説明

透明複合材料

【課題】屈折率が1.55以上で、光線透過率が高く、強度、剛性、靭性、耐熱性、ガスバリア性、熱膨張率、複屈折率などに優れた性能を有する透明複合材料の提供。
【解決手段】金属アルコキシドの部分縮合物と熱硬化性樹脂前駆体とを均一混合し、次いで重合およびゲル化して得られる有機無機分子ハイブリッド硬化物をマトリックス樹脂とし、無機繊維を補強材としてなる複合材料であって、該硬化物および無機繊維の屈折率が1.55以上且つアッベ数が40以上であり、該複合材料の光線透過率が80%以上である、透明複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネル、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機EL表示素子装置、液晶表示装置、プロジェクションテレビ等の透明基板やレンズシートに好適な透明複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルや色素増感太陽電池には透明基板が使用される。基板に透明導電膜を形成して導電性を付与し、入力信号の伝搬や発電電流取り出しを行っており、透明基板が必須である。こうした用途に、従来はガラス基板が使用されていたが、光学分野の広い範囲での用途展開が進むにつれて、軽量で、耐衝撃性や加工性に優れるプラスチック基板へのニーズが高まっている。
【0003】
プラスチック基板用の透明シートとして、熱可塑性樹脂を、押し出し成形、射出成形、圧縮成形、キャスティングなどにより成形したものが提案されている。たとえば特許文献1には、ポリエチレンテレフタレートやポリカーボネートなどのフィルムを用いた色素増感太陽電池の製造方法が開示されている。
また熱硬化性透明樹脂を、キャスティング、注型等により成形したものも提案されている。たとえば特許文献2には特定の光硬化性樹脂からなる透明タッチパネル、特許文献3には光硬化性樹脂からなる透明樹脂シートおよびその製法等が開示されている。
【0004】
しかしながらこれら樹脂単独のプラスチック基板は、ガラス基板に比べて線膨張率が大きく、表示素子基板の製造工程において反りやアルミ配線の断線などの問題が生じ、これらの用途への使用は困難である。さらに、透明性、耐熱性、耐光性、剛性、ガスバリア性、複屈折率など実用上の問題が依然として多い。
一般に熱硬化性樹脂は線膨張率が大きく、剛性や靭性も低いため、ガラス繊維などを補強材に用いた繊維強化複合材料として使用される。光学用途に利用する場合は透明性が要求されるが、単に透明な熱硬化性樹脂を使用しただけでは光透過性が低く、透明な複合材料にはならない。
【0005】
透明な樹脂とガラス繊維との複合材料において透明性が損なわれる主な原因は、樹脂の屈折率とガラス繊維の屈折率とが異なるため、樹脂中を透過した光がガラス繊維との界面で乱屈折することにある。良好な透明性を示すためには、400nm〜800nmの広い波長範囲で樹脂とガラス繊維との屈折率の差を小さくする必要がある。屈折率の波長依存性は、アッベ数で示されるので、マトリックス樹脂とガラス繊維とが屈折率の差が小さく且つアッベ数が近いものを選択できれば、広い波長範囲で屈折率を合わせることが可能である。
【0006】
一般的なガラス繊維はアッベ数が40以上であるため、アッベ数の高い透明樹脂が望まれる。特許文献4に記載のものでは、アッベ数が45以上の透明樹脂を用いることで、広い波長範囲で樹脂とガラス繊維との屈折率を一致させることを試みている。しかし、アッベ数が45以上の透明樹脂は、実用としては屈折率が1.45〜1.55の範囲に限定され、汎用の、Eガラス繊維は屈折率が高すぎるので、使用することが出来ない。導電膜基板の光線透過率向上、レンズシートの薄膜化のために、硬化物および無機繊維の屈折率が1.55以上且つアッベ数が制御された透明複合材料の供給が切望されている。
【0007】
特許文献5に記載のものでは、屈折率の高い粉体状の無機充填剤を、屈折率の低い樹脂に混合することで、希望の屈折率とアッベ数とをもつ樹脂組成物を得る試みがなされている。すなわち、広い波長範囲でマトリックス樹脂とガラス繊維との屈折率の差をゼロに近づけ、透明複合材料内部での屈折散乱を可能な限り押さえ、光線透過率の向上をねらうものである。
【0008】
しかし、屈折率の低い樹脂に粉体状の無機充填剤を加え屈折率を1.55以上にするためには、多量の無機充填剤を混合する必要がある。一般の複合材料では、樹脂中に無機粒子を多量に添加すると樹脂と粒子との界面が弱いため、力学物性の低下の原因となり、特にシート状に成形した場合、靭性の低下が著しい。また、無機粒子による光線の屈折散乱を避けるため、可視光の波長より大幅に短い100nm以下の粒子径に均一分散することが必要である。ナノオーダーの微細な粒子は、粒子同士が凝集し易く、白濁の原因につながる。
【0009】
樹脂硬化物およびガラス繊維の屈折率が1.55以上で且つアッベ数が制御された透明複合材料を用い、靭性および光線透過率に優れたものを成形することは容易なことではない。ガラス基板とプラスチック基板の特性を兼備する複合材料で、導電膜基板やレンズシートなどの光学分野の用途で利用できる高屈折率の新しい透明材料が強く切望されている。
【0010】
【特許文献1】特開2003−59546号公報
【特許文献2】特開平10−105335号公報
【特許文献3】特開2003−285338号公報
【特許文献4】特開2004−231934号公報
【特許文献5】特開2005−68241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、タッチパネル、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機EL表示素子装置、液晶表示装置、プロジェクションテレビ等の透明基板やレンズシートに好適な、屈折率が1.55以上で、光線透過率が高く、強度、剛性、靭性、耐熱性、ガスバリア性、熱膨張率、複屈折率などに優れた性能を有する透明複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を達成するために鋭意研究した結果、特定の有機無機ハイブリッド樹脂を無機繊維に含浸し、硬化してなる複合材料が、高屈折率で、光線透過率が高く、強度、剛性、靭性、耐熱性、ガスバリア性、熱膨張率、複屈折率などが従来のプラスチック材料に比べて大幅に向上するとの知見を得て、本発明を完成させた。
すなわち発明によれば、金属アルコキシドの部分縮合物と熱硬化性樹脂前駆体とを均一混合し、ついで重合およびゲル化して得られる有機無機分子ハイブリッド硬化物をマトリックス樹脂とし、無機繊維を補強材としてなる複合材料であって、該硬化物および無機繊維の屈折率が1.55以上且つアッベ数が40以上であり、該複合材料の光線透過率が80%以上である複合材料を利用することにより、透明基板やレンズシートに好適な複合材料を作成することが可能となった。
【0013】
本発明は次に記載する通りの構成を有する透明複合材料である。
(1)金属アルコキシドの部分縮合物と熱硬化性樹脂前駆体とを均一混合し、ついで重合およびゲル化して得られる有機無機分子ハイブリッド硬化物をマトリックス樹脂とし、無機繊維を補強材としてなる複合材料であって、該硬化物および無機繊維の屈折率が1.55以上且つアッベ数が40以上であり、該複合材料の光線透過率が80%以上である、透明複合材料。
(2)前記金属アルコキシドが、少なくともチタニウムアルコキシドを含有することを特徴とする、請求項1記載の透明複合材料。
(3)前記金属アルコキシドが、少なくともチタニウムアルコキシドとシランアルコキシドとを含有することを特徴とする、上記(1)記載の透明複合材料。
(4)金属アルコキシドが、少なくともチタニウムアルコキシドと、下記一般式(1)または一般式(2)で表されるシランアルコキシドからなる群より選ばれる少なくとも一種とからなることを特徴とする、上記(1)記載の透明複合材料。
−Si−(OR ・・・(1)
−Si−(OR ・・・(2)
は脂環式エポキシ基またはオキセタン基を有する有機鎖、R、RはCHまたはC、RはCHまたはC
(5)前記熱硬化性樹脂前駆体が脂環式エポキシ樹脂前駆体であることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の透明複合材料。
(6)熱硬化性樹脂前駆体が、下記一般式(3)で表される脂環式エポキシ樹脂前駆体であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の透明複合材料。
【0014】
【化1】

【0015】
(7)ガラス繊維がEガラスであることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の透明複合材料。
(8)ガラス繊維がガラスクロスであることを特徴とする、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の透明複合材料。
(9)厚みが50μm以上5mm以下のシート状成形体であることを特徴とする、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の透明複合材料。
【発明の効果】
【0016】
本発明により得られる透明ハイブリッドシートは、タッチパネル、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機EL表示素子装置、液晶表示装置、プロジェクションテレビ等の透明基板やレンズシート用として、高屈折率で、光線透過率が高く、強度、剛性、靭性、耐熱性、ガスバリア性、熱膨張率、複屈折率などに優れた性能を有する、透明基板やレンズシートとして利用できる新規な透明複合材料を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明で使用する有機無機ハイブリッド硬化物は、まず分子レベルで金属アルコキシドの部分縮合物と熱硬化性樹脂前駆体とを結合させていることを特徴とする。なお通常、熱硬化性樹脂において、原料の低分子前駆体と、硬化後の樹脂との呼称を明確に区別しないで用いる場合も多いが、本発明においては、より明確に発明を規定するために、熱硬化性樹脂前駆体と熱硬化性樹脂硬化物とを区別して記載する。分子レベルで結合させるためには、まず、部分縮合物と熱硬化性樹脂前駆体とを結合反応が進行する前に分子オーダーで均一混合させる必要がある。すなわち、金属アルコキシドの部分縮合物は三次元架橋していない鎖状構造あるいは低分子量のものを用いることが好ましい。熱硬化性樹脂前駆体も同様で、平均分子量2000以下、好ましくは1000以下の流動性のあるものを使用し、互いに分子レベルで相溶させる必要がある。
【0018】
本発明では、屈折率が1.55以上且つアッベ数が40以上の特定の有機無機分子ハイブリッド硬化物をマトリックス樹脂として使用し、屈折率が1.55以上且つアッベ数が40以上の無機繊維を補強材として使用することにより、広い波長範囲で両者の屈折率をほぼ一致させ、乱屈折することなく光線透過率を向上させることが可能である。
ここでいうアッベ数(ν)とは、屈折率の波長依存性、すなわち分散の度合いを示すもので、次の式で求めることができる。
ν=(n−1)/(n−n
ここで、n、n、nは、それぞれフランホーファーの線のC線(656nm)、D線(589nm)、F線(486nm)に対する屈折率である。
【0019】
無機繊維としては透明なものであれば特に限定されないが、ガラス繊維を用いることが好ましい。ガラス以外の無機繊維としては石英繊維、アルミナ繊維、ムライト繊維などを用いることができる。
一般的なガラス繊維はアッベ数が50以上であり、マトリックス樹脂よりも屈折率の波長依存性が低いため、たとえばD線での屈折率を一致させても、それよりも短波長側のF線では、マトリックス樹脂の屈折率の増加が大きく、マトリックス樹脂とガラス繊維との屈折率の差が広がる。D線での光線透過率が80%以上であっても、短波長側のF線での光線透過率は、乱屈折により減少してしまう。
【0020】
すなわち本発明では、屈折率が1.55以上且つアッベ数が40以上の特定の有機無機分子ハイブリッド硬化物をマトリックス樹脂として使用し、屈折率が1.55以上且つアッベ数が40以上の無機繊維を補強材として使用することにより、C線、F線共に乱屈折することなく、光線透過率が共に80%以上となる透明複合材料を得ることができる。マトリックス樹脂と補強材の屈折率の差は、D線よりも長波長側のC線および短波長側のF線に対して0.05以内とすることが好ましく、0.02以内とすることがより好ましい。
【0021】
本発明で使用する無機繊維は、屈折率が1.55以上且つアッベ数が40以上であれば、特に限定されない。無機繊維としては、ガラス繊維、石英繊維、アルミナ繊維、ムライト繊維等が挙げられるが、中でもガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としてはEガラスが好ましい。Eガラスは、アルカリ含有率が0.8%未満の繊維用汎用ガラスで(JIS R3410)、1.55以上の高屈折率を有し、電気的特性、耐熱性、機械的強度、耐風化性等の諸特性に優れるほか、生産性、経済性にも優れている。また、Eガラスはガラス繊維中への気泡の混入により発生する中空糸が比較的少なく、光学材料用の強化繊維としての利用により適している。
通常、ガラス繊維と金属アルコキシドの部分縮合物と熱硬化性樹脂前駆体とを均一混合して得られる均一混合体(以下、単に均一混合体と呼ぶ)との濡れ性、親和性を高めるために、シランカップリング剤等により表面処理をしたガラスクロスが使用される。しかし、本発明で使用する有機無機ハイブリッド樹脂では、無処理のガラスクロスを使用することも可能である。本発明において、ガラス繊維はチョップドストランド、マット、ロービングなどさまざまな形態で使用可能であるがガラスクロスは好ましい形態である。
【0022】
本発明で使用する均一混合体は、未処理のガラス繊維表面との親和性が高く、繊維間隙に気泡を残留することなく硬化させることが可能である。また、物理的に糸束を開繊したガラスクロスを使用することもマトリックス樹脂をガラスクロスに含浸させる上で好適である。
【0023】
本発明で使用するマトリックス樹脂では、屈折率が1.55以上且つアッベ数が40以上の光学特性を実現するために、金属アルコキシドとして少なくともチタニウムアルコキシドを添加することが好ましい。チタニウムアルコキシドやジルコニウムアルコキシドなどの高屈折率の金属アルコキシドを多く含む部分縮合物を使用することは、有機無機分子ハイブリッド硬化物のアッベ数を低下することなく屈折率を高める上で有効な手段である。
【0024】
チタニウムアルコキシドとしては、特に限定されることはないが、チタニウムテトラ−n−ブトキシド、チタニウムテトラ−n−ブトキシド(四量体)、チタニウムテトラ−t−ブトキシド、チタニウムテトライソブトキシド、チタニウムテトラ−n−プロポキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトラメトキシドなどを用いることができるが、加水分解反応の速度が速く、取り扱いに注意が必要である。
ジルコニウムアルコキシドとしては、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシド、ジルコニウムテトライソブトキシド、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラエトキシドなどを用いることができる。
【0025】
チタニウムアルコキシドやジルコニウムアルコキシドなど、高屈折率金属アルコキシドの添加は、脱アルコール後の固形分換算で、10重量%以上を添加することが好ましい。
チタニウムアルコキシド単独の部分縮合物を過剰に使用した場合、部分縮合物と熱硬化性樹脂前駆体とが均一混合しても、重合およびゲル化の段階で粉体状の無機成分の凝集が発生し、有機無機ハイブリッド硬化物の透明性や靭性の著しい低下につながることがあり、凝集防止のためには、シランアルコキシドとの混合使用は有効である。
【0026】
すなわち、金属アルコキシドの部分縮合物の構成成分として、チタニウムアルコキシドに加え、少なくとも下記一般式(1)で表されるシランアルコキシドを使用することが好ましい。
-Si-(OR ・・・(1)
ここでRは脂環式エポキシ基またはオキセタン基を有する有機鎖であるが、有機無機ハイブリッド硬化物の透明性向上や耐熱性向上のために、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基や3−(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシプロポキシル基が好ましい。また、RはCHまたはCである。
【0027】
この様な有機無機分子ハイブリッド化合物を導入することで、無機成分の部分縮合物と熱硬化樹脂前駆体とが分子オーダーで均一に混合し、ついで重合および三次元架橋してゲルすることで、分子レベルでの部分縮合物と樹脂前駆体との結合体が形成される。以上の様に分子レベルで強固に結合された有機無機分子ハイブリッド硬化物をマトリックス樹脂として使用することにより、光学的に均質なマトリックス樹脂が得られ、複合材料の光線透過率の向上につながる。
【0028】
さらに、本発明では、下記一般式(2)で表されるシランアルコキシドを添加することが好ましい。
-Si-(OR ・・・(2)
ここで、RはCHまたはC(フェニル基)であるが、Cの含有率を増やした方が屈折率を高める上で好ましい。しかし、芳香族系の有機鎖を導入することは、高屈折率化への効果が大きいが、高アッベ数化にもつながる。また、RはCHまたはCである。
シランアルコキシドの添加量は、Si原子とTi原子のモル比でSi/Ti=1以上が均質なマトリックス樹脂を得るためには好ましく、屈折率やアッベ数の光学特性改善のためにはSi/Ti=5以下が好ましい。
【0029】
本発明で使用する熱硬化性樹脂前駆体としては、その硬化物が透明であればいずれも使用できる。例えば透明性を有する、エポキシ樹脂、アリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂などの前駆体が使用できるが、透明性や耐熱性の向上のために、脂環式エポキシ樹脂前駆体が好ましく、中でも下記一般式(3)で表される脂環式エポキシ樹脂前駆体が好適である。
【0030】
【化1】

【0031】
さらに、主成分が下記一般式(4)で表されるダイセル化学工業(株)製「セロキサイド2021P」や主成分が下記一般式(5)で表されるダウケミカル社製「ERL X4360」などの可とう性エポキシ樹脂前駆体の使用は、透明性や耐熱性に加え、複合材料シートの靭性向上のために有効である。
【0032】
【化2】

【0033】
本発明における金属アルコキシドは、縮合を促進するため、水、酸、塩基などを加えて、加水分解しておくことが好ましい。加水分解で生成したCOH、COH、COHなどのアルコールは、予め有機溶媒と共に100℃以下、好ましくは80℃以下の減圧蒸留で除去しておくと良いが、縮合が進行しすぎるとゲル化して目的のハイブリッド硬化物が得られなくなるので減圧蒸留の温度、圧力、時間など注意を要する必要がある。
【0034】
また、エポキシ樹脂の硬化剤として、アミン系化合物や熱または光カチオン重合開始剤の添加も可能であるが、チタニウムアルコキシドを含有する金属アルコキシドの部分縮合物を使用することにより、これらの硬化剤を添加しなくてもチタニウムアルコキシドの触媒作用で、エポキシ樹脂の開環重合を進行させることが可能である。
【0035】
本発明で使用する金属アルコキシドの部分縮合物と熱硬化性樹脂前駆体との均一混合体は、粘度調整のためにテトラヒドロフラン、メチルセルソルブ、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテートなどの溶剤で希釈して使用することができる。
【0036】
本発明の無機繊維で補強してなる透明複合材料の製造方法は特に限定されない。例えば、所定の部分縮合物と熱硬化性樹脂前駆体とを均一混合し、無機繊維に含浸し、混合液と無機繊維との界面を十分に濡らし、無機繊維束内の残留気泡等を十分除去する。部分縮合物や熱硬化性樹脂前駆体の三次元架橋が急激に進まない様に100℃以下の温度で徐々に揮発成分を乾燥し重合およびゲル化が進んだところで、プレス成型で熱硬化させるのが好ましい。また、プレス成型でバルク樹脂が若干収縮し表面凹凸が発生するため、プレス成型後の複合材料表面を研磨して表面平滑化することも、光線透過率の向上に有効である。
100μm以上の厚みの成型体を製造する場合には、100℃以下の温度で乾燥し重合およびゲル化が進んだプレシートを多数積層してプレス成型することも可能である。
透明複合材料の形状は、シート状成形体が好ましい。ガラスクロスを用いる場合、ガラスクロスの取り扱い性を考慮すると、シート状成形体の厚みは、20μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。厚みの上限は、プレス成型時の収縮を考慮すると、5mm以下が好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また透明複合材料の評価は以下の方法による。
[屈折率及びアッベ数の測定]
アタゴ社製の多波長アッベ屈折計DRM−2型を用いて、23℃の温度で、波長589nmの屈折率を測定した。浸漬液には1−ブロモナフタレンを使用した。また、波長656nm、589nm、486nmの屈折率を測定してアッベ数を求めた。
[光線透過率の測定]
日本分光(株)製の紫外可視分光光度計V−560型を用いて、波長589nmの光線透過率を測定し、光線透過率(或いは、D線の光線透過率)とした。
また、広い波長範囲で光線透過率が保持されていることを確認するため、波長656nm及び486nmの屈折率を測定して、それぞれC線及びF線の光線透過率とした。
【0038】
[実施例1]
ジフェニルジメトキシシラン49g、ジメチルジメトキシシラン6g、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン25gに蒸留水6g、蟻酸4g、溶媒(ジエチレングリコールジメチルエーテル)61gの混合溶液を加え、30℃で2hr攪拌した。チタニウムテトラ−n−ブトキサイド34gを攪拌しながら滴下し、40℃で4hr攪拌、70℃で4hr攪拌した。さらに、70℃で攪拌しながら徐々に減圧し、最終的には20Torrの圧力下で揮発成分を除去し、可とう性脂環式エポキシ樹脂前駆体(ダウケミカル社製「ERL X4360」)34gを70℃で攪拌しながら混合し、均一混合体とした。
この均一混合体をEガラス(屈折率1.558、アッベ数59)繊維から成る厚さ50μmのガラスクロス(旭シュエーベル(株)製)に含浸した。次に70℃で20hr真空乾燥後、100℃で2hr、150℃で2hrプレス成型して厚さ100μmの靭性のある透明複合材料を得た。光線透過率は90%であり、広い波長範囲で光線透過率が保持されていた。
また均一混合体をガラスクロスなしで同様にプレス成型して厚さ50〜100nmの硬化物薄片を製作し、屈折率及びアッベ数を測定した。屈折率は1.563、アッベ数は44であった。
【0039】
[実施例2]
ジフェニルジメトキシシラン49g、ジメチルジメトキシシラン6g、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン25gに蒸留水6g、蟻酸4g、溶媒(ジエチレングリコールジメチルエーテル)61gの混合溶液を加え、30℃で2hr攪拌した。チタニウムテトラ−n−ブトキサイド17gとジルコニウム−n−ブトキサイドの80重量%n−ブタノール溶液24g(アズマックス(株)試薬)の混合液を攪拌しながら滴下し、40℃で4hr攪拌、70℃で4hr攪拌した。さらに、70℃で攪拌しながら徐々に減圧し、最終的には20Torrの圧力下で揮発成分を除去し、可とう性脂環式エポキシ樹脂前駆体(ダウケミカル社製「ERL X4360」)21gを70℃で攪拌しながら混合し、均一混合体とした。
この均一混合体を実施例1と同様の条件でプレス成型して厚さ100μmの靭性のある透明複合材料を得た。光線透過率は88%であり、広い波長範囲で光線透過率が保持されていた。また同様に硬化物切片の屈折率及びアッベ数を測定した。屈折率は1.556、アッベ数は44であった。
【0040】
[実施例3]
ジフェニルジメトキシシラン24g、ジメチルジメトキシシラン6g、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン25gに蒸留水5g、蟻酸3g、溶媒(ジエチレングリコールジメチルエーテル)41gの混合溶液を加え、30℃で2hr攪拌した。チタニウムテトラ−n−ブトキサイド68gを攪拌しながら滴下し、40℃で4hr攪拌、70℃で4hr攪拌した。さらに、70℃で攪拌しながら徐々に減圧し、最終的には20Torrの圧力下で揮発成分を除去し、可とう性脂環式エポキシ樹脂前駆体(ダウケミカル社製「ERL X4360」)40gを70℃で攪拌しながら混合し、均一混合体とした。
この均一混合体を実施例1と同様の条件でプレス成型して厚さ110μmの靭性のある透明複合材料を得た。光線透過率は89%であり、広い波長範囲で光線透過率が保持されていた。また同様に硬化物切片の屈折率及びアッベ数を測定した。屈折率は1.568、アッベ数は48であった。
【0041】
[実施例4]
ジフェニルジメトキシシラン49g、ジメチルジメトキシシラン6g、3−エチル−3−(3−トリエトキシシリルプロポキシメチル)オキセタン25gに蒸留水6g、蟻酸4g、溶媒(ジエチレングリコールジメチルエーテル)61gの混合溶液を加え、30℃で2hr攪拌した。チタニウムテトラ−n−ブトキサイド34gを攪拌しながら滴下し、40℃で4hr攪拌、70℃で4hr攪拌した。さらに、70℃で攪拌しながら徐々に減圧し、最終的には20Torrの圧力下で揮発成分を除去し、可とう性脂環式エポキシ樹脂前駆体(ダウケミカル社製「ERL X4360」)34gを70℃で攪拌しながら混合し、均一混合体とした。
この均一混合体を実施例1と同様の条件でプレス成型して厚さ95μmの靭性のある透明複合材料を得た。光線透過率は91%であり、広い波長範囲で光線透過率が保持されていた。また同様に硬化物切片の屈折率及びアッベ数を測定した。屈折率は1.559、アッベ数は43であった。
【0042】
[比較例1]
ジメチルジメトキシシラン6g、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン25gに蒸留水3g、蟻酸2gを溶媒(ジエチレングリコールジメチルエーテル)21gの混合溶液を加え、30℃で2hr攪拌し、70℃で4hr攪拌した。さらに、70℃で攪拌しながら徐々に減圧し、最終的には20Torrの圧力下で揮発成分を除去し、可とう性脂環式エポキシ樹脂前駆体(ダウケミカル社製「ERL X4360」)11gを70℃で攪拌しながら混合し、均一混合体とした。
この均一混合体を実施例1と同様の条件でプレス成型して厚さ100μmの靭性はあるがガラスクロス部分がやや白濁して見える複合体を得た。光線透過率は66%であり、乱屈折により平行光線が減少し、C線、D線、F線いずれの波長でも光線透過率は80%以下であった。また同様に硬化物切片の屈折率及びアッベ数を測定した。屈折率は1.513、アッベ数は51であった。
【0043】
[比較例2]
ジフェニルジメトキシシラン24g、ジメチルジメトキシシラン6g、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン25gに蒸留水5g、蟻酸3g、溶媒(ジエチレングリコールジメチルエーテル)41gの混合溶液を加え、30℃で2hr攪拌した。40℃で4hr攪拌、70℃で4hr攪拌した。さらに、70℃で攪拌しながら徐々に減圧し、最終的には20Torrの圧力下で揮発成分を除去し、芳香族エポキシ樹脂前駆体(ジャパンエポキシレジン(株)「エピコート828」)30gを70℃で攪拌しながら混合し、均一混合体とした。
この均一混合体を実施例1と同様の条件でプレス成型して厚さ120μmの硬くてやや青みのある複合体を得た。全光線透過率は88%であり、F線ではさらに低下し72%であった。また同様に硬化物切片の屈折率及びアッベ数を測定した。屈折率は1.563、アッベ数は37であった。
【0044】
実施例1〜3、比較例1〜2の均一混合体の配合を表1に、分子ハイブリッド硬化物及び透明複合材料の評価結果を表2に示す。ここで、Ti化合物はチタニウムテトラ−n−ブトキサイド、Zr化合物はジルコニウム−n−ブトキサイドの80重量%n−ブタノール溶液、Si化合物(DP)はジフェニルジメトキシシラン、Si化合物(DM)はジメチルジメトキシシラン、Si化合物(EC)は(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、Si化合物(OX)は3−エチル−3−(3−トリエトキシシリルプロポキシメチル)オキセタン、脂環式エポキシ樹脂前駆体はダウケミカル社製「ERL X4360」、脂環式エポキシ樹脂前駆体はジャパンエポキシレジン(株)「エピコート828」である。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の透明複合材料は、高屈折率で、光線透過率が高く、強度、剛性、靭性、耐熱性、ガスバリア性、熱膨張率、複屈折率などが従来のプラスチック材料に比べて優れているので、タッチパネル、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機EL表示素子装置、液晶表示装置、プロジェクションテレビ等の透明基板やレンズシートの材料として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルコキシドの部分縮合物と熱硬化性樹脂前駆体とを均一混合し、次いで重合およびゲル化して得られる有機無機分子ハイブリッド硬化物をマトリックス樹脂とし、無機繊維を補強材としてなる複合材料であって、該硬化物および無機繊維の屈折率が1.55以上且つアッベ数が40以上であり、該複合材料の光線透過率が80%以上である、透明複合材料。
【請求項2】
前記金属アルコキシドが、少なくともチタニウムアルコキシドを含有することを特徴とする、請求項1記載の透明複合材料。
【請求項3】
前記金属アルコキシドが、少なくともチタニウムアルコキシドとシランアルコキシドとを含有することを特徴とする、請求項1記載の透明複合材料。
【請求項4】
金属アルコキシドが、少なくともチタニウムアルコキシドと、下記一般式(1)または一般式(2)で表されるシランアルコキシドからなる群より選ばれる少なくとも一種とからなることを特徴とする、請求項1記載の透明複合材料。
−Si−(OR ・・・(1)
−Si−(OR ・・・(2)
は脂環式エポキシ基またはオキセタン基を有する有機鎖、R、RはCHまたはC、RはCHまたはC
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂前駆体が脂環式エポキシ樹脂前駆体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の透明複合材料。
【請求項6】
熱硬化性樹脂前駆体が、下記一般式(3)で表される脂環式エポキシ樹脂前駆体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の透明複合材料。
【化1】

【請求項7】
ガラス繊維がEガラスであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の透明複合材料。
【請求項8】
ガラス繊維がガラスクロスであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の透明複合材料。
【請求項9】
厚みが50μm以上5mm以下のシート状成形体であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の透明複合材料。

【公開番号】特開2007−91965(P2007−91965A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285781(P2005−285781)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(591030499)大阪市 (64)
【Fターム(参考)】