説明

農業用多層フィルム

【課題】初期透明性と塗膜の耐傷付き性が良好で防曇性の発現速さに優れ、及びこの防曇性が長期間持続される農業用ポリオレフィン系樹脂多層フィルムを提供する。
【解決手段】メタロセン触媒により共重合して得られるエチレン−α−オレフィン共重合樹脂と高密度ポリエチレン樹脂が配合された樹脂組成物からなる層が外層及び/又は内層に少なくとも1層構成されてなる基体ポリオレフィン系樹脂フィルムの片面又は両面に、疎水性アクリル系樹脂水分散液、シラノール基を含有するポリカーボネート系のアニオン性ポリウレタンエマルジョン、無機質コロイドゾルの3成分を必須成分として含有する防曇剤組成物に由来する塗膜が形成されてなることを特徴とする農業用多層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農業用多層フィルムに関するものである。更に詳しくは、優れた初期透明性と、優れた防曇性を有する農業用ポリオレフィン系樹脂多層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、農業用作物を半促成または抑制栽培して、その市場性、生産性を高めるため、農業用塩化ビニルフィルムやポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、及びポリオレフィン系樹脂を主体とした特殊フィルムなどの農業用被覆材による被覆下に有用作物を栽培する、いわゆるハウス栽培やトンネル栽培が盛んに行われている。なかでも、ポリオレフィン系樹脂を主体とした特殊フィルムは、フィルム中に可塑剤を含まず化学的構造も安定しているため、長期の使用にも光線透過性は殆ど変わらず、焼却しても有害ガスの発生がなく、更に、インフレーション成形法により、幅継ぎのための接着加工を必要としない広幅フィルムが安価に提供できることなどから近年盛んに利用されるようになってきている。
【0003】
しかし、ポリオレフィン系フィルムは、表面が疎水性であるために、これを農業用ハウスの被覆資材として使用すると、ハウス内の温度、湿度等の条件によっては、フィルムのハウス内側表面に曇りを生じる。この曇りは、フィルムを透過する光線の量を少なくし、植物の生育を遅くしたり、水滴が栽培植物に落下することにより、幼芽が害を受けたり、病害の発生の原因となったり、ハウス内の作業者に不快感を与えるなど、種々の不都合を生ずる。
【0004】
このような不都合を解消するには、フィルム表面に防曇性を付与すればよいことが知られている。フィルム表面に防曇性を付与するには、界面活性剤のような親水性物資を練り込む方法、あるいは、フィルム表面に親水性物質もしくは、水溶性高分子物質を塗布する方法等が知られている。しかし、前者の方法は、練り込まれた親水性物質が樹脂表面へブリードアウトすることにより、防曇性を発現させるものであるが、この方法ではフィルムからの親水性物質のブリードアウトが速く、該フィルムをハウスに展張後1年も経過すると防曇性の効果が薄れるため、防曇持続性が甚だ不十分なものしか得られておらず、後者の方法で防曇性を付与する試みがされている。
【0005】
親水性を付与するものとして、例えば、アルミナゾルに界面活性剤と親水性ポリマーを加えたもの(特許文献1)、コロイド状シリカに親水性ポリマーと界面活性剤を加えたものが開示されている(特許文献2、特許文献3)。しかしながら、これら組成物には無機質水性ゾルとの混和性をだす目的からポリビニルアルコールや水酸基含有アクリル系樹脂等の親水性ポリマーが配合されているため、形成塗膜は本質的に耐水性に劣る傾向がある。従って、多湿条件下に常時さらされると、無機質水性ゾルが親水性ポリマーと共に流失したり分散不良を起こし、短期間で防曇性の効力が損なわれ、実用的に満足できるものではない。
【0006】
上述のような欠点を解消するために、ガラス転移温度35〜80℃の範囲にある疎水性アクリル系樹脂と無機質コロイドゾルとからなる防曇剤組成物に関する発明を提案したが(特許文献4)、防曇持続性に優れるものの、フィルム展張時の塗膜の傷付きに伴う傷付き部位の防曇性の低下、または、防曇性を発現するまでの時間が長いという問題があった。
【特許文献1】特開昭51−81877号公報
【特許文献2】特開昭57−119974号公報
【特許文献3】特開昭59−15473号公報
【特許文献4】特公平6−47668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、かかる背景下にあって、ハウス被覆用等として優れた初期透明性と塗膜の耐傷付き性が良好で防曇性の発現速さに優れ、及びこの防曇性が長期間持続される農業用ポリオレフィン系樹脂多層フィルムを提供すべく、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかして本発明の要旨とするところは、
(1)メタロセン触媒により共重合して得られる下記の特性を有するエチレン−α−オレフィン共重合樹脂(A)と密度が0.940〜0.970g/cmの範囲にある高密度ポリエチレン樹脂(B)が重量比で(A)/(B)=99/1〜70/30の範囲にあり、かつ、当該樹脂が合計60重量%以上配合された樹脂組成物からなる層が外層及び/又は内層に少なくとも1層構成されてなる基体ポリオレフィン系樹脂フィルムの片面又は両面に、下記(C)を主成分とする防曇剤組成物に由来する塗膜が形成されてなることを特徴とする農業用多層フィルム、
・エチレン−α−オレフィン共重合樹脂(A)の特性値
(A−1)エチレンと炭素数原子数3〜10のα−オレフィンとの共重合樹脂であり、当該α−オレフィンから導かれる構成単位が30重量%以下
(A−2)メルトフローレート:0.1〜10g/10分
(A−3)密度:0.88〜0.930g/cm
(A−4)分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量):1.5〜3.5
・防曇剤組成物に由来する塗膜成分(C)
(C−1)疎水性アクリル系樹脂水分散液
(C−2)シラノール基を含有するポリカーボネート系のアニオン性ポリウレタンエマルジョン
(C−3)無機質コロイドゾル
の3成分を必須成分として含有する防曇剤組成物
(2)防曇剤組成物に由来する塗膜成分(C−2)の配合量が、固形分重量比で成分(C−1)に対して0.01以上、2以下である上記(1)に記載の農業用多層フィルム、
(3)防曇剤組成物に由来する塗膜成分(C−3)の配合量が、固形分重量比で成分(C−1)に対して0.5以上、5以下である上記(1)または(2)に記載の農業用多層フィルム、
(4)防曇剤組成物に由来する塗膜成分(C−1)が、アクリル酸アルキルエステル類もしくはメタアクリル酸アルキルエステルまたはアクリル酸アルキルエステル類もしくはメタアクリル酸アルキルエステル類とアルケニルベンゼン類との混合物を少なくとも60重量%、及びこれらと共重合可能なα,β−エチレン性不飽和単量体0〜40重量%を重合して得られたガラス転移温度が35〜80℃の範囲にある疎水性アクリル系樹脂の水分散液である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の農業用多層フィルム、
(5)防曇剤組成物に由来する塗膜成分(C−3)が、シリカゾル及び/又はアルミナゾルである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の農業用多層フィルム、
(6)外層及び/又は内層以外の層が、酢酸ビニル含有量が25重量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂及び/または密度が0.910〜0.940g/cmのポリオレフィン系樹脂を主成分とした組成物である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の農業用多層フィルムに存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係わる農業用多層フィルムは、メタロセン触媒により共重合して得られる、エチレン−α−オレフィン共重合樹脂と高密度ポリエチレン樹脂が配合された樹脂組成物からなる層が構成されてなる基体ポリオレフィン系樹脂フィルムと、防曇剤組成物に由来する被膜との相乗効果により、防曇性の発現速さと防曇持続効果が飛躍的に向上するので、農業用被覆材としての利用価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の農業用ポリオレフィン系樹脂多層フィルムは2層以上の層構成からなっており本発明のフィルムを実際のハウスやトンネルに展張使用した場合に、外側になる面を外層、内側になる面を内層と称し、また、それらの中間に層を設けた場合はその層を中間層とする。
【0011】
1.基体ポリオレフィン系樹脂フィルム
フィルム外層及び/又は内層樹脂
本発明の外層及び/又は内層は、メタロセン触媒により共重合して得られる特定の特性を有するエチレン−α−オレフィン共重合樹脂(A)と密度が0.940〜0.970g/cmの範囲にある高密度ポリエチレン(B)が重量比で(A)/(B)=99/1〜70/30、より好ましくは95/5〜80/20の範囲で混合され、該混合物が60重量%以上、より好ましくは80重量%以上配合されてなる樹脂組成物である。
該樹脂混合物中の高密度ポリエチレン(B)の重量比率が1未満であると、成形時及び展張作業時の開口性が著しく悪化すると共に、成形時にバブルが蛇行し巻き取りフィルムの端部が不揃いとなると共に、フィルム厚みの変動が大きくなり成形安定性が悪化する。
【0012】
逆に、高密度ポリエチレン(B)の重量比率が30を越えると、高密度ポリエチレンの結晶化により得られたフィルムの透明性が著しく悪化すると共に、高密度ポリエチレンの配向による縦裂け(フィルムが樹脂の流れ方向に裂けやすくなる)や衝撃強度等の機械的強度が低下する。
また、該樹脂混合物が60重量%未満であると、フィルム展張後の経年において低分子物等のブリードアウトにより防曇性が悪化すると共に、機械的強度の低下が大きい。
【0013】
本発明に用いられるエチレン−α−オレフィン共重合樹脂(A)は、通常メタロセンポリエチレンといわれているものであり、エチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等、炭素原子数3〜10のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。これらの中では、炭素原子数4〜8のα−オレフィンとの共重合体が得られる樹脂の強度と生産コストの点からより好ましい。この共重合体は、(I法)特開昭58−19309号、特開昭59−95292号、特開昭60−35005号、特開昭60−35006号、特開昭60−35007号、特開昭60−35008号、特開昭60−35009号、特開昭61−130314号、特開平3−163088号の各公開公報、ヨーロッパ特許出願公開第420436号明細書、米国特許第5055438号明細書及び国際公報WO91/04247号明細書などに記載されている方法、即ちメタロセン触媒、特にメタロセン・アルモキサン触媒、又は、例えば、国際公開公報WO92/01723号明細書等に開示されているような、メタロセン化合物と、メタロセン化合物と反応して安定なイオンとなる化合物からなる触媒、又は、更には、特開平5−295020号、特開平5−295022号などに記載されているような、メタロセン化合物を無機化合物に担持させた触媒などを使用して、主成分のエチレンと従成分の炭素数3〜10のα−オレフィンとを、得られる共重合体の密度が0.880〜0.930g/cmとなるように共重合させる方法である。この重合方法としては、高圧イオン重合法、溶液法、スラリー法、気相法などを挙げることができる。これらの中では高圧イオン重合法で製造するのが好ましい。
【0014】
なお、この高圧イオン重合法とは、特開昭56−18607号、特開昭58−25106号の各公報に記載されているが、圧力が100kg/cm以上、好ましくは300〜1500kg/cmで、温度が125℃以上、好ましくは150〜200℃の反応条件下に高圧イオン重合法により製造されるものである。
他方、メタロセンポリエチレンといわれるエチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法として、例えば、(II法)特開平6−9724号、特開平6−136195号、特開平6−136196号、特開平6−207057号の各公開公報に記載されているメタロセン触媒成分、有機アルミニウムオキシ化合物触媒成分、微粒子状担体、および必要に応じて有機アルミニウム化合物触媒成分、イオン化イオン性化合物触媒成分を含む、オレフィン重合用触媒の存在下に、気相、またはスラリー状あるいは溶液状の液相で種々の条件でエチレンとα−オレフィン、具体的には炭素原子数3〜20のα−オレフィンとを、得られる共重合体の密度が0.900〜0.930g/cmとなるように共重合させることによっても調製することができるが、本発明の主目的であるフィルムでの良好な初期透明性が得られる点で上記(I)法によりメタロセンポリエチレンの製造がより好ましい。
【0015】
(I)法によりメタロセンポリエチレンは、温度上昇溶離分別(TREF:Temperature Rising Elution Fractionation)による測定によって得られる微分溶出曲線で特定される。即ち、温度上昇溶離分別によって得られる溶出曲線のピークが1つ存在するもので、そのピーク温度が20〜100℃、好ましくは40〜80℃の範囲内にあるものである。また、該ピーク温度の溶出温度以外の温度において溶出するものが実質的に該溶出曲線に存在することがある。上記溶出曲線のピーク温度内のピークが2つ以上存在すると透明性が劣るものとなる。また、存在していない場合にはフィルムがべたつくことになる。
【0016】
温度上昇溶離分別(TREF)による溶出曲線の測定
上記温度上昇溶離分別(Temperature Rising Elution Fractionation:TREF)による溶出曲線の測定は、「Journal of Applied Polymer Science.Vol 126,4,217−4,231(1981)」、「高分子討論会予稿集2P1C09(昭和63年)」等の文献に記載されている原理に基づいて実施される。すなわち、先ず対象とするポリエチレンを溶媒中で一度完全に溶解させる。その後、冷却し、不活性担体表面に薄いポリマー層を生成させる。かかるポリマー層は結晶し易いものが内側(不活性担体表面に近い側)に形成され、結晶し難いものが外側に形成されてなるものである。次に、温度を連続又は段階的に昇温することにより、先ず、低温度では対象ポリマー中の非晶部分から、すなわち、ポリマーの持つ短鎖分岐の分岐度の多いものから溶出する。溶出温度が上昇すると共に、徐々に分岐度の少ないものが溶出し、ついには分岐の無い直鎖状の部分が溶出して測定は終了する。この各温度での溶出成分の濃度を連続的に検出して、その溶出量と溶出温度によって描かれるグラフ(溶出曲線)のピークによってポリマーの組成分布を測定する事ができるものである。
【0017】
本発明における外層及び/又は内層に用いられるエチレン−α−オレフィン共重合樹脂(A)は炭素原子数3〜10のα−オレフィンから導かれる構成単位が30重量%以下、より好ましくは5〜20重量%の量で存在する事が好ましい。
上記エチレン−α−オレフィン共重合樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、JIS−K6760による測定法で0.1〜10g/10分、好ましくは0.2〜5g/10分、より好ましくは0.5〜5g/10分の範囲にある。該MFRがこの範囲より大きいと高密度ポリエチレンを所定量配合しても、インフレーション成形時にフィルムが蛇行し巻き取りフィルムの端部が不揃いとなり、成形安定性に欠ける。また、該MFRがこの範囲より小さいと成形機への負荷が増大するため、生産速度を減少させて圧力の増大を抑制しなければならず、生産性が著しく低下し実用性に乏しい。
【0018】
エチレン−α−オレフィン共重合樹脂(A)の密度はJIS−K6760による測定法で0.880〜0.930g/cm 、好ましくは0.900〜0.930g/cm 、より好ましくは0.905〜0.925g/cmの範囲にある。該密度がこの範囲より大きいとフィルムの透明性が悪化するとともに機械的強度も低下する。また、該密度がこの範囲より小さいと、高密度ポリエチレンを所定量配合してもフィルム表面のベタツキによりブロッキングが生じ、ハウスへの展張作業時の開口性やフィルムの展開性が著しく悪化するため実用性に乏しい。
【0019】
エチレン−α−オレフィン共重合樹脂の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)はゲルパーミュレーションクロマトグラフィー(GPC)によって求められる。この場合の分子量分布は1.5〜3.5、好ましくは1.5〜3.0の範囲にある。該分子量分布がこの範囲より大きいと機械的強度が低下するとともに、低分子量成分のブリードアウトにより防塵性が悪化するため好ましくない。該分子量分布がこの範囲より小さいと高密度ポリエチレンを所定量配合しても、成形時にフィルムが蛇行しバブルの安定性が著しく悪化する。
【0020】
本発明における外層及び/又は内層に用いられる高密度ポリエチレン樹脂(B)は、エチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコデセン等、炭素原子数3〜20のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。これらの中では、炭素原子数4〜10のα−オレフィンとの共重合体が得られる樹脂の強度と生産コストの点からより好ましい。
【0021】
なお、本発明においては、上記のようなα−オレフィンを単独で、または2種以上組み合わせて用いることが出来る。
本発明に用いられる高密度ポリエチレン樹脂(B)は炭素原子数3〜20のα−オレフィンから導かれる構成単位が20重量%以下、より好ましくは10重量%以下の量で存在する事が好ましい。
高密度ポリエチレン樹脂(B)のメルトフローレート(MFR)はJIS−K6760による測定法で0.1〜30g/10分、好ましくは0.5〜20g/10分、より好ましくは1.0〜20g/10分の範囲にある。該MFRがこの範囲より大きいと成形時にフィルムが蛇行し、バブルの安定性が悪化する。また、該MFRがこの範囲より小さいと、未溶融物(ゲル、ブツ)の生成により著しくフィルム外観が悪化し透明性、防塵性に悪影響を及ぼすため実用性に乏しい。
【0022】
高密度ポリエチレン樹脂(B)の密度はJIS−K6760による測定法で0.940〜0.970g/cm、好ましくは0.945〜0.965g/cm、より好ましくは0.950〜0.965g/cmの範囲にある。該密度がこの範囲より大きいと成形時に結晶化による球晶の生成、成長によりフィルムの透明性が悪化するとともに機械的強度が低下する。また、該密度がこの範囲より小さいと、成形時にフィルムが蛇行しバブルの安定性が悪化すると共に開口性が悪化するため実用性に乏しい。
【0023】
本発明における外層及び/又は内層の少なくとも1層を構成する他の混合成分としては、以下のポリオレフィン系樹脂が挙げられる。高圧ラジカル法で製造されたエチレンの単独重合下(通称 LDPE樹脂)、チーグラー触媒、酸化クロム触媒、酸化モリブデン触媒の存在下、液相又は気相で共重合させる事により得られるエチレン−α−オレフィン共重合樹脂(通称 L−LDPE樹脂)、酢酸ビニル含有量が1〜15重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(通称 EVA樹脂)。これらの中で、MFRが0.1〜5g/10分、かつ、密度が0.910〜0.935g/cmの範囲にあるLDPE、L−LDPE樹脂及び酢酸ビニル含量が1〜15重量%の範囲にあるEVA樹脂が耐候性、価格の点から好ましい。
【0024】
なお、これらの樹脂は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
しかして、これら混合成分が用いられる量は40重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。該混合成分が40重量%を越えると本発明の目的である初期透明性に優れたフィルムが得られない。本発明における外層及び/又は内層の少なくとも1層を構成する層の厚みとして、10〜100μmが好ましい。10μm未満では実質的に強度が不足し、100μmを越えると、初期透明性が不足するため好ましくない。
【0025】
本発明における外層及び/又は内層の少なくとも1層を構成する樹脂組成物は、上記樹脂に本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、滑剤ないし熱安定剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、着色剤、帯電防止剤、防曇剤(界面活性剤)等、各種添加剤を配合することが出来る。
【0026】
フィルム外層及び/又は内層以外樹脂
本発明における、外層及び/又は内層以外の層を構成する樹脂としては、酢酸ビニル含有量が25重量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂及び/又は密度が0.910〜0.940g/cmのポリオレフィン系樹脂から選ばれる。ポリオレフィン系樹脂としては、α−オレフィン系の単独重合体、α−オレフィンを主成分とする異種単量体との共重合体であり、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、1−ヘキセン共重合体、1−オクテン共重合体、1−デセン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メチルアクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリル酸共重合体、イオノマー樹脂等が挙げられる。これらのうち、酢酸ビニル含有量が25重量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂および密度が0.910〜0.930g/cmの低密度ポリエチレンやエチレン−α−オレフィン共重合体が、透明性や耐候性及び価格の点から好ましい。
【0027】
更に、酢酸ビニル含有量が2〜20重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂はこれらのうちでも特に透明性、柔軟性、保温性、耐候性等の点でより好ましい。
なお、本発明においては、上記のようなエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を単独で、または他の樹脂と2種以上組み合わせて、酢酸ビニル含有量が25重量%以下となるように調整して用いることが出来る。
【0028】
本発明における外層及び/又は内層以外を構成する樹脂層には、本発明の目的を損なわない範囲で外層及び/又は内層の樹脂組成物同様、従来農業用ポリオレフィン系フィルムに慣用されている酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、着色剤、防曇剤(界面活性剤)、保温剤等、各種添加剤を配合することが出来る。
本発明において使用しうる酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2−メチレンビス(6−t−ブチル−4−エチルフェノール)、ジラウリルチオジプロピオネート等のヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系のもの等を挙げることが出来る。これら酸化防止剤は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができ、通常0.01〜0.5重量部の範囲が好ましい。
【0029】
滑剤ないし熱安定剤としては、例えばポリエチレンワックス、流動パラフィン、脂肪族アルコール、ステアリン酸、ラウリン酸アマイド、パルミチン酸アマイド、オレイン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、エルシン酸アマイド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、スイアリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ジブチル錫ジマレート、有機リン酸金属塩、有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、フェノール類、β−ジケトン化合物等が挙げられる。これら滑剤ないし熱安定剤は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができ、通常0.01〜0.5重量%の範囲が好ましい。
【0030】
アンチブロッキング剤としては、珪藻土、合成シリカ、タルク、マイカ、ゼオライト等が挙げられる。これらアンチブロッキング剤は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができ、通常0.01〜0.5重量%の範囲が好ましい。
紫外線吸収剤としては、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、ヒドロキシベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾエート系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ニッケル錯塩系化合物、シアノアクリレート系化合物、2−(4,6−ジフェノール1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール等のトリアジン系化合物等が挙げられる。これら紫外線吸収剤は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができ、通常0.01〜1.0重量%の範囲が好ましい。
【0031】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、特公昭62−59745号公報第5欄第37行〜第16欄第18行目、特開平2−30529号明細書第20項第15〜第38項第3行目に記載されているヒンダードアミン系化合物である。
本発明で使用可能な市販のヒンダードアミン系化合物を例示すれば、TINUVIN770、TINUVIN780、TINUVIN144、TINUVIN622、CHIMASSORB119、CHIMASSORB944(以上、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)、サノールLS765、(三共(株)製)、MARK LA−62、MARK LA−63、MARK LA−67、MARK LA−68、MARK LA−57(以上、旭電化社製)等が挙げられる。これらヒンダードアミン系光安定剤は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができ、通常0.05〜1.0重量%の範囲が好ましい。
【0032】
着色剤としては例えば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ハンザイエロー、アリザリンレーキ、酸化チタン、酸化亜鉛、群青、パーマネントレッド、キナクリドン、カーボンブラック等が挙げられる。
保温剤としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化チタン、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウム、燐酸リチウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、燐酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸チタン、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、アルミノ珪酸カリウム、アルミノ珪酸カルシウム、カオリン、タルク、マイカ、クレー、ハイドロタルサイト類化合物、リチウムアルミニウム複合水酸化物等が挙げられる。これら保湿剤は、本発明の多層フィルムにおいて、外層以外の層に配合されるのが好ましく、配合量としては、5〜30重量%が好ましい。特に本発明の多層フィルムが3層以上の層構成を有する場合は、最外層および最内層以外の層に配合されるのが好ましい。
防曇剤としては、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等があげられる。これらのうち、非イオン系界面活性剤が望ましい。
【0033】
本発明の基体ポリオレフィン系樹脂に、各種添加剤を配合するには、各々必要量配合しリボンブレンダー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、スーパーミキサーその他従来から知られている配合機、混合機、混練機を使用すればよい。この様にして得られた樹脂組成物を多層フィルムとしてフィルム化するには、それ自体公知の方法、例えば溶融共押出し成形法(Tダイ法、インフレーション法を含む)、カレンダー成形法、ラミネート法等の従来から知られている方法によればよい。これらの内でも、特に、空冷インフレーション共押出し成形法が農業用として適した広幅フィルムが得られる点でより好ましい。
【0034】
本発明の多層フィルムの厚みについては強度やコストの点で、0.03〜0.3mmの範囲が好ましく、0.05〜0.2mmの範囲がより好ましい。
また、本発明の外層及び/又は内層を構成する樹脂層(I)と、外層及び/又は内層以外を構成する樹脂層(II)の層比としては、(I)/(II)=1/0.5〜1.6の範囲が好ましく、1/1〜1/5の範囲が成形安定性や強度の点でより好ましい。
【0035】
2.防曇性被膜
本発明に係わる農業用多層フィルムは、基体ポリオレフィン系樹脂フィルムの片面又は両面に成分(C−1)〜(C−3)を主成分とする防曇剤組成物を塗布してなる。
本発明において用いられる防曇剤組成物の成分(C−1)である疎水性アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類または(メタ)アクリル酸アルキルエステル類とアルケニルベンゼン類との混合物を少なくとも60重量%、及びこれらと共重合可能なα,β−エチレン性不飽和単量体0〜40重量%を重合して得られたガラス転移温度が35〜80℃の範囲にある疎水性アクリル系樹脂である。
【0036】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体とは、アクリル酸のまたはメタクリル酸のアルキルエステル類であり、具体的には例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸デシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸デシル等があげられ、一般には、アルキル基の炭素数が1〜20個のアクリル酸アルキルエステル及び/又はアルキル基の炭素数が1〜20個のメタクリル酸アルキルエステルが使用され、これらは混合して使用してもよい。
【0037】
アルケニルベンゼン類としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等があげられる。
アルケニルベンゼン類と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類との混合物を用いる場合には、α,β−エチレン性不飽和単量体の使用量によっても異なるが、通常(メタ)アクリル酸アルキルエステル類の使用割合を10重量%以上とするのがよく、また、疎水性アクリル系樹脂中に占めるアルケニルベンゼン類を70重量%以下の範囲で含有するものがよい。
【0038】
本発明で用いる疎水性アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル際アルキルエステル類、またはこれとアルケニルベンゼン類との混合物を、少なくとも60重量%含有するものが好ましく、60重量%に満たないときは形成塗膜の耐水性が充分でなく、防曇持続性能を発揮し得ない。
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、またはこれとアルケニルベンゼン類との混合物と共重合可能なα,β−エチレン性不飽和単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸類;エチレンスルホン酸のようなα,β−エチレン性不飽和スルホン酸類;2−アクリルアミド−2−メチルプロパン酸;α,β−エチレン性不飽和ホスホン酸類;アクリル酸又はメタクリル酸のヒドロキシエチル等の水酸基含有ビニル単量体;アクリロニトリル類;アクリルアマイド類;アクリル酸又はメタクリル酸のグリシジルエステル類等がある。これら単量体は、単独で用いても、又は2種以上の併用でもよく、0〜40重量%の範囲で使用できる。40重量%を超えると、防曇性能を低下させるので好ましくない。
【0039】
これら単量体から疎水性アクリル系樹脂を重合する方法としては、従来から知られている種々な乳化剤、例えば陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤の中から選ばれる1種もしくは2種以上の存在下、水系媒質中で、乳化重合させる方法、反応性乳化剤を用いて重合させる方法、乳化剤を含有せずオリゴソープ理論に基づいて重合させる方法等によって得られる。乳化剤の存在下による重合方法の場合、これら乳化剤は、単量体の仕込み合計量に対し0.1〜10重量%の範囲で使用される。この範囲外であると、重合速度の調整が難しく、また合成される樹脂の分散安定性が劣るので好ましくない。
【0040】
疎水性アクリル系樹脂の製造に当って用いられる重合開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、アセチルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物等があげられる。これらは、単量体の仕込み合計量に対して0.1〜10重量%の範囲で使用される。
【0041】
本発明に用いる防曇剤組成物の成分(C−1)である疎水性アクリル系樹脂の水系エマルジョンは、各単量体を水系媒質中での重合によって得られた水系エマルジョンをそのまま使用しても、更にこのものに液状分散媒を加えて稀釈したものでもよく、また上記のような重合によって生じた重合体を分別採取し、これを液状分散媒に再分散させて水系エマルジョンとしたものでもよい。
【0042】
本発明において用いられる防曇剤組成物の成分(C−2)であるポリウレタン水性組成物としては、防曇被膜の基体ポリオレフィン系樹脂フィルムとの密着性、耐水性及び傷付き性並びに防曇性を発現するまでの時間及び防曇持続性の点でシラノール基を含有するポリカーボネート系のアニオン性ポリウレタンエマルジョンを用いるのがよい。更にこれにポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系のアニオン性ポリウレタンエマルジョンの1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
シラノール基を含有するポリカーボネート系のアニオン性ポリウレタンエマルジョンとは、分子内に少なくとも1個のシラノール基を含有するポリウレタン樹脂と、硬化触媒として強塩基性第3級アミンとを含有してなり、具体的には水相中にシラノール基含有ポリウレタン樹脂及び前記強塩基性第3級アミンが溶解しているもの、又は微粒子状に分散しているコロイド分散系のもの〔エマルジョン〕をいう。
該シラノール基を含有するポリカーボネート系のアニオン性ポリウレタンエマルジョンは、その配合量を固形分重量比で疎水性熱可塑性樹脂に対して0.01以上、2以下にすることが好ましい。0.01に満たないときは傷付き性の向上が見られず、また、防曇性を発現するまでの時間が長く、充分な防曇効果が発揮できない。また、2を越えるときは、傷付き性が配合量に比例して向上しないばかりでなく、塗布後に形成される塗膜が白濁化し光線透過率を低下させ、また、コスト面でも不利であり好ましくない。
【0044】
本発明において用いられる防曇剤組成物の成分(C−3)である無機質コロイドゾルとしては、例えば、シリカ、アルミナ、水不溶性リチウムシリレート、水酸化鉄、水酸化スズ、酸化チタン、硫酸バリウム等の無機質水性コロイド粒子を、種々の方法で、水又は親水性媒体中に分散させた、水性ゾルがあげられる。中でも好ましいのは、シリカゾルとアルミナゾルである。これらは、単独で用いても併用してもよい。使用する無機質コロイドゾルとしては、その固体平均粒子径が5〜100μmの範囲のものが好ましい。この範囲内にあれば、平均粒子径の異なる2種以上のコロイドゾルを組み合わせて用いてもよい。平均粒子径が100μmを越えると、塗膜が白く失透する傾向がでてくるみならず、防曇持続性が低下するため好ましくない。また、5μmに満たないときは、無機質コロイドゾルの安定性に欠ける恐れがある。
【0045】
無機質コロイドゾルは、その配合量を固形分量比で疎水性熱可塑性樹脂に対して0.5以上、5以下にすることが好ましい。即ち0.5に満たないときは、充分な防曇効果が発揮できない。また、5を越えるときは、防曇効果が配合量に比例して向上しないばかりでなく、塗布後に形成される塗膜が白濁化し光線透過率を低下させ、また、塗膜が粗雑で脆弱になりやすくなるので好ましくない。
本発明において用いられる防曇剤組成物には、バインダー成分同士を架橋させる架橋性化合物を併用してもよい。こうすることにより防曇被膜の耐水性を向上させることができる。架橋性化合物の使用量は、バインダー成分の固形分に対し0.1〜30重量%の範囲、特に0.5〜10重量%の範囲が好ましい。更に、防曇剤組成物には、必要に応じ、界面活性剤、消泡剤、滑剤、帯電防止剤、その他の各種添加剤を混合することができる。
【0046】
しかして、本発明で用いる防曇剤組成物は、通常液状で使用される。液状分散媒としては、水を含む親和性ないし水混合性溶媒が含まれ、水:メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の一価アルコール類:エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類:ベンジルアルコール等の環式アルコール類:セロソルブアセテート類:ケトン類等があげられる。これらは単独で用いても併用してもよいが、用いる防曇剤組成物の分散安定性、フィルム表面に塗布した後の濡れ性、液状分散媒除去の難易及び経済性を勘案して決めるのが好ましい。
【0047】
防曇剤組成物は、疎水性アクリル系樹脂、シラノール基を含有するポリカーボネート系のアニオン性ポリウレタンエマルジョン及び無機質コロイドの固形分として一般に0.5〜50重量%の濃度で調製され、普通1〜20重量%の濃度で調製し、これを稀釈して使用することが多い。
かかる防曇剤組成物は、基体ポリオレフィン系樹脂フィルムの表面に塗布し、強制乾燥又は自然乾燥し、液状分散媒を揮散させることで塗膜を形成する。強制乾燥する方法としては、熱風乾燥法、赤外線輻射法等が採用できる。強制乾燥するときの加熱温度は、塗布された防曇剤組成物によって決定されるが、50〜250℃、好ましくは70〜200℃の範囲である。
【0048】
塗布する方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ハケ塗り法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法等それ自体公知のいかなる方法によってもよい。
フィルムの表面に防曇剤組成物を塗布し、液状分散媒を乾燥、揮散させた後の固形物の付着量は、通常0.01〜10g/m、好ましくは0.1〜5g/mの範囲である。
【0049】
フィルム表面と、本発明で用いる防曇剤組成物に由来する塗膜との接着性が充分でない場合には、防曇剤組成物を塗布する前に、フィルム表面にプラズマ処理を施すとか、もしくはコロナ放電処理を施す等の方法によってフィルム表面を改質してもよい。
本発明の農業用多層フィルムを農業用被覆材として展張使用する場合には、防曇性被膜の設けられた側をハウスまたはトンネル等の内側となるようにして使用する。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例にもとづいて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。
実施例1〜9、比較例1〜11
(1)多層フィルムの調製
三層インフレーション成形装置として三層ダイに100mmφ((株)プラ工研製)を用い、押出機はチューブ外内層を30mmφ((株)プラ技研製)2台、中間層を40mmφ((株)プラ技研製)として、成形温度を外内層押出機180℃、中間層押出機170℃、ダイス温度180℃、ブロー比2.5、引取速度4m/分にて表−1〜5に示した成分からなる厚さ0.15mmの三層のフィルムを得た。尚、これらのフィルムは、製膜時のチューブ内層が展張時にはハウスの外層(外面)となる。
【0051】
(2)防曇剤組成物の調製
四ツ口フラスコにポリオキシエチレンラウリルエーテル2重量部及び水80重量部を仕込んで窒素ガス気流下に60℃まで加熱し、ここに過硫酸アンモニウム0.5重量部を添加し、さらに表−1〜5に示した各単量体の混合物100重量部を3時間にわたって滴下した。この際の反応温度は60〜70℃の範囲に保持するが、滴下終了後も同温度範囲に2時間保持してから冷却し、アクリル系樹脂エマルジョンを得た。こうして得られたアクリル系樹脂エマルジョンに、表−6〜7に示した種類及び量のポリウレタン水性組成物、無機質コロイドゾルその他を配合し、各種の防曇組成物を調製した。
【0052】
(3)防曇剤組成物による塗膜の形成
(1)で調製した三層フィルムのチューブ内層の反対面(展張時にはハウスの内層)に、(2)で得られた各種防曇剤組成物をバーコート法によって、乾燥後の塗布量が固形分として0.5g/mとなるように塗布し、80℃の熱風中に1分間滞留させ溶媒を揮散させた。
【0053】
(4)多層フィルムの評価
(3)で得られた多層フィルムについて次に記載した方法で各種の性質を評価し、結果を表−8〜9に示した。
【0054】
1)初期透明性
1)−1 基体ポリオレフィン系フィルム
各フィルムの外観を肉眼で観察した。評価基準は、次のとおりである。
○ :透明性の低下が認められない
○x :透明性の低下がやや認められるもの
△ :透明性の低下がかなり認められるもの
× :透明性の低下が非常に激しく、実用に耐えないもの
1)−2 防曇剤組成物の塗膜形成後
○ :基体ポリオレフィン系フィルムと比べて、透明性がほぼ同等のもの
○x :透明性の低下がやや認められるもの
△ :透明性の低下がかなり認められるもの
× :透明性の低下が非常に激しく、実用に耐えないもの
【0055】
2)塗膜の密着性
各フィルムの防曇塗膜を形成した面にセロハンテープを接着し、このセロハンテープを剥がした時に、塗膜の剥離状況を肉眼で観察した。この評価基準は、次のとおりである。
○ :塗膜が全く剥離せず、完全に残ったもの
○x :塗膜の2/3以上が剥離せず残ったもの
△ :塗膜の2/3以上が剥離したもの
× :塗膜が完全に剥離したもの
【0056】
3)塗膜の傷付き性
各フィルムの防曇塗膜を形成した面に10cm四方に裁断したスコップ・ブライト(3M製)を置き、加重1kg下で引っ張り速度2cm/秒の速さで引っ張り、防曇塗膜面の傷付き状況を肉眼で観察した。この評価基準は、次のとおりである。
○ :塗膜表面の傷付き性が認められない
○x :塗膜表面の傷付き性がやや認められるもの
△ :塗膜表面の傷付き性がかなり認められるもの
× :塗膜表面の傷付き性が非常に激しく、実用に耐えないもの
【0057】
4)防曇性
4)−1 条件1
水をいれた水槽の上部に、フィルムの防曇性塗膜を形成した表面を水槽内部に向けて配置し、外気温を20℃、水槽内気温を50℃に保持し、水槽の上部にフィルムを配置してから所定期間経過時点での防曇性を肉眼で観察判定した。評価基準は、次のとおりである。
◎ :水が薄膜状に付着し、水滴が認められない状態
○ :水が薄膜状に付着しているが、わずかに大粒の水滴が認められる状態
○x :水が薄膜状に付着しているが、部分的に大粒の水滴が認められる状態
△ :部分的に細かい水滴の付着が認められる状態
× :フィルム内表面全体に、細かい水滴の付着が認められる状態
【0058】
4)−2 条件2
条件1で1ケ月経過した各フィルムについて、外気温を10℃、水槽内気温を20℃に保持し、所定時間経過時点での、防曇性の発現速さを肉眼で観察判定した。この評価基準は、上記条件1における場合と同じである。
4)−3 条件3
フィルムを、戸外の試験圃場に設置した片屋根式ハウス(間口2m、奥行き20m、棟高2m、屋根勾配30度)に、防曇性塗膜を設けた面をハウス内側にして被覆を行い、H10年7月から屋張試験を開始した。展張試験中に、経済的に、各フィルムの防曇性を肉眼で観察判定した。この評価基準は、上記条件1における場合と同じである。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
65F1 :日本ポリケム社製、密度=0.910、MFR=2.2、分子量分布=2.0、TREFピーク数=1 (I法で製造)
55F1 :日本ポリケム社製、密度=0.905、MFR=2.2、分子量分布=1.9、TREFピーク数=1(I法で製造)
SP2520:三井化学社製、密度=0.927、MFR=1.8、分子量分布=2.7、TREFピーク数=2(II法で製造)
高密度PE :日本ポリケム社製(ノバテックHJ360)、密度=0.951、MFR=5.5
LDPE及びEVA樹脂:いずれも、日本ポリケム社製市販グレード
酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤:いずれも、チバ・スペシャリティ・ケ ミカルズ社製市販グレード
【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
【表6】

【0066】
【表7】

【0067】
【表8】

【0068】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタロセン触媒により共重合して得られる下記の特性を有するエチレン−α−オレフィン共重合樹脂(A)と密度が0.940〜0.970g/cmの範囲にある高密度ポリエチレン樹脂(B)が重量比で(A)/(B)=99/1〜70/30の範囲にあり、かつ、当該樹脂が合計60重量%以上配合された樹脂組成物からなる層が外層及び/又は内層に少なくとも1層構成されてなる基体ポリオレフィン系樹脂フィルムの片面又は両面に、下記(C)を主成分とする防曇剤組成物に由来する塗膜が形成されてなることを特徴とする農業用多層フィルム。
・エチレン−α−オレフィン共重合樹脂(A)の特性値
(A−1)エチレンと炭素数原子数3〜10のα−オレフィンとの共重合樹脂であり、当該α−オレフィンから導かれる構成単位が30重量%以下
(A−2)メルトフローレート:0.1〜10g/10分
(A−3)密度:0.88〜0.930g/cm
(A−4)分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量):1.5〜3.5
・防曇剤組成物に由来する塗膜成分(C)
(C−1)疎水性アクリル系樹脂水分散液
(C−2)シラノール基を含有するポリカーボネート系のアニオン性ポリウレタンエマルジョン
(C−3)無機質コロイドゾル
の3成分を必須成分として含有する防曇剤組成物
【請求項2】
防曇剤組成物に由来する塗膜成分(C−2)の配合量が、固形分重量比で成分(C−1)に対して0.01以上、2以下である請求項1記載の農業用多層フィルム。
【請求項3】
防曇剤組成物に由来する塗膜成分(C−3)の配合量が、固形分重量比で成分(C−1)に対して0.5以上、5以下である請求項1または請求項2記載の農業用多層フィルム。
【請求項4】
防曇剤組成物に由来する塗膜成分(C−1)が、アクリル酸アルキルエステル類もしくはメタアクリル酸アルキルエステルまたはアクリル酸アルキルエステル類もしくはメタアクリル酸アルキルエステル類とアルケニルベンゼン類との混合物を少なくとも60重量%、及びこれらと共重合可能なα,β−エチレン性不飽和単量体0〜40重量%を重合して得られたガラス転移温度が35〜80℃の範囲にある疎水性アクリル系樹脂の水分散液である請求項1ないし請求項3のいずれかの項に記載の農業用多層フィルム。
【請求項5】
防曇剤組成物に由来する塗膜成分(C−3)が、シリカゾル及び/又はアルミナゾルである請求項1ないし請求項4のいずれかの項に記載の農業用多層フィルム。
【請求項6】
外層及び/又は内層以外の層が、酢酸ビニル含有量が25重量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂及び/または密度が0.910〜0.940g/cmのポリオレフィン系樹脂を主成分とした組成物である請求項1ないし請求項5のいずれかの項に記載の農業用多層フィルム。

【公開番号】特開2009−148267(P2009−148267A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331363(P2008−331363)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【分割の表示】特願平11−273972の分割
【原出願日】平成11年9月28日(1999.9.28)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】