説明

送信機、送受信システム

【課題】外乱等による通信妨害を回避することができる送受信システムを、簡単な構成によって実現する。
【解決手段】携帯型送信機100の単一波信号生成回路2は、制御部1で生成された送信データと、第1発振器5で生成された第1基準信号とに基づいて、FSK変調された単一波信号を生成する。分波回路3は、この単一波信号を、異なる周波数を有する2つの信号に分波する。分波された2つの信号SG1、SG2は、送信アンテナ4から同時に送信される。受信機200では、受信した2つの信号と、第2発振器82で生成された第2基準信号とに基づいて、ミキサ83が、周波数変換により中間周波数信号を含む4つの信号を生成する。中間周波数信号は復調回路86で復調され、判定回路9はその復調データに基づいて判定処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のキーレスエントリーシステム等に用いられる送信機に関し、また、この送信機と受信機とから構成される送受信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
キーレスエントリーシステムでは、使用者の所有する携帯型の送信機において、解錠/施錠用の押しボタンスイッチが押されると、送信機から車両に搭載された電子制御ユニット(ECU)の受信機へ、解錠/施錠を指令する指令信号が送信される。電子制御ユニットでは、受信した信号が予め登録された信号であるか否かを検証し、当該信号が予め登録された信号であると認証できた場合に、車両のドアの解錠/施錠を実行する。
【0003】
このようなキーレスエントリーシステムにあっては、送信機と受信機との間の通信は無線により行われ、また、送信機は受信機から離れた場所で遠隔操作されるため、外乱(ノイズ)等によって通信が妨害されることがある。通信が妨害されると、送信機で解錠/施錠の操作を行ったにも関わらず、車両のドアが解錠/施錠されないという事態が生じる。
【0004】
後掲の特許文献1には、上記のような外乱等による通信妨害を防ぐためのキーレスエントリーシステムが記載されている。このシステムでは、使用者の所有する携帯型の送信機から、複数の周波数チャンネルの無線信号(以下、「複数周波信号」という。)を送信し、受信機側で、通信状態の最も良好な周波数チャンネルを選択する。このようにすることで、送信機からの送信信号を正しく受信できる確率を向上させている。
【0005】
特許文献1のキーレスエントリーシステムにおいては、複数周波信号を同時に送信する場合、各信号の周波数に対応して発振器が設けられ、各発振器によって生成された異なる周波数の信号を合成して送信するようにしている。このため、周波数が異なる複数の信号を合成して送信する処理が必要となり、また、各周波数ごとに発振器が必要となるので、送信回路の構成が複雑となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−101344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、外乱等による通信妨害を回避することができる送受信システムを、簡単な構成によって実現することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る送信機は、無線信号の内容に応じた送信データを生成する制御部と、第1基準周波数を有する第1基準信号を生成する第1発振器と、送信データと第1基準信号とに基づいて、所定の周波数を有する単一波からなる単一波信号を生成する信号生成回路と、この信号生成回路で生成された単一波信号を、異なる周波数を有する複数の信号に分波する分波回路と、この分波回路から出力される複数の信号を、無線信号として同時に送信する送信アンテナとを備えている。
【0009】
このような構成によると、信号生成回路で生成された単一波信号が、分波回路で周波数の異なる2つの信号に分波され、これらの信号が、送信アンテナから同時に送信される。このため、外乱(ノイズ)等により、いずれかの周波数の信号が妨害されたとしても、他の周波数の信号により通信を行うことができ、通信妨害の可能性が低減される。また、複数の信号を合成せずに同時に送信するので、送信信号の合成処理が不要となる。
【0010】
本発明の送信機は、信号生成回路が、送信データと第1基準信号とに基づいて、単一波信号を生成する第1ミキサを含み、分波回路が、単一波信号と、第1発振器から入力される第1基準信号とに基づいて、複数の信号を生成する第2ミキサを含むように構成されているのが好ましい。
【0011】
このようにすると、単一波信号を生成するための第1基準信号を用いて、単一波信号を複数の信号に分波するので、送信機側には発振器を1つ設ければよく、分波する信号に対応した複数の発振器を設ける必要がない。
【0012】
本発明の送信機は、分波回路が、第1基準信号の第1基準周波数を変更する周波数変更回路をさらに含み、第2ミキサが、単一波信号と周波数変更回路から出力される信号とに基づいて、複数の信号を生成するように構成されていてもよい。
【0013】
このようにすると、第2ミキサで分波される2つの信号の周波数を、受信機側のフィルタの周波数帯域に合わせて、任意に選定することができる。
【0014】
次に、本発明の送受信システムは、上述した送信機と、当該送信機から送信される無線信号を受信する受信機とからなる。受信機は、無線信号を受信する受信アンテナと、所定の周波数帯域を有し、受信アンテナで受信した信号から、上記周波数帯域に含まれる周波数の信号のみを通過させる第1フィルタと、この第1フィルタを通過した信号を処理する信号処理回路と、この信号処理回路の出力に基づいて、無線信号の内容に対し所定の判定を行う判定回路とを備えている。
【0015】
本発明の送受信システムでは、信号生成回路で生成される単一波信号の周波数を、第1フィルタの周波数帯域の中間にある周波数とし、分波回路で分波される複数の信号の各周波数が、第1フィルタの周波数帯域に含まれるようにするのが好ましい。
【0016】
このようにすると、複数の信号のいずれもが第1フィルタを通過するので、いずれかの周波数の信号が通信妨害により受信できなかったとしても、他の周波数の信号を受信して処理することが可能であり、通信を正常に行うことができる。
【0017】
本発明の送受信システムでは、信号処理回路が、第2基準周波数を有する第2基準信号を生成する第2発振器と、第1フィルタを通過した信号と第2基準信号とに基づいて、特定の中間周波数信号を含む複数の信号を生成する第3ミキサとを備えていてもよい。
【0018】
この場合の送受信システムは、単一波信号の周波数をA、第1基準周波数をB、第2基準周波数をCとしたとき、分波回路が、単一波信号を、周波数がA+Bである信号と、周波数がA−Bである信号との2つの信号に分波し、第3ミキサが、上記2つの信号と、第2基準周波数の信号とに基づいて、周波数がA+B+C、A+B−C、A−B+C、A−B−Cである4つの信号を生成するように構成することができる。この場合、上記4つの信号のうち、周波数がA+B−C、A−B−Cである2つの信号が中間周波数信号となる。
【0019】
このようにすると、外乱(ノイズ)等により、一方の信号しか受信できなかった場合でも、第3ミキサでは、他方の信号に基づいて中間周波数信号が生成される。そして、第3ミキサ以降の回路は、中間周波数信号を処理する回路にしておけばよいので、受信機の構成を簡略化することができる。
【0020】
ここで、単一波信号の周波数Aと、第2基準周波数Cとは同じ値であってもよい。この場合は、2つの中間周波数信号は、周波数が共に第1基準周波数Bである信号となる。
【0021】
本発明の送受信システムは、中間周波数信号のみを通過させる第2フィルタと、この第2フィルタを通過した中間周波数信号を復調する復調回路とをさらに備えていてもよい。この場合、判定回路は、復調回路で復調された中間周波数信号に基づいて所定の判定を行う。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、単一波信号を分波して、周波数の異なる複数の信号を生成し、これらの信号を同時に送信するようにしたので、いずれかの信号が通信妨害によって受信できない場合でも、他の信号による通信が可能となる。また、複数の信号を合成して送信する必要がないので、送信機の構成が簡単となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る送受信システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】送受信システムの具体的構成を示すブロック図である。
【図3】単一波信号の周波数スペクトルを示す図である。
【図4】分波された2つの信号の周波数スペクトルを示す図である。
【図5】周波数変換の例を説明する図である。
【図6】送信機の動作を表したフローチャートである。
【図7】受信機の動作を表したフローチャートである。
【図8】周波数変換の他の例を説明する図である。
【図9】送受信システムの他の実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態につき、図1〜図9を参照しながら説明する。各図において、同一部分には同一符号を付してある。以下では、本発明をキーレスエントリーシステムに適用した場合を例に挙げる。
【0025】
まず、図1を参照して、送受信システムの概略構成について説明する。図1において、送受信システムは、使用者が所有する携帯型送信機(以下、「送信機」と略記する)100と、車両に搭載された電子制御ユニット(図示省略)に設けられている受信機200とから構成される。
【0026】
送信機100は、制御部1、単一波信号生成回路2、分波回路3、送信アンテナ4、および第1発振器5を備えている。
【0027】
制御部1は、CPUやメモリを含むマイクロコンピュータから構成されており、送信アンテナ4から送信される無線信号の内容を決定して、当該内容に応じた送信データを生成する。
【0028】
単一波信号生成回路(以下、「信号生成回路」と略記する)2は、制御部1から与えられる送信データと、第1発振器5から与えられる信号(後述の第1基準信号)とに基づいて、所定の周波数を有する単一波信号を生成する。この信号生成回路2の詳細については、後述する。
【0029】
分波回路3は、信号生成回路2で生成された単一波信号を、第1発振器5から出力される第1基準信号を用いて、異なる周波数を有する2つの信号に分波する。この分波回路3の詳細については、後述する。
【0030】
送信アンテナ4は、分波回路3で生成された2つの信号SG1、SG2を、無線信号として同時に受信機200へ送信する。これらの信号SG1、SG2を、以下ではRF(Radio Frequency)信号と呼ぶ。
【0031】
第1発振器5は、例えば水晶振動子を有する局部発振器からなり、第1基準周波数を有する第1基準信号を生成する。この第1基準信号は、信号生成回路2と分波回路3へ供給される。
【0032】
受信機200は、受信アンテナ6、RFフィルタ7、信号処理回路8、および判定回路9を備えている。
【0033】
受信アンテナ6は、送信機100の送信アンテナ4から送信されたRF信号SG1、SG2を受信する。
【0034】
RFフィルタ7は、例えばSAW(Surface
Acoustic Wave)フィルタからなり、受信アンテナ6で受信したRF信号から、所定の周波数帯域に含まれる周波数の信号のみを通過させ、不要な信号をカットする。このRFフィルタ7は、本発明における「第1フィルタ」を構成する。
【0035】
信号処理回路8は、RFフィルタ7を通過したRF信号に対して、増幅、周波数変換、復調などの処理を行う。この信号処理回路8の詳細については、後述する。
【0036】
判定回路9は、CPUやメモリを含むマイクロコンピュータから構成されており、信号処理回路8の出力に基づいて、送信機100が送信したRF信号の内容に対し、車両ドアの解錠/施錠の可否などの判定を行う。
【0037】
次に、図2を参照して、信号生成回路2、分波回路3、および信号処理回路8の具体的構成について説明する。
【0038】
信号生成回路2は、制御部1からの送信データと第1発振器5からの第1基準信号とに基づいて、単一波信号を生成する第1ミキサ21と、第1ミキサ21で生成された単一波信号を通過させるRFフィルタ22と、RFフィルタ22を通過した単一波信号を増幅するRF増幅器23とを備えている。
【0039】
分波回路3は、RF増幅器23から出力される単一波信号と、第1発振器5から出力される第1基準信号とに基づき、単一波信号を分波して、異なる周波数を有する2つのRF信号SG1、SG2を生成する第2ミキサ31を備えている。
【0040】
信号処理回路8は、RFフィルタ7を通過したRF信号を増幅するRF増幅器81と、第2基準周波数を有する第2基準信号を生成する第2発振器82と、RF増幅器81からのRF信号と第2発振器82からの第2基準信号とに基づき、周波数変換を行って特定の中間周波数信号を含む複数の信号を生成する第3ミキサ83と、第3ミキサ83で生成された信号のうち中間周波数信号のみを通過させるIF(Intermediate Frequency)フィルタ84と、IFフィルタ84を通過した中間周波数信号を増幅するIF増幅器85と、IF増幅器85で増幅された中間周波数信号を復調する復調回路86とを備えている。IFフィルタ84は、本発明における「第2フィルタ」を構成する。
【0041】
次に、以上の構成からなる送受信システムの動作について説明する。
【0042】
送信機100において、図示しない押しボタンスイッチにより解錠または施錠の操作が行われると、制御部1は、当該操作の内容に応じた送信データを生成する。この送信データは、「0」と「1」からなるコード信号である。
【0043】
信号生成回路2の第1ミキサ21は、制御部1から与えられる送信データと第1発振器5から与えられる第1基準信号をもとに、送信データの「0」「1」に対応して第1基準信号の周波数をシフトさせるFSK(Frequency Shift Keying)変調を行う。FSK変調の原理はよく知られているので、ここでは説明を省略する。このFSK変調により、第1ミキサ21において、図3に示すような周波数スペクトルを有する信号が生成される。この信号は、分波前の単一波信号である。
【0044】
図3において、foは中心周波数(第1基準周波数)、faは中心周波数foから+Δfだけシフトした周波数、fbは中心周波数foから−Δfだけシフトした周波数である。ここで、Δfは周波数偏移(frequency deviation)である。周波数faが送信データの「1」に対応し、周波数fbが送信データの「0」に対応している。なお、この単一波信号の中心周波数foは、受信機200のRFフィルタ7の周波数帯域(図4のW)の中間にある周波数に設定されている。
【0045】
実際の通信では、周波数faの信号と、周波数fbの信号とは、別々のタイミングで送信機100から送信される。受信機200では、周波数faの信号を受信した場合に、デジタル信号が「1」であると判断し、周波数fbの信号を受信した場合に、デジタル信号が「0」であると判断する。そして、これらの各周波数の信号を連続的に受信することで、「0」「1」で表されるデジタル信号の内容を識別する。
【0046】
第1ミキサ21で生成された単一波信号(周波数がfaまたはfbの信号)は、RFフィルタ22を通過してRF増幅器23で増幅された後、分波回路3の第2ミキサ31へ入力される。また、第2ミキサ31には、第1発振器5からの第1基準信号も入力される。第2ミキサ31は、これらの単一波信号と第1基準信号のミキシングを行い、単一波信号を、異なる周波数を有する2つのRF信号SG1、SG2に分波する。これらの信号も、FSK変調された信号となる。
【0047】
図4は、分波されたRF信号SG1、SG2の周波数スペクトルを示している。RF信号SG1は、中心周波数がfo1で、その両側に送信データの「1」に対応する周波数fa1と、「0」に対応する周波数fb1が存在する。RF信号SG2は、中心周波数がfo2で、その両側に送信データの「1」に対応する周波数fa2と、「0」に対応する周波数fb2が存在する。これらの周波数は、RFフィルタ7の周波数帯域Wに含まれる。
【0048】
この分波の詳細を、図5(a)の例について説明する。ここでは、受信側で「0」を判定する場合を例に挙げる。なお、送信側の第2ミキサ31へ入力される単一波信号の周波数(中心周波数からΔfだけ減算した値であり、図3のfbに相当)を315〔MHz〕、第1基準信号の周波数を0.5〔MHz〕としている。第2ミキサ31は、これらの信号のミキシングにより、単一波信号の周波数315〔MHz〕に第1基準信号の周波数0.5〔MHz〕を加算した、315.5〔MHz〕の周波数(図4のfb1に相当)を有するRF信号(SG1)を生成する。また、単一波信号の周波数315〔MHz〕から第1基準信号の周波数0.5〔MHz〕を減算した、314.5〔MHz〕の周波数(図4のfb2に相当)を有するRF信号(SG2)を生成する。これらの2つの信号は、前述したように、同時に送信される。なお、図5(a)における受信側については、後述する。
【0049】
図5(b)は、図5(a)の例を一般式で表したものである。すなわち、第2ミキサ31へ入力される単一波信号の周波数をA、第1基準信号の周波数をBとした場合、第2ミキサ31は、単一波信号の周波数Aに第1基準信号の周波数Bを加算した、A+Bの周波数を有するRF信号と、単一波信号の周波数Aから第1基準信号の周波数Bを減算した、A−Bの周波数を有するRF信号とを生成する。なお、図5(b)における受信側については、後述する。
【0050】
このようにして生成された2つのRF信号SG1、SG2は、送信アンテナ4(図2)から同時に並行して送信され、受信機200の受信アンテナ6で受信される。
【0051】
受信アンテナ6で受信されたRF信号SG1、SG2は、RFフィルタ7へ入力される。前述したように、RFフィルタ7の周波数帯域W(図4)は、RF信号SG1、SG2の各周波数を含むように設定されているので、RF信号SG1、SG2は、共にRFフィルタ7を通過して信号処理回路8へ入力される。
【0052】
信号処理回路8に入力されたRF信号SG1、SG2は、RF増幅器81で増幅された後、第3ミキサ83へ入力される。また、第3ミキサ83には、第2発振器82からの第2基準信号も入力される。第3ミキサ83は、これらのRF信号SG1、SG2と第2基準信号のミキシングを行い、周波数変換によって4つの信号を生成する。これらの信号も、FSK変調された信号となる。
【0053】
この周波数変換の詳細を、図5(a)の例により説明する。受信側の第3ミキサ83には、送信側の第2ミキサ31で生成された、前述の315.5〔MHz〕および314.5〔MHz〕の周波数を有する2つのRF信号と、第2発振器82で生成された315〔MHz〕の周波数を有する第2基準信号とが入力される。第3ミキサ83は、これらの信号のミキシングにより、一方のRF信号の周波数315.5〔MHz〕に第2基準信号の周波数315〔MHz〕を加算した、630.5〔MHz〕の周波数を有する信号を生成する。また、一方のRF信号の周波数315.5〔MHz〕から第2基準信号の周波数315〔MHz〕を減算した、0.5〔MHz〕の周波数を有する信号を生成する。また、他方のRF信号の周波数314.5〔MHz〕に第2基準信号の周波数315〔MHz〕を加算した、629.5〔MHz〕の周波数を有する信号を生成する。また、他方のRF信号の周波数314.5〔MHz〕から第2基準信号の周波数315〔MHz〕を減算した、0.5(絶対値)〔MHz〕の周波数を有する信号を生成する。これらの4つの信号のうち、周波数が0.5〔MHz〕の信号は、中間周波数信号である。
【0054】
図5(b)は、図5(a)の例を一般式で表したものである。すなわち、第3ミキサ83は、入力される一方の信号の周波数A+Bに第2基準信号の周波数Aを加算した、A+B+Aの周波数を有する信号と、一方の信号の周波数A+Bから第2基準信号の周波数Aを減算した、A+B−A=Bの周波数を有する信号と、他方の信号の周波数A−Bに第2基準信号の周波数Aを加算した、A−B+Aの周波数を有する信号と、他方の信号の周波数A−Bから第2基準信号の周波数Aを減算した、A−B−A=B(絶対値)の周波数を有する信号とを生成する。
【0055】
このようにして第3ミキサ83で生成された各信号は、IFフィルタ84(図2)に入力される。IFフィルタ84は、中間周波数信号のみを通過させるように周波数帯域が設定されているので、上記4つの信号のうち、中間周波数信号以外の信号は、IFフィルタ84によってカットされる。IFフィルタ84を通過した中間周波数信号は、IF増幅器85で増幅された後、復調回路86へ入力される。
【0056】
復調回路86は、検波器、フィルタ、コンパレータ等を含む公知の回路から構成されている。復調回路86では、FSK変調された中間周波数信号の周波数変化が電圧に変換され、この変換された電圧と基準電圧との比較によって、「0」「1」の2値信号が生成される。これにより、送信機100から送信された元の送信データが復調される。
【0057】
復調回路86で復調された送信データは、判定回路9へ出力される。判定回路9は、送信データを、予めメモリ(図示省略)に記憶されている登録データと照合し、その結果に基づいて判定処理を行う。例えば、送信機100で解錠操作が行われた場合、判定回路9は、送信データがドアの解錠を表す登録データと一致すれば、解錠を許可してよいと判定し、解錠許可信号をドア制御部(図示省略)に出力する。また、送信データがドアの解錠を表す登録データと一致しなければ、解錠を許可しないと判定し、解錠禁止信号をドア制御部に出力する。
【0058】
図6は、送信機100の動作をフローチャートで表したものである。ステップS1では、制御部1において、操作内容に応じた送信データを生成する。ステップS2では、信号生成回路2において、送信データに基づくFSK変調により、単一波信号を生成する。ステップS3では、分波回路3において、単一波信号を異なる周波数を有する複数の信号に分波する。ステップS4では、分波された複数の信号を、送信アンテナ4より同時に送信する。
【0059】
図7は、受信機200の動作をフローチャートで表したものである。ステップS11では、送信機100から送信された複数の信号を、受信アンテナ6で受信する。ステップS12では、RFフィルタ7により、受信信号から帯域外の不要な信号をカットする。ステップS13では、RF増幅器81により、RFフィルタ7を通過した受信信号を増幅する。ステップS14では、第3ミキサ83により、周波数変換(図5)を行って中間周波数信号を含む複数の信号を生成する。ステップS15では、IFフィルタ84により、中間周波数信号以外の不要な信号をカットする。ステップS16では、IF増幅器85により、IFフィルタ84を通過した中間周波数信号を増幅する。ステップS17では、復調回路86により、中間周波数信号を復調する。ステップS18では、判定回路9により、復調データに基づく判定処理を行う。
【0060】
以上のように、本実施形態によれば、送信機100において単一波信号を分波して、周波数の異なる2つのRF信号SG1、SG2を生成し、これらの信号を同時に送信するようにしている。また、単一波信号の周波数を、RFフィルタ7の周波数帯域Wの中間にある周波数とし、分波回路3で分波されるRF信号SG1、SG2の各周波数が、RFフィルタ7の周波数帯域Wに含まれるようにして、複数の信号のいずれもがRFフィルタ7を通過できるようにしている。このため、いずれかの周波数の信号が通信妨害により受信できなかったとしても、他の周波数の信号を受信して処理することが可能であり、通信を正常に行うことができる。
【0061】
また、本実施形態のように、周波数の異なる信号で通信を行うと、各信号でのフェージング(回り込み)特性が異なることから、通信を良好に行うことができる。より詳しく述べると、送信機100と受信機200との間に、金属などの電波障害物が存在すると、送信機100からの信号はその障害物を回り込むように伝播してゆき、その回り込みの態様は、信号の周波数によって異なる。そのため、ある特定の周波数でのみ通信を行うと、車体の構造や受信アンテナ6の配置によっては、送信機100からの電波が届きにくい場合が生じる。しかるに、周波数の異なる信号で通信を行うと、ある周波数の信号では回り込みの影響を受けても、他の周波数の信号では回り込みの影響を受けなくなり、良好な通信を行える確率が高くなる。
【0062】
また、本実施形態においては、制御部1からの送信データと第1発振器5からの第1基準信号とに基づいて、信号生成回路2でまず単一波信号を生成し、次に、この単一波信号と第1基準信号とに基づいて、分波回路3で単一波信号を2つの信号に分波している。このため、送信機100では、第1発振器5を1つ設ければよく、分波する信号に対応した複数の発振器を設ける必要がない。さらに、複数の信号を合成することなく並行して同時に送信するので、送信信号の合成処理が不要となる。これらのことから、本実施形態によれば、送信機100の構成が簡単になるという利点がある。
【0063】
また、本実施形態においては、第2発振器82から第3ミキサ83に与えられる第2基準信号の周波数が、信号生成回路2で生成される単一波信号の周波数と同じ値(図5(a)では315MHz)となっている。このため、図5(b)のように、単一波信号を分波した2つの信号の各周波数(A+B、A−B)に対して、第2基準信号の周波数(A)を加算および減算した値の周波数を有する4つの信号のうち、2つの信号(中間周波数信号)の周波数は同じ値(B)となる。
【0064】
したがって、外乱(ノイズ)等により、送信機100から送信されたRF信号SG1、SG2のいずれかが妨害され、受信機200で一方の信号が受信できなかった場合でも、第3ミキサ83では、他方の信号に基づいて、同じ周波数値の中間周波数信号が生成されることになる。そのため、第3ミキサ83以降の回路は、この中間周波数信号を処理する回路にしておけばよく、従来のスーパーへテロダイン受信機における回路を流用できるので、受信機200の構成を簡略化することができる。
【0065】
上記実施形態では、第2発振器82から第3ミキサ83に与えられる第2基準信号の周波数を、単一波信号の周波数と同じ値としたが、これらの周波数の値は異なっていてもよい。例えば、図8(a)は、単一波信号の周波数を300〔MHz〕、第2基準信号の周波数を290〔MHz〕としたときの、周波数変換の例を示している。この場合は、第3ミキサ83で、10.5〔MHz〕の中間周波数信号と、9.5〔MHz〕の中間周波数信号とが得られる。したがって、IFフィルタ84の周波数帯域を、上記の各周波数を含む帯域とすればよい。図8(b)は、図8(a)の例を一般式で表したものである。
【0066】
図9は、本発明の他の実施形態に係る送受信システムを示している。図9において、図2と相違する点は、分波回路3に周波数変更回路32が追加されていることである。その他の構成は図2と同じであるので、図2と重複する部分の説明は省略する。
【0067】
周波数変更回路32は、第1発振器5と第2ミキサ31との間に設けられており、第1発振器5で生成された第1基準信号の周波数(第1基準周波数)を変更する機能を有する。このような周波数変更回路32を設けることによって、第2ミキサ31で分波される2つの信号SG1、SG2の周波数を、受信機200のRFフィルタ7の周波数帯域に合わせて、任意に選定することができる。
【0068】
また、周波数変更回路32において、第1発振器5からの第1基準信号を分周すると、第1基準信号の周波数が低下する結果、第2ミキサ31で分波された2つの信号SG1、SG2における周波数偏移(図4のΔf1、Δf2)を小さくすることができる。したがって、受信機200のRFフィルタ7には、周波数帯域の狭いフィルタを用いることができ、これによって受信機200の受信感度を向上させることができる。
【0069】
本発明では、以上述べた以外にも、種々の実施形態を採用することができる。例えば、前記実施形態では、単一波信号を分波回路3で2つの信号に分波する例を挙げたが、分波回路3で3つ以上の信号に分波するような構成にしてもよい。
【0070】
また、前記実施形態では、第2ミキサ31が、第1発振器5から与えられる第1基準信号を用いて、単一波信号を分波する例を挙げたが、第2ミキサ31は、第1発振器5とは別の発振器から与えられる基準信号を用いて、単一波信号を分波するようにしてもよい。
【0071】
また、前記実施形態では、信号生成回路2において、FSK変調された単一波信号を生成する例を挙げたが、FSK変調に代えて、ASK(Amplitude Shift Keying)変調やPSK(Phase Shift Keying)変調などの、他のデジタル変調方式により変調された単一波信号を生成してもよい。
【0072】
また、前記実施形態では、携帯機(送信機100)の操作に基づいてドアの解錠/施錠を行うキーレスエントリーシステムに本発明を適用した例を挙げたが、本発明は、車両側からのリクエスト信号を受信したことに応答して、携帯機から自動的にコード信号を送信することにより、携帯機の操作を必要とせずにドアの解錠/施錠を行う、パッシブエントリーシステムにも適用することができる。
【0073】
さらに、本発明は、車両ドアの解錠/施錠以外の用途にも適用が可能であり、また、携帯型でない送信機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 制御部
2 単一波信号生成回路
3 分波回路
4 送信アンテナ
5 第1発振器
6 受信アンテナ
7 RFフィルタ(第1フィルタ)
8 信号処理回路
9 判定回路
21 第1ミキサ
31 第2ミキサ
82 第2発振器
83 第3ミキサ
84 IFフィルタ(第2フィルタ)
86 復調回路
100 携帯型送信機
200 受信機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信機に対して無線信号を送信する送信機であって、
前記無線信号の内容に応じた送信データを生成する制御部と、
第1基準周波数を有する第1基準信号を生成する第1発振器と、
前記送信データと前記第1基準信号とに基づいて、所定の周波数を有する単一波からなる単一波信号を生成する信号生成回路と、
前記信号生成回路で生成された単一波信号を、異なる周波数を有する複数の信号に分波する分波回路と、
前記分波回路から出力される前記複数の信号を、前記無線信号として同時に送信する送信アンテナと、
を備えていることを特徴とする送信機。
【請求項2】
請求項1に記載の送信機において、
前記信号生成回路は、前記送信データと前記第1基準信号とに基づいて、前記単一波信号を生成する第1ミキサを含み、
前記分波回路は、前記単一波信号と、前記第1発振器から入力される前記第1基準信号とに基づいて、前記複数の信号を生成する第2ミキサを含むことを特徴とする送信機。
【請求項3】
請求項2に記載の送信機において、
前記分波回路は、前記第1基準信号の第1基準周波数を変更する周波数変更回路をさらに含み、
前記第2ミキサは、前記単一波信号と前記周波数変更回路から出力される信号とに基づいて、前記複数の信号を生成することを特徴とする送信機。
【請求項4】
送信機と、当該送信機から送信される無線信号を受信する受信機とからなる送受信システムであって、
前記送信機は、
前記無線信号の内容に応じた送信データを生成する制御部と、
第1基準周波数を有する第1基準信号を生成する第1発振器と、
前記送信データと前記第1基準信号とに基づいて、所定の周波数を有する単一波からなる単一波信号を生成する信号生成回路と、
前記信号生成回路で生成された単一波信号を、異なる周波数を有する複数の信号に分波する分波回路と、
前記分波回路から出力される前記複数の信号を、前記無線信号として同時に送信する送信アンテナと、を備え、
前記受信機は、
前記無線信号を受信する受信アンテナと、
所定の周波数帯域を有し、前記受信アンテナで受信した信号から、前記周波数帯域に含まれる周波数の信号のみを通過させる第1フィルタと、
前記第1フィルタを通過した信号を処理する信号処理回路と、
前記信号処理回路の出力に基づいて、前記無線信号の内容に対し所定の判定を行う判定回路と、を備えていることを特徴とする送受信システム。
【請求項5】
請求項4に記載の送受信システムにおいて、
前記信号生成回路で生成される前記単一波信号の周波数は、前記第1フィルタの周波数帯域の中間にある周波数であり、
前記分波回路で分波される前記複数の信号の各周波数は、前記第1フィルタの周波数帯域に含まれることを特徴とする送受信システム。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の送受信システムにおいて、
前記信号処理回路は、
第2基準周波数を有する第2基準信号を生成する第2発振器と、
前記第1フィルタを通過した信号と前記第2基準信号とに基づいて、特定の中間周波数信号を含む複数の信号を生成する第3ミキサと、を備えていることを特徴とする送受信システム。
【請求項7】
請求項6に記載の送受信システムにおいて、
前記単一波信号の周波数をA、前記第1基準周波数をB、前記第2基準周波数をCとしたとき、
前記分波回路は、前記単一波信号を、周波数がA+Bである信号と、周波数がA−Bである信号との2つの信号に分波し、
前記第3ミキサは、前記2つの信号と、前記第2基準周波数の信号とに基づいて、周波数がA+B+C、A+B−C、A−B+C、A−B−Cである4つの信号を生成し、
前記4つの信号のうち、周波数がA+B−C、A−B−Cである2つの信号が、前記中間周波数信号であることを特徴とする送受信システム。
【請求項8】
請求項7に記載の送受信システムにおいて、
前記単一波信号の周波数Aと、前記第2基準周波数Cとが同じ値であることを特徴とする送受信システム。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のいずれかに記載の送受信システムにおいて、
前記中間周波数信号のみを通過させる第2フィルタと、
前記第2フィルタを通過した中間周波数信号を復調する復調回路と、をさらに備え、
前記判定回路は、前記復調回路で復調された中間周波数信号に基づいて、前記所定の判定を行うことを特徴とする送受信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−188875(P2012−188875A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53978(P2011−53978)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(510123839)オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社 (110)
【Fターム(参考)】