説明

輸送機関内部を対象にしたブロードバンドワイヤレス配信システム

輸送機関の客室エリアを対象にしたブロードバンドワイヤレス配信ネットワーク。ブロードバンドワイヤレス配信ネットワークは、サーバおよびスイッチシステムに接続される複数のワイヤレスアクセスポイント(WAPs)と、客室について計略的に配置される複数のワイヤレスネットワークインターフェイス回路(NICs)とを含む。さらに、ブロードバンドワイヤレス配信ネットワークは、少なくとも1つのアンテナが各々のWAPに接続されるようにWAPsに接続される複数のアンテナを含む。アンテナは客室内の特定のオーバーラップエリアに対して無線周波数の受信可能なパターンを与えることが可能であり、それにより、各々のWAPと少なくとも1つのNICとの間で通信が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は一般に、飛行機、バス、船または列車などの輸送機関の客室エリア全体にデータを配信するために使用されるモバイルネットワークに関する。より具体的には、この発明は輸送機関の客室エリアを対象にしたブロードバンドワイヤレスビデオ、オーディオ、データおよび制御配信システムに関するものである。このブロードバンドワイヤレス配信システムは、客室エリアへ機内エンターテイメント(ITE)機能性を配信するためのデータネットワークの基幹である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
飛行機などの輸送機関の客室エリアを対象にした現在のオーディオ/ビデオ配信システムは重く、嵩高い。広範囲に座席から座席へと広がる配線ケーブルは損傷および故障しやすく、客室が再構成されるときにはいつも完全に取外され、取替えられなければならない。ヘッドセットオーディオを前列の座席列の背にあるビデオディスプレイと同期させるなど、座席列間でオーディオ/ビデオの調整が必要になるときにはさらに多くのケーブルが必要になる。新しいデータサービスが既存のオーディオ/ビデオシステムを持つ輸送機関にインストールされると、輸送機関内にある各々の座席レシーバに信号および電力を送るためのケーブルは2つの異なるサービスを提供しなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらのケーブルによりさらに重量が増加するという不利が課されることになり、さらに長いメンテナンス時間が必要になる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の簡単な概要
この発明の1つの好ましい実施例において、輸送機関の客室エリアを対象にしたブロードバンドワイヤレス配信ネットワークが提供される。ブロードバンドワイヤレス配信ネットワークは、ヘッドエンド装置に接続された複数のワイヤレスアクセスポイント(WAPs)と、客室について計略的に配置された複数のワイヤレスネットワークインターフェイス回路(NICs)とを含む。さらに、ブロードバンドワイヤレス配信ネットワークは、少なくとも1つが各々のWAPに接続されるように、WAPsに接続された複数の特別に形成されたアンテナを含む。特別に形成されたアンテナは客室内の特定のオーバーラップエリアを無線周波数の受信可能範囲とするよう適合され、その結果、各々のWAPと少なくとも1つのNICとの間で通信が可能になる。
【0005】
この発明の他の実施例において、ワイヤレス配信ネットワークを使用し、輸送機関の客室エリア内でデータを通信するために方法が提供される。その方法は、少なくとも1つのオーディオ/ビデオサーバを持つヘッドエンド装置と複数のワイヤレスアクセスポイント(WAPs)との間のデータ通信を含む。さらに、その方法は、複数の特別に形成されたアンテナを使用した、WAPsと複数のワイヤレスネットワークインターフェイス回路(NICs)との間でデータを送信することを含む。少なくとも1つの特別に形成されたアンテナは各々のWAPに接続されている。さらに、その方法は、各々の特別に形成されたアンテナが特定の無線周波数(RF)の受信可能エリアをコントロールするように、各々の特別に形成されたアンテナを動作させることを含む。各々のアンテナによってコントロールされる特定の無線周波数の受信可能エリアは、その他の特定の無線周波数の受信可能
エリアのうち少なくとも1つとオーバーラップする。
【発明の効果】
【0006】
したがって、この発明の利点は、ブロードバンドワイヤレスシステムを利用することによってオーディオ、ビデオおよびデータ配信のための座席から座席へのケーブルが不要になることである。この発明の他の利点は、過密な客室エリア内の多くのユーザに対してオーディオ、ビデオ、データおよび制御を提供するために高い帯域幅が提供されることである。この発明のさらに他の利点は、他の輸送機関のサブシステムおよび外部のサブシステムとの電磁干渉が低減されることである。この発明のさらに他の利点は、座席列間でオーディオ/ビデオ信号を調整するためのフィードフォワードケーブルの必要性がなくなることである。この発明のさらに他の利点は、ワイヤレスアクセスポイント(WAP)のレイアウトおよび伝送電力が最適化され、その結果、輸送機関内部での干渉問題とマルチパス問題とを減少させることである。この発明のさらに他の利点は、最小限の数のWAPsを使用して客室の受信可能範囲が提供されるようにアンテナパターンおよびレイアウトが最適化されることである。
【0007】
この発明は、詳細な説明と添付の図から、より完全に理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
好ましい実施例の詳細な説明
図1は、この発明に従って、輸送機関内部においてデータをワイヤレス配信するためのブロードバンドワイヤレス配信システム10の概略図である。ワイヤレス配信システム10はサーバおよびスイッチシステム14を含み、サーバおよびスイッチシステム14は少なくとも1つの中央スイッチ18およびスイッチ18と通信する少なくとも1つのオーディオ/ビデオサーバ22を含む。さらに、サーバおよびスイッチシステム14はスイッチ18と通信する少なくとも1つのオーディオ/ビデオ(A/V)インターフェイス24、スイッチ18と通信する外部ルータ26、およびスイッチ18とこれも通信する少なくとも1つの客室サービスシステム(CSS)インターフェイス30を含む。外部ルータ26は、輸送機関に乗っているユーザと輸送機関から遠く離れて位置する少なくとも1つのサーバシステムまたはコンピュータを利用した装置との間のインターネット通信リンクを提供するために使用される。CSSインターフェイス30は、乗客の読書灯、乗務員呼出しライトおよび乗務員アナウンスのための拡声システムをコントロールするためのアクセスを与える。
【0009】
さらに、サーバおよびスイッチシステム14は少なくとも1つのインターフェイス32を含み、機上ナビゲーションシステムまたは機上健康管理システムなど、少なくとも1つの他の輸送機関システムとの通信が可能である。たとえば、システム10は機上ナビゲーションシステムからのナビゲーションデータを使用し、乗客に飛行位置を示すことが可能である。システム10は機上健康管理システムにより、地上の医師と通信すること、病気の乗客または乗務員に関する健康状態のデータを送信することおよび輸送機関に乗っている間に行なうべき応急処置についての治療上の指示を受信することが可能になる。サーバおよびスイッチシステム14はサーバ22を利用し、複数のワイヤレスアクセスポイント(WAPs)34に提供される機内エンターテイメントデータおよび他のデータを送信、受信および格納する。WAPs34は輸送機関の客室エリア内にある天井パネルの上に配置されることが好ましい。しかしながら、WAPs34は、たとえば乗客座席の背の部分、客室の側壁の中もしくは側壁に装着、または客室の床の下など、客室エリア内の好適な任意の場所に配置されることが可能である。
【0010】
ここでの詳細な説明は商業飛行機の乗客座席に機内エンターテイメントデータおよび他のデータを配信する機内ワイヤレス配信システムを対象にしているが、この発明は船、列
車、バスなど他の方式の大量輸送交通機関にも適用可能である。したがって、飛行機を参照することはこの発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。したがって、この発明を適用できる他の方式の輸送機関を包含するために、「機内ワイヤレス配信」は「モバイルワイヤレス配信」としても参照される。
【0011】
動作時において、サーバおよびスイッチシステム14はオーディオ/ビデオサーバ22、外部ルータ26およびCSSインターフェイス30を利用して、ソフトウェアを通じて機能要素を実行する。たとえば、サーバおよびスイッチシステム14はアナログおよび/またはデジタルオーディオ、ビデオならびにオーディオ/ビデオオンデマンド(AVOD)などの機能要素を実行する。さらに、サーバおよびスイッチシステム14は衛星を介した生中継テレビ、インターネット、イントラネット、Eメールアクセス、ゲーム、データ保存、ウェブキャッシングおよび保存、CDプレーヤおよびDVDプレーヤ、ならびに他の音声装置およびビデオ装置などの機能要素を実行することが可能である。さらに、中央スイッチ18はソフトウェアを利用し、エンターテイメントプログラミングデータおよびその他のデータをWAPs34へ送信し、そしてWAPs34から受信すること、内蔵テスト装置データのローディング、衛星データのインターフェイス、多重化、マッピング、ゾーン標準顧客サポートサービスのインターフェイス、パケット交換システムデータ処理、マルチメディア経路選択およびアビオニクスデータの標準インターフェイスなどのデータ機能を可能にする。データは、イーサネット(登録商標)または他の好適な地域ネットワークなどの配線式接続によって、サーバおよびスイッチシステム14から適切なWAPs34へ送信される。
【0012】
機内エンターテイメントデータおよび他のデータは、無線周波数(RF)信号を使用し、WAPs34を介して、客室の指定されたエリアへ一斉送信される。客室の指定されたエリアの各々は複数の乗客座席38(図2に図示)を含む。各々の指定されたエリアは、乗客用コントロールユニット(PCUs42(図2に図示)、座席ビデオディスプレイ端末(SVDTs)44(図2に図示)および乗務員モバイルコンピュータ端末(図示せず)など機内ワイヤレス配信システム10の他の構成要素を含む。
【0013】
機内エンターテイメントデータおよび他のデータは、図2、図3および図4を参照し以下に記載されているとおり、受信可能エリア内にある座席38の群と、任意のPCUs42、SVDTs44または乗務員モバイルコンピュータ端末に一斉送信される。データが戻るときには同じ経路を逆向きにたどる。1つの好ましい実施例において、ワイヤレス配信システム10は全デジタル方式であり、サーバおよびスイッチシステム14はインターネットプロトコル(IP)マルチキャストとボイスオーバーIP(VOIP)とを利用し、帯域幅要件を低減させる。IPマルチキャストは送信側によって送信されたデータフレームを識別する方法であり、送信側が各受信機に別々のコピーを送信する必要なく、複数の受信側が同じフレームを受信することが可能になる。オーディオおよびビデオのストリーミングに関しては、同時にデータを受信するために、SVDTs44およびPCUs42のいくつかが選択され得るか、いずれも選択されないか、またはすべてが選択され得るように、サーバおよびスイッチシステム14は1つのマルチキャストストリームとしてデータを送信する。
【0014】
VOIPは、電話または他の音声信号を、イーサネット(登録商標)ネットワークなどの標準データネットワークと互換性のあるデジタルデータパケットへ効率的に符号化する方法である。ワイヤレス配信システム10においてVOIPを使用することにより、拡声システムを利用したアナウンス、個人の電話による通話および複数の乗客の間での電話会議がワイヤレス配信システム10を通じて最小限のネットワーク帯域幅で実行することが可能となる。
【0015】
図2は輸送機関客室エリア35の断面の概略図であり、ワイヤレス配信システム10がこの発明に従って利用されている。公知の機内エンターテイメントシステムとは異なり、ワイヤレス配信システム10には専用の座席エレクトロニクスボックス(SEB)がない。むしろ、ワイヤレス配信システム10は各々の乗客座席38にワイヤレスネットワークインターフェイス回路(NIC)36を含み、ワイヤレスネットワークインターフェイス回路36は各々の乗客座席38に装着されたPCU42および/またはSVDT44に統合されている。各々のPCU42は、コンピュータ、乗客がコンピュータで制御された装置を接続することが可能なコンピュータ端子または音声を送信するヘッドセットなどの乗客インタラクティブ装置から構成される。
【0016】
各々の座席38のSVDT44は、関連するワイヤレスNIC36と特定のWAP34との間の無線周波数通信を介して、オーディオ/ビデオエンターテイメントデータおよび他のデータをサーバおよびスイッチシステム14へ、そしてサーバおよびスイッチシステム14から送受信する。各々の座席38のPCU42は同様に、NIC36を通じて乗客からの要求と乗客装置データと乗客の電話データとを特定のWAP34に送信し、WAP34から音声データと乗客装置データとを受信する。乗客の要求は、PCU42上にある乗客要求ボタン、スイッチおよび/または他の制御装置(図示せず)を押すまたはセットすることによって開始される。乗客装置データはインターネットデータなどのデータを含む。各々のワイヤレスNIC36およびPCU42は、座席38のヘッドレスト部分46、座席38の肘掛け部分50、または便利に乗客の手が届く任意の場所に配置されることが可能である。
【0017】
代替的な実施例において、乗客要求ボタン、オーディオヘッドセット差込口などのPCU42の機能性は、座席38のヘッドレスト部分46の上、または肘掛けが取付けられたSVDTs44については座席38の肘掛け部分の中にあるSVDT44に統合されることが可能である。
【0018】
図3は、輸送機関の客室エリア全体35を図で表わしたものであり、WAPs34のアンテナパターン受信可能エリアを示している。好ましい実施例において、WAPs34は異なった、オーバーラップしない無線チャネルで動作し、客室エリア35のオーバーラップする受信可能区域54を提供する。たとえば、ワイヤレス配信システム10は、WAPs34が5GHzのUNII帯域の中で8から12個のオーバーラップしないチャネルで動作するように機能することが可能であり、そこでは各々のチャネルが毎秒54メガビットの公称ビット速度で動作し、約15から20の座席38をカバーする。チャネルは、周波数または周波数の範囲を論理的に割当てたものであり、通信の論理的経路を識別するために使用されるものである。好ましくは、各々のチャネルの中心が単一周波数であり、その中心から両側に予め定められた周波数間隔を有する。たとえば1つのチャネルは中心が5.180GHz、幅が20MHzであり得る。
【0019】
MPEG−1およびMPEG−2などの典型的な標準的オーディオビデオデジタル符号化方式は、ステレオサウンドと多言語トラックとを含む高品質ビデオストリームのために毎秒3メガビットまたはそれ以上を必要とする。より新しいMPEG−4オーディオ/ビデオデジタル符号化規格では、SVDT44などの座席サイズのディスプレイに対して同様の品質のオーディオ/ビデオストリームが毎秒約1メガビットの符号化速度で符号化されることが可能である。IEEE802.11aなどのワイヤレス直交周波数分割多重(OFDM)規格は、無線チャネルごとに、または単一の無線チャネルで動作するWAP34ごとに、毎秒20メガビットから30メガビットの使用可能なデータ帯域幅を提供する。したがって、1つのWAP34は、ネットワークオーバーヘッドおよび管理機能に向けられた帯域幅に加えて、約20人の乗客に対して完全なオーディオ/ビデオを同時に提供することができる。
【0020】
WAP34の受信可能区域54には図3に示されているように物理的なオーバーラップが存在するので、ブロードバンドワイヤレスシステム10はいかなる所与のWAP34の故障に対しても固有の耐障害性を持っている。好ましい実施例において、所与の座席のPCU42またはSVDT44がその割当てられたWAP34ともはや通信することができなくなった場合に、PCU42またはSVDT44が異なったWAP34に再関連付けされて、新しいチャネルでオーバーラップ区域54を提供するようにシステム10は実現される。サーバおよびスイッチシステム14にある負荷分散ソフトウェア(図示せず)は、周辺座席のそのときのデータ需要に基づき、どの新しいWAP34に関連付けられるべきかということについて、各々のPCU42またはSVDT44の中にある各々のNIC36に指示を出す。
【0021】
他の好ましい実施例において、WAPs34は、オーバーラップしないチャネルで動作するWAPs34とオーバーラップするチャネルで動作するWAPs34とを利用し、オーバーラップする受信可能区域54を提供する。たとえばOFDMワイヤレスネットワーキング規格の1つであるIEEE標準802.11a−1999は、米国UNII無線周波数帯内で使用可能な12のオーバーラップしない無線チャネルを定義している。この実施例において、ブロードバンドワイヤレス配信システム10は、一番前のWAP34が第1の無線チャネルを使用し、次のWAP34が第2のチャネルを使用するなどというようにセットアップされている。最初の2つのWAPs34は物理的にオーバーラップする区域54に受信可能範囲を提供し、所与のNIC36が第1の無線チャネルで第1のWAP34に、または第2の無線チャネルで第2のWAP34に送信する。12個を超えるWAPs34が輸送機関内にインストールされた場合、第13のWAP34は再び第1の無線チャネルを使用するよう割当てられ、輸送機関内で異なった物理的区域54に制約されなければ、第13のWAP34は第1の無線チャネルと「オーバーラップ」する、すなわち干渉するであろう。輸送機関内で1個より多いWAP34によって無線チャネルを再利用するこの方法は、飛行機などの輸送機関の範囲内で可能である。その理由は、伝送電力が制御されていること、アンテナパターンが整形されていることおよび空間的に切り離されていることにより、第1のWAP34からの無線周波数信号が第13のWAP34の無線周波数信号と大きく干渉することを防ぐからである。
【0022】
図4aと図4bはそれぞれ、特別に形成されたパッチアンテナ62の上面図および側面図の概略図であり、特別に形成されたパッチアンテナ62はオーバーラップするパターン受信可能区域54(図3に図示)を提供するために使用される。伝達されたワイヤレス配信システム10の電磁エネルギは、特別に形成されたパッチアンテナ62および低減された伝送電力によって、他の輸送機関システムを破壊しないことを保証するように制御される。少なくとも1つの特別に形成されたパッチアンテナ62は各々のWAP34に接続されている。代替的に、パッチアンテナ62は各々のWAP34の中に含まれることも可能である。好ましい実施例において、特別に形成されたパッチアンテナ62は4つの長方形のアレイエレメント66を含む長方形のパッチの、リニアアレイアンテナを含む。アンテナ62は扇型ビーム放射パターンを発生させ、扇型ビーム放射パターンは図3の受信可能区域54によって図示されているように、一方の方向に狭く、他方の方向に広い放射パターンである。さらに、アンテナ62は、客室35内の少数の座席38(図2に図示)のみを含む受信可能区域54(図3に図示)を直接に放射する方向を向いている。たとえば、アレイエレメント66が1通路の輸送機関の縦軸に沿った方向を向いていると、アンテナパターン54は1列内のすべての座席、つまり窓から窓へのすべての座席をカバーするが、約3列から4列をカバーするのみで、ユーザの数を約20人に限定するだろう。
【0023】
放射パターン54が調整されていることに加えて、パッチアンテナ62の他の利点は、低断面である。好ましい実施例において、アンテナ62は1インチの約16分の1(0.
125)から1インチの16分の3(0.1825)(1.588mmから4.762mm)の高さを持ち、客室の頭上エリアにアンテナ62を置いてもホーンアンテナなどのより大きな寸法を持つ他のタイプの高度な指向性アンテナよりも目立たない。アンテナエレメント66は線形に並び、均等に間隔を置いた長方形のエレメントであり、プリント回路板(PCB)基板70の一方側にエッチングされている。代替的に、エレメント66は表面実装のような形でPCB70に装着されることが可能である。同軸給電線74は、各々のエレメント66を示されるエレメントとは反対側のPCB70の面にある基面78に接続する。各々のエレメント66の長さ(L)、各々のエレメント66の幅(W)、エレメント66間の間隔(D)、PCB基板70の厚さ(T)、基板誘電率(図示せず)および基面78の寸法はすべて、所望の周波数と入力インピーダンスとに基づいて選択される。1つの好ましい形状において、長さLは約0.433インチ(1.1cm)、幅Wは約0.709インチ(1.8cm)、スペースDは約0.640インチ(1.625cm)、厚さTは約0.125インチ(0.3175cm)、基板電気定数は約4.5、および基面78の寸法は約6.801インチ×3.858インチ(17.275cm×9.8cm)であり、結果として周波数は約5GHzから6GHzである。
【0024】
4つのエレメント66の各々がサイドローブ放射の減少に必要とされる所望の量の電流を受取るよう、各々のエレメントに供給される電流は重み付けされるかまたは「テーパ状にされ」、その結果、他の輸送機関システムとの干渉を減少させる。たとえば、1−2−2−1の電流のテーパは中央の2つのエレメント66が外側2つのエレメント66の2倍の電流を受取る形であり、サイドローブレベルを減少させるために使用されることができるだろう。1つの好ましい実施例において、電流のテーパは、同軸ケーブルと電力分配器(図示せず)を使用し、実現される。代替的な好ましい実施例において、電流のテーパはアンテナエレメント66と同様にPCB70上にエッチングできるマイクロストリップ線路を使用し、実現されることが可能である。マイクロストリップ線路はアンテナエレメント66と同じ側のPCB70上にエッチングされることが好ましい。代替的には、PCBは3層の基板から構成され、中央の層がアンテナエレメント66に対して基面を提供し、マイクロストリップ線路は3層の基板の対向する側にエッチングされる。
【0025】
WAPs34およびNICs36の中のワイヤレスレシーバエレクトロニクス(図示せず)は、高度なOFDMおよび高度なデジタル信号処理(DSP)を使用し、他の輸送機関システムからの干渉を非常に高いレベルで免除することを達成する。OFDMは多くの無線周波数搬送周波数の全域でデータとエラー検出情報とを符号化し、1つ以上の搬送信号によって送信されるデータの中のいくつかは損失または改変があったとしても、レシーバ82が送信されたデータを復号し、再構築することを可能にする。チャネルデータ速度をサポートするために必要な非常に速い速度でのこの符号化、復号化および再構築を行なうために、高度なDSP能力が必要である。
【0026】
これらの特徴は、金属の胴体内で無線周波数の反射が大量に発生する商業飛行機などの輸送機関において特に有益である。この大量の反射は、OFDM技術とDSP技術とを使用しなければ、結果として重大なデータ損失または少なくとも利用可能なデータ帯域幅の重大な減少をもたらす可能性がある。
【0027】
代替的な実施例において、超広帯域(UWB)などの他の技術があり、それらは同様に動作し、また同程度に適用可能であるかもしれない。UWBは高い帯域幅のワイヤレスネットワークの代替となるスペクトラム拡散技術である。UWBは広く利用されているOFDM技術よりも高い帯域幅を提供し、よりよい電磁雑音の免除を提供する潜在性がある。ワイヤレス配信システム10はUWBまたはOFDMのどちらかの技術を利用して動作するように適合されている。
【0028】
1つの好ましい実施例において、ワイヤレス配信システム10により、PCU34がSVDT44の画面上の特徴をコントロールするように、肘掛け50の上もしくは中に装着されたPCU34と前列の座席38の背にあるSVDT44との間のワイヤレス通信が可能になる。現在のIFEシステムでは、視聴者が座っている列に配置される座席エレクトロニクスボックス(SEB)にオーディオ/ビデオストリームが送信される。視聴者のビデオディスプレイが視聴者の前にある座席の背に設置されていれば、視聴者のSEBはオーディオ/ビデオ信号を受信し、音声部分を座席の肘掛けにある視聴者のヘッドホン差込口に送信し、同期したビデオ信号を視聴者のビデオディスプレイに送信する。同期した信号は、視聴者のSEB前列にあるビデオディスプレイとの間に設置されているフィードフォワードケーブルを通じて送信される。この実施例において、関係する両方の座席群のPSUs34はIPマルチキャストストリームと同じオーディオ/ビデオストリームを受信し、音声部分またはビデオ部分を必要に応じて抽出する。これによりフィードフォワードケーブルの必要性または2つの同一のストリームのための帯域幅要件を2倍にする必要がなくなる。
【0029】
この発明はさまざまな特定の実施例の観点で記載されてきたが、特許請求の範囲の精神および範囲内でこの発明が修正を伴って実施され得ることを当業者は認識するだろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明に従う輸送機関の内部を対象にしたブロードバンドワイヤレス配信システムのネットワーク構成の概略図である。
【図2】図1に示されたシステムが実現されている輸送機関客室エリアの断面の概略図である。
【図3】輸送機関客室エリア全体の図であり、図1に示されたワイヤレス配信システムに含まれるWAPsのためのアンテナパターン受信可能範囲を示している。
【図4a】図3に示されたパターン受信可能範囲を提供するために使用される特別に形成されたパッチアンテナの平面図の概略図である。
【図4b】図4aに示された特別に形成されたパッチアンテナの側面図の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸送機関の客室エリアを対象にしたブロードバンドワイヤレス配信システムであって、
少なくとも1つのオーディオ/ビデオサーバを含むサーバおよびスイッチシステムと、
前記サーバおよびスイッチシステムと通信する複数のワイヤレスアクセスポイント(WAPs)とを備え、
前記WAPの各々は、特定の無線チャネルで動作することが可能であり、前記システムは、さらに、
複数の無線周波数(RF)アンテナを備え、
少なくとも1つのアンテナは、前記WAPの各々に関連付けられ、
前記アンテナの各々は、指定された無線周波数放射パターンを与えることが可能であり、それにより、客室内に無線周波数の受信可能な特定のエリアを与え、前記システムは、さらに、
複数のワイヤレスネットワークインターフェイス回路(NICs)を備え、
前記NICの各々は、前記アンテナを利用し、前記WAPsのうち少なくとも1つと通信することが可能である、ブロードバンドワイヤレス配信システム。
【請求項2】
前記WAPの各々は、さらに、前記NICが配置される客室内における無線周波数の受信可能な特定エリアに向けて、前記関連付けられたアンテナによって放射される無線周波数信号を利用することによって、少なくとも1つの前記NICと通信することが可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記アンテナは、さらに、客室エリアの無線周波数の受信可能なオーバーラップエリアを与えることが可能である、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記アンテナの各々は、さらに、客室の特定エリアを無線周波数の受信可能範囲とすることによって、輸送機関の他のシステムとの電磁干渉を減少させることが可能である、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記WAPsは、さらに、前記WAPsによって生成される無線周波数の伝送電力を制御することが可能であり、
前記NICsは、さらに、前記NICsによって生成される無線周波数の伝送電力を制御することが可能であり、それによって、他の輸送機関システムとの無線周波数信号の干渉を減少させる、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記WAPsおよび前記NICsは、さらに、直交周波数分割多重(OFDM)および高度なデジタル信号処理(DSP)を利用し、他の輸送機関システムからの干渉を所望のレベルで免除することを達成することが可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記システムは、全デジタル方式から構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記サーバおよびスイッチシステムは、インターネットプロトコル(IP)マルチキャストおよびボイスオーバーIP(VOIP)のうち少なくとも1つを使用し、前記システムの帯域幅要件を減少させることが可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記サーバおよびスイッチシステムは、インターネットプロトコル(IP)マルチキャストを使用し、前記システム内のケーブルを減少させることが可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記WAPの各々は、他のWAP無線チャネルとオーバーラップする関係と、他のWA
P無線チャネルとオーバーラップしない関係とのうち少なくとも1つの関係を有する特定の無線チャネルを使用し、動作することが可能である、請求項2に記載のシステム。
【請求項11】
ワイヤレス配信ネットワークを使用して輸送機関の客室エリア内でデータを通信する方法であって、
少なくとも1つのオーディオ/ビデオサーバを有するサーバおよびスイッチシステムと、複数のワイヤレスアクセスポイント(WAPs)との間でデータを通信することと、
複数のアンテナを使用して、WAPsと複数のワイヤレスネットワークインターフェイス回路(NICs)との間でデータを送信することとを含み、
アンテナの少なくとも1つは、各々のWAPsに関連付けられ、前記方法は、さらに、
各々のアンテナが特定の無線周波数パターンを放射するように各々のアンテナを動作させることをさらに含む方法。
【請求項12】
ヘッドユニットとWAPsとの間のデータ通信は、サーバおよびスイッチシステムをインターネットプロトコル(IP)マルチキャストおよびボイスオーバーIP(VOIP)のうち少なくとも1つを使用するように適合させることによって、ネットワークの帯域幅要件を減少させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ヘッドユニットとWAPsとの間のデータ通信は、ヘッドユニットをIPマルチキャストを使用するように適合させることによってネットワーク内のケーブルを減少させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
アンテナの1つを使用し、所与のWAPと少なくとも1つの所与のNICとの間でデータを送信することは、
各々のWAPを利用し、それぞれのWAPによって生成される無線周波数の伝送電力を制御することによって、他の輸送機関システムとの無線周波数信号の干渉を減少させることと、
各々のNICを利用し、それぞれのNICによって生成される無線周波数の伝送電力を制御することによって、他の輸送機関システムとの無線周波数信号の干渉を減少させることとを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
アンテナを使用しWAPsとNICsとの間でデータを送信することは、異なった、オーバーラップしない無線チャネルで少なくとも2つのWAPsを動作させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
アンテナを使用しWAPsとNICsとの間でデータを送信することは、複数のオーバーラップする無線チャネルでWAPsを動作させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
アンテナを使用しWAPsとNICsとの間でデータを送信することは、直交周波数分割多重(OFDM)およびデジタル信号処理(DSP)を利用し、輸送機関の他のシステムとの干渉を最小限にすることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
各々のアンテナを動作させることは、
客室の特定エリアに無線周波数の受信可能範囲を与えるように各々のアンテナを適合させることと、
各々のアンテナによって与えられる受信可能範囲の特定エリアをオーバーラップさせるように各々のアンテナを適合させることとを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
客室エリアを対象にしたブロードバンドワイヤレス配信ネットワークを含む輸送機関で
あって、前記のブロードバンドワイヤレス配信ネットワークは、
サーバおよびスイッチシステムに接続される複数のワイヤレスアクセスポイント(WAPs)と、
客室について配置される複数のワイヤレスネットワークインターフェイス回路(NICs)と、
少なくとも1つのアンテナが前記WAPの各々に接続されるように前記WAPsに接続される複数のアンテナとを含み、
前記アンテナは、客室内の特定のオーバーラップエリアを無線周波数の受信可能範囲とすることが可能であり、それにより、前記オーバーラップエリア内の前記WAPsの各々と前記オーバーラップエリア内の前記NICsの少なくとも1つとの間における通信を可能にする、ネットワーク。
【請求項20】
前記WAPの各々は、他のWAP無線チャネルとオーバーラップする関係と、他のWAP無線チャネルとオーバーラップしない関係とのうち少なくとも1つの関係を有する特定の無線チャネルを使用し、動作することが可能である、請求項19に記載の輸送機関。
【請求項21】
前記アンテナの各々は、さらに、客室の特定のエリアを無線周波数の受信可能範囲とすることによって、輸送機関の他のシステムとの電磁干渉を減少させることが可能である、請求項19に記載の輸送機関。
【請求項22】
前記WAPsと前記NICsとは、直交周波数分割多重(OFDM)とデジタル信号処理(DSP)とを利用し、他の輸送機関システムからの干渉に対して保護することが可能である、請求項19に記載の輸送機関。
【請求項23】
前記サーバおよびスイッチシステムは、インターネットプロトコル(IP)マルチキャストを使用し、前記ネットワーク内でのケーブルを減少させることが可能である、請求項19に記載の輸送機関。
【請求項24】
中央情報サブシステムから予め規定されたエリア内にある複数の独立した、指定された場所へ情報を配信するためのブロードバンドワイヤレス配信システムであって、
少なくとも1つのサーバを含み、前記の情報を提供するための、サーバおよびスイッチシステムのサブシステムと、
前記の予め規定されたエリア内にある予め指定された場所に配置される複数のワイヤレスアクセスサブシステムとを備え、
前記ワイヤレスアクセスサブシステムの各々は、前記予め規定されたエリアのうちのサブエリアを含むに足りる、予め定められた無線周波数(RF)の受信可能なパターンを与えることが可能なアンテナに関連付けられ、
前記サブエリアの各々は、前記複数の独立した、指定された場所のうちの、部分的な、複数の場所だけを含み、前記システムは、さらに、
前記アンテナと通信可能な複数のワイヤレスネットワークインターフェイスサブシステムを備え、
前記ワイヤレスネットワークインターフェイスサブシステムの各々は、前記独立した、指定された場所の中の特定の場所に独立して関連付けられ、それによって、所与の前記サブエリアで使用されるエレクトロニクス装置と、前記の所与のサブエリアを含む前記無線周波数の受信可能なパターンを与える前記アンテナに関連付けられる前記ワイヤレスアクセスサブシステムとの間のワイヤレス通信を促進する、システム。
【請求項25】
前記アンテナは、それぞれ、異なる無線周波数チャネルに従って動作する、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記アンテナは、オーバーラップする無線周波数の受信可能なパターンとオーバーラップしない無線周波数の受信可能なパターンとのうち少なくとも1つを与える、請求項24に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−506899(P2006−506899A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553564(P2004−553564)
【出願日】平成15年11月7日(2003.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2003/035841
【国際公開番号】WO2004/047373
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】