説明

透明導電性積層膜

【課題】良好な導電性と表面平滑性、加工性を併せ持つ酸化亜鉛系の透明導電膜を提供する。
【解決手段】基材1上に形成される透明導電性積層膜であり、該透明導電性積層膜は、周期表第III族又は第IV族の元素の化合物を含む下地膜11と、該下地膜11上に形成される酸化亜鉛を含む導電膜12とを含むものであり、該導電膜12は、CuKα線を用いたX線回折法により検出される酸化亜鉛の(002)面の回折線のうち、回折角2θが33.00°≦2θ≦35.00°である回折線の強度Iが1000(cps)以下であり、該強度Iと該導電膜の膜厚tとのI/tが0〜15.0(cps/nm)であることを特徴とする透明導電性積層膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明導電膜に関するものであり、特に表示デバイスや太陽電池の電極部材として用いられる透明導電性積層膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は可視光域で高い透過率と高い導電性とを併せもつものであり、近年、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイやエレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどの表示デバイスや太陽電池などの電極部材として用いられている。透明導電膜として、酸化インジウムにスズを適量ドープしたITO膜(特許文献1)や、酸化インジウムを酸化亜鉛に適量ドープしたIZO膜(非特許文献1)等が広く知られている。
【0003】
前述した表示デバイスや電極部材に使用される場合、透明導電膜表面にウェット及びドライエッチングにより所定形状のラインパターン(配線)を形成する(以下、パターニングと呼ぶことがある)ことや、多層膜を積層することがある。その際、パターニングし難いと上記のようなデバイスの正常な動作を妨げてしまい、あるいは、有機ELディスプレイ等において薄膜表面が平滑でないと、発光層を突き破りダークスポット(局所的に発光しない箇所)が発生する等の問題を生じるために、透明導電膜には、エッチング加工が容易であることや、薄膜表面が平滑であることが要求される。例えばITO膜の結晶成長を抑制し、得られるITO膜の結晶粒径を小さくすることにより、膜表面にエッチング加工を施し易くしたITO膜(引用文献2)が開示されているなど、様々な検討がなされている。
【0004】
しかし一方で、希少金属であるインジウムの資源埋蔵量は少なく、上記のITO膜やIZO膜のようにインジウムを含む薄膜は高価格とならざるを得ず、また、安定供給にも不安のある材料であることから、インジウムを用いない新たな透明導電膜の開発が望まれている。
【0005】
上記のような透明導電膜として酸化亜鉛にAlやGaを適量ドープしたAZO膜(特許文献3)、GZO膜(特許文献4)などが期待されている。上記のように酸化亜鉛に異種金属をドープした酸化亜鉛系薄膜は従来のインジウムを含む透明導電膜よりも導電性が劣る(一般的な酸化亜鉛薄膜は1.0×10−2Ωcm程度)が、薄膜の結晶成長を促進することにより、前述したインジウムを含む透明導電膜に近い導電性(通常、表示デバイスや太陽電池の電極として使用されるITO膜の比抵抗は1.0×10−4Ωcm程度)を付与するために様々な検討がなされており(特許文献5、特許文献6)、当該特許文献において5.0×10−4〜1.0×10−3Ωcm程度の比抵抗を達成した酸化亜鉛系薄膜が開示されている。さらに、導電性以外の特性を付与できるとして、酸化亜鉛膜に適量のGaをドープして結晶性を調節したGZO膜を形成し、優れた耐熱性を示し、比抵抗が5.0×10−3Ωcm以下のGZO膜が開示されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−167827号公報
【特許文献2】特開2008−285760号公報
【特許文献3】特開2007−238375号公報
【特許文献4】特開平8−074033号公報
【特許文献5】特開2007−163995号公報
【特許文献6】特開2009−199986号公報
【特許文献7】特開平6−187833号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本学術振興会 透明酸化物光・電子材料第166委員会編、透明導電膜の技術 改訂2版(2006) 頁184〜193、278〜284
【非特許文献2】E. Nishimura, et al., Japanese Journal of Applied Physics, 46 (2007) pp. 7806-7811.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
表示デバイスや太陽電池等の電極部材として用いられる透明導電性薄膜は、用途によって要求される導電性が異なるが、通常、AZO膜やGZO膜等の酸化亜鉛系薄膜は、5.0×10−3Ωcm以下の比抵抗を示す導電性、及び2.0nm程度の薄膜表面の算術平均粗さを示す表面平滑性を有していれば、好適に上記電極部材として利用できる。
【0009】
前述した酸化亜鉛系薄膜は上記の導電性及び表面平滑性を発揮せしめるものであるが、一方で該酸化亜鉛系薄膜は、スパッタリング法などを用いて形成すると、容易に結晶化度の高い薄膜(例えばX線回折法により検出される酸化亜鉛の(002)面の回折線のうち、回折角2θが33.00°≦2θ≦35.00°である回折線の強度Iが1000cpsを超える)が得られる。結晶化度の高い薄膜は表面平滑性が悪化することがあり、また結晶化度が高くなるほど、パターニング等の加工が施し難くなり加工性が悪くなるという問題があった。
【0010】
かくして、本発明は良好な導電性と表面平滑性、加工性を併せ持つ酸化亜鉛系の透明導電膜を得ることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は基材上に形成される透明導電性積層膜であり、該透明導電性積層膜は、周期表第III族又は第IV族の元素の化合物を含む下地膜と、該下地膜上に形成される酸化亜鉛を含む導電膜とを含むものであり、該導電膜は、CuKα線を用いたX線回折法により検出される酸化亜鉛の(002)面の回折線のうち、回折角2θが33.00°≦2θ≦35.00°である回折線の強度Iが1000(cps)以下であり、該強度Iと該導電膜の膜厚tとのI/tが0〜15.0(cps/nm)であることを特徴とする透明導電性積層膜である。
【0012】
上記のI/tは単位膜厚あたりの結晶化度を示しており、Iが1000cpsを越え、I/tが15.0cps/nmを超える薄膜は結晶化度が高く本発明には適さない。
【0013】
また本発明の前記導電膜は、酸化亜鉛に対して酸化アルミニウム又は酸化ガリウムを0.1〜20wt%含むことを特徴とする。酸化アルミニウム又は酸化ガリウムが0.1wt%未満、又は20wt%を超える場合、透明導電性積層膜は十分な導電性を示さないことがある。
【0014】
また本発明の前記導電膜は、膜厚が45〜500nmであることを特徴とする。膜厚が45nm未満の場合、十分な導電性を得ることができず、膜厚が500nmを超える場合、膜の残留応力に起因したクラックや剥離が生じる恐れがある。
【0015】
また本発明の前記下地膜は、Si、Sn、及びAlからなる群より選ばれる少なくとも1つの酸化物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ディスプレイ等の表示デバイスや太陽電池等の電極部材として用いられる透明導電性薄膜として良好な導電性と表面平滑性とを維持しながら、成膜後のパターニング加工が容易な低い結晶化度を有する、加工性に優れた透明導電性積層膜である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】マグネトロンスパッタリング装置の概略図。
【図2】透明導電性積層膜の断面概略図。
【図3】AZO膜の断面概略図。
【図4】実施例1、実施例2の透明導電性積層膜のX線回折図。
【図5】実施例4、実施例5の透明導電性積層膜のX線回折図。
【図6】実施例7、実施例8の透明導電性積層膜のX線回折図。
【図7】実施例10、実施例11の透明導電性積層膜のX線回折図。
【図8】比較例1、比較例2の透明導電性膜のX線回折図。
【図9】実施例3、実施例6、実施例9、実施例12の透明導電性積層膜、及び比較例3の透明導電性膜のX線回折図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、基材上に周期表第III族又は第IV族の元素の化合物を含む下地膜と、該下地膜上に形成される酸化亜鉛を含む導電膜とを有する透明導電性積層膜である。該透明導電性積層膜は、通常スパッタリング法を用いて形成すると結晶化度が高くなる酸化亜鉛系の薄膜である導電膜を、前記の下地膜上に形成することにより、結晶化度を低くせしめたものである。
【0019】
すなわち本発明の透明導電性積層膜の導電膜は、CuKα線を用いたX線回折法により検出される酸化亜鉛の(002)面の回折線のうち、回折角2θが33.00°≦2θ≦35.00°である回折線の強度Iが1000(cps)以下であり、単位膜厚当たりの回折強度(I/t)が0〜15.0(cps/nm)である。また、より好ましくは700cps以下としても差し支えない。
【0020】
前記の下地膜は基材上に直接形成されるものでも、基材と該下地膜との間に任意の第3の薄膜が形成されるものであってもよい。また、導電膜は良好な表面平滑性を示すものであることから、該導電膜の上層に他の薄膜が形成されてもよい。
【0021】
本発明の透明導電性積層膜は、前記導電膜の比抵抗ρが5×10−3以下となるのが好ましい。ρが5×10−3を超える場合、電極としての機能が劣ることがある。
【0022】
本発明の透明導電性積層膜は、Hall効果測定により測定されるHall移動度の値が0.1cm/Vsec以上であることが好ましい。Hall移動度が0.1を下回る場合、十分な電気伝導性を得ることができない。
【0023】
本発明の透明導電性積層膜は、前記導電膜の表面の算術平均粗さの値を、3.0nm以下とするのが好ましい。
【0024】
本発明の透明導電性積層膜の好適な実施形態として、SiO膜、SnO膜、Al膜を下地膜として用いることが好適である。
【0025】
前記下地膜の膜厚は特に限定されるものではない。該下地膜の上に形成される導電膜の結晶化度を低くすることが可能であり、また、薄膜にクラック等の欠陥が生じない程度であれば良く、好ましくは1〜500nm程度であるとしても差し支えない。
【0026】
基材にはガラス板や樹脂等を用いることが可能であるが、ディスプレイパネルを形成する場合、製造工程で加熱されるため、ガラス板を用いるのが好ましい。ガラス板のガラスの例としては、石英ガラスや、建築用や車両用、ディスプレイ用に使用されているソーダ石灰ケイ酸塩ガラスからなるフロート板ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸塩ガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス、低膨張結晶化ガラス、ゼロ膨張結晶化ガラス、TFT用ガラス、PDP用ガラス、光学フィルム用基板ガラス等が挙げられる。あるいは、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂、ポリエチレン樹脂等の非晶質の樹脂も用いることができる。
【0027】
本発明の透明導電性積層膜は、蒸着プロセスを用いて形成されることが好ましい。蒸着プロセスには、スパッタリング、電子ビーム蒸着、イオンビームデポジション、イオンプレーティングなどを用いても良いが、均一性を確保しやすいスパッタリングが好適である。
【0028】
スパッタリング法で形成する場合、薄膜原料として用いるターゲットや導入ガスは適宜選択されれば良いが、前記の導電膜を形成する際には、連続生産時に安定した品質の膜を得ることができる酸化物ターゲットを用いるのが好ましい。プラズマ発生源には直流電源、交流電源、又は交流と直流を重畳した電源、いずれの電源も好適に用いられるが、交流と直流を重畳した電源は、連続生産性に優れており好適に用いられる。
【0029】
本発明の透明導電性積層膜の製造方法の好適な実施形態の一つは、スパッタリング法を用いて前記Snの酸化膜からなる下地膜を形成する際に、Snを含むターゲットをスパッタリングターゲットとして用い、真空チャンバー内に酸素を含むガスを導入し、圧力を1.5Pa以上、5.0Pa以下にに保持するものである。
【0030】
本発明者らの検討により、下地膜としてSnOを用いる際、成膜時の圧力を1.5Pa以上に維持することにより、該下地膜上に形成される導電膜の結晶化度がさらに低下することが明らかとなった。また、5.0Paを超えると導電膜の均一性が失われることがある。
【実施例】
【0031】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【0032】
実施例1
図2に示すように、基材1としてガラス板を用いその上に、下地膜11としてSiO膜を形成し、引き続いてAZO膜12を積層し、透明導電性積層膜を作製した。ガラス板は厚さ3mmのソーダライムガラスを用いた。透明導電性積層膜は図1に示すマグネトロンスパッタリング装置を用いて作製した。
【0033】
まず、マグネトロンスパッタリング装置の真空チャンバー3内に、裏側にマグネット7が配置されたSiターゲット8を取り付け、ガラス板1を基板ホルダー2に保持させた後、真空チャンバー3内を真空ポンプ4によって排気した。
【0034】
次に、ガス導入管5より該真空チャンバー3内に酸素ガスを導入し、該真空チャンバー3と該真空ポンプ4の間に設置された排気バルブ6の開度を制御して圧力を0.5Paに保持しながら、前記Siターゲット8へ電源ケーブル9を通じて約100Wの電力を印加し、下地膜として膜厚が30nmのSiO膜を得た。なお、このとき電源10にはパルスを重畳した直流電源を用いた。
【0035】
次に、前記の下地膜の上にAZO膜を、真空を維持したまま連続して成膜した。ターゲット8にはAZOターゲット(Al=2wt%)を用いて、真空チャンバー3内の雰囲気ガスは、ガス導入管5よりアルゴンガスを導入し、圧力は、排気バルブ6を制御して0.5Paに調節した。
【0036】
AZOターゲット8へ電源ケーブル9を通じて電源10より投入する電力は100Wとし、膜厚が50nmのAZO膜を得て透明導電性積層膜とした。
【0037】
実施例2、3
AZO膜の膜厚を100nm(実施例2)、150nm(実施例3)とした以外は、実施例1と同様の方法で透明導電性積層膜を得た。
【0038】
実施例4
図2に示すように、基材1としてガラス板を用いその上に、下地膜11としてSnO膜を形成し、引き続いてAZO膜12を積層し、透明導電性積層膜を作製した。ターゲット8にSnターゲットを使用した以外は、実施例1と同様の方法で透明導電性積層膜を得た。
【0039】
実施例5、6
AZO膜の膜厚を100nm(実施例5)、150nm(実施例6)とした以外は、実施例4と同様の方法で透明導電性積層膜を得た。
【0040】
実施例7
図2に示すように、基材1としてガラス板を用いその上に、下地膜11としてAl膜を形成し、引き続いてAZO膜12を積層し、透明導電性積層膜を作製した。ターゲット8にAlターゲットを使用した以外は、実施例1と同様の方法で透明導電性積層膜を得た。
【0041】
実施例8、9
AZO膜の膜厚を100nm(実施例8)、150nm(実施例9)とした以外は、実施例7と同様の方法で透明導電性積層膜を得た。
【0042】
実施例10
図2に示すように、基材1としてガラス板を用いその上に、下地膜11としてSnO膜を形成し、引き続いてAZO膜12を積層し、透明導電性積層膜を作製した。ターゲット8にSnターゲットを使用し、該SnO膜を形成する際の真空チャンバー3内の圧力を3.0Paとした以外は、実施例1と同様の方法で透明導電性積層膜を得た。
【0043】
実施例11、12
AZO膜の膜厚を100nm(実施例11)、150nm(実施例12)とした以外は、実施例4と同様の方法で透明導電性積層膜を得た。
【0044】
比較例1
図3に示すように、基材1としてガラス板を用いその上に、AZO膜12を形成し、透明導電性膜を作製した。ガラス板は厚さ3mmのソーダライムガラスを用いた。透明導電性膜は図1に示すマグネトロンスパッタリング装置を用いて作製した。
【0045】
まず、マグネトロンスパッタリング装置の真空チャンバー3内に、裏側にマグネット7が配置されたAZOターゲット(Al=2wt%)8を取り付け、基材1を基板ホルダー2に保持させた後、真空チャンバー3内を真空ポンプ4によって排気した。
【0046】
次に、ガス導入管5より該真空チャンバー3内にアルゴンガスを導入し、該真空チャンバー3と該真空ポンプ4の間に設置された排気バルブ6の開度を制御して該真空チャンバー3内の圧力を0.5Paに保持しながら、前記AZOターゲット8へ電源ケーブル9を通じて約100Wの電力を印加し膜厚が50nmのAZO膜を得た。なお、このとき電源10には直流電源を用いた。
【0047】
比較例2、3
AZO膜の膜厚を100nm(比較例2)、150nm(比較例3)とした以外は、比較例1と同様の方法で透明導電性膜を得た。
【0048】
(電気特性の評価)
ホール効果測定装置(Bio−Rad社製HL5500PC)を用いて薄膜のHall移動度(cm/V・sec)、表面抵抗Rs(Ω/□)を測定した。膜厚tと表面抵抗Rsの積(t×Rs×10−7)から薄膜の比抵抗ρ(Ωcm)を算出した。
【0049】
(表面粗さの評価)
薄膜表面の表面粗さ(ここでは算術平均粗さと同意、以下Raと記述することがある)は、走査型プローブ顕微鏡(島津製作所製SPM−9600)を用いて、1μ四方の表面形状を分析し、該装置に付随した汎用プログラムによって求めた。
【0050】
(結晶構造の評価)
CuKα線を用いたX線回折測定により測定される酸化亜鉛(200)面による回折線の強度Iを、X線回折測定装置(リガク製、RINT−UltimaIII)に付随した汎用プログラム(JADE6)によって求めた。なお、測定にはX線源出力1.6kW(菅電流40mA、菅電圧40kV)を用い、X線を多層膜ミラーを介して平行ビーム化し、X線源と検出器とを試料を中心として対称走査する粉末X線回折測定を行った。
【0051】
得られた電気特性、表面粗さ、X線回折強度を表1、X線回折線のピークプロファイルを図4〜図9に示した。
【表1】

【0052】
実施例1〜実施例12、比較例1〜比較例3は、いずれも比抵抗ρが5×10−4Ωcm以下の好適な導電性を示し、またRaが3nm以下であり、良好な表面平滑性を示した。さらに、実施例1〜実施例12のX線回折強度Iはいずれも700cps以下であり、単位膜厚当たりの結晶化度I/tも15.0cps/nm以下となり、結晶化度が低い透明導電性積層膜であることが明らかとなった。しかしながら、比較例1〜比較例3のX線回折強度Iは1000cps以上であり、特に比較例1及び比較例2はI/tの値が20cps/nm以上となることから、結晶化度が高い透明導電性膜であることがわかった。
【0053】
前述したように、結晶化度の低い膜はパターニング等の加工性が高いと考えられるため、従来の透明導電性膜より実施例1〜実施例12はパターニング加工性が優れたものであると推察される。
【0054】
また、結晶化度が高いことに起因して膜の内部応力は高くなることがあり(非特許文献2)、高い内部応力に起因したクラックや剥離が生じる可能性が高い。実施例1〜実施例12は内部応力が低いことから、従来の透明導電性膜よりも剥離やクラックを生じ難く、耐久性に優れたものであると推察される。
【0055】
また、一般的にAZO膜は結晶化度が低くなるに従ってHall移動度が減少するものであるが、本発明の透明導電性積層膜はIやI/tが異なる実施例と比較例とを比較しても、そのHall移動度に大きな差を生じないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の透明導電性積層膜は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイやエレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどの表示デバイスや太陽電池などの電極部材として好適に用いることが可能な透明導電性積層膜である。
【符号の説明】
【0057】
1 基材
2 基板ホルダー
3 真空チャンバー
4 真空ポンプ
5 ガス導入管
6 排気バルブ
7 マグネット
8 ターゲット
9 電源ケーブル
10 電源
11 下地膜
12 AZO膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成される透明導電性積層膜であり、該透明導電性積層膜は、周期表第III族又は第IV族の元素の化合物を含む下地膜と、該下地膜上に形成される酸化亜鉛を含む導電膜とを含むものであり、該導電膜は、CuKα線を用いたX線回折法により検出される酸化亜鉛の(002)面の回折線のうち、回折角2θが33.00°≦2θ≦35.00°である回折線の強度Iが1000(cps)以下であり、該強度Iと該導電膜の膜厚tとのI/tが0〜15.0(cps/nm)であることを特徴とする透明導電性積層膜。
【請求項2】
前記導電膜は、酸化亜鉛に対して酸化アルミニウム又は酸化ガリウムを0.1〜20wt%含むことを特徴とする請求項1に記載の透明導電性積層膜。
【請求項3】
前記導電膜は、膜厚が45〜500nmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の透明導電性積層膜。
【請求項4】
前記下地膜は、Si、Sn、及びAlからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属の酸化物を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の透明導電性積層膜。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の透明導電性積層膜を形成する透明導電性積層膜の製造方法であって、スパッタリング方法により、Snの酸化物よりなる下地膜を形成する際に、ターゲットとしてSnを含むターゲットを用いて、真空チャンバー内に酸素を含むガスを導入し、成膜時の圧力を1.5Pa以上に保持して下地膜を形成することを特徴とする透明導電性積層膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−119113(P2012−119113A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266082(P2010−266082)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】