説明

透明導電膜付き基板及びその製造方法

【課題】レアメタルであるインジウムの使用量を削減でき、さらには、高い電気伝導性、十分な耐薬品性を備える透明導電膜付き基板及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】基板の少なくとも一方の面に透明導電膜を備える透明導電膜付き基板であって、該透明導電膜が前記基板側から順に酸化亜鉛からなる第1の薄膜層とスズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層とを備えることを特徴とする透明導電膜付き基板とした。また、基板上に酸化亜鉛からなる第1の薄膜層をマグネトロンスパッタリング法により形成する工程と、該第1の薄膜層上にスズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層をマグネトロンスパッタリング法により形成する工程とを順に備えることを特徴とする透明導電膜付き基板の製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)等の各種ディスプレイや、光学素子、光学センサー、タッチパネル、太陽電池等に使用される透明導電膜付き基板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電膜の代表的なものとしてはスズを含むインジウム酸化物(ITO)が挙げられる。スズを含むインジウム酸化物を用いた透明導電膜は、可視光透過性と高い電気伝導性を兼ね備えた膜として知られており、さらには均一かつ高いウェットエッチング速度を有し良好なパターニング特性を併せ持つ透明導電膜とすることができる。
【0003】
しかしながら、近年のフラットパネルティスプレイ(FPD)の需要拡大にともない、ITOの需要も急激に拡大している。そのため、レアメタルであるインジウムの資源枯渇が懸念され、インジウム価格が高騰しているのにともない、ITOの代替として安価で豊富な資源を主体とする透明導電膜が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−259549号公報
【特許文献2】特開2007−302508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スズを含むインジウム酸化物(ITO)の代替材料としては、資源的に豊富なため安価でありかつ公害をもたらす恐れの少ない物質である酸化亜鉛(ZnO)系の材料が提案されている。ZnO系の透明導電膜としては、様々な金属をドープしたZnOがITOに迫る高い電気伝導性を示すことが報告されている。また、ZnO系の材料は高い可視光透過性を持ち合わせている。
【0006】
しかしながら、酸化亜鉛(ZnO)系の材料からなる透明導電膜にあっては、実用化に向けた課題として、酸・アルカリに弱く耐薬品性が低いといった問題がある。
【0007】
例えば、液晶ディスプレイにおいてRGB等の着色パターンを有するカラーフィルターにあっては、RGBの着色パターン上に透明導電膜が形成され、さらに透明導電膜上に樹脂パターンが形成される。透明導電膜上に樹脂パターンを形成するにあってはフォトリソグラフィー法によりパターンが形成され、現像工程においてアルカリ溶液が使われることが多い。したがって、カラーフィルターに用いる透明道電膜にあっては高い耐アルカリ性が求められる。
【0008】
本発明にあっては、レアメタルであるインジウムの使用量を削減でき、さらには、高い電気伝導性、十分な耐薬品性を備える透明導電膜付き基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明としては、基板の少なくとも一方の面に透明導電膜を備える透明導電膜付き基板であって、該透明導電膜が前記基板側から順に酸化亜鉛からなる第1の薄膜層とスズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層とを備えることを特徴とする透明導電膜付き基板とした。
【0010】
また、請求項2に係る発明としては、前記酸化亜鉛からなる第1の薄膜層が、アルミニウムもしくはガリウムの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1記載の透明導電膜付き基板とした。
【0011】
また、請求項3に係る発明としては、前記スズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層が、結晶化していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の透明導電膜付き基板とした。
【0012】
また、請求項4に係る発明としては、前記スズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層の膜厚が10nm以上100nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の透明導電膜付き基板とした。
【0013】
また、請求項5に係る発明としては、前記透明導電膜付き基板の透明導電膜形成面の比抵抗が1×10−3Ω・cm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の透明導電膜付き基板とした。
【0014】
また、請求項6に係る発明としては、前記スズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層上に樹脂パターンを備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれに記載の透明導電膜付き基板とした。
【0015】
また、請求項7に係る発明としては、前記基板が樹脂層を備え、該樹脂層上に前記第1の薄膜層と前記第2の薄膜層を備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の透明導電膜付き基板とした。
【0016】
また、請求項8に係る発明としては、基板上に酸化亜鉛からなる第1の薄膜層をマグネトロンスパッタリング法により形成する工程と、該第1の薄膜層上にスズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層をマグネトロンスパッタリング法により形成する工程とを順に備えることを特徴とする透明導電膜付き基板の製造方法とした。
【0017】
また、請求項9に係る発明としては、前記酸化亜鉛からなる第1の薄膜層を形成する工程と、スズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層を形成する工程が前記基板を加熱することなくおこなわれ、前記第2の薄膜層を形成する工程の後にアニール工程を備えることを特徴とする請求項8記載の透明導電膜付き基板の製造方法とした。
【0018】
また、請求項10に係る発明としては、前記マグネトロンスパッタリング法による第1の薄膜層の形成工程及び第2の薄膜層の形成工程が、ターゲットに対して平行な磁束密度が500Gauss以上1500Gauss以下であることを特徴と請求項8または請求項9記載の透明導電膜付き基板の製造方法とした。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の透明導電膜付き基板にあっては、透明導電膜が基板側から順に酸化亜鉛からなる第1の薄膜層とスズを含むインジウム酸化物(ITO)からなる第2の薄膜層で少なくとも構成される。このとき、アルカリ耐性の低い酸化亜鉛層上にアルカリ耐性の高いITO層を設けることにより、第2の薄膜層であるITO層を表面保護層として作用させ、透明導電膜表面のアルカリ耐性を向上させることができる。したがって、十分な耐薬品性を備える透明導電膜付き基板とすることができる。また、電気伝導性は第1の薄膜層と第2の薄膜層から発現するため、十分な電気伝導性を備える透明導電膜付き基板とすることができる。また、酸化亜鉛のみからなる透明導電膜は耐熱・耐湿安定性が低いといった問題も発生するが、本発明の透明導電膜は耐熱・耐湿安定性を向上させることができる。そして、スズを含むインジウム酸化物(ITO)のみから透明導電膜を作製した場合と比較して、インジウムの使用量を削減することができる。
【0020】
また、請求項2記載の透明導電膜付き基板にあっては、第1の薄膜層の酸化亜鉛にアルミニウムもしくはガリウムの少なくとも一方を含むことを特徴とする。このとき、アルミニウムもしくはガリウムを酸化亜鉛層にドープさせることにより、ドーパントであるGaもしくはAlと酸化亜鉛が置換型固溶により効率的にキャリアを形成することができ第1の薄膜層の電気伝導性を向上させることができる。したがって、より高い電気伝導性を備える第1の薄膜層とすることができる。したがって、高い電気伝導性を備える透明導電膜付き基板とすることができる。
【0021】
また、請求項3記載の透明導電膜付き基板にあっては、第2の薄膜層であるITO層が結晶化していることを特徴とする。ITO層を結晶化させることにより、ドーパントであるSnとInが置換型固溶により効率的にキャリアを形成することができる。また、結晶化により欠陥が減少するため、移動度の増加により透明導電膜の電気伝導性を向上させることができる。また、ITO層を結晶化させることにより、耐薬品性をさらに向上させることができる。
【0022】
また、請求項4記載の透明導電膜付き基板にあっては、スズを含むインジウム酸化物(ITO)からなる第2の薄膜層の膜厚が10nm以上100nm以下の範囲内であることを特徴とする。ITOからなる第2の薄膜層が100nmを超える場合にあっては、インジウムの使用量の削減を十分なものとすることができなくなってしまう。一方、ITOからなる第2の薄膜層が10nmを下回る場合にあっては、膜厚が薄いためにITO層が島状に形成されることがあり、このとき、十分な耐薬品性を備える層とすることができなくなることがある。また、ITOからなる第2の薄膜層が10nmを下回る場合にあっては、十分な電気伝導性が得られにくくなってしまう。
【0023】
また、請求項5記載の透明導電膜付き基板にあっては、透明導電膜付き基板の透明導電膜形成面の比抵抗が1×10−3Ω・cm以下の範囲内であることを特徴とする。透明導電膜形成面の比抵抗を上記範囲内とすることにより、液晶ディスプレイの電極として好適に用いることができる。透明導電膜形成面の比抵抗が1×10−3Ω・cmを超える場合にあっては、十分な電気伝導性を有する透明導電膜とすることができないため、液晶ディスプレイの電極として使用した場合に使用電力のロスが多くなり、使用電力の小さい液晶ディスプレイとすることができなくなることがある。
【0024】
また、請求項6記載の透明導電膜付き基板にあっては、第2の薄膜層上に樹脂パターンを備えることを特徴とする。本発明の透明導電膜付き基板にあっては透明導電膜が高い耐薬品性を備えるため、透明導電膜の最外層である第2の薄膜層上に樹脂パターンを好適に形成することができる。例えば、本発明の透明導電膜付き基板を液晶ディスプレイ部材であるカラーフィルターとして適用することができ、このとき透明導電膜上にフォトスペーサーや配向制御用突起を樹脂パターンとして好適に設けることができる。フォトスペーサーや配向制御用突起を樹脂パターンとして設けるにあってはフォトリソグラフィー法によりこれらの樹脂パターンは形成される。このとき、現像工程においてアルカリ溶液が用いられるが、本発明の透明導電膜は耐アルカリ性が高いため好適に用いることができる。
【0025】
また、請求項7記載の透明導電膜付き基板にあっては、基板が樹脂層を備え、樹脂層を備える基板上に第1の薄膜層と第2の薄膜層を備える透明導電膜を備えることを特徴とする。本発明の透明導電膜付き基板にあっては、基板が樹脂層を備えていてもよく、樹脂層上に透明導電膜を形成することができる。例えば、本発明の透明導電膜付き基板は液晶ディスプレイ部材であるカラーフィルターとして適用することができ、このとき、樹脂からなるR(赤)G(緑)B(青)等の着色パターン上に本発明の透明導電膜を形成することができる。
【0026】
また、請求項8の透明導電膜付き基板の製造方法にあっては、酸化亜鉛からなる第1の薄膜層とスズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層がマグネトロンスパッタリング法により形成されることを特徴とする。マグネトロンスパッタリング法は、通常のスパッタリング法と比較して成膜スピードを向上させることができる。また、第1の薄膜層及び第2の薄膜層形成方法としてマグネトロンスパッタリング法を用いることにより、磁束によりターゲット近傍に電子が捉えられることによりプラズマ密度が増加し、スパッタ電圧を低下させることが可能になる。これによって、酸素負イオンや反跳スパッタガスといった形成される透明導電膜にダメージを与える粒子のエネルギーを低下させることができ、形成される透明導電膜を導電性が高い高品質な透明導電膜とすることができる。
【0027】
また、請求項9の透明導電膜付き基板の製造方法にあっては、酸化亜鉛からなる第1の薄膜層を形成する工程と、スズを含むインジウム酸化物(ITO)からなる第2の薄膜層を形成する工程が基板を加熱することなくおこなわれ、前記第2の薄膜層を形成する工程の後にアニール工程を備えることを特徴とする。第1の薄膜層、第2の薄膜層を形成した後にアニール工程を設けることにより、ITOを結晶化させることができ透明導電膜の電気伝導性を向上させることができる。特に、基板が樹脂層を備え、樹脂層上に第1の薄膜層、第2の薄膜層を備える透明導電膜を形成するにあっては、本発明の製造方法を好適に用いることができる。ITOを結晶化させるにあっては、第1の薄膜層、第2の薄膜層を形成する際に基板を加熱することによっても達成できる。しかしながら、基板が樹脂層を備え樹脂層上に透明導電膜を形成するにあっては、基板を加熱しながら透明導電膜を形成すると樹脂層からのアウトガスにより形成される透明導電膜の電気伝導性の低下、耐薬品性の低下を引き起こすことがある。請求項9の透明導電膜付き基板の製造方法のように、第1の薄膜層を形成する工程と第2の薄膜層を形成する工程が前記基板を加熱することなくおこない、前記第2の薄膜層を形成する工程の後にアニール工程を設けることにより、樹脂層からのアウトガスによる透明導電膜の性能劣化を防ぎ、アニール工程によって透明導電膜の性能向上させることが可能となる。
【0028】
また、請求項10の透明導電膜付き基板の製造方法にあっては、マグネトロンスパッタリング法による第1の薄膜層の形成工程及び第2の薄膜層の形成工程が、磁束密度が500Gauss以上1500Gauss以下であることを特徴とする。磁束密度を上記範囲内とすることにより、電気伝導性が高く膜厚均一性のよい透明道電膜とすることができる。磁束密度が500Gaussに満たない場合には、形成される透明導電膜の膜厚分布が均一でなく、また電気伝導性が十分でない透明道電膜となってしまうことがある。一方、磁束密度が1500Gaussを超える場合には、放電がおきにくくターゲットの利用効率が低下してしまうことがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の透明導電膜付き基板について説明する。
【0030】
図1に本発明の透明導電膜付き基板の説明断面図を示した。本発明の透明導電膜付き基板1にあっては、基板11上に透明導電膜12を備える。透明導電膜12にあっては基板11側から順に第1の薄膜層12Aと第2の薄膜層12Bを備える。このとき第1の薄膜層12Aは酸化亜鉛からなり、第2の薄膜層12Bはスズを含むインジウム酸化物(ITO)からなる。透明導電膜とは可視光透過率が80%以上であり、比抵抗が1×10−3Ω・cm以下のものを指す。
【0031】
本発明にあっては、アルカリ耐性の低い酸化亜鉛からなる第1の薄膜層上にアルカリ耐性の高いITOからなる第2の薄膜層を設けることにより、第2の薄膜層であるITO層を表面保護層として作用させ、透明導電膜表面のアルカリ耐性を向上させることができる。したがって、十分な薬品耐性を備える透明導電膜付き基板とすることができる。また、電気伝導性は第1の薄膜層と第2の薄膜層から発現するため、十分な電気伝導性を備える透明導電膜付き基板とすることができる。または耐熱・耐湿安定性の低い酸化亜鉛からなる第1の薄膜層上には耐熱・耐湿安定性を備えるITOからなる第2の薄膜層を設けることにより、第2の薄膜層であるITO層を表面保護層として作用させ、透明導電膜の耐熱・耐湿安定性向上させることができる。そして、スズを含むインジウム酸化物(ITO)のみから透明導電膜を作製した場合と比較して、インジウムの使用量を削減することができる。
【0032】
本発明の透明導電膜において、酸化亜鉛からなる第1の薄膜層は3価以上の金属もしくは金属酸化物を少なくとも1つ以上含んでいてもよい。このとき、金属もしくは金属酸化物中の金属としては、アルミニウム、ホウ素、スカンジウム、ガリウム、ケイ素、イットリウム、イッテルビウム、インジウムあるいはガリウムを用いることができる。これらの金属は複数種類含んでいてもよい。これらの金属もしくは金属酸化物を含ませることにより、高い電気伝導性を備える第1の薄膜層とすることができる。中でも、酸化亜鉛にアルミニウムもしくはガリウムの少なくとも一方を含ませることにより、より高い電気伝導性を備える第1の薄膜層とすることができる。
【0033】
また、本発明の透明導電膜にあっては、ITOからなる第2の薄膜層が結晶化していることが好ましい。ITO層である第2の薄膜層を結晶化させることにより、ドーパントであるSnとInが置換型固溶により効率的にキャリアを形成することができる。また、結晶化により欠陥が減少するため、移動度の増加により透明導電膜の電気伝導性を向上させることができる。さらに高い耐アルカリ性を備える透明導電膜とすることができる。
【0034】
本発明の透明導電膜にあっては、要求される透明導電膜のスペックによって第1の薄膜層、第2の薄膜層の膜厚が決定される。このとき、形成される透明導電膜の比抵抗、透過率、耐薬品性、ITOの使用量、製造スピード等が考慮される。
【0035】
本発明の透明導電膜にあっては、第2の薄膜層の膜厚が10nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましい。ITOからなる第2の薄膜層が100nmを超える場合にあっては、インジウムの使用量の削減を十分なものとすることができなくなってしまう。一方、ITOからなる第1の薄膜層が10nmを下回る場合にあっては、ITO層の膜厚が薄いためにITO層が島状に形成されることがあり、このとき、十分な耐薬品性を備える透明導電膜とすることができなくなることがある。また、ITOからなる第2の薄膜層が10nmを下回る場合にあっては、十分な電気伝導性が得られにくくなってしまう。
【0036】
本発明の透明導電膜にあっては、酸化亜鉛からなる第1の薄膜層の膜厚は30nm以上300nm以下とすることが好ましい。第1の薄膜層の膜厚が30nmに満たない場合、十分な電気伝導性を有する透明導電膜を得られなくなってしまうことがある。また、酸化亜鉛の成膜スピードはITOの成膜スピードよりも遅く、第1の薄膜層の膜厚が300nmを超える場合にあっては製造コストが上昇してしまうことがある。

【0037】
また、本発明の透明導電膜にあって、透明導電膜形成面の比抵抗が1×10−3Ω・cm以下の範囲内であることが好ましい。透明導電膜形成面の比抵抗を上記範囲内とすることにより、液晶ディスプレイの電極として好適に用いることができる。透明導電膜形成面の比抵抗が1×10−3Ω・cmを超える場合にあっては、十分な電気伝導性を有する透明導電膜とすることができないため、液晶ディスプレイの電極として使用した場合に使用電力のロスが多くなり、使用電力の小さい液晶ディスプレイとすることができなくなることがある。一方、透明導電膜形成面の比抵抗は1×10−4Ω・cm以上であることが好ましい。透明導電膜形成面の比抵抗を1×10−4Ω・cm未満としようとした場合には、透明導電膜のキャリア濃度を高くする必要があり、このとき、透明導電膜の可視光透過率が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0038】
図2に別の態様の本発明の透明導電膜付き基板の説明断面図を示した。図2の本発明の透明導電膜付き基板は液晶ディスプレイに用いられるカラーフィルターである。図2の透明導電膜付き基板であるカラーフィルター1´はガラス基板11´上に着色層14A、14B、14Cを備える。着色層は樹脂中に着色顔料が分散された構造を備える。着色層は液晶表示ディスプレイをカラー表示させるためのものであり、例えば、赤(R)、緑(G)、青(B)の3色を備えている。また、ガラス基板上には各画素間にブラックマトリックス13が設けられており、各画素間はブラックマトリックスにより区切られている。ブラックマトリックスはクロム等の金属材料もしくは黒色顔料を分散させた樹脂材料から形成される。
【0039】
着色層14A、14B、14C上は透明導電膜12を備える。透明導電膜12は酸化亜鉛からなる第1の薄膜層12A、ITOからなる第2の薄膜層12Bを備える。そして、透明導電膜12上には、必要に応じてフォトスペーサー15が設けられる。フォトスペーサー15は、カラーフィルター1´と対向するように設けられるTFT基板との距離(ギャップ)を一定にするものであり、フォトスペーサー形成材料としては光感光性樹脂材料(フォトレジスト)が用いられ、フォトリソグラフィー法によりフォトスペーサーは形成される。すなわち、透明導電膜上に光感光性樹脂材料を塗布する塗布工程、塗布された樹脂材料にマスクを介してパターン露光をおこなう露光工程、不要な部分を現像液により除去する現像工程により、フォトスペーサーは形成される。現像工程にあっては現像液としてアルカリ溶液が用いられるが、本発明の透明導電膜は耐薬品性が高く透明導電膜上にフォトスペーサーを好適に形成することができる。
【0040】
また、本発明のカラーフィルター1´にあっては、必要に応じて配向制御用突起16が設けられる。配向制御用突起16は垂直配向型(VA型)液晶ディスプレイのカラーフィルターの場合に形成される。配向制御用突起形成材料としては光感光性樹脂材料が用いられ、フォトリソグラフィー法により配向制御用突起は形成される。すなわち、透明導電膜上に光感光性樹脂材料(フォトレジスト)を塗布する塗布工程、塗布された樹脂材料にマスクを介してパターン露光をおこなう露光工程、不要な部分を現像液により除去する現像工程により、配向制御用突起は形成される。現像工程にあっては現像液としてアルカリ溶液が用いられるが、本発明の透明導電膜は耐薬品性が高く、透明導電膜上に配向制御用突起を好適に形成することができる。
【0041】
本発明の透明導電膜表面が耐アルカリ性の高い透明導電膜付き基板は、少なくともフォトリソグラフィー法によって形成されるフォトスペーサーもしくはフォトリソグラフィー法によって形成される配向制御用突起のどちらか一方を有するカラーフィルターに好適に使用できる。
【0042】
本発明の透明導電膜付き基板の製造方法について説明する。
【0043】
本発明の透明導電膜は、蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空成膜法により形成される。中でも、本発明の透明導電膜はスパッタリング法により形成されることが好ましい。スパッタリング法は大面積の基板に対し成膜することができる。
【0044】
中でも、本発明の透明導電膜はマグネトロンスパッタリング法により形成されることが好ましい。第1の薄膜層及び第2の薄膜層形成方法としてマグネトロンスパッタリング法を用いることにより、成膜スピードを向上させることができる。また、磁束によりターゲット近傍に電子が捉えられることによりプラズマ密度が増加し、スパッタ電圧を低下させることが可能になる。これによって、酸素負イオンや反跳スパッタガスといった形成される透明導電膜にダメージを与える粒子のエネルギーを低下させることができ、形成される透明導電膜を導電性が高く、高品質な透明導電膜とすることができる。
【0045】
本発明の透明導電膜にあっては、酸化亜鉛からなる第1の薄膜層を形成する工程と、スズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層を形成する工程が基板を加熱することなくおこなわれ、前記第2の薄膜層を形成する工程の後にアニール工程を備えることが好ましい。アニール工程をおこなうことにより、ITOを結晶化させることができ透明導電膜の電気伝導性を向上させることができる。また、第2の薄膜層であるITO層の耐アルカリ性を更に向上させることができる。特に、図2に示したような樹脂層を備える基板上に透明導電膜を形成するにあっては、後アニールによってITOを結晶化させることが好ましい。
【0046】
酸化亜鉛、ITOを結晶化させるにあっては、第1の薄膜層、第2の薄膜層を形成する際に基板を加熱することによっても達成できる。しかしながら、基板が樹脂層を備え樹脂層上に透明導電膜を形成するにあっては、基板を加熱しながら透明導電膜を形成すると樹脂層からのアウトガスにより形成される透明導電膜の電気伝導性の低下、耐薬品性の低下を引き起こすことがある。第1の薄膜層を形成する工程と第2の薄膜層を形成する工程が基板を加熱することなくおこなわれ、第2の薄膜層を形成する工程の後にアニール工程を設けることにより、樹脂層からのアウトガスによる透明導電膜の性能劣化を防ぎ、アニール工程によって透明導電膜の性能向上させることが可能となる。
【0047】
なお、アニール工程にあっては、温度は160℃〜250℃以下の温度範囲内で、30分〜1時間半おこなうことが好ましい。
【0048】
また本発明にあっては、マグネトロンスパッタリング法による第1の薄膜層の形成工程及び第2の薄膜層の形成工程が、磁束密度が500Gauss以上1500Gauss以下であることが好ましい。磁束密度を500Gauss以上1500Gauss以下とすることにより、電気伝導性が高く膜厚形均一性のよい透明道電膜とすることができる。磁束密度が500Gaussに満たない場合には、形成される透明導電膜の膜厚分布が均一でなく、また電気伝導性が十分でない透明道電膜となってしまうことがある。一方、磁束密度が1500Gaussを超える場合には、放電がおきにくくターゲットの利用効率が低下してしまうことがある。
【0049】
なお、本発明の透明導電膜付き基板にあっては、基板としてはガラス材料、プラスチック材料を用いることができる。また、カラーフィルターにおいて、ブラックマトリックス形成材料、着色層形成材料、フォトスペーサー形成材料、配向制御用突起材料としては公知のものを使用できる。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
ノンアルカリガラス(コーニング1737)にGaドープZnOターゲット(5.7wt%Ga)を用い、マグネトロンスパッタ法にて膜厚120nmのGaドープZnOを形成した。スパッタ条件として、Ar流量を100sccm、全圧0.4Pa、投入電力を2.5(W/cm)、ターゲットに対して平行な磁束密度1000Gaussとした。続けてITOターゲット(10wt%SnO)を用い、同様のスパッタ条件にて膜厚30nmのITOの成膜をおこなった。膜厚は触針式表面形状測定器(Dektak 6M、JIS R 1636)で測定をおこなった。
これを成膜後150℃30分アニールすることで、XRD(X線回折)においてITO由来の(222)と(400)のピークを示し、得られた膜が結晶化していることを確認した。
このサンプルをNaOH(2wt%)に5分漬けてその耐性を確認したところ、四探針法測定(ロレスタHP、JIS R 1637)によるシート抵抗の値では、アルカリ耐性試験の前後で91Ω/□から94Ω/□とほとんどシート抵抗値の上昇を示さなかった。
【0051】
(実施例2)
ノンアルカリガラス(コーニング1737)にAlドープZnOターゲット(3wt%Al)を用い、マグネトロンスパッタ法にて膜厚120nmのAlドープZnOを形成した。スパッタ条件として、Ar流量を100sccm、全圧0.4Pa、投入電力を2.5(W/cm)、ターゲットに対して平行な磁束密度1000Gaussとした。続けてITO(10wt%SnO)ターゲットを用い、同様のスパッタ条件にて膜厚30nmのITOの成膜を行った。膜厚は触針式表面形状測定器(Dektak 6M、JIS R 1636)で測定をおこなった。
これを成膜後150℃30分アニールすることで、XRDにおいてITO由来の(222)と(400)のピークを示し、得られた膜が結晶化していることを確認した。
このサンプルをNaOH(2wt%)に5分漬けてその耐性を確認したところ、四探針法測定(ロレスタHP、JIS R 1637)によるシート抵抗の値では、アルカリ耐性試験の前後で102Ω/□から106Ω/□とほとんどシート抵抗値の上昇を示さなかった。
【0052】
(比較例1)
ノンアルカリガラス(コーニング1737)にGaドープZnOターゲット(5.7wt%Ga)を用い、マグネトロンスパッタ法にて膜厚150nmのGaドープZnOのみを形成した。スパッタ条件は実施例1と同様である。膜厚は触針式表面形状測定器(Dektak 6M、JIS R 1636)で測定をおこなった。
得られたサンプルをNaOH(2wt%)に5分漬けてその耐性を確認したところ、四探針法測定(ロレスタHP、JIS R 1637)によるシート抵抗の値では、アルカリ耐性試験前では106Ω/□を示したが、アルカリ耐性試験後では膜が溶けてしまい測定が不可能であった。
【0053】
(比較例2)
ノンアルカリガラス(コーニング1737)にAlドープZnOターゲット(3wt%Al)を用い、マグネトロンスパッタ法にて膜厚150nmのAlドープZnOのみを形成した。スパッタ条件は実施例2と同様である。膜厚は触針式表面形状測定器(Dektak 6M、JIS R 1636)で測定を行った。得られたサンプルをNaOH(2wt%)に5分漬けてその耐性を確認したところ、四探針法測定(ロレスタHP、JIS R1637)によるシート抵抗の値では、アルカリ耐性試験前では125Ω/□を示したが、アルカリ耐性試験後では膜が溶けてしまい測定が不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
現在、液晶ディスプレイをはじめとする様々なディスプレイにおいて透明電極としてITOが使用されているが、これらを本発明の透明導電膜とすることでこれまでより安価に耐性の安定した透明導電膜の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は本発明の透明導電膜付き基板の説明断面図である。
【図2】図2は本発明の別の態様の透明導電膜付き基板の説明断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 透明道電膜付き基板
1´ 透明道電膜付き基板/カラーフィルター
11 基板
11´ ガラス基板
12 透明導電膜
12A 第1の薄膜層
12B 第2の薄膜層
13 ブラックマトリックス
14A 着色層
14B 着色層
14C 着色層
15 フォトスペーサー
16 配向制御用突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の少なくとも一方の面に透明導電膜を備える透明導電膜付き基板であって、
該透明導電膜が前記基板側から順に酸化亜鉛からなる第1の薄膜層とスズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層とを備えることを特徴とする透明導電膜付き基板。
【請求項2】
前記酸化亜鉛からなる第1の薄膜層が、アルミニウムもしくはガリウムの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1記載の透明導電膜付き基板。
【請求項3】
前記スズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層が、結晶化していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の透明導電膜付き基板。
【請求項4】
前記スズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層の膜厚が10nm以上100nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の透明導電膜付き基板。
【請求項5】
前記透明導電膜付き基板の透明導電膜形成面の比抵抗が1×10−3Ω・cm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の透明導電膜付き基板。
【請求項6】
前記スズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層上に樹脂パターンを備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれに記載の透明導電膜付き基板。
【請求項7】
前記基板が樹脂層を備え、該樹脂層上に前記第1の薄膜層と前記第2の薄膜層を備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の透明導電膜付き基板。
【請求項8】
基板上に酸化亜鉛からなる第1の薄膜層をマグネトロンスパッタリング法により形成する工程と、
該第1の薄膜層上にスズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層をマグネトロンスパッタリング法により形成する工程と
を順に備えることを特徴とする透明導電膜付き基板の製造方法。
【請求項9】
前記酸化亜鉛からなる第1の薄膜層を形成する工程と、スズを含むインジウム酸化物からなる第2の薄膜層を形成する工程が前記基板を加熱することなくおこなわれ、
前記第2の薄膜層を形成する工程の後にアニール工程を備えることを特徴とする請求項8記載の透明導電膜付き基板の製造方法。
【請求項10】
前記マグネトロンスパッタリング法による第1の薄膜層の形成工程及び第2の薄膜層の形成工程が、ターゲットに対して平行な磁束密度が500Gauss以上1500Gauss以下であることを特徴と請求項8または請求項9記載の透明導電膜付き基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−238416(P2009−238416A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79921(P2008−79921)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】