説明

透析患者用栄養補助剤

【課題】本発明は、新規透析患者用栄養補助剤を提供することを目的とする。また、本発明は、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビタミンCおよびビタミンEを含む、透析患者用栄養補助剤を提供することを目的とする。さらに、本発明は、チュアブル錠の形態での透析患者用栄養補助剤を提供することを目的とする。
【解決手段】ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビタミンCおよびビタミンEを含む、透析患者用栄養補助剤を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析患者用栄養補助剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビタミンCおよびビタミンEを含む、透析患者用栄養補助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は老廃物を尿として体外に排泄したり、尿の濃さや量を調節して生体中の水分を一定に保つ機能を有する。腎機能が低下すると生体内の老廃物を十分排泄できなくなる。腎機能が正常の30%以下に低下した状態を腎不全という。さらに腎機能が10%未満まで進行すると透析治療(人工透析)が必要な状態となる。
【0003】
多くの透析患者は、透析患者特有の胃腸障害や皮膚掻痒感を軽減する目的でビタミンを健康食品、サプリメントやOTC薬の形で使用している。また、腎不全患者では厳しい食餌療法や食欲不振、透析による除去のため、補充すべきビタミン成分がある。
【0004】
一方、透析患者の場合、排泄経路が腎臓である物質や腎臓で代謝される物質は、通常の摂取量でも摂取過剰となることがある。さらにネフローゼ症候群の患者ではタンパク結合したビタミンが排泄されたり、特定の薬物の併用によりビタミンの吸収・代謝・排泄が妨害されることがある。
【0005】
医療用医薬品、OTC薬、食品として現在販売されているビタミン剤・ビタミンマルチサプリメントには腎不全で有害なビタミンAや不要なビタミンD、抗シュウ酸血症を起こすような過剰のビタミンCが入っていることがある。一方、腎不全で不足しがちなビタミンB6や葉酸などが十分に入っていないことが多い。透析患者の水溶性マルチビタミン剤服用者は非服用者に比し生命予後がよいことも報告されており(非特許文献1、2)、透析患者の病態に適したマルチビタミンサプリメントが必要と考えられる(非特許文献3)。
【0006】
【非特許文献1】Domroese U.et al:J.Clin.Nephrol.67:221−229,2007
【非特許文献2】Fissell RB,et al:Am.J.Kidney Dis.44:293−299,2004
【非特許文献3】平田純生、藤田みのり編・著: 腎不全と健康食品・サプリメント・OTC薬、南江堂、2006年
【0007】
既に透析患者用栄養補助剤としてのマルチビタミンサプリメントは種々の製品が市販されている。しかしながら、配合成分や含有量の点で十分に透析患者に適合したものとはいえなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規透析患者用栄養補助剤を提供することを目的とする。特に、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビタミンCおよびビタミンEを必須成分として含有する、透析患者用栄養補助剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、栄養補助剤の成分に関して多角的に検討を行ったところ、透析患者にとって最適なビタミン含有栄養補助剤の開発に成功した。
周知のように、ビタミンは、人間が生きていくために必要な成分であって、体内の栄養素の働きをスムーズにしたり、身体の調子を整えたりする物質である。その必要量は微量であるが、体内で生合成することができないか、できても十分ではないため、外部(たとえば食物)から摂取する必要がある。摂取が不足すると種々の欠乏症状が発現するため、常に適量を摂取しなければならないが、摂り過ぎると過剰症の発現が問題となる。
特に腎不全患者の場合、食欲不振によりビタミン摂取不足に陥りやすく、ビタミンと結合する蛋白質の上昇、さらにネフローゼ症候群の患者では蛋白結合したビタミンが排泄されたり、ある種の薬物の併用によりビタミンの吸収・代謝・排泄が妨害されることがある。腎不全患者である種のビタミンが過剰となっている、あるいは欠乏しているとの報告がこれまでに多数存在するが、報告によってまちまちであり、必ずしも一定の結論が得られているわけではない。
本発明者らは、種々のビタミンについて、透析患者にどれが供給される必要であり、どれが供給される必要がないか、そして供給される必要がある場合には、どのような量の供給が必要であるかを詳細に検討し、透析患者にとって最適なビタミン含有栄養補助剤の組成を確立するに至った。
【0010】
本発明は、1つの態様において、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビタミンCおよびビタミンEを含む、透析患者用栄養補助剤を提供する。
【0011】
別の態様において、本発明は、必須ビタミン成分としてビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビタミンCおよびビタミンEのみを含む、透析患者用栄養補助剤を提供する。
【0012】
更に別の態様において、本発明は、1錠あたりビタミンB1を1.2〜2.7mg、ビタミンB2を1.44〜3.24mg、ビタミンB6を8〜18mg、ビタミンB12を2.4〜5.4μg、ナイアシンを16〜36mg、パントテン酸を4〜9mg、葉酸を800〜1800μg、ビタミンCを48〜108mgおよびビタミンEを12〜22.5μg、好ましくは1錠あたりビタミンB1を約1.5mg、ビタミンB2を約1.8mg、ビタミンB6を約10mg、ビタミンB12を約3μg、ナイアシンを約20mg、パントテン酸を約5mg、葉酸を約1000μg、ビタミンCを約60mgおよびビタミンEを約15μg含む、透析患者用栄養補助剤を提供する。
【0013】
更にまた別の態様において、本発明は、チュアブル錠形態の上記したような透析患者用栄養補助剤を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本願発明の組成物は、透析患者に不足しがちなビタミンを適当な量で含有しているため、透析患者の栄養状態、とりわけビタミン状態の改善を目的として使用できる。また、チュアブル錠形態での投与は、水分摂取の制限を課されている透析患者への投与に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
用語の定義
本明細書中において使用される用語は、指示がない限り、当業者によって通常理解される通りの意味で用いられている。
【0016】
栄養補助剤とは、別名、サプリメントとも言い、食事で摂りきれない栄養素を補うために摂取する栄養補助食品のことを意味する。
【0017】
透析患者用栄養補助剤とは、透析患者が栄養状態、とりわけビタミン状態の改善を目的として摂取する栄養補助剤のことを意味する。
【0018】
本発明の透析患者用栄養補助剤は、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビタミンCおよびビタミンEを含む。これら必須ビタミン成分に加え、甘味料、香味料、賦形剤など常用の添加剤を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の透析患者用栄養補助剤は、1日あたりビタミンB1を1.2〜2.7mg、ビタミンB2を1.44〜3.24mg、ビタミンB6を8〜18mg、ビタミンB12を2.4〜5.4μg、ナイアシンを16〜36mg、パントテン酸を4〜9mg、葉酸を800〜1800μg、ビタミンCを48〜108mgおよびビタミンEを12〜22.5μg、好ましくは、1日あたりビタミンB1を約1.5mg、ビタミンB2を約1.8mg、ビタミンB6を約10mg、ビタミンB12を約3μg、ナイアシンを約20mg、パントテン酸を約5mg、葉酸を約1000μg、ビタミンCを約60mgおよびビタミンEを約15μg投与するに適した剤形を有する。服用の便宜上、上記の量を1錠に含有させるのが好ましい。
【0020】
上記ビタミン成分に加え、適宜他のビタミンを配合することも可能であるが、好ましくは上記成分のみを使用する。たとえば、ビタミンAは腎不全患者に投与した場合、高カルシウム血症、皮膚症状、脱毛などが発現したとする報告があるので、その配合を避けるのが好ましい。ビタミンDは、腎不全患者の場合、腎による活性化が低下しているため、その効果が認められないので、これを配合する必要性が認められない。ビタミンKは、通常は食物由来のものと腸内細菌によって合成されたもので十分と考えられ、腎不全患者でも、栄養摂取不良者や抗菌薬投与患者のような特別の場合を除き、これを投与する必要性がない。ビオチンは、尿中排泄されるため、腎不全患者では欠乏することがなく、血清ビオチン濃度は健常者よりも高いという報告も多いので、特に栄養補助剤により摂取する必要がない。
【0021】
他方、1錠あたりの上記ビタミン成分の配合量は、1日あたりの投与量に相当する。すなわち、上記ビタミン成分の個々について、詳細に検討を加えた結果、必要かつ充分な投与量を決定し、それに基づいて上記配合量を採用したものである。たとえば、ビタミンEは抗酸化作用を有するので、酸化的ストレス下にある腎不全患者にとって重要な役割を果たすものであり、その投与は冠血管障害のリスクを軽減するとされていた。このため、従来はその投与量を健常者に対する推奨摂取量(15μg/日)よりも高用量とするのが普通であったが、近年、ビタミンE高用量投与群のほうが死亡率が高いとの報告も行われている。従って、本発明者らは、検討の結果、腎不全患者にとって、健常者に対する上記推奨摂取量でも十分であることを確認し、本発明栄養補助剤では、12〜22.5μg/日、特に約15μg/日に相当する配合量を採用している。また、ビタミンCについても、腎不全患者は酸化ストレスにより、欠乏状態のビタミンCがより減少するため、その補給が必要であるが、従来の栄養補助剤の多くについて推奨されている約1000mg/日
では過量であると考えられるので、本発明栄養補助剤では、それよりも遥かに少量の48〜108mg/日、特に約60mg/日に相当する配合量を採用している。
【0022】
本発明の透析患者用栄養補助成分を含有する組成物は、摂取することによって透析患者の栄養状態、とりわけビタミン状態の改善をもたらす適宜の形態であってよい。摂取には、透析患者の場合、水分の制限が課されていることから経口によるものが好ましいが、これに限られない。経口による投与は、錠剤形態の製剤をそのまま嚥下するか、口中で咀嚼するか、又は舌下に投与する。特に水無しで摂取できるチュアブル錠が好適である。
【0023】
チュアブル錠は、有効成分と、有効成分の苦味などをマスキングするための甘味料、香味料、賦形剤などの混合物を直接圧縮打錠して製造される。例えば甘味料としては、アスパルテーム・L−フェニルアラニン化合物、ソーマチンなど、賦形剤としては、還元麦芽糖水飴、難消化性デキストリン、トレハロース、エリスリトール、グリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
【0024】
本発明の透析患者用栄養補助剤は、必要に応じ、適当な他の組成物、たとえば医薬組成物、サプリメントなどと併用されてもよい。
【実施例】
【0025】
実施例1
ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンEおよび葉酸を含むチュアブル錠剤:
【0026】
組成
【表1】

【0027】
グルコン酸カリウムとエリスリトールを粉砕後、混合機に投入する。これに、グリセリン脂肪酸エステル、リン酸三カルシウムおよびデキストリンの混合物を加え、さらに逐次、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸およびパントテン酸カルシウムの混合物、ビタミンB1、ビタミンE含有植物油、甘味料(アスパルテーム、ネオサンマルクDC)およびニコチン酸アミドの混合物、トレハロースおよび香料の混合物、還元麦芽糖水飴とビタミンCの混合物を加える。仕込み全量を50〜320kgとし、均一となるまで混合する。
【0028】
得られた均一混合物を次の作業条件で打錠し、60錠毎に瓶詰めして製品とする。
錠型:小卵、コレクト機指定、25〜30回転、撹拌フィードシュー使用。
平均重量:300±7mg、平均硬度:8.0±3.0kg/cm(実測4kg/cm)、平均錠厚:4.8±0.2mm。
【0029】
実施例2
1錠あたりビタミンB1(1.5mg)、ビタミンB2(1.8mg)、ビタミンB6(10mg)、ビタミンB12(3μg)、ナイアシン(20mg)、パントテン酸(5mg)、葉酸(1000μg)、ビタミンC(60mg)およびビタミンE(15μg)を含むチュアブル錠剤:
【0030】
ビタミンB1(150g)、ビタミンB2(180g)、ビタミンB6(1000g)、ビタミンB12(0.3g)、ナイアシン(2000g)、パントテン酸(500g)、葉酸(100g)、ビタミンC(6000g)およびビタミンE(1.5g)を、実施例1に記載の割合に準じて使用する他の添加剤と共に混合し、この混合物を打錠してチュアブル錠剤100,000錠を得る。
【0031】
本発明は、本明細書に記載した特定の態様による範囲に限定されるべきではない。実際に、本明細書に記載したものに加えて、本発明の様々な修飾が、上記の記載から当業者に明らかになるであろう。そのような修飾は、添付した特許請求の範囲に包含されることを意図する。
【0032】
本願明細書に開示している文献は、それらの全体を引用により本明細書の一部とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビタミンCおよびビタミンEを含む、透析患者用栄養補助剤。
【請求項2】
ビオチンを含まない、請求項1記載の栄養補助剤。
【請求項3】
必須ビタミン成分としてビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビタミンCおよびビタミンEのみを含む、透析患者用栄養補助剤。
【請求項4】
1日あたりビタミンB1を1.2〜2.7mg、ビタミンB2を1.44〜3.24mg、ビタミンB6を8〜18mg、ビタミンB12を2.4〜5.4μg、ナイアシンを16〜36mg、パントテン酸を4〜9mg、葉酸を800〜1800μg、ビタミンCを48〜108mgおよびビタミンEを12〜22.5μg投与するのに適した剤形である、請求項1〜3のいずれか記載の栄養補助剤。
【請求項5】
1錠あたりビタミンB1を1.2〜2.7mg、ビタミンB2を1.44〜3.24mg、ビタミンB6を8〜18mg、ビタミンB12を2.4〜5.4μg、ナイアシンを16〜36mg、パントテン酸を4〜9mg、葉酸を800〜1800μg、ビタミンCを48〜108mgおよびビタミンEを12〜22.5μg含む、請求項1〜4のいずれか記載の栄養補助剤。
【請求項6】
1錠あたりビタミンB1を約1.5mg、ビタミンB2を約1.8mg、ビタミンB6を約10mg、ビタミンB12を約3μg、ナイアシンを約20mg、パントテン酸を約5mg、葉酸を約1000μg、ビタミンCを約60mgおよびビタミンEを約15μg含む、請求項5に記載の栄養補助剤。
【請求項7】
剤形がチュアブル錠である、請求項1〜6のいずれか記載の栄養補助剤。

【公開番号】特開2009−269824(P2009−269824A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119004(P2008−119004)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000238201)扶桑薬品工業株式会社 (42)
【Fターム(参考)】