説明

軽量気泡コンクリート補強鉄筋用防錆被膜の形成方法

【課題】 ALCの補強鉄筋に防錆被膜を形成する方法であって、防錆被膜の膜厚を制御することが可能であり、防錆性能を低下させることなく、膜厚を低減させることができる方法を提供する。
【解決手段】 ALCの補強鉄筋に防錆被膜を形成する際に、補強鉄筋を防錆液を浸漬塗布し、40〜60℃で乾燥して、膜厚50〜100μmの1層目の防錆被膜を形成する。次に、この1層目の防錆被膜の表面に水を噴霧させた後、その上に防錆液を浸漬塗布し、70〜90℃で乾燥して、膜厚50〜140μmの2層目の防錆被膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量気泡コンクリート(ALC)の補強鉄筋に錆の発生を防止するために設ける防錆被膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルを製造する場合、珪酸質原料として珪石や珪砂、石灰質原料としてセメントや生石灰を主原料とし、更に石膏及び不要となったALCの屑やパネルを粉砕処理した繰り返し原料を副原料とする。これらのALC原料は水と混合し、それに発泡剤であるアルミニウム粉末や気泡安定剤等の添加物を加えた原料スラリーとした後、補強鉄筋が配置された型枠内へ注入する。
【0003】
型枠内に配置する補強鉄筋は、直径4〜10mmの鉄筋の補強鉄筋カゴか、あるいは直径1〜4mmの細い鉄筋の補強鉄筋マットである。型枠内に注入された原料スラリーは、発泡とセメントの水和反応によって半可塑性体となる。所定時間の経過後、この半可塑性体を所望形状にピアノ線で切断し、オートクレーブによる高温高圧水蒸気養生を行い、更に製品仕様に応じて加工を施し、建築材料として使用されるALCパネルとする。
【0004】
こうして得られたALCパネルは、軽量性、耐火性、断熱性及び施工性に優れている反面、体積の80%程度が気泡及び細孔となっている。そのため、この気泡及び細孔を経由して外部の水分がパネル内部へ侵入しやく、パネル内部に配置された補強鉄筋が腐食されやすいという問題点がある。この腐食の問題を解決するため、補強鉄筋カゴあるいは補強鉄筋マットの表面に予め防錆処理を施すことが通常行われている。
【0005】
上記補強鉄筋の防錆処理には、特開平10−176292号公報に記載された方法が一般に用いられている。即ち、ALC補強鉄筋用防錆液として、スチレン結合量が65〜75重量%のSBR水性エマルジョンを固形分として5〜25重量%と、アスファルトの水性エマルジョンを固形分として5〜15重量%と、石灰石で代表されるアルカリ土類の炭酸塩粉末を固形分として60〜90重量%とを主成分とし、これにpH調整用の消石灰と粘度調整用の水を混合した防錆液を使用する。
【0006】
上記防錆液を補強鉄筋に塗布する方法としては、防錆液に補強鉄筋を浸漬させる方法が一般的であり、浸漬後の補強鉄筋は乾燥設備にて十分に乾燥させる必要がある。また、補強鉄筋はカゴ状でもマット状でも格子状に交差した部分を有するため、この交差部分に防錆液を十分に塗布して、塗布もれのない連続した防錆被膜を形成することが必要である。そのため、防錆液に補強鉄筋を浸漬させ、次に80℃で乾燥させる処理を2度繰り返して、防錆被膜を形成している。
【特許文献1】特開平10−176292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特開平10−176292号公報に記載の方法においては、優れた防錆性能を確保するため、防錆被膜の膜厚を厚くすることが必要であり、現状では240〜270μmの膜厚に制御されている。また、防錆被膜の膜厚は均一であることが望ましく、経済性の観点からは膜厚はより薄い方が好ましい。特に近年では、省資源やコスト削減の観点から、防錆被膜の膜厚の低減が望まれている。
【0008】
しかし、塗布した防錆液の乾燥を80℃で行うため、2回目の浸漬時に補強鉄筋が高温となり、補強鉄筋近傍の防錆液の粘度が増加してしまうことから、所望の膜厚に制御することが困難であった。防錆液の粘度増加を抑えるため、2回目の浸漬前に補強鉄筋の温度を低下させる方法もあるが、冷却装置の設置による設備の大型化やコストの増加、更には工程の煩雑化や生産効率の低下のため、現実的な方法とは言い難い。
【0009】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、ALCの補強鉄筋に防錆被膜を形成する場合に、特別な装置や工程を増設付加する必要がなく、防錆被膜の膜厚を制御することが可能であって、防錆性能を低下させることなく、膜厚を低減させた防錆被膜の形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明が提供する軽量気泡コンクリートの補強鉄筋に防錆被膜を形成する方法は、補強鉄筋に防錆液を浸漬塗布し、40〜60℃で乾燥して、膜厚50〜100μmの1層目の防錆被膜を形成し、この1層目の防錆被膜の表面に水を噴霧させた後、その上に防錆液を浸漬塗布し、70〜90℃で乾燥して、膜厚50〜140μmの2層目の防錆被膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、補強鉄筋を防錆液に浸漬・乾燥して防錆処理する際に、塗布もれのない連続した防錆被膜を形成すると同時に、その防錆被膜の膜厚を制御して従来よりも低減することができる。従って、防錆性能に優れ、付着力が良好であり、均一で且つ最適な膜厚の防錆被膜を補強鉄筋表面に形成することができるため、長期間の防錆効果やコストパフォーマンスに優れた軽量気泡コンクリートパネルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いる防錆液は、従来から一般に使用されているものであれば特に制限はない。しかしながら、防錆性能や付着力などを考慮すると、スチレン結合量が65〜75重量%のSBR水性エマルジョンを固形分として5〜25重量%と、アスファルトの水性エマルジョンを固形分として5〜15重量%と、石灰石で代表されるアルカリ土類の炭酸塩粉末を固形分として60〜90重量%とを主成分とし、これにpH調整用の消石灰と粘度調整用の水を混合した防錆液を用いることが好ましい。
【0013】
本発明によりALCの補強鉄筋に防錆被膜を形成する方法では、上記防錆液への補強鉄筋の浸漬による塗布及び乾燥の防錆処理を2回繰り返すことにより、1層目の防錆被膜の上に2層目の防錆被膜を積層して形成する。その際、防錆液の1回目の浸漬塗布及び乾燥の後、2回目の浸漬塗布を行う前に、1層目の防錆被膜の表面に水を噴霧する。この水の噴霧により、1層目の防錆被膜表面と防錆液との濡れが向上し、2回目の防錆液の付着性が改善されて付着量を抑制することができる。尚、水の噴霧量は防錆被膜表面に水滴が生じさせない程度とし、概ね補強鉄筋の重量の3%以下が好ましい。
【0014】
防錆液の1回目の浸漬塗布及び乾燥後の膜厚、即ち1層目の防錆被膜の膜厚は50〜100μmとする。1層目の防錆被膜の膜厚が100μmを超えると、全体的もしくは部分的に膜厚の厚い部分が存在し、内部までの十分に乾燥することができなくなるため、防錆被膜にクラックが発生しやすい。また、1層目の防錆被膜の膜厚が50μm未満では、防錆被膜を均一に塗布することが難しく、補強鉄筋が露出する部分が発生したり、乾燥時にクラックを生じたりするため好ましくない。
【0015】
1回目で浸漬塗布した防錆液の乾燥は、40〜60℃の範囲の温度で行う。乾燥温度が40℃未満では、防錆液の原料成分である樹脂の硬化が進行しないため、防錆被膜の強度が低下してしまう。逆に60℃を超える温度で乾燥すると、防錆被膜の硬化は進むものの、クラック等の欠陥が発生しやすくなる。また、60℃を超える温度で乾燥すると、それに伴って鉄筋温度も過度に上昇するため、2回目の浸漬塗布時に補強鉄筋近傍の防錆液の温度が局所的に上昇する。その結果、防錆液の粘度も局所的に増加し、防錆液の付着量の増加を引き起こすため、得られる防錆被膜の膜厚制御が難しくなる。
【0016】
上記1回目の防錆処理における乾燥時間は、膜厚が50〜100μmであり且つ乾燥温度が40〜60℃の範囲において、30分以上とすることが好ましい。これ以下の乾燥時間では、1層目の防錆被膜の硬化が不十分なまま、その上に2回目の防錆液の浸漬塗布が行われ、次いで1回層目の乾燥温度より高い温度で2回目の乾燥が行われるため、1層目と2層目の防錆皮膜の間で乾燥による収縮差が生じるなどの原因によって、層間の破断が発生しやすくなる。
【0017】
このようにして1回目の防錆処理を施すことにより、クラックなどの欠陥がほとんどない防錆被膜を形成することができ、この1層目の防錆被膜は鉄筋が交差する溶接部分などにピンホールと呼ばれる小孔がわずかに残される程度となる。また、防錆液の2回目の浸漬塗布に際して、その下地となる1層目の防錆被膜は十分な硬化状態が得られており、且つ補強鉄筋の過度な温度上昇も防止されているため、防錆液の局所的な粘度上昇がなく、膜厚の制御が可能となる。
【0018】
次に、2回目の防錆処理を行うが、2回目の防錆液の浸漬塗布では1回目のようにクラックが発生する可能性は低く、ピンホール部分のみを塗布して塞ぐことが目的となるため、膜厚50〜140μmの防錆被膜となるように塗布すれば十分である。また、浸漬塗布した防錆液の乾燥温度は、防錆被膜を十分に硬化させるために、70〜90℃で乾燥する。2回目の乾燥温度を70〜90℃と高めても、1層目の防錆被膜は硬化が十分に進んでいるため、仮に2層目にクラックが発生しても防錆性能を確保することができる。尚、2回目の乾燥時間は30分以上であれば、所定性能の防錆被膜が得られる。
【0019】
上記した本発明方法により、ALCの補強鉄筋の表面に、防錆性能に優れ、付着力が良好であり、均一で且つ最適な膜厚を有する2層からなる防錆被膜を形成することができる。この防錆被膜の合計膜厚は100〜240μmであり、従来の240〜270μmよりも薄い膜厚に形成できるため、十分な防錆性能を保持しながら、経済的に優れ、省資源やコスト削減の観点からも優れたALCパネルを提供することが可能となる。
【実施例】
【0020】
防錆液として、スチレン結合量が70重量%で固形分45重量%のSBR水性エマルジョン(ガンツ化成株式会社製、商品名:SPX−1)を固形分として9重量%と、アスファルトの水性エマルジョンを固形分として11重量%と、アルカリ土類の炭酸塩粉末として炭酸カルシウム粉末を固形分として80重量%とを主成分とし、これにpH調整用の消石灰と粘度調整用の水を混合したものを調整して準備した。
【0021】
上記防錆液を用いて、直径5.5mmの補強鉄筋で作製した補強鉄筋カゴに防錆処理を施した。即ち、補強鉄筋カゴを防錆液に浸漬し、塗布した防錆液を乾燥して、1層目の防錆被膜を得た。次に、1層目の防錆被膜表面に水を噴霧した後、防錆液に再度浸漬し、乾燥して2層目の防錆被膜を形成した。その際、1層目と2層目の防錆被膜について、乾燥温度と乾燥時間、膜厚を試料ごとに下記表1に示すように変化させた。尚、1層目と2層目の防錆被膜の膜厚は、補強鉄筋カゴの任意の20個所で測定した膜厚の平均値である。
【0022】
【表1】

【0023】
上記各試料の補強鉄筋カゴを型枠内に配置し、ALCの原料スラリーを注入して発泡・硬化させ、得られた半可塑性体をピアノ線で所定寸法に切断した後、オートクレーブで高温高圧の水蒸気養生を行って、ALCパネルを製造した。これらのALCパネルから補強鉄筋入りALCブロックを成形し、防錆性能及び鉄筋付着力の測定サンプルとした。尚、防錆性能の測定サンプルの形状はJIS A 5416に準じた。鉄筋付着力の測定サンプルは、防錆性能用の測定サンプル成形の要領で長さ方向に補強鉄筋が配され、寸法が縦50mm×横50mm×長さ150mmの形状とした。
【0024】
防錆性能の試験は、JIS A 5416に規定の防錆性能試験方法よりも錆発生状況が一層判別しやすいように、3%食塩水中で真空引きすることで測定サンプル中の空気を塩水置換する操作を2時間行い、次に75℃にて1日乾燥する操作を1サイクルとして4サイクル繰り返した後、上記JIS規定の温湿度調整プログラムにて14日間処理して、錆発生面積率(%)を求める方法とした。鉄筋付着力の試験は、測定サンプルに荷重を加え、補強鉄筋がALCから脱出する最大荷重(N)を補強鉄筋の表面積(mm)で除する方法とした。
【0025】
上記の各試験結果を、防錆被膜の合計膜厚と共に、下記表2に示した。表中に示す各試料の総合判定は下記の基準による。
○:合計膜厚100〜240μmであって、錆発生面積率1.5%以下、鉄筋付着力0.82N/mm以上である。
△:錆発生面積率1.5%以下、鉄筋付着力0.82N/mm以上であるが、合計膜厚が100〜240μmの範囲外である。
×:錆発生面積率1.5%以下、鉄筋付着力0.82N/mm以上のいずれかを満足しない。
【0026】
尚、上記の総合判定において、防錆性能の判定はJIS A 5416では錆発生面積率が5%以下となっているが、この実施例では塩水使用でより厳しい条件を採用しているため、錆発生面積率を1.5%以下とした。また、鉄筋付着力の判定では、パネルとしての曲げ設計強さを満足するために必要な補強鉄筋との付着力として、0.82N/mm以上が必要であるとした。
【0027】
【表2】

【0028】
上記の表2から分るように、本発明例である試料1〜6では、2回の防錆処理による防錆被膜の合計膜厚を100〜240μmの範囲内に制御でき、しかも錆発生面積率1.5%以下及び鉄筋付着力0.82N/mm以上の条件を満足する結果となった。
【0029】
一方、比較例の試料7、9は、1回目及び2回目の乾燥温度が高いため防錆被膜が十分に硬化して鉄筋付着力に優れるが、1回目の乾燥温度が高過ぎるために合計膜厚が250μmを超える結果となった。また、試料8では、1回目の乾燥温度が高過ぎるため防錆被膜の欠陥が発生し、しかも2回目の塗布の乾燥温度が低過ぎるため、十分な防錆性能が得られていない。更に試料10〜12については、1回目の乾燥温度が低いため合計膜厚は少なく抑えられているが、防錆被膜の硬化が不十分となり、防錆性能及び鉄筋付着力共に満足できない結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量気泡コンクリートの補強鉄筋に防錆被膜を形成する方法であって、補強鉄筋に防錆液を浸漬塗布し、40〜60℃で乾燥して、膜厚50〜100μmの1層目の防錆被膜を形成し、この1層目の防錆被膜の表面に水を噴霧させた後、その上に防錆液を浸漬塗布し、70〜90℃で乾燥して、膜厚50〜140μmの2層目の防錆被膜を形成することを特徴とする軽量気泡コンクリート補強鉄筋用防錆被膜の形成方法。
【請求項2】
前記防錆液が、スチレン結合量が65〜75重量%のSBR水性エマルジョンを固形分として5〜25重量%と、アスファルトの水性エマルジョンを固形分として5〜15重量%と、石灰石で代表されるアルカリ土類の炭酸塩粉末を固形分として60〜90重量%とを主成分とし、これにpH調整用の消石灰と粘度調整用の水を混合したものであることを特徴とする、請求項1に記載の軽量気泡コンクリート補強鉄筋用防錆被膜の形成方法。

【公開番号】特開2008−144210(P2008−144210A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331272(P2006−331272)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】