説明

連続気泡を有する多孔質ゴム印材とその製造方法

【課題】ゴムの引張強度を損ねることなく、ゴム硬度を上昇させた、連続気泡を有する多孔質ゴム印材を提供し、かつ、悪臭による環境問題を生じることなく、前記の多孔質ゴム印材を製造する方法を提供すること。
【解決手段】原料ゴムと、原料ゴム100部に対して0.1〜100部配合したABS系樹脂と、加硫剤と、充填剤と、水溶性微粉末とを混練してマスターバッチを得る工程と、前記マスターバッチを金型内で加熱硬化させる加硫工程と、加硫後に水溶性微粉末を洗除する工程、とからなる製造方法によって得られる連続気泡を有する多孔質ゴム印材であって、JIS K 6253に準拠して測定したゴム硬度が、60以上であって、JIS K 6251に準拠して測定した引張強度が、1.1MPa以上であることを特徴とする、連続気泡を有する多孔質ゴム印材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は連続気泡を有する多孔質ゴム印材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無数の連続気泡を有する多孔質ゴムを印材とし、使用の都度スタンプ台を使用することなく連続捺印できるようにした印判は広く使用されている(特許文献1、特許文献2)。多孔質ゴムに無数の連続気泡を形成することで、印材のインク保持量は向上するが、一方、無数の連続気泡を有する多孔質ゴムは硬度が低下し、捺印時に過度の押圧力が加えられると印面が圧潰され、吸蔵されているスタンプインクが過剰に流出し、捺印される印字が太くなったり、滲んだりして鮮明な捺印を行い難いうえに、スタンプインキの消耗や印面の消耗が顕著で長時間にわたる連続捺印ができなくなる等の欠点があった。多孔質ゴムの硬度を高める手法として、本出願人は、多孔質ゴムに配合される硫黄等の加硫剤、又はカーボンブラックやシリカ等の充填剤の量を増加させる技術や、多孔質ゴムにフェノール樹脂等の合成樹脂粉末を配合する技術を開示している(特許文献3)。
【0003】
しかし、加硫剤又は充填剤の配合量を増加した場合には、多孔質ゴムの加工工程の混錬の段階で、既に多孔質ゴムが相当程度の固さを有するため、加工工程での取扱が困難になるという問題があった。また、合成樹脂粉末を配合した多孔質ゴムは、経時的に収縮したり、インキ中の溶剤に侵されてしまって実用に耐えられない欠点があった。更に、熱可塑性樹脂を用いた場合は、硬化剤や架橋反応の制御が困難で、時が経つに連れて、多孔質ゴムが過剰に硬化してしまって、スプリング性が低下するなど、多孔質ゴムの物性が大きく低下する欠点があった。なお、本出願人は、前記課題を解決する手段として、主鎖中にベンゼン環を含むエンジニアリングプラスチックを配合した多孔質ゴム印材を、開示しているが、主鎖中にベンゼン環を含むエンジニアリングプラスチックは、独特の悪臭を有しているために、環境汚染の観点から好ましくないという問題があった。また、主鎖中にベンゼン環を含むエンジニアリングプラスチックをゴムに配合することによって、ゴム硬度は上昇するが、引張強度が低下してしまう問題があった。(特許文献4)。
【特許文献1】特公昭59−28193号広報
【特許文献2】特公昭59−29606号広報
【特許文献3】特開昭50−000919号広報
【特許文献4】特開2005−305659号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ゴムの引張強度を損ねることなく、ゴム硬度を上昇させた、連続気泡を有する多孔質ゴム印材を提供すること。及び、その製造工程で、悪臭による環境問題を生じることなく、前記の多孔質ゴム印材を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決する連続気泡を有する多孔質ゴム印材は、原料ゴムと、加硫剤と、充填剤と、ABS系樹脂を含有する多孔質ゴム印材であって、内部にインク含浸用の連続気泡を有し、スプリング式硬さE型硬度計を用いて硬さ試験(JIS K 6253)に準拠して測定したゴム硬度が、60以上であって、ロードセル式で、引張試験(JIS K 6251)に準拠して測定した引張強度が、1.1MPa以上であることを特徴とする。なお、ABS系樹脂は、ABS樹脂またはAES樹脂またはAS樹脂またはASA樹脂から選択した1種類以上の樹脂であることが好ましい。
【0006】
前記課題を解決する連続気泡を有する多孔質ゴム印材の製造方法は、原料ゴムと、原料ゴム100部に対して0.1〜100部配合したABS系樹脂と、加硫剤と、水溶性微粉末とを混練してマスターバッチを得る工程と、前記マスターバッチを金型内で加熱硬化させる加硫工程と、加硫後に水溶性微粉末を洗除する工程、とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の連続気泡を有する多孔質ゴム印材では、多孔質ゴムの硬度を高めるために、ABS系樹脂を配合したことにより、引張強度を低下させることなく、ゴム硬度を上昇させることを可能とした。具体的には、本発明によれば、ロードセル式で測定した場合に1.1MPa以上の引張強度を維持しつつ、スプリング式硬さE型硬度計で測定した場合に60以上のゴム硬度を有する多孔質ゴム印材を得ることができる。
【0008】
また、多孔質ゴムの硬度を高めるために、ABS系樹脂を配合したことにより、その製造工程で、悪臭による環境問題を引き起こす心配がなくなる。
【0009】
更に、従来、ゴム硬度を高めるために使用された主鎖中にベンゼン環を含むエンジニアリングプラスチックの場合と、配合比率(phr=Parts per Hundred parts of Rubber)を比較すると、本発明によれば、より低い配合比率で、同等のゴム硬度を達成可能であって、配合比率を同一にした場合には、ゴム硬度をより高める効果もある。
【0010】
請求項3に記載の連続気泡を有する多孔質ゴム印材の製造方法は、原料ゴム100部に対して、ABS系樹脂を0.1〜100部配合したことを特徴とするものである。これにより、請求項1に記載の連続気泡を有する多孔質ゴム印材の、前記効果を発揮することができる。また、従来技術として開示されている技術であって、主鎖中にベンゼン環を含むエンジニアリングプラスチックを配合した場合に問題となった、樹脂自身の悪臭や製造工程で拡散する悪臭や完成製品の悪臭による環境汚染の問題が防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
請求項1に記載の連続気泡を有する多孔質ゴム印材は、原料ゴムと、原料ゴム100部に対して0.1〜100部配合したABS系樹脂と、加硫剤と、充填剤と、水溶性微粉末とを混練してマスターバッチを得る工程と、前記マスターバッチを加熱硬化させる加硫工程と、加硫後に水溶性微粉末を洗除する工程、とからなる製造方法によって得られる。
【0012】
本発明において使用することができる原料ゴムとしては、分子量約2万〜100万程度(JIS K−600ムーニー粘度中心値=約70〜95)の天然ゴム(NR)又は合成ゴムをあげることができる。合成ゴムとしては、アクリルニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエン(SBR)、クロロプレン(CR)、ブタジエンゴム(BR),ポリウレタンゴム(UR)等が使用できる。特に、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(ニトリル含有率30〜50%)は、耐油性、耐老化性、弾性、及び靭性に優れているので、多孔質ゴム印材の原料として最適である。
【0013】
次に、本発明においては、ABS系樹脂を配合することが必須である。ABS系樹脂とは、少なくとも、アクリルニトリルとスチレンを共重合させて作られる合成樹脂であって、アクリルニトリル樹脂とスチレン樹脂の性能とを併せ持つ合成樹脂である。具体的には、本発明においては、ABS樹脂(アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)またはAES樹脂(アクリルニトリル−EPDM−スチレン共重合体)またはAS樹脂またはASA樹脂のうちから選択した1種類または2種類以上の樹脂を使用できる。
【0014】
ABS系樹脂は、原料ゴムとの相溶性に優れており、多孔質ゴム印材の硬度を高めつつ、連泡性を向上することができ、なおかつ、引張強度を向上させることができる。ここで、「連泡性」とは、多孔質ゴム印材の内部の各連続気泡を接続する接続路の数である。なお、連泡性が向上すると、インキ含有量やインキ吐出量が多くなるという効果が得られる。
【0015】
多孔質ゴム印材の硬度を、スプリング式硬さE型硬度計を用い、硬さ試験(JIS K 6253)に準拠して測定した測定値は、ABS系樹脂の代わりにシリカを同量配合した場合には45〜46であったのに対し、所定量のABS系樹脂を配合することで、60以上に向上させることができた。多孔質ゴム印材の硬度は高いほど好ましく、硬度が向上すると、捺印時に過度の押圧力が浸透印に加えられても印面が圧潰されず、吸蔵されているスタンプインクが過剰に流出することなく、スタンプインキの消耗が防止でき、鮮明な捺印ができ、印面の摩耗が防止できるという効果が得られる。また、印面表面が硬くなって、より鮮明な捺印に寄与する。
なお、ゴム印材の加工性を考慮すると、多孔質ゴム印材の硬度は60〜95とすることが好ましく、60〜70が最も好ましい。
【0016】
多孔質ゴム印材が破断するまでの引張強度を、ロードセル式で、引張試験(JIS K 6251)に準拠して測定測定値は、ABS系樹脂の代わりにシリカを同量配合した場合には1.0MPaであったのに対し、所定量のABS系樹脂を配合することで、1.1MPa以上に向上させることができた。多孔質ゴム印材の強度は高いほど好ましく、多孔質ゴム印材の引張強度の向上は、印材の製品強度の向上に資するものであり、1.1MPa〜2.0MPaが好ましく、1.2MPa〜1.5MPaが最も好ましい。
【0017】
ABS系樹脂の配合比率は、原料ゴム100部に対して0.1〜100部を用いることができ、5〜50部が特に好ましく用いられる。少なすぎる場合には十分な効果が得られないし、多すぎる場合は引張強度等のゴム物性が低下するのでこの好ましくない。
【0018】
本発明に使用することができる水溶性気泡剤としては、塩や糖などの微粉末をあげることができる。塩は、微粉末化し易く、ゴムの加硫温度(110℃〜160℃)において分解ガス化せず、かつ、加熱後は水によって容易に除去できる無機化合物を用い、具体的には塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウムなどの塩が用いられる。直径は、通常1〜500μmのものを使用し、その使用比率は原料ゴム100部に対し約100〜2000部用いられ、特に200〜1500部が好ましく用いられる。糖は、ペントースやヘキソースなどの単糖類、サッカロースやマルトースなどの二等類、デンプンやグリコーゲンなどの多糖類のいずれも使用でき、更に、これらを併用して使用することもできる。粒径は、通常1〜500μmのものを使用する。その中でも特に、デンプンが可溶性において優れているうえ、均一な所要粒径を有する粉末が容易に得られ、また、安価であるため好ましく使用される。使用比率は、原料ゴム100部に対し、約10〜300部であり、好ましくは、50〜200部である。これらの糖は、加硫の際、熱の影響をうけて膨潤し、含有した微量水分をガスとして発生する。そして、このガスが一種の発泡的作用をなして気泡形成によい影響を与える。
【0019】
本発明において水溶性気泡形成剤は、塩と糖をそれぞれ単独で用いてもよいし、併用して用いてもよく、用途によって適宜選択すればよい。併用する場合には、塩と糖の配合重量比は9:1ないし3:1程度がよく、特に4:1の割合で使用するのが好ましい。本発明において、塩と糖の配合重量比をこのような範囲にする理由は、糖の量が多すぎると加熱硬化の際に水分及び炭酸ガスの発生が多くなって、これらが気泡を作りすぎて多孔質ゴムの気泡が不均一になるおそれがあり、また糖自体の分解が進行しすぎて金型内で硬化すべき混合物が成形不能となるおそれもあるからである。他方、逆に糖の量が少なすぎると塩粒子相互間に糖粒子が適格に存在せず、糖の効果が充分発揮できない。
【0020】
本発明において使用できる加硫剤としては、沈降硫黄、硫黄、セレン、テルル、塩化硫黄などの公知の加硫剤をあげることができ、その使用比率は原料ゴム100部に対して約1〜30部が使用でき、2〜10部が特に好ましい。
【0021】
更に、本発明ではゴム製造で通常使用されている充填剤、添加物等も必要に応じて使用することができる。
【0022】
本発明において使用することができる充填剤としては、公知のカーボンブラック、シリカ(微分ケイ酸、人工ケイ酸塩等)、炭酸カルシウムなどがあり、とりわけカーボンブラックは使用ゴムと強力な結合をし、補強作用をするので好ましい。その使用比率はゴム100部に対して約40〜60部であり、45〜55部の範囲は特に好ましい。
【0023】
本発明において使用することができる添加物としては、アミン系の老化防止剤、ワセリン、DBP(ジブチルフタレート)、可塑剤などの軟化剤、亜鉛華などの加硫助剤、グアニジン系やチアゾール系の加硫促進剤などを有効量添加することができる。
【0024】
また、ゴム硬度を調整するために有機系合成繊維を適量添加することもできる。有機系合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリアクリロニトリル繊維、アクリル系繊維、ナイロン6・ナイロン6/6・ナイロン4/6・ナイロン6/10・ナイロン11等の脂肪族ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリウレタン繊維、ポリアルキルパラオキシベンゾエート繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスチアゾール繊維、ポリ−p−フェニレンベンズビスオキサゾール繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリオキシメチレン繊維などを用いることができ、繊維長0.2〜2mmとしたステープルである。これらの有機系合成繊維は、特に繊度0.1〜100dのものが好ましく用いられる。本発明ではゴムとの分散性・接着力の観点から脂肪族ポリアミドや芳香族ポリアミドなどのポリアミド繊維が特に好ましく用いられる。その中でもアラミド繊維が最も良い結果を得られる。最も好ましく用いられるアラミド繊維は、長さ0.5〜2mm、断面の直径が0.005〜0.020mm(デニール換算値:0.2〜5d(比重:1.44〜1.47))のものであり、これがゴムとの分散性・接着力の観点から最も好ましい。また、前記アラミド繊維を極高NBR(ニトリル含有量43%以上)で処理したものは、更に好ましく用いられる。これは、素通りした極高NBR中に前記大きさのアラミド繊維を混練することにより、又は、極高NBR中にアラミド繊維を混練したのち前記大きさに細断することにより得られるものであって、アラミド繊維の充填量は約10phr程度のものが好ましい。アラミド繊維は、デュポン社のケブラー(商品名)に代表されるパラ系アラミド繊維やメタ系アラミド繊維など一般に市販されているものを用いることができる。
【0025】
以下に、本発明の連続気泡を有する多孔質ゴム印材の製造方法について説明する。
請求項3に記載の多孔質ゴム印材の製造方法によれば、ゴムと、水溶性粉末と、加硫剤と、充填剤と、高機能性スチレン系樹脂を混練機に入れ混練して、マスターバッチとする。
ABS系樹脂は、原料ゴムや他の材料と混合する際に未加硫ゴム混合物を硬化させることがないので、未加硫ゴム混合物は十分に軟らかく、製造工程を容易化することができる。次に、マスターバッチを金型内に入れ、5分〜30分、約110℃〜160℃の温度下で加熱硬化させる。その後、金型より取り出し、冷水または温水を使用して圧縮と膨張を繰り返しつつ、水溶性微粉末の洗い出しを行う。このようにして、多孔質ゴム印字体が得られる。前記の加熱手段としては、公知のものが使用可能である。例えば、電熱加熱や蒸気加熱を利用できる。なお、本発明では、製造工程で悪臭が発生することがないため、環境汚染の問題が防止できる。
【0026】
本発明の別の態様として、上層(インキ保持部)と下層(印字体)のマスターバッチを別々に混練し、両者を重ね合わせて加熱硬化し一体化させて得られる多孔質ゴム印字体を作成する場合であっても、使用する原料、硬化条件および洗出条件等は前述の説明とほぼ同じである。ただし、上層用水溶性微粉末は下層用水溶性微粉末よりやや大きいものを用いている。こうすると、上層の気泡径が下方の気泡径より大きくなるので、インキを含浸させると、毛細管現象により、下層へ安定したインキ供給が可能となるからである。なお、前記上層(インキ保持部)用のマスターバッチには、必ずしもABS系樹脂を配合する必要はなく、必要に応じて配合の有無や配合量の多少を決定することができる。
【0027】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例により何等限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
NBR(アクリルニトリル−ブタジエンゴム)100部、硫黄5部、亜鉛華5部、加硫促進剤5部、ワセリン・DBP等からなる軟化剤30部、カーボンブラック50部、老化防止剤2部、100〜200μmの塩化ナトリウム800部、50〜150μmのデンプン200部、及び、粉末状のABS樹脂(アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂)30部を加えて混練してマスターバッチとし、これを厚さ5mmの平板上のシートとした。当該シートを平滑な金型内に収容し、次いで200kg/cm2程度の圧力を加えて熱盤間に挟圧し、120℃の温度下で30分間加硫した。加硫後離型して、塩化ナトリウム、デンプンが完全に除去されるまで充分に洗浄し、これを脱水および乾燥し、本実施例の多孔質ゴム印材を得た。
【0029】
当該多孔質ゴム印材をYAGレーザ加工機にて彫刻した後、所要のサイズに切断して浸透印を得ることができた。当該浸透印にヒマシ油誘導体を主要剤とする粘度500〜2000mPa・s(温度20℃、湿度65%、回転数60rpm)の油性顔料インキを吸蔵させて捺印したところ、インキ急増量も充分で、過度の押圧力が加えられても印面が圧潰されずインキの過剰流出を防止でき、太くなったり滲んだりすることがなく、鮮明な捺印を長期間にわたって行うことができた。また、インキ吐出量も良好であって、擦れのない鮮明な捺印を長期間にわたって行うことができた。また、硬度の向上により印面の摩耗が防止できた。更に、経時的に浸透印の物性が低下することはなく、スプリング性が低下したり、脆くなって印面が損傷することがなかった。
【0030】
(実施例2)
実施例1に配合されているABS樹脂30部を、同量のAES樹脂(アクリロニトリル−エチレンプロピレンジエン−スチレン樹脂)40部に変更した以外は、実施例1と同様に作成し、実施例2の多孔質ゴム印材を得た。次に、当該多孔質ゴム印材をYAGレーザ加工機にて彫刻した後、所要のサイズに切断して浸透印を得ることができた。当該浸透印にヒマシ油誘導体を主要剤とする粘度500〜2000mPa・s(温度20℃、湿度65%、回転数60rpm)の油性顔料インキを吸蔵させて捺印したところ、インキ急増量も充分で、過度の押圧力が加えられても印面が圧潰されずインキの過剰流出を防止でき、太くなったり滲んだりすることがなく、鮮明な捺印を長期間にわたって行うことができた。また、インキ吐出量も良好であって、擦れのない鮮明な捺印を長期間にわたって行うことができた。また、硬度の向上により印面の摩耗が防止できた。更に、経時的に浸透印の物性が低下することはなく、スプリング性が低下したり、脆くなって印面が損傷することがなかった。
【0031】
(実施例3)
実施例1に配合されているABS樹脂30部を、同量のAS樹脂(アクリロニトリル−スチレン樹脂)20部に変更した以外は、実施例1と同様に作成し、実施例3の多孔質ゴム印材を得た。次に、当該多孔質ゴム印材をYAGレーザ加工機にて彫刻した後、所要のサイズに切断して浸透印を得ることができた。当該浸透印にヒマシ油誘導体を主要剤とする粘度500〜2000mPa・s(温度20℃、湿度65%、回転数60rpm)の油性顔料インキを吸蔵させて捺印したところ、インキ急増量も充分で、過度の押圧力が加えられても印面が圧潰されずインキの過剰流出を防止でき、太くなったり滲んだりすることがなく、鮮明な捺印を長期間にわたって行うことができた。また、インキ吐出量も良好であって、擦れのない鮮明な捺印を長期間にわたって行うことができた。また、硬度の向上により印面の摩耗が防止できた。更に、経時的に浸透印の物性が低下することはなく、スプリング性が低下したり、脆くなって印面が損傷することがなかった。
【0032】
(実施例4)
実施例1に配合されているABS樹脂30部を、同量のASA樹脂(アクリロニトリル−スチレン−アクリル酸エステル樹脂)20部に変更した以外は、実施例1と同様に作成し、実施例4の多孔質ゴム印材を得た。次に、当該多孔質ゴム印材をYAGレーザ加工機にて彫刻した後、所要のサイズに切断して浸透印を得ることができた。当該浸透印にヒマシ油誘導体を主要剤とする粘度500〜2000mPa・s(温度20℃、湿度65%、回転数60rpm)の油性顔料インキを吸蔵させて捺印したところ、インキ急増量も充分で、過度の押圧力が加えられても印面が圧潰されずインキの過剰流出を防止でき、太くなったり滲んだりすることがなく、鮮明な捺印を長期間にわたって行うことができた。また、インキ吐出量も良好であって、擦れのない鮮明な捺印を長期間にわたって行うことができた。また、硬度の向上により印面の摩耗が防止できた。更に、経時的に浸透印の物性が低下することはなく、スプリング性が低下したり、脆くなって印面が損傷することがなかった。
【0033】
(比較例1)
実施例1に配合されているABS樹脂を、同量のシリカに変更した以外は、全く同様に作成した比較例1の多孔質ゴム印材を用い、更にこれを加工して浸透印を得た。
(比較例2)
実施例2に配合されているAES樹脂を、同量のシリカに変更した以外は、全く同様に作成した比較例2の多孔質ゴム印材を用い、更にこれを加工して浸透印を得た。
(比較例3)
実施例3に配合されているAS樹脂を、同量のポリアリレートに変更した以外は、全く同様に作成した比較例3の多孔質ゴム印材を用い、更にこれを加工して浸透印を得た。
(比較例4)
実施例4に配合されているASA樹脂を、同量のポリスチレン変性ポリフェニレンエーテルに変更した以外は、全く同様に作成した比較例4の多孔質ゴム印材を用い、更にこれを加工して浸透印を得た。
【0034】
前記実施例および比較例によって得られた印材(表1)について、硬度及び引張強度等、の測定試験を行った結果を下記の表2に示す。なお、測定条件は下記の通りである。
(硬度)
スプリング式硬さE型硬度計を用い、硬さ試験(JIS K 6253)に準拠して測定した。
(引張強度)
ロードセル式で、引張試験(JIS K 6251))に準拠して測定した。
(膨潤率)
ヒマシ油誘導体を主溶剤とする粘度700mPa・s(温度20℃、湿度65%、回転数60rpm)の油性顔料インキを吸蔵させ、浸透印の膨潤率を測定した。
(捺印滲み)
ヒマシ油誘導体を主溶剤とする粘度700mPa・s(温度20℃、湿度65%、回転数60rpm)の油性顔料インキを吸蔵させた浸透印をXstamperネーム9(商品名:シヤチハタ株式会社製)に組み立て、PPC用紙(64g/m[55kg])に捺印した印影を観察した。
◎:全く滲みなし。 ○:ほとんど滲みなし。 ×:滲みあり。
(連続押印性)
ヒマシ油誘導体を主溶剤とする粘度700mPa・s(温度20℃、湿度65%、回転数60rpm)の油性顔料インキを吸蔵させた浸透印をXstamperネーム9(商品名:シヤチハタ株式会社製)に組み立て、5000回連続捺印時の印影の鮮明度を観察した。
【0035】
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ゴムと、加硫剤と、充填剤と、ABS系樹脂を含有する多孔質ゴム印材であって、
内部にインク含浸用の連続気泡を有し、
スプリング式硬さE型硬度計を用い、硬さ試験(JIS K 6253)に準拠して測定したゴム硬度が、60以上であって、
ロードセル式で、引張試験(JIS K 6251)に準拠して測定した引張強度が、1.1MPa以上であることを特徴とする連続気泡を有する多孔質ゴム印材。
【請求項2】
ABS系樹脂が、
ABS樹脂またはAES樹脂またはAS樹脂またはASA樹脂から選択した1種類または2種類以上樹脂であることを特徴とする
請求項1に記載の連続気泡を有する多孔質ゴム印材。
【請求項3】
原料ゴムと、
原料ゴム100部に対して0.1〜100部配合したABS系樹脂と、
加硫剤と、水溶性微粉末とを混練してマスターバッチを得る工程と、
前記マスターバッチを金型内で加熱硬化させる加硫工程と、
加硫後に水溶性微粉末を洗除する工程、
とからなる連続気泡を有する多孔質ゴム印材の製造方法。

【公開番号】特開2009−220314(P2009−220314A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65116(P2008−65116)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(390017891)シヤチハタ株式会社 (162)
【Fターム(参考)】