説明

透明フィルム

【課題】高い透明性を維持しつつ、高いガラス転移温度も確保でき、さらに熱による変色も抑制できる透明フィルムを提供する。
【解決手段】ガラス繊維の基材に透明樹脂形成用の樹脂組成物を含浸し硬化して形成される透明フィルムであって、透明樹脂形成用の樹脂組成物は、下記式(I):


で表される3官能以上のエポキシ樹脂を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ等において、ガラス板に代替するものとして透明樹脂およびガラス繊維の基材からなる透明フィルムを用いることが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
このような透明フィルムを製造する際には、例えば、ガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂と、ガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂とを混合して、屈折率がガラス繊維の屈折率に近似するように透明樹脂形成用の樹脂組成物を調製する。そしてガラス繊維の基材に透明樹脂形成用の樹脂組成物を含浸し、乾燥して半硬化することによりプリプレグを作製し、このプリプレグを加熱加圧成形することにより透明フィルムが製造される。
【0004】
このように基材のガラス繊維とマトリクス樹脂の屈折率とを合わせることにより、透明フィルム内での光の屈折を抑え、視認性に優れたディスプレイの透明フィルムとして用いることができる。
【0005】
透明フィルムを製造するに際し、透明樹脂形成用の樹脂組成物としては一般にエポキシ樹脂組成物が用いられており、その屈折率をガラス繊維の屈折率に近似させるために、ガラス繊維よりも屈折率の大きいエポキシ樹脂と、ガラス繊維よりも屈折率の小さいエポキシ樹脂とを混合して、屈折率がガラス繊維の屈折率に近似するように透明樹脂形成用の樹脂組成物を調製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−307851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、樹脂組成物としてエポキシ樹脂を用いた透明フィルムでは、耐熱性を得るために高屈折率樹脂のエポキシ樹脂としてガラス転移温度の比較的高いものが用いられているが、このようにガラス転移温度の比較的高いものを用いた場合、透明フィルムが熱により黄色に変色してしまう場合があった。
【0008】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、高い透明性を維持しつつ、高いガラス転移温度も確保でき、さらに熱による変色も抑制できる透明フィルムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0010】
第1に、本発明の透明フィルムは、ガラス繊維の基材に透明樹脂形成用の樹脂組成物を含浸し硬化して形成される透明フィルムであって、透明樹脂形成用の樹脂組成物は、下記式(I):
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は2価の有機基を示し、R3〜R10はそれぞれ独立に水素原子、置換基、またはエポキシ基含有の分子鎖を示す。)で表される3官能以上のエポキシ樹脂を含有することを特徴とする。
【0013】
第2に、上記第1の透明フィルムにおいて、透明樹脂形成用の樹脂組成物は、下記式(II):
【0014】
【化2】

【0015】
で表される3官能エポキシ樹脂を含有することを特徴とする。
【0016】
第3に、上記第1または第2の透明フィルムにおいて、透明樹脂形成用の樹脂組成物は、シアネートエステル樹脂を含有することを特徴とする。
【0017】
第4に、上記第1ないし第3のいずれかの透明フィルムにおいて、透明樹脂形成用の樹脂組成物は、硬化後のガラス転移温度が220℃以上であることを特徴とする。
【0018】
第5に、上記第1ないし第4のいずれかの透明フィルムにおいて、透明樹脂形成用の樹脂組成物は、硬化開始剤としてオクタン酸亜鉛を含有することを特徴とする。
【0019】
第6に、上記第1ないし第5のいずれかの透明フィルムにおいて、ガラス繊維の基材の屈折率が1.55〜1.57、透明樹脂形成用の樹脂組成物に含有されガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂の硬化後の屈折率が1.58〜1.63、透明樹脂形成用の樹脂組成物に含有されガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂の硬化後の屈折率が1.47〜1.53であることを特徴とする。
【0020】
第7に、上記第1ないし第5のいずれかの透明フィルムにおいて、ガラス繊維の基材の屈折率が1.50〜1.53、透明樹脂形成用の樹脂組成物に含有されガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂の硬化後の屈折率が1.54〜1.63、透明樹脂形成用の樹脂組成物に含有されガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂の硬化後の屈折率が1.47からガラス繊維の屈折率の範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
上記第1および第2の発明によれば、高屈折率樹脂として上記式(I)で表される多官能エポキシ樹脂を用いることで、高い透明性を維持しつつ、高いガラス転移温度も確保でき、さらに熱による変色も抑制できる。
【0022】
上記第3の発明によれば、高屈折率樹脂としてさらにシアネートエステル樹脂を用いることで、上記第1および第2の発明の効果に加え、樹脂組成物のガラス転移温度をさらに高めることができる。
【0023】
上記第4の発明によれば、上記第1ないし第3の発明の効果に加え、樹脂組成物の高いガラス転移温度によって、耐熱性に優れた透明フィルムを得ることができる。
【0024】
上記第5の発明によれば、硬化開始剤としてオクタン酸亜鉛を用いることで、上記第1ないし第4の発明の効果に加え、樹脂組成物のガラス転移温度をさらに高めることができる。
【0025】
上記第6の発明によれば、ガラス繊維の基材、高屈折率樹脂の屈折率、および低屈折率樹脂の屈折率を上記の特定範囲内とすることで、上記第1ないし第5の発明の効果に加え、透明フィルムの透明性をより高めることができる。
【0026】
上記第7の発明によれば、ガラス繊維の基材、高屈折率樹脂の屈折率、および低屈折率樹脂の屈折率を上記の特定範囲内とすることで、上記第1ないし第5の発明の効果に加え、透明フィルムの線膨張率を低減し、ヘイズやリタデーション等の光学物性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明の透明フィルムは、ガラス繊維の基材に透明樹脂形成用の樹脂組成物を含浸し硬化して形成されるものである。より具体的には、ガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂と、ガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂とを混合して屈折率がガラス繊維の屈折率に近似するように調製された透明樹脂形成用の樹脂組成物を、ガラスクロス等のガラス繊維の基材に含浸し硬化して形成されるものである。
【0029】
本発明では、ガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂として、上記式(I)で表される3官能以上のエポキシ樹脂が用いられる。高屈折率樹脂として上記式(I)で表される3官能以上のエポキシ樹脂を用いることで、高い透明性を維持しつつ、高いガラス転移温度も確保でき、さらに熱による変色も抑制できる。
【0030】
式(I)におけるR2の2価の有機基としては、フェニレン基等の置換または無置換のアリーレン基、置換または無置換のアリーレン基と炭素原子または炭素鎖とが結合した構造を持つ基等が挙げられる。炭素原子または炭素鎖としては、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基等のアルキレン基、カルボニル基等が挙げられる。
【0031】
2の2価の有機基としては、式(I)の右側のグリシジルオキシ基にフェニレン基が結合してグリシジルオキシフェニル基を構成する基が好ましく用いられる。また、熱による透明フィルムの変色抑制の点から、アリーレン基同士の間に介在する炭素原子または炭素鎖に、メチレン基(−CH2−)を含まないものが好ましく用いられる。
【0032】
2の2価の有機基としては、例えば、下記の構造(四角括弧内)が例示される。
【0033】
【化3】

【0034】
式(I)におけるR3〜R10の置換基としては、特に限定されないが、例えば、低級アルキル基等の炭化水素基、その他の有機基等が挙げられる。R3〜R10のエポキシ基含有の分子鎖としては、例えば、下記の構造(四角括弧内)が例示される。
【0035】
【化4】

【0036】
(式中、mは正の整数を示す。)
上記式(I)で表される3官能以上のエポキシ樹脂としては、例えば、上記式(II)で表される3官能エポキシ樹脂や、あるいは後述の実施例の式(III)、(IV)で表される4官能またはそれ以上の多官能エポキシ樹脂を用いることができる。
【0037】
本発明では、高屈折率樹脂として、上記式(I)で表される3官能以上のエポキシ樹脂に加えて、さらにシアネートエステル樹脂を用いることができる。
【0038】
シアネートエステル樹脂としては、例えば、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−シアネートフェニル)メタン、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)エタン、これらの誘導体、芳香族シアネートエステル化合物等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
シアネートエステル樹脂は剛直な分子骨格を有しており、そのため硬化物に高いガラス転移温度を付与することができる。また、シアネートエステル樹脂は常温で固形であるため、後述のように透明樹脂形成用の樹脂組成物をガラス繊維の基材に含浸し乾燥することによりプリプレグを調製する際に、指触乾燥することが容易になり、プリプレグの取り扱い性が良好になる。
【0040】
シアネートエステル樹脂の配合量は、全樹脂成分に対して好ましくは10〜40質量%であり、より好ましくは25〜35%である。当該配合量が少な過ぎるとガラス転移温度が十分に向上しない場合があり、当該配合量が多過ぎると溶解度が不足し、シアネートエステルが含浸工程や保存中にワニス中から析出する場合がある。
【0041】
高屈折率樹脂としての、上記式(I)で表される3官能以上のエポキシ樹脂、あるいはこれとシアネートエステル樹脂との混合物の屈折率は、好ましくは1.58〜1.63である。例えば、ガラス繊維の屈折率が1.562である場合、高屈折率樹脂は屈折率が1.6前後のものが好ましく、ガラス繊維の屈折率をnとすると、n+0.03〜n+0.06の範囲のものが好ましい。
【0042】
なお、本発明において、樹脂の屈折率は、いずれも硬化した樹脂の状態(硬化樹脂)での屈折率を意味するものであり、ASTM D542で試験した値である。
【0043】
本発明において、ガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂としては、好ましくはエポキシ樹脂を用いることができる。低屈折率樹脂の屈折率は、好ましくは1.47〜1.53である。例えば、ガラス繊維の屈折率が1.562である場合、この低屈折率樹脂は屈折率が1.5前後のものが好ましく、ガラス繊維の屈折率をnとすると、n−0.04〜n−0.08の範囲のものが好ましい。
【0044】
低屈折率のエポキシ樹脂としては、好ましくは1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサンを含むエポキシ樹脂、および水添ビスフェノール型エポキシ樹脂が用いられる。
【0045】
1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサンを含むエポキシ樹脂は、常温で固形であるため透明フィルムの製造を容易にすることができる。
【0046】
水添ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型等のものを用いることができる。好ましくは、常温で固形の水添ビスフェノール型エポキシ樹脂が用いられる。常温で液状の水添ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることもできるが、樹脂組成物をガラス繊維の基材に含浸し乾燥することによりプリプレグを調製する際に、指触で粘着性のある状態にまでしか乾燥することができないことが多く、プリプレグの取り扱い性が悪くなる場合がある。
【0047】
本発明では、ガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂と、ガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂とを混合して、屈折率がガラス繊維の屈折率に近似するように透明樹脂形成用の樹脂組成物を調製する。高屈折率樹脂と低屈折率樹脂との混合比率は、ガラス繊維の屈折率に近似させるように、任意に調整される。ここで、樹脂組成物の屈折率はガラス繊維の屈折率にできるだけ近いことが望ましいが、ガラス繊維の屈折率をnとすると、n−0.02〜n+0.02、さらにはn−0.01〜n+0.01の範囲で近似するように調整するのが好ましい。
【0048】
高屈折率樹脂と低屈折率樹脂の比率は、安価で供給品質が安定しているEガラスを用いる場合において、質量比で40:60〜55:45であることが好ましい。この比率を逸脱する比率では多くの樹脂においてEガラスの屈折率に樹脂の屈折率を合わせることが難しい。
【0049】
透明樹脂形成用の樹脂組成物は、好ましくは、その硬化樹脂のガラス転移温度(Tg)が220℃以上になるように調製される。ガラス転移温度が220℃以上であることにより、透明フィルムの耐熱性を高めることができる。ガラス転移温度の上限は特に限定されないが、実用的には280℃程度がガラス転移温度の上限である。
【0050】
なお、本発明においてガラス転移温度は、JIS C6481 TMA法に準拠して測定した値である。
【0051】
本発明において、透明樹脂形成用の樹脂組成物には、硬化開始剤(硬化剤)を配合することができる。この硬化開始剤としては、有機金属塩を用いることができる。その具体例としては、オクタン酸、ステアリン酸、アセチルアセトネート、ナフテン酸、サリチル酸等の有機酸と、Zn、Cu、Fe等の金属との塩を挙げることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、オクタン酸亜鉛が好ましい。硬化開始剤としてオクタン酸亜鉛を用いることにより、硬化樹脂のガラス転移温度を高めることができる。透明樹脂形成用の樹脂組成物中のオクタン酸亜鉛等の有機金属塩の含有量は、好ましくは0.01〜0.1PHRの範囲である。
【0052】
また硬化開始剤として、カチオン系硬化剤を用いることもできる。カチオン系硬化剤を用いることにより、硬化樹脂の透明性を高めることができる。カチオン系硬化剤の具体例としては、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、アンモニウム塩、アルミニウムキレート、三フッ化ホウ素アミン錯体等が挙げられる。透明樹脂形成用の樹脂組成物中のカチオン系硬化剤の含有量は、好ましくは0.2〜3.0PHRの範囲である。
【0053】
さらに硬化開始剤として、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の3級アミン、2−エチル−4−イミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等の硬化触媒を用いることもできる。透明樹脂形成用の樹脂組成物中の硬化触媒の含有量は、好ましくは0.5〜5.0PHRの範囲である。
【0054】
透明樹脂形成用の樹脂組成物は、上記の高屈折率樹脂、低屈折率樹脂、および必要に応じて硬化開始剤等を配合することにより調製することができる。この樹脂組成物は、必要に応じて溶剤で希釈してワニスとして調製することができる。この溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコール、N,N’−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0055】
ガラス繊維の基材を構成するガラス繊維としては、透明フィルムの耐衝撃性を高める点からEガラス、NEガラス、Tガラスの繊維が好ましく用いられるが、特に限定されない。Eガラスは無アルカリガラスとも称され、樹脂強化用ガラス繊維として汎用されるガラス繊維であり、NEガラスはNewEガラスのことである。
【0056】
また、ガラス繊維には、耐衝撃性を向上させる目的で、ガラス繊維処理剤として通常用いられているシランカップリング剤により表面処理しておくことが好ましい。ガラス繊維の屈折率は好ましくは1.55〜1.57、より好ましくは1.555〜1.565である。ガラス繊維の屈折率がこの範囲であれば、視認性に優れた透明フィルムを得ることができる。ガラス繊維の基材としては、ガラス繊維の織布あるいは不織布を用いることができる。
【0057】
そしてガラス繊維の基材に透明樹脂形成用の樹脂組成物のワニスを含浸し、加熱して乾燥することにより、プリプレグを調製することができる。乾燥条件は、特に限定されないが、乾燥温度100〜160℃、乾燥時間1〜10分間の範囲が好ましい。
【0058】
次にこのプリプレグを1枚、あるいは複数枚重ね、加熱加圧成形することにより、透明樹脂形成用の樹脂組成物を硬化させて透明積層板を得ることができる。加熱加圧成形の条件は、特に限定されないが、温度150〜200℃、圧力1〜4MPa、時間10〜120分間の範囲が好ましい。
【0059】
上記のようにして得られる透明フィルムにおいて、高屈折率樹脂と低屈折率樹脂とが重合して形成される樹脂マトリクスは、ガラス転移温度が高いものであり、耐熱性に優れた透明フィルムを得ることができる。
【0060】
また、上記に例示したような高屈折率樹脂と低屈折率樹脂は、透明性に優れるものであり、高い透明性を確保した透明フィルムを得ることができる。この透明フィルムにおいて、ガラス繊維の基材の含有率は25〜65質量%の範囲が好ましく、より好ましくは35〜60質量%の範囲である。この範囲であれば、ガラス繊維による補強効果で高い耐衝撃性を得ることができると共に、十分な透明性を得ることができる。また、ガラス繊維が多過ぎると表面の凹凸が大きくなり、透明性も低下する。一方、ガラス繊維が少な過ぎると線膨張率が大きくなるという問題を生じる。
【0061】
なお、ガラス繊維の基材は、透明性を高く得るために、厚みの薄いものを複数枚重ねて用いることができる。具体的には、ガラス繊維の基材として厚み50μm以下のものを用い、この50μm以下の厚みのガラス繊維の基材を2枚以上重ねて用いることができる。ガラス繊維の基材の厚みは、特に限定されないが、10μm程度が実用上の下限である。また、ガラス繊維の基材の枚数も特に限定されないが、20枚程度が実用上の上限である。このように複数枚のガラス繊維の基材を用いて透明フィルムを製造する場合、各々のガラス繊維の基材に透明樹脂形成用の樹脂組成物を含浸、乾燥してプリプレグを作製し、このプリプレグを複数枚重ねて加熱加圧成形することにより透明フィルムを得ることができるが、複数枚のガラス繊維の基材を重ねた状態で透明樹脂形成用の樹脂組成物を含浸、乾燥してプリプレグを作製し、このプリプレグを加熱加圧成形して透明フィルムを得るようにしてもよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、表1の配合量は質量部を示す。
【0063】
実施例および比較例の配合成分として以下のものを用いた。
1.高屈折率樹脂
・テクモアVG3101、(株)プリンテック製、上記式(II)で表される分子構造を有する3官能エポキシ樹脂、屈折率1.59
・EPPN−501、日本化薬(株)製、下記式(III)で表される分子構造を有する多官能エポキシ樹脂、屈折率1.59
【0064】
【化5】

【0065】
(式中、nは正の整数を示す。)
・GTR−1800、日本化薬(株)製、下記式(IV)で表される分子構造を有する4官能エポキシ樹脂、屈折率1.59
【0066】
【化6】

【0067】
・EPICLON N695、DIC(株)製、クレゾールノボラック型の多官能エポキシ樹脂、屈折率1.59
・EPICLON N865、DIC(株)製、フェノールノボラック型の多官能エポキシ樹脂、屈折率1.59
・JER4007P、ジャパンエポキシレジン(株)製、固形のビスフェノールF型の2官能エポキシ樹脂、屈折率1.59
・JER1006、ジャパンエポキシレジン(株)製、固形のビスフェノールA型の2官能エポキシ樹脂、屈折率1.59
・BADCy、Lonza社製、固形のシアネートエステル樹脂、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン、屈折率1.60
2.低屈折率樹脂
・EHPE3150、ダイセル化学工業(株)製、固形の1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサンを含むエポキシ樹脂、屈折率 1.51
3.硬化開始剤
・オクタン酸亜鉛
・SI−150L、三新化学工業(株)製、カチオン系硬化剤(SbF6-系スルホニウム塩)
上記の高屈折率樹脂および低屈折率樹脂を表1に示す量で配合し、さらに硬化開始剤を配合し、これにトルエン50質量部、メチルエチルケトン50質量部を添加して、温度70℃で攪拌溶解することによって、透明樹脂形成用の樹脂組成物のワニスを調製した。
【0068】
次に、実施例1〜6および比較例1〜4については、厚み25μmのガラス繊維クロス(旭化成エレクトロニクス(株)製、品番「1037」、Eガラス、屈折率1.56)に、上記の樹脂組成物のワニスを含浸し、150℃で5分間加熱することにより、溶剤を除去すると共に樹脂を半硬化させてプリプレグを作製した。
【0069】
実施例7については、厚み25μmのガラス繊維クロス(日東紡(株)製、品番「1037」、Tガラス、屈折率1.528)に、上記の樹脂組成物のワニスを含浸し、150℃で5分間加熱することにより、溶剤を除去すると共に樹脂を半硬化させてプリプレグを作製した。
【0070】
そしてこのプリプレグを2枚重ねて、プレス機にセットし、170℃、2MPa、15分の条件で加熱加圧成形することにより、樹脂の含有率が63質量%、厚み70μmの透明フィルムを得た。
【0071】
このようにして得られた実施例および比較例の透明フィルムについて、硬化樹脂のガラス転移温度(Tg)をJIS C6481 TMA法に準拠して測定した。
【0072】
また、ヘイズを測定して透明性を評価した。ヘイズの測定は、JIS K7136に準拠して行った。
【0073】
また、透明フィルムを170℃で30分加熱し、その前後の色差Δbをコニカミノルタホールディングス(株)製分光測色計CM−3600dで測定した。
【0074】
また、熱膨張係数(CTE)を、JIS C6481に基づいて、TMA法(Thermo-mechanical analysis)により測定した。具体的には、各透明フィルムの30〜100℃における熱膨張係数をセイコーインスツルメンツ(株)製の「EXSTAR6000」を用いて引っ張りモードで測定した。透明フィルムのサンプルとしては、長さが15mmのサンプルを用いた。
【0075】
また、リタデーション(位相差)を、東京インスツルメンツ(株)製の複屈折測定装置「Abrio」を用いて透過モードで測定した。測定範囲は11mm×8mmである。
【0076】
これらの結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1より、高屈折率樹脂として上記式(I)で表される3官能以上のエポキシ樹脂である上記式(II)、(III)、(IV)のものを用いた実施例1〜7の透明フィルムでは、ガラス転移温度が高く、透明性も高く、さらに加熱前後の色差Δbが小さく、熱による変色が大幅に抑制された。
【0079】
特に、高屈折率樹脂として上記式(I)で表される3官能以上のエポキシ樹脂に加えてシアネートエステル樹脂を配合した実施例4〜6では、ガラス転移温度がさらに高くなり、透明性および熱による変色の抑制も、高屈折率樹脂として上記式(I)で表される3官能以上のエポキシ樹脂を単独で配合した実施例1〜3と同等であった。
【0080】
一方、高屈折率樹脂として上記式(I)以外の構造を持つ3官能以上のエポキシ樹脂を用いた比較例1、2では、加熱前後の色差Δbが大きく、熱による変色が見られた。
【0081】
また、高屈折率樹脂として2官能エポキシ樹脂を用いた比較例3、4では、ガラス転移温度が低いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維の基材に透明樹脂形成用の樹脂組成物を含浸し硬化して形成される透明フィルムであって、透明樹脂形成用の樹脂組成物は、下記式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は2価の有機基を示し、R3〜R10はそれぞれ独立に水素原子、置換基、またはエポキシ基含有の分子鎖を示す。)で表される3官能以上のエポキシ樹脂を含有することを特徴とする透明フィルム。
【請求項2】
透明樹脂形成用の樹脂組成物は、下記式(II):
【化2】

で表される3官能エポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の透明フィルム。
【請求項3】
透明樹脂形成用の樹脂組成物は、シアネートエステル樹脂を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の透明フィルム。
【請求項4】
透明樹脂形成用の樹脂組成物は、硬化後のガラス転移温度が220℃以上であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項5】
透明樹脂形成用の樹脂組成物は、硬化開始剤としてオクタン酸亜鉛を含有することを特徴とする請求項1ないし4いずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項6】
ガラス繊維の基材の屈折率が1.55〜1.57、透明樹脂形成用の樹脂組成物に含有されガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂の硬化後の屈折率が1.58〜1.63、透明樹脂形成用の樹脂組成物に含有されガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂の硬化後の屈折率が1.47〜1.53であることを特徴とする請求項1ないし5いずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項7】
ガラス繊維の基材の屈折率が1.50〜1.53、透明樹脂形成用の樹脂組成物に含有されガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂の硬化後の屈折率が1.54〜1.63、透明樹脂形成用の樹脂組成物に含有されガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂の硬化後の屈折率が1.47からガラス繊維の屈折率の範囲内であることを特徴とする請求項1ないし5いずれか一項に記載の透明フィルム。

【公開番号】特開2010−235933(P2010−235933A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52283(P2010−52283)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】