリーフシール20を設置しようとする場合は、1つのリーフシール20では、その圧力差に耐えることが困難であるため、リーフシール20を回転軸4の軸方向に複数段に亘って設置し、これらのリーフシール20でその圧力差を分担するようにしている。その一例として、リーフシール20を2段に設置した状況を図16に示す。ここでは、高圧側領域から低圧側領域に向けて順に、第1段目のリーフシール120、及び最終段である第2段目のリーフシール220が設置される。
【0030】
第1段目のリーフシール120は、上記したリーフシール20の基本構成のもと、多数の薄板121が積み重ねられて成る薄板群と、高圧側側板124と、低圧側側板125と、がリテーナ123,124によって保持されて成るものであり、同様に、第2段目のリーフシール220は、多数の薄板221が積み重ねられて成る薄板群と、高圧側側板224と、低圧側側板225と、がリテーナ223,224によって保持されて成るものである。ステータ60の内周面には、第1、第2のリーフシール120、220それぞれを取り付けるための周方向に沿う環状の取付け用凹溝161、261が、回転軸4の軸方向に所定間隔をあけて形成されている。第1のリーフシール120は、分割環状の取付け用ピース162と一体で、凹溝161に周方向に沿って嵌め込まれ、同様に、第2のリーフシール220は、分割環状の取付け用ピース262と一体で、凹溝261に周方向に沿って嵌め込まれる。こうして第1、第2のリーフシール120、220がステータ60に固定される。
【0031】
また、別例として、図17に示すように、第1、第2のリーフシール120、220を分割環状のホルダ90を中間的に介在して、ステータ60に取り付ける場合もある。この場合、ステータ60の内周面には、ホルダ90を取り付けるための周方向に沿う環状の取付け用凹溝91が形成されている。一方、ホルダ90の内周面には、第1、第2のリーフシール120、220それぞれを取り付けるための周方向に沿う環状の取付け用凹溝161、261が、図16と同様に、回転軸4の軸方向に所定間隔をあけて形成されている。第1、第2のリーフシール120、220は、分割環状の各取付け用ピース162、262と一体で、各凹溝161、261に周方向に沿って嵌め込まれ、ホルダ90に固定される。そして、このホルダ90は凹溝91に周方向に沿って嵌め込まれる。こうして第1、第2のリーフシール120、220がステータ60に対して固定される。
【0032】
しかし、これらのような複数段のリーフシール20(第1、第2のリーフシール120、220)の設置態様では、リーフシール20ごとに、回転軸4の軸方向である程度幅広い凹溝61(凹溝161、261)を備える上、各凹溝61同士の間にもある程度のスペースの確保を必要とする、すなわちリーフシール20同士の間にある程度の間隔が必要であることから、必然的に回転軸4も長くなる。そうすると、これが適用される流体機械の軸方向への大型化を招き、回転軸4の軸振動の発生にも敏感になるという弊害がある。この問題は、リーフシール20の設置段数を増すほど顕著である。
【0033】
もっとも、各リーフシール20をこれ単体でステータ60やホルダ90に取り付けることが可能であれば、取付け用ピース62(取付け用ピース162、262)の分軸方向での幅を抑えることができるはずである。ところが現実には、特有の形状を有するリーフシール20単体を周方向に沿って収めることが可能な凹溝を形成するのは、加工上で不可能に近い。結局のところ、上記したように、加工上で無理のない程度で凹溝61を幅広く形成し、取付け用ピース62を持ってしてリーフシール20との隙間を埋めるようにしたわけである。
【0034】
そこで本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、リーフシールを複数段備えた軸シール機構であって、回転軸の長さを抑えることのできる軸シール機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0035】
上記目的を達成するため、本発明による軸シール機構は、回転軸の周面とこの回転軸に同軸状で静止した静止部材の内周面との隙間においての高圧側から低圧側への作動流体の漏れを抑える軸シール機構であって、前記回転軸の軸方向に一定幅を有し、各々が前記回転軸の周方向へ互いに微小隙間を隔てながら前記回転軸の周面に対して鋭角に積み重ねられつつ、各々の内周端が回転停止時の前記回転軸の周面に接触する可撓性のある多数の薄板より成る環状の薄板群と、この薄板群における軸方向での両側のうちの高圧側に位置する一側に当接し、前記回転軸の径よりも所定量大きい内径を有する環状の高圧側側板と、前記薄板群における軸方向での両側のうちの低圧側に位置する他側に当接し、前記高圧側側板の内径よりも所定量大きい内径を有する環状の低圧側側板と、前記薄板群、前記高圧側側板、及び前記低圧側側板をこれらの外周部で一体に保持する環状の保持部材と、より成る周方向に分割可能な軸シール部材を、前記静止部材に対して軸方向へ複数段取り付けた軸シール機構において、以下の点を特徴とする。
【0036】
第1の特徴点としては、前記静止部材の内周面に周方向に沿う取付け用溝が形成されていて、互いに隣接する前記各段の前記各軸シール部材同士の間に共用の取付け用部材を備えており、前記各シール部材及び前記各取付け用部材は、一体で前記取付け用溝に周方向に沿って嵌め込まれて前記静止部材に固定される。
【0037】
このようにすれば、複数の軸シール部材すなわちリーフシールを静止部材に取り付けるための取付け用溝が1つで済み、しかも、回転軸の軸方向でのリーフシール同士の間隔は、両者に共用の取付け用部材が収まる程度で足りる。従って、互いに隣接するリーフシール同士の間隔を大幅に抑えることができる。勿論、その取付け用溝を静止部材に形成するにあたって、その幅が加工上で十分許容できるリーフシール及び取付け用部材をすべて含む寸法であることから、その加工にはまったく支障はない。
【0038】
ここで、静止部材に対するリーフシール及び取付け用部材の固定状態の安定性を確保する観点から、前記各取付け用部材は、前記静止部材へ径方向に貫通するボルトで締結されて固定されることが好ましい。同様の観点から、前記各取付け用部材は、この外周面に周方向に沿って形成された補助突起が、前記取付け用溝の底に周方向に沿って形成された補助溝に嵌合して固定されてもよい。
【0039】
第2の特徴点としては、前記静止部材の内周面に周方向に沿う取付け用溝が形成されていて、内周面に周方向に沿う中間取付け用溝が形成された中間取付け用部材と、互いに隣接する前記各段の前記各軸シール部材同士の間に共用の取付け用部材とを備えており、前記各シール部材及び前記各取付け用部材は、一体で前記中間取付け用溝に周方向に沿って嵌め込まれて前記中間取付け用部材に固定され、前記各シール部材及び前記各取付け用部材が固定された前記中間取付け用部材は、前記取付け用溝に周方向に沿って嵌め込まれて前記静止部材に固定される。
【0040】
このようにすれば、複数の軸シール部材すなわちリーフシールが中間取付け用部材を介在して静止部材に取り付けられるわけであるが、それらのリーフシールを中間取付け用部材に取り付けるための取付け用溝が1つで済み、しかも、回転軸の軸方向でのリーフシール同士の間隔は、両者に共用の取付け用部材が収まる程度で足りる。従って、互いに隣接するリーフシール同士の間隔を大幅に抑えることができる。勿論、その取付け用溝を中間取付け用部材に形成するにあたって、その幅が加工上で十分許容できるリーフシール及び取付け用部材をすべて含む寸法であることから、その加工にはまったく支障はない。
【0041】
ここで、静止部材に対するリーフシール及び取付け用部材の固定状態の安定性を確保する観点から、前記各取付け用部材は、前記中間取付け用部材を径方向に貫通するボルトで締結されて固定されることが好ましい。同様の観点から、前記各取付け用部材は、前記中間取付け用部材を軸方向に貫通するボルトで締結されて固定されてもよいし、前記各取付け用部材は、この外周面に周方向に沿って形成された補助突起が、前記中間取付け用溝の底に周方向に沿って形成された中間補助溝に嵌合して固定されてもよい。
【0042】
また、シール機構全体としての部品点数を削減する目的で、前記各取付け用部材は、互いに隣接する前記各段の前記各シール部材を構成する前記保持部材の一部を兼ねることが好ましい。
【発明の効果】
【0043】
本発明の軸シール機構によれば、回転軸の軸方向で互いに隣接するリーフシール同士の間隔を大幅に抑えることができるため、これに伴って回転軸の長さを抑えることが可能になり、リーフシールが適用される流体機械の軸方向への大型化を招くことはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下に、本発明の実施形態であるリーフシールを採用した軸シール機構について、図面を参照しながら詳述する。先ず、本発明の第1実施形態について説明する。図1は第1実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。なお、図中で図8〜図17と同じ名称で同じ機能を果たす部分には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略するとともに、本発明の特徴点について特筆する。特に本実施形態では、リーフシール20を2段に設置した場合を一例として示す。後述する第2〜第7実施形態においても同様とする。
【0045】
図1に示すように、ステータ60には、回転軸4の軸方向に沿って高圧側領域から低圧側領域に向けて順に、第1段目のリーフシール120、及び最終段である第2段目のリーフシール220が設置される。ステータ60の内周面には、第1、第2のリーフシール120、220を取り付けるための周方向に沿う環状の取付け用凹溝81が1つだけ形成されている。第1、第2のリーフシール120、220は、これらの両者の間に軸方向で挟み込まれた分割環状の取付け用ピース182と一体で、凹溝81に周方向に沿って嵌め込まれる。
【0046】
ここで、凹溝81は、回転軸4の軸方向において、底となる外周側の幅が内周側の幅よりも広くなるように、第1のリーフシール120における薄板群の高圧側である一側と対向する側面に段差が設けられるとともに、最終段である第2のリーフシール220における薄板群の低圧側である他側と対向する側面に段差が設けられた形状である。これらの段差のうち、高圧側領域の方に位置する段差の外周側の面81aが、第1のリーフシール120のリテーナ122の内周面と摺接する摺接面となり、低圧側領域の方に位置する段差の外周側の面81eが、最終段である第2のリーフシール220のリテーナ223の内周面と摺接する摺接面となる。更に、最終段である第2のリーフシール220における薄板群の低圧側である他側と対向する側面81gが、その低圧側側板225と当接する受圧面となる。
【0047】
また、凹溝81の底には、取付け用ピース182の外周面に周方向に沿って形成された補助突起182cと嵌合する補助凹溝81cが形成されていて、この補助凹溝81cに対しての高圧側に位置する外周面81bが、第1のリーフシール120の外周側に設けられる板バネ128と摺接する摺接面となり、他方の低圧側に位置する外周面81fが、第1のリーフシール120に隣接する第2のリーフシール220の外周側に設けられる板バネ228と摺接する摺接面となる。
【0048】
一方、取付け用ピース182は、回転軸4の軸方向において、外周側の幅が内周側の幅よりも狭くなるように、第1のリーフシール120における薄板群の低圧側である他側と対向する側面に段差が設けられるとともに、最終段である第2のリーフシール220における薄板群の高圧側である一側と対向する側面に段差が設けられた形状である。これらの段差のうち、高圧側領域の方に位置する段差の外周側の面182aが、第1のリーフシール120のリテーナ123の内周面と摺接する摺接面となり、低圧側領域の方に位置する段差の外周側の面182eが、第1のリーフシール120に隣接する第2のリーフシール220のリテーナ222の内周面と摺接する摺接面となる。更に、この取付け用ピース182は、回転軸4の軸方向での幅の広い内周側の部分において、第1のリーフシール120における薄板群の低圧側である他側と対向する側面182bが、その低圧側側板125と当接する受圧面となる。
【0049】
こうして、取付け用ピース182は、軸方向で互いに隣接する第1、第2のリーフシール120、220に共用となり、第1、第2のリーフシール120、220は、共用の取付け用ピース182と共に、ステータ60の凹溝81に対しその外周基端側で保持されることとなる。つまり、リテーナ122,123それぞれの内周面が、凹溝81の摺接面81a及び取付け用ピース182の摺接面182aと摺接するとともに、リテーナ122,123の外周側に固定された板バネ128が凹溝81の摺接面81bと摺接し、他方では、リテーナ222,223それぞれの内周面が、取付け用ピース182の摺接面182e及び凹溝81の摺接面81eと摺接するとともに、リテーナ222,223の外周側に固定された板バネ228が凹溝81の摺接面81fと摺接することで、第1、第2のリーフシール120、220がステータ60に対して嵌め込まれた状態で維持される。
【0050】
そして、共用の取付け用ピース182が、その内周面から径方向外方へ貫通するボルト183の締結によってステータ60に固定されることで、第1、第2のリーフシール120、220がステータ60に固定される。これにより、ステータ60に対するリーフシール120、220及び取付け用ピース182の固定状態が十分に安定して確保できる。
【0051】
このような構成にすれば、第1、第2のリーフシール120、220をステータ60に取り付けるための取付け用凹溝81が1つで済み、しかも、回転軸4の軸方向でのリーフシール120、220同士の間隔は、両者に共用の取付け用ピース182が収まる程度で足りる。従って、互いに隣接するリーフシール120、220同士の間隔を大幅に抑えることができ、これに伴って回転軸4の長さを抑えることが可能になり、流体機械の軸方向への大型化を招くことはない。また、その取付け用凹溝81をステータ60に形成するにあたって、その幅がリーフシール120、220及び取付け用ピース182をすべて含む寸法であることから、加工上で十分許容でき、その加工にはまったく支障はない。
【0052】
次に、本発明の第2実施形態について図2を参照しながら説明する。図2は第2実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。なお、図中で図1と同じ名称で同じ機能を果たす部分には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。後述する第3〜第7実施形態においても同様とする。本第2実施形態の特徴は、第1実施形態における取付け用ピース182の固定手法を変形した点にある。
【0053】
つまり本実施形態では、図2に示すように、ステータ60の凹溝81の底に形成された補助凹溝81cがあり溝形状になっていて、この補助凹溝81cに取付け用ピース182の補助突起182cが周方向に沿って嵌め込まれることで、そのまま、取付け用ピース182が第1、第2のリーフシール120、220と共にステータ60に固定される。
【0054】
このようにしても、ステータ60に対するリーフシール120、220及び取付け用ピース182の固定状態が十分に安定して確保できる。しかもこの場合、第1実施形態のようなボルト183が一切不要であることから、部品調達や組立工数に関する製造コストの低減に対して有利であるし、流体機械の運転に伴って生じ得るボルト183の緩みによる脱落の懸念も一切ないことから、流体機械の性能保障に対しても有利である。
【0055】
次に、本発明の第3実施形態について図3を参照しながら説明する。図3は第3実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。本第3実施形態の特徴は、第1、第2実施形態に対して部品点数の削減を図った点にある。なお、図3では第2実施形態の変形例を示している。
【0056】
つまり本実施形態では、図3に示すように、共用の取付け用ピース182と隣接する第1、第2のリーフシール120、220のうちの高圧側領域の方に位置する第1のリーフシール120の構成要素である低圧側のリテーナ123を取付け用ピース182と一体成形し、そのリテーナ123の機能を取付け用ピース182に兼用させるようにしている。これにより、部品としてのリテーナ123を削減でき、経済性に優位である。
【0057】
次に、本発明の第4実施形態について図4を参照しながら説明する。図4は第4実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。本第4実施形態の特徴は、第1実施形態における第1、第2のリーフシール120、220を分割環状のホルダ90を中間的に介在して、ステータ60に取り付けた点にある。
【0058】
つまり本実施形態では、図4に示すように、ステータ60の内周面には、ホルダ90を取り付けるための周方向に沿う環状の取付け用凹溝91が形成されている。一方、ホルダ90の内周面には、上記した第1実施形態と同様に、第1、第2のリーフシール120、220を取り付けるための周方向に沿う環状の取付け用凹溝81が1つだけ形成されている。第1、第2のリーフシール120、220は、共用の取付け用ピース182と一体で、ホルダ90の凹溝81に周方向に沿って嵌め込まれる。続いて、共用の取付け用ピース182が、ホルダ90の外周面から径方向内方へ貫通するボルト183の締結によってホルダ60に固定されることで、第1、第2のリーフシール120、220がホルダ60に十分に安定した状態で固定される。そして、このホルダ90はステータ60の凹溝91に周方向に沿って嵌め込まれる。こうして、ステータ60に対してリーフシール120、220及び取付け用ピース182が取り付けられる。
【0059】
このような構成にすれば、第1、第2のリーフシール120、220がホルダ90を介在してステータ60に取り付けられるわけであるが、第1実施形態と同様、それらのリーフシール120、220をホルダ90に取り付けるための取付け用凹溝81が1つで済み、しかも、回転軸4の軸方向でのリーフシール120、220同士の間隔は、両者に共用の取付け用ピース182が収まる程度で足りる。従って、互いに隣接するリーフシール120、220同士の間隔を大幅に抑えることができ、これに伴って回転軸4の長さを抑えることが可能になり、流体機械の軸方向への大型化を招くことはない。また、その取付け用凹溝81をホルダ90に形成するにあたって、その幅がリーフシール120、220及び取付け用ピース182をすべて含む寸法であることから、加工上で十分許容でき、その加工にはまったく支障はない。
【0060】
特に本実施形態では、取付け用ピース182をホルダ90に締結するボルト183が、ステータ60の凹溝81内に収容された格好になるため、例え大きく緩んだとしても、脱落に至ることはない。なお、上記した第1実施形態と同様にして、取付け用ピース182の内周面から径方向外方へ貫通するボルト183により、ホルダ90に対して取付け用ピース182を締結しても構わない。
【0061】
次に、本発明の第5実施形態について図5を参照しながら説明する。図5は第5実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。本第5実施形態の特徴は、第4実施形態における取付け用ピース182のボルト183による締結手法を変形した点にある。
【0062】
つまり本実施形態では、図5に示すように、ホルダ90の凹溝81に嵌め込まれた取付け用ピース182が、ホルダ90の側面から回転軸4の軸方向に沿って貫通するボルト183の締結によってホルダ60に固定される。
【0063】
このようにしても、ホルダ90に対するリーフシール120、220及び取付け用ピース182の固定状態が十分に安定して確保できる。しかもこの場合、ボルト183の負担できる許容強度を増すべくその径を太くすることが可能であることから、その所要本数を少なくしても、ホルダ90に対しての取付け用ピース182の安定的な固定を十分に確保できる。第4実施形態のような径方向でのボルト183による締結では、回転軸4の軸方向でのスペースの制約から、ボルト183の径の拡大は制限されるからである。
【0064】
次に、本発明の第6、第7実施形態について図6、図7に示す。図6、図7はそれぞれ第6、第7実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。第6実施形態では、図6に示すように、第1実施形態に対しての第2実施形態の変形態様と同様にして、第4、第5実施形態における取付け用ピース182の固定手法を変形している。第7実施形態では、図7に示すように、第1、第2実施形態に対しての第3実施形態の変形態様と同様にして、第4、第5実施形態に対しての部品点数の削減を図っている。
【0065】
なお、上記した各実施形態では、リーフシール20を2段に設置した構成について説明したが、3段以上であってもよい。その場合、互いに隣接するリーフシール20同士の間にそれぞれ取付け用ピース182を備えれば足りる。
【0066】
その他本発明は上記の各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、図8に示すガスタービンにリーフシールを採用しているものを例示しているが、それに限定されるものではなく、蒸気タービン、圧縮機、水車、冷凍機、ポンプ等の大型流体機械のように、軸の回転と作動流体の流動の関係でエネルギーを仕事に変換するものに広く採用することができる。また、回転軸の周面に沿った軸方向での作動流体の流動を抑えるためにも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、大型流体機械の回転軸に対しての軸シール機構として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図4】本発明の第4実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図5】本発明の第5実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図6】本発明の第6実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図7】本発明の第7実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図8】従来一般のリーフシールを備えた大型流体機械の一例であるガスタービンの構成を示す概略図である。
【図9】従来一般のリーフシールの基本構成を示す斜視図である。
【図10】従来一般のリーフシールを備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図11】従来一般のリーフシールの基本構成を示す回転軸の周方向に沿う側面図及び断面図である。
【図12】従来一般のリーフシールの構成要素である薄板の側面図である。
【図13】従来一般のリーフシールの作用を説明するための模式図である。
【図14】従来一般のリーフシールの作用を説明するための模式図である。
【図15】従来一般のリーフシールを環状に配置した状態を示す平面図である。
【図16】従来におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図17】従来におけるリーフシールを複数段備えた他の大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0069】
4 回転軸
20,120,220 リーフシール
21,121,221 薄板
22,23,122,123,222,223 リテーナ
24,124,224 高圧側側板
25,125,225 低圧側側板
28,128,228 板バネ
60 ステータ
61,81 取付け用凹溝
90 ホルダ
91 取付け用凹溝
182 取付け用ピース
183 ボルト
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン、蒸気タービン、圧縮機、水車、冷凍機、ポンプ等の大型流体機械の回転軸に対しての軸シール機構に関し、特に、回転軸の周面とこの回転軸に同軸状で静止した静止部材の内周面との隙間においての高圧側から低圧側への作動流体の漏れを抑える軸シール機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガスタービンや蒸気タービン等の大型流体機械においては、圧縮空気や燃焼ガスや蒸気等の作動流体(以下、単に「ガス」と記すことがある)を本質的に流動させる主流路以外に、回転軸の周面とこの回転軸に同軸状で静止した静止部材(例えば静翼の内周端を保持する環状部材)の内周面との間に環状の隙間が形成されるのは避けられない。その隙間に対して何ら工夫を施さなければ、その隙間を通じてガスが高圧側から低圧側へ向けて不用意に漏れ、結果として流体機械の効率が低下してしまう。従って、その隙間を通じたガスの漏れを最小限に抑えることは極めて重要であり、これを実現すべく、その隙間に軸シール機構が適用される。
【0003】
軸シール機構としては、従来一般には、静止部材の内周面から複数のフィンが突出して成る非接触型のいわゆるラビリンスシールが幅広く用いられる。しかし、ラビリンスシールでは、回転過渡期の軸振動や熱過渡的な熱変形時にもフィン先端が回転軸の周面に接触しないように構成する必要があるため、回転軸の周面とフィン先端との隙間をある程度確保しなければならず、その結果、ガスの漏れを大きく抑えることができないという問題がある。
【0004】
一方近年では、ガスの漏れ量を格段に低減できる軸シール機構として、回転軸の軸方向に一定幅を有する平板状の薄板を回転軸の周方向に多重に配置した構造となるいわゆるリーフシールがある(例えば特許文献1参照)。以下、このリーフシールの詳細構成について、図8〜図15を参照しながら説明していく。なお、ここではリーフシールが適用される大型流体機械として、その代表格であるガスタービンを一例に挙げて説明する。
【0005】
図8に示すガスタービンGtは、多量の空気を内部に取り込んで圧縮する圧縮機1と、圧縮機1にて圧縮された空気に燃料を混合して燃焼させる燃焼器2と、燃焼器2で発生した高温高圧の燃焼ガスが内部に導入されこの燃焼ガスの熱エネルギーを回転エネルギーに変換するタービン3と、タービン3の回転エネルギーを直接受けてその一部を圧縮機1の動力として伝達する回転軸4と、を有している。
【0006】
タービン3では、回転軸4に軸方向で複数段設けられた複数の動翼10が、吹き付けられた燃焼ガスの圧力を受けることで回転軸4と共に回転する。こうして、燃焼ガスの熱エネルギーを回転軸4の回転という機械的な回転エネルギーに変換して動力が発生する。回転軸4に与えられた回転エネルギーは軸端から取り出されて発電に利用される。また、タービン3には、回転軸4側の動翼10の他に、タービン3のケーシング9側に複数の静翼11が設けられていて、これら動翼10と静翼11とが、回転軸4の軸方向に交互に配置される。そして、回転軸4と静翼11(実際には、静翼11の内周端を保持する環状の静止部材)との間には、その隙間を通じて高圧側から低圧側へ漏れる燃焼ガスの漏れ量を低減するための軸シール機構として、リーフシール20が設けられる。
【0007】
また、圧縮機1は回転軸4にてタービン3と同軸につながれており、タービン3での回転軸4の回転を利用して、外気を吸引するとともに圧縮してこの圧縮空気を燃焼機2に供給する。圧縮機1でもタービン3と同様に、回転軸4に複数の動翼6と、圧縮機1のケーシング5側に複数の静翼7とが設けられており、動翼6と静翼7とが回転軸4の軸方向に交互に配置される。そして、回転軸4と静翼7(ここでも実際には、静翼7の内周端を保持する環状の静止部材)との間には、その隙間を通じて高圧側から低圧側に漏れる圧縮空気の漏れ量を低減するための軸シール機構として、リーフシール20が設けられる。
【0008】
更に、圧縮機1のケーシング5が回転軸4を支持する軸受け部8や、タービン3のケーシング9が回転軸4を支持する軸受け部12においても、その隙間を通じて高圧側から低圧側に圧縮空気や燃焼ガスが漏れるのを防止するための軸シール機構として、リーフシール20が設けられる。
【0009】
続いて図9及び図10に示すように、リーフシール20は、静翼7,11及び軸受け部912(図8参照)に相当する静止部材であるステータ60に挿入されて、回転軸4の周面とステータ60の内周面との隙間の環状空間におけるガスの漏れを防ぐための軸シール機構として設置される。このリーフシール20は、回転軸4の周方向に互いに微小隙間を隔てて多重に積み重ねられた複数の薄板21より成る環状の薄板群と(図11(a)参照)、この薄板群を薄板21の外周基端側において軸方向での両側から挟持する各々コの字型のリテーナ22,23と、薄板群における高圧側(ガス圧が高い側)に位置する一側と一方のリテーナ22とで挟み込まれて薄板群のその一側に接触する分割環状の高圧側側板24と、薄板群における低圧側(ガス圧が低い側)に位置する他側と他方のリテーナ23とで挟み込まれて薄板群のその他側に接触する分割環状の低圧側側板25と、リテーナ22,23同士を薄板21の外周側で接続する接続部材26と、リテーナ22,23で狭持された各薄板21のがたつきを抑制するスペーサ27と、リテーナ22,23で狭持された薄板群が回転軸4に対して一定位置となるように付勢力を与える板バネ28と、を備える。
【0010】
薄板群の構成要素である各薄板21は、図10に示すように、外周側基端における回転軸4の軸方向での幅が内周端側の幅に比べて広い略T字型の薄い鋼板によって構成され、その両側には、その幅の段差部分において切欠き部21a,21bが設けられる。ここで、各薄板21は、圧延成形された厚さ0.1mm程度の鋼板(例えばステンレス、インコネル、ハステロイ等の金属鋼板)を素材とし、これをプレス等によって型抜きすることで先ずは一定厚さの所定形状(T字型)に成形される。そして、図12に示すように、この薄板21の外周側基端部をそのまま残しつつ内周端側の片面のみ(図12の網掛け部分21dに相当)をエッチングして取り除くことで、その厚みに段差が形成される。但し、こうしたT字型の輪郭形成と段差形成とをエッチングによって同時に成形することも可能である。
【0011】
このような薄板21を回転軸4の軸方向に同一の幅となるように重ねるとともに、図11(b)に示すように、その外周基端及び外周基端側となる幅広部分の側面に溶接Wdを施して固定し、これにより薄板群が形成される。また、各薄板21はエッチングされた内周端側の板厚tで決まる所定の剛性を回転軸4の周方向に持つように設計されるとともに、回転軸4の回転方向に対して回転軸4の周面となす角θが鋭角となるようにリテーナ22,23で保持される。なお、薄板群においては、各薄板21のエッチングにて取り除かれる部分21dの深さcが、薄板21同士の微小隙間となる。
【0012】
高圧側側板24及び低圧側側板25には、それぞれの外周縁部において、回転軸4の軸方向に突出する突起24a,25aが設けられており、この突起24a,25aは、薄板群の切欠き部21a,21bにそれぞれ嵌め込まれる。また、高圧側に位置するリテーナ22は、薄板群における外周基端側の高圧側である一側に対向する面に凹溝22aを備え、他方の低圧側に位置するリテーナ23は、薄板群における外周基端側の低圧側である他側に対向する面に凹溝23aを備える。そして、切欠き部21a,21bに高圧側側板24及び低圧側側板25それぞれの突起24a,25aが嵌め込まれた薄板群は、その外周基端側の高圧側である一側がリテーナ22の凹溝22aに嵌め込まれるとともに、その外周基端側の低圧側である他側がリテーナ23の凹溝23aに嵌め込まれる。
【0013】
ここで、高圧側側板24は、その内径が回転軸の径よりも若干量大きく、低圧側側板25は、その内径が高圧側側板24の内径よりも所定量大きくなっている。従って、薄板群における各薄板21の内周端部は、高圧側である一側よりも低圧側である他側の方が軸方向での表出域がはるかに大きくなる。
【0014】
薄板群の外周基端側が嵌め込まれたリテーナ22,23の間には、接続部材26が挿入されるとともに、この接続部材26がリテーナ22,23と溶接されることで、リテーナ22,23が固定される。薄板群の外周基端とリテーナ22,23との間には、両者の隙間を埋めるスペーサ27が挿入される。更に、スペーサ27が挿入されたリテーナ22,23の外周側には凹溝22b,23bが設けられていて、この凹溝22b,23bによって形成される1つの凹溝に板バネ28が嵌め込まれ、これにより板バネ28がリテーナ22,23の外周側に固定される。
【0015】
このような構成のリーフシール20は、図10に示すように、分割環状の取付け用ピース62と一体で、ステータ60側の内周壁面に周方向に沿って形成された環状の取付け用凹溝61に、リテーナ22,23側から周方向に沿って嵌め込まれる。ここで、凹溝61は、回転軸4の軸方向において、底となる外周側の幅が内周側の幅よりも広くなるように、薄板群の高圧側である一側と対向する側面に段差が設けられた形状とし、この段差の外周側の面61aが、リーフシール20のリテーナ22の内周面と摺接する摺接面となる。更に、凹溝61の底である外周面61bが、リーフシール20の外周側に設けられる板バネ28と摺接する摺接面となる。また、凹溝61の内周側の幅は、回転軸4の軸方向の幅において、リーフシール20の幅よりも十分に広くなるように形成される。
【0016】
一方、取付け用ピース62は、回転軸4の軸方向において、図10に示すように、外周側の幅が内周側の幅よりも狭くなるように、薄板群の低圧側である他側と対向する側面に段差が設けられた形状とし、この段差の外周側の面62aが、リーフシール20のリテーナ23の内周面と摺接する摺接面となる。更に、この取付け用ピース62は、回転軸4の軸方向での幅の広い内周側の部分において、薄板群の低圧側である他側と対向する側面62bが、低圧側側板25と当接する受圧面となる。なお、この取付け用ピース62の内周面の一部を突出させた形状とすることで、ラビリンスシール62dを具備する。つまり、リーフシール20の下流側に取付け用ピース62が設置され、これにより、リーフシール20よりも下流において、ガスの漏れ量を更に低減させるラビリンスシール62dが設置されることとなる。
【0017】
このように、リーフシール20は、取付け用ピース62と共に、ステータ60の凹溝61に対しその外周基端側で保持されることとなる。つまり、リテーナ22,23それぞれの内周面が、凹溝61の摺接面61a及び取付け用ピース62の摺接面62aと摺接するとともに、リテーナ22,23の外周側に固定された板バネ28が凹溝61の摺接面61bと摺接することで、リーフシール20がステータ60に対して嵌め込まれた状態で維持される。ちなみに、取付け用ピース62を用いてリーフシール20がステータ60の凹溝61に嵌め込まれるため、その組み付け作業を容易に行うことができる。
【0018】
このとき、リーフシール20は、凹溝61内に対して、回転軸4の軸方向に若干の相対移動が可能である。そのため、高圧側領域から低圧側領域に向かってガスが流れるとき、そのガス圧がリーフシール20の各薄板21に作用するため、リーフシール20が低圧側領域に向かって移動し、後述するように、低圧側側板25が取付け用ピース62の受圧面62bと当接するようになる。
【0019】
引き続き、このように構成されるリーフシール20の作用について説明する。図13(a)に示すように、高圧側領域から低圧側領域に向かうガス圧が各薄板21に加わった場合に、各薄板21に対して、内周端側で且つ最も高圧側領域に位置する角部r1で最もガス圧が高く、対角の角部r2に向かって徐々にガス圧が弱まるガス圧分布70aが形成される。なお、図10では各薄板21をT字型形状としているが、図9や図13では、便宜上、撓みを生じる長方形部分のみを図示している。
【0020】
また、図13(b)に示す回転軸4の周方向に沿った断面図のように、各薄板21の回転軸4に面した面を下面21qとするとともに、その裏側を上面21pとする。そして、各薄板21に対して高圧側領域から低圧側領域に向かうガス圧が加わって、図13(a)のようなガス圧分布70aが形成されるとき、各薄板21の断面に沿った任意位置における上面21pに加わるガス圧よりも下面21qに加わるガス圧の方が高くなるように、ガス圧が調整される。
【0021】
このとき、高圧側領域から低圧側領域に向かって流れるガスgは、高圧側側板24と回転軸4の周面との間から流入する。そして、ガスgは、図13(a)のように、回転軸4の周面と薄板21の内周端との間を流れるとともに、互いに隣接する各薄板21の上面21p及び下面21qとの隙間に沿って、角部r1から角部r2の方向へ放射状に流れる。このようにガスgが流れることで、各薄板21の外周基端に向かって低圧の領域が広がる。そのため、図13(b)に示すように、各薄板21の上面21p及び下面21qに垂直に加わるガス圧分布70b,70cは、各薄板21の内周端部分に近いほど大きくなるとともに各薄板21の外周基端に向かうほど小さくなる三角分布形状となる。
【0022】
この上面21p及び下面21qそれぞれにおけるガス圧力分布70b,70cは、略等しい形状となるが、回転軸4の周面に対する角度θが鋭角となるように各薄板21が配置されているので、これら上面21p及び下面21qにおける各ガス圧分布70b,70cの相対位置が薄板21に対してずれる。これにより、薄板21の外周基端側から内周端側に向かう任意の点Pにおける上面21p及び下面21qのガス圧に差が生じる。こうして、各薄板21において、下面21qに加わるガス圧が上面21pに加わるガス圧よりも高くなることから、回転軸4の周面と薄板21の内周端との間を流れるガスのガス圧が、各薄板21の内周端を回転軸4より浮かせる方向に発生する。
【0023】
このように、各薄板21の上面21p及び下面21q間に圧力差を生じさせることで、各薄板21の内周端が回転軸4の周面より浮くように変形する。つまり、回転軸4の回転停止時には薄板21の内周端は所定の予圧で回転軸4の周面に接触しているが(図11(a)参照)、回転軸4の回転時には回転軸4が回転することで生じる動圧効果によって薄板21の内周端が浮上するため、薄板21と回転軸4の周面が非接触状態となる(図11(c)参照)。こうして、リーフシール20は、回転軸4の周囲の空間を高圧側領域と低圧側領域とに分け、回転軸4の外周をシールする。
【0024】
その際、このようにガスgが高圧側領域から低圧側領域に向かって流れるため、薄板群に対して、図14(a)に示すように、高圧側領域から低圧側領域に向かって流体力Fが作用する。この流体力Fを薄板群が受けることで、リーフシール20が高圧側領域から低圧側領域に向かって移動する。そして、図14(b)に示すように、低圧側側板25が取付け用ピース62の受圧面62bに当接することで、リーフシール20の位置が規制され、このとき、薄板群における低圧側である他側と取付け用ピース62の受圧面62bとの距離が、低圧側側板25の厚さと等しくなる。
【0025】
これは、低圧側側板25の内径が薄板群の内径よりも大きいため、薄板群における各薄板21の内周端側において、低圧側側板25と当接しない表出域が存在することになるからであり、その結果として、薄板群における各薄板21の内周端側において、低圧側である他側と取付け用ピース62の受圧面62bとの間に、低圧側側板25の厚さと等しい隙間を確保できるわけである。一方、高圧側側板24の内径が低圧側側板25の内径よりも小さいことから、結果として、薄板群における各薄板21の内周端側において、高圧側での表出域が低圧側での表出域よりも小さくなる。
【0026】
従って、図13(a)のように、高圧側側板24の内周面と回転軸4の周面との隙間を通じて各薄板21(薄板群)へ流入したガスgは、各薄板21の上面21p及び下面21qに沿って対角に向かって広く流れるとともに、薄板21の外周基端側に低圧の領域が広がって、各薄板21の内周端を回転軸4の周面から浮上させ、低圧側側板25の内周面と回転軸4の周面との隙間を通じて流出する。このように、高圧側側板24及び低圧側側板25は、各薄板21の内周端を有効に浮上させるべく、各薄板21へのガスの流入量やガス圧を調整するというリーフシール20にとって重要な機能を果たす。
【0027】
なお、上記のリーフシール20では、各薄板21をT字型形状としているが、単なる長方形状としても構わない。また、薄板群とリテーナ22,23との間にスペーサ27がないものとしても構わないし、リテーナ22,23と接続部材26とがボルトで固定されるものとしても構わないし、板バネ28がないものとしても構わない。
【0028】
また、リーフシール20を大型流体機械に組み付ける場合、環状の状態のまま回転軸4に軸方向に沿って挿入して取り付けることは困難であることから、回転軸4の周面に沿って環状に構成されるリーフシール20は、実際には、図15に示すように、その周方向に4〜8分割された複数の分割体より構成される。このとき、分割体個々の端面が回転軸4の回転方向に対して回転軸4の周面となす角度は、各薄板21が回転軸4の周面となす角度と等しい角度となる。
【特許文献1】特開2002−13647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
ところで、高圧側領域と低圧側領域の圧力差が極めて大きい個所のステータ60に、上記したリーフシール20を設置しようとする場合は、1つのリーフシール20では、その圧力差に耐えることが困難であるため、リーフシール20を回転軸4の軸方向に複数段に亘って設置し、これらのリーフシール20でその圧力差を分担するようにしている。その一例として、リーフシール20を2段に設置した状況を図16に示す。ここでは、高圧側領域から低圧側領域に向けて順に、第1段目のリーフシール120、及び最終段である第2段目のリーフシール220が設置される。
【0030】
第1段目のリーフシール120は、上記したリーフシール20の基本構成のもと、多数の薄板121が積み重ねられて成る薄板群と、高圧側側板124と、低圧側側板125と、がリテーナ123,124によって保持されて成るものであり、同様に、第2段目のリーフシール220は、多数の薄板221が積み重ねられて成る薄板群と、高圧側側板224と、低圧側側板225と、がリテーナ223,224によって保持されて成るものである。ステータ60の内周面には、第1、第2のリーフシール120、220それぞれを取り付けるための周方向に沿う環状の取付け用凹溝161、261が、回転軸4の軸方向に所定間隔をあけて形成されている。第1のリーフシール120は、分割環状の取付け用ピース162と一体で、凹溝161に周方向に沿って嵌め込まれ、同様に、第2のリーフシール220は、分割環状の取付け用ピース262と一体で、凹溝261に周方向に沿って嵌め込まれる。こうして第1、第2のリーフシール120、220がステータ60に固定される。
【0031】
また、別例として、図17に示すように、第1、第2のリーフシール120、220を分割環状のホルダ90を中間的に介在して、ステータ60に取り付ける場合もある。この場合、ステータ60の内周面には、ホルダ90を取り付けるための周方向に沿う環状の取付け用凹溝91が形成されている。一方、ホルダ90の内周面には、第1、第2のリーフシール120、220それぞれを取り付けるための周方向に沿う環状の取付け用凹溝161、261が、図16と同様に、回転軸4の軸方向に所定間隔をあけて形成されている。第1、第2のリーフシール120、220は、分割環状の各取付け用ピース162、262と一体で、各凹溝161、261に周方向に沿って嵌め込まれ、ホルダ90に固定される。そして、このホルダ90は凹溝91に周方向に沿って嵌め込まれる。こうして第1、第2のリーフシール120、220がステータ60に対して固定される。
【0032】
しかし、これらのような複数段のリーフシール20(第1、第2のリーフシール120、220)の設置態様では、リーフシール20ごとに、回転軸4の軸方向である程度幅広い凹溝61(凹溝161、261)を備える上、各凹溝61同士の間にもある程度のスペースの確保を必要とする、すなわちリーフシール20同士の間にある程度の間隔が必要であることから、必然的に回転軸4も長くなる。そうすると、これが適用される流体機械の軸方向への大型化を招き、回転軸4の軸振動の発生にも敏感になるという弊害がある。この問題は、リーフシール20の設置段数を増すほど顕著である。
【0033】
もっとも、各リーフシール20をこれ単体でステータ60やホルダ90に取り付けることが可能であれば、取付け用ピース62(取付け用ピース162、262)の分軸方向での幅を抑えることができるはずである。ところが現実には、特有の形状を有するリーフシール20単体を周方向に沿って収めることが可能な凹溝を形成するのは、加工上で不可能に近い。結局のところ、上記したように、加工上で無理のない程度で凹溝61を幅広く形成し、取付け用ピース62を持ってしてリーフシール20との隙間を埋めるようにしたわけである。
【0034】
そこで本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、リーフシールを複数段備えた軸シール機構であって、回転軸の長さを抑えることのできる軸シール機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0035】
上記目的を達成するため、本発明による軸シール機構は、回転軸の周面とこの回転軸に同軸状で静止した静止部材の内周面との隙間においての高圧側から低圧側への作動流体の漏れを抑える軸シール機構であって、前記回転軸の軸方向に一定幅を有し、各々が前記回転軸の周方向へ互いに微小隙間を隔てながら前記回転軸の周面に対して鋭角に積み重ねられつつ、各々の内周端が回転停止時の前記回転軸の周面に接触する可撓性のある多数の薄板より成る環状の薄板群と、この薄板群における軸方向での両側のうちの高圧側に位置する一側に当接し、前記回転軸の径よりも所定量大きい内径を有する環状の高圧側側板と、前記薄板群における軸方向での両側のうちの低圧側に位置する他側に当接し、前記高圧側側板の内径よりも所定量大きい内径を有する環状の低圧側側板と、前記薄板群、前記高圧側側板、及び前記低圧側側板をこれらの外周部で一体に保持する環状の保持部材と、より成る周方向に分割可能な軸シール部材を、前記静止部材に対して軸方向へ複数段取り付けた軸シール機構において、以下の点を特徴とする。
【0036】
第1の特徴点としては、前記静止部材の内周面に周方向に沿う取付け用溝が形成されていて、互いに隣接する前記各段の前記各軸シール部材同士の間に共用の取付け用部材を備えており、前記各シール部材及び前記各取付け用部材は、一体で前記取付け用溝に周方向に沿って嵌め込まれて前記静止部材に固定される。
【0037】
このようにすれば、複数の軸シール部材すなわちリーフシールを静止部材に取り付けるための取付け用溝が1つで済み、しかも、回転軸の軸方向でのリーフシール同士の間隔は、両者に共用の取付け用部材が収まる程度で足りる。従って、互いに隣接するリーフシール同士の間隔を大幅に抑えることができる。勿論、その取付け用溝を静止部材に形成するにあたって、その幅が加工上で十分許容できるリーフシール及び取付け用部材をすべて含む寸法であることから、その加工にはまったく支障はない。
【0038】
ここで、静止部材に対するリーフシール及び取付け用部材の固定状態の安定性を確保する観点から、前記各取付け用部材は、前記静止部材へ径方向に貫通するボルトで締結されて固定されることが好ましい。同様の観点から、前記各取付け用部材は、この外周面に周方向に沿って形成された補助突起が、前記取付け用溝の底に周方向に沿って形成された補助溝に嵌合して固定されてもよい。
【0039】
第2の特徴点としては、前記静止部材の内周面に周方向に沿う取付け用溝が形成されていて、内周面に周方向に沿う中間取付け用溝が形成された中間取付け用部材と、互いに隣接する前記各段の前記各軸シール部材同士の間に共用の取付け用部材とを備えており、前記各シール部材及び前記各取付け用部材は、一体で前記中間取付け用溝に周方向に沿って嵌め込まれて前記中間取付け用部材に固定され、前記各シール部材及び前記各取付け用部材が固定された前記中間取付け用部材は、前記取付け用溝に周方向に沿って嵌め込まれて前記静止部材に固定される。
【0040】
このようにすれば、複数の軸シール部材すなわちリーフシールが中間取付け用部材を介在して静止部材に取り付けられるわけであるが、それらのリーフシールを中間取付け用部材に取り付けるための取付け用溝が1つで済み、しかも、回転軸の軸方向でのリーフシール同士の間隔は、両者に共用の取付け用部材が収まる程度で足りる。従って、互いに隣接するリーフシール同士の間隔を大幅に抑えることができる。勿論、その取付け用溝を中間取付け用部材に形成するにあたって、その幅が加工上で十分許容できるリーフシール及び取付け用部材をすべて含む寸法であることから、その加工にはまったく支障はない。
【0041】
ここで、静止部材に対するリーフシール及び取付け用部材の固定状態の安定性を確保する観点から、前記各取付け用部材は、前記中間取付け用部材を径方向に貫通するボルトで締結されて固定されることが好ましい。同様の観点から、前記各取付け用部材は、前記中間取付け用部材を軸方向に貫通するボルトで締結されて固定されてもよいし、前記各取付け用部材は、この外周面に周方向に沿って形成された補助突起が、前記中間取付け用溝の底に周方向に沿って形成された中間補助溝に嵌合して固定されてもよい。
【0042】
また、シール機構全体としての部品点数を削減する目的で、前記各取付け用部材は、互いに隣接する前記各段の前記各シール部材を構成する前記保持部材の一部を兼ねることが好ましい。
【発明の効果】
【0043】
本発明の軸シール機構によれば、回転軸の軸方向で互いに隣接するリーフシール同士の間隔を大幅に抑えることができるため、これに伴って回転軸の長さを抑えることが可能になり、リーフシールが適用される流体機械の軸方向への大型化を招くことはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下に、本発明の実施形態であるリーフシールを採用した軸シール機構について、図面を参照しながら詳述する。先ず、本発明の第1実施形態について説明する。図1は第1実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。なお、図中で図8〜図17と同じ名称で同じ機能を果たす部分には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略するとともに、本発明の特徴点について特筆する。特に本実施形態では、リーフシール20を2段に設置した場合を一例として示す。後述する第2〜第7実施形態においても同様とする。
【0045】
図1に示すように、ステータ60には、回転軸4の軸方向に沿って高圧側領域から低圧側領域に向けて順に、第1段目のリーフシール120、及び最終段である第2段目のリーフシール220が設置される。ステータ60の内周面には、第1、第2のリーフシール120、220を取り付けるための周方向に沿う環状の取付け用凹溝81が1つだけ形成されている。第1、第2のリーフシール120、220は、これらの両者の間に軸方向で挟み込まれた分割環状の取付け用ピース182と一体で、凹溝81に周方向に沿って嵌め込まれる。
【0046】
ここで、凹溝81は、回転軸4の軸方向において、底となる外周側の幅が内周側の幅よりも広くなるように、第1のリーフシール120における薄板群の高圧側である一側と対向する側面に段差が設けられるとともに、最終段である第2のリーフシール220における薄板群の低圧側である他側と対向する側面に段差が設けられた形状である。これらの段差のうち、高圧側領域の方に位置する段差の外周側の面81aが、第1のリーフシール120のリテーナ122の内周面と摺接する摺接面となり、低圧側領域の方に位置する段差の外周側の面81eが、最終段である第2のリーフシール220のリテーナ223の内周面と摺接する摺接面となる。更に、最終段である第2のリーフシール220における薄板群の低圧側である他側と対向する側面81gが、その低圧側側板225と当接する受圧面となる。
【0047】
また、凹溝81の底には、取付け用ピース182の外周面に周方向に沿って形成された補助突起182cと嵌合する補助凹溝81cが形成されていて、この補助凹溝81cに対しての高圧側に位置する外周面81bが、第1のリーフシール120の外周側に設けられる板バネ128と摺接する摺接面となり、他方の低圧側に位置する外周面81fが、第1のリーフシール120に隣接する第2のリーフシール220の外周側に設けられる板バネ228と摺接する摺接面となる。
【0048】
一方、取付け用ピース182は、回転軸4の軸方向において、外周側の幅が内周側の幅よりも狭くなるように、第1のリーフシール120における薄板群の低圧側である他側と対向する側面に段差が設けられるとともに、最終段である第2のリーフシール220における薄板群の高圧側である一側と対向する側面に段差が設けられた形状である。これらの段差のうち、高圧側領域の方に位置する段差の外周側の面182aが、第1のリーフシール120のリテーナ123の内周面と摺接する摺接面となり、低圧側領域の方に位置する段差の外周側の面182eが、第1のリーフシール120に隣接する第2のリーフシール220のリテーナ222の内周面と摺接する摺接面となる。更に、この取付け用ピース182は、回転軸4の軸方向での幅の広い内周側の部分において、第1のリーフシール120における薄板群の低圧側である他側と対向する側面182bが、その低圧側側板125と当接する受圧面となる。
【0049】
こうして、取付け用ピース182は、軸方向で互いに隣接する第1、第2のリーフシール120、220に共用となり、第1、第2のリーフシール120、220は、共用の取付け用ピース182と共に、ステータ60の凹溝81に対しその外周基端側で保持されることとなる。つまり、リテーナ122,123それぞれの内周面が、凹溝81の摺接面81a及び取付け用ピース182の摺接面182aと摺接するとともに、リテーナ122,123の外周側に固定された板バネ128が凹溝81の摺接面81bと摺接し、他方では、リテーナ222,223それぞれの内周面が、取付け用ピース182の摺接面182e及び凹溝81の摺接面81eと摺接するとともに、リテーナ222,223の外周側に固定された板バネ228が凹溝81の摺接面81fと摺接することで、第1、第2のリーフシール120、220がステータ60に対して嵌め込まれた状態で維持される。
【0050】
そして、共用の取付け用ピース182が、その内周面から径方向外方へ貫通するボルト183の締結によってステータ60に固定されることで、第1、第2のリーフシール120、220がステータ60に固定される。これにより、ステータ60に対するリーフシール120、220及び取付け用ピース182の固定状態が十分に安定して確保できる。
【0051】
このような構成にすれば、第1、第2のリーフシール120、220をステータ60に取り付けるための取付け用凹溝81が1つで済み、しかも、回転軸4の軸方向でのリーフシール120、220同士の間隔は、両者に共用の取付け用ピース182が収まる程度で足りる。従って、互いに隣接するリーフシール120、220同士の間隔を大幅に抑えることができ、これに伴って回転軸4の長さを抑えることが可能になり、流体機械の軸方向への大型化を招くことはない。また、その取付け用凹溝81をステータ60に形成するにあたって、その幅がリーフシール120、220及び取付け用ピース182をすべて含む寸法であることから、加工上で十分許容でき、その加工にはまったく支障はない。
【0052】
次に、本発明の第2実施形態について図2を参照しながら説明する。図2は第2実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。なお、図中で図1と同じ名称で同じ機能を果たす部分には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。後述する第3〜第7実施形態においても同様とする。本第2実施形態の特徴は、第1実施形態における取付け用ピース182の固定手法を変形した点にある。
【0053】
つまり本実施形態では、図2に示すように、ステータ60の凹溝81の底に形成された補助凹溝81cがあり溝形状になっていて、この補助凹溝81cに取付け用ピース182の補助突起182cが周方向に沿って嵌め込まれることで、そのまま、取付け用ピース182が第1、第2のリーフシール120、220と共にステータ60に固定される。
【0054】
このようにしても、ステータ60に対するリーフシール120、220及び取付け用ピース182の固定状態が十分に安定して確保できる。しかもこの場合、第1実施形態のようなボルト183が一切不要であることから、部品調達や組立工数に関する製造コストの低減に対して有利であるし、流体機械の運転に伴って生じ得るボルト183の緩みによる脱落の懸念も一切ないことから、流体機械の性能保障に対しても有利である。
【0055】
次に、本発明の第3実施形態について図3を参照しながら説明する。図3は第3実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。本第3実施形態の特徴は、第1、第2実施形態に対して部品点数の削減を図った点にある。なお、図3では第2実施形態の変形例を示している。
【0056】
つまり本実施形態では、図3に示すように、共用の取付け用ピース182と隣接する第1、第2のリーフシール120、220のうちの高圧側領域の方に位置する第1のリーフシール120の構成要素である低圧側のリテーナ123を取付け用ピース182と一体成形し、そのリテーナ123の機能を取付け用ピース182に兼用させるようにしている。これにより、部品としてのリテーナ123を削減でき、経済性に優位である。
【0057】
次に、本発明の第4実施形態について図4を参照しながら説明する。図4は第4実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。本第4実施形態の特徴は、第1実施形態における第1、第2のリーフシール120、220を分割環状のホルダ90を中間的に介在して、ステータ60に取り付けた点にある。
【0058】
つまり本実施形態では、図4に示すように、ステータ60の内周面には、ホルダ90を取り付けるための周方向に沿う環状の取付け用凹溝91が形成されている。一方、ホルダ90の内周面には、上記した第1実施形態と同様に、第1、第2のリーフシール120、220を取り付けるための周方向に沿う環状の取付け用凹溝81が1つだけ形成されている。第1、第2のリーフシール120、220は、共用の取付け用ピース182と一体で、ホルダ90の凹溝81に周方向に沿って嵌め込まれる。続いて、共用の取付け用ピース182が、ホルダ90の外周面から径方向内方へ貫通するボルト183の締結によってホルダ60に固定されることで、第1、第2のリーフシール120、220がホルダ60に十分に安定した状態で固定される。そして、このホルダ90はステータ60の凹溝91に周方向に沿って嵌め込まれる。こうして、ステータ60に対してリーフシール120、220及び取付け用ピース182が取り付けられる。
【0059】
このような構成にすれば、第1、第2のリーフシール120、220がホルダ90を介在してステータ60に取り付けられるわけであるが、第1実施形態と同様、それらのリーフシール120、220をホルダ90に取り付けるための取付け用凹溝81が1つで済み、しかも、回転軸4の軸方向でのリーフシール120、220同士の間隔は、両者に共用の取付け用ピース182が収まる程度で足りる。従って、互いに隣接するリーフシール120、220同士の間隔を大幅に抑えることができ、これに伴って回転軸4の長さを抑えることが可能になり、流体機械の軸方向への大型化を招くことはない。また、その取付け用凹溝81をホルダ90に形成するにあたって、その幅がリーフシール120、220及び取付け用ピース182をすべて含む寸法であることから、加工上で十分許容でき、その加工にはまったく支障はない。
【0060】
特に本実施形態では、取付け用ピース182をホルダ90に締結するボルト183が、ステータ60の凹溝81内に収容された格好になるため、例え大きく緩んだとしても、脱落に至ることはない。なお、上記した第1実施形態と同様にして、取付け用ピース182の内周面から径方向外方へ貫通するボルト183により、ホルダ90に対して取付け用ピース182を締結しても構わない。
【0061】
次に、本発明の第5実施形態について図5を参照しながら説明する。図5は第5実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。本第5実施形態の特徴は、第4実施形態における取付け用ピース182のボルト183による締結手法を変形した点にある。
【0062】
つまり本実施形態では、図5に示すように、ホルダ90の凹溝81に嵌め込まれた取付け用ピース182が、ホルダ90の側面から回転軸4の軸方向に沿って貫通するボルト183の締結によってホルダ60に固定される。
【0063】
このようにしても、ホルダ90に対するリーフシール120、220及び取付け用ピース182の固定状態が十分に安定して確保できる。しかもこの場合、ボルト183の負担できる許容強度を増すべくその径を太くすることが可能であることから、その所要本数を少なくしても、ホルダ90に対しての取付け用ピース182の安定的な固定を十分に確保できる。第4実施形態のような径方向でのボルト183による締結では、回転軸4の軸方向でのスペースの制約から、ボルト183の径の拡大は制限されるからである。
【0064】
次に、本発明の第6、第7実施形態について図6、図7に示す。図6、図7はそれぞれ第6、第7実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。第6実施形態では、図6に示すように、第1実施形態に対しての第2実施形態の変形態様と同様にして、第4、第5実施形態における取付け用ピース182の固定手法を変形している。第7実施形態では、図7に示すように、第1、第2実施形態に対しての第3実施形態の変形態様と同様にして、第4、第5実施形態に対しての部品点数の削減を図っている。
【0065】
なお、上記した各実施形態では、リーフシール20を2段に設置した構成について説明したが、3段以上であってもよい。その場合、互いに隣接するリーフシール20同士の間にそれぞれ取付け用ピース182を備えれば足りる。
【0066】
その他本発明は上記の各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、図8に示すガスタービンにリーフシールを採用しているものを例示しているが、それに限定されるものではなく、蒸気タービン、圧縮機、水車、冷凍機、ポンプ等の大型流体機械のように、軸の回転と作動流体の流動の関係でエネルギーを仕事に変換するものに広く採用することができる。また、回転軸の周面に沿った軸方向での作動流体の流動を抑えるためにも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、大型流体機械の回転軸に対しての軸シール機構として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図4】本発明の第4実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図5】本発明の第5実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図6】本発明の第6実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図7】本発明の第7実施形態におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図8】従来一般のリーフシールを備えた大型流体機械の一例であるガスタービンの構成を示す概略図である。
【図9】従来一般のリーフシールの基本構成を示す斜視図である。
【図10】従来一般のリーフシールを備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図11】従来一般のリーフシールの基本構成を示す回転軸の周方向に沿う側面図及び断面図である。
【図12】従来一般のリーフシールの構成要素である薄板の側面図である。
【図13】従来一般のリーフシールの作用を説明するための模式図である。
【図14】従来一般のリーフシールの作用を説明するための模式図である。
【図15】従来一般のリーフシールを環状に配置した状態を示す平面図である。
【図16】従来におけるリーフシールを複数段備えた大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【図17】従来におけるリーフシールを複数段備えた他の大型流体機械の要部を示す回転軸の軸方向に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0069】
4 回転軸
20,120,220 リーフシール
21,121,221 薄板
22,23,122,123,222,223 リテーナ
24,124,224 高圧側側板
25,125,225 低圧側側板
28,128,228 板バネ
60 ステータ
61,81 取付け用凹溝
90 ホルダ
91 取付け用凹溝
182 取付け用ピース
183 ボルト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の周面とこの回転軸に同軸状で静止した静止部材の内周面との隙間においての高圧側から低圧側への作動流体の漏れを抑える軸シール機構であって、
前記回転軸の軸方向に一定幅を有し、各々が前記回転軸の周方向へ互いに微小隙間を隔てながら前記回転軸の周面に対して鋭角に積み重ねられつつ、各々の内周端が回転停止時の前記回転軸の周面に接触する可撓性のある多数の薄板より成る環状の薄板群と、この薄板群における軸方向での両側のうちの高圧側に位置する一側に当接し、前記回転軸の径よりも所定量大きい内径を有する環状の高圧側側板と、前記薄板群における軸方向での両側のうちの低圧側に位置する他側に当接し、前記高圧側側板の内径よりも所定量大きい内径を有する環状の低圧側側板と、前記薄板群、前記高圧側側板、及び前記低圧側側板をこれらの外周部で一体に保持する環状の保持部材と、より成る周方向に分割可能な軸シール部材を、前記静止部材に対して軸方向へ複数段取り付けた軸シール機構において、
前記静止部材の内周面に周方向に沿う取付け用溝が形成されていて、互いに隣接する前記各段の前記各軸シール部材同士の間に共用の取付け用部材を備えており、
前記各シール部材及び前記各取付け用部材は、一体で前記取付け用溝に周方向に沿って嵌め込まれて前記静止部材に固定されたことを特徴とする軸シール機構。
【請求項2】
前記各取付け用部材は、前記静止部材へ径方向に貫通するボルトで締結されて固定されたことを特徴とする請求項1に記載の軸シール機構。
【請求項3】
前記各取付け用部材は、この外周面に周方向に沿って形成された補助突起が、前記取付け用溝の底に周方向に沿って形成された補助溝に嵌合して固定されたことを特徴とする請求項1に記載の軸シール機構。
【請求項4】
回転軸の周面とこの回転軸に同軸状で静止した静止部材の内周面との隙間においての高圧側から低圧側への作動流体の漏れを抑える軸シール機構であって、
前記回転軸の軸方向に一定幅を有し、各々が前記回転軸の周方向へ互いに微小隙間を隔てながら前記回転軸の周面に対して鋭角に積み重ねられつつ、各々の内周端が回転停止時の前記回転軸の周面に接触する可撓性のある多数の薄板より成る環状の薄板群と、この薄板群における軸方向での両側のうちの高圧側に位置する一側に当接し、前記回転軸の径よりも所定量大きい内径を有する環状の高圧側側板と、前記薄板群における軸方向での両側のうちの低圧側に位置する他側に当接し、前記高圧側側板の内径よりも所定量大きい内径を有する環状の低圧側側板と、前記薄板群、前記高圧側側板、及び前記低圧側側板をこれらの外周部で一体に保持する環状の保持部材と、より成る周方向に分割可能な軸シール部材を、前記静止部材に対して軸方向へ複数段取り付けた軸シール機構において、
前記静止部材の内周面に周方向に沿う取付け用溝が形成されていて、内周面に周方向に沿う中間取付け用溝が形成された中間取付け用部材と、互いに隣接する前記各段の前記各軸シール部材同士の間に共用の取付け用部材とを備えており、
前記各シール部材及び前記各取付け用部材は、一体で前記中間取付け用溝に周方向に沿って嵌め込まれて前記中間取付け用部材に固定され、前記各シール部材及び前記各取付け用部材が固定された前記中間取付け用部材は、前記取付け用溝に周方向に沿って嵌め込まれて前記静止部材に固定されたことを特徴とする軸シール機構。
【請求項5】
前記各取付け用部材は、前記中間取付け用部材を径方向に貫通するボルトで締結されて固定されたことを特徴とする請求項4に記載の軸シール機構。
【請求項6】
前記各取付け用部材は、前記中間取付け用部材を軸方向に貫通するボルトで締結されて固定されたことを特徴とする請求項4に記載の軸シール機構。
【請求項7】
前記各取付け用部材は、この外周面に周方向に沿って形成された補助突起が、前記中間取付け用溝の底に周方向に沿って形成された中間補助溝に嵌合して固定されたことを特徴とする請求項4に記載の軸シール機構。
【請求項8】
前記各取付け用部材は、互いに隣接する前記各段の前記各シール部材を構成する前記保持部材の一部を兼ねることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の軸シール機構。
【請求項1】
回転軸の周面とこの回転軸に同軸状で静止した静止部材の内周面との隙間においての高圧側から低圧側への作動流体の漏れを抑える軸シール機構であって、
前記回転軸の軸方向に一定幅を有し、各々が前記回転軸の周方向へ互いに微小隙間を隔てながら前記回転軸の周面に対して鋭角に積み重ねられつつ、各々の内周端が回転停止時の前記回転軸の周面に接触する可撓性のある多数の薄板より成る環状の薄板群と、この薄板群における軸方向での両側のうちの高圧側に位置する一側に当接し、前記回転軸の径よりも所定量大きい内径を有する環状の高圧側側板と、前記薄板群における軸方向での両側のうちの低圧側に位置する他側に当接し、前記高圧側側板の内径よりも所定量大きい内径を有する環状の低圧側側板と、前記薄板群、前記高圧側側板、及び前記低圧側側板をこれらの外周部で一体に保持する環状の保持部材と、より成る周方向に分割可能な軸シール部材を、前記静止部材に対して軸方向へ複数段取り付けた軸シール機構において、
前記静止部材の内周面に周方向に沿う取付け用溝が形成されていて、互いに隣接する前記各段の前記各軸シール部材同士の間に共用の取付け用部材を備えており、
前記各シール部材及び前記各取付け用部材は、一体で前記取付け用溝に周方向に沿って嵌め込まれて前記静止部材に固定されたことを特徴とする軸シール機構。
【請求項2】
前記各取付け用部材は、前記静止部材へ径方向に貫通するボルトで締結されて固定されたことを特徴とする請求項1に記載の軸シール機構。
【請求項3】
前記各取付け用部材は、この外周面に周方向に沿って形成された補助突起が、前記取付け用溝の底に周方向に沿って形成された補助溝に嵌合して固定されたことを特徴とする請求項1に記載の軸シール機構。
【請求項4】
回転軸の周面とこの回転軸に同軸状で静止した静止部材の内周面との隙間においての高圧側から低圧側への作動流体の漏れを抑える軸シール機構であって、
前記回転軸の軸方向に一定幅を有し、各々が前記回転軸の周方向へ互いに微小隙間を隔てながら前記回転軸の周面に対して鋭角に積み重ねられつつ、各々の内周端が回転停止時の前記回転軸の周面に接触する可撓性のある多数の薄板より成る環状の薄板群と、この薄板群における軸方向での両側のうちの高圧側に位置する一側に当接し、前記回転軸の径よりも所定量大きい内径を有する環状の高圧側側板と、前記薄板群における軸方向での両側のうちの低圧側に位置する他側に当接し、前記高圧側側板の内径よりも所定量大きい内径を有する環状の低圧側側板と、前記薄板群、前記高圧側側板、及び前記低圧側側板をこれらの外周部で一体に保持する環状の保持部材と、より成る周方向に分割可能な軸シール部材を、前記静止部材に対して軸方向へ複数段取り付けた軸シール機構において、
前記静止部材の内周面に周方向に沿う取付け用溝が形成されていて、内周面に周方向に沿う中間取付け用溝が形成された中間取付け用部材と、互いに隣接する前記各段の前記各軸シール部材同士の間に共用の取付け用部材とを備えており、
前記各シール部材及び前記各取付け用部材は、一体で前記中間取付け用溝に周方向に沿って嵌め込まれて前記中間取付け用部材に固定され、前記各シール部材及び前記各取付け用部材が固定された前記中間取付け用部材は、前記取付け用溝に周方向に沿って嵌め込まれて前記静止部材に固定されたことを特徴とする軸シール機構。
【請求項5】
前記各取付け用部材は、前記中間取付け用部材を径方向に貫通するボルトで締結されて固定されたことを特徴とする請求項4に記載の軸シール機構。
【請求項6】
前記各取付け用部材は、前記中間取付け用部材を軸方向に貫通するボルトで締結されて固定されたことを特徴とする請求項4に記載の軸シール機構。
【請求項7】
前記各取付け用部材は、この外周面に周方向に沿って形成された補助突起が、前記中間取付け用溝の底に周方向に沿って形成された中間補助溝に嵌合して固定されたことを特徴とする請求項4に記載の軸シール機構。
【請求項8】
前記各取付け用部材は、互いに隣接する前記各段の前記各シール部材を構成する前記保持部材の一部を兼ねることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の軸シール機構。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−112512(P2006−112512A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300123(P2004−300123)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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