説明

通信回線点検方法及び通信回線点検装置

【課題】通信回線を維持しながら、データ信号のレベル低下に対する異常検出機能の劣化を早期に判断する
【解決手段】遠隔監視システム1は、遠制装置2と、監視装置3とが、2つの通信回線4を介して接続される。遠制装置2は、モデム21、回線断レベル点検回路22、操作部23、処理部24及び記憶部25を備える。モデム21は、監視装置3との間でデータ信号を送受信する。回線断レベル点検回路22は、通信回線4ごとに、データ信号を減衰させてモデム21に出力する減衰器を備える。処理部24は、定期的に、2つの通信回線4が正常なときに、通信回線4ごとに、回線断レベル点検回路22に減衰率(0.1〜99.9db)を指定してデータ信号を減衰させ、モデム21が回線異常を検出したときの減衰率を特定する。いずれかの通信回線4について特定した減衰率が許容範囲外であれば、モデム21により、回線異常を示す警報を監視装置3に送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定期的に、回線断を検出するときの、データ信号のレベルを点検する通信回線点検方法及び通信回線点検装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発変電所等に設置されている遠隔監視制御装置(表示計測だけを行うテレメータ装置を含む。以下、「遠制装置」という)は、電力系統や水系施設の運用監視及び制御を健全かつ確実に実施する上で根幹となる装置である。
【0003】
従来から、遠制装置は、長期間に亘る高信頼性を確保すべく、製品の設計及び製造の段階から高品質の作りこみが行われ、現地に設置された後も定期的な点検等により健全性の維持が図られてきた。
【0004】
遠制装置は、装置本体と、制御個所との間の信号回線を含む、各部の異常を自動検出する機能を有し、異常を検出したときに誤った動作に至らないように、安全サイドに機能ロックされるようになっている。そして、異常が発生したことにより制御所からの監視及び制御ができなくなった場合には、現地に操作員を派遣し、遠制装置の修理が完了するまで、現地での人為運転が行われる。ところが、昨今は、遠隔監視及び制御の対象個所の集約化や、運転要員の効率的運用を図る上で、遠制装置に関係するトラブルは、以前にも増して忌避されるようになっている。
【0005】
現在の遠制装置は、通信制御や装置本体のプロセスが基本的にデジタル処理されることや、構成部品の信頼性が高いことにより、故障率は極めて低くなっている。ただし、通信系路上の電気的アナログ部分等に生ずる伝送損失の増減が不安要素となり、さらに、通信線路が公道付近等の一般公衆環境を経由しているので、自然災害や、第三者による事故の波及を受けて障害を生じる可能性がある。そこで、制御所〜被制御所間の通信回線は、異なるルートによる2系列化を図ることが一般的になり、運転上は常時2系列の通信回線を健全に維持しておくことが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−154268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、通信回線の不良には、通信装置の故障、通信ケーブルの断線、無線回線の障害等があるが、これらの不良は、災害や事故等による偶発的故障と、通信装置が異常を検出する信号レベルの低下(信号レベルが許容範囲の下限値より下がっても、異常を検出しない)等に見られる劣化的故障とに大別できる。偶発的故障は、予見し難いものであるが、劣化的故障は、前兆が把握できれば予見できる可能性が高い。
【0008】
従って、劣化的故障に対しては、定期的な点検を実施することにより、比較的早期に劣化判断が可能になる。ただし、頻繁に点検を行うと、維持コストの上昇や装置の稼動効率の低下になるという問題がある。このため、電力会社では、5〜6年周期を目安に点検を実施している。これは、2ルートを有していることにより、一方のルートが故障しても、他方のルートは維持できるという期待に基づくものである。
【0009】
しかしながら、通信回線が2ルート化されていても、夜間や休日に故障が発生した場合には、修理対応に時間がかかるおそれがある。
【0010】
なお、特許文献1には、減衰器の減衰率の変化に応じて、基地局で受信した受信電力及び受信データのエラー率を計算し、臨界値との比較結果に応じて移動局の送信出力を修正するリンク電力制御試験方法が開示されているが、2ルートの通信回線に対する異常検出レベルを点検するものではない。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、通信回線を維持しながら、データ信号のレベル低下に対する異常検出機能の劣化を早期に判断することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、2つの通信回線に接続され、いずれかの通信回線によりデータの送受信を行う通信装置が、回線断を検出するときのデータ信号のレベルを点検する通信回線点検方法であって、前記通信装置が前記通信回線の異常を検出すべき、当該通信回線のデータ信号のレベルのうち、最大値である最大信号レベルの許容範囲を記憶する第1ステップと、所定期間ごとに、前記通信回線の状態を確認し、2つの通信回線がともに正常である場合に、前記データ信号のレベルを変化させながら、前記通信装置が前記第1通信回線の異常を検出したときの前記最大信号レベルを第1最大信号レベルとして特定する第2ステップと、前記データ信号のレベルを変化させながら、前記通信装置が前記第2通信回線の異常を検出したときの前記最大信号レベルを第2最大信号レベルとして特定する第3ステップと、前記特定した第1最大信号レベル及び第2最大信号レベルのうち、少なくとも一方が前記許容範囲に含まれていない場合に、点検結果が不良であることを示す警報を出力する第4ステップと、を実行することを特徴とする。
【0013】
この方法によれば、所定期間ごとに、通信装置が回線異常を検出するときの、データ信号の最大レベルを点検するので、通信装置の劣化が発生してから、遅くとも所定期間以内に、劣化を判断できる。これによれば、所定期間を短く設定することにより、通信装置の劣化を早期に判断することができる。そして、2つの通信回線がともに正常な場合に、通信回線ごとに点検するので、その時点検していない方の通信回線は正常な状態を継続しているため、点検の最中にも通信を維持することができる。
【0014】
また、本発明は、2つの通信回線に接続され、いずれかの通信回線によりデータの送受信を行う通信装置が、回線断を検出するときのデータ信号の減衰率を点検する通信回線点検方法であって、前記通信装置が前記通信回線の異常を検出すべき、当該通信回線のデータ信号に加えられる減衰率のうち、最小値である最小減衰率の許容範囲を記憶する第1ステップと、所定期間ごとに、前記通信回線の状態を確認し、2つの通信回線がともに正常である場合に、前記データ信号の減衰率を変化させながら、前記通信装置が前記第1通信回線の異常を検出したときの前記最小減衰率を第1最小減衰率として特定する第2ステップと、前記データ信号の減衰率を変化させながら、前記通信装置が前記第2通信回線の異常を検出したときの前記最小減衰率を第2最小減衰率として特定する第3ステップと、前記特定した第1最小減衰率及び第2最小減衰率のうち、少なくとも一方が前記許容範囲に含まれていない場合に、点検結果が不良であることを示す警報を出力する第4ステップと、を実行することを特徴とする。
【0015】
この方法によれば、所定期間ごとに、通信装置が回線異常を検出するときの、データ信号の最小減衰率を点検するので、通信装置の劣化が発生してから、遅くとも所定期間以内に、劣化を判断できる。これによれば、所定期間を短く設定することにより、通信装置の劣化を早期に判断することができる。そして、2つの通信回線がともに正常な場合に、通信回線ごとに点検するので、その時点検していない方の通信回線は正常な状態を継続しているため、点検の最中にも通信を維持することができる。
【0016】
また、本発明の上記通信回線点検方法において、前記第2ステップの実行中に、前記第1通信回線の異常を示す警報を出力することを抑制し、前記第3ステップの実行中に、前記第2通信回線の異常を示す警報を出力することを抑制することとしてもよい。
【0017】
この方法によれば、最大信号レベル又は最小減衰率を特定する際には、データ信号を低下又は減衰させて、通信装置に異常を検出させるが、それに伴う警報の出力を抑制する。これによれば、点検を実施するために発生する、不必要な警報を出力するのを防止することができる。
【0018】
なお、本発明は、通信機能点検装置を含む。その他、本願が開示する課題及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、通信回線を維持しながら、データ信号のレベル低下に対する異常検出機能の劣化を早期に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】遠隔監視システム1の構成及び遠制装置2のハードウェア構成を示す図である。
【図2】回線断レベル点検回路22の構成を示す図である。
【図3】遠制装置2の記憶部25に記憶されるデータの構成を示す図であり、(a)は初期設定データ25Aの構成を示し、(b)は点検結果データ25Bの構成を示す。
【図4】遠制装置2の自動点検起動処理を示すフローチャートである。
【図5】遠制装置2の回線断レベル点検処理を示すフローチャートである。
【図6】遠制装置2の、点検処理の起動中に発生した回線故障を監視し、対応する処理を示すフローチャートである。
【図7】遠制装置2の、自動点検機能ロック中に警報出力を抑制する処理を示すフローチャートである。
【図8】点検回路の接続状態を示す図であり、(a)は自動点検起動処理時の状態を示し、(b)はAルート点検処理時の状態を示し、(c)はBルート点検処理時の状態を示し、(d)は点検結果判定処理時の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を説明する。本発明の実施の形態に係る遠隔監視制御装置(遠制装置)は、制御所の監視装置との間に設けられる2ルートの通信回線の両方が正常な場合に、まず、一方の回線に対して可変減衰器を挿入して、回線断を検出するときの減衰率を特定した後、可変減衰器を取り外し、次に、他方の回線に対して可変減衰器を挿入して、回線断を検出するときの減衰率を特定し、特定したいずれかの減衰率が許容範囲外であれば、異常を示す警報を監視装置に送信する。このとき、監視装置は、遠制装置から警報を受信し、不良の回線を表示する。なお、一方の回線に対して可変減衰器を挿入する際には、他方の回線の正常状態が確保されるので、監視装置と、遠制装置との間は通信可能に維持される。
これによれば、通信回線の正常状態を確保しながら、回線異常の検出機能の劣化を早期に判断し、速やかに対応することができる。
【0022】
≪システムの構成と概要≫
図1は、遠隔監視システム1の構成及び遠制装置2のハードウェア構成を示す図である。遠隔監視システム1は、発変電所等の状況を遠隔から監視するためのシステムであり、遠制装置2と、監視装置3とが、通信回線4を介して接続され、相互に通信可能に構成される。遠制装置2は、発変電所等の付近に設置され、電力系統や水系施設の各部位に関する計測情報や、通信回線4に関する警報等を監視装置3に送信する。監視装置3は、制御所に設置され、遠制装置2から計測情報や警報等を受信し、表示する。通信回線4は、2ルート化されており、通信回線4A(以下、Aルート回線という)と、通信回線4B(以下、Bルート回線という)とがある。
【0023】
遠制装置2は、モデム21、回線断レベル点検回路22、操作部23、処理部24及び記憶部25を備え、各部がバス26を介してデータを送受信可能なように構成される。モデム21は、遠制装置2内で取得したデジタルデータをアナログ信号に変換して、通信回線4に送信し、一方、通信回線4から受信したアナログ信号をデジタルデータに変換して、遠制装置2内に出力する。回線断レベル点検回路22は、Aルート回線及びBルート回線のそれぞれに接続される、2個の点検回路からなり、各点検回路は、通信回線4のデータ信号を減衰させてモデム21に出力する減衰器(アッテネータ。以下、ATTという)を備える。特に、処理部24から指定された減衰率(0.1〜99.9db)をATTに設定する。操作部23は、オペレータにマンマシンインタフェースを提供する部分であり、例えば、キーボード、ディスプレイ、タッチパネル等によって実現される。処理部24は、所定のメモリを介して各部間のデータの受け渡しを行うととともに、遠制装置2全体の制御を行うものであり、CPU(Central Processing Unit)が所定のメモリに格納されたプログラムを実行することによって実現される。特に、モデム21が受信するデータ信号の基準電力レベルがあり、その基準電力レベルからどのくらい下がったときに、モデム21が回線断と判断するかを測定する。記憶部25は、処理部24からデータを記憶したり、記憶したデータを読み出したりするものであり、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の不揮発性記憶装置によって実現される。
【0024】
図2は、回線断レベル点検回路22の構成を示す図である。回線断レベル点検回路22のうち、1個の点検回路は、No.1〜9、No.11〜19、No.21〜29を含む27個のATTを備える。以下、例えば、No.1のATTをATT1という。ATT1〜ATT9は、減衰率が0.1dbの減衰器であり、順次直列接続されるとともに、スイッチSW1及びSW2の切替により、ATT1、ATT1及び2、ATT1〜3、・・・の組合せが、通信回線4の途中に挿入される。これにより、0.1〜0.9dbの減衰率が設定可能になる。
【0025】
ATT11〜ATT19は、減衰率が1dbの減衰器であり、順次直列接続されるとともに、スイッチSW11及びSW12の切替により、ATT11、ATT11及び12、ATT11〜13、・・・の組合せが、通信回線4の途中に挿入される。これにより、1〜9dbの減衰率が設定可能になる。
【0026】
ATT21〜ATT29は、減衰率が10dbの減衰器であり、順次直列接続されるとともに、スイッチSW21及びSW22の切替により、ATT21、ATT21及び22、ATT21〜23、・・・の組合せが、通信回線4の途中に挿入される。これにより、10〜90dbの減衰率が設定可能になる。
【0027】
点検回路は、スイッチSW1、SW2、SW11、SW12、SW21及びSW22を切り替えることにより、0.1〜99.9dbの減衰率が設定可能である。例えば、23.1dbの減衰率を設定する際には、スイッチSW1をATT1に切り替え、スイッチSW2をATT1とATT2の間に切り替え、スイッチSW11をATT11に切り替え、スイッチSW12をATT13とATT14の間に切り替え、スイッチSW21をATT21に切り替え、スイッチSW22をATT22とATT23の間に切り替える。
【0028】
≪データの構成≫
図3は、遠制装置2の記憶部25に記憶されるデータの構成を示す図である。記憶部25は、回線断レベルの点検用に、初期設定データ25A及び点検結果データ25Bを記憶する。
【0029】
図3(a)は、初期設定データ25Aの構成を示す。初期設定データ25Aは、点検処理を実施する前に設定されるデータであり、点検周期25A1、点検時刻25A2及びマージン規定値25A3を含む。点検周期25A1は、点検を行う周期(実施間隔)を示し、例えば、1週間(7日間)等が設定される。点検時刻25A2は、点検を開始する時刻を示し、例えば、12時(正午)等が設定される。点検周期25A1及び点検時刻25A2により点検日時を平日の昼間に設定すれば、作業員を確保しやすくなるので、異常時の対応を早期に開始することができる。マージン規定値25A3は、モデム21が回線断を検出すべき減衰率の許容範囲を示し、例えば、10〜15db等が設定される。
【0030】
図3(b)は、点検結果データ25Bの構成を示す。点検結果データ25Bは、回線断レベルを点検した結果の履歴を蓄積するデータであり、点検日時25B1、Aルート検出値25B2、Bルート検出値25B3及び判定結果25B4を含む、実施された点検ごとのレコードからなる。点検日時25B1は、点検を実施した日時を示す。Aルート検出値25B2は、モデム21がAルート回線の回線断を検出したときの減衰率を示す。Bルート検出値25B3は、モデム21がBルート回線の回線断を検出したときの減衰率を示す。判定結果25B4は、Aルート検出値25B2及びBルート検出値25B3が、マージン規定値25A3の範囲内か否かを判定した結果を示し、Aルートの点検結果が良好か不良か、及び、Bルートの点検結果が良好か不良かが設定される。
【0031】
≪装置の処理≫
図4〜7は、遠制装置2の点検に関連する処理を示すフローチャートである。遠制装置2では、主として処理部24が、モデム21により監視装置3との間でデータの送受信を行いつつ、モデム21及び回線断レベル点検回路22を用いて、記憶部25のデータを参照、更新しながら、モデム21が回線断を検出する際の減衰率を確認し、劣化を検出する。
【0032】
図4は、点検起動処理を示すフローチャートである。本処理では、回線断レベルの点検処理を実施すべき状況になっているか否かをチェックし、条件を満たせば、点検処理を起動する。点検処理を起動する方法には、遠制装置2が所定期間ごとに自動的に起動する自動点検と、遠制装置2がオペレータ操作による手動点検指令を受けて起動する手動点検とがある。なお、点検処理を起動する前には、図8(a)に示すように、Aルート回線、Bルート回線ともに、回線断レベル点検回路22のATTが接続されない状態になっている。
【0033】
まず、遠制装置2は、初期設定データ25Aを確認する(S401)。詳細には、記憶部25の初期設定データ25Aを参照し、点検周期25A1、点検時刻25A2及びマージン規定値25A3が設定されているか否かを確認する。設定されていなければ、その旨のメッセージを操作部23に表示して、オペレータに対して各データの入力を促す。
【0034】
次に、遠制装置2は、操作部23から手動点検指令を受信しているか否かを判定する(S402)。受信していれば(S402のYes)、S405の処理に進む。受信していなければ(S402のNo)、現在日時が点検周期25A1及び点検時刻25A2による点検日時か否かを判定する(S403)。当該点検日時であれば(S403のYes)、モデム21により、自動点検機能ロック中(監視装置3から自動点検機能ロック指令を受信した)か否かを判定する(S404)。なお、自動点検機能ロック指令は、通信回線の作業を実施するために回線を停止する際に、監視装置3から遠制装置2に送信され、遠制装置2において自動点検の起動を抑止するための制御指令である。自動点検機能ロック中でなければ(S404のNo)、Aルートの回線故障があるか否かを判定する(S405)。Aルートの回線故障がなければ(S405のNo)、Bルートの回線故障があるか否かを判定する(S406)。Bルートの回線故障がなければ(S406のNo)、回線断レベル点検処理を実施する(S407)。その詳細は、図5で説明する。その後、S401の処理に戻る。
【0035】
点検日時になっていない場合(S403のNo)、自動点検機能ロック中の場合(S404のYes)、Aルートの回線故障があった場合(S405のYes)、又は、Bルートの回線故障があった場合(S406のYes)には、回線断レベル点検処理を行わず、S401に戻る。なお、回線故障が発生している場合には、以前の検出時点で既に制御所の監視装置3に警報が送信、表示されており、回線故障の復旧対応が開始されていると考えられるので、警報の出力は行わない。
【0036】
図5は、図4のS407の回線断レベル点検処理を示すフローチャートである。本処理では、最初に、Aルート回線点検処理が行われ、次に、Bルート回線点検処理が行われ、その後、点検結果の判定処理が行われる。
【0037】
なお、Aルート回線点検処理の際には、図8(b)に示すように、Aルート回線に回線断レベル点検回路22のATTが接続されるが、Bルート回線には接続されない状態になっている。次に、Bルート回線点検処理の際には、図8(c)に示すように、Bルート回線に回線断レベル点検回路22のATTが接続されるが、Aルート回線には接続されない状態になっている。そして、点検結果判定処理の際には、図8(d)に示すように、Aルート回線、Bルート回線ともに、回線断レベル点検回路22のATTが接続されない状態になっている。
【0038】
まず、遠制装置2は、Aルート回線故障に関する警報出力を抑制する(S501)。例えば、記憶部45に抑制フラグをセットし、抑制フラグがオンのときには、警報出力を行わないようにする(以下、警報出力を抑制する際に、同様の処理を行うものとする)。これにより、Aルート回線の点検中にモデム21が回線断を検出しても、警報は監視装置3に送信されないので、点検の実施に伴って検出される異常を無駄に表示するのを防止することができる。次に、回線断レベル点検回路22のうち、Aルート回線に減衰率0.1db分のATTを挿入する(S502)。そして、モデム21がAルート回線断を検出したか否かを判定する(S503)。
【0039】
Aルート回線断を検出していなければ(S503のNo)、遠制装置2は、Aルート回線に、減衰率0.1db分を加算したATTを挿入する(S504)。そして、モデム21がAルート回線断を検出したか否かを判定する(S505)。Aルート回線断を検出していなければ(S505のNo)、Aルート回線のATTの減衰率が99.9dbより小さいか否かを判定する(S506)。99.9dbより小さければ(S506のYes)、ATTの減衰率を上げる余地があるので、S504に戻る。99.9dbより小さくなければ(S506のNo)、ATTの減衰率を最大にしても、Aルート回線断を検出しなかったということなので、Aルート回線故障に関する警報出力の抑制を解除し(S507)、警報を出力する(S520)。警報出力の抑制を解除するには、例えば、記憶部25にセットされた抑制フラグをリセットする(以下、警報出力の抑制を解除する際には、同様の処理を行うものとする)。そして、抑制フラグがオフのときには、警報の出力が可能になる。
【0040】
S503又はS505で、Aルート回線断を検出していれば(S503のYes、S505のYes)、遠制装置2は、そのときにATTに設定されている減衰率をワークメモリに記憶し(S508)、Aルート回線故障に関する警報出力の抑制を解除する(S509)。このとき、Aルート回線へのATT挿入を解除する。
【0041】
続いて、遠制装置2は、Bルート回線故障に関する警報出力を抑制する(S510)。これにより、Bルート回線の点検中にモデム21が回線断を検出しても、警報は監視装置3に送信されないので、点検の実施に伴って検出される異常を不必要に表示するのを防止することができる。次に、回線断レベル点検回路22のうち、Bルート回線に減衰率が0.1db分のATTを挿入する(S511)。そして、モデム21がBルート回線断を検出したか否かを判定する(S512)。
【0042】
Bルート回線断を検出していなければ(S512のNo)、遠制装置2は、Bルート回線に、減衰率0.1db分を加算したATTを挿入する(S513)。そして、モデム21がBルート回線断を検出したか否かを判定する(S514)。Bルート回線断を検出していなければ(S514のNo)、Bルート回線のATTの減衰率が99.9dbより小さいか否かを判定する(S515)。99.9dbより小さければ(S515のYes)、ATTの減衰率を上げる余地があるので、S513に戻る。99.9dbより小さくなければ(S515のNo)、ATTの減衰率を最大にしても、Bルート回線断を検出しなかったということなので、Bルート回線故障に関する警報出力の抑制を解除し(S516)、警報を出力する(S522)。
【0043】
S512又はS514で、Bルート回線断を検出していれば(S512のYes、S514のYes)、遠制装置2は、そのときにATTに設定されている減衰率をワークメモリに記憶し(S517)、Bルート回線故障に関する警報出力の抑制を解除する(S518)。このとき、Bルート回線へのATT挿入を解除する。
【0044】
続いて、遠制装置2は、ワークメモリに記憶したAルート検出値がマージン規定値25A3の範囲内か否かを判定する(S519)。範囲内でなければ(S519のNo)、Aルート回線の点検結果が不良であることを示す警報をBルート回線により出力する(S520)。詳細には、モデム21により、当該警報を監視装置3に送信する(以下、警報を出力する際に、同様の処理を行うものとする)。その後、S523に進む。
【0045】
一方、Aルート検出値がマージン規定値25A3の範囲内であれば(S519のYes)、遠制装置2は、ワークメモリに記憶したBルート検出値がマージン規定値25A3の範囲内か否かを判定する(S521)。範囲内でなければ(S521のNo)、Bルート回線の点検結果が不良であることを示す警報をAルート回線により出力する(S522)。
【0046】
さらに、遠制装置2は、点検結果を記憶部25に格納する(S523)。詳細には、点検結果データ25Bに、新たなレコードとして、点検日時25B1、Aルート検出値25B2、Bルート検出値25B3及び判定結果25B4を記憶する。
【0047】
図6は、回線断レベル点検処理の起動中に発生する回線故障を監視し、回線故障を検知した場合に、その回線故障に対応する処理を示すフローチャートである。本処理は、図4の処理において、S407の回線断レベル点検処理と同時に起動され、並行して実行される。
【0048】
まず、遠制装置2は、図5の回線断レベル点検処理が起動中か否かを判定する(S601)。起動中でなければ(S601のNo)、処理を終了する。
【0049】
点検処理が起動中であれば(S601のYes)、回線故障の警報出力を抑制しているのは、いずれのルートかを判定する(S602)。Aルート回線故障の警報出力を抑制中であれば、Aルート回線の点検中であり、Bルート回線が正常な状態を確保する必要があるので、モデム21が本来有する異常検出機能により、Bルート回線の故障が発生しているか否かを判定する(S603)。発生していなければ(S603のNo)、S601に戻る。発生していれば(S603のYes)、S605以降の処理を行う。
【0050】
一方、Bルート回線故障の警報出力を抑制中であれば、Bルート回線の点検中であり、Aルート回線が正常な状態を確保する必要があるので、モデム21が本来有する異常検出機能により、Aルート回線の故障が発生しているか否かを判定する(S604)。発生していなければ(S604のNo)、S601に戻る。発生していれば(S604のYes)、S605以降の処理を行う。
【0051】
Aルート又はBルートに回線故障が発生していれば(S603のYes、S604のYes)、遠制装置2は、自動点検処理の起動をリセットする(S605)。これにより、図5の点検処理は、中止され、Aルート回線及びBルート回線ともに正常になるまで起動されない。次に、Aルート回線故障に関する警報出力の抑制を解除し(S606)、Bルート回線故障に関する警報出力の抑制も解除する(S607)。さらに、自動点検処理中に回線故障が発生したことの警報出力を行う(S608)。その後、処理を終了する。
【0052】
図7は、自動点検機能ロック中に警報出力を抑制する処理を示すフローチャートである。本処理は、定期的に起動され、自動点検機能ロック中に必要な処理を行うものである。
【0053】
まず、遠制装置2は、監視装置3による自動点検機能ロック中か否かを判定する(S701)。ロック中でなければ(S701のNo)、処理を終了する。
【0054】
自動点検機能ロック中であれば(S701のYes)、遠制装置2は、モデム21により、Aルート回線故障が発生しているか否かを判定する(S702)。Aルート回線故障が発生していれば(S702のYes)、Bルート回線故障が発生しているか否かを判定する(S703)。Bルート回線故障が発生していれば(S703のYes)、Aルート及びBルートの回線故障が発生したことの警報出力を行う(S704)。Bルート回線故障が発生していなければ(S703のNo)、Aルートだけに回線故障が発生しているので、Aルート回線故障に関する警報出力を抑制する(S705)。これは、自動点検機能ロック中であり、かつ、2ルートの通信回線4のうち、1ルートだけが回線故障の場合、制御所側で、修理等の作業により回線を停止しているため、回線故障になるのを予め認識しているので、警報を出力しないようにするものである(Bルートだけの回線故障についても同様)。
【0055】
一方、S702の判定でAルート回線故障が発生していなければ(S702のNo)、Bルート回線故障が発生しているか否かを判定する(S706)。Bルート回線故障が発生していれば(S706のYes)、Bルートだけに回線故障が発生しているので、Bルート回線故障に関する警報出力を抑制する(S707)。Bルート回線故障が発生していなければ(S706のYes)、Aルート、Bルートともに回線故障が発生していないことになるので、S701に戻る。
【0056】
なお、上記実施の形態では、図1に示す遠制装置2内の各部を機能させるために、処理部24で実行されるプログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録し、その記録したプログラムをコンピュータに読み込ませ、実行させることにより、本発明の実施の形態に係る遠制装置2が実現されるものとする。この場合、プログラムをインターネット等のネットワーク経由でコンピュータに提供してもよいし、プログラムが書き込まれた半導体チップ等をコンピュータに組み込んでもよい。
【0057】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、遠制装置2において、監視装置3との間の通信機能を維持しながら、モデム21が回線異常を検出する機能の劣化を確実に判断することができる。
【0058】
詳細には、遠制装置2は、Aルート回線、Bルート回線ともに正常な場合に、回線断レベル点検処理を起動するので、Aルート回線に関する点検を行う際には、Bルート回線を介して監視装置3と通信可能であり、別途Bルート回線に関する点検を行う際には、Aルート回線を介して監視装置3と通信可能である。従って、監視装置3との間の通信機能を維持しながら、回線断レベル点検処理を実施することができる。
【0059】
以上によれば、実際に回線断トラブルが発生する前に、遠制装置2を修理できるので、遠制装置2の信頼性が維持できる。次に、回線断トラブルによる現場での監視制御対応を減らすことができ、作業員による定期点検項目から回線断レベル点検を削減することができるので、作業の効率化、省力化を図ることができる。そして、回線断レベル点検や通信回線作業等に伴う当直員による警報監視対応が不要となる。さらに、制御所における監視装置3の監視機能が確実に動作するようになり、電力の安定供給を図ることができる。
【0060】
≪その他の実施の形態≫
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、上記実施の形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。例えば、以下のような実施の形態が考えられる。
【0061】
(1)上記実施の形態では、図5のフローチャートに示すように、モデム21が回線断を検出しない限り、回線断レベル点検回路22に設定する減衰率を99.9dbまで上げるように説明したが、マージン規定値25A3が10〜15dbだとすれば、もっと小さい値(例えば、20db等)で止めてもよい。なお、点検する減衰率の最大値をユーザ設定可能とすることも考えられる。
【0062】
(2)上記実施の形態では、回線断レベル点検回路22に設定する減衰率を0.1dbから少しずつ増加させながら、モデム21が回線断を検出するときの減衰率を特定するように説明したが、減衰率以外のパラメータを用いてもよい。例えば、通信回線4のデータ信号の電力レベルを徐々に低下させていき、モデム21が回線断を検出するときの電力レベルの最大値を特定し、許容範囲と比較することにより、モデム21の劣化を判断することが考えられる。
【0063】
(3)上記実施の形態では、遠制装置2において、回線断レベル点検処理を行うように説明したが、一般に、2つの通信回線に接続され、いずれかの通信回線によりデータの送受信を行う通信装置に対して、回線断レベル点検処理を適用してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 遠隔監視システム
2 遠制装置
21 モデム(通信装置)
22 回線断レベル点検回路
23 操作部
24 処理部
25 記憶部
25A3 マージン規定値(許容範囲)
25B2 Aルート検出値(第1最大信号レベル、第1最小減衰率)
25B3 Bルート検出値(第2最大信号レベル、第2最小減衰率)
3 監視装置
4 通信回線
4A 通信回線、Aルート回線(第1通信回線)
4B 通信回線、Bルート回線(第2通信回線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの通信回線に接続され、いずれかの通信回線によりデータの送受信を行う通信装置が、回線断を検出するときのデータ信号のレベルを点検する通信回線点検方法であって、
前記通信装置が前記通信回線の異常を検出すべき、当該通信回線のデータ信号のレベルのうち、最大値である最大信号レベルの許容範囲を記憶する第1ステップと、
所定期間ごとに、前記通信回線の状態を確認し、2つの通信回線がともに正常である場合に、
前記データ信号のレベルを変化させながら、前記通信装置が前記第1通信回線の異常を検出したときの前記最大信号レベルを第1最大信号レベルとして特定する第2ステップと、
前記データ信号のレベルを変化させながら、前記通信装置が前記第2通信回線の異常を検出したときの前記最大信号レベルを第2最大信号レベルとして特定する第3ステップと、
前記特定した第1最大信号レベル及び第2最大信号レベルのうち、少なくとも一方が前記許容範囲に含まれていない場合に、点検結果が不良であることを示す警報を出力する第4ステップと、
を実行することを特徴とする通信回線点検方法。
【請求項2】
2つの通信回線に接続され、いずれかの通信回線によりデータの送受信を行う通信装置が、回線断を検出するときのデータ信号の減衰率を点検する通信回線点検方法であって、
前記通信装置が前記通信回線の異常を検出すべき、当該通信回線のデータ信号に加えられる減衰率のうち、最小値である最小減衰率の許容範囲を記憶する第1ステップと、
所定期間ごとに、前記通信回線の状態を確認し、2つの通信回線がともに正常である場合に、
前記データ信号の減衰率を変化させながら、前記通信装置が前記第1通信回線の異常を検出したときの前記最小減衰率を第1最小減衰率として特定する第2ステップと、
前記データ信号の減衰率を変化させながら、前記通信装置が前記第2通信回線の異常を検出したときの前記最小減衰率を第2最小減衰率として特定する第3ステップと、
前記特定した第1最小減衰率及び第2最小減衰率のうち、少なくとも一方が前記許容範囲に含まれていない場合に、点検結果が不良であることを示す警報を出力する第4ステップと、
を実行することを特徴とする通信回線点検方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の通信回線点検方法であって、
前記第2ステップの実行中に、前記第1通信回線の異常を示す警報を出力することを抑制し、
前記第3ステップの実行中に、前記第2通信回線の異常を示す警報を出力することを抑制する
ことを特徴とする通信回線点検方法。
【請求項4】
2つの通信回線に接続され、いずれかの通信回線によりデータの送受信を行う通信装置が、回線断を検出するときのデータ信号のレベルを点検する通信回線点検装置であって、
前記通信装置が前記通信回線の異常を検出すべき、当該通信回線のデータ信号のレベルのうち、最大値である最大信号レベルの許容範囲を記憶する第1手段と、
所定期間ごとに、前記通信回線の状態を確認し、2つの通信回線がともに正常である場合に、
前記データ信号のレベルを変化させながら、前記通信装置が前記第1通信回線の異常を検出したときの前記最大信号レベルを第1最大信号レベルとして特定する第2手段と、
前記データ信号のレベルを変化させながら、前記通信装置が前記第2通信回線の異常を検出したときの前記最大信号レベルを第2最大信号レベルとして特定する第3手段と、
前記特定した第1最大信号レベル及び第2最大信号レベルのうち、少なくとも一方が前記許容範囲に含まれていない場合に、点検結果が不良であることを示す警報を出力する第4手段と、
を備えることを特徴とする通信回線点検装置。
【請求項5】
2つの通信回線に接続され、いずれかの通信回線によりデータの送受信を行う通信装置が、回線断を検出するときのデータ信号の減衰率を点検する通信回線点検装置であって、
前記通信装置が前記通信回線の異常を検出すべき、当該通信回線のデータ信号に加えられる減衰率のうち、最小値である最小減衰率の許容範囲を記憶する第1手段と、
所定期間ごとに、前記通信回線の状態を確認し、2つの通信回線がともに正常である場合に、
前記データ信号の減衰率を変化させながら、前記通信装置が前記第1通信回線の異常を検出したときの前記最小減衰率を第1最小減衰率として特定する第2手段と、
前記データ信号の減衰率を変化させながら、前記通信装置が前記第2通信回線の異常を検出したときの前記最小減衰率を第2最小減衰率として特定する第3手段と、
前記特定した第1最小減衰率及び第2最小減衰率のうち、少なくとも一方が前記許容範囲に含まれていない場合に、点検結果が不良であることを示す警報を出力する第4手段と、
を備えることを特徴とする通信回線点検装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の通信回線点検装置であって、
前記第2手段の動作中に、前記第1通信回線の異常を示す警報を出力することを抑制し、
前記第3手段の動作中に、前記第2通信回線の異常を示す警報を出力することを抑制する
ことを特徴とする通信回線点検装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−55480(P2013−55480A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191821(P2011−191821)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】