説明

遊星歯車支持用転がり軸受及び遊星歯車装置

【課題】遊星歯車10を遊星軸11に対して回転自在に支持する為の1対の円筒ころ軸受12、12の寿命を向上させる。この為に、遊星歯車装置の使用に伴って生じる、これら各円筒ころ軸受12、12のラジアル隙間の増加量を抑えられる構造を実現する。
【解決手段】上記各円筒ころ軸受12、12に就いてそれぞれ、外輪16の材質の線膨張係数を、内輪18の材質の線膨張係数よりも小さくする。この様な構成を採用する事により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば風力発電装置用増速機等に組み込んで使用する遊星歯車装置と、この遊星歯車装置を構成する遊星歯車支持用転がり軸受との改良に関する。
【背景技術】
【0002】
図1〜3は、特許文献1に記載された、風力発電装置用増速機を示している。この風力発電装置用増速機は、ケーシング1と、このケーシング1内に収納した、遊星歯車装置2及び二次増速装置3とを備える。
このうちのケーシング1の内側には、入力軸4と、この入力軸4に対して同心に配置した低速軸5と、この低速軸5に対して平行に配置した中間軸6及び出力軸7とを、それぞれ軸受により、回転自在に支持している。
【0003】
又、上記遊星歯車装置2は、上記入力軸4の回転を増速して、上記低速軸5に伝達する役割を果たす。この様な遊星歯車装置2は、上記低速軸5の一端部(図1の左端部)外周面に一体形成した太陽歯車8と、上記ケーシング1の内周面に一体形成すると共に、この太陽歯車8の周囲に同心に配置したリング歯車9と、これら太陽歯車8とリング歯車9との間に円周方向に関して等間隔に配置した、3個の円筒状の遊星歯車10、10とを備える。そして、これら各遊星歯車10、10の外周面に設けた歯をそれぞれ、上記太陽歯車8の外周面に設けた歯と、上記リング歯車9の内周面に設けた歯とに噛合させている。又、上記各遊星歯車10、10はそれぞれ、上記太陽歯車8及びリング歯車9と平行な円柱状の遊星軸11、11の周囲に、複列に配置した1対ずつの円筒ころ軸受12、12を介して、回転自在に支持している。又、上記各遊星軸11、11の基端部(図1、3の左端部)はそれぞれ、上記入力軸4の一端部(図1の右端部)に一体形成したキャリア13に支持固定している。
【0004】
又、図3に詳示する様に、上記複列に配置した1対の円筒ころ軸受12、12はそれぞれ、内周面の軸方向中間部に円筒状の外輪軌道14を、同じく両端部に1対の内向鍔部15、15を、それぞれ設けた外輪16と、外周面の軸方向中間部に円筒状の内輪軌道17を設けた内輪18と、この内輪軌道17と上記外輪軌道14との間に転動自在に設けられた複数個の円筒ころ19、19とを備える。そして、上記両円筒ころ軸受12、12を構成する両外輪16、16を、上記遊星歯車10の軸方向両端部に締り嵌めで内嵌固定すると共に、同じく両内輪18、18を、上記遊星軸11の軸方向両端寄り部分に締り嵌めで外嵌固定している。又、この状態で、上記両外輪16、16の軸方向の位置決めを図る為、これら両外輪16、16の互いに対向する側の軸方向端面を、それぞれ上記遊星歯車10の内周面の軸方向中央部に形成した凸部20の軸方向両側面に突き当てている。これと共に、上記両内輪18、18の軸方向の位置決めを図る為、上記遊星軸11の外周面の基端寄り部分に存在する段差面21と、この遊星軸11の先端(図1、3の右端)寄り部分に外嵌固定した抑え環22とにより、上記両内輪18、18及びこれら両内輪18、18同士の間に配置した円筒状の間座23を、軸方向両側から挟持している。
【0005】
又、前記二次増速装置3は、前記低速軸5の回転を更に増速して、前記出力軸7に伝達する役割を果たす。この様な二次増速装置3は、上記低速軸5の中間部に外嵌固定した大径の入力歯車24を、前記中間軸6の中間部外周面に一体形成した小径の第一中間歯車25に噛合させると共に、上記中間軸6の一端部(図1の左端部)に外嵌固定した大径の第二中間歯車26を、上記出力軸7の一端部(図1の左端部)外周面に一体形成した出力歯車27に噛合させる事で構成している。
又、前記ケーシング1の内部空間の下部には、上述した遊星歯車装置2及び二次増速装置3を湯浴潤滑する為の潤滑油28を貯溜している。
【0006】
上述の様に構成する風力発電装置用増速機を使用する際には、前記入力軸4のうちで上記ケーシング1外に突出した部分に、図示しない風車の主軸等を接続する。これと共に、上記出力軸6のうちで上記ケーシング1外に突出した部分に、図示しない発電機を接続する。この状態で、上記風車の主軸等と共に上記入力軸4が回転すると、この入力軸4の回転が遊星歯車装置2により増速されて、低速軸5に伝達される。即ち、上記風車の主軸等と共に上記入力軸4が回転すると、この入力軸4と一体のキャリア13、並びに、このキャリア13に支持固定された各遊星軸11、11が、上記入力軸4と共に回転(公転)する。これに伴い、これら各遊星軸11、11の周囲に支持された各遊星歯車10、10が、自転しつつ公転する。この結果、これら各遊星歯車10、10と噛合した太陽歯車8、並びに、この太陽歯車8と一体の上記低速軸5が、上記入力軸4よりも速い速度で回転する。又、この様に低速軸5が回転すると、この低速軸5の回転が上記二次増速装置3により更に増速されて、上記出力軸7に伝達される。そして、この出力軸7の回転に基づいて、上記発電機が発電を行う。
【0007】
ところで、上述した様な風力発電装置用増速機の使用時には、各構成部材間で発生する摩擦熱に基づいて、上記各遊星歯車10、10の内径側に設けられた各円筒ころ軸受12、12の温度が上昇する。特に、実質的に外輪回転の態様で使用される、これら各円筒ころ軸受12、12の場合には、比較的発熱量が多い上記遊星歯車10に接している外輪16の温度が、比較的発熱量が少ない上記遊星軸11に接している内輪18の温度よりも高くなる。一方、これら外輪16と内輪18との材質は、通常、互いに同じである。この為、上述の様に各円筒ころ軸受12、12の温度が上昇すると、上記外輪16の熱膨張量が、上記内輪18の熱膨張量よりも多くなり、その分だけ、(各円筒ころ19、19の温度上昇に伴う膨張分を考慮しても)上記各円筒ころ軸受12、12のラジアル隙間が増加する。又、このラジアル隙間の増加に伴って、上記各遊星歯車10、10のミスアライメント(これら各遊星歯車10、10と周辺部材との間の組み付け誤差)が増大し、上記遊星歯車装置2のギヤ荷重(回転伝達抵抗)が増大する。この結果、上記各円筒ころ軸受12、12の負荷荷重が増大し、延いては、これら各円筒ころ軸受12、12の寿命が低下する。尚、本発明に関連する他の刊行物として、非特許文献1がある。
【0008】
【特許文献1】特開2007−263357号公報
【非特許文献1】「NSK テクニカルレポート」、日本精工株式会社、2004年、p. 214−215
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した様な不都合を緩和する為、遊星歯車装置の使用に伴って生じる、遊星歯車支持用転がり軸受のラジアル隙間の増加量を抑えられる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の遊星歯車支持用転がり軸受及び遊星歯車装置のうち、請求項1に記載した遊星歯車支持用転がり軸受は、内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備える。そして、遊星歯車装置を構成するキャリアに支持固定した遊星軸の周囲に遊星歯車を回転自在に支持する為、この遊星軸に上記内輪を外嵌固定すると共に、上記遊星歯車に上記外輪を内嵌固定した状態で使用される。
特に、本発明の遊星歯車支持用転がり軸受に於いては、上記外輪の材質の線膨張係数が、上記内輪の材質の線膨張係数よりも小さい。
この様な特徴を有する本発明の遊星歯車支持用転がり軸受を実施する場合、両軌道輪の材質の線膨張係数の差(比)は、これら両軌道輪の直径の差(比)や、各転動体の直径及び材質に応じて、適切に(温度変化に伴うラジアル隙間の変化を抑えられる様に)規制する。例えば、上記内輪の材質として、SUJ2(熱処理:焼入れ、焼戻し。線膨張係数:12.5×10-6/℃)又はSCr420(熱処理:焼入れ、低温焼戻し。線膨張係数:12.8×10-6/℃)を採用すると共に、上記外輪の材質として、SAE4320(熱処理:焼入れ、低温焼戻し。線膨張係数:11.7×10-6/℃)を採用する。尚、これら各材質の線膨張係数の値は、それぞれ非特許文献1に記載されている値を示している。
【0011】
又、本発明のうち、請求項2に記載した遊星歯車装置は、遊星軸と、この遊星軸の周囲に配置した遊星歯車と、この遊星軸に対してこの遊星歯車を回転自在に支持する為に、この遊星軸の外周面とこの遊星歯車の内周面との間に設けられた転がり軸受とを備える。
特に、本発明の遊星歯車装置に於いては、この転がり軸受が、上述の請求項1に記載した遊星歯車支持用転がり軸受である。
【発明の効果】
【0012】
上述の様に構成する本発明の遊星歯車支持用転がり軸受及び遊星歯車装置の場合には、使用時に、遊星歯車支持用転がり軸受を構成する外輪の温度が内輪の温度よりも高くなる事に伴って生じる、これら外輪と内輪との間の熱膨張量差を抑えられる。従って、その分だけ、遊星歯車支持用転がり軸受のラジアル隙間の増加量を抑えられる。この結果、このラジアル隙間が増加する事に伴って生じる不都合を緩和できる。具体的には、このラジアル隙間の増加に伴う、遊星歯車のミスアライメント(この遊星歯車と周辺部材との間の組み付け誤差)の増大量を抑えられる。この為、このミスアライメントの増大に伴う、遊星歯車装置のギヤ荷重の増大量を抑えられる。従って、このギヤ荷重の増大に伴う、遊星歯車支持用転がり軸受の負荷荷重の増大量を抑えられる。この結果、この遊星歯車支持用転がり軸受の寿命を向上させる事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態の1例に就いて、前述の図1〜3に加え、図4を参照しつつ説明する。尚、本例の特徴は、それぞれが遊星歯車支持用転がり軸受である、各円筒ころ軸受12、12を構成する外輪16及び内輪18の材質を工夫した点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図1〜3に示した従来構造の場合と同様である。この為、重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0014】
本例の場合には、上記外輪16の材質の線膨張係数を、上記内輪18の材質の線膨張係数よりも小さくしている。この為に具体的には、上記外輪16の材質として、SAE4320(熱処理:焼入れ、低温焼戻し。線膨張係数:11.7×10-6/℃)を採用すると共に、上記内輪18の材質として、SUJ2(熱処理:焼入れ、焼戻し。線膨張係数:12.5×10-6/℃)を採用している。
【0015】
上述の様に構成する本例の遊星歯車支持用転がり軸受及び遊星歯車装置の場合には、上記外輪16と上記内輪18との材質(線膨張係数)を互いに同じにしたものに比べて、使用時に上記外輪16の温度が上記内輪18の温度よりも高くなる事に伴って生じる、これら外輪16と内輪18との間の熱膨張量差を小さくできる。従って、その分だけ、上記各円筒ころ軸受12、12のラジアル隙間の増加量を抑えられる。図4は、この様な本発明の効果を確認する為に行ったコンピュータシミュレーションの結果を示している。試算条件は、以下の通りである。
<円筒ころ軸受12のJIS呼び番号>
NNCF5044(内径220mm、外径340mm、幅160mm)
<円筒ころ軸受12のはめあい>
遊星軸11に対してh6
遊星歯車10に対してR6
<その他>
軸受温度(平均温度)が70℃で、(内輪18の温度)−(外輪16の温度)=−2.5℃を生じ、且つ、軸受温度が45℃で、(内輪18の温度)−(外輪16の温度)=−1.25℃を生じると仮定。
【0016】
上述の図4から明らかな様に、本例の場合には、各円筒ころ軸受12、12のラジアル隙間の増加量を抑えられる為、このラジアル隙間の増加に伴って生じる不都合を緩和できる。具体的には、このラジアル隙間の増加に伴う、各遊星歯車10、10のミスアライメント(これら各遊星歯車10、10と周辺部材との間の組み付け誤差)の増大量を抑えられる。この為、このミスアライメントの増大に伴う、遊星歯車装置2のギヤ荷重の増大量を抑えられる。従って、このギヤ荷重の増大に伴う、上記各円筒ころ軸受12、12の負荷荷重の増大量を抑えられる。この結果、これら各円筒ころ軸受12、12の寿命を向上させる事ができる。
【0017】
尚、本発明の遊星歯車支持用転がり軸受及び遊星歯車装置は、上述した実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載した要件を満たす、各種の構造に適用可能である。例えば、本発明の対象となる遊星歯車装置は、風力発電装置用増速機以外の機械に組み込んで使用するものであっても良い。又、本発明を実施する場合、遊星歯車支持用転がり軸受を構成する軌道輪の材質として、SCr420、SAE4320等の浸炭材を用いると、亀裂の進展が遅く、軸受全体が破損する迄の時間が長くなると言う効果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の対象となる遊星歯車装置を組み込んだ、風力発電装置用増速機の1例を示す断面図。
【図2】図1のA−A断面図。
【図3】図1の要部拡大図。
【図4】軸受温度とラジアル隙間との関係を示す線図。
【符号の説明】
【0019】
1 ケーシング
2 遊星歯車装置
3 二次増速装置
4 入力軸
5 低速軸
6 中間軸
7 出力軸
8 太陽歯車
9 リング歯車
10 遊星歯車
11 遊星軸
12 円筒ころ軸受
13 キャリア
14 外輪軌道
15 内向鍔部
16 外輪
17 内輪軌道
18 内輪
19 円筒ころ
20 凸部
21 段差面
22 抑え環
23 間座
24 入力歯車
25 第一中間歯車
26 第二中間歯車
27 出力歯車
28 潤滑油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備え、遊星歯車装置を構成する遊星軸の周囲に遊星歯車を回転自在に支持する為、この遊星軸に上記内輪を外嵌固定すると共に、上記遊星歯車に上記外輪を内嵌固定した状態で使用される遊星歯車支持用転がり軸受に於いて、上記外輪の材質の線膨張係数が上記内輪の材質の線膨張係数よりも小さい事を特徴とする遊星歯車支持用転がり軸受。
【請求項2】
遊星軸と、この遊星軸の周囲に配置した遊星歯車と、この遊星軸に対してこの遊星歯車を回転自在に支持する為に、この遊星軸の外周面とこの遊星歯車の内周面との間に設けられた転がり軸受とを備えた遊星歯車装置に於いて、この転がり軸受が請求項1に記載した遊星歯車支持用転がり軸受である事を特徴とする遊星歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−197882(P2009−197882A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39549(P2008−39549)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】