説明

軸受回転状態計測方法

【課題】内外輪がともに回転している場合であっても、その回転状態を正確且つ確実に計測可能なことに加えて、軸受に対する異常発生有無の診断精度を向上させることが可能な軸受回転状態計測方法を提供する。
【解決手段】少なくとも一方が他方に対して相対回転可能に対向して配置された一対の軌道輪2,4と、当該軌道輪間に転動自在に組み込まれた複数の転動体6と、当該転動体を回転自在に保持する保持器8とを備えた転がり軸受Aの回転状態を計測するための軸受回転状態計測方法であって、複数の転動体のうちの1つは、磁性材を着磁して成るセンサ転動体6sとして、非磁性材で成る保持器に保持されて軌道輪間に組み込まれており、前記センサ転動体が発する磁気を集磁して誘導電圧として検出し、当該誘導電圧に基づく誘導電圧信号の出力状態を測定することで、転がり軸受の回転状態を計測している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ジェットエンジンやガスタービンエンジンなどの主軸を支持する転がり軸受において、軸受の回転状態(例えば、転動体の自転数や公転数など)を計測するための軸受回転状態計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、ジェットエンジンやガスタービンエンジンなどの主軸を支持する転がり軸受の回転状態を計測するための各種の方法が知られている。例えば、特許文献1には、一例として、転がり軸受の転動体の自転数や公転数を計測するための方法が開示されている。
【0003】
図3には、かかる方法を実施するためのセンサ機能を有する、センサ付き転がり軸受の構成の一例が示されている。この場合、転がり軸受には、内輪50を主軸(図示しない)とともに回転する回転輪、外輪52を常時非回転状態に維持される静止輪として、当該内外輪50,52が対向配置されており、内外輪50,52間へ転動可能に複数の転動体(玉)54が保持器56によって保持された状態で組み込まれている。
【0004】
また、図3に示す構成において、転がり軸受には、外周面58aにコイル(サーチコイル)60が巻き付けられた樹脂製リング58が設けられており、当該樹脂製リング58は、その内周面58bを静止輪である外輪52の外周面52aに当接させて、当該外輪52に外嵌固定されている。なお、サーチコイル60は、樹脂製リング58を省略し、外輪52の外周面52aに直接巻き付けて構成される場合もある。
【0005】
さらに、保持器56には、一方側の端面(図3では、下側端面)の所定位置に鉄片62が取り付けられているとともに、その先端部66aを鉄片62と対向可能に位置付けた棒状磁石66が配設されている。この場合には、棒状磁石66の外周面にコイル64が直接巻き付けられている。
【0006】
かかる転がり軸受(センサ付き軸受)において、内外輪50,52間に組み込まれた複数の転動体(玉)54のうち、1個の転動体(玉)54のみが、磁性を有する転動体(玉)として構成されている。そして、当該磁性を有する転動体(玉)54が自転しながら内外輪50,52間を公転する際、棒状磁石66との間の磁界変化に伴って生じる誘導電圧をサーチコイル60により検出することで、転動体(玉)の回転状態(自転数や公転数など)を計測することができる。
【特許文献1】米国特許第4661773号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ジェットエンジンやガスタービンエンジンなどの主軸を支持するセンサ付き軸受は、内外輪50,52が同時に回転する、すなわち、内外輪50,52がいずれも回転輪として構成される場合がある。この場合、例えば、外輪52の外周面58aに設けられたサーチコイル60は、当該外輪52が回転することにより、遠心力を継続的に受けることとなり、当該遠心力の程度によっては、損傷してしまう場合がある。
【0008】
したがって、内外輪50,52がいずれも回転するセンサ付き軸受に対しても、サーチコイル60の耐用性を高めながら、軸受製造コストの上昇を抑えるための方策や、その回転状態(例えば、転動体(玉)の自転数や公転数など)を計測するための計測部(センサ部)を一体的に組み込むことで、軸受の取り扱いを容易にするための方策などが必要となる。
【0009】
また、転動体(玉)54の回転状態(自転数や公転数など)の計測用に磁化された(磁性を持たせた)1個の転動体(玉)54は、その材料として軸受鋼が用いられているため、十分な残留磁気が得られない場合がある。この結果、かかる軸受鋼製の転動体(玉)54を用いて、その自転数や公転数など)を計測した場合、当該軸受鋼製の転動体(玉)54が発する回転信号が微弱であるため、SN比(信号電力対雑音電力比)が悪くなってしまう場合がある。すなわち、当該回転信号が雑音(ノイズ)に紛れてしまい、当該回転信号を確実に検出できなくなってしまう場合がある。
【0010】
さらに、転がり軸受が定常運転(回転)している際、例えば、内外輪50,52の軌道面(レース面)の一部に微小な剥離などの損傷が発生した場合、転動体(玉)54の自転数や公転数に極小さな変化が生じる。しかしながら、転動体(玉)54の回転状態を計測する際、その自転数や公転数の平均値だけを測定していたのでは、かかる初期の極軽微な損傷発生による自転数や公転数の極小さな変化を正確に検知することができない場合があり、このような軸受に対して発生した損傷を見逃してしまう虞がある。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、内外輪のいずれかが回転している場合のみならず、内外輪がともに回転している場合であっても、その回転状態を正確に且つ確実に計測可能なことに加えて、軸受に対して異常が発生しているか否かの診断精度を向上させることが可能な軸受回転状態計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明に係る軸受回転状態計測方法は、少なくとも一方が他方に対して相対回転可能に対向して配置された一対の軌道輪と、当該軌道輪間に転動自在に組み込まれた複数の転動体と、当該転動体を回転自在に保持する保持器とを備えた転がり軸受をその計測対象としている。この場合、計測対象の軸受において、複数の転動体のうちの1つは、磁性材を着磁して成るセンサ転動体として、非磁性材で成る保持器に保持されて軌道輪間に組み込まれている。そして、前記センサ転動体が発する磁気を集磁して誘導電圧として検出し、当該誘導電圧に基づく誘導電圧信号の出力状態を測定することで、転がり軸受の回転状態を計測している。
【0013】
なお、転がり軸受の回転状態の計測は、各軌道輪との間に所定の間隔を空けて配設されたセンサによって行われており、当該センサには、所定の透磁率を有する軟磁性材を材料として形成され、センサ転動体が発する磁気を集めるための集磁板と、当該集磁板に集められた磁気を誘導電圧として検出し、当該誘導電圧に基づく誘導電圧信号を出力するための磁気検出部とが設けられている。
この場合、センサ転動体は、磁性材を2極以上に多極着磁して形成されている。また、センサ転動体は、その材料として、保磁力が15エルステッドよりも大きな硬磁性材を用いて形成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の軸受回転状態計測方法によれば、内外輪のいずれかが回転している場合のみならず、内外輪がともに回転している場合であっても、その回転状態を正確に且つ確実に計測することができる。加えて、軸受に対して異常が発生しているか否かの診断精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る軸受回転状態計測方法について、添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、一対の軌道輪(内輪及び外輪)のいずれか一方のみが他方に対して回転する構成の転がり軸受における回転状態、並びに、双方の軌道輪が回転する構成の転がり軸受における回転状態を計測するための方法として適用することができる。すなわち、本発明によれば、内輪が回転輪、外輪が静止輪として構成されている場合、内輪が静止輪、外輪が回転輪として構成されている場合、及び内外輪がともに回転輪として構成されている場合のいずれの場合であっても、かかる軸受の回転状態を計測することができる。
このため、ここでは、内外輪がともに回転輪として構成されている場合を一例として想定し、かかる構成の転がり軸受における回転状態の計測方法について、以下、説明する。
【0016】
図1(a)には、本発明に係る軸受回転状態計測方法の一実施形態が示されており、その計測対象の転がり軸受Aは、少なくとも一方が他方に対して相対回転可能に対向して配置された一対の軌道輪(内輪2及び外輪4)と、当該軌道輪2,4間に転動自在に組み込まれた複数の転動体(ころ)6と、当該転動体(ころ)6を回転自在に保持する保持器8とを備えている。図1(a)に示す構成においては、一例として、内輪2が内輪軸S2とともに回転する回転輪として構成され、一方、外輪4も外輪軸S4とともに回転する回転輪として構成されている。
【0017】
別の捉え方をすれば、内輪軸S2及び外輪軸S4は、いずれも軸受Aによって回転自在に支持された回転軸として構成されている。この場合、内輪軸2は、その外径が内輪2の内径と略同一を成し、所定長さで延出した円柱状に形成されており、その外周面60には、周方向に沿って連続したフランジ部62が設けられている。そして、内輪2は、一方側の端面(図1(a)の左端面)2bをフランジ部62に当接させて内輪軸S2に外嵌されることで、軸方向(図1(a)の左右方向)に位置決め固定されている。
【0018】
一方、外輪軸S4は、その内径が外輪4の外径と略同一を成し、所定長さで延出した略円筒状に形成されており、その内周面80には、周方向に沿って連続した段部82が設けられている。そして、外輪4は、一方側の端面(図1(a)の左端面)4bを段部82に当接させて外輪軸S4に内嵌されることで、軸方向(図1(a)の左右方向)に位置決め固定されている。
【0019】
なお、内輪軸S2及び外輪軸S4の構成(径や長さ、フランジ部62及び段部82の大きさや形状など)は、例えば、ジェットエンジンやガスタービンエンジンなどの大きさに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。
【0020】
また、上述したように、軸受Aは、内輪2を回転輪とし、外輪4を静止輪として構成してもよい。すなわち、この場合、内輪軸S2は回転軸として構成され、外輪軸S4は固定軸として構成される。また、軸受Aは、内輪2を静止輪とし、外輪4を回転輪として構成してもよい。すなわち、この場合、内輪軸S2は固定軸として構成され、外輪軸S4は回転軸として構成される。
【0021】
かかる軸受Aにおいて、内輪2には、その外周面に両端部(図1(a)の左端部及び右端部)を一対の鍔部で挟まれた軌道面(内輪軌道面)2rが形成されており、外輪4には、その内周面に当該内輪軌道面2rに対向して軌道面(外輪軌道面)4rが形成されている。
なお、この場合、内輪軌道面2rは、内輪軸S2と平行を成して形成され、外輪軌道面4rは、外輪軸S4と平行を成して形成されているとともに、両軌道面2r,4rが相互に平行を成すように、内外輪2,4が位置付けられている。また、外輪4は、軸方向(図1(a)の左右方向)の幅が、内輪2の軸方向(同図の同方向)の幅よりも大きな所定の幅を成すように構成されている。
【0022】
なお、内外輪2,4の構成(大きさや形状など)は、例えば、軸受Aの大きさなどに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。例えば、内輪2に代えて、あるいは、内輪2とともに、外輪4に対し、外輪軌道面4rの両端部(図1(a)の左端部及び右端部)へ一対の鍔部を設けてもよい。また、内輪軌道面2r及び外輪軌道面4rを相互に平行して対向する傾斜面状に形成してもよい。さらにまた、外輪4は、軸方向(図1(a)の左右方向)の幅が、内輪2の軸方向(同図の同方向)の幅よりも小さな所定の幅を成すように構成してもよいし、当該内輪2の幅と同一の幅を成すように構成してもよい。
【0023】
かかる軸受Aにおいて、複数の転動体(ころ)6のうちの1つは、磁性材を着磁して成るセンサ転動体(ころ)6sとして構成されている。なお、センサ転動体(ころ)6sは、所定の磁性を有する任意の素材を材料として形成することができるため、ここでは、具体的な素材について特に限定しない。例えば、その材料として、保磁力(残留磁気をゼロにするために加える逆向きの外部磁気の大きさ)が15エルステッド(約1.2キロアンペア毎メートル)よりも大きな硬磁性材を用いて、センサ転動体(ころ)6sを形成すればよい。この場合、一例として、センサ転動体(ころ)6sは、キュリー点が770℃の炭素鋼(0.9C,1Mn,Fe(質量%))を材料として形成することができる。
【0024】
また、センサ転動体(ころ)6sを着磁させる場合、単極着磁させてもよいし、2極以上に多極着磁させてもよいが、本実施形態においては、一例として、センサ転動体(ころ)6sが多極着磁(例えば、6極)されている場合を想定する。
【0025】
なお、複数の転動体(ころ)6のうち、センサ転動体(ころ)6s以外の転動体(ころ)6は、任意の素材を材料として形成することができるため、ここでは、具体的な素材について特に限定しない。ただし、かかる転動体(ころ)6は、センサ転動体(ころ)6sの磁性及び当該センサ転動体(ころ)6sが自転することに伴う磁界変化によって生じる誘導電圧に影響を与えることのない素材(例えば、後述する保持器8と同様の非磁性材など)を材料として形成する必要がある。
【0026】
また、センサ転動体(ころ)6s、及びこれ以外の転動体(ころ)6の大きさ及び形状は、例えば、軸受Aの大きさなどに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。ただし、センサ転動体(ころ)6sを含めた全ての転動体(ころ)6は、同一の大きさ(寸法)及び同一の形状に形成する必要がある。
【0027】
さらにまた、図1(a)には、転動体6(6s)としてころ(円筒ころ)を適用した構成を一例として示しているが、例えば、軸受Aの構成や種類などに応じて、転動体として、円筒ころ以外の各種のころ(円すいころや球面ころなど)、あるいは玉を適用してもよい。この場合、センサ転動体及びこれ以外の転動体を全て、同種のころ(円すいころや球面ころなど)、あるいは玉で構成すればよい。
【0028】
また、かかる軸受Aにおいて、保持器8は、非磁性材を材料として、その内径が内輪2の外径よりも大きく、その外径が外輪4の内径よりも小さな環状を成して構成されており、転動体(ころ)6(6s)を1つずつ回転自在に保持するポケットが周方向に沿って等間隔を成して形成されている。なお、保持器8は、磁性を有さない任意の素材を材料として形成することができるため、ここでは、具体的な素材について特に限定しない。例えば、その材料として、アルミニウム合金やマグネシウム合金等の金属、あるいは、プラスチックや炭素繊維複合材等の非金属などの非磁性材を用いて、保持器8を形成すればよい。また、図1(a)に示す構成においては、保持器8として、いわゆる打ち抜き型のタイプを一例として適用しているが、その形式はこれに限定されず、例えば、転動体の種類などに応じて、もみ抜き型、冠型、波型及び合わせ型など、各種のタイプを適用することができる。
【0029】
このように本実施形態において、磁性材を着磁して成るセンサ転動体(ころ)6sを含めた複数の転動体(ころ)6は、非磁性材で成る保持器8のポケット内に1つずつ回転自在に保持された状態で、内外輪2,4間に組み込まれ、当該保持器8とともに当該内外輪2,4間を転動(公転)する。その際、保持器8が非磁性材で構成されているため、センサ転動体(ころ)6sの発する磁力線(磁気)の状態を保持器8で乱すことなく(干渉することなく)、転動体(ころ)6(6s)を内外輪2,4間において転動(公転)させることができる。
そして、センサ転動体(ころ)6sが発する磁気を集磁して誘導電圧として検出し、当該誘導電圧に基づく誘導電圧信号の出力状態を測定することで、軸受Aの回転状態を計測することができる。
【0030】
なお、図1(a)に示す構成において、軸受Aの回転状態(例えば、センサ転動体(ころ)6sの自転数や公転数など)の計測は、一例として、各軌道輪(内輪2及び外輪4)との間に所定の間隔を空けて配設されたセンサ10によって行われている。この場合、センサ10には、センサ転動体(ころ)6sが発する磁気を集めるための集磁板10aと、当該集磁板10aに集められた磁気を誘導電圧として検出し、当該誘導電圧に基づく誘導電圧信号を出力するための磁気検出部10bとが設けられている。
【0031】
本実施形態において、集磁板10aは、一例として、無方向性電磁鋼帯などのような透磁率の高い軟磁性材を材料として、その内径が内輪2の内径よりも大きく、その外径が外輪4の外径と略同一の円筒状を成して構成されている。この場合、集磁板10aには、その一方側の端面(図1(a)の左端面)10sから他方側の端面(同図の右端面)10tまでを所定の大きさで貫通する貫通孔12hが周方向に沿って等間隔を成して形成され、隣り合う貫通孔12hは、柱部12pによって相互に連結されている。
【0032】
なお、集磁板10a、貫通孔12h及び柱部12pの大きさ、形状及び配置などは、例えば、軸受Aの大きさなどに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。また、貫通孔12h及び柱部12pは、センサ10に設けられる磁気検出部10bの数に応じて、少なくともその数と同じ数だけ集磁板10aに対してそれぞれ形成すればよい。一例として、図1(b)に示す構成においては、センサ10に対し、4つの磁気検出部10bが設けられているとともに、集磁板10aに対し、4つの貫通孔12h及び柱部12pがそれぞれ形成されている。
【0033】
また、集磁板10aの構成は、図1(b)に示す構成には限定されず、例えば、貫通孔12h及び柱部12pに代えて、その軸受A側の端面(図1(a)の左端面)10sに所定の凹状部を形成した構成としてもよい。この場合、当該凹状部は、その内部に磁気検出部10bを収容することが可能な所定の大きさ(径や深さなど)を成して、周方向に沿って所定間隔(例えば、等間隔)で形成すればよい。
【0034】
また、図1(a)に示す構成において、センサ10には、透磁率の高い素材を材料として形成された環状を成す内輪スリーブ2sが設けられている。この場合、内輪スリーブ2sは、一方側の端面(図1(a)の左端面)20sが内輪2の一方側の端面(内輪軸S2のフランジ部62と当接する端面とは反対側の端面(同図の右端面))2aと所定間隔を空けて対向した状態となるように位置決めされている。また、内輪スリーブ2sは、他方側の端面(図1(a)の右端面)22sを集磁板10aの一方側の端面(同図の左端面)10sと当接させた状態で集磁板10aに固定されている。
【0035】
さらにまた、センサ10には、内輪スリーブ2sと同様の透磁率の高い素材を材料として形成された環状を成す外輪スリーブ4sが設けられている。この場合、外輪スリーブ4sは、一方側の端面(図1(a)の左端面)40sが外輪4の一方側の端面(外輪軸S4の段部82と当接する端面とは反対側の端面(同図の右端面))4aと所定間隔を空けて対向した状態となるように位置決めされている。また、外輪スリーブ4sは、他方側の端面(図2(a)の右端面)42sを集磁板10aの一方側の端面(同図の左端面)10sと当接させた状態で集磁板10aに固定されている。
【0036】
これにより、センサ転動体(ころ)6sが発した磁気が外輪4、外輪スリーブ4s、集磁板10a、内輪スリーブ2s及び内輪2を伝導し、再びセンサ転動体(ころ)6sに至る磁気回路(以下、磁気回路MCという)を構成することができる。この場合、磁気回路MCの回路方向は、例えば、軸受Aの回転方向やセンサ転動体(玉)6sの転動(公転)方向及び自転方向などに応じて所定方向に決定される。
【0037】
なお、図1(a)に示す構成において、センサ10は、内輪スリーブ2s及び外輪スリーブ4sと一体を成す集磁板10aが、上記磁気回路MCを構成することが可能なだけの間隔を内輪2及び外輪4との間に空けて位置付けられるように、装置(例えば、ジェットエンジンやガスタービンエンジンのハウジング90など)に対して固定されている。
【0038】
ここで、集磁板10aと内輪スリーブ2s及び外輪スリーブ4sとを相互に固定する方法は、特に限定されず、例えば、接着や締結などによりこれらを固定すればよい。ただし、その固定方法は、上述したセンサ転動体(ころ)6sを起点とする磁気回路MCを断絶させることのない方法である必要がある。同様に、センサ10(集磁板10a)とハウジング90とを相互に固定する方法は、特に限定されず、例えば、接着や締結などにより固定すればよい。
【0039】
なお、内輪スリーブ2s及び外輪スリーブ4sは、一連の環状を成していなくともよく、例えば、複数の部材により断続的に環状を成していてもよい。また、本実施形態においては、集磁板10a、内輪スリーブ2s及び外輪スリーブ4sは、別体として形成した後、相互に固定(例えば、接着固定や締結固定など)することにより一体構成としているが、これらを全体として一体的に成形する構成としてもよい。
【0040】
また、図1(b)に示す構成において、センサ10には、磁気検出部10bとして、ピックアップコイル14が設けられており、当該ピックアップコイル14は、集磁板10aに形成された4つの柱部12pにそれぞれ1つずつ合計4つ設けられ、各ピックアップコイル14が並列に配線接続されている(図1(c)参照)。
【0041】
このような構成によれば、センサ転動体(ころ)6sが発する磁気が常に集磁板10aに集められ、当該磁気は、センサ転動体(ころ)6sの自転に伴ってその方向が変化する。これにより、磁気回路MC内を流れる磁気の方向が変化し、当該磁気回路MCから生ずる磁界が変化する。すなわち、当該磁界の変化によって誘導電圧(図1(c)のU−V間の電圧に相当)を生じさせることができ、当該誘導電圧をピックアップコイル14によって検出し、誘導電圧信号として常に出力することができる。なお、図1(d)には、ピックアップコイル14によって検出された誘導電圧(出力された誘導電圧信号)の波形の一例が示されている。
【0042】
なお、ピックアップコイル14(磁気検出部10b)の数は、例えば、集磁板10aの大きさなどに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。また、ピックアップコイル14の巻数、巻方向、径及び長さなどは、例えば、センサ転動体(ころ)6sが発する磁気の大きさ、すなわち、検出する(発生させる)誘導電圧の大きさなどに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。
【0043】
さらに、本実施形態において、センサ10には、磁気検出部10bとして、ピックアップコイル14を設けているが、これに代えて、あるいはこれと組み合わせて、例えば、ホール素子(例えば、感磁性半導体素子など)を磁気検出部10bとして設けてもよい。
【0044】
これにより、軸受Aにおいて、内輪2及び外輪4がともに回転している場合、すなわち、センサ転動体(ころ)6sを含めた転動体(ころ)6が内外輪2,4間を転動(公転)している場合、当該センサ転動体(ころ)6sが自転することに伴う磁界変化によって生じる誘導電圧を、センサ10の4つのピックアップコイル14から誘導電圧信号として出力することができる。なお、出力された誘導電圧信号を伝導する手段は、特に限定されないが、例えば、スリップリングやテレメータなどを用いることができる。
【0045】
ここで、かかる軸受Aにおいて、センサ転動体(ころ)6sを組み込むこと(すなわち、自転させること)により誘導電圧を生じさせ、当該誘導電圧により出力される誘導電圧信号をセンサ10(集磁板10a及び磁気検出部10b(ピックアップコイル14))で測定した結果の一例を、図2(a),(b)にそれぞれ示す。
【0046】
図2(a)には、軸受Aに対する軸受荷重が大きく、センサ転動体(ころ)6sに対する公転滑りがない場合における誘導電圧信号の出力状態が示されている。この場合、センサ転動体(ころ)6sにおいて自転滑りもなく、同図に示すように、誘導電圧信号の周期は、略一定値のまま安定していることが測定できた。これに対し、図2(b)には、軸受Aに対する軸受荷重が小さく、センサ転動体(ころ)6sに対する公転滑りが大きい場合における誘導電圧信号の出力状態が示されている。この場合、センサ転動体(ころ)6sにおいて自転滑りも大きくなり、同図に示すように、誘導電圧信号の周期は、安定せず、常に変動していることが測定できた。
【0047】
なお、上述した本実施形態においては、センサ転動体(ころ)6sを多極着磁させているが、この場合、例えば、図3(a)に示すように、3つのN極と3つのS極とを60°ずつ位相をずらして着磁させた6極着磁構成とすることができる。ここで、転動体として、直径が10mm、幅(両端面間の距離)が10mmの円筒ころを一例として適用し、当該ころを上述したような6極着磁してセンサ転動体として構成し、軸受Aの内外輪2,4間に組み込んだ。そして、当該センサ転動体(ころ)6sを一回自転させた場合において、センサ10(集磁板10a及び磁気検出部10b(ピックアップコイル14))で誘導電圧信号の出力を測定した。この場合における誘導電圧信号の出力状態を一例として、図3(b)に示す。
【0048】
図3(b)に示すように、この場合、誘導電圧信号は、センサ転動体(ころ)6sに対して着磁させた磁極数に相当する回数(同図においては、6回)だけ、正弦波状の信号が反復した波形を成す。したがって、誘導電圧信号の出力波形を測定(監視)することで、かかるセンサ転動体(ころ)が一回自転する際、その自転速度が変動しているか否かを判定することができる。なお、転動体として玉を適用し、当該玉を上述したような6極着磁してセンサ転動体として構成した場合においても、誘導電圧信号は、上述したころの場合と同様に、図3(b)に示すような正弦波形となる。
【0049】
これにより、内外輪2,4がともに回転している場合であっても、例えば、センサ転動体(玉やころ)が一回公転する間における自転数、あるいは、センサ転動体(玉やころ)が一回自転する間における自転速度の変動を高精度に測定することができ、軸受の回転状態を正確に且つ確実に計測することができる。加えて、例えば、内外輪2,4の軌道面(レース面)の一部に微小な剥離などが生じたことを、上記センサ転動体(玉やころ)の自転数や自転速度の変動として捉えることで、軸受Aにおける損傷の発生を初期の段階で確実に検知することができる。この結果、軸受Aに対して異常が生じているか否かの診断精度を向上させることができる。
【0050】
また、上述した本実施形態において、センサ転動体(ころ)6sは、キュリー点が770℃の炭素鋼(0.9C,1Mn,Fe(質量%))を材料として形成されている。このため、軸受使用時に想定される温度範囲(550℃以下)において、かかるセンサ転動体(ころ)6sにおける残留磁気を軸受鋼製の転動体よりも大きくすることができる。したがって、かかる炭素鋼製の転動体をセンサ転動体(ころ)6sとして軸受Aに組み込むことで、当該センサ転動体(ころ)6sの自転時における磁界変化によって生じる誘導電圧の振幅を大きくすることができる。
【0051】
これにより、内外輪2,4がともに回転している場合であっても、当該誘導電圧により出力される誘導電圧信号をセンサ10(集磁板10a及び磁気検出部10b(ピックアップコイル14))で測定することで、当該誘導電圧信号が雑音(ノイズ)に紛れることなく、例えば、極僅かなセンサ転動体(ころ)6sの自転滑りに伴う自転数の変動、すなわち、誘導電圧信号の波形変化などを高精度に測定することができる。加えて、例えば、内外輪2,4の軌道面(レース面)の一部に微小な剥離などが生じたことを、上記センサ転動体(ころ)6sの自転数の変動などとして捉えることで、軸受Aにおける損傷の発生を初期の段階で確実に検知することができる。この結果、軸受Aに対して異常が生じているか否かの診断精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係る軸受回転状態計測方法を説明するための図であって、(a)は、検査対象軸受及びセンサの断面図、(b)は、同図(a)の矢印A1方向から見たセンサの平面図、(c)は、磁気検出部(ピックアップコイル)から誘導電圧信号を出力させるための配線接続を示す図、(d)は、磁気検出部(ピックアップコイル)によって測定された誘導電圧の波形を示す図。(e)は、軸受荷重が大きく、センサ転動体に対する公転滑りがない場合の誘導電圧信号の出力状態を示す図、(f)は、軸受荷重が小さく、センサ転動体に対する公転滑りが大きい場合の誘導電圧信号の出力状態を示す図。
【図2】誘導電圧信号の出力状態を示す図であって、(a)は、軸受荷重が大きく、センサ転動体に対する公転滑りがない場合の出力状態を示す図、(b)は、軸受荷重が小さく、センサ転動体に対する公転滑りが大きい場合の出力状態を示す図。
【図3】本発明に係るセンサ転動体を説明するための図であって、(a)は、着磁状態(6極着磁)を示す図、(b)は、一自転時の誘導電圧信号の出力状態を示す図。
【図4】従来のセンサ付き軸受の構成例を示す断面図。
【符号の説明】
【0053】
2 内輪
4 外輪
6 転動体
6s センサ転動体
8 保持器
10 センサ
10a 集磁板
10b 磁気検出部
14 ピックアップコイル
A 転がり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が他方に対して相対回転可能に対向して配置された一対の軌道輪と、当該軌道輪間に転動自在に組み込まれた複数の転動体と、当該転動体を回転自在に保持する保持器とを備えた転がり軸受の回転状態を計測するための軸受回転状態計測方法であって、
複数の転動体のうちの1つは、磁性材を着磁して成るセンサ転動体として、非磁性材で成る保持器に保持されて軌道輪間に組み込まれており、前記センサ転動体が発する磁気を集磁して誘導電圧として検出し、当該誘導電圧に基づく誘導電圧信号の出力状態を測定することで、転がり軸受の回転状態を計測していることを特徴とする軸受回転状態計測方法。
【請求項2】
転がり軸受の回転状態の計測は、各軌道輪との間に所定の間隔を空けて配設されたセンサによって行われており、当該センサには、所定の透磁率を有する軟磁性材を材料として形成され、センサ転動体が発する磁気を集めるための集磁板と、当該集磁板に集められた磁気を誘導電圧として検出し、当該誘導電圧に基づく誘導電圧信号を出力するための磁気検出部とが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の軸受回転状態計測方法。
【請求項3】
センサ転動体は、磁性材を2極以上に多極着磁して形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の軸受回転状態計測方法。
【請求項4】
センサ転動体は、その材料として、保磁力が15エルステッドよりも大きな硬磁性材を用いて形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の軸受回転状態計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−26009(P2008−26009A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195408(P2006−195408)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】