説明

透明フィルム

【課題】高い透明性を有するとともに、耐熱性にも優れた透明フィルムを提供する。
【解決手段】ガラス繊維の基材に透明樹脂が保持されている透明フィルムにおいて、透明樹脂形成用の樹脂組成物が熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明フィルムに関するものであり、さらに詳しくは、透明樹脂およびガラス繊維の基材からなる透明フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの薄型、軽量化が進んでいるが、これをさらに進める手段としてガラス基板のプラスチックフィルムへの置き換えが検討されている。ガラス基板をプラスチックフィルムに置き換えることでより薄くより軽くできるとともに、割れにくさやフレキシビリティーといった性質を付与できる。
【0003】
さらに最近では、透明樹脂およびガラス繊維の基材からなる透明フィルムが提案されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
この透明フィルムを製造する際には、ガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂と、ガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂とを混合して、屈折率がガラス繊維の屈折率に近似するように樹脂組成物を調製する。そしてガラス繊維の基材に樹脂組成物を含浸し、乾燥して半硬化することによりプリプレグを作製し、このプリプレグを加熱加圧成形することにより透明フィルムが製造される。高屈折率樹脂および低屈折率樹脂としては、エポキシ樹脂等が用いられている。
【0005】
このように基材のガラス繊維とマトリクス樹脂(樹脂組成物)の屈折率とを合わせることにより、透明フィルム内での光の屈折を抑え、視認性に優れたディスプレイの透明フィルムとして用いることができる。
【0006】
そしてこの透明フィルムは、液晶ディスプレイ等に要求される透明性、寸法安定性といった一般物性に加えて、ITO膜等の導電膜との密着性、表面平滑性、ガスバリア性等の性能も付与し得る材料として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−307851号公報
【特許文献2】特開2009−066931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この透明樹脂およびガラス繊維の基材からなる透明フィルムは、耐熱性にさらなる改善の余地があった。すなわち、従来では高屈折率樹脂および低屈折率樹脂としてエポキシ樹脂を用いた透明フィルムが提案されているが、このエポキシ樹脂を用いた透明フィルムは、耐熱性の上限が通常では200℃程度となり、用途によっては耐熱性が問題となることが懸念される。
【0009】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、高い透明性を有するとともに、耐熱性にも優れた透明フィルムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0011】
第1に、本発明の透明フィルムは、ガラス繊維の基材に透明樹脂が保持されている透明フィルムにおいて、透明樹脂形成用の樹脂組成物が熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂を含有する。
【0012】
第2に、上記第1の透明フィルムにおいて、熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂は、下記式(A):
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、R1はそれぞれ独立に2価の芳香族基または脂環族基を示し、R2はそれぞれ独立に3価の芳香族基または脂環族基を示し、nは正の整数を示す。)で表されるものである。
【0015】
第3に、上記第2の透明フィルムにおいて、透明樹脂形成用の樹脂組成物がエポキシ樹脂を含有する。
【0016】
第4に、上記第1ないし第3のいずれかの透明フィルムにおいて、透明樹脂形成用の樹脂組成物が下記式(I):
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は2価の有機基を示し、R3〜R10はそれぞれ独立に水素原子、置換基、またはエポキシ基含有の分子鎖を示す。)で表される多官能エポキシ樹脂を含有する。
【0019】
第5に、上記第1ないし第4のいずれかの透明フィルムにおいて、透明樹脂形成用の樹脂組成物が3,4−エポキシシクロヘキセニル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂を含有する。
【0020】
第6に、上記第1ないし第5のいずれかの透明フィルムにおいて、透明樹脂形成用の樹脂組成物が下記式(II):
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、Rはm価の有機基を示し、m、nは正の整数を示す。)で表される構造を有する多官能エポキシ樹脂を含有する。
【0023】
第7に、上記第1ないし第6のいずれかの透明フィルムにおいて、透明樹脂形成用の樹脂組成物がシアネート樹脂を含有する。
【発明の効果】
【0024】
上記第1および第2の発明によれば、透明樹脂形成用の樹脂組成物に熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂を配合することで、高い透明性を有するとともに、耐熱性にも優れた透明フィルムを得ることができる。
【0025】
上記第3ないし第7の発明によれば、上記の特定のエポキシ樹脂等を熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂と組み合わせて用いることで、高い透明性を維持しつつ、特に耐熱性に優れた透明フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
本発明の透明フィルムは、ガラス繊維の基材に透明樹脂が保持されている透明フィルムであり、ガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂と、ガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂とを混合して屈折率がガラス繊維の屈折率に近似するように調製された樹脂組成物を、ガラスクロス等のガラス繊維の基材に含浸し硬化して形成される。
【0028】
そして本発明では、樹脂組成物が、高屈折率樹脂および低屈折率樹脂の少なくとも一方として熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂を含有することを特徴としている。
【0029】
一般に、ポリイミド樹脂は耐熱性、電気特性、機械強度に優れていることからエレクトロニクス分野等の各種の分野で用いられており、製品としてはフィルムやその前駆体溶液として提供されている。ところが、フィルムは成型・加工・塗工が困難であり、前駆体溶液はイミド化の加工に高温が必要であるため、本発明のようにガラス繊維の基材と複合して透明フィルムを作製するのは困難である。
【0030】
これに対して本発明では、溶剤に可溶な熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂を用いることで、これを配合した樹脂組成物をガラス繊維の基材に含浸、硬化して透明フィルムを作製可能とし、イミド基により耐熱性が付与され透明性も高い透明フィルムを得ている。
【0031】
熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂としては、例えば、上記式(A)で表されるものを用いることができる。
【0032】
式(A)において、R1はそれぞれ独立に2価の芳香族基または脂環族基を示し、R2はそれぞれ独立に3価の芳香族基または脂環族基を示す。
【0033】
1の芳香族基は、芳香族環を含有する炭素数が好ましくは6〜20の基であり、原料の芳香族ジアミンまたは芳香族ジイソシアネートの残基である。芳香族ジアミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノビフェニル、3,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジエチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメトキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメトキシビフェニル、5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス[4−(4’−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等が挙げられる。芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、これらの芳香族ジアミンのアミノ基をイソシアネート基に置換したもの等が挙げられる。
【0034】
1の脂環族基は、脂肪族環を含有する炭素数が好ましくは6〜20の基であり、原料の脂環式ジアミンまたは脂環式ジイソシアネートの残基である。脂環式ジアミンとしては、例えば、4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、3,5−ジエチル−3’,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、2,2−ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]プロパン、ビス[4−(3−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]スルホン、ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]メタン、4,4’−ビス(4−アミノシクロヘキシルオキシ)ジシクロヘキシル、ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]エーテル、ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]ケトン、1,3−ビス(4−アミノシクロヘキシルオキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノシクロヘキシルオキシ)ベンゼン、(4,4’−ジアミノ)ジシクロヘキシルエーテル、(4,4’−ジアミノ)ジシクロヘキシルスルホン、(4,4’−ジアミノシクロヘキシル)ケトン、(3,3’−ジアミノ)ベンゾフェノン、2,2’−ジメチルビシクロヘキシル−4,4’−ジアミン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ジシクロヘキシル−4,4’−ジアミン、5,5’−ジメチル−2,2’−スルフォニルジシクロヘキシル−4,4’−ジアミン、3,3’−ジヒドロキシジシクロヘキシル−4,4’−ジアミン、(4,4’−ジアミノ)ジシクロヘキシルメタン、(4,4’−ジアミノ)ジシクロヘキシルエーテル、(3,3’−ジアミノ)ジシクロヘキシルエーテル、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン等が挙げられる。脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、これらの脂環式ジアミンのアミノ基をイソシアネート基に置換したもの等が挙げられる。
【0035】
2の芳香族基は、芳香族環を含有する炭素数が好ましくは6〜20の基であり、原料の芳香族トリカルボン酸またはその無水物の残基である。芳香族トリカルボン酸としては、例えば、ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,3’,4’−トリカルボン酸、ジフェニルスルホン−3,3’,4’−トリカルボン酸、ベンゾフェノン−3,3’,4’−トリカルボン酸、5−メチルベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸、6−メチルベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸、3−メチルベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸等が挙げられる。
【0036】
2の脂環族基は、脂肪族環を含有する炭素数が好ましくは6〜20の基であり、原料の脂環式トリカルボン酸または無水物の残基である。脂環式トリカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサン−1,2,3−トリカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸、シクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、5−メチルシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸、6−メチルシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸、3−メチルシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸等が挙げられる。
【0037】
熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂を高屈折率樹脂として用いる場合、R1およびR2として芳香族基を用いた全芳香族系のものを好ましく用いることができる。あるいは、R1またはR2として脂環族基を用いた脂環族系のものを用いることもできる。
【0038】
熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂を低屈折率樹脂として用いる場合、R1またはR2として脂環族基を用いた脂環族型のものを好ましく用いることができる。
【0039】
式(A)で表される熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂の酸価は、有機溶剤への溶解性や硬化特性等も考慮すると、固形分換算で好ましくは30〜80mgKOH/g、より好ましくは40〜70mgKOH/gである。
【0040】
式(A)の熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂は、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類等の溶剤に溶解して溶液として用いることができる。
【0041】
エーテル類としては、例えば、エチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、共重合ポリエーテルグリコールのジアルキルエーテル、共重合ポリエーテルグリコールのモノアセテートモノアルキルエーテル、共重合ポリエーテルグリコールのアルキルエステル、共重合ポリエーテルグリコールのモノアルキルエステルモノアルキルエーテル等が挙げられる。
【0042】
エステル類としては、例えば、γ−ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0043】
ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0044】
芳香族炭化水素類としては、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0045】
また、上記の溶剤に、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の溶剤を併用してもよい。
【0046】
式(A)の熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂を上記のような溶剤に溶解して、例えば、粘度0.1〜100Pa・s(25℃)の溶液として用いることができる。
【0047】
このような熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂は、エポキシ樹脂やシアネートエステル樹脂と組み合わせることで、透明で耐熱性の高い硬化物が得られる。
【0048】
熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂とともに樹脂組成物に配合される高屈折率樹脂としては、上記式(I)で表される多官能エポキシ樹脂およびシアネートエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0049】
式(I)で表される多官能エポキシ樹脂は、これを用いることで、高い透明性を維持しつつ、ガラス転移温度が高く、硬化物の耐熱性を高めることができ、さらに熱による変色も抑制できる。
【0050】
式(I)におけるR2の2価の有機基としては、例えば、フェニレン基等の置換または無置換のアリーレン基、置換または無置換のアリーレン基と炭素原子または炭素鎖とが結合した構造を持つ基等が挙げられる。炭素原子または炭素鎖としては、例えば、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基等のアルキレン基、カルボニル基等が挙げられる。
【0051】
2の2価の有機基としては、式(I)の右側のグリシジルオキシ基にフェニレン基が結合してグリシジルオキシフェニル基を構成する基が好ましく用いられる。また、熱による透明フィルムの変色抑制の点から、アリーレン基同士の間に介在する炭素原子または炭素鎖に、メチレン基(−CH2−)を含まないものが好ましく用いられる。
【0052】
2の2価の有機基としては、例えば、下記の構造(四角括弧内)が挙げられる。
【0053】
【化4】

【0054】
式(I)におけるR3〜R10の置換基としては、特に限定されないが、例えば、低級アルキル基等の炭化水素基、その他の有機基等が挙げられる。R3〜R10のエポキシ基含有の分子鎖としては、例えば、下記の構造(四角括弧内)が挙げられる。
【0055】
【化5】

【0056】
(式中、pは正の整数を示す。)
式(I)で表される多官能エポキシ樹脂としては、例えば、下記式(I-a)、(I-b)、(I-c)で表される多官能エポキシ樹脂を用いることができる。
【0057】
【化6】

【0058】
【化7】

【0059】
(式中、qは正の整数を示す。)
【0060】
【化8】

【0061】
シアネートエステル樹脂としては、例えば、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−シアネートフェニル)メタン、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)エタン、これらの誘導体、芳香族シアネートエステル化合物等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
シアネートエステル樹脂は、エポキシ樹脂とともに硬化反応をさせることでトリアジン環やオキサゾリン環を生成し、エポキシ樹脂の架橋密度を高め、剛直な構造を形成することで硬化物に高いガラス転移温度を付与することができる。また、シアネートエステル樹脂は常温で固形であるため、後述のように樹脂組成物をガラス繊維の基材に含浸し乾燥することによりプリプレグを調製する際に、指触乾燥することが容易になり、プリプレグの取扱い性が良好になる。
【0063】
高屈折率樹脂の屈折率は、好ましくは1.58〜1.63である。例えば、ガラス繊維の屈折率が1.563(Eガラス繊維)である場合、高屈折率樹脂は屈折率が1.6前後のものが好ましく、ガラス繊維の屈折率をnとすると、n+0.03〜n+0.06の範囲のものが好ましい。
【0064】
なお、本発明において、樹脂の屈折率は、いずれも硬化した樹脂の状態(硬化樹脂)での屈折率を意味するものであり、ASTM D542に従って試験した値である。
【0065】
熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂とともに樹脂組成物に配合される低屈折率樹脂としては、3,4−エポキシシクロヘキセニル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂、および上記式(II)で表される構造を有する多官能エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0066】
3,4−エポキシシクロヘキセニル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂は、これを用いることで、高い透明性を維持しつつ、ガラス転移温度が高く、硬化物の耐熱性を高めることができる。
【0067】
3,4−エポキシシクロヘキセニル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、1分子中に複数の3,4−エポキシシクロヘキセニル骨格を有する室温で液状のものを用いることができる。具体的には、例えば、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートを用いることができる。その他、次の構造:
【0068】
【化9】

【0069】
(式中、nは正の整数を示す。)を有するε−カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、およびアジピン酸を含む次の化合物:
【0070】
【化10】

【0071】
等を用いることができる。
【0072】
式(II)で表される構造を有する多官能エポキシ樹脂は、これを用いることで、高い透明性を維持しつつ、ガラス転移温度が高く、硬化物の耐熱性を高めることができる。
【0073】
式(II)において、有機基Rは、四角括弧内の脂環式エポキシ構造に基づく本発明の効果を損なわない範囲内において任意であってよいが、例えば、炭素数1〜10の直鎖または分岐の炭化水素基等が挙げられる。式(II)のmは、特に限定されないが、例えば1〜5であり、nは、特に限定されないが、好ましくは常温(25℃)で流動性を失い固形となる範囲とされる。常温で固形であることで、透明フィルムの製造を容易にすることができる。
【0074】
式(II)で表される構造を有する多官能エポキシ樹脂としては、例えば、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールに1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサンを付加して得られるものを用いることができる。具体的には、例えば、下記式(II-a)で表されるものを用いることができる。
【0075】
【化11】

【0076】
(式中、3つのnはそれぞれ独立に正の整数を示す。)
この多官能エポキシ樹脂は、例えば、融点が85℃程度であり、分子量は、特に限定されないが、例えば、重量平均分子量で2000〜3000程度である。
【0077】
また、低屈折率樹脂としては、例えば、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることができる。水添ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型等のものを用いることができる。好ましくは、常温で固形の水添ビスフェノール型エポキシ樹脂が用いられる。常温で液状の水添ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることもできるが、樹脂組成物をガラス繊維の基材に含浸し乾燥することによりプリプレグを調製する際に、指触で粘着性のある状態にまでしか乾燥することができないことが多く、プリプレグの取扱い性が悪くなる場合がある。
【0078】
本発明において、低屈折率樹脂の屈折率は、好ましくは1.47〜1.53である。例えば、ガラス繊維の屈折率が1.563である場合、低屈折率樹脂は屈折率が1.5前後のものが好ましく、ガラス繊維の屈折率をnとすると、n−0.04〜n−0.08の範囲のものが好ましい。
【0079】
本発明では、以上に例示したような高屈折率樹脂と低屈折率樹脂とを混合して、屈折率がガラス繊維の屈折率に近似するように樹脂組成物を調製する。樹脂組成物は、その硬化樹脂のガラス転移温度(Tg)が好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは230℃以上になるように調製される。硬化樹脂の高いガラス転移温度により、透明フィルムの耐熱性を高めることができる。ガラス転移温度の上限は特に限定されないが、実用的には280℃程度が上限である。
【0080】
なお、本発明においてガラス転移温度は、JIS C6481 TMA法に従って測定した値である。
【0081】
本発明において、樹脂組成物には、硬化開始剤(硬化剤)を配合することができる。この硬化開始剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の3級アミン、2−エチル−4−イミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等の硬化触媒を用いることができる。樹脂組成物における硬化触媒の配合量は、好ましくは0.5〜5.0PHRの範囲である。
【0082】
また、硬化開始剤として、カチオン系硬化剤を用いることができる。カチオン系硬化剤を用いることにより、硬化樹脂の透明性を高めることができる。カチオン系硬化剤としては、例えば、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族アンモニウム塩、アルミニウムキレート、三フッ化ホウ素アミン錯体等が挙げられる。樹脂組成物におけるカチオン系硬化剤の配合量は、好ましくは0.2〜3.0PHRの範囲である。
【0083】
また、硬化開始剤として、有機金属塩を用いることができる。有機金属塩としては、例えば、オクタン酸、ステアリン酸、アセチルアセトネート、ナフテン酸、サリチル酸等の有機酸と、Zn、Cu、Fe等の金属との塩等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、オクタン酸亜鉛が好ましい。硬化開始剤としてオクタン酸亜鉛を用いることにより、硬化樹脂のガラス転移温度を高めることができる。樹脂組成物におけるオクタン酸亜鉛等の有機金属塩の配合量は、好ましくは0.01〜0.1PHRの範囲である。
【0084】
樹脂組成物は、上記の高屈折率樹脂、低屈折率樹脂、および必要に応じて硬化開始剤等を配合することにより調製することができる。この樹脂組成物は、必要に応じて溶媒で希釈してワニスとして調製することができる。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコール、N,N’−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0085】
ガラス繊維の基材を構成するガラス繊維としては、透明フィルムの耐衝撃性を高める点や、安価で供給品質が安定している点等から、EガラスやNEガラスの繊維が好ましく用いられる。Eガラス繊維は無アルカリガラス繊維とも称され、樹脂強化用ガラス繊維として汎用されるガラス繊維であり、NEガラスはNewEガラスのことである。また、Tガラスの繊維を用いることもできる。Tガラスは、汎用のEガラスに比べて機械的、熱的特性が優れている。
【0086】
また、ガラス繊維は、耐衝撃性を向上させる目的で、ガラス繊維処理剤として通常用いられているシランカップリング剤により表面処理しておくことが好ましい。ガラス繊維の屈折率は、好ましくは1.55〜1.57、より好ましくは1.555〜1.565である。ガラス繊維の屈折率がこの範囲であれば、視認性に優れた透明フィルムを得ることができる。ガラス繊維の基材としては、ガラス繊維の織布あるいは不織布を用いることができる。
【0087】
そしてガラス繊維の基材に樹脂組成物のワニスを含浸し、加熱して乾燥することにより、プリプレグを調製することができる。乾燥条件は、特に限定されないが、乾燥温度100〜160℃、乾燥時間1〜10分間の範囲が好ましい。
【0088】
次にこのプリプレグを1枚、あるいは複数枚重ね、加熱加圧成形することにより、樹脂組成物を硬化させて透明フィルムを得ることができる。加熱加圧成形の条件は、特に限定されないが、温度150〜200℃、圧力1〜4MPa、時間10〜120分間の範囲が好ましい。
【0089】
上記のようにして得られる透明フィルムにおいて、高屈折率樹脂と低屈折率樹脂とが重合して形成される樹脂マトリクスは、ガラス転移温度が高いものであり、耐熱性に優れた透明フィルムを得ることができる。
【0090】
また、上記に例示したような高屈折率樹脂と低屈折率樹脂は、透明性に優れるものであり、高い透明性を確保した透明フィルムを得ることができる。この透明フィルムにおいて、ガラス繊維の基材の含有率は25〜65質量%の範囲が好ましく、より好ましくは35〜60質量%の範囲である。この範囲であれば、ガラス繊維による補強効果で高い耐衝撃性を得ることができるとともに、十分な透明性を得ることができる。また、ガラス繊維が多過ぎると表面の凹凸が大きくなり、透明性も低下する。一方、ガラス繊維が少な過ぎると透明フィルムの熱膨張係数が大きくなる場合がある。
【0091】
なお、ガラス繊維の基材は、透明性を高く得るために、厚みの薄いものを複数枚重ねて用いることができる。具体的には、ガラス繊維の基材として厚み50μm以下のものを用い、これを2枚以上重ねて用いることができる。ガラス繊維の基材の厚みは、特に限定されないが、10μm程度が実用上の下限である。また、ガラス繊維の基材の枚数も特に限定されないが、20枚程度が実用上の上限である。このように複数枚のガラス繊維の基材を用いて透明フィルムを製造する場合、各々のガラス繊維の基材に樹脂組成物を含浸、乾燥してプリプレグを作製し、このプリプレグを複数枚重ねて加熱加圧成形することにより透明フィルムを得ることができるが、複数枚のガラス繊維の基材を重ねた状態で樹脂組成物を含浸、乾燥してプリプレグを作製し、このプリプレグを加熱加圧成形して透明フィルムを得るようにしてもよい。
【0092】
このようにして得られる本発明の透明フィルムは、透明性および耐熱性に優れるとともに、透明フィルムの表面にITOにより導電性を付与することも可能であり、液晶ディスプレイ等に適している。
【0093】
また、本発明の透明フィルムは寸法安定性も高く、特に面方向(XY方向)において低い熱膨張係数(CTE)を有している。例えば、50〜150℃における面方向の熱膨張係数を30ppm/℃以下とすることができる。
【0094】
また、透明フィルムの表面は平滑であり、例えば、表面粗さ(Rz)を1μm以下とすることができる。さらに、ハードコート層やガスバリア層を設けることで、平滑性をより高めることができる。
【0095】
本発明の透明フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ、有機EL照明、フレキシブル太陽電池等の基材や、透明フィルムと金属層との積層による、LED照明、LEDバックライト、有機EL照明、有機ELディスプレイ等の反射基板や、電気泳動型電子ペーパー等に好適である。
【実施例】
【0096】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0097】
実施例および比較例の配合成分として以下のものを用いた。
高屈折率樹脂
・ユニディックV−8001、DIC(株)製、熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂、全芳香族系、溶剤 γ−ブチロラクトン、粘度 0.1〜10Pa・s(25℃)、不揮発分 30〜50質量%、酸価 40〜70mgKOH/g、屈折率1.75
・ユニディックV−8002、DIC(株)製、熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂、脂環族系、溶剤 エチルジグリコールアセテート、粘度 50〜150Pa・s(25℃)、不揮発分 35〜45質量%、酸価 45〜65mgKOH/g、屈折率1.53
・テクモアVG3101、(株)プリンテック製、上記式(I-a)で表される分子構造を有する3官能エポキシ樹脂、屈折率1.59
・JER1003、ジャパンエポキシレジン(株)製、固形のビスフェノール型エポキシ樹脂、エポキシ当量 670〜770、軟化点89℃、屈折率1.60
低屈折率樹脂
・ユニディックV−8002、DIC(株)製
・セロキサイド2021P、ダイセル化学工業(株)製、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、屈折率 1.50
・EHPE3150、ダイセル化学工業(株)製、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物、エポキシ当量185、分子量2234、屈折率 1.51
・YL7170、ジャパンエポキシレジン(株)製、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量1200、屈折率1.51)
硬化開始剤
・SI−150L、三新化学工業(株)製、カチオン系硬化剤(SbF6-系スルホニウム塩)
・トリフェニルホスフィン
上記の高屈折率樹脂および低屈折率樹脂を表1に示す量で配合し、さらに硬化開始剤を配合し、これにトルエン50質量部、メチルエチルケトン50質量部を添加して、温度70℃で攪拌溶解することによって、樹脂組成物のワニスを調製した。
【0098】
次に、厚み25μmのガラス繊維クロス(旭化成エレクトロニクス(株)製、品番「1037」、Eガラス繊維、屈折率1.56、または日東紡(株)製、品番「1037」、Tガラス繊維、屈折率1.53)に、上記の樹脂組成物のワニスを含浸し、150℃で5分間加熱することにより、溶剤を除去するとともに樹脂を半硬化させてプリプレグを作製した。
【0099】
そしてこのプリプレグを2枚重ねて、プレス機にセットし、170℃、2MPa、15分の条件で加熱加圧成形することにより、樹脂の含有率が63質量%、厚み70μmの透明フィルムを得た。
【0100】
このようにして得られた実施例および比較例の透明フィルムについて次の測定および評価を行った。
[透明性]
日本電色工業(株)製のヘイズメーターNDH2000を用いて、JISK7136に準拠して透明フィルムのヘイズ値を測定した。
[ガラス転移温度]
作製したプリプレグから樹脂分を掻き落とし、透明フィルムの成形条件と同じ条件で直圧成形して得た樹脂板を供試サンプルとして、JIS C6481 TMA法に準拠して測定した。
【0101】
これらの測定および評価の結果を表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
表1より、実施例1〜7では、高屈折率樹脂および低屈折率樹脂の少なくとも一方として熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂を用いたところ、透明フィルムはガラス転移温度が高く耐熱性に優れるものであった。さらに、高い透明性も維持していた。
【0104】
一方、比較例1では、高屈折率樹脂および低屈折率樹脂としてエポキシ樹脂を用いたところ、実施例1〜7に比べて十分な耐熱性が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維の基材に透明樹脂が保持されている透明フィルムにおいて、透明樹脂形成用の樹脂組成物が熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂を含有することを特徴とする透明フィルム。
【請求項2】
熱硬化型溶剤可溶性イミド樹脂は、下記式(A):
【化1】

(式中、R1はそれぞれ独立に2価の芳香族基または脂環族基を示し、R2はそれぞれ独立に3価の芳香族基または脂環族基を示し、nは正の整数を示す。)で表されるものであることを特徴とする請求項1に記載の透明フィルム。
【請求項3】
透明樹脂形成用の樹脂組成物がエポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の透明フィルム。
【請求項4】
透明樹脂形成用の樹脂組成物が下記式(I):
【化2】

(式中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は2価の有機基を示し、R3〜R10はそれぞれ独立に水素原子、置換基、またはエポキシ基含有の分子鎖を示す。)で表される多官能エポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項5】
透明樹脂形成用の樹脂組成物が3,4−エポキシシクロヘキセニル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1ないし4いずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項6】
透明樹脂形成用の樹脂組成物が下記式(II):
【化3】

(式中、Rはm価の有機基を示し、m、nは正の整数を示す。)で表される構造を有する多官能エポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1ないし5いずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項7】
透明樹脂形成用の樹脂組成物がシアネート樹脂を含有することを特徴とする請求項1ないし6いずれか一項に記載の透明フィルム。

【公開番号】特開2011−93966(P2011−93966A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247116(P2009−247116)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】