説明

送液設備及び光学フィルムの製造方法

【課題】基材上に均一厚さの塗布膜を効率よく形成する。
【解決手段】送液設備は、基材上に塗布液を吐出する吐出手段10と、吐出手段に送液される塗布液を貯蔵する第1貯蔵手段20と、第1貯蔵手段に送液される塗布液を貯蔵する第2貯蔵手段30と、第1貯蔵手段の内部と第2貯蔵手段の内部とを加圧する加圧手段50と、第1貯蔵手段の内部と第2貯蔵手段の内部とを連通させる通気手段60とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に塗布液を塗布するための送液設備に関する。また、本発明は、基材上に塗布液を塗布する塗布工程を備えた光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材上に塗布液を塗布する塗布装置は、光学フィルム、磁気記録テープ、接着テープ、写真用印画紙、オフセット版材、電池極板、燃料電池触媒層等の各製造工程で使用されている。
【0003】
塗布方式として、例えば、バーコータ方式、リバースロールコータ方式、グラビアロールコータ方式、エクストルージョンコータなどのスロットダイコータ方式等が挙げられる。この中でもスロットダイを用いるスロットダイコータ方式の塗布装置は、他の方式と比較して、高速で薄層の塗布が可能であることから多用されている。
【0004】
図2に従来のスロットダイコータ方式の塗布装置を備えた送液設備の概略構成を示す。可撓性を有する長尺ウエブ状の基材1はバックアップロール5に沿って矢印Aの方向に走行する。バックアップロール5によって支持された基材1に対向してスロットダイ110が配置されている。塗布液を貯蔵する供給タンク120とスロットダイ110とは供給ライン121を介して接続されている。供給ライン121上には、塗布液をダイ110に向かって送液する供給ポンプ122が設置されている。この送液設備は、更に塗布液を貯蔵する補充タンク130及びサービスタンク140を備えている。供給タンク120と補充タンク130とは補充ライン131を介して接続されている。補充ライン131上には塗布液を補充タンク130から供給タンク120に送液する補充ポンプ132が設置されている。補充タンク130とサービスタンク140とは送液ライン141を介して接続されている。送液ライン141上には塗布液をサービスタンク140から補充タンク130に送液する送液ポンプ142が設置されている。
【0005】
供給タンク120内の塗布液は供給ポンプ122を駆動することで供給ライン121を通ってスロットダイ110に供給され、スロットダイ110のスロットから基材1に向かって吐出される。基材1上に塗布された塗布液は塗布膜2を形成する。供給タンク120内の塗布液が減少すると、補充ポンプ132を駆動して補充タンク130から補充ライン131を介して塗布液が供給タンク120に適宜補充される。更に、補充タンク130内の塗布液が減少すると、送液ポンプ142を駆動してサービスタンク140から送液ライン141を介して塗布液が補充タンク130に補充される。
【0006】
このようなスロットダイコータ方式により塗布膜2が形成された基材1は、例えば陰極管表示装置(CRT)、プラズマディスプレイ(PDP)、液晶表示装置(LCD)等の画像表示装置などの表示画面に貼付される光学フィルムとして用いられ、その需要は年々高まっている。このような用途に用いられる光学フィルムの性能は、塗布膜2の厚さ変動により大きく影響される。そのため、光学フィルムの分野では、より高度な塗布膜2の厚さの均一性が求められる。
【0007】
塗布膜2の厚さに影響を与える要因のひとつとして、基材1上に塗布される塗布液の吐出量の不均一性が挙げられる。例えば、図2のスロットダイコータ方式の塗布装置を備えた送液設備においては、スロットダイ110から基材1への塗布液の吐出量の経時的な変動が塗布膜2の厚さに大きな影響を与える。従って、スロットダイコータ方式で得られた塗布膜2の厚さを均一にするためには、スロットダイ110から基材1上に一定量の塗布液を吐出させることが必要となる。
【0008】
特許文献1には、スロットダイのスロット幅やスロット長さを最適化することにより、基材上に吐出される塗布液の量の変動を抑制する塗布方法が記載されている。また、特許文献2には、スロットダイに対してギアポンプを用いて塗布液を送液する場合において、ギアポンプのギアの1回転あたりの送液容積とギアの歯数との関係を最適化することにより、スロットダイへの塗布液の送液量の変動を抑制する塗布方法が記載されている。
【特許文献1】特開2007−75797号公報
【特許文献2】特開2006−272129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された塗布方法によれば、スロットダイ自体の形状を最適化することにより基材上に吐出される塗布液の量の変動を抑制することができる。しかしながら、スロットダイへの塗布液の送液量の変動自体を抑制することについては何ら検討されていない。従って、スロットダイからの塗布液の吐出量の変動を十分に抑制することはできない。
【0010】
また、特許文献2に記載された塗布方法によれば、ギアポンプの仕様を最適化することによりスロットダイへの塗布液の送液量の変動をある程度抑制することができる。しかしながら、ギアポンプの構造上、その送液容積の変動を完全に解消することはできないから、スロットダイから吐出される塗布液の脈動を十分に抑制することはできない。
【0011】
つまり、基材上に均一な厚さの塗布膜を形成するためには、スロットダイへ一定量の塗布液を送液し、且つ、スロットダイから基材上に一定量の塗布液を吐出する必要があるが、従来の塗布方法では未だにこれは実現されていない。
【0012】
また、近年高まりつつある膨大な需要と低コスト化に対応するためには、基材上に効率よく連続的に塗布液を塗布することが望まれる。
【0013】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、基材上に均一厚さの塗布膜を効率よく形成することができる送液設備を提供することを目的とする。また、本発明は、基材上に均一厚さの塗布膜が形成された光学フィルムの効率よい製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の送液設備は、基材上に塗布液を吐出する吐出手段と、前記吐出手段に送液される塗布液を貯蔵する第1貯蔵手段と、前記第1貯蔵手段に送液される塗布液を貯蔵する第2貯蔵手段と、前記第1貯蔵手段の内部と前記第2貯蔵手段の内部とを加圧する加圧手段と、前記第1貯蔵手段の内部と前記第2貯蔵手段の内部とを連通させる通気手段とを含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の光学フィルムの製造方法は、上記の本発明の送液設備を用いて基材上に塗布液を塗布する工程を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明の送液設備によれば、基材上に均一厚さの塗布膜を効率良く形成することができる。
【0017】
また、本発明の光学フィルムの製造方法によれば、基材上に均一厚さの塗布膜が形成された光学フィルムを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
上記の本発明の送液設備において、前記第1貯蔵手段の塗布液の吐出口よりも前記第2貯蔵手段の塗布液の吐出口が高い位置に配置されていることが好ましい。これにより、重力を利用して、第2貯蔵手段内の塗布液を第1貯蔵手段内に送液することができるので、設備を簡単化、低コスト化することができる。
【0019】
前記第1貯蔵手段の底面が鏡板形状を有することが好ましい。これにより、第1貯蔵手段内の塗布液の液量が少なくなっても、塗布液の流量変化を少なくすることができるので、形成される塗布膜の厚さの均一性をより向上させることができる。
【0020】
以下に本発明を、その一実施形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明はこの一実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態にかかる送液設備の概略構成を示した図である。この送液設備は、被塗布物である基材1上に塗布液を吐出する吐出手段としてのスロットダイ10と、スロットダイ10に送液される塗布液を貯蔵する第1貯蔵手段としての供給タンク20と、供給タンク20に送液される塗布液を貯蔵する第2貯蔵手段としての補充タンク30と、供給タンク20の内部と補充タンク30の内部とを加圧する加圧手段としての加圧源50と、供給タンク20の内部と補充タンク30の内部とを連通させる通気手段としての通気ライン60とを備えている。
【0022】
スロットダイ10は、供給タンク20から供給ライン21を介して供給された塗布液を、基材1上に吐出し塗布する。スロットダイ10の構成に特に限定はないが、例えば、塗布液を滞留させることができるマニホールド10aと、マニホールド10aと連通し、塗布液をスロットダイ10の先端(基材1に対向する部分)に導くスロット10bとを備えていることが好ましい。スロット10bの先端は、塗布液を吐出できるように、基材1に向かって開口している。
【0023】
スロットダイ10に対向して、バックアップロール5が配置されている。バックアップロール5は、基材1の被塗布面とスロットダイ10との間隔が一定となるように基材1を支持し、且つ、回転することで基材1を矢印Aの方向に搬送する。
【0024】
基材1は、本実施形態の送液設備によって塗布液が塗布される対象物であり、その表面に塗布液による塗布膜2が形成される。その具体的形態は特に制限はないが、例えば可撓性を有する長尺のウエブ状物(フィルム、シート等)を用いることができる。その材料は特に制限はないが、例えば樹脂、具体的には、セルロースエステル(例えば、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、ポリスチレン、ノルボルネン系樹脂、非晶質ポリオレフィンなどを用いることができる。このうち、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましい。
【0025】
供給タンク20は、スロットダイ10に供給される塗布液を貯蔵するためのタンクである。供給タンク20の下部の塗布液の吐出口には、開閉可能な供給タンクバルブ22が設置されている。
【0026】
供給ライン21は、供給タンクバルブ22とスロットダイ10とを接続し、供給タンク20内に貯蔵された塗布液をスロットダイ10へ導く液配管である。供給ライン21上には、フィルタ23、定流量弁24、流量計25、供給バルブ26が設置されている。フィルタ23は、塗布液中の凝集物などの異物を除去する濾過器である。定流量弁24は、絞りを備え、塗布液の流量を所望する値に設定する流量調整弁である。流量計25は、供給ライン21を流れる塗布液の流量(単位時間当たりの流量又は流速)を測定する。供給バルブ26は、スロットダイ10への塗布液の流入の可否を設定する開閉可能な弁である。上記のフィルタ23、定流量弁24、流量計25、供給バルブ26は必要に応じて設置することができ、これらの一部又は全てを省略することは可能である。また、供給ライン21には、上記の他に、塗布液の圧力を測定する圧力計などが更に設置されていても良い。
【0027】
補充タンク30は、供給タンク20内の塗布液の残量が少なくなったときに供給タンク20に塗布液を補充することができるように、塗布液を貯蔵しておくためのタンクである。補充タンク30の下部の塗布液の吐出口には、開閉可能な補充タンクバルブ32が設置されている。補充タンク30には、排気バルブ34が設置された排気管33が接続されている。排気バルブ34を開放すると、排気管33を介して補充タンク30内の加圧空気を外界に放出することができる。
【0028】
補充ライン31は、補充タンクバルブ32と供給タンク20とを接続し、補充タンク30内に貯蔵された塗布液を供給タンク20へ導く液配管である。
【0029】
加圧源50は、所望する圧力の圧縮空気を発生し供給する装置であって、その構成は特に限定はないが、例えばコンプレッサや圧空レギュレーターなどから構成できる。
【0030】
加圧源50に接続された加圧ライン51は、その途中で第1加圧ライン51a及び第2加圧ライン51bに分岐し、第1加圧ライン51aは供給タンク20に接続され、第2加圧ライン51bは補充タンク30に接続されている。加圧ライン51、第1加圧ライン51a、第2加圧ライン51bは、加圧源50で発生した圧縮空気を供給タンク20及び補充タンク30に送り込む気体配管である。第1加圧ライン51a上には、供給タンク20内の圧力を調整するための第1加圧バルブ52aが設置されており、第2加圧ライン51b上には、補充タンク30内の圧力を調整するための第2加圧バルブ52bが設置されている。
【0031】
通気ライン60は、供給タンク20と補充タンク30とを接続する気体配管である。通気ライン60上には、開閉可能な通気バルブ61が設置されている。通気バルブ61を開くと、通気ライン60を介して供給タンク20の内部と補充タンク30の内部とが連通するので、両タンク20,30内の圧力が略同一となり、且つ、両タンク20,30間で空気の移動が容易になる。
【0032】
本実施形態の送液設備は、更にサービスタンク40を備える。サービスタンク40は、補充タンク30内の塗布液の残量が少なくなった時に補充タンク30に塗布液を補充することができるように、塗布液を貯蔵しておくためのタンクである。塗布液は、最初にこのサービスタンク40に供給される。サービスタンク40の下部の塗布液の吐出口には、開閉可能なサービスタンクバルブ42が設置されている。
【0033】
サービスタンクバルブ42と補充タンク30とは送液ライン41を介して接続されている。送液ライン41は、サービスタンク40内に貯蔵された塗布液を補充タンク30へ導く液配管である。
【0034】
供給タンク20、補充タンク30、及びサービスタンク40には、必要に応じて、内部の塗布液の貯蔵量を検出するための液量計や、貯蔵された塗布液の滞留、増粘、沈降などを防ぐために塗布液を攪拌する攪拌翼などが設置されていても良い。
【0035】
本実施形態の送液設備では、後述するように、供給タンク20内の塗布液は、加圧源50で発生した圧縮空気の圧力を利用してスロットダイ10に向かって押し出される。従って、供給タンク20内の塗布液の液面の面積が、塗布液の貯蔵量(即ち、液面高さ)によって変化すると、これに応じて塗布液の押し出し圧力が変化してしまう。そこで、供給タンク20の底面が、鏡板形状を有することが好ましい。これにより、例えば円錐形状である場合に比べて、塗布液の残量が少なくなったときの塗布液の押し出し力の変化が小さくなる。鏡板形状とは、貯蔵タンクの端面に一般的に使用されている形状であって、例えばその断面が放物線曲線で近似できる形状をいう。更に、加圧源50で発生した圧縮空気が導入される補充タンク30の底面も、同様の理由から鏡板形状を有することが好ましい。
【0036】
また、本実施形態の送液設備では、補充タンク30内の塗布液は、供給タンク20に重力を利用して補充ライン31を介して送液される。このためには、補充タンク30及び供給タンク20にそれぞれ貯蔵された塗布液の量に関わらず、補充タンク30内の塗布液の液面が供給タンク20内の塗布液の液面に比べて高い位置になるように、補充タンク30及び供給タンク20を、両者間に高低差を設けて設置することが好ましい。例えば、補充タンク30の下部の塗布液の吐出口を、供給タンク20の下部の塗布液の吐出口よりも高い位置に配置することで、補充タンク30内の塗布液の液面が供給タンク20内の塗布液の液面に比べて高い位置になるようにすることができる。
【0037】
更に、サービスタンク40内の塗布液は、補充タンク30に重力を利用して送液ライン41を介して送液される。このためには、サービスタンク40及び補充タンク30にそれぞれ貯蔵された塗布液の量に関わらず、サービスタンク40内の塗布液の液面が補充タンク30内の塗布液の液面に比べて高い位置になるように、サービスタンク40及び補充タンク30を、両者間に高低差を設けて設置することが好ましい。例えば、サービスタンク40の下部の塗布液の吐出口を、補充タンク30の下部の塗布液の吐出口よりも高い位置に配置することで、サービスタンク40内の塗布液の液面が補充タンク30内の塗布液の液面に比べて高い位置になるようにすることができる。
【0038】
以上のように構成された本実施形態の送液設備の動作を説明する。
【0039】
最初に、供給タンク20内に塗布液が貯蔵された状態において、基材1上に塗布液を塗布する場合を説明する。この場合は、まず、加圧源50を動作させ且つ第1加圧バルブ52aを開いて、加圧源50で発生した圧縮空気を加圧ライン51及び第1加圧ライン51aを介して供給タンク20内に送り込む。次いで、供給タンクバルブ22及び供給バルブ26を開く。すると、供給タンク20内の塗布液は、加圧源50で発生した圧縮空気による圧力(場合によっては、これに塗布液に作用する重力が重畳される)によって、供給タンク20から供給ライン21へ圧送される。塗布液は、フィルタ23、定流量弁24、流量計25、供給バルブ26を順に通過し、スロットダイ10内に流入する。塗布液は、スロットダイ10内のマニホールド10a及びスロット10bを順に通過して、スロット10bの先端から吐出される。スロットダイ10から吐出した塗布液は、バックアップロール5によって矢印A方向に走行する基材1上に塗布され、塗布膜2を形成する。
【0040】
供給ライン21を流れる塗布液の流量は流量計25を用いて測定することができる。また、走行している基材1上に形成された塗布膜2の厚みを例えば非接触厚み計(図示せず)を用いて測定しても良い。測定した塗布液の流量及び/又は塗布膜2の厚みに基づいて、加圧源50で発生する圧縮空気の圧力及び/又は定流量弁24の絞りの開度を調整しても良い。これにより、塗布膜2の厚みをより高精度に一定に管理することができる。上記の調整は、図示しない制御装置を用いて自動で行っても良いし、作業者が手動で行っても良い。例えば、供給タンク20内の塗布液の液量が少なくなると、塗布液の自重によって発生する、スロットダイ10に向かう押し出し圧力が小さくなるので、塗布膜2の厚みが薄くなる場合がある。このような場合は、例えば供給タンク20内の塗布液に印加される圧力が大きくなるように加圧源50が発生する圧縮空気の圧力を制御すればよい。
【0041】
上記のようにして塗布膜2を形成しているとき、補充タンクバルブ32、排気バルブ34、第2加圧バルブ52b、通気バルブ61、サービスタンクタンクバルブ42はいずれも閉じておくことが好ましい。
【0042】
図2に示した従来の送液設備では、スロットダイ110に塗布液を供給するために、供給タンク120とスロットダイ110とを繋ぐ供給ライン121上に設置された供給ポンプ122を用いていた。供給ポンプ122としては、例えば、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、プランジャーポンプなどが用いられる。これらのポンプは、いずれも周期的に一定量の塗布液を送る構造を有するため、スロットダイ110に流入する塗布液に脈動が生じ、従って、スロットダイ110から吐出される塗布液の脈動を完全に解消することは困難であった。その結果、基材1上に形成される塗布膜2に段ムラが生じるなど、一定厚さの塗布膜2を得ることが困難であった。また、供給ポンプ122としてギアポンプを用い、例えば紫外線硬化型樹脂を含む塗布液を用いて光学フィルムを製造する場合、ギアポンプ内で紫外線硬化型樹脂が硬化してしまうためか、ギアポンプのギアが固着し送液が不能となるなどの問題が生じることがあった。これに対して、本実施形態の送液設備では、スロットダイ10へ塗布液を供給するための駆動源として、供給タンク20の内部空間を加圧する加圧源50を用いている。従って、供給タンク20とスロットダイ10とを繋ぐ供給ライン21上にポンプを設置する必要がない。よって、スロットダイ10に流入する塗布液やスロットダイ110から吐出される塗布液に脈動が生じにくい。その結果、基材1上に均一厚さの塗布膜2を形成することができる。
【0043】
加圧源50で発生した圧縮空気が供給タンク20内において塗布液に印加する圧力は、塗布液の物性(例えば粘度)、所望する流量などに応じて適宜設定すればよいが、一般的には0.01MPa〜1.0MPa、さらには0.03MPa〜0.5MPaが好ましい。圧力がこの数値範囲の下限値より小さいと、塗布液を供給ライン21へ送り出す力が小さいので、送液量を制御することが困難となる場合がある。圧力がこの数値範囲の上限値より大きいと、塗布液を供給ライン21へ送り出す力が大きいので、送液量が多くなり、スロットダイ10から吐出される塗布液の吐出量を制御することが困難となる場合がある。
【0044】
次に、上述したように走行する基材1上に塗布液を塗布している最中に、供給タンク20内の塗布液の残量が少なくなった場合の操作について説明する。補充タンク30内には十分な量の塗布液が貯蔵されているとする。この場合、まず、第2加圧バルブ52bを開いて、加圧源50で発生した圧縮空気を加圧ライン51及び第2加圧ライン51bを介して補充タンク30内に送り込む。次いで、通気バルブ61を開き、供給タンク20内の圧力と補充タンク30内の圧力とを通気ライン60を介して略同一圧力とする。そして、補充タンクバルブ32を開く。すると、補充タンク30内の塗布液は、重力の作用により、補充ライン31を介して供給タンク20内に移動する。所定量の塗布液が供給タンク20内に貯蔵されると、補充タンクバルブ32、通気バルブ61、第2加圧バルブ52bを閉じる。上記の操作中、排気バルブ34は閉じておく。補充タンク30内の圧力を所定の加圧状態に維持するためである。
【0045】
図2に示した従来の送液設備において、供給タンク120内の塗布液の残量が少なくなった場合には、補充ポンプ132を駆動して、補充タンク130内の塗布液を補充ライン131を介して供給タンク120に送液する。スロットダイ110への塗布液の送液は供給ポンプ122により行っているので、基材1上に塗布液を塗布しながら供給タンク120内へ塗布液を補充することが可能であった。これに対して、本実施形態の送液設備では、スロットダイ10への塗布液の供給は、供給タンク20内に導入された圧縮空気の圧力を利用している。従って、供給タンク20内への塗布液の補充を従来と同様に補充ポンプ132を用いて行うと、供給タンク20内の圧力変動が生じて、均一厚さの塗布膜2を形成することができない。従って、供給タンク20内へ塗布液の補充する必要が生じた時ごとに、基材1上への塗布液の塗布を停止する必要があり、連続生産が困難で、生産効率が極めて悪化する。
【0046】
本実施形態では、上述したように、第2加圧バルブ52bを開いて補充タンク30内を、供給タンク20内と同様に加圧し、且つ、通気バルブ61を開いて供給タンク20と補充タンク30とを通気ライン60を介して連通させる。従って、補充タンク30内の塗布液が補充ライン31を通じて供給タンク20内へ移動する際に、供給タンク20内の圧力はほとんど変化しないので、基材1上に形成される塗布膜2の厚さもほとんど変化しない。よって、基材1上に塗布液を塗布しながら供給タンク20内へ塗布液を補充することが可能となり、連続生産が可能となり、生産効率の悪化を防止できる。
【0047】
また、第1加圧ライン51a及び第2加圧ライン51bとは別に、供給タンク20と補充タンク30とを接続する通気ライン60を設けたことにより、供給タンク20と補充タンク30との間で通気ライン60を介して空気が容易に移動可能となる。従って、補充タンク30内の塗布液を、重力を利用して供給タンク20内に簡単に移動させることができる。
【0048】
次に、補充タンク30内の塗布液の残量が少なくなった場合の操作について説明する。この場合、まず、補充タンクバルブ32、第2加圧バルブ52b、通気バルブ61を閉じた状態で、排気バルブ34を開く。次いで、サービスタンクタンクバルブ42を開く。すると、サービスタンク40内の塗布液は、重力の作用により、送液ライン41を介して補充タンク30内に移動する。補充タンク30内に塗布液が流入するのと並行して、補充タンク30内の空気が排気ライン33を介して外界に放出される。所定量の塗布液が補充タンク30内に貯蔵されると、サービスタンクバルブ42、排気バルブ34を閉じる。
【0049】
このように、補充タンク30へ塗布液を補充する際に補充タンクバルブ32、第2加圧バルブ52b、通気バルブ61は閉じられているので、補充タンク30内に塗布液が流入することによって供給タンク20内の圧力は何ら影響を受けない。従って、基材1上に塗布液を塗布しながら補充タンク30内へ塗布液を補充することができる。
【0050】
サービスタンク40への塗布液の補充は、サービスタンクバルブ42を閉じた状態で行えばよい。この場合も、サービスタンク40内に塗布液が流入することによって供給タンク20内の圧力は何ら影響を受けないから、基材1上に塗布液を塗布しながらサービスタンク40内へ塗布液を補充することができる。
【0051】
以上のように、本実施形態の送液設備によれば、加圧源50により供給タンク20内の塗布液に圧力を印加することで塗布液をスロットダイ10に圧送するので、塗布液に脈動が生じにくく、基材1上に一定厚さの塗布膜2を形成することができる。また、加圧源50により更に補充タンク20内を加圧し、且つ、通気ライン60を通じて供給タンク20と補充タンク30とを連通させることにより、基材1上に一定厚さの塗布膜2を形成しながら、補充タンク30内の塗布液を供給タンク20内に移動させることができる。従って、連続生産が可能となる。
【0052】
特に、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどの表示パネルの光学フィルターなどの光学フィルムを本実施形態の送液設備を用いて製造すると、塗布膜の厚みムラがない高精度の光学フィルムを、高い生産性で安価に製造することができる。よって、表示パネルの光学的な画質低下を防止でき、且つ、表示パネルのコストを低減することができる。
【0053】
上記の実施形態は一例に過ぎず、本発明は種々に変更することができる。
【0054】
例えば、上記の実施形態の塗布装置では、バックアップロール5で支持された基材1上にスロットダイ10から塗布液を吐出する、いわゆるバックアップロール支持方式を採用しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、平行に配置された2本のロール間に所定の張力を付与して基材1を架け渡し、2本のロールのほぼ中間位置に、基材1に対向してスロットダイ10を配置して、基材1上にスロットダイ10から塗布液を吐出する、いわゆるテンション支持方式を採用することもできる。
【0055】
上記の実施形態では基材1の一方の面に1層の塗布膜2を形成したが、2層以上の塗布膜を形成することもできる。このためには、上記の実施形態と同様のスロットダイを基材1の走行方向に複数個配置しても良いし、マニホールド及びスロットを複数対備えたスロットダイを用いても良いし、あるいは、これらの組み合わせであっても良い。
【0056】
上記の実施形態において、サービスタンク40及び送液ライン41を省略することができる。この場合は、送液設備への塗布液の供給は、補充タンクバルブ32、第2加圧バルブ52b、通気バルブ61を閉じた状態で、補充タンク30に対して行えばよい。この場合も、補充タンク30内に塗布液が流入することによって供給タンク20内の圧力は何ら影響を受けないから、基材1上に塗布液を塗布しながら補充タンク30内へ塗布液を補充することができる。
【0057】
上記の実施形態では、サービスタンク40から補充タンク30への塗布液の送液ライン41を介した送液は重力を利用して行っているが、送液ライン41上にポンプを設置して、ポンプの駆動力により塗布液を送液しても良い。この場合は、補充タンク30、サービスタンク40の設置高さに関する制限がなくなるので、既存の設備の多くを転用して本発明の送液設備を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の送液設備の利用分野は特に制限はないが、基材上に塗布膜を塗布するスロットダイコータ方式の塗布装置を備えた送液設備として利用できる。特に、可撓性を有する樹脂フィルムを基材とする光学フィルムを製造する際に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかる送液設備の概略構成を示した図である。
【図2】図2は、従来の送液設備の一例の概略構成を示した図である。
【符号の説明】
【0060】
1 基材
2 塗布膜
5 バックアップロール
10 スロットダイ
10a マニホールド
10b スロット
20 供給タンク
21 供給ライン
22 供給タンクバルブ
23 フィルタ
24 定流量弁
25 流量計
26 供給バルブ
30 補充タンク
31 補充ライン
32 補充タンクバルブ
33 排気管
34 排気バルブ
40 サービスタンク
41 送液ライン
42 サービスタンクバルブ
50 加圧源
51 加圧ライン
51a 第1加圧ライン
51b 第2加圧ライン
52a 第1加圧バルブ
52b 第2加圧バルブ
60 通気ライン
61 通気バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に塗布液を吐出する吐出手段と、
前記吐出手段に送液される塗布液を貯蔵する第1貯蔵手段と、
前記第1貯蔵手段に送液される塗布液を貯蔵する第2貯蔵手段と、
前記第1貯蔵手段の内部と前記第2貯蔵手段の内部とを加圧する加圧手段と、
前記第1貯蔵手段の内部と前記第2貯蔵手段の内部とを連通させる通気手段と
を含むことを特徴とする送液設備。
【請求項2】
前記第1貯蔵手段の塗布液の吐出口よりも前記第2貯蔵手段の塗布液の吐出口が高い位置に配置されている請求項1に記載の送液設備。
【請求項3】
前記第1貯蔵手段の底面が鏡板形状を有する請求項1又は2に記載の送液設備。
【請求項4】
前記加圧手段により前記第1貯蔵手段の内部と前記第2貯蔵手段の内部とを加圧し、且つ、前記通気手段を介して前記第1貯蔵手段の内部と前記第2貯蔵手段の内部とを略同一圧力として前記第2貯蔵手段から前記第1貯蔵手段に塗布液を送液しながら、前記第1貯蔵手段内の塗布液を前記吐出手段に送液し前記吐出手段から吐出された塗布液を基材上に塗布する請求項1〜3のいずれかに記載の送液設備。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の送液設備を用いて基材上に塗布液を塗布する工程を備える光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−248022(P2009−248022A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100573(P2008−100573)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】