説明

透明導電膜の製造方法

【課題】 大面積の透明導電膜を大量生産する為には、製膜温度をなるべく室温に近い状態にすることが重要であったが、低温では透明導電層の結晶性が悪く透過率に課題があるため、大量生産は困難であった。
【解決手段】 室温付近でも結晶性が優れる酸化亜鉛を透明導電層材料とし、マグネトロンスパッタ法により大面積に均一に製膜することで、透明性に優れた透明導電膜を大量生産することが可能となる。また、ロールトゥロール方式においても、高品質な透明導電膜を大量に生産することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてタッチパネルやPDP、LCDやエレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ材料、太陽電池、表面弾性波素子、赤外線カットなどを目的とした窓ガラスコーティング、ガスセンサー、非線形光学を活用したプリズムシート、透明磁性体、光学記録素子、光スイッチ、光導波路、光スプリッタ、光音響材料への活用、高温発熱ヒーター材料において、高い光線透過率を達成し、且つ大面積での大量生産が可能な透明導電膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルやディスプレイ材料、太陽電池などに使用される透明導電膜は、その透明導電層として酸化インジウム錫(ITO)や酸化錫、酸化亜鉛などが広く使用されている。このような透明導電層はマグネトロンスパッタ法やモレキュラービームエピタキシー法などの物理気相堆積法(PVD法)や熱CVDやプラズマCVDなどの化学気相堆積法(CVD法)などにより形成されるほか、無電解めっき法により形成される方法が知られている。中でもインジウム−錫複合酸化物(ITO)は透明導電材料として非常に優れた材料であり、現在広く透明導電層に使用されている。しかしながら、近年、太陽電池や薄型テレビなどの大量生産が進み原料のインジウムの減少、およびそれに伴って原料費が向上する可能性があり、資源的にもコスト的にもITOに替わる材料の探索が急務となっている。ITOに替わる材料としては酸化亜鉛(ZnO)が代表として挙げられる。ZnOはITOと比較して透明性に優れる反面、水分や熱に対する安定性に劣ることが非特許文献1に記載されている。
【0003】
透明導電膜をタッチパネル用途に使用する場合、用途の性質上から耐衝撃性が必要である場合が多く、特許文献1〜3に透明導電膜上に被覆層を形成することで、耐衝撃性が向上すると述べられているが、記載されている窒化物や酸化物などは、水分や熱に対する安定性に優れる可能性があるが、導電性に課題が残る。一方カーボン材料は、一部導電性に優れるものもあるが、記載されているカーボン膜では上記の水分や熱に対する安定性には効果がない。
【0004】
このようなタッチパネル用途のみならず、透明導電膜の重要な要素としては、「透明性」「物理的耐久性」「特に水分や熱に対する特性の化学的耐久性」「導電性」が考えられるが、現在主流となっているITO以上にすぐれた材料は実用化に至っていない。
【非特許文献1】透明導電膜、6ページより(シーエムシー出版)
【特許文献1】特開2001−283643号公報
【特許文献2】特開2003−34860号公報
【特許文献3】特開2003−109434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、特に太陽電池や薄型テレビでは大面積化が進み、同時に大量生産による生産量の確保が重要な課題となっている。
【0006】
上記技術分野に記載される透明導電膜は、少なくとも可視光領域において透明であることが必要である。現在透明導電層として広く使用されている酸化物透明導電層は結晶状態では良好な透明性を示すことが知られているが、例えばITOでは良好な結晶状態を得るためには150℃以上で製膜または製膜後のアニール処理をする必要があり、基板の事前加熱またはアニールに時間や工程数を費やしている。これに対し、酸化亜鉛は室温付近でも良好な結晶状態を示すため、加熱処理などが不要となり、大量生産に適した透明導電層材料である。さらに、加熱処理に耐えられない熱可塑性樹脂フィルムなどにも良好な透明導電層を形成可能なことから、次世代の透明導電層材料として有望である。しかし、酸化亜鉛透明導電層は大気中に放置すると、導電性が著しく低下するという課題がある。特許文献4には3価の金属カチオンを含有する水溶液で処理することで上記課題を抑えるという技術が記載されているが、水溶液塗布後の乾燥工程などあり、大量生産が困難であることが予想される他、大面積化に対応可能かどうかの課題も残る。本発明には水素を含有するスパッタによって形成されるカーボン膜による酸化亜鉛の表面被覆である点に特徴がある。カーボン膜をスパッタを用いて被覆する報告については上記特許文献1〜3に記載されている内容があるが、酸化亜鉛透明導電膜で最も重要な課題の一つである「水分や熱に対する特性の安定性」には効果がない。
【特許文献4】特開2001−39712号公報
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する為に本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、酸化亜鉛透明導電層および硬質炭素膜を室温付近の基板温度で気相堆積法により製膜することで、大量生産に適した大面積の透明導電膜が製造可能であることを見出した。
【0008】
すなわち本願発明は、透明基板上に少なくとも1層からなる、酸化亜鉛を主成分とする透明導電層、さらにその上に構造中に水素を含有するダイヤモンドライクカーボン膜からなる透明導電膜であり、かつ該透明導電膜の550nmの波長での光線透過率が85%である透明導電膜の製造方法において、上記ダイヤモンドライクカーボン膜がターゲット材料としてカーボンを用い、キャリアガスとして水素を75〜100体積%、メタン・アルゴンから少なくとも1種類以上選択されたガスを25体積%以下含むガスを使用し、電力密度が0.05〜5.00W/cmの範囲から選択される電力を印加するDCマグネトロンスパッタ法によって形成されることを特徴とする透明導電膜の製造方法。(1)。上記透明導電層及びダイヤモンドライクカーボン膜が、基板温度20℃以上120℃以下で製膜されることを特徴とする透明導電膜の製造方法(2)。透明導電膜形成直後の表面抵抗と、85℃/85%RH環境下で1週間放置した後の表面抵抗の比が0.5〜1.5であることを特徴とする透明導電膜の製造方法(3)。に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本願発明により、室温付近での連続製膜による透明導電膜の製造が可能となる。また気相堆積法により大面積に均一に透明導電層の製膜が可能となる。これらの結果、大面積の透明導電膜を大量生産可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本願発明は「透明基板上に少なくとも1層からなる酸化亜鉛を主成分とする透明導電層、さらにその上に構造中に水素を含むダイヤモンドライクカーボン膜からなる透明導電膜の製造方法において、透明導電層・硬質炭素膜が各々気相堆積法により形成されることを特徴とする透明導電膜の製造方法」に関するものである。
【0011】
透明導電層に用いられる、ITOに代表される透明金属酸化物は、結晶性が良いものほど高い透過率や高い導電性が期待できるが、ITOでは結晶性を上げるための温度が、フィルム透明基板に用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上であることが場合多く、結晶性の良いITO膜を得ることは困難である。一方で、酸化亜鉛は室温付近でも結晶性の良い薄膜を形成可能であることから、ガラス基板でのインライン生産やフィルム基板でのロールトゥロール方式生産など多くの生産方式で。生産速度を上げることが可能であると期待される。
【0012】
さらに、結晶性の良い透明導電層は、タッチパネルのように接触電極として使用される際の耐久性に優れることが期待される。
【0013】
一般的に、ダイヤモンドライクカーボン膜は、表面の摩擦低下を目的としてコーティングされている。また食品用途としては、非特許文献2など多くの文献で紹介されているように、ペットボトルのガスバリア材料として使用可能であることが広く知られている。
【非特許文献2】人造ダイヤモンド技術ハンドブック(サイエンスフォーラム社、134ページ) 以下、本願発明に係る透明導電膜の代表的な態様を説明する。図1は、本発明に係る透明導電膜の断面説明図である。この透明導電膜は厚さ0.05〜1mmの透明基板1上に、酸化亜鉛を主成分とする透明導電層2が設けられる。ダイヤモンドライクカーボン膜3は透明導電層2の表面に被覆される。
【0014】
上記透明基板1については、少なくとも可視光領域で無色透明であり透明導電層を形成可能なものであり、透明基板のガラス転移温度が酸化亜鉛生成反応温度である125℃以上であれば、硬質または軟質な材料に限定されずに使用することができる。硬質な材料であれば、例えばソーダガラスやホウ珪酸ガラスなどのガラス基板やサファイヤ基板、セラミックや硬質プラスチックなどが挙げられる。軟質な材料であれば、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフテレート(PBT)やポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルフィルムやシクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0015】
上記透明基板1には、透明導電層の付着性を向上させる目的で表面処理を施すことができる。表面処理としては、例えばカップリング剤による処理や、接着剤を薄膜コーティングする処理などが挙げられる。処理方法については、透明基板表面を均一に処理可能な方法であれば公知の方法で実施することができる。例えば、スプレー塗布やディッピングによる塗布、ロールコートやスピンコート法などの手法や、CVD法などによる手段が挙げられる。また、プラスチック基板やプラスチックフィルムを透明基板として使用する場合、透湿性が高いために酸化亜鉛透明導電膜が劣化する可能性があるので、透明基板上にバリア層を設けることでより高品質な透明導電膜を得ることができる。バリア層材料は、一般的に用いられている二酸化珪素などでも十分な効果を得ることが可能である。
【0016】
さらに、本発明をディスプレイ材料や太陽電池などの光学素子に使用する場合、透明基板1には用途により光閉じ込め効果や光取り出し効果、反射防止効果などを目的とした表面処理を施すことができる。処理は微粒子を透明基板上に均一に分散させる方法や、型を用いて透明基板上に凹凸部を形成する方法などが挙げられる。
【0017】
さらに上記透明基板1の両面または片面に、ガスバリア性の付与を目的とした(ガスバリア)層を設けることができる。前記(ガスバリア)層としては、無機化合物が薄膜で効果を得やすく、例えば酸化珪素や窒化珪素およびその混合物、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム、弗化マグネシウムや硬質炭素膜などの化合物を1種類または複数種類を任意に選択することができる。これらの層の形成方法としては、液相堆積法(塗布法)や気相堆積法があり、どの方法も使用可能であるが、均一な薄膜を形成する手段として気相堆積法が好ましい。
【0018】
本発明における透明導電層2には透明導電酸化物の中でも、透明性の高さと硬質炭素膜の製膜時に発生する水素プラズマに対して還元反応が起こらないという点から酸化亜鉛が用いられる。上記透明導電酸化物には抵抗制御や安定性を目的としてドーピング剤を添加することができる。ドーピング剤としては例えば、アルミニウムやホウ素を含む化合物やリン、窒素を含む化合物などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0019】
透明導電層の形成方法としては、気相堆積法が適している。その他の透明導電層の形成方法としてはゾル−ゲル液の塗布および焼成や、有機金属化合物の塗布および焼成などがあるが、大面積に均一に製膜可能である点と、大量生産に適している点から気相堆積法が好ましい。
気相堆積法で透明導電層を形成する場合、透明基板の温度は、生産性の観点から20℃〜120℃が好ましく、さらに好ましくは20℃〜80℃程度が好ましい。製膜時の基板温度を低く設定することで、製膜前の基板の温度上昇を待つ時間を削除することができ、連続運転による大量生産が可能となる。特にフィルム基板上にロールトゥロール方式で製膜する場合、常時基板が動き続けるので基板の温度上昇が困難であることからも、基板温度は低めに設定することが好ましい。
透明導電層の形成には必要に応じてプラズマ放電を利用することができる。電力の供給方式はDC方式やRF方式またはVHF方式など任意の方式を利用できる。電力密度については特に制限はないが、生産性や結晶性の観点から0.1W/cm〜5W/cmが好ましい。低すぎる場合には製膜されない可能性がある。高すぎる場合には透明基板へのダメージや装置へのダメージが懸念される。透明導電層の形成に使用するキャリアガスは一般的な気相堆積法に使用されるガスを使用することができる。例えばアルゴンや水素、酸素や窒素ガスを使用することができる。
【0020】
上記ダイヤモンドライクカーボン膜3は、酸化亜鉛透明導電膜の空気や水分に対する保護や透明導電層表面の物理的衝撃に対する耐久性向上を目的として使用される。ダイヤモンドライクカーボン膜3にはダイヤモンドライクカーボンは、炭素原子のsp平面構造(グラファイト構造)とsp四面体構造(ダイヤモンド構造)が混在した非晶質炭素である。本発明に好ましく利用されるダイヤモンドライクカーボン膜は、構造中に水素を含むハイドロカーボンが好ましく、物理的強度や透明性の観点から、アモルファスハイドロカーボンやテトラヘドラルアモルファスハイドロカーボンがより好ましく使用される。
【0021】
ダイヤモンドライクカーボンの製造方法としては、CVD法やイオン蒸着法などが挙げられるが、フィルム基板をロールトゥロール方式で製膜する場合などに有効である等の理由からスパッタ製膜が好ましい。ターゲット材料としてはカーボンが利用される。スパッタの電力の供給方式はDC方式やRF方式またはVHF方式など任意の方式が挙げられるが、DC方式が好ましい。DC方式が好ましい理由は諸説考えられるが、形成されるダイヤモンドライクカーボン膜の構造が異なることが最も大きな理由だと考えられる。RF方式やVHF方式によるスパッタでは、本発明に好ましい非晶質炭素のダイヤモンドライクカーボン膜を得ることはできない。
【0022】
電力密度については特に制限はないが、生産性や分子構造の観点から0.05W/cm〜5.00W/cmが好ましい。電力密度が低い場合、製膜速度が遅くなり生産性に悪影響を及ぼす可能性がある。逆に電力密度が高くなりすぎると、ダイヤモンドライクカーボン中のsp構造の割合が多くなりやすく、光線透過率や耐久性に劣ることや、基板側の透明導電層を逆スパッタすることで透明導電層が失われる可能性があるため好ましくない。
【0023】
使用するキャリアガスには水素を必須成分として、必要に応じてメタンやアルゴンを添加することができる。水素の割合は75体積%〜100体積%が分子構造の観点から好ましい。水素が少なすぎる場合には、ダイヤモンドライクカーボン中のsp構造形成が促進されず、sp構造の割合が多くなり、光線透過率や耐久性に劣る。メタンは、カーボン膜の屈折率制御の目的で添加され、光学制御に有効な手段として使用できる。メタンは0〜25体積%添加することができ、これ以上添加すると、本発明に必要な、高温高湿環境に対する耐久性が低下するため好ましくない。アルゴンはカーボン膜の導電性を制御する目的で添加される。アルゴンは0〜25体積%添加することができ、これ以上添加すると、本発明に必要な、高温高湿環境に対する耐久性が低下するため好ましくない。
【0024】
ダイヤモンドライクカーボン膜を製膜する際の透明基板の温度は、生産性の観点から20℃〜120℃が好ましく、さらに好ましくは20℃〜80℃程度が好ましい。製膜時の基板温度を低く設定することで、製膜前の基板の温度上昇を待つ時間を削除することができ、連続運転による大量生産が可能となる。特にフィルム基板上にロールトゥロール方式で製膜する場合、常時基板が動き続けるので基板の温度上昇が困難であることからも、基板温度は低めに設定することが好ましい。
【0025】
透明導電層とダイヤモンドライクカーボン膜の膜厚は使用する用途により異なるが、「(A)透明導電層の膜厚が500Å以上2000Å以下であり、且つダイヤモンドライクカーボン膜の膜厚が10Å以上500Å以下である」または「(B)透明導電層の膜厚が50Å以上500Å以下であり、且つダイヤモンドライクカーボン膜の膜厚が100Å以上5000Å以下」であることが好ましい。上記(A)では、比較的低抵抗な領域で使用されるものであり、酸化亜鉛透明導電層で得られる導電性を損なわないために、低導電性であるダイヤモンドライクカーボン膜の膜厚を上記範囲にすることが好ましい。(B)では、高抵抗な領域で使用されるものであり、水分や空気に対して極めて不安定な酸化亜鉛透明導電層の保護にために厚膜のダイヤモンドライクカーボン膜を設けるために上記範囲にすることが好ましい。
透明導電膜の表面抵抗は、JISK7194に記載されている四探針圧接測定で測定した。表面抵抗の値は、使用するアイテムに必要とされる特性により異なるが、5〜2000Ω/□が好ましい。これ以上大きい表面抵抗では、透明導電層の膜厚が薄過ぎ、透明導電膜の表面抵抗が安定にならず、特に高温高湿環境下に放置すると表面抵抗が容易に上昇する。逆にこれ以上小さい表面抵抗では、透明導電層の膜厚が大きくなり、その応力により透明導電層が割れやすくなることや、また透過率の低下やコスト面での課題が発生する。550nmの波長での光線透過率は、JISK7105に記載されている積分球式光線透過率測定装置を用いて測定した。表面抵抗および透過率の測定には、三菱化学(株)製抵抗率測定器「ロレスタGP MCP−T610」および(株)日立ハイテクノロジーズ「分光光度計U−4000」を使用した。
上記の透明導電膜の製造方法について説明する。透明導電膜の製造方法は、上記に説明した気相堆積法に対応した設備であれば特に限定されない。ガラス基板のような硬質基板を用いる場合は、枚葉式やバッチ式などの手法があり、設備の大きさや生産量にあわせて任意に選択することができる。フィルム基板のようなフレキシブル基板を用いる場合は、ある程度の大きさに切断したフィルムを硬質基板上に貼り付けて枚葉式やバッチ式の装置で生産する手法の他に、ロールトゥロール方式で連続生産する手法もあり、容易に大量生産が可能となる。いずれの手法においても、製膜温度を室温付近に設定することで、基板の予備過熱の必要がなく、透明導電膜を大量生産することが可能となる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
無アルカリガラス(商品名OA−10、膜厚700μm、日本電気硝子社製)に、酸化亜鉛をスパッタ製膜した。製膜条件は、基板温度を30℃、キャリアガスとしてアルゴンガスを20sccm使用し、8Paの圧力で電力密度2.5W/cmのDCパワーをかけ、5分間製膜することで、500Åの酸化亜鉛透明導電層を作製した。さらにその上にダイヤモンドライクカーボン膜をスパッタ製膜した。製膜条件は、基板温度を30℃、カーボンターゲットを用い、水素ガス10sccm使用し、8Paの圧力で電力密度0.15W/cmのDCパワーをかけ、60分間製膜することで、100Åのダイヤモンドライクカーボン膜を作製した。このようにして作製した透明導電膜の表面抵抗は350Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は88%であった。この透明導電膜を85℃/85%RH環境で1週間放置したところ、表面抵抗は360Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は88%であった。
【0028】
(実施例2)
ポリシクロオレフィンフィルム(商品名ゼオノアフィルムZF−14、日本ゼオン社製)に、酸化亜鉛をスパッタ製膜した。製膜には巻き取り式スパッタ装置を使用した(装置名SPW−050S、アルバック社製)。製膜条件は、基板温度を30℃、キャリアガスとしてアルゴンガスを200sccm使用し、8Paの圧力で電力密度2.5W/cmのDCパワーをかけ、0.1m/sの巻き取り速度で走査し、500Åの酸化亜鉛透明導電層を作製した。さらに連続して、その上にダイヤモンドライクカーボン膜をスパッタ製膜した。製膜条件は、基板温度を30℃、カーボンターゲットを用い、水素ガス100sccm使用し、8Paの圧力で0.15W/cmのDCパワーをかけ、0.1m/sの巻き取り速度で走査し、200Åのダイヤモンドライクカーボン膜を作製した。このようにして作製した透明導電膜の表面抵抗は320Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は87%であった。この透明導電膜を85℃/85%RH環境で1週間放置したところ、表面抵抗は400Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は87%であった。
【0029】
(実施例3)
ダイヤモンドライクカーボン膜製膜時の電力密度を0.05W/cmとし、製膜時間を20分間とする以外は、実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。このようにして作製した透明導電膜の表面抵抗は350Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は88%であった。この透明導電膜を85℃/85%RH環境で1週間放置したところ、表面抵抗は360Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は88%であった。
【0030】
(実施例4)
ダイヤモンドライクカーボン膜製膜時の電力密度を5.00W/cmとし、製膜時間を5分間とする以外は、実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。このようにして作製した透明導電膜の表面抵抗は350Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は88%であった。この透明導電膜を85℃/85%RH環境で1週間放置したところ、表面抵抗は360Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は88%であった。
【0031】
(実施例5)
ダイヤモンドライクカーボン膜製膜時のキャリアガスを水素7.5sccm、アルゴン2.5sccmとした以外は、実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。このようにして作製した透明導電膜の表面抵抗は330Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は86%であった。この透明導電膜を85℃/85%RH環境で1週間放置したところ、表面抵抗は380Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は86%であった。
【0032】
(実施例6)
ダイヤモンドライクカーボン膜製膜時のキャリアガスを水素7.5sccm、メタン2.5sccmとした以外は、実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。このようにして作製した透明導電膜の表面抵抗は320Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は86%であった。この透明導電膜を85℃/85%RH環境で1週間放置したところ、表面抵抗は380Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は86%であった。
【0033】
(比較例1)
無アルカリガラス(商品名OA−10、膜厚700μm、日本電気硝子社製)に、ダイヤモンドライクカーボン膜製膜時の電力密度を6.00W/cmとし、製膜時間を10分間とする以外は、実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。このようにして得られた透明導電膜の表面抵抗は1800Ω/□であり、酸化亜鉛透明導電層がエッチングされており、ダイヤモンドライクカーボン膜は製膜されていなかった。この透明導電膜を85℃/85%RH環境で1週間放置したところ、表面抵抗は10×10Ω/□であった。
【0034】
(比較例2)
無アルカリガラス(商品名OA−10、膜厚700μm、日本電気硝子社製)に、ダイヤモンドライクカーボン膜の製膜条件をDCからRFにする以外は、実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。このようにして得られた透明導電膜の表面抵抗は310Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は85%だった。この透明導電膜を85℃/85%RH環境で1週間放置したところ、表面抵抗は1000Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は87%であった。
【0035】
(比較例3)
無アルカリガラス(商品名OA−10、膜厚700μm、日本電気硝子社製)に、ITOをスパッタリング製膜した。製膜条件は、基板温度を30℃、キャリアガスとしてアルゴンガスを20sccm、8Paの圧力で200WのDCパワーをかけ、8分間製膜することで、500ÅのITO透明導電層を作製した。このようにして作製した透明導電膜の表面抵抗は400Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は80%であった。この透明導電膜を85℃/85%RH環境で1週間放置したところ、表面抵抗は450Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は80%であった。
【0036】
(参考例)
無アルカリガラス(商品名OA−10、厚さ0.7mm、日本電気硝子社製)に、基板温度を200℃にする以外は、比較例1と同様にしてITOを500Åの膜厚で製膜した。このようにして作製した透明導電膜の表面抵抗は200Ω/□であり、550nmの波長での光線透過率は85%であった。
【0037】
参考例のように基板温度をITOの結晶化温度(約150℃程度)以上にすることで550nmの波長での光線透過率を85%とすることが可能であったが、30℃程度の低温でITOを透明導電層として形成すると、550nmの波長での光線透過率を85%にすることはできなかった。一方、形成する透明導電層を酸化亜鉛透明導電層とすることで、透明性にすぐれた透明導電膜を作製することが可能となる。実施例1では、枚葉式またはバッチ式で生産する場合に基板の加熱時間が不要であるので大量生産に適している。また、実施例2のようなロールトゥロール方式においても、高品質な透明導電膜を大量に生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】透明導電膜の断面説明図
【符号の説明】
【0039】
1 透明基板
2 透明導電層
3 ダイヤモンドライクカーボン膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に少なくとも1層からなる、酸化亜鉛を主成分とする透明導電層、さらにその上に構造中に水素を含有するダイヤモンドライクカーボン膜からなる透明導電膜であり、かつ、該透明導電膜の550nmの波長での光線透過率が85%である透明導電膜の製造方法において、上記ダイヤモンドライクカーボン膜がターゲット材料としてカーボンを用い、キャリアガスとして水素を75〜100体積%、メタン・アルゴンから少なくとも1種類以上選択されたガスを25体積%以下含むガスを使用し、電力密度が0.05〜5.00W/cmの範囲から選択される電力を印加するDCマグネトロンスパッタ法によって形成されることを特徴とする透明導電膜の製造方法。
【請求項2】
上記透明導電層及びダイヤモンドライクカーボン膜が、基板温度20℃以上120℃以下で製膜されることを特徴とする、請求項1に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項3】
透明導電膜形成直後の透明導電膜の表面抵抗と、85℃/85%RH環境下で1週間放置した後の透明導電膜の表面抵抗の比が0.5〜1.5であることを特徴とする、請求項1または請求項2のいずれかに記載の透明導電膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−114478(P2009−114478A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286144(P2007−286144)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】