説明

軸流タービン

【課題】簡便な構成でラビリンスシール本来の目的である流体のシール効果を損なうことなく、ラビリンスシールに起因する自励振動を効果的に抑制することのできる軸流タービンを提供する。
【解決手段】軸流タービンのタービン段落において、静翼5を保持する外輪7に静翼入口側から静翼出口側へ貫通する貫通孔17を設けるとともに、当該貫通孔17を通り抜ける蒸気流量18が下流側の動翼先端部のラビリンスシール11からの漏洩量16と一致するように、貫通孔17の径を設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸流タービンに係り、特に作動流体の漏出防止用として施したラビリンスシールから誘起する旋回流によって発生する自励振動を効果的に抑制するようにした軸流タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、軸流タービンは高出力が得られるため、発電用の蒸気タービン等の大型の原動機として使用されている。
【0003】
図7は、軸流タービンの一例としての蒸気タービンの縦断面図を示す。
図7において、1−1は蒸気タービンのロータであり、1−2はこのロータの軸方向に所定の間隔をおいて外周面に形成されたロータディスク(タービン円板ともいう)である。このロータディスク1−2の周方向には、図示しない植込み溝に取付脚を植込んで動翼2を列状に配列するとともに、各動翼2の先端部に設けたシュラウド3相互を環状に結合させている。なお、ロータ1−1乃至シュラウド3までの回転体を回転部4と総称する場合がある。
【0004】
このように列状に構成された動翼2の作動流体上流に隣接して周方向に列状に静翼(ノズル)5を配置することによって1つのタービン段落を形成する。蒸気タービンは、このようなタービン段落を軸方向に複数段配置している。
【0005】
静翼5はほぼ同心状のダイヤフラム内輪6およびダイヤフラム外輪7間に周方向に環状列に複数枚配置されており、ダイヤフラム外輪7はタービンケーシング8に固定され、一方、ダイヤフラム内輪6の内周部はロータ1−1の外周部に対してギャップ9を介して対峙するようになっている。
【0006】
そして、タービン段落に蒸気を通過させると、タービン段落毎に蒸気の持つエンタルピが降下し、この降下分が動力に変換される。
【0007】
このように、各タービン段落で蒸気の圧力が降下し、そのエンタルピ差が有効に動力に変換されるためには、各タービン段落間の蒸気漏れが遮断されている必要がある。
【0008】
しかしながら実際には、ダイヤフラム内輪6とロータ1−1外周面との間のギャップ9およびシュラウド3とダイヤフラム外輪7の庇状部分あるいはタービンケーシング8との間のギャップ(図示せず)を通って作動蒸気の一部は圧力の低い側に漏出しており、さらに、ロータ1−1がタービンケーシング8を貫通するグランド部10a、10bからも圧力の低い側に蒸気が漏出する。このような蒸気の漏れは、タービン効率を低下させる要因となっているため、蒸気の漏出をより一層抑制することが必要とされている。
【0009】
そこで、通常は図8で示すようにダイヤフラム外輪7の庇状部分あるいはタービンケーシング8とシュラウド3との間のギャップ、ダイヤフラム内輪6およびロータ1−1の外周面間のギャップにラビリンスシール11を設け、蒸気の外部への漏出を抑制している。
【0010】
このラビリンスシール11は、固定部であるダイヤフラム外輪7あるいはダイヤフラム内輪6から回転部であるシュラウド3あるいはロータ1−1側に向って回転部4表面に極めて近接した部分まで突出する環状の歯(ラビリンスフィンという)12を備えており、このラビリンスフィン12と回転部の外周部によって、絞り部13とチャンバ14とを形成している。作動流体である蒸気は、絞り部13で絞られた後チャンバ14で膨張し、この繰返しによって蒸気の外部への漏出を防止している。
【0011】
ラビリンスシール11は、蒸気の漏出を効果的に抑制することができる反面、近年のターボ式軸流タービンの高性能化に伴って、このラビリンスシール部が回転部の自励振動の発生個所になっているとの指摘がなされている。
【0012】
この種の自励振動は、蒸気タービンにおいてはスチームホワールとして知られており、蒸気条件の高圧化にともなって問題となってきた。
【0013】
この自励振動の発生を考察してみると、ラビリンスシール11に流入する蒸気の流れに旋回成分があり、この蒸気の旋回成分がラビリンスシール11のチャンバ14内の周方向の蒸気圧力分布を不均一にさせ、その結果として回転部4の振れ廻り振動を助長すると考えられている。
【0014】
図9は、回転部4のロータ1−1が矢印R方向に振れ廻っているとき、つまりロータ1−1の実際の振れ廻り中心1−1bが回転軸中心1−1aから偏心しているときのラビリンスシール11に設けたチャンバ14内の圧力分布15を示す。
【0015】
ここで、蒸気の流れに旋回成分があると、圧力のピークは、ロータ1−1の振れ廻り方向Rに対し、遅れ方向に位置する。この不均一な圧力分布15がロータ1−1に作用する力は、ロータ1−1の振れ廻り方向の力Fxと、この振れ廻り方向の力Fxと直交する方向の力Fyとに分解することができる。
【0016】
このような圧力のピークが発生する場合、ロータ1−1は、常に振れ廻り方向にFxなる力で押圧され、このためロータ1−1の振れ廻りが助長され、自励振動が発生するものと考えられる。
【0017】
ラビリンスシール11の入口部における旋回流成分は、不安定化力に大きな影響を持っており、旋回流の増加によって不安定化力も増加し、自励振動が発生し易くなることは、経験やモデル試験により知られていた。
【0018】
近年の計算機および流体解析プログラムの進歩・発展により、実機条件における旋回流と不安定化力との関係は、図10に示すように定量的に把握できるようになった。
【0019】
図10は、計算により求めたラビリンスシール11の入口における旋回流成分(入口スワール)%と不安定化力Fxとの関係を表わしたものである。この図10によると、入口旋回流が増加すると不安定化力も増加し、たとえば、ロータ周速比で120%時の不安定化力は、50%時の5倍以上となることがわかる。
【0020】
蒸気タービンでは、静翼5出口における旋回流成分が回転部1の周速の120%〜150%と非常に大きい。このため、静翼5を通過した蒸気が流入する動翼2の先端部に設けられたラビリンスシール11の入口においても、旋回流成分が大きく、ラビリンスシール11で発生する不安定化力も、静翼5の先端部やグランド部10a、10bに設けたラビリンスシールに較べて大きくなる。そこで、動翼2の先端部に設けられたラビリンスシール11で発生する大きな旋回流成分を低減することで、効果的に自励振動を抑制することができる。
【0021】
従来、動翼2の先端部のラビリンスシール11の入口旋回流成分を低減させる手段として、ラビリンスシール11のチャンバ14に高圧側に連通させる穴を回転方向側と逆方向側に設け、旋回流と逆方向に流体を噴出させるようにした発明(例えば、特許文献1参照)や、ラビリンスシール入口付近に案内羽根を設けるようにした発明(例えば、特許文献2、3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】実開昭60−56863号公報
【特許文献2】特公平4−23086号公報(特開昭58−222902号公報)
【特許文献3】特開2007−120476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、ラビリンスシール11の高圧側とチャンバ14内との圧力差が小さく、噴出する蒸気の流速がそれほど高くないため、旋回流低減効果は限られている上に、蒸気の漏洩量が増加し、シール性能を損なうという問題があった。また、特許文献2に記載の発明は、動翼先端部のラビリンスシール11入口付近の流れの様子は複雑であるため、旋回流を効果的に低減できる案内羽根設置場所を見つけるのが難しいという問題があった。さらに、特許文献3に記載の発明は、原理的に効率よく旋回流を低減させることは可能であるが、複数の案内羽根を植える構造を採用しているため、製作に時間がかかるとともに、生産コストも嵩むという問題があった。
【0024】
そこで本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであり、簡便な構成でラビリンスシール本来の目的である流体のシール効果を損なうことなく、ラビリンスシールに起因する自励振動を効果的に抑制することのできる軸流タービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、タービンケーシングに外輪を介して保持されるとともに周方向に列状に配置された静翼と、当該静翼の下流側に隣接して配置されるとともにロータの周方向に列状に植設された動翼とで構成されたタービン段落を有する軸流タービンにおいて、前記静翼を保持する前記外輪に静翼入口側から静翼出口側へ貫通する貫通孔を円周方向に添って複数個設けるとともに、当該貫通孔を通り抜ける蒸気流量が下流側の動翼先端部のラビリンスシールからの漏洩量と一致するように、貫通孔の径を設定したことを特徴とする。
【0026】
また、請求項2に係る発明は、タービンケーシングに外輪を介して保持されるとともに周方向に列状に配置された静翼と、当該静翼の下流側に隣接して配置されるとともにロータの周方向に列状に植設された動翼とで構成されたタービン段落を有する軸流タービンにおいて、前記静翼を保持する前記外輪に静翼入口側から静翼出口側へ貫通し、かつ、前記静翼出口側で下流側に向かってロータの回転方向とは逆方向に傾斜する貫通孔を円周方向に沿って複数個設けたことを特徴とする。
【0027】
また、請求項5に係る発明は、タービンケーシングに保持されるとともに周方向に列状に配置された静翼と、当該静翼の下流側に隣接して配置されるとともにロータの周方向に列状に植設された動翼とで構成されたタービン段落を有する軸流タービンにおいて、前記静翼をノズルセグメントと、それを外周側から嵌め込んで保持する外輪と、内周側から嵌め込んで保持する内輪とから構成し、前記ノズルセグメントを前記外輪に保持される外周カバーブロック部と、ノズル翼部と、前記内輪に保持される内周カバーブロック部とから構成し、前記外周側カバーブロックの外周面に静翼入口側と出口側とを連通させる溝を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、簡便な構成でありながら蒸気タービンの効率を低下させることなく、軸系に発生する自励振動の発生を抑制することのできる軸流タービンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による軸流タービンの第1の実施形態を示す図であり、(a)は蒸気タービン段落部の蒸気の流れを示す図、(b)は図1のA−A断面図。
【図2】本発明の第1の実施形態の変形例における蒸気タービン段落部の蒸気の流れを示す図。
【図3】比較例としての従来の軸流タービンにおける蒸気タービン段落部の蒸気の流れを示す図であり、(a)は蒸気タービン段落部の蒸気の流れを示す図、(b)は図3のB−B断面図。
【図4】本発明による軸流タービンの第2の実施形態を示す図であり、(a)は蒸気タービン段落部の蒸気の流れを示す図、(b)は図4のC−C断面図。
【図5】本発明の第2の実施形態の変形例における静翼保持部の断面図。
【図6】本発明による軸流タービンの第3の実施形態を示す図であり、(a)は蒸気タービン段落部の蒸気の流れを示す図、(b)は静翼構成部品の斜視図。
【図7】従来の蒸気タービンの縦断面図。
【図8】ラビリンスシール構造の一例を示す図。
【図9】ラビリンスシール内の圧力分布を示す図。
【図10】入口旋回流と不安定化力の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、既に説明した図を含めて各図に共通する部分には同一符号若しくは関連符号を付けて、重複する説明は適宜省略する。
【0031】
(第1の実施形態)
(構成)
本発明の第1の実施形態に係る軸流タービンについて、図1乃至図3を参照して説明する。
図1は、第1の実施形態に係る軸流タービンを示す図であり、特に(a)は蒸気タービン段落を示す構成図、(b)は図1(a)のA−A線断面図である。
【0032】
図1で示すように、蒸気タービンはタービンケーシング等の静止部に保持されたタービン静翼(ノズル)5と、このタービン静翼(ノズル)5を通過する主流蒸気20の下流側に位置し、ロータディスク1−2に取り付けた動翼2とによって一組の段落を構成し、この段落をロータ1−1の軸方向に沿って複数段配置する構成になっている。
【0033】
なお、6は静翼(ノズル)5の内径側を溶接により保持する内輪(ダイヤフラム内輪)であり、このダイヤフラム内輪6の内径部は図示しないタービンロータの外周面にラビリンスを介して対峙している。7は外輪(ダイヤフラム外輪)であり、タービン静翼(ノズル)5の外径側を溶接により保持する部分(以下、静翼保持部分という)7−1と、この静翼保持部分7−1の側部に動翼2の外周を覆うように形成された庇状部分7−2とから構成されており、図示しないタービンケーシングに固定されている。
【0034】
前記動翼2の先端部にはシュラウド3を固定している。このシュラウド3の外周は両端部と中心部とに合わせて3個の環状突起と、環状突起間に位置する平坦部とを有しており、このように凹凸に形成されたシュラウド3の外周を覆うダイヤフラム外輪7の庇状部分7−2には、前記環状突起部および平坦部に対向する高さの異なるラビリンスフィン12を植設することによってラビリンスシール11を形成し、シュラウド3外周部およびタービン静翼ダイヤフラム外輪7の庇状部分7−2との間の隙間を通って漏出する漏洩蒸気量16の低減を図るようにしている。
【0035】
さらに、本実施形態は、ダイヤフラム外輪7の静翼保持部分7−1のラビリンスシール11と対向する部位に、静翼5の入口側と出口側とを連通させる貫通孔17を円周方向に沿って複数個設けている。しかも、この貫通孔17の入口側開口および出口側開口を結ぶ軸線AL2はロータ1−1の軸線AL1とほぼ平行するように形成し、貫通孔17から噴出する蒸気(以下、貫通孔通過蒸気という)18を静翼出口側開口からラビリンスシール11に向けてロータの軸線AL1に平行するように噴出する(図2参照)。
【0036】
さらに、貫通孔通過蒸気18の流量が前述したラビリンスシール11からの漏洩蒸気量16と一致するように選定している。
【0037】
貫通孔通過蒸気18の流量とラビリンスシール11からの漏洩蒸気量16とをほぼ等量にするために、貫通孔17を設計する際には、貫通孔17の孔径や数を調整する。貫通孔17の孔径を調整するためには、貫通孔17の全長に亘って同一径の孔を開ける場合と、孔の径を予め大きく選定しておき、この貫通孔17に孔あきのアダプターを嵌める場合とが考えられるが、図2に例示した変形例は、孔の径の異なる数種類のアダプターの中から、最適な径を有するアダプター19を貫通孔17の入口部に嵌め込んで孔径を調整し、貫通孔通過蒸気18の流量を調整するようにしたものである。
【0038】
(作用)
図3(a)、(b)は、図1および2で示した本実施形態と従来例との作用上の差異を明確にするために掲げた従来の軸流タービンの蒸気タービン段落部における蒸気の流れる様子を示す図およびラビリンスシール入口における蒸気の旋回する様子を示す図である。
【0039】
図3(a)に示す従来の蒸気タービン段落部では、静翼5を通過した主流蒸気20の一部の蒸気21が、図3(b)のように大きく旋回しながら動翼先端部とダイヤフラム外輪7の庇状部分7−2との間に形成されたラビリンスシール11に流入する。このため、ラビリンスシール11部には図9で説明したような大きな不安定化力Fxが発生する原因となっていた。
【0040】
これに対して、本実施形態では図1(a)、(b)および図2で示したように、ダイヤフラム外輪7の静翼保持部分7−1のラビリンスシール11と対向する部位に、静翼入口側と静翼出口側との間を連通する貫通孔17を設け、しかもこの貫通孔17を通る貫通孔通過蒸気18の流量を、ラビリンスシール11からの漏洩蒸気量16と同量となるように調整したので、静翼5を通過した主流蒸気20の一部の蒸気21が動翼先端のラビリンスシール11に流入しなくなる。
【0041】
そして、貫通孔17を流れる蒸気は旋回流成分を有していないので、ラビリンスシール11入口部での旋回流を無くすことができ、軸系の自励振動を抑制することができる。
【0042】
本実施形態では、貫通孔17を設けたことによって静翼部の蒸気流量は減少するものの、動翼部の蒸気流量は減少しないので、タービンの効率が低下することはない。
【0043】
なお、軸流タービンを長期間に亘って運転すると、ラビリンスフィン8の磨耗によってシール間隙は広がり、静翼5を通過した主流蒸気20から一部の流量17がラビリンスシール側に漏洩しようとするが、この場合、前記アダプター19を交換することによって貫通孔通過蒸気18の流量を増やすように調整することによってラビリンスシール11入口旋回流の増加を抑え、自励振動の発生を抑制することができる。
【0044】
(効果)
以上述べたように、第1の実施形態によれば、ダイヤフラム外輪7に静翼入口側と静翼出口側との間を貫通孔17によって貫通させ、その貫通孔17を流れる貫通孔通過蒸気18の流量が下流側動翼先端部のラビリンスシール11の漏洩量16と一致するように調整したので、簡便な構成でありながら、蒸気タービンの効率を低下させることなく、動翼先端部ラビリンスシール11に流入する漏洩蒸気の旋回流成分を効果的に低減し、軸系に発生する自励振動の発生を抑制することができる。
【0045】
(第2の実施形態)
(構成)
次に、本発明の第2の実施形態による軸流タービンについて図4および図5を参照して説明する。
図4は、第2の実施形態に係る軸流タービンを示す図であり、特に(a)は蒸気タービン段落を示す構成図、(b)は図4(a)のC−C線断面図である。
【0046】
図4(b)で示すように、本実施形態は第1の実施形態と比べて、ダイヤフラム外輪7の静翼保持部分7−1に形成した貫通孔17の形状あるいは貫通孔17の設置角度が相違するが、その他の点は第1の実施形態と同じである。
【0047】
すなわち、図1あるいは図2で示した第1の実施形態の場合、貫通孔17はその静翼入口側開口と静翼出口側開口とを結ぶ軸線AL2がロータの軸線AL1に対してほぼ平行するように開けるようにしたが、本実施形態では、貫通孔17Aの静翼入口側開口からほぼ中間部までを結ぶ軸線AL2がロータ1−1の軸線AL1に対してほぼ平行するが、静翼出口側開口が動翼2の回転方向とは逆方向に傾斜するように、貫通孔17Aの中間部から静翼出口側開口までを結ぶ軸線AL3が、ロータの軸線AL1に対して動翼2の回転方向とは逆方向に傾斜するように開けている。この構成により、貫通孔通過蒸気18Aは矢印のようにシュラウド3の回転方向とは逆向きに静翼出口側開口から噴出する。
【0048】
(作用)
前述した第1の実施形態の場合、貫通孔17から吹き出した貫通孔通過蒸気18には旋回成分はないが、貫通孔通過蒸気18が下流側に向かってラビリンスシール11のラビリンスフィン8間を通過して行くにつれ回転するシュラウド3によって旋回成分が付与されるので、従来例ほどではないにしても自励振動の発生を完璧に防止することは困難である。
【0049】
しかしながら、本実施形態では、貫通孔17Aの静翼出口側開口から噴出した貫通孔通過蒸気18Aはシュラウド3の回転方向とは逆方向にラビリンスシール11に入るようにしたので、シュラウド3の回転によってラビリンスシール11内部の複数のチャンバ14で貫通孔通過蒸気18Aに旋回成分が付与されたとしても、貫通孔通過蒸気18Aがラビリンスシール11から噴出するときには旋回流成分のないロータ1−1の軸線AL1に対してほぼ平行する貫通孔通過蒸気18Aとすることができる。この結果、本実施形態では第1の実施形態に比べ、より一層の軸系安定化が期待できる。
【0050】
なお、貫通孔の形状は図4(b)の貫通孔17Aのように静翼入口側開口と静翼出口側開口との中間部で屈曲させずに、図5の変形例で示す貫通孔17Bのように、静翼入口側開口から静翼出口側開口までを結ぶ軸線AL4をロータ1−1の軸線AL1に対して傾斜させるようにしてもよい。なお、図5の変形例の場合、図4に比べて孔明け加工を容易に行うことができるという長所がある。
【0051】
(効果)
以上述べたように、第2の実施形態によれば、貫通孔17A,17Bの静翼出口側開口を動翼2の回転方向とは逆方向に向けて貫通孔通過蒸気18Aが動翼2の回転方向とは逆方向に噴出するように形成したことにより、簡便な構成でありながら、動翼先端部のラビリンスシール11に流入する漏洩蒸気の旋回流成分を効果的に低減することができ、軸系に発生する自励振動の発生をより一層抑制することができる。
【0052】
(第3の実施形態)
(構成)
次に、本発明の第3の実施形態による軸流タービンについて、図6を参照して説明する。
図6において、(a)は第3の実施形態に係る軸流タービンの蒸気タービン段落を示す構成図であり、(b)は静翼構成部品の斜視図である。
【0053】
本実施形態が第1および第2の実施形態と異なる点は静翼部分である。すなわち、図1、図2および図4で示した静翼は、静翼5の内周および外周をそれぞれダイヤフラム内輪6およびダイヤフラム外輪7と溶接して構成した、いわゆる「溶接ノズル」であるが、本実施形態の静翼は「組み立てノズル」と呼ばれるものである。
【0054】
図6(a)において、組み立てノズルはノズルセグメント24と、それを外周側から嵌め込んで保持する外輪22と、内周側から嵌め込んで保持する内輪23とによって構成されている。
【0055】
さらに、ノズルセグメント24は図6(b)に示すように、外輪22に保持される外周カバーブロック部25と、ノズル翼部26と、内輪23に保持される内周カバーブロック部27とから構成され、これら3個の部品は機械加工により一体の部品として製作される。
【0056】
そして、本実施形態においては、上記ノズルセグメント24の外周側カバーブロック25外周面に静翼入口側と出口側とを連通させる溝28を設けたことを特徴としている。
【0057】
(作用)
図6(a)、(b)に示すように、外周側カバーブロック25の外周面に溝28を設けることによって、第1、第2の実施形態と同様に、静翼入口側開口と出口側開口とを連通させる貫通孔17に相当する流路を形成する。そして、この溝28に流れる蒸気流量を、下流側動翼先端部ラビリンスシール漏洩量16と等量にすることによって、第1および第2の実施形態と同様にタービン効率を低下させることなく、ラビリンスシール入口部の旋回流をゼロにすることができ、軸系の自励振動を抑制することができる。
【0058】
(効果)
以上述べたように第3の実施形態によれば、組み立てノズルにおいて、外周側カバーブロック外周面に静翼入口側開口と出口側開口とを連通させる溝28を設け、その溝28に流れる蒸気流量を下流側動翼先端部ラビリンスシール部の漏洩量16と一致するようにしたことにより、簡便な構成でありながら、蒸気タービンの効率を低下させることなく、動翼先端部のラビリンスシールに流入する漏洩蒸気の旋回流成分を効果的に低減し、軸系に発生する自励振動の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0059】
−1…ロータ、1−1a…回転軸(ロータ)中心、1−1b…振れ回り中心、1−2…ロータディスク(タービン円板)、2…動翼、3…シュラウド、4…回転部、5…静翼(ノズル)、6…内輪(ダイヤフラム内輪)、7…外輪(ダイヤフラム外輪)、8…タービンケーシング、9…ギャップ、10a、10b…グランド部、11…ラビリンスシール、12…ラビリンスフィン、13…絞り部、14…チャンバ、15…圧力分布、16…ラビリンスシールからの漏洩蒸気量、17…貫通孔、18…貫通孔通過蒸気、19…アダプター、20…主流蒸気、21…漏洩蒸気、22…外輪、23…内輪、24…ノズルセグメント、25…外周カバーブロック、26…ノズル板、27…内周カバーブロック、28…溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンケーシングに外輪を介して保持されるとともに周方向に列状に配置された静翼と、当該静翼の下流側に隣接して配置されるとともにロータの周方向に列状に植設された動翼とで構成されたタービン段落を有する軸流タービンにおいて、
前記静翼を保持する前記外輪に静翼入口側から静翼出口側へ貫通する貫通孔を円周方向に添って複数個設けるとともに、当該貫通孔を通り抜ける蒸気流量が下流側の動翼先端部のラビリンスシールからの漏洩量と一致するように、貫通孔の径を設定したことを特徴とする軸流タービン。
【請求項2】
タービンケーシングに外輪を介して保持されるとともに周方向に列状に配置された静翼と、当該静翼の下流側に隣接して配置されるとともにロータの周方向に列状に植設された動翼とで構成されたタービン段落を有する軸流タービンにおいて、
前記静翼を保持する前記外輪に静翼入口側から静翼出口側へ貫通し、かつ、前記静翼出口側で下流側に向かってロータの回転方向とは逆方向に傾斜する貫通孔を円周方向に沿って複数個設けたことを特徴とする軸流タービン。
【請求項3】
前記貫通孔の数を調整することによって当該貫通孔を通る流量の調整を行うことを特徴とする請求項1または2記載の軸流タービン。
【請求項4】
前記貫通孔にアダプターを取付けて当該貫通孔を通る流量の調整を行うことを特徴とする請求項1または2記載の軸流タービン。
【請求項5】
タービンケーシングに保持されるとともに周方向に列状に配置された静翼と、当該静翼の下流側に隣接して配置されるとともにロータの周方向に列状に植設された動翼とで構成されたタービン段落を有する軸流タービンにおいて、
前記静翼をノズルセグメントと、それを外周側から嵌め込んで保持する外輪と、内周側から嵌め込んで保持する内輪とから構成し、前記ノズルセグメントを前記外輪に保持される外周カバーブロック部と、ノズル翼部と、前記内輪に保持される内周カバーブロック部とから構成し、前記外周側カバーブロックの外周面に静翼入口側と出口側とを連通させる溝を設けたことを特徴とする軸流タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−159667(P2010−159667A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1683(P2009−1683)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(395009938)東芝アイテック株式会社 (82)
【Fターム(参考)】