説明

透明ガスバリアフィルム

【課題】ガスバリア性能、耐久性に優れた透明ガスバリアフィルムを提供すること。
【解決手段】透明ガスバリアフィルム1は、透明な樹脂からなる基材フィルム2と、該基材フィルム2の両面に形成され、該基材フィルム2の表面を平坦化する一対の平坦化層3と、一対の平坦化層3の表面にそれぞれ形成され、ガスの透過を防ぐ一対のバリア層4とを有する。バリア層4には、圧縮応力がかかっている。圧縮応力は、800MPa以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイやタッチパネル等の電子表示デバイス、太陽電池等に用いられ、透明であるとともに水蒸気や酸素等のガスの透過を防ぐ透明ガスバリアフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイやタッチパネル等の電子表示デバイス、太陽電池等において、水蒸気や酸素等のガスの透過を防ぐために表面に用いられる透明基板として、ガラス基板が利用されてきた。しかし、ガラス基板には、割れる、重い、曲げられない、といった問題がある。そのため、近年は、ガラス基板に代えて、樹脂基材を利用して構成されたフレキシブル基板などが開発されている。
【0003】
ところが、樹脂基材の場合、ガラス基板とは異なり、水蒸気や酸素などのガスを透過させやすいという性質があり、このようなガスの透過を充分に抑制する工夫を施さないと、電子デバイスや太陽電池の劣化を引き起こしやすいという問題がある。
こうした問題に対し、ガスバリア性能の高いフィルムとして、アルミ蒸着フィルムや金属酸化物を蒸着したフィルムなどが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭53−12953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アルミ蒸着フィルムでは、透明性が確保できないため、透明性が必要なディスプレイ等に適用することができない。
また、金属酸化物を蒸着したフィルムでは、高いガスバリア性能を充分に確保することが困難である。また、金属酸化物を蒸着したフィルムは、充分な耐久性を得にくいという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたもので、ガスバリア性能、耐久性に優れた透明ガスバリアフィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、透明な樹脂からなる基材フィルムと、
該基材フィルムの両面に形成され、該基材フィルムの表面を平坦化する一対の平坦化層と、
該一対の平坦化層の表面にそれぞれ形成され、ガスの透過を防ぐ一対のバリア層とを有し、
該バリア層には、圧縮応力がかかっており、
上記圧縮応力は、800MPa以下であることを特徴とする透明ガスバリアフィルムにある(請求項1)。
【発明の効果】
【0008】
上記透明ガスバリアフィルムは、上記基材フィルムの両面に、一対の上記平坦化層を介して一対の上記バリア層を形成してなる。これにより、透明ガスバリアフィルムのガスバリア性能を向上させることができる。
そして、一対のバリア層には、それぞれ圧縮応力がかかっている。これにより、バリア層中にピンホールやクラックなどの欠陥、または原子の疎密など、ガスバリア性を低下させる要因が生じていても、圧縮応力によって、欠陥を塞いだり、疎密を解消する力が働いたりして、ガスバリア性能低下の要因を低減する。そのため、それぞれのバリア層のガスバリア性能を向上させることができる。そして、その圧縮応力は800MPa以下である。これにより、透明ガスバリアフィルムの耐久性を確保することができ、ガスバリア性能の劣化を抑制することができる。
【0009】
また、透明ガスバリアフィルムは、圧縮応力を有するバリア層を両面に備えているため、カールし難く、取り扱いが容易となる。
また、上記一対のバリア層は、それぞれ上記平坦化層を介して基材フィルムの表面に形成されている。これにより、上記平坦化層によって基材フィルムの表面を平坦化したうえにバリア層が形成されるため、そのガスバリア性能を充分に発揮させることができる。また、基材フィルムの表面に平坦化層を形成していることにより、透明ガスバリアフィルムの耐久性を向上させることができる。これは、クラックの起点となる基材フィルム上の突起や、その突起の影になってスパッタ粒子が堆積していない部分、又は膜厚が薄い部分といったバリア層の欠陥を低減できるためと考えられる。
【0010】
以上のごとく、本発明によれば、ガスバリア性能、耐久性に優れた透明ガスバリアフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における、透明ガスバリアフィルムの断面説明図。
【図2】比較例1における、透明ガスバリアフィルムの断面説明図。
【図3】比較例2における、透明ガスバリアフィルムの断面説明図。
【図4】比較例3における、透明ガスバリアフィルムの断面説明図。
【図5】実験例における、圧縮応力と透湿度との関係を示す線図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記透明ガスバリアフィルムは、例えば、ディスプレイやタッチパネル等の電子表示デバイス、或いは太陽電池等において用いることができる。
また、上記バリア層における圧縮応力の調整は、例えば、スパッタリングによってバリア層を成膜する際に、スパッタ出力や成膜圧力等の条件を調整することによって行うことができる。
【0013】
上記基材フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂フィルムを用いることができる。また、透明性が確保されていれば、ポリエステル樹脂以外のフィルム材でもよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン12などのポリアミド樹脂、ポリビニルアルコールやエチレン―ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール樹脂、さらにはポリスチレン、トリアセチルセルロース、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルサルホン、環状ポリオレフィンなどの合成樹脂からなるフィルムを用いることができる。
【0014】
また、上記平坦化層としては、例えば、エネルギー線硬化型のアクリル系樹脂組成物を挙げることができる。また、ここでいうエネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線などを挙げることができる。上記エネルギー線硬化型のアクリル系樹脂組成物としては、アクリル系の光重合性プレポリマーや光重合性モノマーなどを主成分として、さらに光重合開始剤などが添加された組成物を利用することができる。
また、上記光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾイン類;アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オンなどのアセトフェノン類;2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、4,4’−ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド類等が挙げられる。また、具体的には、市場より、チバ・スペシャリティケミカルズ社製イルガキュア184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)、イルガキュア907(2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、BASF社製ルシリンTPO(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)等を容易に入手できる。また、これらは、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0015】
上記平坦化層は、厚さ1〜10μm程度とすることが好ましい。平坦化層の厚さが1μm未満になると、期待するような平坦化を充分に行うことが難しくなる。一方、平坦化層の厚さが10μmを超過しても、さらなる平坦化を期待することは困難であるので、資源的にも経済的にも無駄となりやすい。
【0016】
上記バリア層は水蒸気バリア性、酸素バリア性を有することが好ましく、その材質としてはSi、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce、Mg、Cr、Ca、Zr、Ta、Bを少なくとも1種以上含む酸化物、窒化物、酸化窒化物もしくはハロゲン化合物を用いることができる。
上記バリア層の厚さは、厚すぎると応力によりクラックが発生したり、製造コストが高くなったりし、一方、薄すぎるとバリア層が島状に形成され連続膜にならずガスバリア性能が低下するため、5nm〜200nmの範囲が好ましい。
【0017】
また、上記バリア層の材料としては、特に、ガスバリア性、透明性の観点でSiOxが好ましく、さらにはOの添え字xは、1.6≦x<2.0の範囲のであると特にガスバリア性が高くかつ高い透過率が得られる。
上記バリア層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、などで形成することができるが、ガスバリア性能、量産性の観点からスパッタリング法で形成することが好ましい。
【0018】
また、上記圧縮応力は、200MPa以上であることが好ましい(請求項2)。この場合には、上記透明ガスバリアフィルムのガスバリア性能を確実に向上させることができる。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
本発明の実施例に係る透明ガスバリアフィルムにつき、図1を用いて説明する。
本例の透明ガスバリアフィルム1は、透明な樹脂からなる基材フィルム2と、基材フィルム2の両面に形成され、基材フィルム2の表面を平坦化する一対の平坦化層3と、一対の平坦化層3の表面にそれぞれ形成され、ガスの透過を防ぐ一対のバリア層4とを有する。
バリア層4には、圧縮応力がかかっている。その圧縮応力は、800MPa以下である。また、この圧縮応力は、200MPa以上でもある。
【0020】
基材フィルム2は、厚み125μm程度のポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルムからなる。PETフィルムは、東洋紡社製のA4300を用いた。
また、その両面に、それぞれ平坦化層3がコーティングされている。平坦化層3は、ウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂からなり、その厚みはそれぞれ約5μmである。ウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂は、大日本インキ化学社製、ユニディック17−824−9を用いた。
また、一対の平坦化層3の表面(基材フィルム2側と反対側の面)に、それぞれ、厚み約50nm程度のバリア層4が、スパッタリングにより成膜されている。バリア層4は、SiOx(酸化珪素)からなる。なお、酸化度xは、1.6≦x<2.0である。
【0021】
透明ガスバリアフィルム1を製造するにあたっては、PETからなる基材フィルム2を用意し、その両面に、ウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂をコーティングして、加熱乾燥後に紫外線照射することにより、平坦化層3を形成する。そして、両面に平坦化層3を備えた基材フィルム2を、スパッタリング装置に投入する。
バリア層4を成膜するためのスパッタリングは、ロールトゥロール方式のスパッタリング装置に、両面に平坦化層3を備えた基材フィルム2を取り付けて実施する。また、スパッタリング装置が備えるデュアルマグネトロンカソードには、スパッタリングのターゲット材として、ケイ素ターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を取り付ける。
【0022】
スパッタリングを開始するに当たっては、まず、真空ポンプにてスパッタリング装置の真空槽内を減圧し、真空槽内の圧力が5×10-4Pa以下になるまで排気する。その後、放電ガスであるアルゴンガスをマスフローコントローラーで流量制御しながら真空槽内に導入する。
【0023】
そして、放電ガス導入後、アルゴンガス流量を調整して真空槽内の圧力を0.1〜2Paとし、放電電源(PE−II、Advanced Energy社製)を用いて、任意の成膜出力をカソードへ供給しプレスパッタを実施する。
プレスパッタ開始から10分経過後、反応ガスとして酸素ガスをマスフローコントローラーで流量制御しながら真空槽内に導入する。酸素ガス導入後、任意の放電電圧になるよう酸素ガス流量を調整する。そして、基材フィルム2を搬送しながら所期のバリア層4を、基材フィルム2の一方の面における平坦化層3の表面に成膜する。
【0024】
次いで、基材フィルム2における他方の面側をターゲットに向けるように配置して、一定の速度で搬送する。この間に、基材フィルム2の他方の面における平坦化層3の表面にも、上記と同様に、ケイ素をスパッタリングしてバリア層4を成膜する。
以上により、両面に平坦化層3を設けた基材フィルム2の両面に、それぞれバリア層4を形成して、図1に示す透明ガスバリアフィルム1を得る。
【0025】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上記透明ガスバリアフィルム1は、基材フィルム2の両面に、一対の平坦化層3を介して一対のバリア層4を形成してなる。これにより、透明ガスバリアフィルム1のガスバリア性能を向上させることができる。
【0026】
そして、一対のバリア層4には、それぞれ圧縮応力がかかっている。これにより、バリア層4中にピンホールやクラックなどの欠陥、または原子の疎密など、ガスバリア性を低下させる要因が生じていても、圧縮応力によって、欠陥を塞いだり、疎密を解消する力が働いたりして、バリア性能低下の要因を低減する。そのため、それぞれのバリア層4のバリア性能を向上させることができる。
そして、その圧縮応力は800MPa以下である。これにより、透明ガスバリアフィルム1の耐久性を確保することができ、ガスバリア性能の劣化を抑制することができる。
【0027】
また、透明ガスバリアフィルム1は、圧縮応力を有するバリア層4を両面に備えているため、カールし難く、取り扱いが容易となる。
また、一対のバリア層4は、それぞれ平坦化層3を介して基材フィルム2の表面に形成されている。これにより、平坦化層3によって基材フィルム2の表面を平坦化したうえにバリア層4が形成されるため、そのガスバリア性能を充分に発揮させることができる。また、基材フィルム2の表面に平坦化層3を形成していることにより、透明ガスバリアフィルム1の耐久性を向上させることができる。これは、クラックの起点となる基材フィルム2上の突起や、その突起の影になってスパッタ粒子が堆積していない部分、又は膜厚が薄い部分といったバリア層4の欠陥を低減できるためと考えられる。
【0028】
以上のごとく、本例によれば、ガスバリア性能、耐久性に優れた透明ガスバリアフィルムを提供することができる。
【0029】
(比較例1)
本例は、図2に示すごとく、平坦化層3とバリア層4とを、基材フィルム2の片面にのみ形成した透明ガスバリアフィルム91の例である。
ただし、バリア層4における圧縮応力は、特に、200〜800MPaの間に限定していない。その他は、実施例1と同様である。
【0030】
(比較例2)
本例は、図3に示すごとく、平坦化層3を設けず、基材フィルム2の両面に直接バリア層4を成膜した透明ガスバリアフィルム92の例である。
すなわち平坦化処理を行うことなく、基材フィルム2の両面にSiOxをスパッタリングすることにより、一対のバリア層4を形成する。また、基材フィルム2の厚みは、100μmとした。その他は、実施例1と同様である。
【0031】
(比較例3)
本例は、図4に示すごとく、平坦化層3を設けず、基材フィルム2の片面のみに直接バリア層4を成膜した透明ガスバリアフィルム93の例である。
バリア層4の厚みは、78nmとし、基材フィルム2の厚みは、100μmとした。その他は、実施例1と同様である。
【0032】
(実験例)
本例においては、実施例1に示した透明ガスバリアフィルム1について、表1、図5に示すごとく、バリア層4の圧縮応力と、ガスバリア性能との関係を調べた。また、同時に、バリア層4の圧縮応力と、透明ガスバリアフィルム1の屈曲耐久性との関係をも調べた。
この試験にあたり、下記の表1に示す種々の透明ガスバリアフィルムを試料として作製した。
【0033】
すなわち、試料として、まず、バリア層4の圧縮応力が200〜800MPaの範囲内において互いに異なる実施例1の透明ガスバリアフィルム1を4種類(試料1〜4)用意した。また、実施例1の透明ガスバリアフィルム1と同じ層構成であってバリア層4の圧縮応力が200〜800MPaの範囲外にあるものを、2種類(試料5、6)用意した。このうち、試料5は、バリア層4の圧縮応力の大きさが200MPaを下回るものの、圧縮応力は作用しているため、本発明の範囲には属するものである。
【0034】
また、バリア層4の圧縮応力が互いに異なる比較例1に示した透明ガスバリアフィルム91を4種類(試料7〜10)と、比較例2の透明ガスバリアフィルム92(試料11)と、比較例3の透明ガスバリアフィルム93(試料12)とをそれぞれ用意した。
これらの試料1〜12におけるバリア層4の圧縮応力を表1に示す。
【0035】
バリア層4の圧縮応力は、スパッタリングの条件を適宜調整することにより行った。そこで、圧縮応力に影響しうるスパッタリング条件として、成膜圧力と投入電力とを、表1に示す。成膜圧力は、スパッタリングを行う際のチャンバー内の圧力(アルゴンと酸素との混合ガスの圧力)であり、投入電力は、SiOxのスパッタリングの際のカソードに印加する電源の出力である。
【0036】
【表1】

【0037】
各試料におけるバリア層4の圧縮応力は、次のようにして測定した。
すなわち、所定寸法の試料を、その一端を固定するとともに他端を自身の重力によってたわませた状態で、その変位を測定する。そして、その変位量と試料の寸法や物性値等を基に、Stoneyの式を用いて圧縮応力を算出することができる。
ここで、両面にバリア層4を形成した試料(試料1〜6、11)については、そのままの状態では測定できないため、同一条件にて基材フィルム2の片面にバリア層4(必要に応じて平坦化層3と共に)を形成した測定用サンプルを用いて、圧縮応力を測定した。
【0038】
そして、各試料について、ガスバリア性能のうち特に重要である水蒸気バリア性能の指標として、透湿度(水蒸気透過度)を測定した。透湿度は、JIS K7129に準拠し、温度40℃、相対湿度90%Rhの環境において測定した。
【0039】
次に、各試料の屈曲耐久性を評価した。
屈曲耐久性は、直径20mmのステンレス製の円柱に、バリア層4側を内側にして巻きつけたのち広げるという操作を、10回繰り返したのち、上記と同様に透湿度を測定した。
そして、屈曲試験前の透湿度A0と、屈曲試験後の透湿度A1との比(A1/A0)を計算し、次の判別基準で評価した。
つまり、A1/A0≦2であれば、屈曲耐久性は合格(○)、A1/A0>2であれば、屈曲耐久性は不合格(×)とした。つまり、屈曲試験によって増加する透湿度の割合が、2倍以下であれば合格とした。
【0040】
透湿度の測定結果及び屈曲耐久性の評価結果を、表1及び図5に示す。図5は、横軸が圧縮応力、縦軸が透湿度であって、縦軸が対数目盛である片対数グラフとなっている。そして、グラフ中の○又は●が、各試料の透湿度の測定値のプロットであり、○が屈曲耐久性に合格したもの、●が屈曲耐久性に不合格であったものを表す。また、図5は、試料1〜10(平坦化層3を有するもの)の結果のみが示されている。そして、実線L1で結んだプロット群が、両面に平坦化層3及びバリア層4を備えたもの(試料1〜6)の結果であり、破線L2で結んだプロット群が、片面のみに平坦化層3及びバリア層4を備えたもの(試料7〜10)の結果である。
【0041】
図5、表1から分かるように、片面にのみ平坦化層3及びバリア層4を備えたもの(試料7〜10)に比べ、両面に平坦化層3及びバリア層4を備えたもの(試料1〜6)は、透湿度を大きく低減させている。つまり、ガスバリア性能(水蒸気バリア性能)を大きく向上させている。
その中で、バリア層4の圧縮応力が800MPaを超えるもの(試料6)については、屈曲耐久性が不充分であり、圧縮応力を大きくしすぎると、屈曲耐久性が低下することが分かる。これは、バリア層4が破壊されてガスバリア性が低下するためであると考えられる。
【0042】
また、バリア層4の圧縮応力を200MPa以上とすることにより、透湿度を0.01g/m2/day以下に抑えることができる。
また、表1から分かるように、平坦化層3を持たないもの(試料11、12)については、屈曲耐久性が不充分となる。
【0043】
以上のごとく、本例によれば、実施例1の透明ガスバリアフィルムは、水蒸気バリア性能に優れるとともに、屈曲耐久性にも優れていることが分かる。そして、屈曲耐久性の観点から、バリア層4の圧縮応力は、800MPa以下とすることが必要であることが分かる。さらに、より優れた水蒸気バリア性能を確保する観点から、バリア層4の圧縮応力を200MPa以上とすることが好ましいことが分かる。また、より確実に屈曲耐久性を確保するために、バリア層4の圧縮応力は、790MPa以下とすることが好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0044】
1 透明ガスバリアフィルム
2 基材フィルム
3 平坦化層
4 バリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な樹脂からなる基材フィルムと、
該基材フィルムの両面に形成され、該基材フィルムの表面を平坦化する一対の平坦化層と、
該一対の平坦化層の表面にそれぞれ形成され、ガスの透過を防ぐ一対のバリア層とを有し、
該バリア層には、圧縮応力がかかっており、
上記圧縮応力は、800MPa以下であることを特徴とする透明ガスバリアフィルム。
【請求項2】
請求項1において、上記圧縮応力は、200MPa以上であることを特徴とする透明ガスバリアフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−171238(P2012−171238A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36055(P2011−36055)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】