説明

透光性導電塗料及び透光性導電膜

【課題】分散型EL素子の透明電極として有用で、充分な導電性を保ちながら表面平滑性に優れる透光性導電膜を形成する透光性導電塗料の提供、及びこの透光性導電塗料を用いて形成した表面粗さの小さい透光性導電膜の提供。
【解決手段】金属酸化物がドープされた酸化インジウムからなる導電性酸化物針状粉が、バインダーを含む溶剤中に分散した透光性導電塗料であって、前記導電性酸化物針状粉の体積分布粒径におけるD10%粒径が範囲2〜3μmにあるとき、D90%粒径がD90%/D10%≦3.8であることを特徴とする透光性導電塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば分散型エレクトロルミネッセンス素子(分散型EL素子)の透明電極等の形成に適用される透光性導電塗料、特に、優れた透光性及び導電性と共に、凸部最大高さの小さい導電膜の形成に適した透光性導電塗料、及びその透光性導電塗料から得られる透光性導電膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、分散型EL素子の透明電極等に適用される透明導電膜は、バインダーを含む溶剤中に導電フィラーが分散された透明導電塗料を用いて、塗布法により形成されている。そして、透明導電塗料の導電フィラーとしては、従来から、インジウム−錫酸化物(以下、ITOとも称する)、錫−アンチモン酸化物(以下、ATOとも称する)等の酸化物系フィラーが用いられており、その中でもITOはATOに比べて抵抗値が低いために広く使用されている。
【0003】
上記透明導電塗料においては、導電フィラーの含有量は少ないほど好ましい。その理由は、塗料成分の一つである透明樹脂からなるバインダーに比べ、フィラーである導電性酸化物の光吸収が遥かに大きいからである。従って、低抵抗値の導電膜が得られる範囲で、バインダーに対する導電性酸化物フィラーの量を出来るだけ少なくすることによって、膜の可視光線透過率が向上する。このような理由から、球状や粒状の導電フィラーよりも、針状又はりん片状の導電フィラーの方が、少量の添加で低抵抗値の膜が得られる利点がある。
【0004】
りん片状の酸化物粉を得る方法としては、特開昭62−3003号公報(引用文献1)に記載されるように、無機酸化物、含水無機酸化物等のコロイド溶液を凍結し、コロイド溶液の溶剤の結晶面と結晶面の間隙に無機酸化物粒子や含水酸化物粒子を析出させた後、乾燥して脱溶剤し、含水酸化物の場合は更に焙焼する方法がある。また、針状の酸化物粉を得る方法としては、特開昭56−120519号公報(引用文献2)に記載されるように、針状の蓚酸錫を加熱分解して針状錫酸化物を得る方法、あるいは、特開平6−293515号公報(引用文献3)に記載されるように、硝酸インジウムの高温加熱濃縮スラリーから回収される白色針状インジウム化合物粉を加熱分解して、針状のインジウム−錫酸化物粉を得る方法等が知られている。
【0005】
上記した導電フィラーを用いた導電塗料として、例えば特開平6−309922号公報(特許文献4)に記載されるように、針状ITO粉を用いたペーストが知られている。このような導電性酸化物針状粉を含有する導電塗料を用いて形成した導電膜は、いわゆる透明導電膜に比べてヘイズ値が高い(散乱が大きい)ため透光性導電膜と称される。
【0006】
しかし、針状ITO粉を用いた透光性導電膜は針状ITO粉の長径が50μm以上あるものが多数含まれているため、得られる透光性導電膜は凸凹が大きくなり、分散型EL素子の透明電極等として適用した場合、背面電極との間でショートが発生しやすく、EL素子が焼けてしまう欠点があった。
【0007】
上記課題を解決するため、長径が30μm以下の針状ITO粉を用いた透光性導電塗料が提案されている(特許文献5 現在提案中)。一方EL素子の薄膜化や輝度向上のために誘電体層などをより薄くする方向にあり、ショート防止のため更なるITO膜の平滑化が求められている。平滑化するためにはさらに細かい針状ITO粉を用いればよいのだが、細かくなりすぎるとITO膜の抵抗値が高くなる問題を生じてしまう。
【特許文献1】特開昭62−3003号公報
【特許文献2】特開昭56−120519号公報
【特許文献3】特開平6−293515号公報
【特許文献4】特開平6−309922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況に鑑み、分散型EL素子の透明電極として有用な透光性導電膜の形成に用いる透光性導電塗料について、充分な導電性を保ちながら表面平滑性の優れる透光性導電膜を形成することができる透光性導電塗料を提供すること、及びこの透光性導電塗料を用いて形成される表面粗さの小さい透光性導電膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、充分な導電性を保ちながら従来よりも表面平滑性の優れる透光性導電膜を形成するため様々な検討したところ、導電性酸化物針状粉の体積分布粒径のD10%粒径が2〜3μmの範囲にあるとき、D90%粒径がD90%/D10%≦3.8であるようにすることより、導電性を保ちつつ、その平滑性を改善できることを見出した。
この知見に基づいて更に検討した結果、透光性導電膜凸部最大高さ(後述の通り、膜内の凹凸を平均化して求めた凹凸の中心面からの最も厚い凸部の高さ)を5μm以下に抑えることにより、従来よりも背面電極との間のショートを抑制した透光性導電膜が得られることを見出し、本発明を成すに至ったものである。
【0010】
即ち、上記目的を達成するため、本発明の透光性導電塗料は、金属酸化物がドープされた酸化インジウムからなる導電性酸化物針状粉が、バインダーを含む溶剤中に分散した透光性導電塗料であって、導電性酸化物針状粉の体積分布粒径においてD10%粒径が2〜3μmの範囲にあるとき、D90%粒径がD90%/D10%≦3.8であることを特徴とするものである。
【0011】
その用いる金属酸化物としては、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化チタンから少なくとも1種が選ばれる。
バインダーは、架橋性樹脂、又は架橋性樹脂と硬化剤の構成からなり、この架橋性樹脂には、水酸基を有するウレタン変性ポリエステル樹脂、アクリルポリオール樹脂、フェノキシ樹脂及びこれらの混合物を用い、硬化剤には、ブロックイソシアネートを用いる。
本発明において、導電性酸化物針状粉とバインダーは、重量比で、40:60から90:10の混合比であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第二の発明は、透光性導電塗料を用いて形成された透光性導電膜であって、導電膜凸部最大高さが5μm以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い透光性と優れた導電性を有すると同時に、凸部最大高さの小さい透光性導電膜の形成が可能な透光性導電塗料を提供することができる。従って、本発明の透光性導電塗料により形成された透光性導電膜を分散型EL素子の透明電極等として適用した場合、例えばショート防止層を従来よりも薄くしてもショートの発生を抑えることが出来ることから、より薄型のEL素子を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の透光性導電塗料は、導電性酸化物針状粉とバインダーを含み、そのバインダーには架橋性樹脂と硬化剤を主成分とする樹脂バインダーを用いることが望ましく、更に、導電性酸化物針状粉の体積分布粒径D10%粒径が2〜3μmの範囲にあるとき、D90%粒径がD90%/D10%≦3.8であると、透光性導電膜の表面粗さを軽減し、分散型EL素子を作製するときに背面電極との間のショートを抑制することを可能とし、このときの透光性導電膜の凸部最大高さは5μm以下である。
【0015】
又、D10%粒径が2〜3μmの範囲にあれば後述する所望の抵抗値を実現できる。D10%粒径が2μm未満では、抵抗値の上昇につながる。さらに、D10%粒径とD90%粒径の関係では、D90%/D10%≦3.8であるとするのは、D90%粒径が大きくなると、透光性導電膜の表面粗さが悪化するためである。すなわち、本発明の透光性導電塗料に含まれる導電性酸化物針状粉は、D10%粒径とD90%粒径を定めることで、抵抗値の実現と、背面電極との間のショートを抑制することが可能となるのである。
尚、D10%粒径又はD90%粒径とは、その粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが10%又は90%となる点の粒子径をそれぞれD10%粒径又はD90%粒径としている。
【0016】
透光性導電塗料に用いられる導電性酸化物針状粉としては、金属酸化物がドープされた酸化インジウムを用いる。又、ドープすべき金属酸化物は、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化チタンから少なくとも1種を選んで行なわれる。特に、酸化インジウムに酸化錫をドープした針状のインジウム−錫酸化物(ITO)が、導電性酸化物針状粉として好ましい。
【0017】
次に、バインダーを構成する架橋性樹脂としては、硬化剤との反応により架橋して硬化する樹脂であればよく、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂がある。また、ポリエチレン樹脂やアクリル樹脂等の熱可塑性樹脂の一部に、上記の熱硬化性樹脂成分を共重合させたものでもよい。
【0018】
その中でも、水酸基を有するウレタン変性ポリエステル樹脂は、イソシアネート等の硬化剤による架橋が可能であり、可撓性やPET(ポリエチレンテレフタレート)基材との密着力に優れているため、特に好ましい。
尚、上記熱硬化性樹脂以外でも、2液性のエポキシ樹脂やウレタン樹脂などの常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等を用いることもできる。また、上記架橋性樹脂のガラス転移温度は70℃以上であることが望ましく、さらに120℃以上であると良い。
【0019】
又、硬化剤には、架橋性樹脂を架橋するものであれば良いが、本発明で特に好ましい水酸基を有する架橋性樹脂を用いた場合には、水酸基と架橋することができるアミノ基、メチロール基を有するアミノ樹脂、ポリイソシアネートが用いられる。ここで、ポリイソシアネートには使用する原料イソシアネートにより、TDI(トリレンジイソシアネート)系、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)系、XDI(キシリレンジイソシアネート)系、NDI(ナフチレン1,5−ジイソシアネート)系、TMXDI(テトラメチレンキシリレンジイソシアネート)系等の芳香族系イソシアネート、IPDI(イソホロンジイソシアネート)系、H12MDI(水添MDI、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)系、H6XDI(水添XDI)系等の脂環族系イソシアネート、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)系、DDI(ダイマー酸ジイソシアネート)系、NBDI(ノルボルネン・ジイソシアネート)系等の脂肪族系イソシアネートなどがある。
【0020】
これらの硬化剤のうち、一般にTDI系やMDI系など芳香族系イソシアネートは紫外線によって黄変しやすいが、IPDI系やHDI系の脂環族系イソシアネート、脂肪族系イソシアネートは黄変しにくいため好ましい。
又イソシアネート硬化剤において、ポリイソシアネートをブロック化剤で保護したブロックイソシアネートは、低温での架橋反応が抑制されるため、使用前に硬化剤を混合する2液タイプでなく、硬化剤を予め塗料に配合した1液タイプとすることができるため特に好ましい。ブロックイソシアネートの中でも、脂肪族系ブロックイソシアネートは黄変がないため好ましく、更に最低硬化温度(ブロック化剤の保護作用が低下し、硬化剤として有効に機能する温度)が100℃以下であるHDI系ブロックイソシアネート、例えば旭化成(株)製のデュラネート(登録商標)MF−K60X(商品名)が特に好ましい。
ここで、上記水酸基を有する架橋性樹脂の水酸基(−OH)とポリイソシアネートのイソシアネート基(−NCO)の割合(モル比)は、架橋性樹脂の耐溶剤性や強度等の特性を考慮して、一般にNCO/OH=0.01〜5程度の範囲に設定される。
【0021】
透光性導電塗料中における導電性酸化物針状粉とバインダーの割合は、導電性酸化物針状粉:バインダーの重量比で40:60〜90:10が好ましく、50:50〜70:30が更に好ましい。尚、上記導電性酸化物針状粉とバインダーの割合におけるバインダー量は、樹脂バインダーと硬化剤成分の合計量を示している。
【0022】
バインダーの割合が導電性酸化物針状粉:バインダーの重量比で40:60よりも多いと、得られる透光性導電膜の抵抗が高くなり過ぎる場合がある。また、バインダーの割合が導電性酸化物針状粉:バインダーの重量比で90:10よりも少ないと、透光性導電膜の強度が低下すると同時に、針状粒子同士の接触がうまくとれず、膜の抵抗も高くなる場合があるため好ましくない。
【0023】
透光性導電塗料に用いる溶剤は、例えば、メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール(DAA)等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、エチレングリコールモノブチルエーテル(BCS)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGM−AC)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール誘導体、ホルムアミド(FA)、N−メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミン類、トルエン、キシレン、メシチレン、ドデシルベンゼン等のベンゼン誘導体、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
尚、これら溶剤は、使用するプラスチック基材に対する溶解性や成膜条件を考慮して、適宜選定することができる。例えば、スクリーン印刷について考えると、蒸発速度、刷版の乳剤やバインダー樹脂に対する溶解性、有害性などを考慮した場合、好ましい溶剤としてエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートやジエチレングリコールモノエチルエーテルを挙げることができる。
【0025】
透光性導電塗料及び透光性導電膜の製造方法を以下で説明する。
(1)導電性酸化物針状粉の製造
先ず、導電性酸化物針状粉の製造は、インジウムメタルを硝酸に溶解した溶液を撹拌しながら加熱し、液温130〜150℃まで濃縮して濃厚なスラリーを生成せしめ、このスラリーに多量の水を加えて濾過し、得られた針状粉を洗浄、乾燥し、数百℃程度で30〜60分程度仮焼することにより針状酸化インジウム粉を得る。この針状酸化インジウム粉を水に分散させた後、錫、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、チタン等の金属塩水溶液を加え、中和反応により上記針状酸化インジウム粉の表面及び細孔内に錫、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、チタン等の水酸化物を形成し、固液分離した後、700〜1200℃程度で30〜60分程度仮焼する。この仮焼により上記水酸化物が酸化物に転化すると同時に、酸化インジウムと固溶化するので、更に必要に応じて還元性雰囲気下での熱処理(酸素空孔導入による低抵抗化処理)を施して、導電性酸化物針状粉を得ることができる。
【0026】
この導電性酸化物針状粉は、長さ5μm以上、アスペクト比5以上であり、インジウムメタル硝酸溶解液の濃縮条件によって長さを制御することが可能である。
ここで導電性酸化物針状粉の体積分布粒径をD10%粒径が2〜3μmの範囲にし、かつD90%粒径をD90%/D10%≦3.8になるように制御することにより、本発明に用いる導電性酸化物針状粉を作製できる。さらにD10%粒径が2.5〜3μm、3.0≦D90%/D10%≦3.8になるとなお良い。しかしながら、D10%粒径が2μm未満ではITO膜の抵抗値が高くなり好ましくなく、D10%粒径が3μmより大きい場合やD90%粒径がD90%/D10%≦3.8の関係を満たさない場合には、ITO膜の表面粗さが大きくなり、EL素子の薄膜化によりショートが発生しやすくなる。
【0027】
又、大きな粒子を含む導電性酸化物針状粉は、分級や粉砕により前記粒径になるようにしても良い。粉砕にはボールミル、ビーズミル、ジェットミル、超音波ホモジナイザー、ペイントシェーカー、アトマイザーなどが用いられ、分級にはセパレーター、気流分級機、サイクロン分級機などを用いる。
【0028】
(2)透光性導電塗料の製造
次に、作製した導電性酸化物針状粉を、バインダー(上記の架橋性樹脂と硬化剤とからなる)及び溶剤と混合し、必要に応じて分散剤を添加した後、分散処理を行うことで、透光性導電塗料を製造する。
バインダーの添加は、導電性酸化物針状粉の分散液に加えても、導電性酸化物針状粉の分散前の溶剤に予め加えてもよく、特に制約はない。分散処理には、超音波処理、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル、スリーロールミル等の汎用の方法を適用することができる。
【0029】
分散剤としては、シリコンカップリング剤等の各種カップリング剤、各種高分子分散剤、あるいはアニオン系、ノニオン系、カチオン系等の各種界面活性剤が挙げられる。これら分散剤は、必要に応じて添加すればよく、用いる導電性酸化物針状粉の種類や分散処理方法に応じて適宜選定される。また、塗膜の外観を改善するために、消泡剤やレベリング剤等の添加剤を加えても良い。
【0030】
(3)透光性導電膜の製造
透光性導電膜は、前記透光性導電塗料を基材上に印刷塗布した後、加熱してバインダーの架橋性樹脂を架橋硬化させることにより、形成するものである。この透光性導電塗料の基材上への印刷には、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ワイヤーバーコーティング法、ドクターブレードコーティング法、ロールコーティング法などが用いられる。このとき透光性導電膜の膜厚は1〜20μmの範囲にある事が望ましく、1μm未満では充分な導電性が得られず、20μm以上では透過率が低く、膜厚が厚くなるため分散型EL素子の電極としては好ましくない。
【0031】
用いる基材は、透明性があれば良く、ガラスや各種透明プラスチックが用いられる。
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ナイロン、ポリエーテルスルホン(PES)、トリアセチルセルロース、ノルボルネン系樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネートなどのプラスチックが用いられる。
PETは安価で且つ強度に優れ、透明性と柔軟性も兼ね備えている等の観点から基材として好ましい材質である。尚、基材にプラスチックを用いる場合には、透明導電膜との密着力を高めるための易接着処理、具体的には、プラズマ処理、コロナ放電処理、短波長紫外線照射処理などを予め施しておくことが望ましい。
【0032】
透光性導電膜を形成する場合、その凸部最大高さは5μm以下が望ましく、さらに4μm以下であるとなお良い。凸部最大高さが5μmを超えると、透光性導電膜の表面粗さが粗くなり、背面電極との間のショートが問題となる。
ここで、凸部最大高さとは、以下に述べる通り、膜内の凹凸を平均化して求めた凹凸の中心面からの膜中の最も厚い凸部の高さを言う。凸部最大高さは表面粗さ計やレーザー顕微鏡などで測定することが可能である。
【0033】
このようにして得られる透光性導電膜は、高い透光性と導電性を両立できるだけでなく、透光性導電膜凸部最大高さが小さくなっているため、分散型EL素子の透明電極に適用する場合、従来の透光性導電膜の場合と比べると背面電極との間のショートが抑制されている。
更に、透光性導電膜の表面抵抗値は10kΩ/□以下であることが好ましく、3kΩ/□以下であるとなお良い。表面抵抗値が10kΩ/□を超える場合は、透光性導電膜を分散型EL素子の透明電極に適用することが難しくなるからである。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の記述において「%」は、透過率、ヘイズ値、及び体積分布粒径の%を除いて、「重量%」を示している。
【0035】
各実施例及び比較例における各特性の測定は、以下の方法により行なった。
ITO針状粉の粒径の測定は、日機装(株)製のマイクロトラック(登録商標)(X−100)を用いて行い、透光性導電膜の透過率(可視光)とヘイズ値の測定は、村上色彩技術研究所製のヘイズメーター(HR−200)を用いた。
透光性導電膜の表面抵抗は、三菱化学(株)製の表面抵抗計ロレスタ(登録商標)AP(MCP−T400)を用いて測定し、透光性導電塗料の粘度は、塗料温度25℃で、B型粘度計を用いて測定した。
透光性導電膜の平均膜厚は、(株)ニコン製のデジマイクロ(標準測定プローブ[測定子]:高硬度金属製;先端曲率=1.2mm)を用い、透光性導電膜の任意の5箇所の膜厚を測定し、その平均値から求めた。膜の表面粗さ(Ra)、及び、凸部最大高さは、Lasertec社製のレーザー顕微鏡(VL2000)を用いた膜表面観察(0.5mm×0.5mmの領域)で測定した。尚、凸部最大高さは、図1に示すように、レーザー顕微鏡の測定値から求めた値(測定領域で計測された凹凸を平均化して求めた凹凸の中心面からの最も厚い凸部の高さ)であって、上記平均膜厚を用いて求めた値(最も厚い凸部膜厚−平均膜厚)ではない。一般に、上記デジマイクロで測定される平均膜厚は、凹凸が大きな膜においては、上記レーザー顕微鏡による平均膜厚(凹凸の中心面の基材表面からの高さ)よりも大き目の値となるため、デジマイクロの平均膜厚を用いて計算された凸部最大高さは、逆に小さ目の値となる傾向がある。例えば、以下に述べる本発明の実施例の透光性導電膜においては、上記2通りの方法において、3〜4μm程度の違いが生じると考えられる。
尚、透過率(可視光)とは、国際照明委員会(CIE)の基準の光D65に対し、CIE明順応標準比視感度による可視光(波長380nm〜780nm)透過率の積算値である。
【0036】
(実施例1)
導電性酸化物針状粉に、調整したITO針状粉の体積分布粒径のD10%粒径が2.75μm、D90%粒径が10.35μm(D90%/D10%=3.76)であるITO針状粉を用いた。
バインダーは、ウレタン変性ポリエステル樹脂(Tg:83℃、水酸基価2〜3KOHmg/g)を架橋性樹脂に用い、その硬化剤にHDI系ブロックイソシアネート(旭化成(株)製のMF−K60X、固形分(硬化剤成分)約60%、最低硬化温度90℃)を用いた。又、溶剤はエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを用いた。
【0037】
このITO針状粉を、バインダーを含む溶剤に混合し、更に分散剤として高分子分散剤(楠本化成(株)製、ディスパロン(登録商標)DA705)を添加混合し、透光性導電塗料を調製した。
この透光性導電塗料の組成は、ITO:26%、ウレタン変性ポリエステル樹脂:14%、硬化剤成分:0.9%、分散剤:0.3%、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート:58.2%であった(酸化物針状粉:バインダー=63.6:36.4、NCO/OH=約3)。又、25℃における粘度は、3500mPa・sであった。
【0038】
次に、この透光性導電塗料を基材の東レ(株)製のPETフィルム(ルミラー(登録商標)、厚さ100μm)上に、スクリーン印刷(東京プロセスサービス(株)製、150メッシュ版T150S)し、120℃で20分間加熱して透光性導電膜を形成した。
得られた透光性導電膜の透過率(可視光)は75.1%、ヘイズ値は87.0%、表面抵抗値は2570Ω/□、平均膜厚は8μm、平均表面粗さ(Ra)は約0.9μm、凸部最大高さは4.5μmであった。
尚、透光性導電膜の透過率(可視光)及びヘイズ値は、透光性導電膜だけの値であり、下記数1に示す計算式により求めた。
【0039】
【数1】

【0040】
(実施例2)
導電性酸化物針状粉に、住友金属鉱山(株)製(SCP−X700B)のITO針状粉(体積分布粒径 D10%粒径:3.46μm、D90%粒径:18.14μm)を粉砕し、体積分布粒径をD10%粒径が2.67μm、D90%粒径が9.97μm(D90%/D10%=3.73)にしたものを使用した。
樹脂バインダーの架橋性樹脂としてフェノキシ樹脂(Tg:146℃、水酸基価182KOHmg/g)を用い、硬化剤にはHDI系ブロックイソシアネート(旭化成(株)製のMF−K60X、固形分(硬化剤成分)約60%、最低硬化温度90℃)を用い、溶剤には、ジエチレングリコールモノエチルエーテルを用いた。
【0041】
このITO針状粉を、バインダーを含む溶剤、及び分散剤の高分子分散剤(日本ルーブリゾール(株)製、Solsperse(登録商標)28000)と混合し、透光性導電塗料を調製した。
この透光性導電塗料の組成は、ITO:20%、フェノキシ樹脂:8.6%、硬化剤成分:5.5%、分散剤:0.2%、ジエチレングリコールモノエチルエーテル:65.7%であった(酸化物針状粉:バインダー=58.7:41.3、NCO/OH=約0.5)。又、25℃における粘度は、2000mPa・sであった。
【0042】
作製した透光性導電塗料を、実施例1と同様にPETフィルムにスクリーン印刷、加熱して透光性導電膜を形成した。
この透光性導電膜の透過率(可視光)は84.3%、ヘイズ値は87.1%、表面抵抗値は2160Ω/□、平均膜厚は7μm、平均表面粗さ(Ra)は約0.8μm、凸部最大高さは4μmであった。
【0043】
(比較例1)
導電性酸化物針状粉に、住友金属鉱山(株)製(SCP−X700B)のITO針状粉(体積分布粒径 D10%粒径:3.46μm、D90%粒径:18.14μm)を粉砕して、体積分布粒径をD10%粒径が2.8μm、D90%粒径が11.72μm(D90%/D10%=4.19)に調製した針状ITO粉を用いた以外は、実施例2と同様にして、透光性導電塗料を調製した。
この透光性導電塗料の組成は、ITO:25%、フェノキシ樹脂:10.7%、硬化剤成分:6.8%、分散剤:0.3%、ジエチレングリコールモノエチルエーテル:52.7%であった(酸化物針状粉:バインダー=58.7:41.3、NCO/OH=約0.5)。又、この透光性導電塗料の25℃での粘度は、2000mPa・sであった。
【0044】
この透光性導電塗料を用いて、実施例1と同様にPETフィルムにスクリーン印刷、加熱して透光性導電膜を形成した。
得られた透光性導電膜の透過率(可視光)は81.8%、ヘイズ値は86.3%、表面抵抗値は1551Ω/□、平均膜厚は8μm、平均表面粗さ(Ra)は約1μm、凸部最大高さは6μmであった
【0045】
(比較例2)
導電性酸化物針状粉に、住友金属鉱山(株)製(SCP−X700B)のITO針状粉(体積分布粒径 D10%粒径:3.46μm、D90%粒径:18.14μm)を粉砕して、体積分布粒径をD10%粒径が1.52μm、D90%粒径が4.86μm(D90%/D10%=3.19)にしたものを使用した以外は、実施例2と同様にして、透光性導電塗料を調製した。
この透光性導電塗料の組成は、ITO:25%、フェノキシ樹脂:10.7%、硬化剤成分:6.8%、分散剤:0.3%、ジエチレングリコールモノエチルエーテル:52.7%であった(酸化物針状粉:バインダー=58.7:41.3、NCO/OH=約0.5)。又、この透光性導電塗料の25℃での粘度は、2000mPa・sであった。
【0046】
作製した透光性導電塗料を、実施例2と同様にPETフィルムにスクリーン印刷、加熱して透光性導電膜を形成した。
得られた透光性導電膜の透過率(可視光)は84.2%、ヘイズ値は87.2%、表面抵抗値は25kΩ/□、平均膜厚は8μm、平均表面粗さ(Ra)は約0.4μm、凸部最大高さは3μmであった。
【0047】
上記実施例1及び2、比較例1及び2の結果を表1に示す。実施例1及び2は、導電性酸化物針状粉のD10%粒径とD90%粒径が所定の範囲にあり、抵抗値が3000Ω/□以下で、凸部最大高さが5μm以下を示した。
一方、比較例1では、D90%粒径がD10%の4.19倍となるので、抵抗値は3000Ω/□以下となるが、凸部最大高さが5μmを超え分散型EL素子の薄型化には不利である。又、比較例2では、D10%粒径が2μm未満であり、凸部最大高さは5μm以下となるが抵抗値は10000Ω/□を超えるため、分散型EL素子の透明電極に不適切である。
【0048】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る透光性導電膜においてレーザー顕微鏡を用いて測定される凸部の最大高さを示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物がドープされた酸化インジウムからなる導電性酸化物針状粉が、バインダーを含む溶剤中に分散した透光性導電塗料であって、
前記導電性酸化物針状粉の体積分布粒径におけるD10%粒径が範囲2〜3μmにあるとき、D90%粒径がD90%/D10%≦3.8であることを特徴とする透光性導電塗料。
【請求項2】
前記金属酸化物が、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化チタンから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の透光性導電塗料。
【請求項3】
前記バインダーが、架橋性樹脂又は架橋性樹脂と硬化剤であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の透光性導電塗料。
【請求項4】
前記架橋性樹脂が、水酸基を有するウレタン変性ポリエステル樹脂、アクリルポリオール樹脂、フェノキシ樹脂、及びこれらの混合物のいずれかであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の透光性導電塗料。
【請求項5】
前記硬化剤が、ブロックイソシアネートであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透光性導電塗料。
【請求項6】
前記導電性酸化物針状粉と前記バインダーの割合が、重量比で40:60から90:10であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の透光性導電塗料。
【請求項7】
透光性導電膜であって、
請求項1〜6のいずれかに記載の透光性導電塗料を用いて形成され、導電膜凸部最大高さが5μm以下であることを特徴とする透光性導電膜。

【図1】
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【公開番号】特開2010−92629(P2010−92629A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259042(P2008−259042)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】