説明

通電機能付き防振部材およびそれを備えた機械装置

【課題】 振動吸収機能(クッション機能)を有するとともに、通電機能(アース機能)を一体的に備えた通電機能付き防振部材を提供することにある。
【解決手段】 防振部材10aは、直方体をした防振部材であって、ハードディスク等の振動する振動体80と取付部材90の間に取り付けられる。そして、防振部材10aは、振動体80の振動を吸収してその振動が取付部材90に伝わらないようにする振動吸収機能を有するとともに、振動体80から生じる電気を取付部材90に通電する通電機能(アース機能)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
振動する振動体に取り付けて振動を吸収し、且つ外部からの振動・衝撃を吸収するための防振部材に関するものであり、詳しくは、振動吸収機能(クッション機能)を有するとともに、通電機能(アース機能)を備えた通電機能付き防振部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ディスク装置などの機械装置に用いられる防振部材(防振ダンパー)には、以下の特許文献1〜4のようなものがあった。
このうち、特許文献3及び4には、ディスクの高速回転のために生じる静電気を処理するために、防振部材に通電機能(アース機能)を持たせているものが開示されている。
【0003】
特許文献3は、防振部材を構成する弾性体5に、導電性ゴムを用いたものが開示されている。
特許文献4は、防振部材(ゴムダンパー6)に、ダンパー本体7と、導電部材8とを備えたものが開示されている(特許文献4図2及び図3等参照)。
また、特許文献3には、従来より実施されているアース線26を用いた技術が開示されている(特許文献3図5参照)。
なお、上記符号は、全て該当する特許文献のものである。
【0004】
【特許文献1】特開平10−047401号公報
【特許文献2】特開平10−172272号公報
【特許文献3】特開平08−130848号公報
【特許文献4】特開2007−12228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の通電機能(アース機能)を有する防振部材については、以下のような課題を有している。
(1)防振部材に「導電性ゴム」を用いたものでは、十分な通電性を発揮できない(特許文献4[0007]参照)。
(2)防振部材に「アース線」や「導電部材」といった別パーツを備えたものでは、施工が煩雑でコスト増の原因となる。
(3)従来方式による「導電部材」は、防振性能の確保のため軽くしなやかな素材が求められるが、フィルムや布へのめっき・蒸着などの金属薄膜生成方式による導電部材は、くり返しの振動や変形によって金属面全体にわたって微細な破断が発生し、通電性が損なわれる要因となるため、一般には繰り返し振動のある部位では使用を避ける部材である。
(4)また、「導電部材」に金属そのものの薄膜を採用すると、折りしわ・裂けなど、取り付け作業上のわずかな外力により復元できない変形が生じやすい。これは通電機能として致命的な毀損に至る可能性を含むものである。
(5)従来のダンパーゴムは柔軟なゴム・エラストマー素材でできているため、一般には支持基材と支持材間の熱伝導性を期待することはできず、また熱伝導性を高めることができたとしてもその性能には限界がある。
【0006】
そこで、本願発明は、従来と全く異なる発想で、振動吸収機能(クッション機能)を有するとともに、通電機能(アース機能)を一体的に備えた通電機能付き防振部材の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1の発明は、振動する振動体に取り付けて振動を吸収し、且つ外部からの振動・衝撃を吸収するための防振部材であって、振動吸収性を有する防振本体と、防振本体の中に埋め込まれて、その一部が少なくとも防振本体の2箇所以上の取付部位から表出する通電性の通電体とを備え、振動吸収機能とともに通電機能を一体的に備えたことを特徴とする通電機能付き防振部材である。
第2の発明は、防振本体がゴム弾性を有する材質からなることを特徴とする同通電機能付き防振部材である。
第3の発明は、通電体がコイル状スプリング又は板状スプリングであることを特徴とする同通電機能付き防振部材である。
第4の発明は、防振本体の両端面に位置する一対の取付部位から通電体を表出させていることを特徴とする同通電機能付き防振部材である。ここで、このような防振本体としては、例えば、直方体(シート状を含む),円筒形,球形などの形状のものが挙げられる。
第5の発明は、防振本体の両端面に位置する一対の取付部位以外に通電体を表出させている第三取付部位を1又は2以上有することを特徴とする同通電機能付き防振部材である。ここで、このような防振本体としては、例えば、ひょうたん形などの形状のものが挙げられる。
第6の発明は、防振本体に埋め込まれたコイル状スプリング内側にビス止め用の貫通孔を形成したことを特徴とする同通電機能付き防振部材である。
第7の発明は、防振本体の貫通孔が第三取付部位の内径部分において他の内径部分より狭小となっていることを特徴とする通電機能付き防振部材である。
第8の発明は、防振本体又は/及び通電体が放熱性を有する材質からなることを特徴とする同通電機能付き防振部材である。
第9の発明は、上記第1から第8の発明に係る通電機能付き防振部材を備えた機械装置である。
【発明の効果】
【0008】
本願発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)防振本体とこれに埋め込まれた通電体からなる一体構造の防振部材であることで、当該防振部材のみで、振動を吸収する振動吸収機能とともに、取り付けられた取付部材間を通電する通電機能を備えることを可能とした。
(2)防振本体を直方体,略球形,略ひょうたん形などとすることで、様々な取付部材に取り付けることを可能とした。
(3)防振本体がゴム弾性を有する材質からなることで、防振本体に振動吸収性を付与することを可能とした。
(4)通電体がコイル状スプリング又は板状スプリングであることで、防振本体の中に埋め込まれつつ、その一部を少なくとも防振本体の2箇所以上の取付部位から確実に表出して取付部材と密接する通電性を付与することを可能とした。また、装置内部の振動・衝撃以外にも、外部からの振動・衝撃(落下や接触など)も吸収でき、防振部材を取り付けた部品又は装置を保護できる。
(5)防振本体又は/及び通電体が放熱性を有する材質からなることで、当該防振部材に振動吸収機能・通電機能の他に、放熱機能を付加することを可能とした。
(6)通電体がコイル状スプリングや板状スプリングであることで、ばね用材料を用いることが容易であり、したがって振動・屈曲の外力に対して破断や塑性変形のないばね性能の設計は容易である。また振動や繰り返し変形によって通電性が損なわれることはない。
(7)コイル状スプリングや板状スプリングの素材をばね用金属とすると、使途・目的にあわせた機能性めっきや通電性を損わない限りでの防錆処理などの表面処理を施すことは容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は、本願発明の第1実施形態を示し、図3及び図4は、同第2実施形態を示し、図5乃至図8は、同第3実施形態を示すものである。
【0010】
まず、本願発明の第1実施形態を説明する。図1は、第1実施形態に係る通電機能付き防振部材(以下、単に「防振部材」という)が使用された使用例を示す説明用斜視図であり、図2は、そこで使用された防振部材の具体例を示す説明図である。
図1に示すように、第1実施形態に示す防振部材10aは、直方体をした防振部材であって、ハードディスク等の振動する振動体80と取付部材90の間に取り付けられる。そして、防振部材10aは、振動体80の振動を吸収してその振動が取付部材90に伝わらないようにする振動吸収機能を有するとともに、振動体80から生じる電気を取付部材90に通電する通電機能(アース機能)を有する。
【0011】
図2に示すように、防振部材10aは、防振本体20aと、防振本体20aの中に埋め込まれる通電体30aを備える。そして、防振本体20aは振動吸収性を有し、防振部材10aに振動吸収機能を付与する。ここで、防振本体20aは、ゴム弾性を有する材質からなることが好ましく、成形可能な材料としては、熱可塑エラストマーのスチレン系、オレフィン系、塩ビ系、ウレタン系、エステル系、アミド系などがあり、また一般に言われるゴムとして二トリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ノルボルネンゴムなどを用いることができる。特に、射出成形、圧縮成形など成形が容易な熱可塑性エラストマーが有効である。
【0012】
また、通電体30aは、通電性を有するとともに、その一部が防振本体20aの両端面に位置する一対の取付部位となる上下の当接部22a及び当接部23aから表出している。例えば、図2(A)では、コイル状スプリングからなる通電体30aを縦に埋め込んでおり、同(B)では、コイル状スプリングからなる通電体30aを横に埋め込んでいる。同(C)では、板状スプリングからなる通電体30aを波形に折曲して埋め込んでおり、同(D)では、板状スプリングからなる通電体30aを略U字形に折曲して埋め込んでいる。そして、防振本体20aから表出した通電体30aの一部が取付部材(振動体80と取付部材90)と当接し、取付部材間の通電を可能にする。この場合、通電体30aにはスプリング部材を使用することで、防振本体20aからの表出を確実にできる。ここで、通電体30aは、通電性を有する材質からなり、例えば、銅およびりん青銅・ベリリウム銅・洋白・黄銅・チタン銅などの銅合金、ニッケルおよびモネルなどのニッケル合金、炭素鋼・珪素鋼・バナジウム鋼・ステンレス鋼などの鋼材、チタン、タングステンなどの金属類などを用いることができる。
【0013】
なお、防振部材10aは振動体80の下側四隅に全て取り付ける必要はなく、1箇所のみであってもよい(その他の3箇所は通電機能のない普通の防振部材でよい)。通電機能(アース機能)としては防振部材10aが1個取り付けられていれば十分だからである。この場合、通電機能付きの防振部材とそれ以外の防振部材の振動吸収性のバランスが問題となるが、通電機能付きの防振部材には通電体が埋め込まれているがこれは防振部材の振動吸収機能は影響を及ぼさないので、他の防振部材と振動吸収性のバランスを崩すことなく、安定して使用できる。
【0014】
次に、本願発明の第2実施形態を説明する。図3は、第2実施形態に係る防振部材を示す説明用斜視図であり、図4は、その縦断面図である。
図3及び図4に示す第2実施形態に係る防振部材10bは、略球形をした筒形の防振部材であって、上下端部に取付部位となる当接部22b,23bと、上下の当接部方向に貫通する貫通孔24bを有する振動吸収性の防振本体20bを備える。なお、防振本体20bの材質は第1実施形態の場合と同様である。
【0015】
また、防振部材10bは、防振本体20bの中に埋め込まれたコイル状スプリングからなる通電体30bを備え、この通電体30bは、その一部が上下の当接部22b,23bから表出している。この通電体30bにはスプリング部材を使用することで防振本体20bからの表出を確実にできるとともに、応力が加わった場合でも防振本体20bの形状を保持する役割を果たす。なお、通電体20bの材質は第1実施形態の場合と同様である。また、通電体30bの通電機能については、次の第3実施形態で詳細に説明する。
【0016】
さらに、本願発明の第3実施形態を説明する。図5は、第3実施形態に係る防振部材を示す説明用斜視図であり、図6は、その縦断面図である。
図5及び図6に示す防振部材10cは、略ひょうたん形をした筒形の防振部材であって、外周中央に形成された溝部21c(第三の取付部位)と、上下端部に取付部位となる当接部22c,23cと、上下の当接部方向に貫通する貫通孔24cを有する振動吸収性の防振本体20cを備える。
【0017】
また、防振部材10cは、防振本体20cの中に埋め込まれたコイル状スプリングからなる通電体30cを備え、この通電体30cは、その一部が上下の当接部22c,23c及び溝部21cから表出している。この通電体30cにはスプリング部材を使用することで防振本体20cからの表出を確実にできるとともに、応力が加わった場合でも防振本体20cの形状を保持する役割を果たす。
さらに、防振本体20cの貫通孔24cが溝部21cの内径部分(X)において他の内径部分(Y)より狭小となっており(X<Y)、内径Xから上下端部の当接部(上)22c,当接部(下)23c方向に向けてテーパー状になっている。
【0018】
図7は、本願発明に係る防振部材の使用状態を示す分解図である。
防振部材10cは、支持体40に設けられた係止孔41に溝部21cを係合させる。なお、係合に際しては、係止孔41に連接する大きめの連接孔42に一旦防振部材10cを挿通してから係止孔41へスライドさせるようにするとよい。
また、防振部材10cは、帯電する上下の帯電体50,60と当接部22c,23cで当接する。防振部材10cと帯電体50,60とは、雄パーツ70と雌パーツ71からなる締結具で固定する。
【0019】
図8は、図7に示す防振部材の使用状態を示す縦断面図である。
図示するように、当接部22c,23cから表出する通電体30cは、取付部材である帯電体50,60と接触している。また、溝部21cから表出する通電体30cも、支持体40と接触している。ここで、支持体40と通電体30cの接触は、防振本体20cの貫通孔24cが溝部21cの内径部分(X)において他の内径部分(Y)より狭小となっていることで、貫通孔24cへ雄パーツ70等の締結具を圧入した場合に、溝部21cが外側へ膨らみ表出する通電体30cが係止孔41に密着するようになる。
【0020】
そして、帯電体50,60からの電気は、通電体30cを介して、支持体40へ通電する。これによって、防振部材10cは振動吸収機能(クッション機能)と通電機能(アース機能)を一体的に備えた防振部材となるのである。
【0021】
なお、第1実施形態乃至第3実施形態において、防振本体又は/及び通電体に放熱性を有する材質を使用することで、当該防振部材に振動吸収機能・通電機能の他に、放熱機能を付加することを可能とする。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本願発明の防振部材は、例えば、以下のような用途に用いることができる。但し、これらに限られるものではない。
(1)CD・HDD等のディスクドライブを備えたディスクドライブ装置の振動吸収・騒音抑制・放熱効果
(2)複写機・プリンタ・複合機のモーターやファンの防振性向上と読み込み精度や印字精度の向上
(3)エアコンのモーター振動吸収・騒音抑制
(4)PWB基盤の防振・緩衝防止と放熱効果(基板配線の故障防止)
(5)液晶BLU部の導電(通電)と振動防止
(6)各種装置の微振動を吸収して、装置への振動伝達を防ぎ、騒音対策
(7)自動搬送機でのウェイトチェッカーや金属探知機、画像センサー等を振動から守り、測定精度の向上
(8)デジカメ、カーナビの緩衝材と通電性向上による誤作動の防止
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本願発明に係る第1実施形態(使用例)を示す説明用斜視図。
【図2】本願発明に係る第1実施形態(具体例)を示す説明図。
【図3】本願発明に係る第2実施形態(防振部材)を示す説明用斜視図。
【図4】本願発明に係る第2実施形態(防振部材)を示す縦断面図。
【図5】本願発明に係る第3実施形態(防振部材)を示す説明用斜視図。
【図6】本願発明に係る第3実施形態(防振部材)を示す縦断面図。
【図7】本願発明に係る第3実施形態(防振部材)の使用状態を示す分解図。
【図8】図7に示す防振部材の使用状態を示す縦断面図。
【符号の説明】
【0024】
10a,10b,10c 防振部材(通電機能付き防振部材)
20a,20b,20c 防振本体
21c 溝部
22a,22b,22c 当接部(上)
23a,23b,23c 当接部(下)
24b,24c 貫通孔
30a,30b,30c 通電体(スプリング)
40 支持体 41 係合孔 42 連接孔
50 帯電体(上)
60 帯電体(下)
70 締結具(雄パーツ) 71 締結具(雌パーツ)
80 振動体 90 取付部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動する振動体に取り付けて振動を吸収し、且つ外部からの振動・衝撃を吸収するための防振部材であって、
振動吸収性を有する防振本体と、
防振本体の中に埋め込まれて、その一部が少なくとも防振本体の2箇所以上の取付部位から表出する通電性の通電体とを備え、
振動吸収機能とともに通電機能を一体的に備えたことを特徴とする通電機能付き防振部材。
【請求項2】
防振本体がゴム弾性を有する材質からなることを特徴とする請求項1に記載の通電機能付き防振部材。
【請求項3】
通電体がコイル状スプリング又は板状スプリングであることを特徴とする請求項1又は2に記載の通電機能付き防振部材。
【請求項4】
防振本体の両端面に位置する一対の取付部位から通電体を表出させていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の通電機能付き防振部材。
【請求項5】
防振本体の両端面に位置する一対の取付部位以外に通電体を表出させている第三取付部位を1又は2以上有することを特徴とする請求項4に記載の通電機能付き防振部材。
【請求項6】
防振本体に埋め込まれたコイル状スプリング内側にビス止め用の貫通孔を形成したことを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の通電機能付き防振部材。
【請求項7】
防振本体の貫通孔が第三取付部位の内径部分において他の内径部分より狭小となっていることを特徴とする請求項6記載の通電機能付き防振部材。
【請求項8】
防振本体又は/及び通電体が放熱性を有する材質からなることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の通電機能付き防振部材。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の通電機能付き防振部材を備えた機械装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−174666(P2009−174666A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15621(P2008−15621)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000195029)星和電機株式会社 (143)
【出願人】(592262532)ダイセー工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】