説明

透明フッ素樹脂成形体の製造方法及び透明フッ素樹脂成形体

【課題】透明性及び耐熱性に優れるフッ素樹脂成形体を比較的低コストで得ることができる製造方法、およびこの製造方法によって得られる、透明性及び耐熱性に優れる透明フッ素樹脂成形体を提供すること。
【解決手段】フッ素樹脂を主成分とする樹脂組成物の成形体に、前記フッ素樹脂の融点未満の温度T(℃)において下記式(1)の条件を満たす圧力Y(MPa)をかけるプレス工程を有する透明フッ素樹脂成形体の製造方法。前記プレス工程の後、電離放射線を照射して前記フッ素樹脂を架橋する架橋工程を有するとより好ましい。
logY≧―0.0069T+2.3 …(1)
(ただし、Y≦10^[5×(−0.0069T+2.3)])

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器部品用の光学部材として好適に用いられるフッ素樹脂成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、ノートパソコン、デジタルカメラ、液晶テレビ等の電子機器には、導光板、光拡散シート、集光シート等として種々の光学フィルムが用いられている。又ピックアップレンズ、カメラレンズ、マイクロアレーレンズ、プロジェクターレンズ、フレネルレンズ等の種々の光学レンズが用いられている。これらの光学フィルムや光学レンズには透明性、すなわち可視光線や近赤外光線の透過率が高いことが求められており、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂がこれらの用途に使用されている。
【0003】
またこれらの光学フィルムや光学レンズ(以下、光学部材)には耐熱性も求められている。上記の電子機器の小型化、高性能化により電子部品の実装が半田リフローにより行われているためであり、リフロー温度でも溶融せず形状を維持できる程度の耐熱性が望まれている。さらに、環境問題に対応するため温度の高い鉛フリーハンダにも耐えることも望まれている。
【0004】
アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂からなる光学部材は耐熱性が低くこのような用途には適さない。したがって耐熱性が高く透明性にも優れるフッ素樹脂を光学部材として使用することが検討されている。しかし汎用的なフッ素樹脂の成形体は透明性が充分ではなく、透明性を上げるために種々の検討がなされている。
【0005】
特許文献1には、非晶性フッ素樹脂を用いたフッ素樹脂組成物からなる透明成形体が記載されている。汎用のフッ素樹脂は結晶性を有しており、このフッ素樹脂の結晶が透明性低下の原因となる。非晶性のフッ素樹脂を用いるとフッ素樹脂の結晶を生じないため透明性の高い成形体を得ることができる。
【0006】
特許文献2には透明性に優れるフッ素樹脂成形体の製造方法として、フッ素樹脂からなる樹脂組成物を成形する成形工程、成形工程で得られた成形体に前記フッ素樹脂の融点未満の温度雰囲気で1回以上電離放射線を照射して樹脂組成物を架橋する1回目の照射工程、前記フッ素樹脂の融点以上の温度雰囲気で1回以上電離放射線を照射して樹脂組成物を架橋する2回目の照射工程を有する透明樹脂成形体の製造方法が記載されている。フッ素樹脂の融点以上に加熱して2回目の照射を行うことで高い透明性を有する成形体が得られる。その理由としては、フッ素樹脂の融点以上の温度雰囲気ではフッ素樹脂の結晶は溶融しており結晶が存在しない状態であり、この状態にて照射して架橋を生成するので結晶量が低減し成形体の透明性が向上するものと思われる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−123034号公報
【特許文献2】特開2011−052063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の非晶性フッ素樹脂からなる成形体は透明性に優れているが、高価な材料であるためコストが高くなり実用的ではない。
【0009】
特許文献2の製造方法で得られる成形体は汎用フッ素樹脂を用いているため材料は比較的低コストである。しかしフッ素樹脂の融点以上の温度雰囲気で電離放射線を照射するという工程が必要であり、複雑な製造設備が必要となるため製造コストが高くなる。
【0010】
従って本発明は、耐熱性及び透明性に優れるフッ素樹脂成形体を比較的低コストで得ることができる製造方法、およびこの製造方法によって得られる、耐熱性及び透明性に優れる透明フッ素樹脂成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、フッ素樹脂を主成分とする樹脂組成物の成形体に、前記フッ素樹脂の融点未満の温度T(℃)において下記式(1)の条件を満たす圧力Y(MPa)をかけるプレス工程を有する透明フッ素樹脂成形体の製造方法である(請求項1)。
log10Y≧―0.0069T+2.3 …(1)
(ただし、Y≦10^[5×(−0.0069T+2.3)])
【0012】
本発明者らは、成形体に一定の圧力をかけることで結晶性材料であるフッ素樹脂の透明性を向上できること、またその場合に必要な圧力は温度と相関していることを見出し、本発明を完成した。これにより比較的低コストな汎用のフッ素樹脂を用いた場合でも透明性の高い成形体を得ることができる。またフッ素樹脂の融点未満の温度での加工が可能であるため、製造設備の負荷が少なく低コストで製造可能である。
【0013】
前記プレス工程の後、電離放射線を照射して前記フッ素樹脂を架橋する架橋工程を有すると好ましい(請求項2)。前記プレス工程によりフッ素樹脂中に結晶を維持しつつ透明性が向上する。この状態の成形体を架橋するとフッ素樹脂の状態が固定されるため、その後の温度変化があっても透明性を維持できる。また架橋することで成形体の耐熱性が向上する。
【0014】
前記フッ素樹脂の融点が300℃未満であると好ましい(請求項3)。フッ素樹脂としてはフッ素を含有する熱可塑性樹脂であって射出成形等で成形可能であり透明な成形体が得られる任意の樹脂を使用できるが、融点が300℃未満であると成形しやすいからである。炭素−水素結合を有し、電離放射線の照射により架橋するフッ素樹脂であると更に好ましい。このようなフッ素樹脂としては、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、およびこれらの変性体から選ばれる1種以上の樹脂が好ましく使用できる(請求項4)。
【0015】
前記成形体はフッ素樹脂を主成分とする樹脂組成物を射出成形して形成されたものであり、該射出成形工程と前記プレス工程とを射出圧縮成形により連続して行うと好ましい(請求項5)。このような工程を用いることで成形体の製造時間を短縮でき、コストを低減できる。また成形体の透明性のばらつきが少なく、品質向上できる。
【0016】
上記の製造方法により透明性に優れたフッ素樹脂成形体が得られる。透明性の指標としては波長400nmの光の透過率と波長850nmの光の透過率を用いる。本製造方法により得られるフッ素樹脂成形体は、換算厚み0.45mmでの光の透過率が、波長400nm及び850nmのいずれにおいても85%以上である。また結晶性のフッ素樹脂を用いた場合は、プレス後の成形体(透明フッ素樹脂成形体)でも結晶性を維持している。したがって、本発明は、フッ素樹脂を主成分とする樹脂組成物を成形した透明フッ素樹脂成形体であって、厚みを0.45mmとしたときの光の透過率が、波長400nm及び850nmのいずれにおいても85%以上であるとともに、結晶熱量が10J/g以上である透明フッ素樹脂成形体を提供する(請求項6)。なお結晶熱量は示差走査熱量測定により測定する。
【0017】
さらに、プレス工程の後、電離放射線を照射してフッ素樹脂を架橋した透明フッ素樹脂成形体は150℃で3000時間加熱後の光の透過率が、波長400nm及び850nmのいずれにおいても加熱前の光の透過率に対して95%以上であり、長期耐熱性に優れている(請求項7)。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、耐熱性及び透明性に優れるフッ素樹脂成形体を比較的低コストで得ることができる。またこの製造方法によって耐熱性及び透明性に優れる透明フッ素樹脂成形体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に用いるフッ素樹脂としては、フッ素を含有する熱可塑性樹脂であって射出成形等で成形可能であり透明な成形体が得られる任意の樹脂を使用できる。さらに電離放射線の照射により架橋するフッ素樹脂であると好ましい。具体的には、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、およびこれらの変性体、並びにポリビニリデンフルオライド等を使用できる。融点が300℃未満であると成形しやすく好ましい。また電離放射線を照射する前の成形体の透過率が、2mm厚さの成形体で20%以上であるものが好ましい。
【0020】
上記の変性体としては、反応性官能基を主鎖末端、側鎖末端の一方又は両方に有するフッ素樹脂が挙げられる。ここで反応性官能基としてはカルボニル基、カルボニルジオキシ基、ハロホルミル基、水酸基、エポキシ基などが挙げられる。また変性体として、エチレン部位に他の成分をグラフト重合させたものを用いることもできる。例えばダイキン工業(株)製のネオフロンRP−4020(商品名)を挙げることができる。
【0021】
上記のフッ素樹脂を主成分とする樹脂組成物を成形して、成形体が得られる。なお、主成分とする、とは樹脂組成物の50質量%以上がフッ素樹脂であることを意味する。複数のフッ素樹脂を複数混ぜ合わせて使用しても良い。樹脂組成物には本発明の効果を損ねない範囲で他の樹脂成分を添加しても良い。他の樹脂成分としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0022】
樹脂組成物には電離放射線の照射による架橋効率を向上させるため、多官能性モノマーを添加しても良い。多官能性モノマーとしては、分子量が1000以下であり、炭素−炭素二重結合を分子内に2つ以上有するものが好ましい。分子量が1000以下であると、透明性を維持しながら耐熱性に優れたフッ素樹脂成形体を得ることができる。このような多官能性モノマーとしては、トリメチロールプロパン(トリ)メタアクリレート、1,6−ジビニル(パーフルオロヘキサン)、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0023】
多官能性モノマーの添加量はフッ素樹脂100質量部に対して0.05質量部以上20質量部以下とすることが好ましい。添加量が0.05質量部未満だと架橋効率向上効果が得られず電離放射線の照射量が多量に必要となる。また20質量部を超えると、樹脂組成物を作製する際の混練時の取り扱いが困難となる。
【0024】
樹脂組成物には前記の成分に加えて酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、滑剤などの各種添加剤を添加することもできる。樹脂組成物はこれらの材料をオープンロール、加圧ニーダー、短軸混合機、2軸混合機等の既知の混合装置を用いて混合することにより作製することができる。使用するフッ素樹脂の融点以上の温度で溶融混合することが好ましい。
【0025】
プレス前の成形体は、上記のフッ素樹脂を主成分とする樹脂組成物を成形して得られる。成型方法としては射出成形、プレス成形、押出成形等既存の方法を採用することができる。なかでも射出成形が好ましく用いられる。本発明に使用される樹脂組成物の融点は、フッ素樹脂の種類、例えばフッ素樹脂を構成するモノマー比率により調節することが可能である。融点が300℃未満であるフッ素樹脂を使用する場合は低温での成形が可能であり成形性が優れる。なお融点が300℃以上であるフッ素樹脂を使用する場合は、フッ化水素による設備の腐食を考慮し、成形体と接する設備の部分には耐フッ化水素性のメッキ処理を施す必要がある。
【0026】
上記の成形体に圧力をかけて(プレス工程)透明フッ素樹脂成形体が得られる。この時に必要な圧力Y(MPa)は温度T(℃)に依存しており、下記式(1)の条件を満たす必要がある。例えば25℃でプレスする場合に必要な圧力は134MPa以上、100℃でプレスする場合は41MPa以上である。ただし圧力所定圧力の5倍を超えると成形体が破壊するため、圧力Y(MPa)は10^[5×(−0.0069T+2.3)]以下とする。
logY≧―0.0069T+2.3 …(1)
【0027】
圧力をかける際の温度はフッ素樹脂の融点未満とする。フッ素樹脂の融点を超えると成形体が変形するからである。温度の下限は特に無いが、温度が低いとプレス工程で必要な圧力が高くなり設備の負荷が大きくなるため、25℃以上とすることが好ましい。このような温度条件の下で一定の圧力をかけることで、結晶性樹脂であるフッ素樹脂の結晶構造が変化して透明性が向上する。また圧力をかける時間は0.1秒〜5分程度とする。
【0028】
プレス工程は任意の方法で行うことができる。射出成形で成形体を作製した後、金型を型締めして圧力をかける射出圧縮成形により圧力をかけると連続した工程で透明フッ素樹脂成形体を製造することができ、製造コストを低減できると共にできあがった成形体の品質が安定する。この場合、まず射出成形により溶融した樹脂組成物を金型内に充填する。充填された樹脂組成物を一定温度まで冷却することで成形体となる。その後金型を移動させて成形体に圧力をかける。この場合に必要な圧力は金型を移動させる際の金型温度を基準として算出する。
【0029】
上記プレス工程により得られた透明フッ素樹脂成形体に電離放射線を照射してフッ素樹脂を架橋すると耐熱性が向上して好ましい。また照射架橋によりフッ素樹脂の構造が固定化され、透明性を維持できる。特に高温環境で長時間保持された後でも透明性を維持でき、長期耐熱性に優れる透明フッ素樹脂成形体が得られる。
【0030】
電離放射線源としては加速電子線、ガンマ線、X線、α線、紫外線等を例示することができる。線源利用の簡便さや電離放射線の透過厚み、架橋処理の速度等、工業的利用の観点から加速電子線が好ましい。加速電子線の加速電圧は成形品の肉厚に応じて適宜設定すれば良い。例えば厚さ2mm程度の成形品であれば加速電圧は100kV〜10,000kVの間で選定される。電離放射線の照射線量が大きいほどフッ素樹脂の架橋度が向上して耐熱性が向上する。しかし照射線量が大きすぎる場合は成形体の着色、白濁や樹脂の分解等の問題が生じる場合がある。従って照射量は100kGy以上1500kGy未満が好ましい。この範囲内であれば鉛フローハンダを使用したハンダリフローに耐える耐熱性が得られる。具体的には260℃×60秒の熱暴露がされても変形、収縮等が生じず、また850nm波長光の透過率変化が少ないという耐熱性を有している。
【0031】
透明フッ素樹脂成形体は任意の形状とすることができる。板状の成形体の場合厚みは0.05mm〜1.5mmとすることが好ましい。より好ましくは0.1mm〜1mmである。また換算厚み0.45mmでの光の透過率X(%)は以下の式で求めることができる。
X(%)=100*10^[(log10(A/100))×0.45/t]
t:測定した成形体の厚み(mm)
A:厚みt(mm)での透過率(%)
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
(実施例1〜10、比較例1〜4)
(樹脂組成物ペレットの作製)
表1に示す配合処方の樹脂及び添加剤を、二軸混合機(30mmφ、L/D=30)を使用し、バレル温度を190℃〜330℃に設定し、スクリュー回転数100rpmで溶融混合して樹脂組成物を作製した後、ストランドカットペレタイザで樹脂組成物ペレットを作製した。バレル温度は樹脂の融点より10℃以上高くなるように適宜選定した。
【0034】
(成形体の作製)
得られた樹脂組成物ペレットを型締力40tクラスの射出成形機(日精樹脂社製)に投入し、面粗度Ra=1.6aレベルで研磨したSUS304製の金型を用いて射出成形を実施し、所定の肉厚のプレートを作製した。得られた成形体の厚みを表1中に示す。
【0035】
(プレス工程)
表1に示す温度と圧力で成形体をプレスして、透明フッ素樹脂成形体を作製した。なおプレスの時間は予熱1分、加圧20秒とした。プレス後の透明フッ素樹脂成形体の厚みを表1中に示す。なお比較例1、比較例4はプレス工程を行っていない。
【0036】
(透明性評価)
上記透明フッ素樹脂成形体のプレートから10mm×10mm角でカッティングしたサンプルの色目を目視で確認した。また波長400nmと850nmとで光の透過率を測定した。なお測定サンプルの厚みは表1中の「プレス後厚み」である。
【0037】
(電子線照射)
上記透明フッ素樹脂成形体のプレートに、加速電圧200kVの加速電子線を、表1に記載の線量で照射した。なお照射する際の温度は室温である。
【0038】
(融点測定)
電子線を照射した後の透明フッ素樹脂成形体(実施例8〜10は未照射の透明フッ素樹脂成形体)の融点を示差走査熱量測定で測定した。樹脂本来の融点近傍に熱量1J/g以上のピークが観察された場合にこれを融点ピークと判断し、そのピーク温度を融点とした。
【0039】
(耐熱性評価)
上記電子線照射を行った透明フッ素樹脂成形体のプレートを30mm×30mm角にカッティングし、270℃の恒温槽内に60秒静置して加熱した後の色目を目視で確認した。また波長400nmと850nmとで透過率を測定した。
【0040】
(長期耐熱性評価)
上記電子線照射を行った透明フッ素樹脂成形体のプレートを30mm×30mm角にカッティングし、150℃の恒温槽内に3000時間秒静置して加熱した後の色目を目視で確認した。また波長400nmと850nmとで透過率を測定した。以上の結果を表1に示す。














































【0041】
【表1】

【0042】
(脚注)
(*1)エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体。(旭硝子(株)製、商品名フルオンLM−ETFE LM730AP)
(*2)エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体。(旭硝子(株)製、商品名フルオンETFE C−88AP)
(*3)エチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンの共重合体。(ダイキン工業(株)製、商品名ネオフロンRP4020)
(*4)テトタフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体。(ダイキン工業(株)製、商品名ネオフロンFEP NP−21)
(*5)ポリカーボネート。(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名ユーピロンS3000)
(*6)トリメチロールプロパントリメタクリレート
【0043】
温度と圧力との関係が式(1)を満たしており、かつ電子線を照射してフッ素樹脂を架橋した実施例1〜7の透明フッ素樹脂成形体は初期の透過率が高く透明性が良好である。また270℃×60秒加熱後の透過率は初期の透過率とほとんど変化無く、耐リフロー性にも優れている。さらに150℃3000時間の長期耐熱試験後の透過率も波長400nm、850nmいずれでもほとんど変化がなく長期耐熱性にも優れていることがわかる。
【0044】
実施例8及び実施例9の透明フッ素樹脂成形体は電子線を照射していない。従って初期の透明性は良好であるが、270℃×60秒加熱後は白濁して透明性が悪化した。実施例10の透明樹脂成形体も電子線を照射していないが、融点の高いPFAを用いているため、初期の透明性だけでなく270℃×60秒加熱後、150℃3000時間加熱後の透明性も優れている。また実施例1〜9の透明フッ素樹脂成形体の照射後の結晶熱量は全て10J/g以上であり、結晶性を維持していることがわかる。
【0045】
比較例1〜3は、実施例1、4〜5と同じフッ素樹脂を用いて成形し、プレス条件を変更したものである。プレス工程を全く行っていない比較例1は初期の透明性が悪く、厚みが0.5mmと薄いにもかかわらず目視で白濁しており、400nm波長光、850nm波長光での透過率も同じ厚みの実施例1と比べて低くなっている。比較例2はプレス工程を行っているが、温度25℃で必要な圧力(134MPa)よりも低い圧力でプレスしているため透明性が充分でない。比較例3は圧力が高すぎるため成形体が破壊している。また比較例4はフッ素樹脂ではなくポリカーボネートを用いて成形体を作製している。ポリカーボネートは透明性に優れており、初期の透過率は高いが耐熱性が低く、270℃×60秒加熱すると成形体が溶融した。また150℃3000時間の加熱では溶融はしなかったが成形体が黄色く変色し、透過率も低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂を主成分とする樹脂組成物の成形体に、前記フッ素樹脂の融点未満の温度T(℃)において下記式(1)の条件を満たす圧力Y(MPa)をかけるプレス工程を有する透明フッ素樹脂成形体の製造方法。
logY≧―0.0069T+2.3 …(1)
(ただし、Y≦10^[5×(−0.0069T+2.3)])
【請求項2】
前記プレス工程の後、電離放射線を照射して前記フッ素樹脂を架橋する架橋工程を有する請求項1に記載の透明フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記フッ素樹脂の融点が300℃未満である、請求項1又は2に記載の透明フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記フッ素樹脂が、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及びこれらの変性体から選ばれる1種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記成形体はフッ素樹脂を主成分とする樹脂組成物を射出成形して成形されたものであり、該射出成形工程と前記プレス工程とを射出圧縮成形により連続して行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
フッ素樹脂を主成分とする樹脂組成物を成形した透明フッ素樹脂成形体であって、換算厚み0.45mmでの光の透過率が、波長400nm及び850nmのいずれにおいても85%以上であるとともに、結晶熱量が10J/g以上である透明フッ素樹脂成形体。
【請求項7】
請求項2に記載の透明フッ素樹脂成形体の製造方法により得られる透明フッ素樹脂成形体であって、150℃で3000時間加熱後の光の透過率が、波長400nm及び850nmのいずれにおいても、加熱前の光の透過率に対して95%以上である透明フッ素樹脂成形体。

【公開番号】特開2013−43413(P2013−43413A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184234(P2011−184234)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】