説明

遊星歯車装置及びこれを組み込んだアクチュエータ及びロボット装置

【課題】バックラッシの小さい、比較的小径の遊星歯車装置を提供する。
【解決手段】内歯車と、その内側の同心位置にある太陽歯車と、内歯車と太陽歯車に噛み合った複数の遊星歯車と、遊星歯車を回転自在に支持しているキャリアとを備えた遊星歯車装置において、内歯車11は、遊星歯車装置1のフレーム2に対して、半径方向に容易に弾性変形できる支持部材12で保持されており、かつ内歯車11は、薄肉円環状の胴の内側に内歯が形成されており、内歯車11の薄肉円環の胴部の弾性変形との支持部材12の変形により、複数の遊星歯車9bに対しバックラッシがない状態で構成され、かつ回転可能であることを特徴とする構成にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックラッシが小さい遊星歯車装置及びこれを組み込んだアクチュエータ、及びロボット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、遊星歯車減速装置のバックラッシを小さくする方法としては、一般的な歯車のバックラッシを小さくする方法の応用である遊星歯車の軸心調整や、歯車を2分割し位相をずらす方法などがある。また、比較的小径の遊星歯車減速機では、内歯車の胴を薄肉にしてその弾性変形によりバックラッシを小さくする方法(例えば、特許文献1、参照)などがある。
図7において、1は遊星歯車装置、2はフレーム、3は入力軸、4および5は軸受、6は出力軸、7は太陽歯車であり、本図では遊星減速部が2段の場合を示しており、第1の遊星減速部7aと第2の遊星減速部7bがある。9aおよび9bは遊星歯車、8aおよび8bは遊星歯車を支持するキャリア、13は片持弾性内歯車、13aは前記片持弾性内歯車13のボス部で、13bは胴部である。前記胴部13bは、薄肉にすることにより弾性変形を容易にし、遊星歯車9bとのかみあいにおけるすきまを小さくしている。前記胴部13bは、前記ボス部13aのところでフレーム2に固定されており、薄肉部の弾性変形は片持ちの状態で行なわれる。
このように、従来の比較的小径の遊星歯車装置のバックラッシを小さくする方法は、片持ちで支持された薄肉の胴に形成された内歯車の弾性変形にて行われていた。
【特許文献1】特開2000−179629号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の比較的小径の遊星歯車装置では、片持ち状態で固定された薄肉胴をもつ内歯車の弾性変形を利用してバックラッシを小さくしていたが、片持ち支持のため軸方向の変形量が位置により異なり、内歯車と遊星歯車との歯の当たりが歯の全面で当たらないため、伝達力が小さかったり、歯の磨耗が大きくなるという問題があった。
また、弾性変形量は薄肉胴をもつ内歯車の部品寸法や組み合わせ部品の寸法できまり組立後には調整できないという問題があった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、内歯車と遊星歯車の歯を全面で当たるようにし、さらに組立後、弾性変形量を調整することができ、バックラッシの小さい、比較的小径の遊星歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したものである。
請求項1に記載の発明は、内歯車と、その内側の同心位置にある太陽歯車と、前記内歯車と前記太陽歯車に噛み合った複数の遊星歯車と、前記遊星歯車を回転自在に支持しているキャリアとを備えた遊星歯車装置において、前記内歯車は、遊星歯車装置のフレームに対して、半径方向に容易に弾性変形できる支持部材で保持されており、かつ前記内歯車は、薄肉円環状の胴の内側に内歯が形成されており、前記内歯車の薄肉円環の胴部の弾性変形と前記の支持部材の変形により、前記複数の遊星歯車に対しバックラッシがない状態で構成され、かつ回転可能であることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、前記内歯車の保持を、内歯車の胴の両端に設けた複数の穴に、フレームに設けたピンを通して行なうことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、内歯車と、その内側の同心位置にある太陽歯車と、前記内歯車と前記太陽歯車に噛み合った複数の遊星歯車と、前記遊星歯車を回転自在に支持しているキャリアとを備えた遊星歯車装置において、前記内歯車は、遊星歯車装置のフレームに、弾性変形自在に固定されており、且つフレームとの密閉空間に、圧力の調整が可能な液体が封入されていることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、前記太陽歯車は、浮動状態で組み込まれていることを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれかの項に記載の遊星歯車装置が、モータ、回転検出器、ブレーキ等と同一フレーム内に組み込まれてアクチュエータを構成することを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、関節部の駆動源としてアクチュエータを用いるロボット装置において、前記アクチュエータを、請求項5に記載のアクチュエータで構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、次のような効果がある。
請求項1および請求項2に記載の発明によると、内歯車部の弾性変形を軸方向に均等にすることができ、内歯車と遊星歯車の歯の当たりを歯の全面ですることができる。
また、請求項3に記載の発明によると、内歯車部の弾性変形量を歯車を組み合わせた状態で調整することができ、バックラッシ量と歯車の組み合わせによるフリクションを調整することができる。
また、請求項4に記載の発明によると、太陽歯車の軸心誤差によるバックラッシや歯の当たりの不均一をなくすことができる。
また請求項5および請求項6に記載の発明によるとバックラッシの少ないアクチュエータが構成でき、これを関節駆動に用いたロボット装置の位置決め精度を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【実施例1】
【0007】
図1は、本発明の遊星歯車装置の側断面図である。
図1において、1は遊星歯車装置、2はフレーム、3は入力軸、4および5は軸受、6は出力軸、7は太陽歯車であり、本図では遊星減速部が2段の場合を示しており、7aと7bがある。9aと9bは遊星歯車、8aと8bは遊星歯車を支持するキャリア、10は1段目の減速部の内歯車、11は2段目の減速部の内歯車であり薄肉の胴をもっており弾性変形ができるようになっている。12は内歯車11とフレーム2を連結する弾性支持部材である。12の弾性支持部材は内歯車11の径方向の変形を容易にし、且つ回転方向にはフレーム2に対して位相がずれない強度をもつものとなっている。
本発明が従来技術と異なる部分は、2段目の内歯車11の胴部が薄肉で弾性変形できるようになっていることと、その内歯車11とフレーム2の保持する部材として12の弾性支持部材を備えた部分である。図1では太陽歯車7bは軸受を持たず浮動状態である。
【0008】
その動作は、図2に示すように、太陽歯車7bと遊星歯車9bと内歯車11の各かみあい部にガタがないように内歯車が弾性変形する。図2では内歯車11は遊星歯車9bと3箇所でかみあっているが、それ以外の部分は内側に変形し歯車のかみ合い部に予圧をかける。
さらに、図3は図1の一部拡大図を示しており、内歯車の薄肉胴部14をフレーム2に保持するため、弾性支持部材12は例えばゴムのような材質であり、内歯車11をフレーム2に対して半径方向には弾性変形を容易にさせるが、周方向には動くことのないように保持することができる。これにより歯車部17のバックラッシを小さくすることができる。
【実施例2】
【0009】
図4は、第2の実施例の構成を示す図であり、図3と異なる部分だけを示す。
図5は、図4を軸に対して直角の方向から見た図である。
図4と図5において、14は薄肉胴部をもつ内歯車であり、胴部は軸方向に歯車部17より長くなっており両端にて全周に穴がある。15はフレーム2に固定されたピンである。このピン15は内歯車14の胴部の穴に嵌り合っており、内歯車14を径方向には自由に動くが周方向には動くことのないように保持することができる。これにより歯車部17のバックラッシを小さくすることができる。
【0010】
図6は第3の実施例の構成を示す図であり、2はフレーム、16は内歯車の胴部であるがフレーム2と一体になっており、胴部の一部は径方向に弾性変形できるようになっている。17は内歯車の歯部である。フレーム2と内歯車の胴部は閉鎖空間になっており油などの液体18が封入されている。19はボルト等であり液体18の圧力を調整することができる。これにより内歯車と図示されていない遊星歯車や太陽歯車とのすきまや接触圧力をボルト19にて調整することができ、各部品の製作誤差や組立誤差があっても歯車部のバックラッシ小さくすることができる。
このように、遊星歯車装置において、内歯車を均等に弾性変形をすることができ、また弾性変形量を調整することにより歯車部のバックラッシを小さくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本遊星歯車装置をロボット装置等の関節を駆動するアクチュエータに組み込むことにより、ロボット装置の位置決め精度よくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施例を示す遊星歯車装置の側断面図である。
【図2】図1におけるA−A線に沿う断面図である。
【図3】本発明の第1実施例を示す遊星歯車装置の側断面図の一部拡大図である。
【図4】本発明の第2実施例を示す遊星歯車装置の側断面図の一部拡大図である。
【図5】図4を軸に対して直角の方向から見た図である。
【図6】本発明の第3実施例を示す遊星歯車装置の側断面図の一部拡大図である。
【図7】従来の遊星歯車装置の側断面図である。
【符号の説明】
【0013】
1 遊星歯車装置
2 フレーム
3 入力軸
4 軸受
5 軸受
6 出力軸
7a、7b 太陽歯車
8a、8b キャリア
9a、9b 遊星歯車
10 内歯車
11 弾性内歯車
12 弾性支持部材
13 片持弾性内歯車
13a ボス部
13b 胴部
14 内歯車の薄肉胴部
15 ピン
16 薄肉弾性胴部
17 内歯車の歯部
18 液体
19 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯車と、その内側の同心位置にある太陽歯車と、前記内歯車と前記太陽歯車に噛み合った複数の遊星歯車と、前記遊星歯車を回転自在に支持しているキャリアとを備えた遊星歯車装置において、
前記内歯車は、遊星歯車装置のフレームに対して、半径方向に容易に弾性変形できる支持部材で保持されており、かつ前記内歯車は、薄肉円環状の胴の内側に内歯が形成されており、前記内歯車の薄肉円環の胴部の弾性変形と前記の支持部材の変形により、前記複数の遊星歯車に対しバックラッシがない状態で構成され、かつ回転可能であることを特徴とする遊星歯車装置。
【請求項2】
前記内歯車の保持を、内歯車の胴の両端に設けた複数の穴に、フレームに設けたピンを通しておこなうことを特徴とする請求項1記載の遊星歯車装置。
【請求項3】
内歯車と、その内側の同心位置にある太陽歯車と、前記内歯車と前記太陽歯車に噛み合った複数の遊星歯車と、前記遊星歯車を回転自在に支持しているキャリアとを備えた遊星歯車装置において、
前記内歯車は、遊星歯車装置のフレームに、弾性変形自在に固定されており、且つフレームとの密閉空間に、圧力の調整が可能な液体が封入されていることを特徴とする遊星歯車装置。
【請求項4】
前記太陽歯車は、浮動状態で組み込まれていることを特徴とする請求項1から3のいずれかの項に記載の遊星歯車装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの項に記載の遊星歯車装置が、モータ、回転検出器、ブレーキ等と同一フレーム内に組み込まれたことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項6】
関節部の駆動源としてアクチュエータを用いるロボット装置において、前記アクチュエータを、請求項5に記載のアクチュエータで構成したことを特徴とするロボット装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−222116(P2009−222116A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66174(P2008−66174)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】